大統領選にも影響? アメリカの根強い反マスク
新型コロナウィルスの感染が拡大する中で、マスク着用の社会的ルールをどうしたらいいか、日本でもアメリカでも論争が続いている。まず、アメリカでは、マスク着用推進派と反対派が分裂し、しかも大統領とその周辺まで巻き込んだ形で政治論争となっている。
論争の構図は比較的単純だ。アメリカの場合、コロナ危機以前には、医療従事者が院内感染を防止するためと、感染症の患者が他人に伝染させないために着用するケース以外では、マスクの着用は普及していなかった。2009年の新型インフルエンザ感染拡大の際にも、同じであった。
今回のコロナ危機でも、当初は予防目的での着用はアメリカでは広がらなかった。例えば2月から3月にかけて、アジア系市民が予防目的で着用していたところ、感染を持ち込んでいると勘違いされて暴言や暴力のターゲットにされたことがあった。これは人種差別であると同時に、マスクに関する認識不足が起こした犯罪と言える。
だが、新型コロナウイルスに関しては、無症状者による無自覚な感染拡大が起きるという専門家の見解を受けて、WHO、そしてCDCはガイドラインを変更した。感染抑制に重要な意味を持つとして、ホワイトハウスの専門家チームもマスク着用を推奨し始め、4月から5月にかけて感染が深刻であった地域を中心に公共の場所での着用が義務付けられた。
問題は、これに従わないグループがあるということだ。マスクは病人と医者のものという古い常識にとらわれている人も多いが、何と言っても「他人から命令されたくない」という自己中心的なカルチャーがマスク嫌いを生み出している。さらにマスクをしていると悪漢と間違えられるという西部劇的な思い込み、自分だけは感染しないか、しても重症化しないという根拠のない自信もそこにはある。
困ったことに、この「反マスク」は「反ロックダウン」という運動と結びついて、トランプ大統領の選挙運動と協調し始めている。5月から6月にかけて、反マスク、反ロックダウンが政治的な運動となって、感染拡大への警戒感が緩んだことで、南部や中西部では感染爆発が起きてしまったという見方もあるが、下手をするとマスク問題が11月の大統領選の結果を左右しかねない状況でもある。
猛暑でもマスクを外せない日本のマスク警察の存在
一方で、日本におけるマスク論争は全く違う。日本では、マスク着用が徹底しており、これに反対する声はない。問題は、その徹底の度合いである。
日本では猛暑の季節となっており、マスクによる熱中症の危険も指摘されている。だが、どんなに暑くても、町中でマスクを外すことは難しいという。そこには「マスク警察」と呼ばれる人の存在がある。つまりマスクを着用していない人がいると、暴言を浴びせたり、警察などに通報してしまったりする人が一定数いるからだ。
日本では6月から小中学校などの登校が始まっている。例えば戸外での体育活動などに関しては、熱中症を警戒して社会的距離を取ってマスクを外すことを文部科学省が推奨している。だが、実際はマスクを外すことは難しいという。子どもがマスクをしていない状態を目撃されると、マスク警察によって警察や教育委員会に通報されてしまい、関係者全員が疲弊するからだ。
アメリカ保守派のマスク嫌いにしても、日本のマスク警察も明らかに行き過ぎだ。そして、アメリカの場合は個人主義の悪い側面が、日本の場合は集団主義的な同調圧力の悪い面が暴走しているとも言える。だが、コロナ危機へのリアクションとして、日米双方の社会で静かなパニックが進行していると考えれば、どちらも放置することはできない。感染症の専門家に加えて、社会心理学の専門家などの知恵を借りながら効果のあるメッセージ発信を行うことが必要ではないだろうか。このままでは、人々が非合理的な行動に傾いて感染拡大を助長したり、経済を傷付けたりしかねないからだ。
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(2020年8月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2020年8月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。