去る10月16日、弊誌のビジネスコラム「マーケティングサーフィンUSA」の執筆者で、経営コンサルタントの阪本啓一氏を迎え、「気づいた人はうまくいく!」と題したビジネスセミナーを開催した。当日は、学生から会社経営者まで、総勢230人を越える参加者が駆け付け、同氏のユニークかつ独特の見解に、熱心に耳を傾けていた。
『気づいた人はうまくいく!』(日経新聞出版社)
ライトハウスの連載『マーケティングサーフィンUSA』を中心にまとめられた本です。主題は、「気づく力を鍛えて、生活をもっと楽しく、仕事では、ビジネスチャンスを発見し、もっと繁盛しよう」。気づく力はどうすれば身につくのか。さまざまな角度で、ヒントが盛り込まれています。>>書籍の紹介サイト
「JOY」と「WOW」でクールにビジネスを
普通のスポーツは、決まったフィールドで競技を行いますが、サーフィンは決まっていませんね。現代のビジネス環境は、まさにフィールドを持たないサーフィンそのもの。最近は暗いニュースが多いですが、こういう時こそ商売のチャンスなのです。
商売のなかにも、クールなものとそうでないものがあります。クールな例で言えば、オーナー1人で経営する渋谷のヘアーサロン。技術力も去ることながら、「これからは『音』と『光』が必要」と、どこにいても音質が変わらない波動スピーカーを導入しました。内装の質感が変化し、元々芸能人やセレブが通う人気のヘアーサロンだったのが、さらに顧客層が充実したといいます。
葉山にある「げんべい」というビーチサンダルの専門店では、店先に虫取り網を置き、1年中ビーチサンダルを販売することで、「日本の夏はげんべいにあり」という空気を演出しています。
そして、完全無農薬のリンゴ栽培を成功させた木村秋則さん。完全無農薬のリンゴを作るということは、ほかのリンゴ園にも害虫が広がるということで、コミュニティーからの孤立を意味します。しかし人生を賭けて周りの圧力と戦い、やっと本物のリンゴを手にしました。
このように、クールなビジネスモデルに共通する前提は、「JOY(喜び)」と「WOW(感動)」が共存していることです。そしてその上に、㈰人の気持ちへのリスペクト、㈪地球へのリスペクト、㈫ぶれない芯、㈬ピュア、㈭志と矜持、㈮価値主導による顧客創造、㈯社会貢献など、バリエーションに富んだ対価、㉀ボトムアップなどの要素があることです。
それではクールでないものとは? リーマン・ブラザーズ、AIG、三笠フーズ…。特に最近の金融問題では、もはや「信頼(TRUST)」と「与信(CREDIT)」が喪失し、フィクションが横行しています。
金融資本主義の崩壊と実体経済への回帰
経済には4つのステップがあります。第1ステップは、商品を見ながら取引する物々交換。第2ステップは、お金と物を交換する原始貨幣経済。これも目の前で行われますのでわかりやすい。ややこしくなるのが、第3ステップのクレジットカード。8万円しかなくても、10万円のカバンを買えて、2万円は後で考える。経済にフィクションが入る瞬間です。そして最後の第4ステップで、リーマン・ブラザーズの登場です。「660兆円なくなった!」と騒いでいますが、実在のお金が川に流れたわけではありません。リーマン・ブラザーズが作り出した数字が、エクセルの表から消えただけなのです。完全に人間が作り出したフィクションなんですね。
一連の金融問題で、「カネがカネを生む」と考える人たちが謳歌した金融資本主義は崩壊しました。金融資本主義は、自分で歩く足がないのに、よそから下駄を借りてきて歩いてきた社会。しかしこれからは、実体経済に戻ります。原油への投機資金が消え、原油価格が下落するなど、すでにその兆候も現れています。エネルギー価格が下がると、いずれは物価も落ち着きます。そのような実体経済では、地道に自分の足で歩む企業が伸びます。ですから、今が1番のビジネスチャンスなのです。
便宜上、これまでのビジネスモデルを「1・0」、これからのビジネスモデルを「2・0」と呼ぶことにします。「1・0」は、地球と人の気持ちを消費するモデルで、今話したクールでないパターンです。「2・0」は地球と人の気持ちをリスペクトするモデルで、最初に話したクールなパターンです。「2・0」の商品は、機能とブランドに加え、「奥行き」=「物語」が加わった立体的な商品である必要があります。開発者の思いやパッション、地域への貢献などの「物語」が備わった商品でないと、評価はされないということです。
「気づく力」を磨き長期ビジョンで考える
実体経済の世界で、ビジネスを繁盛させるパワーとは何でしょう。それは、「ビッグよりスモール」「組織より個人」「トップダウンよりボトムアップ」。そして「気づく力」を磨くことです。それにはFeel(感じる)、
In(内化)、Out(外化)の3ステップを経てください。
「Feel」とは、日々ネタ目で歩くこと。色んな人に会ってください。携帯やデジカメを持ち歩き、書店にも行ってください。そして「不」(不平、不満、不安)を探してください。そこを埋めることがビジネスチャンスになるからです。デパートにも行き、いつもとは違う視点で物事を見てください。時代の流れがわかります。
「In」のためには、「Feel」したことを人に話してください。話しながら、その意味を考え、それぞれの事象をリンクさせてください。感じたことを絵にしたり、自分の仕事へ置き換えることも有効です。
最後の「Out」では、ブログの作成や執筆作業、人前でのスピーチや、クライアントへの報告など、「In」したことを外に発信してください。そうすれば、自分の中身も整います。
今日から皆さんにできることは、ブランドを考えることです。普通のブランドではなく、100年間続く「100年ブランド」を考えてください。日本に「かんてんぱぱ」という会社がありますが、ここは社内に100年カレンダーを貼っています。今の社員は100年後にいませんが、その時にどうありたいかを考えることが大切なのです。
また、流行してはいけません。流行は、良いことではないのです。不幸な企業というのは、実はヒット商品のある企業なのです。いつまでもそのヒット商品にすがり、ずっとその成功体験から抜け出せないからです。
「Blue Moon」というビールがあります。バドワイザーなどのような世界ブランドではありませんが、コアなファンに支えられた人気商品です。しかし実は、ビールの大手・クアーズ社が作っているのをご存知ですか? ところが、大企業が作っていることがバレてしまうと、熱烈的ファンは逃げてしまいます。だから内緒にしているのです。「ビッグ」が「スモール」のやり方をしているのです。しかも、ここまでくるのに10年かかりました。同じくビールメーカーのミラー社も、ビジネス展開に際し、副社長が「すぐに答えを出そうと思っちゃダメだ。10年かかると思いたまえ」と社員に言ったそうです。ですから、ビジネスには長期ビジョンを持ってください。
楽しみながら働く「JOY」と「WOW」の職場
経営者はこれまで、4つの逃走をしてきました。①きちんとした人材を雇わない「雇用からの逃走」、②人件費をケチる「人件費からの逃走」、③社員教育を怠る「教育からの逃走」、④現場に行かずにお金だけ出す「現場からの逃走」です。しかしこれからは、この逃避に正面から立ち向かわないと会社は成長しません。
今の若者は、大企業で過ごすことよりも、働きがいや喜びに「モチベーション」を感じます。これは、地球規模で「.com」より「.org」が増えていることからもわかります。例えば、インドネシアの環境団体は、1984年には1団体だったのが、2004年には2千団体。アメリカの市民団体の70%は、この30年間で設立されました。つまり、働く「モチベーション」は、「.com」より「.org」の方が満たしてくれると考える人が増えたのです。「大企業に就職する!」より「NPOに入る!」の方がクールな時代、それが今なのです。
当然、企業サイドには新たな雇用関係が求められます。給与面だけではなく、会社活動がいかに社会とリンクしているのかを明確化しないと、人を惹き付けることはできません。ビル・ゲイツ氏が「創造的資本主義」構想を掲げました。これは、私の言う「2・0」の世界と同じものです。これからは、その方向に向かう企業が間違いなく繁栄します。そして人生と同様、ビジネスも楽しみながらでないとうまくいきません。皆さんの職場にも、JOYとWOWをあふれさせてください。きっと商売繁盛します。
(2008年11月16日号掲載)