原油価格や中国経済に翻弄される日本の円安策
有名な「アベノミクス」がスタートしたのは、2012年の1月。日銀の黒田総裁は、簡単に言えば日本円の流通量を増やすことで、円の価値を「他の国の通貨」に対して下げる、つまり「円安」を実現することに成功した。
実際に「円=ドル」の交換レートは1ドルが79円(11年11月)から、121円(16年1月)まで大きく下がった。もちろん、その結果としてアメリカに暮らす我々にも大きな影響が起きている。また、外国から日本への旅行者が空前の数となったが、逆に日本からアメリカへの旅行者は減っている。
この間に、国際市場では何度も円高の兆候があったが、そのたびに黒田総裁は「黒田バズーカ」と言われる「流動性供給」を実施して円安に戻している。その結果として、日本の株式市場では、9000円台であった日経平均株価が、15年4月には2万円を越え、その後も15000円以上の水準はキープしてきた。
では、16年もこのトレンドは続くのだろうか?16年の世界経済は波乱の様相で始まっている。まず、早々から原油価格はどんどん下落している。これに対して、サウジアラビアはイランとの対立を深めたり国営石油会社の上場を目指すなど自己主張を強めているが、その一方で原油はさらに下がってきている。もう一つの要因は中国だ。中国の経済成長におけるスローダウンが年明けとともにハッキリして来ている。その影響がハイテク株などアメリカの株式市場の足を引っ張ったり、さらなる原油安を引き起こすなど世界経済を揺さぶっている。
こうした傾向を受けて、せっかく実現した円安がキープできなくなり、1月の半ばには円高となった。これに対して、黒田総裁は「マイナス金利」という珍しい政策を発動している。これは市中の銀行が日銀にお金を預けていると、金利が付くのではなく、反対に手数料を取られるというもので、とにかく社会の中でお金をグルグル回そうというものだ。一種の金融緩和であり、発表を受けて円は1ドル121円台まで下がった。だが、その円安は一瞬で終わり、その後は改めて円高圧力に翻弄されるなど、日本経済は16年も波乱含みのスタートとなっている。
波乱含みの今年の世界経済 日本のダメージは少なめ?
では、このまま日本は深刻な不況に陥るのだろうか?私はそこまで悲観する必要はないと考える。まず、現在の円高の原因だが、日本が貿易黒字を貯めこんで円が高く評価されるというような20世紀末の円高とは要因が違う。現在進行しているのは、円高ではなくドル安であり、人民元安なのだ。世界経済が動揺しているので、日本経済は比較的安定しているように見えている。つまり世界経済と円の相場にはシーソーゲームのような関係があり、そのために原油安が進んだり、米国株が下がったりするとすぐに円高になるのだ。
では、円高になると日本の株価が急落するのはどうしてなのだろうか?一見すると、円高のために輸出産業にしわ寄せが来て日本経済が打撃を受ける、そうした悲観論で株が下がっているような印象を受ける。
だが、現在ではその要素は少ない。日本の大規模な企業は、ほとんどが国際化しており、製造も販売も海外に移ってしまっている。海外で日本企業が利益を稼ぐ時代なのだ。その稼いだ利益は円安になると、「円ベースでは大きく」なるので、円建ての日本の株価は高くなる。円高になるとその反対というわけだ。例えばトヨタやソニーのような企業は、海外で稼いでいるだけでなく、その株もニューヨークに上場されていて、そこで株価が決まる。ということは、ドルで見て株価が安定していても、円が2%上がれば東京での株価は2%下がる、それだけのことだ。
16年、世界経済は波乱含みだが、日本経済は比較的ダメージは少なく推移するのではないだろうか。とにかく、その間に産業構造の改革を日本は急がなくてはならない。
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(2016年3月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2016年3月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。