「プリクリアランス」対象でどのようなメリットがある?
カナダや、カリブ海諸国などへ旅行してアメリカに戻る際に「プリクリアランス(事前入国審査)」を経験した方は多いと思う。例えば、トロント国際空港の場合では、米国行きの乗客については搭乗する前に、米国の入国審査と税関検査がある。5月末に米国国務省は、この「プリクリアランス」の対象空港を拡大することを発表した。
理由は簡単で、米国に入国する海外からの観光客が激増している中で、多くの国際空港での入国審査が長蛇の列となっているためだ。例えば、ロサンゼルス国際空港(LAX)のブラッドリー国際線ターミナルでは、巨額の予算を投入して入国審査場を新装したが、これは審査を厳格にするためでも、米国入国の第一印象を改善するためでもない。ブースの数を増やし、同時に「待ち行列の空間」を確保するための改築だったと思われる。
国務省は、このような米国内での対応には限界があるとして、米国乗り入れ便を多く飛ばしている世界9カ国の空港について「プリクリアランス」の拡大交渉をスタートさせたのである。その中には、英国のロンドン・ヒースロー空港などに加えて、日本の成田空港も入っているのだ。
現時点では、日本との交渉はまとまっていないので、成田での「プリクリアランス」が行われることは決定ではない。だが、仮に実現すれば、大きな影響があるだろう。
まず、メリットとして考えられるのは、成田発の米国便がアメリカに着いた際には「国内線」扱いになるということだ。LAXの場合で言えば、ユナイテッド(UA)の成田発の便は、ターミナル7・8に国内線扱いで着いて、ゲートを出れば国内線にそのまま乗り継げる。ANA便もブラッドリーではなく、アライアンスの関係でターミナル7・8にUA便と同じように着く。シカゴ・オヘア国際空港など国際線ターミナルが離れている空港の場合でも、成田便は国内線ターミナルに着くから便利になる。そのほか、ハワイのホノルル国際空港では、成田便を降りるとそのままハワイ諸島の各島への便に乗り継げるだろう。さらに言えば、これまで日本からの直行便を出せなかった空港にも、成田からの乗り入れが可能になるかもしれない。
とにかく、長いフライトの後に延々と入国審査に並んだり、税関検査を受けたりすることがなくなるのは、旅行者には歓迎されるだろう。セキュリティーの面から言えば、テロ容疑者はもちろん、機内での暴力事件など問題のある人物については、搭乗前にアメリカ政府の責任でシャットアウトできることになる。
北米への観光客が減るデメリットも予想される
だが、この「プリクリアランス」、良いことばかりではない。
まず、旅行者としては今よりも早く空港に着いていないといけなくなる。過去の導入事例では、従来の出国手続きだけのパターンより45分早く行かないといけないようだ。また、東京の国際線に関しては羽田へのシフトが進んでいたが、この「プリクリアランス」の関係で、北米線は成田中心という体制が維持されていく可能性があるし、その場合は、「他の国に羽田から」行く場合より、成田は30分遠くにあり、さらに「プリクリアランス」で45分余計にかかるとなれば、観光客などの「米国離れ」を招く危険もある。
また、成田というのは米系、特にユナイテッドとデルタにとっては「アジアのハブ空港」という位置付けで、日本を通過する乗り継ぎ客の比率が高くなっている。こうした乗り継ぎ客の「プリクリアランス」に手間取った場合に、彼らを「置いていく」ことはできないために、フライトの遅延といった問題も出てくる。この現象は、既にトロントなどでは現実のものとなっている。
最大の問題は、成田の施設を改造する必要があることだ。「アメリカ便のゲート」は「プリクリアランス済乗客」専用として隔離することになるからだ。いずれにしても、日本との交渉がどうなるか、進展を見守りたい。
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(2015年9月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2015年9月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。