(2024年9月号掲載)
初心者歓迎の日本と
選抜するアメリカ
日本では、教員の時間外労働を減らすために部活動(部活)の一部を民間に委託する動きが始まった。また、夏場の猛暑が年々厳しさを増す中で、甲子園の高校野球も10分間のクーリングタイムや午前と夕方に試合を行う2部制などが導入された。変化はあるが、依然として中高におけるスポーツを中心とした部活は盛んだ。一方で、アメリカの場合はパリ五輪で大選手団が活躍した世界一のスポーツ大国であり、その背景には中高の部活という大きな裾野がある。
部活、民間委託については、詳しく見ていくと日米で大きな違いがある。まず、日本の場合は全くの初心者から部活で指導を受けるのが普通だ。テニスならラケットの構え方から、吹奏楽部なら全くの初歩から部活で学ぶことが多い。野球の場合は少年野球の出身者が甲子園で活躍するイメージがあるが、これは一部のエリートに過ぎず、初心者でも入部できる。一方で、アメリカの場合は部活に「トライアウト」という入部試験があり、事前に基礎を身に付けておかないと部活に入れない。そのトライアウトに受かるためには相当に学年が低いうちから、民間の個人や組織に学んでスポーツや楽器などに親しむことが必要になってくる。
野球の場合であれば、5歳時の「ティーボール」という投手のいない野球に始まって、リトルリーグを経て中学の野球部に入っていくことになる。フットボールやサッカー、そしてアメリカの花形スポーツであるバスケットボールも同様だ。小学生までは地域のチーム、つまり民間団体に属して練習し、中学になれば学校の部活が始まるので、そこに入るという流れになる。テニスやゴルフなどの個人競技も同じだ。オーケストラやマーチングバンドなどの場合も、高校で「一軍」に入るためには、小さい頃から民間の個人レッスンを受けておかないとトライアウトに受かるのは難しい。
季節で変わるスポーツ
文武両道を徹底するアメリカ
アメリカの場合は、季節ごとに部活が変わるのも特徴だ。例えば、高校の正規の部活動としてはフットボールは秋、バスケットボールは冬、野球は春にしか招集されない。そのために、高校の4年間を通じて秋にはフットボールのQBとして活躍し、春になると野球部でエースで4番などという選手もかなりいる。野球とフットボールの双方でドラフト指名される選手などが時々登場するのは、このためだ。一方で、例えばバスケを専門に高めたい生徒は高校の部活がある冬のシーズン以外は、地元の民間チーム(トラベルチームなど)に所属して活動する。
そもそも中高の部活に盛大な「全国大会」があまりないというのもアメリカの特徴だ。国土が広く、移動にコストがかかるだけでなく、そもそも夏休み期間中は学校という組織が全く稼働しないということもある。演劇や音楽も含めて、中高レベルの全国大会となると民間のものが多くなっているし、それほど大規模なものはない。その代わり大学の場合は春のバスケに代表されるように、全国大会は極めて盛んである。
文武両道が徹底しているというのもアメリカの特徴だ。大学受験のために高校4年生の秋は部活から引退するなどということは絶対になく、大学の側も入試に際しては最高学年としてのリーダーシップ発揮の様子を評価してくる。また、大学入試に際しては民間団体での活躍も評価される。ただ、学業でもスポーツでも得意分野のない若者には、辛い社会だということもある。
アメリカの場合は、高校の部活が一つの花形であり目標となる中で、そこへ至る道の途中に個人レッスンや地域スポーツなど民間団体が機会を提供している。いわば民間の活動が学校の活動を補完しつつ別立ての形になっている。日本の部活における民間委託は始まったばかりで試行錯誤の真っ最中だ。それが、最終的にはアメリカのようになるのか、それとも学校と連携して日本独自の発展を遂げるのか、今後の改革に期待したい。
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