東大の女子学生比率20%の衝撃

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

世界的に見ても低い東大の女子学生比率

冷泉コラム_東大

『The New York Times』の記事、東大の上野氏の祝辞は共に公式サイトで全文が読める。

2019年12月9日付の『The New York Times』は、国際欄の中でほぼ1面を使って東京大学に関する記事を掲載した。タイトルは、”At Japan’s Most Elite University, Just 1 in 5 Students Is a Woman”(日本の最高峰の大学 女子学生は5人に1人だけ)で、東大における女子学生の比率が20%という数字を暴露した内容だ。ちなみにハーバードやスタンフォード、北京大学やシンガポール国立大学は男女比率がほぼ半々である。
 
この新聞は、昔から日本文化の異質性を大げさに書くことがあり、それに対する反発があるのも事実だ。だが、今回の記事は無視できる内容とは思えない。というのは、この時期にこうした形で批判記事が出ても仕方がない、それだけの理由があるからだ。
 
まず、19年4月に行われた東大の入学式では、フェミニズム運動家として著名な同大学の名誉教授、上野千鶴子氏が祝辞を述べた。その内容は、東大における女性差別を批判しつつ、新入学をする女子学生に対して差別への覚悟を促すものだった。この祝辞の内容は決して唐突なものではない。難関で知られる東大の入学試験の合格者において女子の占める比率は、17年の19.8%をピークに悪化に転じており、18年には18.8%、19年には17.4%と大きく下がってきているからだ。
 
では、日本社会における女性の社会進出が鈍っているのかというとそうではない。また、中高の女子生徒の学力が下がっているのでもない。つまり、優秀な女性から東大が嫌われているのだ。大学として、入学式に上野氏を呼んだというのは、その危機感の現れであったと言える。

サークル、結婚、キャリア 東大女子学生を取り巻く環境

どうして優秀な女子高校生は東大を嫌うのかというと、そこにはいろいろな理由があるようだ。例えば、東大の男子学生は、東大の女子学生と結婚したがらないという。統計があるわけではないが、これは昔から言われていることで、例えば、東大のテニスなどの気軽な同好会では、東大の女子学生には門戸を閉ざす代わりに、他大学の女子学生を歓迎している。つまり、東大の男子学生は他大学の女子学生を交際相手として望んでおり、東大の女子は敬遠していることになる。学内だけでなく、社会一般の言い方として「女性が東大を卒業すると、結婚が難しくなる」という言い方はかなり幅広く聞かれる。つまり、女性は「一歩下がって男性を立てるべき」という古い価値観が日本には残っており、それがこうした言い方になっているということだ。
 
日本の場合、女性の方が留学志向が強いということもある。男性の場合は、東大を卒業して官庁や大企業に進むのがエリートコースという、親や祖父母世代のプレッシャーがあるが、女性の場合はそれが薄いので優秀な女性はどんどん留学しているということがある。その結果として東大を選ばないということはあるだろう。
 
もう一つの理由は「リケジョ」、つまり理系女子が少ないという問題だ。東大では、学生の約半数が理系学部への進学をする。日本の社会にはリケジョへの暗黙の差別があり、例えば結婚相手として本人はともかく親や祖父母が嫌うということはあるらしい。ということは、東大の理系への進学というのはやはり優秀な女子高生にとっては人生設計の上でのリスクになってしまう。将来の結婚という問題だけでなく、女性が少数派で学内外から特殊な存在として見られる東大よりも、他大学に進学したほうが良いと考える女子生徒は多いようだ。
 
東大も、この点を気にして女子校での説明会を熱心に行ったりしている。だが、問題は東大の男子学生、男性の教授陣や卒業生であり、この男性側の意識が変わらないと本当の意味での改革は進まないだろう。いずれにしても、今回の『The New York Times』の記事は、必要な「ガイアツ」であると考えられる。東大は本気になって改革を進めなくては、やがて国際社会から相手にされなくなるだろう。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2020年1月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2020年1月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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