(2021年1月1日号掲載)
自由を維持しながら感染を抑えてきた日本
新型コロナウイルス感染拡大に関しては、アメリカと比較して日本は一貫して優等生であったと言える。本稿の時点での感染者は、アメリカの場合は累計で1600万人を超え、日本の場合は18万人以上、死者の累計もアメリカが30万人超えに対して日本は2500人超えと、2桁違う。アメリカの人口が日本の3倍ということを考えても、30〜40倍の違いがある。
この大きな差については、日本では、手洗いやマスクなど衛生管理について、そもそも根付いていたとか、「3密(密閉、密接、密集)」を避ける、マイクロ飛沫による感染を警戒するなど、感染症対策に関する知識の普及が桁違いということもあるだろう。
アジアでは、初期の流行を完全に抑え込んだ中国や韓国、台湾など日本より感染の制御に成功している国もある。だが、これら3カ国についてはプライバシー権や、営業の自由などに対して政府が大きな制約を課した結果である。その意味で日本の場合は、人々の活動における基本的な自由を維持しながら、自発的な対策などで成果を上げている点では高い評価ができる。
また、日本の場合は、観光業や外食などサービス産業が大きな影響を受ける中で、「GoToトラベルキャンペーン」という政策が実施された。中断とはなったが、投入した税金だけでなく、消費者が負担する部分を上乗せした経済効果を狙ったものだ。この「GoToトラベルキャンペーン」についてはコロナ感染対策と経済活動再開という観点からは、アクセルとブレーキを一緒に踏むようなものだと批判を浴びた。結果的に中断となったが、賛否両論のバランスの中、対策を講じながら実施して一定の成果はあったことは評価できる。
そんなわけで、2020年11月中旬から空前の規模で感染拡大の広がっているアメリカから見ると、日本のコロナ対策はますます優等生に見えてくる。
日米で分かれるワクチンへの反応
だが、その日本にも脆弱性がある。それはワクチンに対する世論の迷走という問題だ。例えば、日本では、麻疹(はしか)や風疹のワクチンについては、一旦普及したものの、その後、副反応について執拗に批判するメディアに踊らされた世論の間に、拒否感が広がった。そのために強制接種が長い間中断した結果、麻疹や風疹の大規模な流行という、現代ではあってはならない現象が起きた。もっとも顕著な例は、子宮頸がんを予防するヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンであり、WHOが接種を強く勧め世界では普及している一方で、日本では反対運動の結果、政府が接種の推奨を取り下げるなど迷走している。
新型コロナウイルスのワクチンについては、12月に入ってイギリス、次いでアメリカが接種を開始しており、感染抑制の切り札として連日大きく報道されている。だが、こうした動きに対する日本の報道は鈍い。
そんな中で、ワクチンの治験者から死亡者が出たというニュースが、実際は偽薬を投与されたグループからの死者なのでワクチンのせいではないにも関わらず「ワクチン投与者の中で初の死者」かのように報じられた。また、日本では「欧米は悲惨な感染拡大があるのでワクチンが必要かもしれないが、死者の少ない日本の場合はリスクを覚悟でワクチンを打つ必要はない」などという論調も見られる。実際の医療現場でも、極低温での保存の必要なワクチンを保管する設備を導入する動きは、予算不足ということもあって遅れ気味のようだ。
日本の場合は、感染症を恐れる心理が対策の徹底につながっていたわけだが、その慎重さが今度はワクチンの副反応を恐れる心理となって迷走しては大変である。ワクチンの場合は、アクセルとブレーキを一緒に踏むという作戦は成り立たない。また、オリンピック、パラリンピックの開催には、ワクチン接種率の達成は重要な条件となろう。政府とメディアが率先して不安解消に乗り出すことが期待される。
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