日本でも高まる米大統領選への関心

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

オバマ登場より話題になるドナルド・トランプの躍進

トランプ

日米関係の重要性を考えると、アメリカの大統領選が日本で大きな関心を呼ぶのは当然と言える。例えば、2008年にオバマ大統領対ヒラリー・クリントン氏の予備選が盛り上がり、さらに黒人初の大統領としてオバマ氏が当選した際には、日本でも多くの関心を集めることとなった。
 
今回の大統領選は、その「オバマ登場」の08年以上に、日本では話題になっている。なぜだろうか?
 
まず、共和党の予備選だが、何と言ってもドナルド・トランプ候補の躍進に注目が集まっている。最初は、「政治的正しさ」を無視して「暴言」を繰り返すトランプ候補に対する、驚きと好奇の視線があっただけだが、今は違う。トランプ候補が再三にわたって日米関係について言及していることから、日本では警戒感が強まっているのだ。
 
ここ数年、日本についてアメリカ政界で話題になることは少なくなった。日米関係が安定していることもあるし、良くも悪くもアメリカ経済における日本との摩擦が減っていることもある。その日本について、トランプ候補はテレビ討論のたびに話題にしており、その度に日本では大きく取り上げられている。
 
トランプ氏の「日本批判」は2つある。1つは、中国と並んで日本が「アメリカから雇用を奪っている」という批判だ。トランプ氏は、自分が大統領になったら「得意の交渉力で、日本から雇用を取り戻すし、貿易赤字も削減する」と何度も口にしている。「私を信じなさい。貿易赤字をスパっと斬って見せる」というのだ。
 
だが、この主張については、それほど心配する必要はない。北米市場に大きなシェアを持っている日本企業は、そのほとんどが「現地生産」を進めている。以前は、貿易摩擦を回避するためや、為替変動を嫌ってのことだったが、現在は北米市場に最適な商品開発やマーケティングを行うことも含めて「現地化」を徹底している産業が多い。ということは、日本経済がアメリカの雇用を奪っているというトランプ氏の指摘は、全くの時代錯誤と言える。トランプ氏の全身にまとわり付いている「80年代から90年代の匂い」の一つであり、現在の日本にとっては怒るほどのことでもない。

日本が警戒するトランプの防衛費負担案

これに対して2つ目は、かなり気になる問題だ。トランプ氏は、在日米軍に関して、そのコストを大幅に日本に負担させると言っている。正確に言えば、日本だけでなく、韓国、サウジアラビア、ドイツなどは、アメリカが基地を設けて「守ってやっている」のだから、その費用をもっと負担すべきとしているのだ。対抗馬の政治家たちは、日本も韓国も防衛費の負担金を払っていると反論をしてくれているが、トランプ氏は全く現状を知らないわけではなく、その上で「もっと払え」と言っているのだ。
 
これは深刻な問題だ。アメリカの国家債務は依然として危機的な状況であり、その中で、トランプ氏は大減税を行いつつ、共和党政治家には珍しく「福祉はそんなに切らない」という政策を掲げている。そこで財源の一つとして、海外での軍事費負担を削減してパートナーに払わせる策は、支持者の共感を得やすい。背景にあるのは、歴史上何度も繰り返されてきた「アメリカの孤立主義」である。日本として警戒をするのは当然だろう。万が一トランプ氏が大統領になって、こうした要求を日本に突き付けるようであれば、日本国内は「米軍基地反対派」や「自主防衛派」が入り乱れて混乱することは必至だからだ。
 
一方の民主党は、予備選の序盤でのバーニー・サンダース候補の善戦に関して、日本では高い関心が寄せられた。格差の是正をというメッセージは、現在の日本社会にもアピールすることがあるし、欧州のリベラリズムなどとも似た世界的なトレンドに合致しているからだろう。いずれにしても、11月の投票日まで、日本では高い関心が続くものと思われる。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

(2016年4月1日号掲載)

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2016年4月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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