(2023年2月1日号掲載)
在米邦人は42万人弱増え続ける在外邦人
日本人として海外に暮らす人は年々増加している。外務省の統計によれば、2022年の総数は130万人で、滞在先の1位はもちろんアメリカであり、その数は42万人弱であるという。都道府県と比較すると人口が最少の鳥取県が55万人だが、在米邦人は今後増加が見込めるので逆転は時間の問題だろう。全世界合わせての130万人という人口は、長崎県に次いでおり、都道府県ランキングでは31位に入る。
在外邦人の多くは、勝手に日本を捨てて放浪しているのではない。日系企業で日本経済に貢献したり、在外の教育機関との共同研究を行って成果を日本に持ち帰るなど直接日本の国益に寄与している例は多い。留学生も学問の成果を日本に持ち帰ることで将来は日本社会に貢献する存在だし、自営業者や米企業勤務者として、または文化活動のボランティアなど、さまざまな形で日本に関わる人は多い。
だが、こうした在外邦人にとって、日本との関係を維持するための制度は十分に整備されていない。今回は3点ほど、具体的な提言をしてみたい。
まず銀行口座の問題がある。海外に暮らしながら日本での銀行口座を必要とする人は意外に多い。自営業として日本での売上が日本口座に入金される人、日本支払いの給与のある人、日本に不動産を維持しており定期的に賃料を受け取ったり公共料金を支払ったりする場合、相続の際などに日本での口座が必要となる場合など、いずれも口座がなくては困るケースである。だが、在外邦人が「非居住者」のままで日本で銀行口座を開くのは難しい。企業からの派遣ではなく、個人の資格では口座開設を認めない銀行もあるという。その一方で、日本に暮らしていた時期に開いた口座について、近年は「非居住者」と判明すると閉鎖を迫られたという話も聞く。
理由は意外なところにある。1990年代から犯罪組織やテロ集団などが、マネーロンダリング(資金洗浄)を行うことが世界的に問題になっている。特にアメリカが神経をとがらせる中で日本の金融庁は各金融機関に対して、非常に厳しい規制を行うようになった。その結果として、海外送金には詳しい目的などを申告させるようになったし、在外の「非居住者」に対しては日本での口座開設を渋るようになっている。しかし、130万という在外邦人の生活の利便性を犠牲にして、資金洗浄を防止するための「やってます感」を維持するというのは、全くもってバランスを欠く話だ。制度的な見直しを強くお願いしたい。
クレカとマイナンバー在外邦人はどうなる?
日本決済のクレジットカードも同様に「非居住者」には冷たい。日本での通販の購入をはじめ、消費活動を円建て決済するには、日本のクレカが必要だ。だが、維持するためには日本国内の郵送先が必要で、配達できないとカードが無効になる。こちらは銀行口座とは違う理由のようだ。アメリカを後追いするかたちで、近年は日本における信用履歴データベースが整備されるようになった。非居住者の場合はその履歴がないか古いデータしかないわけで、カード発行業者としては「信用がない」という扱いになるらしい。こちらも、米国の信用履歴との連携などで不便のないような扱いを望みたい。
信用履歴ということでは、日本政府は「マイナンバー(マイナ)カード」の普及に躍起になっている。岸田総理はアンドロイドに加えてiPhoneでも、マイナカードの機能を搭載して普及を拡大したいとして、自らアップルと交渉しているぐらいだ。マイナカードがあれば、本人確認という意味で広く活用が可能であり、今後は免許証、保険証、年金手帳などを兼ね備えた機能を持つという。ところが、このマイナンバーは、現時点では「日本に住民票のある人」しか対象となっていない。従って、マイナンバーを獲得する前に出国した在外邦人には番号がないし、番号を獲得する手段もない。外務省は既に総務省との検討を開始しているようだが、早期の運用開始を希望したい。
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