(2022年9月1日号掲載)
コロナ、円安、食、治安戻らない観光客
日本での訪日観光客受け入れが進んでいない。6月の解禁以来の人数はまだ数千人単位に留まっている。これはアメリカを含む多くの国でビザを要求しているからで、ビザなし渡航が再開されれば、自然に回復するであろう。
一方で、日本からアメリカへの人の流れをどうやって呼び戻すのか?これは難しいテーマだ。現在は、仮に渡航中に新型コロナウイルスで陽性になると、自分の国への帰国が拒否されるというリスクがあり、ハワイを除くと事実上は日本からアメリカへの一時滞在目的での渡航は極めて少数となっている。JTB総研のデータによれば、2022年5月の1カ月にアメリカへ向けて出国した日本人は3万1498人だったという。要するに1日約1000人ということであり、その多くは米国在住者で日本に一時帰国した人の帰米だと考えれば、観光目的での入国は極めて少ないと言えるだろう。
問題は、コロナ禍が沈静化したとしても、この傾向が簡単には戻りそうにないことだ。日米間の双方向で人の交流が活発に行われることが、何よりも日米関係の安定、そして日米相互の繁栄に有効なことは、歴史を振り返れば明らかである。その人の流れを何とかして取り戻すことは重要だ。
まず大前提としては、円安の問題がある。こちらは双方の中央銀行の姿勢が大きく影響するので何とも言えない。ただし、日米の金利差拡大が一服し、米国経済のインフレ退治が進めば更なる円安という事態は避けられる、そのような期待感を持って臨みたい。日本からアメリカへの観光客だが、コロナ禍以前もすでに流れが細っていたのは事実だ。確かに日本人の意見として、アメリカは遠くて時差がある一方で、食事の魅力が乏しいし、治安が心配で言葉の壁があるとして敬遠する声が多くなっていた。こうした点については、アメリカの「B級グルメ」の中には日本人の口に合うものも多いことを紹介するなど、それこそ本誌のような最新のコミュニティー情報を発信してゆくことで、若い層に訴求することは可能だと思う。
日本より早く完全にノーマルに戻ったスポーツやミュージカル、コンサートをはじめ、美術館・博物館、国立公園などにおいて、今でもアメリカは圧倒的な魅力を提供できている。過度の円安が収まれば、必ず日本からの観光客は戻ってくるのではないだろうか。
日本からアメリカへの留学については、静かなブームも見られるが、高度な教育を受けた人材が、やがて日本で活躍して日本のGDP回復に貢献する仕組みを考えてゆきたい。
観光以外の目線でアメリカを見てみる
けれども以上のような流れを積み上げていっても、往年のようなダイナミックな人の行き来には及びそうもない。その背景としては、日本におけるアメリカ関係の情報流通が減ったとか、日本人が内向きになったという説明ができる。現象としてはそうだが、その奥にはSNSやネットの発達により、アメリカの負の側面が伝わったり、反対に欧州やアジアの新しい魅力が発
信される中で、アメリカへの憧れが弱くなったことがあると考えられる。
ならば、これを逆手に取るというのはどうだろう。アメリカ人に「教える」あるいは「助ける」ために、日本人に来てもらうのだ。有償のビジネスと無償のボランティアのどちらでもいい。例えば、本物のラーメンや寿司を提供するためのトレーニング、片付けを柱にしたインテリア・コーディネーションなどのビジネス需要は旺盛にあると思う。高付加価値農業、工芸品などの職人的な工業技術もそうだ。また、水害や地震に対する減災や、災害後の復興援助などには日本のノウハウは参考になるのではないか。衛生管理や清潔な社会習慣などもアメリカでは脆弱で、日本の方法論は有効と思われる。
多くの日本人がボランティアや指導者として来米し、社会貢献をして喜ばれる中で、結果的にアメリカの価値観や習慣の良いところを持ち帰ってくれれば、それは日本の役にも立つと思う。
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