(2023年8月号掲載)
コロナ前後で変わった観光客の顔ぶれ
コロナ禍中は激減していた日本へのインバウンド観光客が、ここへ来て一気に増加している。コロナに関する規制が撤廃されたこともあるが、何よりも1ドル140円台という円安が追い風になっている。特にこの春以降は、毎月の外国人観光客の入国者数がほぼ200万人という水準になっており、年間では2000万人を軽く超え、2500万人に迫る勢いだ。このため、羽田空港などの国際空港、そして各観光地は大混雑が続いている。
ちなみに、コロナ禍の以前、2018〜19年にはインバウンドの来日数は年間で3000万人を超えていた。当時3000万を受け入れていたのだから、当面の2500万は受け入れ可能かというと、実は事情が異なる。コロナ禍以前の年間3000万という数字のうち、1000万人は中国からの来訪者だった。彼らの多くは、日本の地方都市へのLCC直行便を使ったり、あるいはクルーズ船で寄港するなど、出入国地が分散していた。また、中国人の多くはリピート客であって、混雑する観光地を避けて動くなど、目的地にも分散が見られたし、団体客の場合は専用の観光バスをチャーターするなど公的交通機関に頼らないケースも多かった。
こうした状況と比較すると、23年半ばの現状では中国からの来日客はまだごく僅かであり、韓国、台湾、シンガポールで半分強、残りは欧米各国からの「初心者」が多くなっている。羽田空港、京都、鎌倉などが異様な混雑となっているのは、そのためのようだ。
まず問題になるのが移動の際のスーツケースだ。欧米からの旅行客は、遠い日本に来る以上はしっかり満喫したいということで、滞在期間はアジアの旅行者より長めであり、結果的にスーツケースも大型を持ち込むことが多い。これが多くの交通機関で障害になっている。京浜急行や東京モノレール、はるかやラピートなど空港アクセス鉄道は、荷物置き場があったり、地元の乗客も心得ているので何とかなっているが、問題は新幹線だ。東海道山陽新幹線では大型のスーツケースの置き場を作って、無料の事前予約を受け付けているが十分に機能していない。JRパスの値上げに伴ってのぞみにも外国人旅行客が流れることが予想される中では、混乱を回避するには荷物置き場を増設するしかないだろう。
溢れる観光客と締め出される地元住民
観光地の混雑も問題だ。まず京都市では、旅行者の増加により市バスの混雑が激しくなり、市民生活にも支障が出ている。このため、700円の「バス1日券」を廃止して1100円の「地下鉄+バス1日券」への移行が進められている。仮にそれでも混雑が解消しないなら、「1日券」利用者専用の臨時便を出して、そちらに旅行者を誘導するなどさらに対策が必要になろう。
東日本では何といっても鎌倉の混雑が激しい。カフェなどが立ち並ぶ小町通りには平日でも人波が押し寄せているし、何よりも問題なのは海沿いを走るローカル鉄道江ノ電が慢性的な混雑となり、地元住民の乗車が難しくなっている。こちらも、旅行者が安く乗れるバスなどを拡充して、交通機関利用の分散を図るしかないだろう。
混雑ということでは、空港の状況も異常だ。まず日本への入国に関しては、日本国籍者の場合は自動化ゲートが使えるので特に問題はないようだが、外国人については慢性的に混雑している。羽田でも、関空でも1時間待ちという場合があり、行動予定を決める際には見込んでおいた方が良さそうだ。さらに厳しいのが出国時の保安検査であり、これは外国人も日本人も一緒である。特に羽田の国際線出発(第3ターミナル)は慢性的に混んでおり、朝6時頃から列が伸び始めて日中は最悪1時間待ちだという。コロナ禍の期間中に離職した保安検査官の採用が間に合っていないのが理由という。
空港や観光地における、異常なまでの混雑については、政府が中心となって一刻も早い改善を進めていただきたいものだ。このままでは観光立国という政策が破綻する恐れを感じる。
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