来たる3月29日日曜日に、エミー賞受賞のメーキャップアーティスト、カオリ・ナラ・ターナーさんによる「女性力アップ・チャリティーセミナー」を開催する。75歳にしてなお、メーキャップの仕事や後輩の指導で日米を行き来し、時間が許す限りボランティアで活動中のカオリさんは、まったく年齢を感じさせないバイタリティーの持ち主。セミナーに先立ち、女性の魅力と参加者へのメッセージをお聞きした。
挫折を乗り越え、メーキャップアーティストに
75歳の今は、80歳になるのが楽しみ
今回のセミナーは「女性力アップ」というテーマですが、年を取れば取るほど世の中がわかり、味わいが深くなり楽しくなってきます。でも年を取るのを怖がっている方が結構いらっしゃるんですね。私は今75歳ですが、70歳で見えなかったことが見えてきて、年を追うごとに「これってこんなに楽しかったのか」って思うことがたくさんあるんですよ。「雨が降ってやだ」と思うか、「雨が降ると草木が喜ぶよ」と言うかは、まったく違ってくる。そういうポジティブな物の見方なら、年を取るのも捨てたもんじゃないんですね。
私はメーキャップの仕事をしてきたので、もちろんお化粧の仕方を教えます。だけど人間って1番大切なのは、お化粧より何より「目」なんですよ。自分がハッピーで、誰かに恋してたりすると、目からお星様のような光が出て、美しさが際立つんですよ。だから、「もう年だ」と言うのは止めて、いつも心を豊かにしておく必要がありますね。
ケガでトップダンサーから
メーキャップの道に転身
私は昔、ダンサーをやっていました。芸事は6歳の6月6日に始めるのが習わしで、私もその日から日本舞踊を始め、お稽古の毎日。とにかく踊るのが好きで好きで、つらくて止めたいと思ったことは1度もありませんでした。日本では浅草・新世界の舞台に出て、ショーでは北海道から九州まで全国を回り、テレビ番組にも出て。アクロバットができて、日本舞踊とジャズが踊れるのって私だけだったので、当時は結構売れっ子でしたね(笑)。日本文化使節団の一員になって世界各国を回り、ニューヨークでもダンスを1年勉強しました。踊りには自信があったので、できるところまで勝負して、ダメだったら帰ってくればいいって思っていました。昔から思い切りのいいところがあったみたいね。
その後、香港で公演している時に、メーキャップアーティストだったビル・ターナーと知り合い、1カ月後に結婚しました。結婚の条件は、私に踊りを続けさせてくれること。ロサンゼルスに移住してもショー出演の仕事でラスベガスに滞在して、週末だけ一緒に過ごす生活でした。その舞台中に、膝の靭帯を痛めたんですね。もうダンスはできないと言われた時は本当に悲しくて、テレビでダンスなんかやってたらすぐ消していました。でも、泣いたってわめいたってしょうがないから。自分でやるだけのことはやったからいいじゃないって思うようにしました。
挫折は次のチャンス
一生懸命さは必ず認められる
私があまりにしょんぼりしていたので、主人が海外ロケの仕事に連れ出してくれ、ヨーロッパでの撮影のメーキャップを手伝うようになったんですね。それが映画のメークを始めたきっかけです。でも、それまで自分がダンサーとしてスポットライトを浴びていたので、始めの頃は、メークのような裏方は何となく嫌だと思っていたんです。
ところがイギリスロケで、ジュリー・アンドリュースのボディーメークを手伝う機会があり、彼女が私のことをとても気に入ってくれたんです。「あなたに触れられている時が1番幸せ」と言われた時に、自分は求められているんだ、裏方でも人を喜ばせることができるんだって、プライドを持てたんですね。そこからだんだん仕事が面白くなってきました。
ハリウッド映画のユニオンに入り、本格的にメーキャップの仕事を始めました。映画の仕事はとにかくハード。撮影は明け方から深夜まで続くこともしばしばでしたね。最初はボディーメークでしたが、そのうち色々な俳優の人たちから、早くメーキャップもできるようになってと言われて。背中を押されるように、その道に進みました。
たぶん、ほかのアーティストもメークの技術は大して変わらないと思うんですよ。だけど、日本人って、自分で言うのもおかしいけれど、自分より人を立てるでしょ? 自然と気配りができるところがすごくいいみたいで、みんな「カオリといるとリラックスできる」と言ってくれました。あとはよく人を笑わせることかな。適当な英語でもいいからジョークを言えないと、アメリカではダメ。でも、陰日向なく一生懸命尽くして仕事をしていると、必ず誰かが見ていて認めてくれるんですね。
今、振り返ると、あの時足をケガしなかったらこの道には入っていなかったし、こんなに素晴らしい出会いもなかったでしょうね。今はケガをしたことに感謝しています。挫折は次へのチャンスなんですね。人生の出来事には必ず何かの意味があるから、それを乗り越えれば前より良くなるんですよ。だから大変だと思っても、自分から笑う人間になりましょう、って言いたい。
80歳になるのが楽しみ
自分で水やって花咲かせよう
日本の男性は口ベタですね。私の夫は、寝起きの時でさえ「どうしてそんなにかわいいの?」と私をほめてくれました。それだけで女性は1日中うきうきするじゃない? 女性を美しくするのは旦那様次第ということ。女性もまた愚痴や悪口を言っていませんか? お腹が出ていても「貫禄がついてセクシーよ」って、探せばいくらでもほめる言葉は見つかるはず。子供が巣立ち、2人きりになっても楽しく過ごすためには、恋愛が信頼になり、深い情になるよう、互いの関係を育ててほしいですね。
私はこれから80歳になるのが楽しみ。どんな私になっているんだろうって思います。年を取るダメージばかりを考える
んじゃなく、もう1度楽しいこと見つけて、花を咲かせようよって伝えたい。人が水を与えてくれるのを待ってるんじゃなく、自分で水をやれば新しい芽は絶対に出てくる。セミナーに来てくださった方には、それを伝えたいですね。だって今は、お金を出せば外見は若返られるけど、私がこれまでしてきた楽しいことや素敵な出会いの積み重ねは、若い人が追い抜くことができませんし。年を取るのは当たり前。昨日より今日、今日より明日を大切にしていきたいですね。 今回のセミナーは「女性力アップ」というテーマですが、年を取れば取るほど世の中がわかり、味わいが深くなり楽しくなってきます。でも年を取るのを怖がっている方が結構いらっしゃるんですね。私は今75歳ですが、70歳で見えなかったことが見えてきて、年を追うごとに「これってこんなに楽しかったのか」って思うことがたくさんあるんですよ。「雨が降ってやだ」と思うか、「雨が降ると草木が喜ぶよ」と言うかは、まったく違ってくる。そういうポジティブな物の見方なら、年を取るのも捨てたもんじゃないんですね。
私はメーキャップの仕事をしてきたので、もちろんお化粧の仕方を教えます。だけど人間って1番大切なのは、お化粧より何より「目」なんですよ。自分がハッピーで、誰かに恋してたりすると、目からお星様のような光が出て、美しさが際立つんですよ。だから、「もう年だ」と言うのは止めて、いつも心を豊かにしておく必要がありますね。
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■プロフィール:1933年東京生まれ。トップダンサーからメーキャップアーティストへ転身し、数々の映画で多くのハリウッドスターから指名される存在となる。2003年テレビドラマ『エイリアス』で第55回エミー賞受賞。2006年には旭日双光賞を叙勲。敬老引退者ホームのボランティアやファンドレージングにも力を入れる。
(2009年3月16日号掲載)