国籍のある国、住んでいる国それぞれの権利・義務とは?
グローバル化が進む中で、20世紀末以降は自分の国を離れて、国境の外に暮らす人口が増えている。つまり在外国民ということだ。例えば、留学するとか、企業による海外転勤の場合は、期間は限定であって期限が来たら帰国することになる。一方で、移動した先の国に定住してしまえば移民ということになるが、その場合も元の国の国籍を残した人もいる。
この在外国民とは、一体何なのだろうか? つまり、国籍のある国と住んでいる国が異なる場合に、国籍を持っている国に対する権利と義務については、どう考えたら良いのだろう?
まずお金の問題がある。例えば、新型コロナウイルスの経済対策として支給される1人10万円の「特別定額給付金」について、日本政府は海外在留邦人にも給付する方向で検討に入ったという報道があった。最終的に実現するかは分からないが、これはとてもユニークな考え方だ。常識的には、こうした給付は国内の経済を刺激するためであり、国内の納税者に対する見返りとして実施するものだからだ。日本の場合は、国内に183日以上住んでいない年は日本の所得税は発生しない。ということは、日本に納税していない人にも給付金が出ることになる。
アメリカの場合は「全世界合算課税」という制度だ。つまり、市民と永住者は世界中のどこに住んでいても全収入をアメリカに対して申告して納税しなくてはならない。したがってその納税データに基づいて給付金の対象となる。だが、日本の場合は、仮にこのまま進めば納税義務がない人に給付金が出ることになる。理由としては、日本在住の外国人に給付金を出す以上は、在外の日本国籍者にも出さないとバランスを欠くとか、滞在国によってはコロナ危機により在外の困窮者も発生しているということのようだ。
次に選挙権の問題がある。国政選挙は在外投票が定着しているので制度的には整備されているが、問題は選挙戦だ。候補者や政党がもっと在外有権者のメリットとなる政策をアピールして、具体的な選択肢を示してくれないと結局は印象論やイデオロギーで投票することになってしまうからだ。例えば、在外の日本語教育の充実であるとか、二重国籍への寛容性、在外邦人へのサービス提供など、具体的な政策を示した在外選挙戦をやってほしいと思う。一部には日本の地方選挙への参加を可能にという議論もあるが、こちらは実務的に難しいのではないか。
在外国民には分かりにくい日本国内の状況
重要なのは危機管理の問題だ。今回のコロナ危機にしても、全米におけるデモと暴動の問題にしても、それぞれの地域における危険について日本の在米公館がきめ細かく情報提供を行い、場合によっては邦人への支援を行っているのには頭の下がる思いがする。デモに関する危険情報については「事なかれ主義」という批判もあるが、これについては各在米公館が具体的な情報に加えて、日本は人種差別を許さない国だというメッセージを入れるなどの工夫はできるであろう。
その一方で、日本における危機に関する情報提供には課題が残っているように思う。例えば日本における安否確認は、1995年の阪神淡路大震災と比較すると2011年の東日本大震災の時点では大きく改善したと思う。だが、今回のコロナ危機において日本での規制はどうなっているのか、日本に帰国して途中編入を希望する子どもたちへの教育機会に関する情報提供などは、十分ではないようだ。危険が海外にある場合には外務省はプロ中のプロだが、日本の危機を海外から理解するための情報提供に関しては、官民合わせた工夫を引き続きお願いしたい。
一つ気になるのは在外国民と移民の関係だ。そもそもアメリカの日系社会では、駐在員や新移民と、日系2世3世(4世も)の社会には距離感がある。在外国民の権利が充実するのはいいことだが、それが日系人との分断にならないようにコミュニティー全体が意識することは大切ではないだろうか。
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(2020年7月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2020年7月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。