(2022年1月1日号掲載)
ノーベル賞、MLBのMVP日本発、アメリカで活躍
アメリカや世界で活躍する日本人のニュースが増えてきた。2021年は、なんといってもノーベル物理学賞を受賞した気象学者の真鍋淑郎氏(編集部注:1975年から米国籍)が話題になった。直接お話を伺ったところでは、真鍋氏は豪雪、台風、豪雨という日本の気象災害を予測するために、天気予報に数値予報の概念を持ち込みたいというのが若い時の夢であったという。
その発想が、コンピューターの草創期であった当時のアメリカにおけるノイマン博士のグループとの出会いによって、大規模な数値モデルの計算へと結びついた。その結果、大気中の二酸化炭素の増加が地球温暖化をもたすことを証明する業績につながった。日本の風土に根差した発想が、アメリカの研究環境で花開いたのである。
21年の話題といえば、MLBにおける大谷翔平選手の活躍も特筆に値する。二刀流の成功により、アメリカンリーグMVP受賞は予想されていたが、審査員の記者全員が1位に投票し、満票となったのは驚きだった。雇用や作戦に影響を与えかねない二刀流に関しては、賛否両論があっても不思議ではないからだ。だが、圧倒的な結果については賞賛するというアメリカ社会の率直さが、こうした評価につながったと言える。大谷選手の何が新しいのかというと、日本式の練習で基礎を鍛えた上に緻密な練習プログラムを組み立ててプレーの精度を追求する姿勢にある。そこには新しさに加え、野球への取り組み姿勢において日本式と米国式の高い次元での融合が見られる。
アメリカ人の考えに影響を与えた日本人
テニスの世界では、大坂なおみ選手の会見辞退・長期休養が話題になった。21年を振り返ると、大坂選手のメッセージは、東京五輪におけるシモーネ・バイルズ選手に引き継がれた。バイルズ選手が一部の種目で参加を見合わせたことに関して、世論の理解を促したのは大坂選手の発言があったからだ。大坂選手の場合も、日本のカルチャーとアメリカのカルチャーの融合が見られる。自分の精神的な弱さに向き合う姿勢には極めて日本的なものがある一方で、自己主張の姿勢はアメリカ流であり、両者が融合することでアスリートのメンタルヘルスに関する問題提起ができているからだ。
アメリカで話題の日本人では、片づけコンサルタントの近藤麻理恵氏は、Netflixの番組などで相変わらず高い人気を誇っている。近藤氏の場合は、日本流の整理術にアメリカの思考方法を加えて、最近は人間関係や人生への態度に関するメッセージも発信している。そのメッセージは、いかにもアメリカ流のポジティブ・シンキングに見えるが、細かな心遣いには日本的な繊細さを交えることで、ユニークなアドバイスとなっている。ここにも日米のカルチャーの融合が見られる。
融合ということでは、クラシックのピアノ音楽の最高峰、ショパン国際ピアノ・コンクールで2位に入賞した反田恭平氏の場合もそうだ。日本式の練習法で鍛えたテクニックをベースに、ロシアやポーランドで学んだリズムや表現方法を加えて、新鮮な楽曲解釈を提案していることが入賞につながった。今後は、世界を舞台にリサイタルや、オーケストラとの協演など活躍の範囲が広がっていくのは間違いない。
ビジネスの世界では、任天堂のゲームディレクターである京極あや氏の率いる開発チームは、ゲームソフト『あつまれどうぶつの森』を世界的な成功に導いた。京極氏のチームは、日本的な感覚によるキャラクターの感情表現にこだわり、繊細さと優しさをゲームというフォーマットの中で実現している。そのようなアプローチが、射撃による殺し合いゲームなどに麻痺したアメリカのファンの心に「刺さった」というのは、特筆していいだろう。これもまた、日本のカルチャーと、アメリカのニーズが融合した例と言える。
日本のカルチャーと異文化が融合することで、新しい文化現象が次々と発生している。22年には、どんな新しい「融合」が待っているだろうか。
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