去る9月19日に、TorranceMarriottSouthBayで開催した「栗原はるみ料理&トークショー」には、約580人の栗原さんファンが集まりました。栗原さんの料理の実演、試食会に続き、スペシャルゲストに女優の榊原るみさんを招き、対談を行いました。その一部を、誌面で再現します。
『ごちそうさまが、ききたくて。』は忙しかったから生まれたレシピ。
榊原:私が、大山のぶ代さんの料理ショーに出演するためにフジテレビに行って、その時、舞台裏で栗原さんは、ニンジンを一生懸命刻んでいらっしゃいましたよね。
栗原:私はその頃、仕事を始めたばかり。「料理番組の裏方をやらない?」って話があり、私、バイトもしたことがなくて、主人(栗原玲児氏)に「一度社会に出てみなさい。世の中は大変なんだから」と言われて。それが36歳の時だったかな。
榊原:それで料理の道に?
栗原:そうです。料理ショーの裏方を3年やって、「世の中ってこんな感じ」ってわかりました。色んな経験が得られて良かったなと。「世の中、そう簡単にはいかせてくれないぞ」と思いましたね。その時の経験がなかったら、今はないです。料理の仕事もしていないでしょう。仕事が忙しくなると、子供を置いていかなきゃいけない。その時に生まれた料理を紹介したのが『ごちそうさまが、ききたくて。』。20年前、子供が小さい時に家族のために作った料理で、美味しいって言ってくれた物を集めたんですね。忙しかったから生まれたレシピです。
料理を作るからには美味しく食べてもらいたい
榊原:家事とお仕事を両立していて素晴らしいですよね。
栗原:私は専業主婦だったから、1日中家にいたんです。彼は昔、テレビの仕事をしてたからすごく忙しかった。だから、3日も4日も帰って来ないこともありました。私、ずっと待ってたのね。そうしたら、「僕を待たないでくれ」って言われて、悲しい思いをしたことがあるんです。また、夫から「自分の世界を持ちなさい。君は僕があれこれ言わないと行動を起こせない。自分で物事を考え、何でもできないとダメだよ」って言われました。だから仕事がしたかったということもあります。
榊原:〝栗原はるみ”は、彼の力で作られたのかと思っていました。
栗原:そういう部分もありますよね。『EverydayHarumi』はイギリスで作ったんですが、私、英語がまだ苦手だから、気が進まなかった。それで断り続けていたのですが、それを見て主人が「どうしてそんなに前向きじゃないんだ。今すぐイギリスに行きなさい」って。それで3週間イギリスに行って、できない英語を毎日直されながら本を作りました。そこから英語の勉強も、もっと前向きに取り組めるようになったと思います。そういう時の後押しをしてくれたのが主人です。
榊原:本の制作以外にも色んなことをされて。
栗原:「『ごちそうさまが、ききたくて。』を見ていると、暮らしがわかる」って言われて、それからですね。仕事の幅が広がったのは。だけど、私がやっていることは特別なことじゃないから、不思議な気持ちでした。何か自分の人生が、とんでもない方向に進み始めた気がして。
今、こうしてロサンゼルスで講演しているのも、本当は「私なんかがロサンゼルスに行っていいのかな?」って最初はお受けしようかどうか迷ったんです。ただ、やはり1歩踏み出すことに意味があるかなと。新しい人たちと出会うのも、良いことですし。
榊原:やっぱり食べ物には注意してる?
栗原:ショウガとホウレンソウとインゲン、ニンジン、あと小松菜は、欠かさず冷蔵庫に入っていますね。ショウガとニンニクと長ネギ、この3つがあれば薬味ができます。ちょっと古くなりそうだったら、ショウガとニンニクはスライスして、しょう油に浸けておく。そういうしょう油を用意しておくだけで違います。同じように長ネギやニンニクを細かく切って、オイルに浸けておくとか。そうすれば、炒め物を作る時に薬味が要りません。例えば、カボチャを揚げたり、レンジにかけて熱々にして、そのネギソースと塩をかけるの。色々使えるから無駄がないんですね。何でも挑戦してみたら、楽しいでしょ。
榊原:なるほど。ショウガとニンニクとネギって老化防止にもいいですね。
栗原:他にも私のおすすめに、冷凍したご飯を、電子レンジで美味しく戻す方法があります。まず保存する時は、大体150gくらいのご飯を、ふわふわってラップに載せて包むんです。ギュッてやっちゃダメですよ。ちょっと隙間があるぐらい。それを3つとか、4つ保存する時は、必ず密閉できるポリ袋に入れて。そのまま冷凍庫に入れちゃうと、はがれたり、匂いが付いたりするからダメ。解凍時は、200W(解凍モード)で。いきなり加熱するとうまく行きません。150gで3分から3分30秒くらいが目安です。ご飯の固さとかレンジの機種によっても変わるから調節が必要ですけど、ほんのり温かいくらい。その後、600Wで1分くらい加熱します。こういう風にすれば、おいしいですよ。私の夫は、冷凍ご飯って気付かないくらい。1つ1つ丁寧に手間をかけることが大切。
1日のうちで達成感とか満足感を持つのが、楽しく暮らすコツ。
榊原:やはり愛情のかけ方ですね。
栗原:やっぱり作るからには、本当に美味しく食べてもらいたい。ご飯も上手に炊けたら、ちゃんと冷凍して、美味しく解凍したいなと思います。私も、何度も練習するんですよ。出来上がりが良くなるように、いつも考えながら作っていると、料理って上手になります。「電子レンジご飯だからしょうがないわ」って思っていたら雑になっちゃうけど、丁寧に作ろうと思うと楽しくなりますよ。
榊原:栗原さんの〝ひと手間かける〞というモットーを、頑張って実行しようと思っても、仕事が忙しくてできないという人は、どうすれば良いでしょう?
栗原:毎日、朝起きて、食事を作って、片付けして、掃除してって同じことをするでしょ。それを1日3回、15分間だけ、テンションを上げて、ものすごく頑張ってやるのがコツです。15分間だけでいいんです。料理でも、掃除でも、「じゃあ15分でやっちゃおう」って。ずっとは無理だから、1日に3回。そうすることで、一生懸命やってる自分が確認できるんですよ。達成感とか満足感とか、そういうものが1日のうちで持てないと、楽しく暮らせない。
榊原:でも、家事って誰も褒めてくれませんよね。
栗原:誰も褒めてくれなくて良いんですよ。私は、家族が気持ち良く過ごせるように頑張るのが好き。それに、小さなことでも、楽しいとか、幸せとか思えないとね。やっぱり良いことばっかりじゃないですから。そういう気持ちを忘れないで、毎日過ごすと楽しいんじゃないかなと思います。
榊原:私たち、あと25年くらいは生きられますよね。そうすると、まだまだ残りの人生がたくさんあります。将来の過ごし方は、どうされますか?
栗原:食の大切さや日本文化の素晴らしさを、次の世代に伝えていきたいです。その一つとして、今、小学校1年生から中学校3年生の子供たちに、料理を教えるボランティア活動をしています。また、主人との夫婦の時間や、家族と過ごす時間も、大切にしていきたいと思います。
(2010年秋・増刊号掲載)