(2022年8月1日号掲載)
問題・矛盾をはらむ日本人の市民権取得
在米邦人にとって、二重国籍というのは複雑な問題だ。まず、アメリカは、国内で出生すると自動的に市民権(国籍)が付与され、二重国籍も認めている。反対に、日本は二重国籍を原則として認めていない。日本の場合だが、現在の運用では、アメリカで日本人の親から出生したり、親の帰化によって18歳未満の段階で二重国籍になった人の場合は、選択義務はあるが自動的に日本国籍を喪失することはない。問題は、18歳以上の成人になってから、自分の意志でアメリカ市民権を取得した場合である。現在は、帰化の瞬間に日本国籍は喪失するという規定があり、そのように運用されている。
けれども、この制度にはさまざまな問題がある。まず、日本という国家を構成するのが領土と国民であるとしたら、国家の構成要素である国民という身分を、本人の同意なく一方的に剥奪するのは、例えてみればタコが自分の足を食べているような自己矛盾だという考え方ができる。また、憲法上認められた主権者としての権利が、一瞬で剥奪されることへの疑問もある。
具体的な例としてはノーベル賞を受賞した科学者の場合がある。日本からアメリカの大学に就職して研究を続ける学者は数多くいる。研究を進める中で、そのプロジェクトの予算がアメリカ政府から下りる場合には、アメリカ市民にならないと研究予算がもらえないということがよくある。そうすると、心の中では日本人であっても、研究を続行するためにはアメリカに帰化せざるを得ず、そうなると日本国籍を放棄することになる。仮にそうした日系アメリカ人一世の研究者がノーベル賞を受賞すると、どういうわけか日本では名誉日本人扱いがされる。
同じような例では、アメリカで日本語を普及しようという目的で、大学院で学位を取った人が、公立高校のフルタイムの教諭に採用されたとする。州によっては、公立学校の教員は市民権が必要という場合があり、そうなると日本語教師になるために日本国籍を放棄するということになる。また、相続対策で渋々アメリカに帰化するとか、米国在住の資産家がリタイアして日本に帰国する際に、巨額の出国税を回避するためにアメリカへの帰化を強いられるという場合もある。日本語を広めるために日本国籍を捨てるとか、日本に帰国するために日本国籍を捨てるなど、矛盾も甚だしい。
母国からの入国拒否二重国籍への道はあるか
しかしながら、こうした事例については多くの帰化者は、制度を理解してそれに従ってきている。けれども、ここへ来て、人間の常識として信じられないような事例が出てきた。それは新型コロナウイルス感染拡大に伴う、ビザなし渡航の停止に関わる事態だ。アメリカに帰化した人で、法令通りに日本国籍を離脱していない人がいるのは事実である。そうした人々も、日本のパスポートの有効期間内であれば、水際措置の期間内でも帰国できていた。ところが正直に国籍離脱をしていた人は、自分の意志に反しながらも正直に国籍を返上したことで自分の国であ日本に入国を拒否されたのである。
とにかく、多くの日本人が二重国籍の形式的禁止事項のために、どんどん流出しているというのは問題である。少なくとも、人口減と人材流出に苦しむ国のやることではないと思う。
ただ、二重国籍を認めよという主張を行っても、世論調査などで国内世論の支持を得ることは100%難しい。両国から特権を享受するのは不公平だとか、スパイが怖いなどという意見が浸透しているからだ。そこで、この場を借りて二つのことを提案したい。一つは、対象国である。全世界を対象にするのではなく、同盟国であり相手国も二重国籍を認めている場合に限って相互主義で認めるという制度が検討されるべきだ。二つ目は権利に伴う責任として、日本も自国民に対しては全世界合算課税を行うのである。二重課税は避ける必要はあるが、国籍維持はタダではないという制度にすれば理解も広まるのではないか。
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