少子化、内向き、不景気海外留学に立ちはだかる壁
日本からアメリカへの留学生が減っている。長年にわたって、日本からアメリカへの留学を支援してきたフルブライト・ジャパン(日米教育委員会)のデータによれば、2014年の留学生数は1万9064人に留まっている。これは、ピークだった1997年の4万7073人と比較すると40.5%に過ぎない。つまり、20年弱で半減どころか6割になっているのだ。この間の日本では少子化が進行しており、大学生の数が減っているということはあるだろう。だが、それにしても40%になってしまったというのは衝撃的だ。
その背景にあるのは、日本の「内向き志向」だろう。例えば、14年のデータによれば、日本のパスポート保有率はG7の先進国中最低で24%であるという。ここアメリカもかなりの「内向き」国家だが、それでも国務省によれば46%が保有している。また、ヨーロッパに行くと軒並み50%を越えており、英国では70%以上になる。これに対して、24%というのは低過ぎる。日本の場合、特に若者の保有率が15%前後と低迷しているのが特徴で、これでは、留学生が減るわけだ。
そうした「内向き志向」の理由としては、何といっても経済力の低下というのが大きい。現在は、日本の大学を卒業する際に「奨学金という借金」を背負う若者が増えており、就職しても収入が十分でないために返済が困難というのが社会問題になっている。その背景には親の仕送りが細っているという問題があり、現在では、平均の仕送り額は8万円程度だという。これでは、留学どころではない。
もう一つ、カルチャーとしての「内向き志向」を指摘する声もある。いつまでも改革の進まない英語教育のせいで語学力が身に付かない、テロや銃撃事件が怖いので自分も家族も留学に消極的、さらには日本の食事が世界一なので「飯のマズい海外はイヤ」という声も大きくなっている。
日本の若者のため今からできる対策は?
社会の風潮や経済力の問題について考え出すと、簡単な対策はないということになってしまうが、一方で具体的に制度を工夫すれば改善できるという種類の問題もある。
一つは単位交換制度だ。大学に4年間行く中で、途中の半年とか1年は姉妹校に留学して単位を取るというのは、世界的に普及している。交換留学制度であれば、日本からの留学生の場合は日本の学費を払うだけでいいのだから、経済的にも負担は楽なはずだ。
だが、日本の場合は、一部の大学を除くとこの単位交換制度が積極的に利用されていない。例えば、文部科学省は財界をスポンサーにして、「トビタテ留学ジャパン」という112億円をかけた留学支援を行っているが、この制度では「単位は取ってこなくていい」ことになっているのである。その背景には「気軽に行ってほしい」ということだけでなく、在籍大学に「海外の提携校と単位を交換する」ための事務を担当する人材がいないという単純な理由が大きいという。この点は、即刻改善が求められる。
留学生が減少する一方で、日本から「東大や京大ではなく、アイビーリーグなどの名門を狙う」という受験生は少しずつ増えている。この場合、「英語の内申書や推薦状を用意できる高校」が限られるという問題があるようだ。首都圏でも、事実上数校しか対応ができていないという声もある。
もう一つは、就職活動のスケジュールの問題だ。現在の日本では、制度としての就職説明会が「大学3年生の終わる3月から」ということになっている。また、その前の時点でも、3年生の6月頃から「インターンの申し込み」や「企業研究・自己分析」といった日本独特の「就活」日程が始まる。ということは、3年生以降は短期留学をしていたら、就活に影響が出てしまう。
社会・経済のグローバル化が加速する中で、日本の若者が取り残されていかないように、海外への留学生を増やすことは急務だ。とにかく制度面など、できることから対策を急いでほしい。
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(2016年9月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2016年9月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。