言葉も医療のシステムも異なるアメリカでの出産は何かと不安になりがちです。ドクターや医療機関の選び方、加入している医療保険による出産費用のカバー率の違い、入院期間、アメリカと日本への出生届など、知っておきたい事柄をまとめました。
※このページの「アメリカで産む」より前の内容は「ライトハウス 2024年春夏の増刊号」掲載の情報を基に作成・更新しています。
ドクター選びと妊娠前検診の重要性
出産準備の第一歩は産婦人科を訪れることから始まります。アメリカでは、子どもを持つ計画をした時点で初回検診を受けます。
初診の内容は日本とほぼ同じで、尿検査、血液検査、問診、内診など。出産の障害となる持病や、風疹の抗体などの検査も行います。なお、検査や問診では、自分や家族の過去の医療履歴に関する質問があります。日常会話に不自由しない人でも、病名などの専門用語はあまり知らないものなので、あらかじめキーワードを調べておくか、可能であればスマートフォンを持参し、分からない言葉があれば、その都度検索すると良いでしょう。大切なのは、ドクターの質問をよく理解しないままにしておかないことです。
HMO(Health Maintenance Organization)の場合、ドクターは、かかりつけ医に産婦人科医を紹介してもらいます。PPO(Preferred Provider Organization)の場合は、HMOより自由にドクターや医療機関が選択できます。
ドクターを選ぶ際に大切なのは、加入している医療保険のグループに属しているかどうか。英語が苦手な場合は、日本語が通じるかもチェックしておきましょう。病院によって受けられる医療サービスが違いますので、そのサービス内容、ドクターがどの病院で分娩を行うのかも確認します。分娩する病院を確認する際は、個室提供の有無、自宅からの距離、出産後すぐに保育器に入れず、母親が素肌の上に抱いて保育する「カンガルーケア」を提供しているか、重篤な新生児に対応が可能な新生児集中治療室の有無などを見ましょう。
妊娠は大きく分けて、初期(0~16週)、中期(17~35週)、後期(36~40週)に分けられますが、妊娠27週までは月に1回、28週以降35週までは2週に1回、それ以降は週1回診察を受けるのが平均です。アメリカでは女性だけでなく、夫婦で来院するのは珍しくありません。
保険のタイプで異なる出産費用のカバー率
医療保険を利用する場合、保険のタイプにより、カバー範囲が異なります。多くの産婦人科は妊娠中の検診にパッケージ料金を適用しています。
出産後の入院は、日本では4~7日なのに対し、アメリカでは1~2日。帝王切開でも3~4日で退院になる場合がほとんど。産後は体調回復に4~6週間ほどかかります。産後の回復を遅らせる可能性があるため、この時期の無理は禁物です。
保険を使用せず支払う場合、妊婦や乳児の状態や病院により異なりますが、一般的に検査から出産後の入院までの合計で、普通分娩で約1万5000ドル、帝王切開は約2万1000ドル必要です。
出産費用を自力で賄うのが困難な場合は、低所得者向けの医療プログラムを利用できます。収入・資産が一定金額以下の場合には、連邦政府と州政府が共同負担する医療扶助制度である「Medicaid」(www.medicaid.gov)や州の低所得者向け福祉制度(例えばカリフォルニア州なら、「Medi-Cal」)のサポートが受けられないか、調べてみましょう。
Medicaidのサポートが受けられない場合は、Children’s Health Insurance Program(CHIP、www.insurekidsnow.gov)のような無料の医療保険サービスが利用できることもあります。情報収集を積極的に行いましょう。なお、海外旅行者保険では出産費用は一切カバーされないので注意が必要です。
日本とアメリカへ出生届を提出
妊娠中は出産準備クラスなどを受講してみましょう。母乳育児を支援する団体、ラ・レーチェ・リーグ・インターナショナル・ミルキーウェイグループ(www.llljapan.org)では、母乳育児に関する情報を日本語で提供しています。災害時における乳児の栄養法なども紹介しているので参考にしてみてください。
アメリカは出生地主義のため、アメリカ国内で生まれた子どもは、自動的にアメリカ国籍を取得できます。病院で出産すると出生届の用紙をくれるので、その場で記入すれば病院が提出してくれます。ですので、名前はあらかじめ決めておきましょう。子どものラストネームは、父親姓でも母親姓でも構いません。
希望すればソーシャル・セキュリティーナンバーの申請も可能です。1カ月ほどで自宅にカードが郵送されますが、ソーシャル・セキュリティーナンバーは個人情報の柱になるので、番号の取り扱いは要注意です。カリフォルニア州やニューヨーク州では、出生証明書は州保健局に請求します。
どちらかの親が日本国籍を有する場合は、その子どもも日本国籍が取得できます。子どもが日本国籍を留保するには、父親または母親が、出生届書の「日本国籍を留保する」欄に署名、押印し、出生後3カ月以内に所轄の総領事館に出生届を提出します(詳しくは在米大使館と総領事館を参照)。3カ月を過ぎると受理されず、日本国籍は取得できなくなるので注意しましょう。「出生届書」など必要な書類は、あらかじめ準備して確認しておきましょう。
監修/湘南美容外科 産婦人科医、婦人科美容、美容専門アーバイン院院長 鈴木葉子医師 ☎949-333-2929
アメリカで産む~アメリカでの妊娠・出産カレンダー~
アメリカで妊娠・出産する場合、どんな準備や手続きが必要なのでしょうか。出産の準備から産後ケアまで、医師や保険エージェントなど、各分野のエキスパートの意見を交えながら時系列でご紹介します。検診の情報、妊娠中の不安、産後のケアなど、親族がいないアメリカで産み、育てる時の不安解消に役立つガイドです。(2017年8月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)
- まずは妊娠Check!
- アメリカで妊娠が判明したらどうする?
- 妊娠第1期(1週~12週)/アメリカでの妊娠初期検査や保険の確認など
- 妊娠第2期(13週~26週)/入院手続きや院内ツアーなど
- 妊娠第3期(27週~40週)/出産準備と休職制度など
まずは妊娠Check!
市販検査薬
一般的に、妊娠の目安は、前回の生理が終わって1カ月以上経っているかどうか。市販の妊娠検査薬で判別できるのは、次の生理予定日の数日前からで、産婦人科で妊娠初期検査を行うのは、妊娠8週過ぎからとなります。ただし、妊活中や不妊治療を行っている人、またはこれまで子宮外妊娠を経験している人は、市販の検査薬で陽性と出たら、すぐ病院で血液検査を行ってください。
アメリカで妊娠が判明したらどうする?
産婦人科医や病院を探しましょう
妊娠が判明したら、まず医療保険の確認をし、産科医、そして病院を探しましょう。自分が加入している医療保険のプランでカバーされる範囲から選ぶか、もし選択の自由がある場合は、「日本語が通じる」「自宅や勤務先に近い」など、希望に応じて選ぶと良いでしょう。いずれにせよ、定期検診なら多少遠方でも良いのですが、いざ陣痛が始まってしまうと運転も危険なため、できる限り自宅の近くの病院が良いでしょう。また出産は、担当の産科医が所属している病院で行いますが、出産当日にその産科医がお休みの場合は、代わりの当直医が立ち会うことになります。赤ちゃんが生まれると、24時間以内に小児科医の診察が必要なため、主治医と相談して、早めに小児科医も探しておきましょう。
妊娠第1期(1週~12週)/アメリカでの妊娠初期検査や保険の確認など
アメリカでの妊娠初期検査
通常アメリカでは、最終の月経開始日から数え、40週間を妊娠期間としています。1〜12週の「妊娠初期(ファースト・トリメスター:First Trimester)」、13〜26週の「安定期(セカンド・トリメスター:Second Trimester)」、そして27〜40週の「妊娠後期(サード・トリメスター:Third Trimester)」と、3つのステージに分けられます。
定期検診は、40週間で10〜12回程度。妊娠の経過が順調な場合は、28週までは4週間ごと、29週以降は2週間ごと、35週からは1週間ごとに行います。高齢出産(35歳以上)をはじめ、妊娠高血圧症候群や妊娠性糖尿病になっていると、検診の頻度も高くなります。特に高年齢妊婦は、妊娠中に胎盤機能が低下する可能性もあり、妊婦の体調経過と赤ちゃんのモニタリングを含め、定期検査と別に週に2回の追加検査を行うことも。
「妊娠初期で最も大切な検査は、出生前診断スクリーニングです。妊婦の年齢を問わず行い、血液と超音波の2種類の検査に分かれます。カリフォルニア州では医療保険でカバーされる検査です」と話すのは産婦人科専門の鈴木葉子先生です。血液検査(超音波検査を同時に行なう場合もあり)は11〜14週と15〜20週に行なわれ、いずれも染色体異常をチェックするもの。この2つの検査で、ダウン症や神経管閉鎖障害の有無を診断できます。「最近では、新型出生前診断(NIPT)を受ける方も増えています。これは母体の血液中にある胎児細胞を取り出して疾患の有無を検査するもので、従来の出生前検査より精度が高いと言われています。ただしNIPTを行っても超音波検査は受ける必要があります。NIPTは、医療保険でカバーされることもあるので、事前に確認してください」。
妊娠中に気をつけたいこと
●運動
妊娠前から運動している場合は、妊娠中も続けてOK。ただし運動の内容や頻度について、医師に必ず相談してください。
●サプリメントを摂る
妊娠が判明したら妊婦用のサプリメントを摂りますが、もし妊活中であれば、早めに葉酸やDHAなどのサプリメントを摂りましょう。「葉酸は神経管閉鎖障害の羅患率を下げます。また、DHAは神経を作る段階でとても必要な成分で、赤ちゃんのIQに影響することもあると言われているそうです。さらにビタミンDは、妊娠性糖尿病や、早産の予防効果が期待できます。医師が処方するサプリと市販のサプリでは、品質の差に違いがあることが多いので、できれば医師が処方するサプリを摂ってください」(鈴木先生)。
●体重
個人によりますが、アメリカでは一般的には25〜35パウンド増が目安。過度な体重増加によるリスクは、妊娠性高血圧症候群、妊娠性糖尿病などがあります。
妊娠中に避けたいこと
●性交渉
妊娠初期は出血しやすいので、できれば性交渉は控えましょう。
●お風呂
長く湯船に浸かることや、サウナ、ホットヨガは避けてください。
●薬
特に妊娠初期は、赤ちゃんの臓器が形成される大切な時期なので、市販薬の使用は避けること。特にイブプロフェンはNGです。妊娠前から飲んでいる薬がある場合は、医師に要相談。殺虫剤の使用も不可。もちろんタバコやお酒は妊娠を予定しているなら控え、妊娠が判明したら速やかに止めましょう。
●歯科治療
妊娠中は、抜歯やレントゲン撮影など、内容によって治療できなこともあります。医師に相談を。
●飛行機
搭乗前のレントゲン検査で係員に妊娠している旨を伝えましょう。安定期で体調が良ければ旅行してもOKですが、妊娠後期は、なるべく控えてください。
妊娠・出産時のアメリカの保険についてQ&A
正規の医療保険であれば、カリフォルニア州に限らず、アメリカ全州において「Maternity / Pregnancy(妊娠・出産に関する医療費のカバレージ)」は医療保険のカバレージ内容に含まれています。個人(Individual)でも、家族(Family)プランでも、会社の医療保険(Group Health Insurance)でも、全ての医療保険が、妊娠・出産時の医療費をカバーします(カバレージ比率は各プランにより異なります)。
Q. どんな医療保険プランに加入するべきですか?
A. 申請者の健康状況や想定される医療サービスにより異なりますが、大きく分けて4種類の医療プランがあります。
1.Bronze:自己負担の目安は、妊娠・出産にかかる「請求額の約40%」です。保険料が一番低いプランです。
2.Silver:自己負担の目安は、妊娠・出産にかかる「請求額の約30%」。最も多くの方が加入される平均的なプランです。
3.Gold:自己負担の目安は、妊娠・出産にかかる「請求額の約20%」です。保険料は高めです。
4.Platinum:自己負担の目安は、妊娠・出産にかかる「請求額の約10%」です。保険料は高めです。
良い保険とは、カバレージ内容が良いプラン。つまり自己負担が少ないプランを選ぶことが大切。事前に、妊娠・出産費用がどのくらいかかるか、病院や医師に確認し、たとえ保険料が高くても、できるだけ自己負担を抑えられるカバレージ内容のプランに加入することを検討しましょう。
Q. アメリカに駐在予定です。妻の妊娠を想定し、事前にアメリカの医療保険に加入できますか?
A. 渡米前に加入はできません。渡米後「60日以内」に申請するか、医療保険の申請期間(毎年11月1日~1月31日)に手続きが必要です。保険のプランは、妊娠・出産時にかかる費用を最も抑えられるGoldやPlatinum がお勧めで、奥さまのみ加入することも可能。申請時にすでに当事者が妊娠していても、前述の申請ルールさえ守れば希望する医療保険に加入できます。またソーシャル・セキュリティー・ナンバーがなくても加入可能。ちなみにアメリカ国外で加入した医療保険の場合、アメリカ国内での妊娠・出産に関する医療サービス全般はカバーの対象外です。
Q. 妊娠後の保険加入や切り替えは可能ですか?
A. 申請できる期間やルールさえ守れば、たとえ申請者が妊娠していても、医療保険の加入申請は可能です。たとえば、家族で同じプランに加入しており、奥様が妊娠した場合、奥様のみ、妊娠・出産時に医療費を抑えられるプランに変更を行うことも可能です。 ただし、申請できる期間が定められおり、いつでも新規申請やプラン変更ができるわけではありません。保険エージェントを通じて情報収集を行い、最適な準備を整えてから出産に備えましょう。
Q. 現在、アメリカで出産する場合、一般的にどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
A. 出産までにかかる費用は、個人によって大きく異なるため、一概にいくらくらいだとは言えないのですが、医療機関からの請求額だけを見ると、平均で3万ドルほどであると思われます。普通分娩か、帝王切開か、入院を伴うかなどで、請求総額は変わり、過去には6万ドルほどを請求されたケースを目にしたこともあります。しかし、正規の医療保険に加入していれば、年間における自己負担の限度額 (Annual Out-of-Pocket Maximum) が設定されているので、たとえ5~6万ドルの高額な医療費が請求されても、自己負担の限度額以上の費用は、全て医療保険のプランが負担するルールです。
アメリカのチャイルドシート最新事情 ※2017年1月に法律改正
2017年1月から、アメリカ・カリフォルニア州のチャイルドシートに関する法律が改正されました。新生児~8歳未満(または身長4フィート9インチ以下)に、チャイルドシート設置が義務付けられているのに加えて、今回の改正で、進行方向に対しチャイルドシートを後ろ向きに設置しなければならない年齢が、これまの1歳未満から、2歳未満(あるいは体重40パウンドまたは身長40インチを超えない場合)になりました。Combi USA, Inc.ディレクターの池田新さんによると、チャイルドシートには「インファント」「コンバーチブル」「ブースター」の3種類があり、年齢や体格に合ったものを設置します。「現行のベビーカーと合体するインファントシートは、後ろ向きに設置できないものがほとんどですので注意が必要です。また、日本で購入したチャイルドシートは、アメリカと基準が異なるため使用できません。必ずアメリカの基準に適合した信頼できる商品をお選びください」。
州の規定に合っているかや設置法に不安がある場合は、カリフォルニア・ハイウェイ・パトロールの「CHP Car Seat Inspection」サービスを利用する手があります。専門家に無料でチェックしてもらえます。
妊娠第2期(13週~26週)/入院手続きや院内ツアーなど
アメリカでの入院手続き
アメリカでは、通常妊娠24週目までに出産する病院に出向いて、入院の手続きを行う必要があります。手続きに必要なものは、運転免許証やパスポートなどの写真付きの身分証明書、そして医療保険カードです。「写真付きの身分証明書と医療保険カードのほかに、入院時には、前開きのパジャマ、授乳用ブラジャー、おくるみ、赤ちゃん用の衣服、洗面用具、メガネや携帯電話など生活に必要なもの、そしてチャイルドシートなども必要になります。事前にリストを作って準備しておくと便利です」と話すのは、Providence Little Company of Mary Medical Center Torranceで、日本語出産準備クラスの講師を務める井手尾純子さん。
またアメリカでは、病院で出産した後、退院するまでに出生届を作成するため、新生児の名前を出産までに決めておくと良いでしょう。ほかにも、B型肝炎ワクチン接種に同意する、男の子の場合は割礼をするかどうか、そして小児科医を決めるなど、入院前に家族や医師と話し合って決めておきましょう。
院内ツアー
一般的に、どの病院でも無料の院内ツアーを行っているので、出産前に予約し、ぜひ参加しておきましょう。産科病棟や分娩・出産する部屋を見学できるほか、出生届などの書類についても説明してくれるので安心です。「病院の入口は昼間と夜間では場所が変わることもあります。使用するエレベーターの場所や、入口から病室までのルートなど、事前に院内ツアーでリハーサルしておくと良いですね。日本語で院内ツアーをしている病院は限られていますが、たとえ英語でも、事前に参加するようにしてください」(井手尾さん)。
日本語が通じる出産準備/授乳/子育て支援サービス
● Budding Flower Doula
出産や産後の支援をする専門家「ドゥーラ」の若山貴代さんが主宰。妊娠~お産~産後に関するワークショップや、家族で受講するお産準備クラス、出産現場での母親寄り添い、出産直後からの母乳のサポート、妊婦および産後の母親と赤ちゃんとの体操クラスなど、妊娠前から出産後までの幅広いケア、サポートプログラムを実施。主宰の若山さんは妊婦の運動療法士として日本で活動した経験もあり、日米の出産事情の違いに詳しく、個別の相談にも応じてくれます。
▶ E-Mail: rhythmicbirth@gmail.com
☎ 858-761-6390
▶ Web: www.facebook.com/buddingflowersd
● Providence Little Company of Mary Medical Center Torrance
出産準備クラス。ロサンゼルスのトーランスにて、妊娠、分娩、母乳、産後について教授するほか、小児科医を招いた新生児ケアも。計5回。
▶ 場所:Providence Little Company of Mary Medical Center Torrance(4101 Torrance Blvd., Torrance)
▶ 料金:$125
▶ 定員:12組
▶ 申し込み:www.providence.org/torrance
● La Leche League Milky Way Group
「ラ・レーチェ・リーグ」は、母乳育児を支援する国際NPO 団体です。ミルキーウェイ・グループは日本語グループとして25年前に発足。毎月、アーバインと、ロサンゼルスのトーランスで集いを開催。参加無料。
▶ アーバイン:ジョーンズさん/西村さん、
▶ トーランス:岩見さん/中塚さん
▶ Web: www.llljapan.org(ラ・レーチェ・リーグ日本)、www.facebook.com/LLLMW(ラ・レーチェ・リーグ・ミルキーウェイ・グループ)
妊娠第3期(27週~40週)/出産準備と休職制度など
出産準備クラス
「出産に先駆けて、いろんな準備が必要ですが、妊娠7カ月目頃に、ぜひ、ご夫婦そろって出産準備クラスに参加することをお勧めします」と話すのは井手尾さん。
全米妊娠協会(American Pregnancy Association) によると、出産準備クラスには、出産に関する基本的な情報提供から「授乳(Breastfeeding)」「産後ケア(Postpartum Care)」まで、多岐にわたっており、病院によって開催するクラスの内容は違うようです。
出産準備クラスに参加するメリットは、妊娠や出産に対する正しい情報を得ることだけではありません。「お父さんが参加することで、妊娠から出産の流れをはじめ、妊娠中に気を付けなければならないこと、何をしてあげたらいいかがが分かるようになります。特に産後2週間は、お母さんは育児と体力の回復に努め、家事をしない方が良いので、お父さんの協力が不可欠です。クラスでは、赤ちゃんの抱き方やおむつ替え、沐浴、げっぷのさせ方などを学びますが、男性の方が意外に上手なんですよ」。クラスを通して、いかに妊娠・出産が大変かを知り、夫婦のきずなが深まることも多いそうです。
アメリカ国内の出産準備クラスに参加しました!
Providence Little Company of Mary Medical Center Torrance 日本語出産クラス
病院主催なので、本やインターネットよりも、最新かつ信頼できる情報が得られると思い参加しました。授乳の仕方から院内ツアーまで広くカバーしていますが、初めてのお産で、とにかく不安や心配事が多いので、何よりも精神的に楽になりました。夫も一緒に参加したので、不安な心のうちを伝える機会も増え、気持ちを分かち合えるのも良かったです。
実は私も、34年前にこの病院で生まれました。当時は日本語の出産準備クラスはなく、母はとても苦労したようです。母の話を聞いて、異国で出産することの大変さと母への感謝を改めて感じることができました。(田中理沙さん(仮名))
アメリカならではのイベント!ベビーシャワー
ベビーシャワーとは出産前に家族や友人が集まってベビーグッズをプレゼントするイベント。通常は、予定日の4週間前頃に行なわれます。
2016年9月に結婚したのですが、披露宴をしていなかったので、この機会に家族や友人に集まってもらおうと思い、ベビーシャワーを開催しました。もともと、楽しいイベントを企画するのが大好きなので、企画から準備まで、自らがっつり参加(笑)。招待状は全てオンラインで送り、できるだけ簡易に。駐車場は、近所の教会に交渉して借りることにしました。パーティーの数日前は、ひたすら友人たちと参加者へのギフト作りに励むなど、忙しいながらも楽しかったですね。ギフトは「Amazon.com」の“Baby Registry”に、事前に欲しい商品を登録。選ぶ方も簡単で、手ぶらで来られるので楽だし、ギフトが重複することがないので便利です。商品は、ママ友のアドバイスもあり、“Pack and Play”や“Swing”など、長く使えるものを選びました。
当日は、家族連れも合わせ、約80人が参加!出産日当てコンテストやオムツメッセージなど、みんなが楽しめるようなゲームを用意しました。自宅の庭を開放し、夫や友人たちと協力して、1カ月前から庭造りと離れの改装を行ったのでかなり大変だったけれど、私たちらしく、カジュアルでアットホームなパーティーを開催できて、とても満足しています。(直美・山上リードさん)
アメリカの無給休職制度
アメリカで、労働者を保護する法制度が最も整っていると言われるカリフォルニア州。人事労務管理コンサルティング会社HRM Partners, Inc.の八田重之さんによると、出産に関わる労働者を保護するため、病欠法以外に2つの法定休職制度があり、特定の条件を満たす従業員が取得可能です。
●妊娠障害休暇(PDLA:Pregnancy Disability Leave Act)
従業員5人以上の会社で適用される休職制度。1回の妊娠で、最大4カ月間または17と3分の1週間の無給休職が保障され、従業員本人の妊娠中、出産時、そして出産後の体調不良のために、連続的または断続的に使用できます。
●カリフォルニア・ファミリー・ライツ・アクト(CFRA:California Family Rights Act)
従業員50名以上の会社に適用される休職制度で、最大12週間取得できます。育児に加え、家族の介護で休みが必要な時も申請できます。また、PDLAとCFRA両方の条件を満たす場合、合計で7カ月間の休職が可能です。妊娠や育児を理由に、従業員を異動、降格、解雇するなど不当に差別することは両法律で禁じられています。
さらに会社は、休職中の従業員に対し、一部の例外を除き、休職前と同じポジションまたは同等のポジションに復帰させる義務があります。一方、会社側も従業員に対し、医師の診断書の提出を求めたり、休職があらかじめ分かっている場合は少なくとも30日前に、予測できない場合でも可能な限り早く会社に通知したりすることなどの要求ができます。休職申請の詳細は、会社の人事担当者に確認してください。
アメリカの補填プログラム
休職中の給料の一部を補填するプログラムは、以下の2つです。
●障害保険(SDI:State Disability Insurance)
職務上の理由でないけがや病気、妊娠で、通常業務ができなくなり、収入を失った場合に給与を補填する州のプログラム。通常の妊娠・出産の場合は、出産前に最大4週間、そして出産後に6週間にわたり給料が補填されます。申請には医師の証明書が必要で、申請時期は、Disabilityの開始日(医師がDisabilityと認めた日)の9日後から49日以内の間。その期間を過ぎると、取得できない可能性があります。申請は雇用開発局(EDD: Employment of Development)のオフィシャルサイト(www.edd.ca.gov/Disability/DI_Claim_Process.htm)で行います。
●家族介護休暇(PFL:Paid Family Leave)
深刻な病気を患っている家族の介護や、新生児の育児を理由に休職し、収入を失った場合に給与を補填する州のプログラム。最大6週間にわたり給付金を受けることができます。育児の場合、実子または養子が対象。出産でSDIを申請した母親は、最後のSDIの支払いが終了した後に、自動的に郵送されてくるフォームまたはSDIサイト(www.edd.ca.gov/Disability/PFL_Claim_Process.htm)から申請が可能です。給付希望前41日以内に提出します。
基本的に、会社は補填プログラムの申請には関与せず、申請者が個人で行います。SDI、PFL共に、給付金は、所得のおよそ55%で、州の規定額は、申請者によりますが、週に50〜1173ドル。この額は、ベースピリオドのHighest Quarter Earnings(最も高い四半期の所得)を基に割り出されます。
前述の休職制度や給与補填プログラムに関しては、事前に会社に手続きや内容について確認し、不安や問題があれば、会社を通して専門の弁護士や人事コンサルタントに相談してください。
アメリカでの妊娠・育児休暇中の保障はどうなる?
SDI(State Disability Insurance)&PFL(Paid Family Leave)
給付金額は、申請者の所得によって変わります。
1年を3カ月ごと(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月)に区切り、最も高かった四半期の収入を基に受給額が決定します。
現在、州で定められている給付金は、週に最低50ドル~最高1,173ドル。右は給付金の一部です。
妊娠中の一時帰国について Q&A
Q. 妊娠中に日本に一時帰国したいのですが可能ですか?
A. 各航空会社の規定によりますが、飛行機に乗れるのはおよそ妊娠36週まで。それ以降は、医師の許可と、さらに搭乗の72時間前に医師の診断を受ける必要があります。事前に各航空会社のサイトなどで確認しましょう。
Q. 万が一、機内で生まれた場合、国籍はどうなりますか?
A. 通常36週を過ぎると、飛行機には搭乗できません。ただ1988年に制定された法律により、アメリカとその領土12海里以内(22.2km)で生まれた子どもは、親の国籍に関係なくアメリカ市民となります。そして、機内で生まれてもこの条件を満たしていれば市民権が与えられます。
Q お腹が大きい状態で日本に一時帰国し、アメリカに再入国する際にリスクはありますか?
A. 各審査官の判断にゆだねられていますが、基本的に、アメリカで妊娠・出産する際に、連邦や州の法的扶助を受ける可能性があるかどうかを調べられるため、アメリカの医療保険カードや、ご自身または夫の会社の給料明細書を所持しておいた方が良いでしょう。
※「アメリカで産む~アメリカでの妊娠・出産カレンダー」は「2017年8月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。