ワールドカップとスポーツの放映権を考える

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

独占放映権が視聴者にもたらすもの

ワールドカップ

今年はサッカーのワールドカップの年で、6月にはロシアで大会が行われる。日本のA代表には直前の監督交代劇など心配材料があるが、とにかく1勝1勝の積み重ねを期待したい。
 
このワールドカップの放送だが、前回、2014年のブラジル大会の際には、北米の日本語テレビ局であるテレビジャパンは、放映権がないために、試合中継や日本のNHKが制作する定時ニュースなどにおいても、ワールドカップのニュースは外して放送していた。恐らく今回もそうなるであろう。
 
これはオリンピックでも同様だ。アメリカにおける五輪中継は、NBCが長年にわたって独占しているので、日本からの日本語による報道は、全てカットせざるを得ない。その結果として、日本チームや日本人選手が登場するメジャーなスポーツの試合は、異常なまでのアメリカ・ファーストのアナウンスを聞きながらNBCの映像を見るしかなかった。
 
また、アメリカ人の興味のなさそうなスポーツや、アメリカ人選手の出場しない試合は、テレビ中継がされないので、広告を視聴した上でストリーミングで見るしかなかったのである。これは、16年に行われたリオ五輪でも、今年の2月に行われた冬季平昌五輪でも同様だった。
 
こうした現象は全て、「独占放映権」という慣習からきている。五輪やワールドカップのような大規模イベントの場合、国ごとの放映権は、特に経済規模の大きな国ほど高騰する。結果として、高い放映権料を払った局は、他のテレビ局には中継を許さない独占権を主張して、広告収入を大きくしようとするのである。ちなみに日本の場合は、一社で払える会社はないので、多くのテレビ局が共同で放映権を買っており、独占にはなっていない。

アメリカならではのサッカー放映権事情

アメリカは、このスポーツ中継ということでは、世界最大の市場であり、独占的な権利を握った場合の利権は大きいのである。そのため、テレビジャパンは、五輪もワールドカップも試合中継ができない。
 
だが、アメリカの場合、五輪とワールドカップでは事情が少し異なる。五輪におけるNBCの独占権がほぼ絶対的なのに対して、ディズニーグループが取得していた14年におけるワールドカップの放映権は、完全な独占ではなかった。ブラジルでのワールドカップの試合は、ディズニー系列のスポーツ専門のケーブル局ESPNと3大ネットワークの一つであるABCが中継していたのだが、それとは全く別にスペイン語放送のUnivisionが全試合を中継していたのでる。
 
これは今回のワールドカップのロシア大会も同じで、今回の北米における放映権はFOXが獲得しており、FOXとSF1などでほぼ全試合の中継をするが、それ以外にスペイン語放送のTelemundoも全試合を中継する。
 
これは、アメリカにおけるサッカー市場が、英語による市場と、スペイン語による市場に大きく分かれているからだ。特に中南米出身のサッカーファンは、母国の代表チームを熱狂的に応援する。一方で、今回はアメリカ代表が進出できなかったにもかかわらず、英語によるサッカーファンも増えているという。欧州の各リーグを熱心に追っているファンも多いし、アメリカのプロリーグMLSもファンを増やしているからだ。FOXとTelemundoの2局体制で中継が行われる背景にはそんな事情がある。
 
そう考えると、五輪も含めて、アメリカ国内でもあるいは全世界でも「独占中継権」などと言わずに、各国出身のファンが、それぞれの言語で出身国を応援しつつ詳しい解説を付けた中継を楽しむような体制は取れないものかと思う。今回はそのような多様な中継は無理かもしれないが、FOXの中継を見ていて、解説が面白くなかったり、CMが多過ぎたらTelemundoに切り替えるのも良いかもしれない。注目のワールドカップ・ロシア大会は、6月14日に開幕する。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2018年6月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2018年6月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

 

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