大陸横断鉄道とアムトラック

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

大陸横断鉄道の敷設を支えた東西の移民たち

大陸横断鉄道

この絶景は、アメリカ移民たちの苦労の賜物。

アメリカの開拓は、東から西へと進んだ。入植により経済が回りだすと今度は輸送手段が必要となる。最初は人や荷物は馬車を乗り継いで移動するしかなかった。だが、19世紀の半ばまでには全国で鉄道網が発達し、輸送の容量もスピードも格段に向上した。
 
西海岸の場合は、これにゴールドラッシュが重なり開拓が進んだのだが、広大な北アメリカ大陸を東西に横断する鉄道の工事は困難を極めた。難しかったのはロッキー山脈越えの区間である。スタンフォード大学の創設者で、西部の鉄道王リーランド・スタンフォード率いるセントラル・パシフィック鉄道会社は西から工事を進める一方で、ユニオン・パシフィック鉄道はシカゴからオマハ経由という東側から工事を進めた。難工事を支えたのは、西側では初期の中国系移民、東側ではアイルランド系移民が中心で、特に中国系移民が経験した苦労は米中関係史の重要なエピソードになっている。
 
最終的に東西から建設の進んだレールが締結されたのは、ユタ州のプロモントリーサミットという場所だった。1869年5月10日に、この場所で枕木に「黄金の釘(ゴールデンスパイク)」が打ち込まれ、ここに史上初の大陸横断鉄道が開通したのである。今年、2019年はその150周年にあたり、5月10日の記念日には、その場所で、「スパイク150」と銘打った記念式典が3日間にわたって行われる。
 
式典に関連したセミナーやイベントはすでにスタートしている。一連の行事では大陸横断鉄道の意義だけでなく、移民労働者の苦難の歴史や、鉄道がアメリカ原住民への迫害に使われたという「負の歴史」についても取り上げられるという。つまり、単なる鉄道史だけでなく、アメリカの西部開拓史全体を振り返る一年になりそうだ。

貨物輸送から絶景の旅へ現代の大陸横断鉄道

一方で、現在のアメリカでは、都市部の地下鉄や近郊鉄道を除くと、鉄道というのはマイナーな存在になっている。広大な大陸を移動するには、近距離は自家用車、中距離はバス、長距離は飛行機が主流であって鉄道の役割は小さい。だが、衰退した鉄道ネットワークを維持するために、1971年以降は国が設立したアムトラック公社が全国に長距離特急を走らせている。
 
実は、そのアムトラックは、大陸横断列車を毎日ちゃんと走らせている。さすがに直通列車はないが、途中で一回乗り継げば快適な個室寝台の特急列車で東西を横断できるのだ。主要なルートは3つある。1つ目は、シアトルから「Empire Builder号」でモンタナ横断の絶景を楽しみながらシカゴに行き、そこから「Lake Shore Limited号」でバッファロー経由でニューヨークへ行く方法。2つ目は、サンフランシスコ郊外(エメリービル)からユタ州を通る「California Zephyr号」でシカゴ、そこから「Capitol Limited号」でピッツバーグ経由でワシントンDCへ。3つ目は、ロサンゼルスから「Sunset Limited号」でアリゾナとテキサスを横断してニューオーリンズへ、そこから「Crescent号」でニューヨークへというものだ。
 
どのルートでも3泊4日かかるが、総2階建ての「スーパーライナー」という車両は快適だ。個室寝台の場合は、食堂車での食事は運賃に全部込みとなっており、普通車の場合もカフェでさまざまな食事が注文できる。全員が利用できる展望ラウンジカーも連結されている。時間はかかるが、雄大な景色とともにアメリカ大陸の大きさを実感できる旅行として人気がある。
 
問題は、日本の基準からすると定時運転が難しいことで、30分から数時間の遅れは日常茶飯である。これは車両や設備が故障しがちというわけではなく、経済的に成功している貨物列車が優先通行権を持っていて、場合によって特急は貨物の通過を待たねばならないなどの事情があるからだ。その点さえ許せるのであれば、全区間個室寝台で700ドル台からという価格も含めて、鉄道での大陸横断は魅力的なチョイスではないだろうか。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2019年4月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2019年4月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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