株、円、ゴールドで起きた日本特有の現象
11月8日の大統領選でドナルド・トランプ氏が当選した。予想外の結果に日本は大きく揺れている。
まず、株価が暴落した。偶然、トランプ氏の当選が確実になった時間帯に、東京市場がオープンしていたということもあるが、東京株式市場で日経平均株価は大幅に下落して、その日の終値は前日と比較して、919円84銭安、これは率で言うとマイナス5.36%という、まさに暴落となった。今後何が起きるか分からないということで、株を売って現金に変える動きが激しくなり、全体の90%の銘柄が株価を下げるという異常事態となっている。
また、円も大きく揺れた。1ドル104円ぐらいであったのが、トランプ氏が優勢となると101円にまで「円高」になる局面もあったし、ゴールドも買われた。これは「有事」だから株や通貨でなく、資産を安全なゴールドに替えておこうという動きだ。
確かに事前の予想として、世界では「トランプショック」が起きて株が下がるかもしれないということは言われていた。だが、ここまでパニックになるということは予想されていなかったわけで、日本市場の動揺の激しさを物語っている。
実は時差の関係で、日本の後で市場がオープンした欧州市場では、1%前後の下げと冷静であったし、トランプ当選から一夜明けたニューヨーク市場では株が反対に上がったことを考えると、日本の動きは際立って見える。
欧州やアメリカで株が下がらなかったのは、トランプ氏の勝利演説が選挙戦のときとは全く違う、落ち着いた立派なものだったからだが、アメリカで株が上がると、翌日10日の日本市場では前日の下げを取り戻す以上の、1000円を越える株高になったり、もうこうなると「トランプショック」に引きずり回されているという感じだ。
情報の少なさがもたらすトランプ像の独り歩き
日本社会が動揺している背景には、情報の圧倒的な少なさということがある。私も含めて、ヒラリー当選を信じて疑わなかった人間が多く、トランプ氏に関する多角的な情報発信ができていなかったという反省もしなくてはならないが、とにかく、「暴言」とか「人種差別」というイメージだけが独り歩きしており、全く情報が伝わっていない。
私はこの大統領選挙の際に日本に滞在しており、テレビや新聞などからさまざまな電話がかかってきてトランプという人について聞かれたのだが、有名な子どもたちについてすら、全く知られていないのには驚いた。5人のお子さんがいて、最初の奥さんとの間に3人、2番めの奥さんとは1人、現夫人との間には1人というような基本的なことも知られていなかったし、勝利演説の際にトランプ氏の右側にいた三男のバロン君については、「お孫さん?」などと言われたりもした。
日本の政界も動揺していた。安倍政権はTPPの批准を進めているが、野党は「本家のアメリカがもう入らないのだから」として反対を強めている。そもそも、交渉開始を決めたのが最大党の民進党の蓮舫党首に近い野田毅氏が首相だった時だったなどということはすっかり忘れて、「アメリカが離脱するのだから反対」という騒ぎになっている。仮にアメリカが入らなくても、カナダやアジア諸国など太平洋を囲む諸国で自由貿易圏をスタートさせることには、大きな意味があるのに、そのことは顧みられていないようだ。
一番の動揺は、安全保障問題だろう。トランプ氏は「在日米軍の費用を全額日本に負担させる」として「仮に払ってもらえないのなら、アメリカ軍は撤退する」という主張をしていたのは、事実だ。だが、「イスラム教徒の入国禁止」とか「国境の壁」というアイデアが、あくまで選挙戦を盛り上げる「例え話の仕掛け」であったのと同様に、在日米軍の話も「本当にアメリカのためになっているか考える」という以上でも以下でもないわけで、今後、落ち着くところに落ち着くと考えるのが妥当だろう。とにかく、日本では驚くほどのショック状態が続いている。
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(2016年12月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2016年12月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。