アジア系へのヘイト被害、今こそ団結の時

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

(2021年5月1日号掲載)

これまでも支え合ってきたアジア系社会

冷泉コラム_アジアンヘイト

アトランタの韓国系スパ発砲事件以来、各地で反アジア系ヘイトクライムのデモが行われている。

私たちアジア系を標的としたヘイトクライムが止まらない。私は1993年からアメリカに暮らしているが、かつて経験したことのない事態だ。一刻も早い沈静化を願うが、そのためにも、何点か議論をしておきたいと思う。
 
まず、とにかく事件に巻き込まれないことだ。被害を避けるだけでなく、事件が増えれば模倣犯の発生する可能性がある。この点に関しては、日本の大使館や領事館など在外公館はキメの細かい情報発信を続けており、頭の下がる思いだ。メールマガジンに登録し、また在外公館のサイトを見ることで、注意すべきエリアや犯罪のパターンなどを知っておきたい。
 
同時に必要なのが、アジア系同士の団結だ。連邦議会上院では、メイジー・ヒロノ議員(日系)と、タミー・ダックワース議員(タイ系)が連携して抗議活動をしており、影響力を発揮している。同じように、各州、各市町村あるいは各学区において、アジア系諸団体が相互に連携し、事件には抗議を行い、また情報交換に努めたい。
 
考えてみれば2010年頃までは、アメリカにおける日系、韓国系、中国系のコミュニティーはもっと助け合っていたように思う。前世紀の話になるが、92年にルイジアナ州で日本人留学生が一方的に射殺されたにもかかわらず刑事裁判では犯人が無罪になる事件があった。このときは中国系の団体が、事件の背景には人種差別があるとして民事訴訟を応援してくれ、民事では勝訴することができた。また中国系の監督が、事件を告発するドキュメンタリー映画を製作している。

相互理解と社会貢献がこれからの鍵

だが、近年は経済的な力関係の変化や、歴史問題などから日中韓3カ国の間は冷え込んでおり、それがアメリカ国内でのお互いの関係にも影響を与えている。アジア系が被害者となるという現状を考えると、改めて意識的に団結と連携を進めることが必要だ。
 
具体的には、本国同士の歴史問題からはひとまず距離を置くこととして、アメリカにおける日系社会、韓国系社会、中国系社会の相互理解が進められればと思う。例えば、中国系社会のルーツには、19世紀の太平天国の戦乱を避けてきた人もいれば、戦後の台湾で戒厳令下の弾圧から逃れてきた人もいる。中国系は、20世紀の初めには「排斥法」の対象となって、日系人以上の苦難も経験している。全米に中華街が発達しているのは、自分たちの文化に閉じこもりたいからではなく、団結して自衛しないと迫害を受けた厳しい歴史の名残りでもある。韓国からはベトナム戦争における米軍の作戦に参加して苦労し、そのために移民の権利が与えられた人々が来ている。
 
そうした苦難の歴史を知ることで、お互いが連携を取れないかと思う。例えば、戦時中の日系人に対する強制収容について、中国系や韓国系の中には敵国民である以上は仕方がないという見方がある。だが、日系人の多くはアメリカに忠誠を誓ったし、その忠誠を証明するために欧州戦線に志願して大変な犠牲を払った人々もいる。そのことはもっと知られても良い。
 
最も効果的なのは、顔の見えるアジア人がアメリカ社会に貢献してゆくことだろう。例えば日本人のスポーツ選手たち、ゴルフの松山英樹、野球の大谷翔平といった人々は、コロナ禍で目覚ましい活躍をすることで、アメリカ社会を明るくしている。グラミー賞の常連になったKポップのBTSは、ヘイトクライム抗議のツイートで話題となった。また今年のニューヨーク市長選には、台湾系のアンドリュー・ヤング候補が挑戦中だ。ベーシックインカム政策を掲げる同候補は、やはりアジア系のイメージを塗り替えつつある。
 
同時に重要なのは、自分たちが名誉白人のように振る舞ってはいけないということだ。アジア系に対するヘイトクライムを起こすのは白人だけではない。アフリカ系やヒスパニック系の犯罪も多い。だが、人種を敵視の対象にしていては、問題は解決しないことを肝に銘ずるべきであろう。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2021年5月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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