アメリカへの日本の新幹線輸出が難しい理由

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

アメリカで進む高速鉄道網の推進と計画

 

新幹線

2009年に発足したオバマ政権は、景気刺激策と環境対策として、全国に「高速鉄道網」を推進する計画を打ち出した。今回の大統領選でも、民主党のヒラリー・クリントン、そして撤退したバーニー・サンダースの両候補は、同じように高速鉄道の推進を政策として掲げている。
 
そこで、日本のJR各社などは、定評のある日本の「新幹線」を輸出しようと懸命の努力を続けている。だが、今のところ、日本方式での建設が見えてきているのは、テキサス州の「ダラス=ヒューストン間(約400キロ)」の計画だけだ。日本勢はなかなか食い込めていない。
 
そこには3つ理由がある。

日米カルチャーの違いが阻む新幹線の輸出

1つは、日本の車両が柔らかいという問題だ。日本の新幹線は、ATC(自動列車制御装置)などによって、徹底した安全運行がされている。1964年の東海道新幹線開業以来、鉄道側に責任のある形での人身死亡事故はゼロというのは本当であり、とにかく無事故というのが至上命題になっている。
 
そのために、車両については「衝突することが前提」という考え方ではなく、省エネのために徹底した軽量化が施されている。これは欧米の「鉄道というのは衝突するもの」という考え方とは前提が違うことになる。
 
欧米には、カルチャーとしても「鉄道はぶつかるもの」という「常識」がある。例えば、イギリスの子ども向け絵本・アニメ『機関車トーマス』などは、毎回事故を起こしているわけだし、アメリカでも一連の西部劇では、鉄道事故は「お決まり」の題材だ。もっと言えば、鉄道の衝突を題材にしたジャンルというものもあって、『Unstoppable』(2010年)など最近のハリウッド映画でも取り上げられている。実際問題、アムトラックの州間特急などは、毎年数件の割合で深刻な衝突事故を起こしている。
 
そんなアメリカでは、日本の新幹線のような「柔らかい車両」というのは基準に合わないのだ。
 
2つ目は、日本の「専用線」という考え方だ。日本の新幹線が無事故であって、車両が柔らかいのは運行の技術が優れているだけではない。一番の理由は「専用線」という考え方で、フル規格の新幹線の線路には「他の車輌は入ってはいけない」ことになっているからだ。これは法律で決まっており、政府(国土交通省)が厳しく監視している。
 
ところが、アメリカにはこの考え方は全くない。反対に、現在計画が進行している高速鉄道の場合でも、「高速鉄道、貨物列車、郊外通勤列車」が同じ線路を共用しているのである。昔からレール幅が共通化されていたということもあるが、とにかく50年代以降の鉄道が斜陽化する中で、今ある線路を安く有効活用するために「共用する」というのが定着しているのだ。
 
いろいろな種類の列車が同じレールを走るのであれば、衝突の危険を考えて「硬い車両」が必要という発想法になるわけで、そこには日本の思想が入り込む余地は少ない。
 
3つ目は、人間のソフトの部分だ。日本の新幹線は、例えば東海道新幹線などは最速で時速285キロの車両が3分おきに走るという運行密度を誇る中で、時間に正確なことが安全性の一端を担っている。だが、そのような精度の高い運行は、そもそもアメリカのカルチャーにはない。アメリカ人はアドリブで「すごい力」を出すのは得意だが、地味にコツコツと時間に正確な仕事を続けるのは苦手だ。そこに、日本の「3分おき」を持ち込むのは難しい。
 
ではどうしたら良いのだろうか?結局は「トータルパッケージ」としてのビジネス提案をするしかないのだと思われる。専用線で、しかも厳格な定時運行をすることで、軽量化された省エネ車両の持ち味が生きてくる、その考え方を「まるごと」理解してもらうのである。とりあえず、テキサスのケースがこれに近い計画となっているが、ここで成功事例を作ることが大切になってくる。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2016年10月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2016年10月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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