(2024年6月号掲載)
春に合格発表、秋に始まるアメリカの大学
5月から6月はアメリカの卒業式シーズンだ。中でも大学の卒業式は盛大だが、高校生の卒業式でも、大学と同じようにガウンと角帽で身を包み、一人一人が卒業証書を受け取るのは、明らかに人生の一つのステップになる。卒業式の後は家族で食事をして祝う家庭も多いし、多くの卒業生が集まってパーティーをすることもある。アメリカの高校生にとって卒業とのは、基本的には楽しい時期である。卒業式はそのピークというわけだ。
けれども、高校の最高学年(12年生=シニア)には、その前に、大学への出願という大変なイベントがある。アメリカの大学入試は100%がAO入試で、多くの高校生にとっては複雑な出願のプロセスというのは、かなりのストレスになる。統一テストで良い点を取り、部活などの履歴をレジュメにして入力したり、中でも入試のエッセイには相当な労力が必要だ。
多くの大学では最終の出願の締め切りが12月末か1月中旬であり、そこでシニアの高校生は一息つく。そして3月末になると一斉に合否の通知があり、4月の1カ月間をかけて進学先を決めて5月1日(今年は事情で少し延期されたが)を締め切りとして1校に絞り込む。この時期から卒業式までの数カ月は、高校生はストレスから完全に解放される。そして、プロムと呼ばれるダンスパーティーを楽しんだり、部活のイベントがあったり、中には数日の泊まりがけで卒業旅行に行く学校もある。
さらに、多くの大学の場合は、入寮は9月の第1週であり、一部の早い大学でも8月20日過ぎだから、最低でも夏休みが2カ月はある。プロムや卒業パーティーの延長で、この期間もリラックスして過ごすことが多い。
入試から入学まであっという間の日本の大学
ところが日本の場合は、かなり様子が違う。プロムや卒業パーティーの習慣がないというのは文化の違いだが、まず大学の入試から入学までの日程が非常に忙しい。国公立の場合は共通テストが1月中旬で、2次試験を受けて合否が発表されるのが3月初旬になる。私立も試験は2月が多い。最近では推薦入試も増えてきたが、一般入試の場合は直前まで必死になって受験勉強をすることになる。
そして、国公立の場合は合否発表から半月程度の期間に、進学先を決めて手続きを行い、必要な場合は寮や下宿を探すことになる。これは、非常に慌ただしい。文化の違い以前の問題として、そもそも受験のストレスから解放されてリラックスする期間というのがほとんどない。大学入学直後に不適応になる「五月病」というのが、毎年問題になるが、この慌ただしい日程も原因の一つと思われる。
どうして日程がギリギリになるのかというと、大学入試の出題範囲が「高校の全課程」となっているからだ。特に以前は浪人する学生が多く、現役に不利にならないようにと、高校側が大学側に頼んで入試の時期を遅らせた経緯がある。さらに、日本の場合は「高校を立派に卒業した」ということよりも、「志望の大学に合格した」ことのほうが、人生のメリハリになるという考え方がある。家族としても、高校の卒業式を盛大に祝うというのは少なく、むしろ一部の著名大学の場合には、入学式に両親祖父母が一緒に参加するので会場探しに苦労しているぐらいだ。
卒業式が軽視されているだけでなく、高校生の生活にしても、進学校の場合は2年生で部活を引退させられたり、3年生の最後の数カ月は受験のために自主学習になる学校もある。クラスメイトとは、ゆっくり遊ぶ時間などなく、卒業式で顔を合わせた後はもう全国に散っていく。日本では、理系だけでなく文科系でも大学での成績を重視したり、専攻が職業に結びつくような改革が進んでいる。アメリカのように大学生にしっかり勉強させようというのだ。ならば、日本の高校でも最後の時期は少しでもリラックスする期間を設けて大学への助走をさせてあげたいと思うのだが、どうであろうか。
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