(2023年6月号掲載)
蒲蒲線は西部移動の切り札になるか?
アメリカから日本へ移動する場合、日本の空港としては、やはり羽田を利用する場合が多い。国内線に乗り継ぐ場合は別として、そこで問題になるのが「空港アクセス」だ。チョイスはそれなりにある。タクシーや、空港バスの路線網もあるが、中でも一番便利なのは、東京モノレールと京浜急行だろう。だが、モノレールの場合は終点が浜松町駅で利便性が悪い。京急の場合は品川、都営浅草線への乗り入れ、川崎・横浜方面へは直通があるが、やはりその他の方面は乗り換えとなる。
特に指摘されているのが、東京西部へのアクセスの悪さだ。板橋、練馬、杉並、世田谷、目黒といった西部の人口密集地からは、かなり遠回りになる。新宿、渋谷、池袋といったターミナルからはバスの便もあるが、渋滞の可能性もある中では、鉄道の利便性向上への期待は大きい。そこで現在、真剣に検討され始めたのが、京浜急行の京急蒲田駅と、そこから800メートル離れたJR蒲田駅に隣接している東急蒲田駅を直結する鉄かまかま道の構想だ。これは「蒲蒲線」つまり、京急蒲田と東急蒲田を結ぶ短絡線として昔からアイデアとしてあったものだが、地元の大田区が費用の7割負担を申し出るなど動きが出てきた。この蒲蒲線だが、まず、空港側は京急の空港線に乗り入れる。また蒲田から北は、東急の多摩川線(昔の目蒲線)に乗り入れて多摩川駅から東横線や目黒線に直通させるという計画がある。東横線は地下鉄副都心線から東武東上線、西武池袋線に、また目黒線は地下鉄南北線や都営三田線に直通するので、羽田から直通できる範囲は一気に広がる。
ところが、期待が高まる中で問題も出てきた。まず、線路の幅の問題がある。東急側はJRの在来線と同じ「狭軌」だが、京急は新幹線と同じレール間の幅の広い「標準軌」だ。従って相互に直通ができない。仮に大鳥居駅から羽田空港までの線路を共用する場合は、高価な「軌間可変車(フリーゲージ)」を開発するか、線路をレール3本の「三線軌条」に改良しなくてはならない。フリーゲージはまだ未開発、三線軌条は大工事となり、その間には京急の輸送力が下がり非現実的だという。
そんな中で、積極的だった大田区内で反対の声が出てきた。「京急蒲田駅とJR・東急蒲田駅を歩いて移動する人が減ると、地元商店街が衰退する」「東急蒲田駅が地下深く移設されると不便になる」「多摩川線に急行や快速が走ると、通過される地元にはかえって不便」などの声だ。蒲蒲線の前途には、まだまだ紆余曲折がありそうだ。
期待が高まる羽田空港アクセス線(仮称)
そこで、一気に期待が高まっているのが、JR東日本の羽田空港アクセス線(仮称)計画だ。山手線の田町駅付近から、現在は使われていない貨物線の「大汐線」の設備を利用、東京貨物ターミナルの土地も活用するなどして南下、羽田の「第1・2ターミナル」の地下に直結するという設計の新線である。こちらは、すでに建設認可が下りて着工しており、現時点では2031年度の開業を目指している。完成すると、東京駅から羽田空港が18分で結ばれるだけでなく、宇都宮線、高崎線、常磐線にも直通するという。さらに「りんかい線」を経由して大崎から渋谷、新宿、池袋に直通する構想もある。
だが、このアクセス線にも課題がある。現時点では、羽田空港の駅は「第1・2ターミナル」だけで、「第3」つまり国際線のターミナルには行かない。この空港駅の建設は国の事業であり、その事業には「第3ターミナル駅」の計画が含まれていないからだ。つまり、「第3」に着いたら、まずターミナル間バスなどで移動して「第1・2」に行かないと、この羽田空港アクセス線には乗れないのである。
現時点では、蒲蒲線は難航、羽田空港アクセス線は期待が持てるが「第3」に行かないということで、問題は残る。特に羽田空港アクセス線の「第3」駅の問題は、国の政策ということもあり、在外の私たちが強く声を上げていかねばならない問題と考える。
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