日本の「軽減税率」問題、アメリカと比較すると?

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

2019 年消費税引き上げと、併せて導入される軽減税率

日本の消費税率は現在8%だが、法律によれば2019年10月から10%にアップすることが既に決まっている。施行が1年後に迫る中で、現在の日本では「軽減税率」の問題が浮上している。現行の制度では、何もかもが一律8%なのだが、10%にするのと同時に、一部の品目は税率を軽減しようというのである。

この軽減税率問題だが、政府には切羽詰まった事情がある。というのは、14年4月に従来の5%を8%に上げた際には、直前に駆け込み需要が起き、税率アップ後は深刻な消費の落ち込みが発生して景気が悪化した。本来であれば10%へのアップは15年10月の予定だったのが、2回も先送りされた結果、今回の19年10月となった。つまり当初予定から考えると4年遅れとなっている。政府としてはこれ以上の先延ばしは避けたい。さらに困った問題としては、税率アップの3カ月前にあたる19年7月に参議院議員選挙が予定されている。ここで野党が税率アップ反対を叫んで議席を伸ばしてしまうと、10%への移行が難しくなる。というわけで、政府には二重三重のプレッシャーがかかることになった。

そこで、税率アップのショックを緩和して、イメージダウンを避けるための方法として、軽減税率の導入が決定されたのだった。対象項目は2点で「外食と酒類を除く飲食料品」と「週2回以上発行される新聞」である。この2点は、19年10月以降も消費税は8%のままに据え置かれる。

どうして新聞が入っているのかというと、消費税率アップ反対の記事を書かれるのを防止するため、というのはうがった見方に過ぎるようで、部数が低迷し経営基盤が脆弱になっている新聞業界への救済策のようだ。

「食品」と「外食」その複雑怪奇な区分け

問題は食品である。「外食」はダメで「食品」は良いというのだが、国税庁が発表している基準が議論を呼んでいる。というのは、外食か食品販売かという区別は「モノ」ではなく、「提供方法」によって区分けするという考え方を取っているからだ。

例えば、デリバリーやファストフードのドライブスルーは、提供している商品は調理済みであっても、店が食べる場所を提供していないので、食品となる。つまり税率8%のままなのだ。コンビニの弁当も同様である。

問題はそのコンビニで、最近は店内にイートイン・コーナーと言って、買った弁当などを食べるスペースを設けるのが流行している。その扱いだが、お客に聞いて「持ち帰る」と答えたら税率は8%、「店内で食べる」と答えたら10%となるらしい。

国税庁のガイドラインでは、Q&A形式で細かな事例が紹介されているのだが、これが余計に混乱を呼んでいる。例えば、ラーメンの屋台の場合、ラーメン屋が椅子を提供すると外食扱いで10%、ところが椅子がなくて、客が購入したラーメンを公園のベンチで食べる場合は8%で良いのだという。新幹線の車内販売の弁当は、買ってそのまま持ち帰らずに車内で食べるが、この場合は新幹線の椅子は本来が飲食用でないので、「食品を売っているだけ」となり8%となる。一方フードコートの場合は、椅子を用意しているのは店ではないが、その椅子は買って食べる目的で設置されているので外食扱いだそうだ。

ケータリングの場合、最後の調理をお客の前で行うと外食になるが、できあがった味噌汁を、弁当を配るついでに「取り分ける」のは外食にならず消費税は8%で良いという具合で、あまりに複雑で頭がクラクラしてくる。

こうなると、この軽減税率は消費税や景気といった問題だけでなく、日本によくある「細か過ぎるルール」文化の、それもかなりタチの悪い事例になってしまうかもしれない。今からでも遅くないので、アメリカの多くの州のように「調理済みなら課税」「材料なら非課税(軽減税率)」というように「モノ」で区別したら良いと思うのだが、どうだろうか?

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

(2018年12月1日号掲載)

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2018年12月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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