医学博士・谷川啓二◎がんと闘う免疫をサポートする免疫療法とは

ライトハウス電子版アプリ、始めました

日本人の国民病と言ってさしつかえのない病気、「がん」。2016年4月23日(土)に講演会、「実はわかっていない“がん”の話」をオレンジ・カウンティーで開く、がん免疫療法の権威、谷川啓司医学博士に、がんとは何なのか? どのような治療法があり、どのような気持ちで対峙したらいいのかをうかがいました。

たにがわけいし◎1964年生まれ。専門は消化器外科、腫瘍外科。防衛医科大学校卒業後、東京女子医科大学消化器外科医療練士修了。米ミシガン大学医学部腫瘍外科で免疫細胞療法、遺伝子治療の研究に従事。その後、東京女子医科大学消化器外科で外科医として、また癌免疫細胞療法チームの一員として、癌免疫細胞療法の臨床研究に携わる。2001年、がんの免疫治療を専門とするビオセラクリニックを開院。

がんと戦うのはあくまでも自分の免疫。それをサポートするのが免疫療法なんです。

―がんとは何なのでしょうか?

「がんにかかると死ぬ、だから怖い病気」というイメージがあると思います。でも、がん細胞というのは、もともとは正常の細胞だったものが、遺伝子にちょっとした間違いが起こって、変化した細胞に過ぎないんです。

―「ちょっとした間違い」とは?

人間の細胞は分裂によって増えていきますが、同時にほぼ同じペースで古い細胞が死んでいき、細胞の総数は常にほぼ一定に保たれています。しかし、例えば2週間の寿命を持つ細胞に遺伝子の間違いが起こり、2日で分裂して増えていったらどうなるでしょう。古い細胞が死ぬよりも速いペースで新しい細胞が増え、異常増殖していきます。この異常増殖した細胞の数が100個や1000個なら顕微鏡でないと見えませんが、10万個、1000万個、1億個となっていくと、肉の塊になっていきます。これがポリープ、腫瘍と呼ばれるもので、悪性のものが「がん」と呼ばれます。

―良性腫瘍と悪性腫瘍は何が違うのでしょうか?

悪性腫瘍の最大の特徴は転移できることです。正常細胞は、例えば皮膚の細胞を肝臓や肺、骨に縫い付けても絶対にくっつかない。しかし、悪性腫瘍細胞(がん細胞)の異常増殖以外のもう一つの大きな特徴は、体内の別の器官や臓器内でも生き続けられることなのです。例えば大腸にがん細胞ができると、大腸内で成長しながら、リンパ管や血管にも入っていきます。そうなるとがん細胞が体内をめぐり、別の臓器などに転移してしまうのです。

―それが進行すると、人は命を失ってしまうわけですね。

はい。しかしここで理解すべきなのは、なぜ、人はがんで死ぬのか?ということ。がんは別に、殺人ウイルスのように体内の細胞を攻撃するわけではありません。がんで人が死ぬのは、脳や肝臓、肺、腎臓など、正常に機能しないと生命が維持できなくなる重要な臓器内で腫瘍が大きくなり、その機能を妨げるから。ですから、がんの場所や進行度合いによっては、即、命に関わるわけではなく、不必要に恐れる必要はないのです。例えば手術後に、がんが骨にまで転移して末期と言われても、それで死ぬことはありません。もちろん、そこから別の部位への転移は怖いですが。これを理解しているだけでも、がんに対する恐怖心は変わってくると思います。

―ご自身はがんの「免疫療法」に従事されていますが、免疫療法とは何なのでしょうか?

私たちが持つ60兆個の細胞たちは、同じ遺伝子を持った仲間。それ以外のばい菌やウイルスなど異物が入ってくると、体内の免疫細胞は追い出そうと働きます。これはがん細胞に対しても例外ではなく、免疫細胞はがん細胞を攻撃してやっつけようとします。それでもがんが大きくなってしまうのは、免疫ががんの成長スピードに勝てなかった結果。そうなってしまうと、腫瘍を手術で切り取ったり、放射線で焼いたりして除去する必要が出てきます。

―抗がん剤もありますね。

はい。ただ、よく勘違いされていますが、抗がん剤はがんを殺すのではなく、がんの増殖を遅らせる薬です。がんと戦うのはあくまでも免疫細胞なので、がんの増殖スピードが鈍くなっている間に、攻撃してもらう。もし免疫細胞の攻撃スピードががん細胞の増殖スピードを上回れば、がんは小さくなっていきます。

免疫療法も抗がん剤と同様の効果があるのでしょうか。

いえ、免疫療法とは、がんの増殖を遅らせるのではなく、免疫細胞をサポートしてがんを攻撃する力を高めようというものです。方法はいろいろありますが、一例を挙げましょう。がん細胞はもともと正常な細胞なので、ウイルスのように明らかな外敵に見えない。そのため、免疫細胞が攻撃する対象なのか否か迷ってしまい、攻撃したりしなかったりするのです。結果、一斉攻撃にならない。そこを、がんの情報(ワクチン)を打って「、がんは攻撃すべき対象なんだよ」と教えてあげる。すると、がんを攻撃する免疫細胞が増える…というイメージです。劇的な効果はないまでも、抗がん剤と違って副作用がほとんどなく、手術や放射線治療などと並行して行う価値のある治療法です。

―講演会は2016年4月23日に開催ですね。

とにかく、がんがどういう病気かを知れば恐怖心は減っていきます。医師からの受け身の治療だけでなく、自身の努力で治療効果を上げることができることも、分かりやすくお伝えしたいです。ぜひお越しください。

ベストセラー『がんを告知されたら読む本』も好評発売中

「わかっているつもりでも、実はわかっていない”がん”の話」

●主催:オレンジ郡日系協会
●日時:4/23(土) 4:00pm~5:30pm
●会場:Irvine Yamaha Music Center(4620 Brranca Pkwy.,Irvine)
●申し込み:E-mail:info@ocjaa.org TEL:714-730-3551 ※先着100名で締め切り
 
(2016年4月16日号掲載)

「特別インタビュー」のコンテンツ