(2024年8月号掲載)
激増する観光客
どう受け入れ、輸送するのか
海外から日本を訪れる観光客(インバウンド観光客)が急増している。2019年には年間の総数が3188万人まで拡大した後は、コロナ禍のためにいったんは「事実上ゼロ」となった。ところが、コロナ禍後になると一気に回復し、23年は年間で2500万人を超えた。さらに24年に入ると、2月以降は過去最高であった19年の数字を上回るペースとなってきており、再び3000万人超えとなる勢いだ。
日本政府は、この数字をさらに拡大する計画だ。19年に当時の安倍総理は訪日4000万人を目標とするとしていたが、現在の岸田総理はさらにこの数字を上方修正して、30年までに訪日6000万人を目指すとしている。人数だけでなく、インバウンド観光客による経済効果の拡大も狙っている。現時点ですでに年間7兆円という水準にきている経済効果を15兆円に拡大するというのが政府目標だ。
空前の円安、そして変わらない世界中における日本文化のブームなどを追い風にすれば、この目標は達成できるかもしれない。ところが、そこには一つ大きな問題がある。それは空の玄関をどう広げるかという問題だ。現在、羽田、成田、関西の各国際空港は発着枠がほぼ満杯となっている。世界中の航空会社からは増便の要請が来ているが、このままでは難しい。
まず羽田については、沖合に拡張しただけでなく都心上空から進入するコースの設定を行っている。さらには国際線の一部については、第3ターミナルだけでなく、全日空の一部の便は第2ターミナル発着に回している。そのような対策の結果、何とか国際線の便数拡大に対応している。羽田の場合に問題になるのは、空港アクセスの交通手段だ。現在は、浜松町へ行く東京モノレールと、品川および横浜方面へ直通する京浜急行があるが、輸送力は限界に近づいている。その一方で、慢性的な運転手不足の中でタクシーやバスには全く期待できない。
そこで現在進められているのが、羽田空港アクセス線という新しい鉄道路線だ。これはJR東日本が進めているもので、羽田空港の下に新駅を建設、そこから一部は既存の貨物線を利用するなどして田町駅に至るものだ。田町駅からは上野東京ラインに乗り入れることが想定されており、羽田空港から東京駅までを18分で結ぶ。さらに東京以遠へ直通させ、途中で分かれて京葉線方面へ直通するルートや、りんかい線を経由して新宿方面に直通させる計画もある。
成田、関空でも進む
大規模な改良
今は、羽田に国際線の便数を奪われた格好だが、今後の便数拡大のカギを握るのは成田空港だと言われている。その成田では、大規模な改良工事の計画がある。まず、現在の2本に加えて3本目の滑走路を建設、加えて現在の三つのターミナルを巨大な一つのターミナルに集約するというものだ。併せて、JRと京成の鉄道についても、現在はそれぞれ空港に乗り入れる区間が単線で輸送力に限界があるが、これを複線化して本数を増やす計画もある。完成したら、1本化されたターミナルの真下にJRと京成の大きな新駅ができることになる。
アクセス鉄道ということでは、関空にも大きな変化がある。現在はJR西日本の「はるか」と南海の「ラピート」が空港に乗り入れているが、大阪(梅田)や新大阪からは時間がかかり利便性が薄い。そこで、この両社が提携し、大阪府、大阪市も協力することで、大阪を南北に貫く「なにわ筋」の下に新線が建設中だ。完成すると、大阪駅から関空が30分で結ばれることとなる。計画には阪急も参加しており、十三(じゅうそう)や新大阪から、この「なにわ筋線」に直通する予定だ。
日程については、羽田と関空の新線がいずれも31年度開業予定であり、成田の第3滑走路は29年に稼働、ターミナル集約はその後段階的に進められる。インバウンド6000万構想を実現するために、日本の空の玄関も大きく様変わりしていくことになるだろう。
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