来たる10月5日、オーロラ日本語奨学基金主催によるチャリティーコンサートに出演する、さだまさしさん。『関白宣言』『北の国から』『秋桜』など、数々のヒット曲を生み出し、その叙情的で文学的な歌詩の世界には定評がある。2007年にはソロコンサート3500回を達成。今年デビュー35周年を迎え、ますます活躍中のさださんに聞いた。
10年ぶりのコンサートは
ヒット曲のオンパレード
ロサンゼルス公演は10年ぶりなんです。10年なんてあっという間ですね、本当に。皆さんとお会いするのは久しぶりなので、おなじみの曲を歌った方が喜ばれるかなと考えています。皆さんがご存知の歌、ヒット曲のオンパレードのような形でやりたいですね。
なにしろ、海外で頑張っている人を応援したいんです。ロサンゼルスは特に日本人の多い土地ですが、海外で生きていくって大変なことでしょう? 日本人として元気の出るようなコンサートにしたい。もちろん日本に興味のあるアメリカ人の方々にも、日本の良い面をきちんとお伝えしたいと思っています。
10年前のロサンゼルス公演で印象に残っていることは、バンクーバー交響楽団の名誉コンサートマスターである長井明さんが会場に駆け付けて来てくれて、『精霊流し』の演奏をしてくださったことです。長井さんは僕のバイオリンの師匠の兄弟子でもあります。今回、バンクーバー交響楽団はグラミー賞を受賞しました。長井さんも本当に海外で活躍されている方のうちのお一人ですが、今回も来ていただけたらうれしいなあ。
運転免許を取ったのも
ロサンゼルス
僕自身、ロサンゼルスには元々レコーディングで24、25歳の頃から来ていて、いつも1カ月くらいずつ滞在していたんですよ。信じられない話かもしれませんが、その頃はフリーウェイも渋滞などなくて、コカコーラの自動販売機もあちこちにありました。それに僕が車の免許を取ったのもロサンゼルス。よく1人で夜中に車を飛ばして、リトルトーキョーに蕎麦を食べに行ったりしていましたよ。
そして、生まれて初めて交通事故に遭ったのもロサンゼルスなんです。その時の大笑いするエピソードがあるのですが、それについては今度、コンサートでお話ししますので、どうぞお楽しみに!
10年前のオーロラ基金主催の公演は、代表の阿岸明子さんと知り合いだったこともあってお受けしたんです。サイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』などを担当しているアレンジャー、ジミー・ハスケル氏とのレコーディングを阿岸さんにコーディネートしていただいて。それ以来、肉親のようなお付き合いをさせていただいています。
阿岸さんご自身も奨学金のおかげで留学でき、そのお返しとして、またアメリカと日本との架け橋になりたいという思いで、このチャリティーコンサートを始められたんですよね。素晴らしいことです。それが10年目を迎えるということですので、僕もぜひお手伝いさせていただきたいと思い、今回も出演をお受けしました。ぜひともいいものにしたいと思っています。
神からの啓示?
一瞬で歌ができることも
僕自身も今年でデビュー35周年。35年経って思うことは、昔に比べると歌が上手になったってことかな。下手といえば下手だけど、これからますます上手くなるように頑張ります。35年歌ってきて良かったことは、35年歌ってまだ現役でいられるっていう喜びですね。
今の自分はまだまだ怠慢だな。もうちょっと仕事をした方がいいと思います。音楽家としてもこのところ努力が足りないなと思うし、小説家としても、もうちょっと書けよって思う時があります。みんなはもう十分やっているんじゃないって思うかもしれないけど、余命5年とか言われた時の用心に、仕事はもっといいペースでやっといた方がいいと思いますね。
ツアーに入るとコンサートをやるだけで精一杯になっちゃうんで、何かを考えたり創作したりっていう余裕がなくなっちゃう。そうすると合間の休みって、本当は取材に行きたくても、身体の疲れを取るので精一杯なんですよ。休みに入る前に意を決して、仲間を集めてワッと出かけるとか、そういうことでもしないと、本当の休みのど真ん中を、勉強のためにどこかに行くっていうのは無理ですね。それほどコンサートが多いかな。
今回も35周年の全国ツアーの合間にロサンゼルスの予定を入れたので、滞在している日数が少ないんです。本当はもっとゆっくりしたいんですけどね。
でもね、制作中はひらめくというか、神の啓示というか、自分がトランス状態に入るということはしょっちゅうですね。自分でもわかります。音も聞こえないし、ものすごいですよ、その頭の動いている速度は。後で考えると、ここからここまでの文章を、なぜこれだけの時間で書けたんだろうとかね。制作をする人でなくても、普通の生活をしながらでもこういうことってあると思います。
ストレス解消法はゴルフかな。それも気の置けない仲間と一緒にワイワイ、冗談言って、腹を抱えて笑いながらやるゴルフ。これくらいストレス解消になるゴルフはないですね。そして不思議とそういう時はスコアもいいんですよ。
最後に皆さんへのメッセージです。アメリカに限らず、世界中で頑張っている人は、遠くに離れれば離れるほど、日本のことを大切に思っている人が多いと思います。そして、そこで自分が何かをすると、その人個人というよりも、“日本人”が何かをしたということになる。それだけに、日本を背負っているという思いがあると思います。
皆さん、これからも日本のために頑張ってください。最近、日本にいる日本人が行っていることは、恥ずかしいことばかりです。我々日本にいる日本人も、日本人として頑張りたいと思っています。皆さん、くれぐれもお身体に気を付けてください。そして、コンサートで皆様にお会いできることを心から楽しみにしています。
◆ PROFILE ◆
さだ・まさし
1952年長崎市生まれ。本名・佐田雅志。72年に吉田政美と「グレープ」結成、翌年『雪の朝』でデビュー。『精霊流し』が大ヒットし、ソロになってからも『関白宣言』『北の国から』などの名曲を生み出し、小説家としても活躍する。今年6月より、35周年記念コンサートで全48公演ツアー中