(2022年2月1日号掲載)
価格上昇の進むアメリカのラーメン
内外価格差という言葉がある。例えば、20世紀末の日本では、輸入品の値段が高いことを批判する時に使われていた。だが、現在の状況は違う。多くのジャンルにおいて日本国内の価格が海外における価格より安くなっている。円安がこれに重なっており、コロナ禍の前までは外国人観光客の訪日理由の一つとなっていた。
日米間でも、同様の現象が見られる。良い例はラーメンだ。専門店で食べる場合に日本だと一杯800円前後のラーメンが、アメリカでは倍かそれ以上となっている。日本人・日系人の多い地域だと一杯15ドル前後に税とチップが加わって20ドル弱というのが相場だが、東海岸の大都市の場合は一杯が20ドル前後、これに税とチップが加わるだけでなく、多くの客が前菜や主菜、あるいはアルコール飲料などを注文するので客単価が50ドルという「ラーメン店」も珍しくない。
ラーメンの価格差の問題は、インスタント麺にも及んでいる。カップ式になると、学生寮で人気のアメリカ仕様のカップ麺が極端に安いなど話が複雑になるので、袋麺について考えてみたい。ちなみに、袋麺の場合でも昔ながらの油揚げ麺の価格は安定している。問題は高級な袋麺で、こちらには二つの種類がある。一つは「棒麺」といって、ストレートな乾麺に液体スープの付いているタイプで、多くのものが1パック2食、日本製が多い。もう一つは「ノンフライ麺」で、大手食品メーカーが新しい熱風乾燥技術で製造しているもので、四角い袋に液体スープなどが付いている。
こうした高級袋麺の場合は、以前は1食1ドル程度であったのが、現在は通販市場などで1食3ドルという水準になってきた。ラーメンの提供価格や現地生産品の価格については、アメリカのあらゆる物価と同じく、原材料や光熱費の高騰、そして人件費の高騰が背景にはある。アメリカの大都市圏では、10ドル以下でランチを食べるのは難しくなっているが、そうしたインフレの波はラーメンにも及んでいるのだ。
モール、ミールキット アメリカで定番の食事に
これに加えて、アメリカでかなり本格的なラーメンブームが起きているという要因もある。例えば東海岸の場合には、従来は大都市の繁華街だけだったラーメン店が郊外のショッピングモールでも見られるようになっている。日本人や日系人のコミュニティーでないエリアでもそうだ。食材をパッケージにして定期的に送ってくるミールキットでも、ラーメンは人気メニューになっている。そして、このラーメンブームはパンデミック期間の間にも、ジワジワと広がりを見せていると言っていいだろう。加熱気味と言っていい人気が、価格を押し上げているのである。
反対に、日本ではデフレ経済で物価が上げられず、その結果として給与も安く抑えられるという負のスパイラルが起きている。中でもラーメンは比較的安い食べ物として人気がある中で、価格は据え置かれているというわけだ。外食の場合も、家庭で作るインタント麺の場合も同様だ。日本の場合は、レンジで温める「コンビニラーメン」も人気で、以前よりは価格帯が上がってきているが、それでもたっぷり具材が入っていて500円台と安く、やはりデフレ経済の産物と言えるだろう。2倍から3倍という内外価格差はこうした要素が積み上がった結果だ。
この先、コロナ禍収束の折には世界中から日本に観光客が押し寄せてラーメン店に殺到することが予想される。そこでは外国人向けの高い店と地元向けの安い店が一旦は分化していって、最後は後者も値段が吊り上がっていくかもしれない。ラーメンでデフレ脱却ができればいいが、他の経済がデフレのままでラーメンだけ値上がりするのでは日本社会は明るくならない。
以前は日本の食文化をどんどん売り込んで世界に輸出するのは良いことだとされていたが、価格差がここまで来ると、戦略を見直した方がいいのではとも思えてくるのだ。
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