置き勉、シャーペン、ハンコ…、数々の謎ルール
これまでも、日本の中学や高校の校則が厳しいのは周知の事だった。反発した生徒や親が裁判を起こしたり、漫画やドラマでも校則に対する反抗が描かれたりするなど、厳しい校則に対する議論は今でも続いている。
一方で、近年では日本の小学校における「謎ルール」というのが話題になっている。ネット世代が小学生の親となり、SNSなどでルールの理不尽さを発信する中で、小学校にも厳格なルールが残っていることが議論を呼んでいるのだ。中学高校の場合は非行の防止や、学校への社会的評価を維持するためなど、理由らしきものが見いだされるが、小学校のルールの場合は根拠が不明なものが多い。ネットの世界では、そのような規則のことを「謎ルール」と呼んでいる。
謎ルールの筆頭に挙げられるのが置き勉の禁止だろう。教科書などを学校に置いておくのはダメで、必ず家に持ち帰らなくてはならないというルールだ。予習復習をするため、時間割を見て正しい教科書を用意することで生活習慣が付くなど禁止の理由はあるにはあるのだが、根拠としては薄い。近年、教科書が大型化する傾向にあり、ランドセルが重くなって子どもの健康に良くないとして、文科省が「置き勉許可」の通達を出しているが、現場には十分に浸透していないという。
次に謎という評価が多いのがシャープペンシル(シャーペン)の禁止だ。鉛筆を削る習慣が生活力になるとか、シャーペンではきれいな字が書けないなど一応の理由付けはある。またシャーペンは高額なのでぜいたくだという理由もあったが、近年は需要低迷や原価高騰で鉛筆も1本100円近くするので、シャーペンの方が経済的という声もある。子どもの中には、学校向けの筆箱には鉛筆、塾へ行く際にはシャーペンと筆箱を分けている例もあるそうだ。
この夏、話題になったのはプール指導に伴う健康管理のハンコ問題である。日本の小学校では、プール指導の日には必ず家庭で検温をさせた上で、平熱で健康であることを保護者が連絡帳に捺印するルールを設けているところが多い。サインは絶対にダメで、ハンコでなくてはいけないのだ。
ハンコであれば子どもが勝手に押せるという反論もあるが、学校側はあくまで強硬だ。理由としては、万が一、病気の子どもがプールに入って健康を悪化させた場合に、学校として責任を逃れたい、その場合にサインであれば真贋の判定など面倒な問題が起きるが、ハンコであれば学校側として法的に有利であるためらしい。
変わらないルールと変わりつつある教育現場
では、こうした謎ルールは消滅していく方向かというと、必ずしもそうではない。というのも、今、学校現場では保護者からのクレーム対応やトラブル事例への報告書作りなどで教師の労働時間が長時間化して問題になっている。そのために優秀な若者が教師になりたがらないという深刻な事態が進行しており、全国の小学校では「働き方改革」に思い切り舵を切っているのだ。数年前とは風潮がコロッと変わって「ただでさえ忙しい教員に負担をかける保護者は、モンスター・ペアレント」ということになり、その結果として、多くの学校では謎ルールの根拠を尋ねることもタブーになりつつあるという。
また、全国的にいじめの問題で学校がピリピリしていることから、人を刺すなど嫌がらせの道具になり得るシャーペンは排除したいとか、置き勉をされると教科書隠しといった行為を誘発するなど、深刻な理由から謎ルールを廃止できないという事情もあるらしい。
どうやら、謎ルールが残っている背景には、子ども同士、あるいは保護者と学校の間であるべき信頼関係が崩れている、そんな根深い問題があるようだ。その結果、首都圏などでは公立の学校が嫌われて、小学校段階での受験が広がり、教育格差の拡大に拍車をかけているとも言える。
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(2019年8月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2019年8月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。