アメリカの教育に対する基本方針とは?

子供が現地の小学校に入りました。アメリカと日本とではお国柄が違うように、国としての教育方針が違うように思います。アメリカではどのような教育目的や教育方針が基本にあって、どのように実践されているのでしょうか?

A. 民主主義を守る国民を作るため、自分の意見が言える力をつける

松本輝彦(INFOE代表)

1つの国の教育を短い言葉で表すのは難しいことです。しかし、いただいたご質問は、日本から来た保護者から繰り返し聞かれました。ここで紹介するアメリカの教育についての考え方は、私が自分自身でまとめたものです。学問的な厳密な研究の成果ではありませんが、私なりの体験・考察・検証の結果です。皆さんが、アメリカの教育を理解し、お子様の指導に役立てることができれば幸いです。

「民主主義を守る」が目標

アメリカの教育の目的は「民主主義を守る国民を作ること」です。

「民主主義」はアメリカ合衆国のモットーです。アメリカ建国直後から、「国民が無知なら民主主義は滅びる」と考え、国民を教育することが提案されました。最初の提案には成人も含まれていましたが、税金を使う公教育では、子供の教育が大きなテーマとなりました。

「民主主義を守る」という目的は、「為政者にだまされるな」「自分の意見を表明する」という2つのより具体的な目標となります。それらの目標は、活動を通してスキルとして身に付くようにトレーンニングされているのです。

「為政者にだまされるな」というためには、相手が話し、書いた内容の真意を正確に聴き取り、読み取る能力が必要です。決して感情的な主張に惑わされたり、自分の都合で人の意見を曲解したりしてはいけません。

また、「自分の意見を表明する」ためには、自分の意見や考えを相手が明確にわかるように話し、書くことが不可欠です。説得力のある論理的な話ができ、文章が書けるようになることです。

下記の表は、アメリカの学校で行われている活動やスキルについてまとめたものです。この表から、2つの目標を達成し、その能力を身に付けるために、活動を通して、K(キンダーガーテン:日本の幼稚園年長に相当)から8年生くらいまでの間に、それぞれのスキルが段階的に継続してトレーニングされているのがわかります。それぞれのスキルは、上に示した学年で基礎的に、かつ集中的にトレーニングされますが、当然、その学年以降も学齢に応じた内容でトレーニングが継続されます。

【アメリカの学校でのスキルトレーニング:基礎的・集中的に行う学年】

目標 能力 活動・スキル 学年
K 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
為政者に
だまされるな
聞く
読む
Show & Tell
Self Reading
Book Report
Critical Reading
自分の意見を
述べよ
話す
書く
Show & Tell
Presentation
Report Writing
Essay Writing
Book Report
総合力 Critical
Debate

 

トレーニングでスキルをつける

「Show & Tell」を例に、活動でどのようなスキルが身に付くのか考えてみましょう。初めての「Show & Tell」は5歳で経験します。クラスメイトの前で自分の宝物を見せながら、紹介する活動です。他の子供はカーペットに、先生は後ろの椅子に座って、発表を待っています。しかし、発表する子供は自分の大好きなお人形を手にしたまま、みんなの前で立っているのが精一杯。先生に「手に持っているのは何?」と聞かれて、「人形」と答えるのがやっとです。その後も先生の質問に答えながら、自分の宝物を友達に紹介していきます。

現地校の子供に聞くと、Kから2年生までの3年間に、少なくとも20回は発表したと言います。1クラス20名なら、400回近く聞くことになります。発表する子供は、「人前で話す」というトレーニングを受けていることになり、座って聞いている子供たちは「人の話を静かに聴く」という訓練を、繰り返し受けているのです。3年生以降は、最初の3年間で身に付いたスキルを使って、日常的に、発表を続けます。

このような、活動を通してのスキルトレーニングが、日本の教育では見られないアメリカの教育の特徴です。そして、そのトレーニングで身に付けたスキルが、帰国子女の「宝」となるのです。

(2004年12月1日号掲載)

アメリカの教育制度について、その全体を知りたい

子供はまだ3歳なのですが、こちらに永住する予定です。アメリカの教育制度について、全体的にどうなっているのか教えてください。また日本との違いなども教えてください。

A. 全国一律の日本の教育と違い、地域や学校区で内容が決まる

松本輝彦(INFOE代表)

独立した学校区

アメリカの教育制度は、日本のそれと当然異なります。さらに、州、時には学校区(School District)によっても大きく変わります。カリフォルニア州の義務教育は、キンダー(日本の幼稚園年長)から18歳(日本の高校3年生)までです。

アメリカの教育システムが日本と際立って異なるところは、教育行政の独立ぶりです。日本の教育は、基本的には国が教育の方針や指導内容を決める中央集権的なシステムです。しかしアメリカでは、建国以来の地方自治重視の考え方に基づき、地域住民が直接選挙で選んだ教育委員が中心になって構成する学校区の理事会(School Board)が、その地区の教育行政を担当します。学校区は、数万人の子供を抱える巨大なものから、学校1つだけで形成しているものまで千差万別です。

学校教育に関する最終的な判断は、学校区が下します。その判断を覆すことができるのは裁判所の判決しかありません。教育の内容から、生徒の退学処分や図書館の本の決定まで、具体的な判断も行います。

理事や理事会が地元住民の意思に反した判断や決定をした場合は、次の選挙で落選という結果を招きます。アメリカの教育は、保護者・先生・学校区に加え、地元住民の意思も反映されるので、地域や学校区により大きな差が出ることになります。

先生・校長の仕事

学校区の理事会は、教育行政の実務を担当する教育長(Superintendent)を雇用します。教育長の下に、各学校の校長、教員がいて、日々の学校運営を担当します。

日本の先生は授業で教える以外に、生徒指導・進路指導などさまざまな校務を分担していますが、アメリカの先生は教えるだけです。1日の授業が終わって先生が帰った後、保護者の都合で子供のピックアップが遅れてトラブルが起きても、それは親の責任となります。

小学校で授業以外の指導を担当するのは校長です。子供が授業中に騒いで授業を妨害したり、他の子供に迷惑をかけたりした場合、担任の先生はその子供を校長のところへ送ります。そして校長が話を聞き、注意をします。悪さの程度によっては、保護者を呼び出し、停学などの処分を言い渡します。

校長はその他、学力に問題がある子供の相談に乗ったり、子供同士のトラブルの調停役をしたりします。教える以外は校長先生の担当だと思って、何でも相談してください。

学力向上を進める動き

最近は、州や連邦レベルの指導も強くなっています。カリフォルニア州の「STAR」と呼ばれる州統一試験もその例です。その試験結果は、1人ひとりの子供の評価や指導に使われ、また各学校区や学校の評価のデータとして使われます。何年も成績向上の見られない学校区の管理を州が代行したり、成績の上がらない学校やクラスの校長や担任の先生が異動になったり、辞めさせられたりするケースもあります。

子供にとっても、学年レベルの学習が十分理解できていないと判断された場合は、留年させられることもあります。渡米間もなく英語力が不十分な子供には救済措置がありますが、数年間現地校で学んだ後は留年の対象になる可能性があります。

子供たちにとっては、テストの成績中心で学力を判断されるという厳しいシステムです。

教育に地域住民も高い関心

子供の保護者だけでなく、多くの地域住民も地元の学校教育に関心を持っています。住民が納める不動産税が学校運営の中心的財政基盤になっているからです。「自分が払った税金がどう使われているのか」という意識を持っているのです。

また、地域の学校の質と住宅などの不動産の価格が比例しているのも理由の1つです。州の統一学力試験の学校ごとの成績が新聞紙上に発表されます。その結果により、子供を持つ保護者は、より質の良い学校のある地域の住宅を買い求めます。その結果、住宅価格が上がります。

アメリカと日本の異なる2つの教育の狭間で、子供は健気にがんばっています。お母さんやお父さんも、アメリカの教育を理解するという仕事をしてください。

(2004年11月16日号掲載)

バイリンガルの定義とは?

バイリンガルとは

日本語と英語のバイリンガルとは、以下の3つのレベルに分けて考えられます。

  • 話し言葉レベル:日本語・英語の両言語で「聞く・話す」ができる状態
  • 読み書きレベル:日本語・英語の両言語で「読み・書き」ができる状態
  • バイカルチャーレベル:日本語・英語、それぞれの文化を身に付けた状態

バイリンガルとはどんな状態?また、どうしたらなれますか?
小学校に上がる前の長女と、生まれて6カ月になる次女を持つ親です。この度、夫のアメリカ赴任に伴い渡米することになりました。皆から言われるのが、「子供たちがバイリンガルになっていいですね」です。このバイリンガルとは、どんな状態のレベルのことを言うのでしょうか?

 

日本語と英語のバイリンガルのレベルは大きく分けて3つ

●話し言葉レベル

日本語と英語の両言語で、「生活言語」である「聞く・話す」ができるレベルです。聞くことが先です。ネイティブの子供は、家族との間では幼児の時に、より交流が広くなって友達との間では小学校の低学年までに、このレベルの発達段階を終えます。小学校へ入る前のお子さんであれば、保育園やキンダーへ通わせることで、この段階のスキルを急速に身につけます。

●読み書きレベル

話し聞くことができれば、次は「読み・書き」です。一般には、「学習言語」と呼ばれ、知的活動に必要な能力です。学校でいうと、3・4年生から本当に必要になる言語能力です。この頃になると、日常の家庭での話題を越えた内容の文章を読んで理解できるようになることとが要求されます。もちろん書く力は、読む力に続きます。
 
第1言語の「聞く・話す・読む・書く」の4技能の基礎は12歳前後で完成します。小学校中学年から中学校の初めくらいまでに、簡単な文章を読むことから抽象度の高い文章を書くことまでのトレーニングを、子供は学校で指導されます。この段階の指導のシステムは、日本の学校ではほとんど見られず、アメリカの学校教育が最も誇れるものです。ですから、現地校の勉強をしっかりやらせることが中心です。この段階での急激な質・量の増加を、日本人の子供1人でこなすことは大変です。親などがサポートすることが必要です。

●バイカルチャーレベル

言語のレベルを超えて、それぞれの文化を身に付けた段階です。もう大人になった私の娘は、自分のことを「スーパーハイブリッド」と呼びます。形ある文化だけではなく、友達との遊びや生活の中でも、日本人として、ある時はアメリカ人として、楽しむことができるとのことです。

家庭と学校の環境を整える

駐在員のご家庭で、幼児や低学年の子供をバイリンガルに育てるベストな方法は、①家庭では日本語だけを使う、②週日は現地校へ通わせ、英語での教育を受けさせる。③土曜日は補習授業校へ通わせ、日本語での教育を受けさせる、の3点です。
 
日本語は、家庭での日本語・日本文化の環境と、お母さんによる日常の指導が不可欠です。英語はもちろん、学校での学習を通して身に付けていきます。言葉の力を具体的に伸ばすのは、学校の学習を通して初めて可能になるのです。日本語については、幼児の場合、家庭内の日本語環境とお母さんの努力がすべてです。親は何もしなくて良い訳がありません。お母さんのできることは、変な英語ではなく、自分が生まれ育ってきた日本語の世界へ、子供たちを導くことです。学校での英語、家庭での日本語、このふたつができてバイリンガル(2カ国語使用)が可能になるのです。

長期的な展望に立った目標を

もう1つ、バイリンガルの子育てをする時に考えなくてはならないのは、「どのレベルで、どの年齢で、バイリンガルになるのを目標にするか」です。私が渡米した20年以上前は、「うどんですか、そばですか」を日英両語で聞ければ、バイリンガルでした。バブルのピークの時は日本語でも英語でも高校卒業程度の学力がある人がバイリンガルと呼ばれ、モノリンガルの人に比べ数割高い給料をもらいました。今の子供が成長した時には、バイリンガルにはどんな能力が要求されるのでしょうか?
 
10年後には、マイクに向かって英語を話せばきれいな日本語に翻訳してくれる小さな機械が出現しているでしょう。子供の時にバイリンガルと言われても、大人になったら使い物にならない英語を親御さんが望んでいるとは思えません。帰国後の教育も含めた長期的な展望に立って、日々の努力を継続し、バイリンガルに育てていくことが必要です。
 
(2004年5月1日号掲載)

コミュニティカレッジから4年制大学への編入の注意点とは?

コミュニティカレッジの最初の1年間で4年制大学に編入・進学できるかが決まる。

松本輝彦(INFOE代表)

高校卒業後、アメリカのコミュニティカレッジで学び、4年制大学(以下、大学)に編入(転入学)する人へのアドバイスです。コミュニティカレッジから4年制大学への編入を成功させるにはコミュニティカレッジの最初の1年間の成績が重要となります。英語のエッセイ力も鍵です。

アメリカのコミュニティカレッジから4年制大学への編入のステップ

編入とは、通常、コミュニティカレッジで2年間の学習後、大学の3年生として転入することです。アメリカの大学は、編入後の学業に困らないように、その大学の学部や専攻の1、2年生が学ぶのと同等の内容やレベルの学習を済ませてきたコミュニティカレッジ生を受け入れます。
 
アメリカではコミュニティカレッジと地元の大学が編入の協定を結んでいるのが一般的です。その協定には、希望の学部・専攻に編入するには、コミュニティカレッジでどのクラスを受講し、何単位を取得し、最低どのくらいの成績平均点(GPA)を取る必要があるかなどが細かく決められています。
 
編入希望のコミュニティカレッジ生は、大学への編入に必要な進学条件が満たされる段階になったら、大学に出願します。大学の入学時期が9月ならば、出願は前年の冬(11、12月)。出願後、コミュニティカレッジの残りのクラスを受けながら、春(3月頃)まで入学合否の通知が届くのを待ちます。いくつかの大学に出願するのが普通ですので、入学許可が出た大学を選び、進学する旨を連絡します。コミュニティカレッジの授業がすべて完了したら、最終の成績書を大学に提出し、秋から3年生として大学で学ぶことになります。
 
以上が、アメリカのコミュニティカレッジから大学への編入の一般的な流れ・ステップですが、冬以外の時期に編入する場合や、地元にはない遠隔地の大学へ進学する場合は、手続きが異なります。

コミュニティカレッジからの編入における注意点

アメリカでコミュニティカレッジ2年から大学3年への編入に成功するためには、次の点に注意してください。

①コミュニティカレッジとは

アメリカの2年制大学であるコミュニティカレッジは、4年制大学への転編入の基礎学習の場であると同時に、社会人の生涯学習や職業訓練のための学習の機会も提供しています。そのため、年齢も目的も大きく異なる人たちが、同じ授業を受けます。
 
30人くらいのクラスであれば、真剣に大学への編入を目指している人の数は、1割にも満たないと思ってください。その中で緊張感を持ち、大学編入のための勉学を続けるには、あなた自身の強い意志が必要です。

②コミュニティカレッジの1年目次第で編入可否が決まる

大学への出願はコミュニティカレッジ2年目の秋のため、実際にアメリカの大学へ送られる成績は1年目のものだけ。最初の1年間(2、3セメスター)の成績で、大学への編入が決まる点を注意点として頭に叩き込んでください。
 
また大学の出願条件の一つに成績平均点があります。コミュニティカレッジで「A」または「B」の成績が必要で、「C」はまともな成績とはみなされない、と考えてください。
 
高校のプレッシャーから解放されて、自由な雰囲気のコミュニティカレッジで「ゆっくりスタート」した最初のセメスターで1つでも「D」や「F」を取ると、大学編入は「夢」に終わってしまいます。

③英語のエッセイが大変

アメリカのコミュニティカレッジ、大学での学習に最も大切なのが「エッセイ力」です。「フレッシュマン・エッセイ」は、大学生の学習に欠かせないこの力を身に付けさせるために必修科目とされているのです。
 
他の科目、例えば「ミクロ経済学」「社会学概論」などの科目は未だ学んだことのない内容なので、コミュニティカレッジでの授業を一生懸命頑張るしかありません。数学や理科系科目では自分のレベルに合ったクラスを取ることができます。
 
しかし、「英語」クラスでのエッセイ力は、小学校から高校までの学習で積み重ねてきたものです。多くのコミュニティカレッジ生が「英語」で成績を落としてしまいます。エッセイ力が弱いと感じている人は、コミュニティカレッジが始まる直前の夏休み中に、真剣に復習しておくことを強くすすめます。
 

 
12年生の皆さんの中に、希望する大学の入学許可を勝ち取れなかったので、コミュニティカレッジで学び、4年制大学に再挑戦する人も多いと思います。アメリカは、大学での教育にも「セカンド・チャンス」を与えてくれる国です。自分自身の高校卒業までの学習を反省し、チャンスを活かせるように、全力で頑張ってください。
 
(2011年4月16日号掲載)

編入(転入学)の際のコミュニティカレッジの役割とは?

子供が、高校卒業後、コミュニティカレッジからUC(カリフォルニア大学)に編入を希望しています。コミュニティカレッジの役割とは何でしょうか?

コミュニティカレッジから大学編入は学校教育における「セカンドチャンス」

松本輝彦(INFOE代表)

コミュニティカレッジからの編入制度の背景

アメリカ・カリフォルニア州の高校卒業生のトップ10%程度がUC(カリフォルニア大学系)に、トップ35%程度がCal State(カリフォルニア州立大学系)の各キャンパスに進学します。これらの大学の合格を勝ち取るためには、高校3年間の高い学業成績(GPA)と統一試験の高得点が要求されます。さらに、入学後の学習も厳しく、良好な成績(GPA)を維持しないと退学処分になります。
 
そのため、2年次終了時点で、各大学で3割から半数近くの学生が学業を断念するか、ほかの大学へ移ります。欠員を補充するため、コミュニティカレッジからの編入(転入学)制度があります。

コミュニティカレッジから大学への編入の条件

コミュニティカレッジと大学の間では、コミュニティカレッジの学生が各4年制大学(以下、大学)に編入するための条件を取り決めた協定が結ばれています。
 
① 受け入れる大学の各専攻・学部の1・2年生が受講するのと同等のレベル・内容のコミュニティカレッジの科目・クラス。
② それらのクラスの必要単位数と、平均成績(GPA)や最低基準(B以上等)。
 
アメリカの大学に編入を希望するコミュニティカレッジの学生は、コミュニティカレッジの授業スケジュールから、編入の協定で指定された科目・クラスの授業を受けます。通常、クラスの受講には2年かかります。コミュニティカレッジ入学時点で実施されるクラス分け試験(Placement Test)の成績が良くないと、指定科目の基礎的な内容を学習するレベルのクラスを取るよう指示されます。数学の基礎クラスや英語の入門クラス(ESL含む)を受講する場合は、3年以上かかることもあります。
 
指定科目のクラスの受講を完了して、基準の成績をあげた学生は、希望の大学に出願し、入学許可の判定を受けます。合格すれば、大学の3年生として勉強することになります。

アメリカにおけるコミュニティカレッジのメリット

① 大学編入向けのクラスでは、大学レベルの授業の学力・スキルを基礎から身に付けさせるのが、コミュニティカレッジの目標。高校の学習が十分でない学生には、基礎力を補充するカリキュラムが組まれ、丁寧な指導をする教員が多く見られる。
② 高校卒業が、コミュニティカレッジ入学の基本的な資格。高校で悪い成績でも入学は許可。
③ 1単位20ドル(アメリカ・カリフォルニア州民の場合)、1セメスターに通常12単位程度受講。この授業料は、UCの約8千ドル、CSUの約5千ドルの年間授業料に比べて、非常に安い。
④ どのコミュニティカレッジも、UC(UCLAやUC Berkeleyなども含む)とCSUへの編入がほぼ可能。
⑤ アメリカ・南カリフォルニアには非常に数多くのコミュニティカレッジのキャンパスがあり、日夜、クラスを開講している。学生の生活に合わせた受講が可能。
⑥ 大学の授業は高校と違い、自分の興味のある科目・内容のクラスを自由に選べる。また、授業も週に1・2回のものが多く、自分の勉強時間が増える。

大学への編入希望者への注意

「GPA 4.0」が編入への目標です。それぞれに4年制大学が求めている科目ですべて「A」を取れば、必ずその大学に編入できます。例え世界でトップレベルのUC BerkeleyやUCLAであっても、必ずコミュニティカレッジから編入させてくれます。
 
アメリカのコミュニティカレッジは、コミュニティの人たちの学習の場として、若者から退職者まで幅広い年齢や職業の人が、実用からアカデミックな内容までのさまざまなクラスを受講しています。大学編入のための一部のクラスを除けば、編入を希望する学生も、先に述べた多くの人たちと一緒のクラスで授業を受けることになります。のんびりしたクラスの雰囲気に流されずに、「大学編入」という目標を明確にした勉強を続けなければなりません。
 
そのためには、高校時の勉強方法を大きく変えることです。コミュニティカレッジで授業に出る時間は高校の時の数分の一で、自分の勉強に使える時間が大幅に増えます。この時間を友人と楽しく過ごしていたのでは、大学編入は叶いません。
 
すべてのクラスで「A」が取れる勉強を「やってみよう」「やってみたい」という人が、大学への編入ができます。成績(GPA)だけで決まるのが編入です。どんなことをしても「A」が取れれば成功するのです。やる気のある人だけに与えられるのが、「セカンドチャンス」です。
 
(2008年8月1日号掲載)

●日本からアメリカの大学・コミュニティカレッジへの進学・留学については「アメリカ・ロサンゼルス留学~おすすめ大学・語学学校の最新情報」でも詳しく紹介しています。合わせてご覧ください。

渡米したばかり。どうしたら早く現地校に適応できる?

Q. 渡米直後の現地校適応について教えてください

8月に渡米。1年生と4年生の子供が、英語もわからず、現地校の勉強で苦労しています。

A. 保護者自身が、現地校について理解を深めることが大切です

松本輝彦(INFOE代表)

●英語

日本から来たばかりなので、言葉(英語)が通じないのは当然です。現地校の先生の指導に従って勉強するのが、渡米直後の英語習得における最良の方法です。お子さんの持ち帰る宿題を、ご両親も一緒にやってください。

1年生と4年生では、どちらのお子さんも英和辞典すら引けません。辞書を引いてあげて日本語で意味を教えたり、問題のやり方の説明をしてあげましょう。その際、お子さんの知っている知識や言葉に関連付けて説明してあげるのが、お子さんの理解を深める秘訣です。毎日の宿題を通して、英語の単語力が伸び、その後の英語読解力につながっていきます。

もし可能なら、教科書の予習を試みてください。明日の授業で学ぶページの写真、絵、図を見ながら、その内容について雑談をするだけでも結構です。授業中の先生の話がおぼろげながらわかるだけでも、お子さんはその授業で何かを理解して、有意義な時間を過ごします。

1年生のお子さんは、「聞き・話す」ための「話し言葉」での勉強が中心です。読書は「楽しんで読む」レベルの指導ですから、まず、会話力の向上に努力しましょう。現地校の友達と英語で遊ぶ機会を積極的に作ってあげるのも、良い方法です。

4年生のお子さんは、「読み・書き」を中心とした「書き言葉」での勉強が中心です。この段階では、日本の学校同様、日常生活の中では使われない、学習のための言葉「学習言語」の習得が目標です。言葉が持つ意味、時には抽象的な意味の理解を、教科書の学習を通して進めます。現地校では、宿題のプリントの質問に答えて、この勉強を進めます。毎日の宿題を時間をかけてでもやり遂げるのが、この学習の早道です。

●現地校を理解する

渡航直後の適応には、時間のかかる英語の習得以上に、「現地校での生活や勉強の仕方・仕組みの理解」が必要です。「与えられた場面で、どんな言動を取ればいいのか」を知らなければ、不安でいっぱいになるのは大人・子供を問わず当然です。「トイレに行きたくなったら、授業中であっても手を上げて行くことができる」ことを知らないと、必要以上のストレスを感じてしまい、勉強にも身が入らなくなります。

保護者自身が、アメリカの教育、現地校の学校生活についての知識を増やし、理解を深めることが先決です。そこで知った事柄を、日本語でお子さんに話してあげてください。この方法や仕組みへの理解が、お子さんの現地校への早い適応の助けとなります。

●クラス内でのボランティア

お母さん自身の現地校理解のために、クラスマザーなどのボランティアに積極的に参加しましょう。学校・クラスでの保護者のボランティアに参加して、子供の学校生活の様子を観察したり、アメリカの学校のシステム・仕組み・ルールなどを保護者自身が理解しましょう。「英語ができないから」はボランティアに参加しない理由にはなりません。ABCもわからない子供が英語に囲まれて奮闘しているのですから。

子供たちが使うワークブックのページの切り取りや鉛筆削りなどの単純作業からも、アメリカの学校の仕組みを知ることができます。その体験で見聞き・感じたことをお子さんと共有してあげれば、子供の学校生活への理解が飛躍的に進みます。「子供に言ってもわからないから」は、お母さんの誤解です。お子さんは、現地校を理解するために多くの情報を必要としています。その情報収集を手伝ってあげてください。

●初めの半年が大切

現地校へ通い始めてしばらく続く「緊張期」とサバイブすることを覚えた後の「弛緩期」を乗り越えて、適応の大きなハードルを越えたことになります。この期間は、子供によって大きく異なりますが、半年くらいが一般的です。

「英語・現地校の右も左もわからない」お子さんの現地校生活へのソフトランディングには、お子さんと一緒に学び、共に行動する保護者の姿勢が不可欠です。「家族が一緒になって、サバイブした」との言葉を、今はもう帰国した子供たちが、海外生活を振り返って多く口にします。海外で生活した保護者と子供たち、みんなが通った道です。頑張ってください。

(2008年12月1日号掲載)

Q. 現地校に編入した小学生。学習面で注意すべきところは?

この夏、2人の小学生を連れて、日本から4年の予定で赴任しました。子供たちは9月の新学期から元気に現地校に通っています。しかし、2人の様子をよく見てみると、現地校でのESLのサポートは多少あるものの、英語はほとんどわからず、教科の学習も理解できているとは思えません。これから、現地校の勉強で、どんなことを注意すれば良いのでしょうか?

A. 帰国までを視野に入れた計画を

松本輝彦(INFOE代表)

親の自覚と努力が最重要

海外での子供の教育は、渡航から日本帰国までを大きな流れとしてとらえる必要があります。

渡航後約半年間の現地社会・現地校への適応は、その後の現地校での学習、さらに日本帰国後の生活・学習に大きな影響を与えます。この時期に、どんな考え方に基づいて、どんな内容の指導をすれば良いのかを、私は「現地適応教育」として提唱しています。それをご紹介しましょう。

現地校への適応何を?

現地校での生活や学習での適応に必要な事柄は、子供の学年や能力による違いも大きいですが、概ね、次のような内容が含まれます。

1. 英語の習得
① 学校生活での緊急事態に対応する最低限の英語(サバイバル英語)
② 学校生活のための英語(学校生活英語)
③ 授業を理解できるようになる英語(学習英語)
④ 学校の外で生活するための英語(一般生活英語)
の段階に分けることができます。

2. 学習教科の基礎事項の習得
アメリカの地理や歴史など、小学校高学年以降に現地校に入った子供が、学習内容理解のために知っていなければならない事柄です。これらについては、子供の理解を促すために日本語での指導が必要です。

3. 現地校学習科目の予習
現地校で学ぶのは英語ではありません。学習内容を英語で理解し、学ぶのです。
① 算数は、日本での学習進度が現地校より遅れていれば、日本語で予習をさせます。
② 社会・理科は、これまでの子供が身につけた知識と、教科書に出てくる内容をリンクさせ、予習しておきます。これもまた日本語での指導が必要です。

4. 親が現地校教育の仕組みを理解すること
学校からの配布物、学校行事、教育目標や考え方を把握しましょう。日本の教育との対比などを通して理解することが、子供の指導に不可欠です。

適応のための指導。誰が?

ここで示した内容を、どこで、誰が指導するかが問題です。

「現地校には、ESLがあるから大丈夫」という言葉を聞きます。しかしESLとは、文字通り「第2言語としての英語」であって、英語の基礎しか教えません。先の「英語の習得」で示した①と②だけです。それ以上のことについては面倒を見てくれません。ましてや、日本語での指導などは、日本人生徒が少なくなっているので期待できません。

それでは、日本政府に期待できるでしょうか。北米には日本の文部科学省がサポートしている補習授業校が90校近くありますが、あくまでも「補習校は日本へ帰国する子供のための学校」という立場です。またアメリカの教育を日本の政府が支援することは、内政干渉にもなりかねません。

結局は、親の力で何とかするしかありません。そのためには、先に述べた、適応のために必要な内容を親自らが理解して、その重要さを認識する必要があるのです。

まず、親が頑張ること

日本の教育しか受けたことがない親が、異なる教育システムの中で学んでいる子供たちの状況を把握したり、問題点を見つけ出すのは、なかなか難しいことです。親自身がアメリカの教育を理解し、情報収集に努めるのは言うまでもありません。さらに、子供の状況に応じて具体的に何を与えれば良いのか、どのように指導すれば良いのかを知るために、親は専門家にアドバイスを求めるべきです。そしてそのアドバイスとは、ひとりひとりの子供の学習歴や能力、生活している地域、今後の予定など、非常に多くの要素を考慮したものであることが必要です。

海外での子供の教育は、日本国内での教育と同様、学校任せでは不可能です。親が責任を自覚し、努力を怠らないことが最重要です。私どももお手伝いしますので、頑張ってください。

(2006年12月16日号掲載)

Q. 渡米したばかりの中学生の息子。早く現地校に馴染むには?

今年の4月に渡米したばかりの中1の息子は、現在、現地校のESLに入っています。少しでも早く英語を身につけ、こちらの生活に馴染めるようにしてあげたいのですが…。

A. 夏休み中に日本語で先取り学習し、現地校の勉強に自信を持たせる

松本輝彦(INFOE代表)

●英語

「英語を身につけ」「生活に馴染める」ようになるのは、「現地生活への適応」がスムーズに行われることです。

子供にとっての「適応」は、学校生活が中心ですので、勉強がうまくいくことが重要です。「現地校の勉強に自信を持たせる」ために、保護者ができるサポートを考えてください。「数学ができたから、現地校が続けられた」という保護者の言葉は、子供の自信がいかに大切だったのかを物語っています。

さらに、「現地校へのスムーズな適応は、編入直後の3カ月の体験が大きな差を生む」と、私の経験からはっきり言えます。ところが、4月に現地校へ編入した場合は、現地校の学年修了は6月ですので、先生・生徒共に超多忙で、日本からやって来た新入生への指導やサポートは十分できません。

子供が「勉強がよくわからない」と言った時、英語がその理由として挙げられますが、よく聞いてみると英語よりもむしろ、学習内容の予備知識がなくて理解できない例がほとんどです。英語だけではなく、子供に学校の勉強で自信を持たせるためには、それぞれの教科の学習内容の理解が大切であることも、保護者の皆さんにはしっかり理解していただきたいと思います。

もうすぐ夏休みに入ってしまいます。今回は、9月の新学期から7・8年生が現地校での勉強で「自信」が持てるような、家庭での指導の例を紹介しましょう。

英文法の勉強

この夏、日本語で英文法の勉強をさせてください。学習内容は、日本の中学1・2年生が学習する内容程度の簡単なものでOKです。

小学校高学年になると、言葉のルールである文法の勉強を通して、外国語の学習をすることが可能になります。現地校の勉強に追われる必要のない夏の間に、日本語で英文法の勉強をすることは、英語の理解に役立ちます。英文法の勉強は、基本的な内容を教えて、自習できるような教材を与えましょう。

数学の復習・予習

算数・数学の学習は、小学校から高校まで段階的に学習レベルが上がっていきます。日米とも数学学習のステップは、ほぼ同じです。日本語で内容を理解しておけば、現地校での数学の勉強は大変楽になります。計算問題ができると、英語の壁を乗り越えて、子供が自信を持つことにつながります。

まず、お子さんが日本で学習した内容と、現地校で勉強している内容を比較してみてください。補習校に通っている場合は、その教科書も比べてください。日米で教材の扱い方が異なる場合もありますが、計算問題だけに着目すると、日本とアメリカどちらの進度が早いかが、はっきりすると思います。

もし、日本の方が遅いならば、日本語でその遅れをとり戻せるように、ぜひ夏休みの間に予習させるようにしてください。

社会の予習

9月の新学期から学習する社会の内容の予習です。学校区(School District)によって多少異なりますが、各学年で学習する社会科の内容は大体決まっています。その学習内容を先生や友人に聞いてください。そして、できれば学校で使用する教科書や副教材などを入手してください。

この予習の目的は、新学年の社会で勉強する内容を、日本語で大雑把に理解しておくことです。例えば、アメリカ史の勉強では、教科書の中に出てくる写真や図表の説明をしてやり、すでに子供が知っている知識に関連づける指導をします。この予習で頭に入れた知識は、新学年の授業の理解に大いに役立ちます。

誰が教えるのか

ここで紹介した例は、すべて日本語で指導するものです。指導者の第1候補は、お父さんとお母さんです。難しい内容を教える必要はありませんし、日本語で話をしてあげればいいのですから、ご両親にぜひがんばってほしいと思います。

しかし、人間関係が邪魔をして「親は教えられない」のならば、第2の候補は、5・6年生から高校まで現地校で勉強をしてきた日本人の大学生(高校生)の家庭教師です。「日本語で現地校の勉強内容を説明できる」のがポイントです。

次のチョイスは塾です。日本の学校の受験対策専門の塾ではなく、現地校の勉強をサポートしてくれる塾を探してください。そして、必要ならば個人指導をしてくれるように交渉してください。渡米直後の夏休みの日本語での勉強の重要さをご理解の上、お子さんに機会を与えてあげてください。

(2006年6月1日号掲載)

Q. 日本から来たばかり。現地校の質問・疑問は誰に聞く?

日本から来たばかり。現地校の質問・疑問は誰に聞けば良いですか?

A. 現地校で聞く最大限の努力を。教育相談も活用。体験談に注意!

松本輝彦(INFOE代表)

日本から来て1、2年、またお子さんが中学、高校に進級した時、現地校での勉強のことや学校からの連絡などで、わからないことや戸惑うことが多く出てきます。

現地校で聞く

お子さんの現地校に関わる質問や疑問は、まず現地校の先生、事務職員に直接聞く最大限の努力をしましょう。

お子さんの日々の学習に関わる簡単な内容ならば、小学校の担任や中高の教科担任の先生に問い合わせます。直接訪問したり、予約を入れて会うことができます。

また、できるだけ日頃から、事務室(Office)の受付やセクレタリーの人と仲良くなることをおすすめします。子供の送迎の折に「ハイ」だけでも挨拶をしたり、手作りのクッキーを持って行ったり、積極的に声を掛けることです。

顔見知りになったら、小さな質問をしてください。手を止めて、しっかり耳を傾けてくれます。親しくなったら現地校生活への相談にのってもらえるようにもなります。さらに、事務の人たちは学校内の事情に詳しいので「そのことは、〇〇先生に聞いた方が良いよ。予約取ってあげようか?」などと、問題解決したり疑問に答えてくれる最も適切な人や方法を紹介してくれます。

校長(中学・高校の場合は副校長やカウンセラーも含めて)にも、積極的に話しに行きましょう。事務職員からはっきりした答えが得られない場合は気軽に声をかけて質問、また友達とのトラブルなど問題がはっきりしている場合は予約を取って相談します。

「英語」で尻込みするお母さん。子供は、ABCもわからないのに頑張っています。お母さんは?

アメリカの学校を理解する

アメリカと日本の学校は、一見よく似ています。しかし、現地校はアメリカ社会の考えが色濃く反映されており、日本の学校とは異なる教育や運営が行われていることをはっきり知ることが重要です。

例えば、アメリカの学校では、先生、校長の役割分担がはっきりしています。担任の先生は「学習指導のプロ」で、教室内での勉強の指導以外をすることはほとんどありません。授業が終わると、まだ学校で保護者の迎えを待っている子供たちに「バイバイ」と手を振って、先に帰ってしまいます。授業中に授業の妨害になる行動を取った子供には、「校長室へ行きなさい」と言って、教室から追い出してしまいます。その子供を説教して生活指導するのは、小学校では校長先生の担当です。中学、高校でも、校長室の前の椅子に座って校長先生の指導(説教)の順番を待っている生徒の姿が見られます。

このように、アメリカの教育の方法や考え方が理解できると、的確にお子さんのサポートができるようになります。

先輩の体験談に注意!

日本語で質問できる友人や先輩のアドバイスは貴重ですが、「体験談に注意!」を頭において、「参考」程度に聞くようにしてください。

アメリカの教育は学校、学校区、州により大きく異なります。また、日本の学校では見られないくらいに、先生ひとりひとりで判断して行動できる範囲が広くなっています。そのため、同じ学校、学年でも、先生によって指導の仕方やクラスのルールが異なる場合が多くあります。

また、「海外の子供は、皆違う!」と理解してください。たとえ年齢や学年が同じでも、滞在年数、学習歴、英語力などの違いにより、抱える問題や必要な対応が大きく異なります。

現地校の先生は、日本の教室での一斉指導ではなく、子供の違いに応じた個人指導を大切にしていますので、対応の差がさらに大きくなります。

このような背景を理解した上で、友人や先輩のアドバイスを聞くことを強くすすめます。

教育相談サービスを利用

「学校からのプリントをFAXやメールで送り、電話で説明」。そんな特徴のある教育サポートサービスがあります。このサービスのメリットは、自分自身のアメリカでの子育て体験だけではなく、日米の教育の違いなどをよく理解している相談員から、必要な時に、具体的な質問に、日本語で説明を受けられることです。必要に応じて、ご活用を。

Premier Eduサポートセンター:www.premier-edu.com

(2010年4月16日号掲載)

Q. 子供が学校で「日本人」とからかわれている

子供が学校で「日本人」とからかわれている様子。誰に相談すれば?

A. トラブルをはっきりさせ、学校に相談します。冷静さが最も大切

松本輝彦(INFOE代表)

現地校でのトラブルのご相談です。お子さんの年齢、トラブルの内容などがはっきりしませんが、一般的な内容について考えてみます。このご相談には、「トラブルの内容」と「学校への相談」の重要なポイントが含まれています。

どんなトラブル?

子供が学校で被害者となるトラブルは、「からかい」から「いじめ」まで、さまざまな事柄で、異なったレベルのものがあります。「アメリカの子供7人中4人が、学校生活の中でいじめを経験する」との専門家の報告が示すように、アメリカの学校でもBullying(いじめ)は深刻な問題です。いじめは身体的な攻撃だけではなく、言葉による暴力も含まれています。

ご相談のお子さんが、どんな「からかい」の言葉を投げかけられているのかはっきりしませんが、「日本人」であることが理由の「からかい」ならば、それは「人種差別」にもつながります。直ちに、学校に報告・相談すべきです。

報告の前に、「話したがらない」お子さんから事実関係をはっきり聞き出す必要があります。その話し合いの際に、話したがらない子供を非難したり、声を荒げたりすることは避けてください。子供自身は、友人関係にひびが入るのを心配したり、仕返しやいじめの広がりを恐れたりしています。

子供の言葉から、時、場所、状況など、具体的な事実を把握するための話し合いです。冷静に対応してください。具体的な事実を示すことなく相手の子供を非難することは、相手の人権を侵害することにもなるので、根気良く子供から聞き出してください。

もし、教室内での出来事を担任の先生から聞く場合は、この段階で絶対に相手の子供を非難しないことです。事実もつかまないでほかの子供を非難する母親の言葉は、軽く取られてしまい、ご自分のお子さんの問題解決に役立ちません。

当事者として苦しんでいるお子さんが「お父さんも、お母さんも、自分のために一生懸命になってくれている」と、信頼させることが、問題解決の第一歩です。

学校への相談

子供から事実関係を明確につかめたら、学校で生活指導を担当している教員(小学校:校長、中学・高校:カウンセラー)への報告と相談です。担当者に予約を取り、相談に出かけてください。

相談時には、子供から聞いた事実を整理し、感情的にならずに、問題を解決してほしい旨をはっきりと伝えることが必要です。その際、相談にのってくれる学校関係者には問題解決を「要求」するのではなく「お願い」する態度を取ってください。担当者は問題の深刻さに応じて、担任の先生や子供を交えたミーティングをセットします。時には、相手の保護者も含める場合もあります。

英語に自信がないなら、友人に通訳を頼みます。その場合、アメリカの学校のシステムや内容に詳しい人を探してください。学校でボランティアの通訳を探してもらうことも可能です。

相談には、お父さんも参加してください。母親だけに任せないで父親が最初から参加することも、解決の早道です。

注意すること

日本人の保護者がこのようなミーティングに出席した場合、「うちの子供にも非はあるとは思うが」などの表現を使うのをよく聞きます。日本語のへりくだった言葉使いとしてはわかりますが、英語に直すと、問題点の指摘や解決策の模索を真剣に求めている言葉とは取られません。

また、このような問題を解決する時に日本人が気を付けることは、絶対に、相手の子供や親に直接連絡を取らないことです。そうすると、保護者同士の問題となります。「子供のケンカ」を「大人のケンカ」に変えても、何も解決しません。学校や、子供たちのトラブル解決の専門家である学校関係者が仲介できなくなります。

学校内のトラブルならば、学校のシステムの中で解決する努力をしてください。まず、生活指導を担当している教員に相談。そのレベルで解決できない場合は、さらに上のレベルの教育長(Superintendent)や学校区(School District Board)に相談することも可能です。

学校でのトラブル解決のためには、子供に対しても、学校に対しても、「冷静な対応」がもっとも大切です。

(2010年1月16日号掲載)

ロサンゼルスで受けられる日本語教育について教えてください

Q. 日本語教育のチョイスを教えてください

小学校からの日本語・日本文化の教育のチョイスは?

A. 子供の教育目標とニーズに合わせて選ぶこと

松本輝彦(INFOE代表)

1. 日本人学校(全日制)

海外にある、日本の学校のコピーです。

基本的に、日本の学校と同じ学習内容を週日の朝から夕方まで(全日制)受けられ、日本の小学校・中学校の卒業資格が与えられます。北米の4つの日本人学校では約500人が学んでいます。

日本人学校に比べ現地校で学ぶ子供(約2万人)が圧倒的に多いのは、アメリカの学校と英語での教育への保護者の期待からです。それに対して、海外にいても日本語での教育、特に帰国後の進学のため日本と同じ教育を願う保護者が選ぶのが日本人学校です。その結果、滞在予定が短かったり、帰国までの滞在期間が比較的短い子供が多く在籍しているのが実情です。

2. 補習授業校(補習校)

現地校での学習と並行して、週末や週日の夕方に日本の学校のカリキュラム・教科の一部を学ぶ学校です。しかし、日本の法律による小・中の卒業資格は取得できません。

北米には10人程度から千人以上の子供が学ぶ補習校が約80校あり、およそ1万2千人の子供が学んでいます。

海外に一時的に滞在する子供が日本帰国後の学習で困らないように指導するのが、補習校の設立目的です。そのため、日本の学校と同じ教科書を使用して、日本語で授業をしています。

近年、長期滞在の子供が半数以上を占める北米の補習校が多くなり、その教育にも変化が起きています。それは、渡米間もない子供と長期滞在の子供の日本語力・日本語での学力の差が大きく、一斉授業が困難になる問題です。多くの補習校は、レベル別のクラスを作り対応していますが、さまざまな問題が生じています。

長期滞在の子供にとって、現地校と補習校の勉強を並行して続けるのは大変です。しかし、言語習得の完成期である中学1・2年まで、日米の学習をやり遂げた子供で、どちらもネイティブレベルのバイリンガルに育った若者が多く出てきています。

3. 日本語学校

第2言語(外国語)として日本語を教える学校です。

日系人の保護者が子弟の教育のために作った学校が中心で、北米の大都市や歴史的に日系人の多く住む地域にあります。最近は、日本文化に興味を抱く日系以外の子供たちも在籍するようになっています。

家庭で日本語以外の言葉を使って生活している子供を対象とした日本語や日本文化の教育が中心です。子供の日本語力に応じて、教材を選び、日本語や英語で指導します。

4. 日本語イマージョン校

カルバーシティーにあるエルマリノ小学校は、キンダーから6年生までイマージョン方式で日本語と英語で授業を行っている、全米で有名な公立の学校です。

日本語のイマージョン・クラスでは、母語や人種の異なる児童が、午前中は日本語、午後は英語で、言葉だけではなく、他の学校と同じように算数・理科・社会などの学習をします。

5. 塾・家庭教師

子供の日本語力や興味に応じて、個人や少人数で指導を受けます。

比較的日本語・国語力の弱くなった子供を対象にしたクラスを設ける、大都市の日本人向けの塾が増えてきています。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

お子さんには、どの学校?

どの学校で学ばせるかは、お子さんをどのレベルまで教育するかという、保護者の希望や夢によります。日本語での日常会話・読み書き、それともバイリンガル・バイカルチャー。どのレベルが目標ですか?

サウスベイの主な日本語教育機関

種類 学校名 ホームページ
日本人学校 西大和学園カリフォルニア校 www.nacus.org
補修授業校

あさひ学園(土曜日授業) www.asahigakuen.com
西大和学園補習校(土曜日授業) www.nacus.org
三育東西学園(平日授業) www.sanikutozai.org
日本語学校

日本語学園協同システム www.kyodosystem.org
ガーデナ仏教界付属日本語学校 www.gbcjls.org/jls_jp
イマージョン校

El Marino Language School elmarino.ccusd.org

 

(2009年11月16日号掲載)

Q. 米国人の夫との間に幼稚園の娘。現地校のみにするか迷っている

夫がアメリカ人です。娘は今、日本語の幼稚園に通わせていますが、今後、こちらで生活をすることを考えると、この先は現地校だけに通わせるほうがよいのか、それとも土曜日の日本語学校にも行かせようか迷っています。

A. どのレベルを期待するかによって指導や学校の選択が違ってくる

松本輝彦(INFOE代表)

帰国の予定がないのなら英語が第1言語

言語の習得には、話す・聞くが中心の生活言語、読み・書きの学習言語の2段階があります。そして、それら4技能の段階のほかに、幼児・小学生・中学生・大人などの年齢・発達段階に応じた言語の違いがあります。

ご相談の場合は、この先、日本への帰国予定もないようなので、現地校での聞く・話す・読む・書くの言語の4技能すべてが身に付く英語が、お子さんにとっての第1言語になります。さらに、ご主人がアメリカ人で英語が第1言語だと思いますので、お子さんにとって日本語は第2言語になります。

ご相談のケースだと、日本語が母語のお母さんが、お子さんにどのレベルまでの日本語を期待するのかによって、指導や学校のレベルが異なります。年齢や学齢での違いもありますが、ここでは、お子さんが成長し、英語が学習レベルで完成する6年生になった時の日本語力のレベルをみてみましょう。

① 本人は英語で話すが、お母さんの日本語での指示を理解できる
② お母さんと日本語で、日常会話程度ができる
③ 日本の同学年の子供と話ができる
④ 日常会話に加えて、簡単な日本語(2・3年生程度)の読み書きができる
⑤ 日本の学年相当の読み書きができる

ここで示したどの段階までを、お母さん、お父さんが希望するかにより、教育の方法や学校が決まります。

もし、これらの選択肢の内、①、②程度の日本語力を希望するならば、お母さんがご家庭で努力すれば実現可能です。しかし、③以上のレベルを期待するならば、学校などで他の子供たちと一緒に学ばせることが必要です。

南カリフォルニアには3タイプの学校

南カリフォルニアには、週末などに日本語を指導してくれる教育機関がいくつかあります。それらの学校は、日本語の指導レベルで次の3つに大きく分けられます。

① 英語が完全に第1言語になっている子供に、英語で日本語を教える
② 主に日本への帰国予定のない子供を対象に、日本語のレベルに応じた内容を日本語で教える
③ 日本帰国を前提として、日本の学校と同じ学年レベルの教材を使用し、同じレベルで教える

ご質問にある「日本語学校」がどんな学校を示しているのかはっきりしませんが、上の①、②に該当するのが「日本語を教える学校」です。③は日本語補習授業校(補習校)と呼ばれ「日本語で学習をする学校」で、日本語の言語学習だけではなく、日本語で算数・社会・理科などの科目の勉強をします。

このように、将来の子どもの日本語力への期待度、通学可能な学校などの条件も関わってきます。

現地校での勉強でまず学習スキルを付ける

今まで日本語の幼稚園に通わせていたのですから、土曜日の補習校へ続けられるまで行かせてください。しかし、お子さんの言葉を超えた学力の基礎は、月曜日から金曜日毎日通う現地校での学習によって培われるものであることを忘れないように。また、将来、日本語でも読み書きできるようなレベルのバイリンガルに育てたいなら、本人だけではなく、お母さんの大変な努力が必要であることをよく肝に銘じて、指導してください。

高いレベルのバイリンガルに子供たちを育てるのは、親にとっても、子供にとっても、大変な仕事です。しかし、最終的に完全なバイリンガルに育てることができなくても、子供は多くのことをそのプロセスで学びます。単に言葉だけでなく、文化を含めて非常に多くのことを学びます。子供の将来に必ず役に立ちます。

しかし、バイリンガルの基礎は、第1言語です。ご相談の場合は英語が第1言語です。まず、現地校での英語での学習を大切にしてください。アメリカの学校では、日本の学校で決して学ぶことのできない学習スキル(Study Skills)を身に付けることができます。このスキルは、日本語や日本語での学習にも大きな力を発揮します。

(2004年9月1日号掲載)

Q. 日本人向けの学習塾について教えてください

子供の友達が日本語で勉強する学習塾に通い始めました。南カリフォルニアにはどんな塾がありますか?

A. 年齢、指導の目的、指導方法、規模など、多様性に富んでいます

松本輝彦(INFOE代表)

1. 現地校の学習サポート

学習塾の目的の中心は、現地校での学習への適応や成績向上です。

■「英語の基礎力向上」
渡米間もない子供が現地校の授業に参加・理解できるように、基礎的な英語(ESLレベル)の会話や読みを中心として、指導してくれます。英語だけを教えるために、学校とは別の独自の教材を使うところがほとんどです。

■「現地校の学習の補習」
現地校で学ぶ教科や内容に苦労している子供に、宿題や課題などの手伝い、学習内容の予習・復習などのサポートをしてくれます。アメリカの歴史や地理などは、日本から来た子供はまったく学んだことがないので、予習をさせて、効果を上げている塾があります。

2. 日本の中学・高校の受験準備

日本の中学・高校の入学試験受験のための指導をしてくれます。

日本へ帰国した子供たちは、帰国児童・生徒向けの、国内の受験生向けとは異なる入学試験を受験するのが普通です。この「帰国子女入試」の試験科目・試験方法などは、中・高の違いや、学校によって大きく異なります。

例えば中学入試では、国内の受験生には国語・算数(学校により理科・社会も)などの筆記試験が課されるのが一般的です。しかし、海外から帰国した子供たちのために、筆記試験を課さないで試験当日の面接・作文だけで入学判定をする学校もあります。

「受験準備」の学習塾とひと口に言っても、どのようなタイプの入学試験に対する指導をしているかで、それぞれの塾の特徴が出てきます。

■「国内向け筆記試験」
国内の受験生とまったく同じ入試科目・問題の受験の指導です。このタイプの入試の受験は、日本の受験生と同じレベルの学力・知識を要求されるので、海外にいる児童・生徒にとって受験準備が最も厳しいものになります。

■「帰国向け筆記試験」
入学後、日本語での、その学校のレベルの授業についていける基礎的な力があるかどうかを見るための筆記試験です。国語・英語・算数/数学などの筆記試験が課されますが、国内生への試験内容より比較的やさしい帰国生向けの試験内容が一般的です。時には、国内受験生向けと同じ問題を出題するものの、採点で加点したりして帰国生に対する考慮をする学校が多くあります。このタイプの入試を受験する人は、国内向けほどのレベルではなくとも、日本語で書かれた問題を理解し回答しなければなりません。そのため、出題教科の内容の学習指導と受験テクニックのトレーニングを中心に行う学習塾が多くあります。

■「作文・面接」
筆記試験をまったく課さずに、現地校の成績・作文・面接だけで、入学者を決める帰国子女受入れ校が多くあります。作文は「英語のみ」「日本語・英語どちらか」と学校により使用言語が決められます。特に日本語での作文は、海外の子供たちが最も苦手とするものですので、面接同様、トレーニング・指導が必要です。それらの指導を得意とする塾もあります。

3. 日本語での基礎学力の向上

滞米期間が長くなる子供が増え、帰国や日本の学校の受験予定のない子供たちを対象に、日本語の基礎力・日本についての知識や考え方など「日本人に育てる」ための指導をする学習塾のニーズが増加しています。このタイプの塾では、「日本の学校教科書で勉強する補習授業校」と「英語で日本語を指導する日本語学校」の間のレベルと内容の指導が一般的です。

ここで紹介した学習塾のほかに、現地校での学習の補習やさらなる学習を目指した「アメリカ人向けの学習塾」や、日本とアメリカの大学進学の準備に特化した学習塾などが、南カリフォルニアでは多く見られます。これらについては、別の機会に説明しましょう。

いかがでしょうか。「学習塾」と言っても、大きな違いがあるのをおわかりいただけましたか。「子供を学習塾で学ばせるかどうか」の判断は、お子さんに何が必要かをしっかり理解することが先決です。決して、「友達の子供たちが通い始めたから」といって、慌てて決めないでください。

(2008年10月16日号掲載)

Q. 日本語に接する機会が少ないので日本人が多い学校に転校させたい

現在、子供を通わせている現地校は日本人が少なく、子供が日本語に接する機会が少ないです。土曜日は習い事があるので補習校に通わせることはできません。日本人が多い学校に転校をさせたいと考えていますが、どのような手続きが必要ですか。

A. 転校そのものは簡単な手続きだが、日本語学習は現地校以外で

松本輝彦(INFOE代表)

転校の手順

まずは、現地校の転校のための一般的な手順をご説明しましょう。

① 現在の学校の事務室に行き、その学校から転出する旨を伝える。
② 事務員の指示に従って、学級担任(小学校)や教科担任(中学・高校)のところに行き、教科書を返したり、転出日までの成績を受け取ったりする。これで転出完了。
③ 新しい学校へ行き、転入のための書類一式をもらって記入・提出し、転入の許可を得る。
④ 登校初日に、事務員の指示に従い、小学校の場合には決められた学級に出向き、中学・高校の場合は、決めた時間割に従って授業を受け始める。これで転入完了。

高校生の場合は、卒業に必要な受講科目や単位の詳細について、カウンセラーとの相談が入ったりしますが、基本的な現地校の転出・転入は、以上のように簡単です。

同じ学校区内での転校

一般的に学校区(School District)は通学区域を指定しています。ですから、同一学校区内で転校を希望する場合、転入先の校長や学校区に説明を求められます。

Open Districtでは、学校区内の学校を自由に選べます。また、通学区域をその学校区全体に広げた特定の学校(マグネットスクールなど)を持っている学校区もあります。これらの学校に転入するのであれば、転入先の校長の許可だけが必要です。

他の学校区への転校

他の学校区の学校へ転入する場合は、アメリカの学校に初めて入学した時と同じ手続きが必要となります。特に、法律で決められた予防接種は、前の学校に入る時に完了しているはずですから、その証明を前の学校からもらって新しい学校へ提出すれば良いでしょう。

さらに、家庭での使用言語(Home Language)が英語以外であれば、英語の能力試験(Placement Test)を受けた後、転入後の受講クラスが決定します。

越境入学

どの学校区でも、保護者の勤務先がその学校区内にあるなどの特別な理由があれば、学校区や通学区域を越えた転入学(越境入学)を認める場合があります。越境入学に限らず、通常の転入でも、児童生徒数が多すぎるなどの理由で転入を拒否される場合がありますので、事前の調査が必要です。

学業の記録は?

アメリカの学校では、児童生徒の学業や活動の記録はファイル(Accum File)に記録・保管されています。転校した場合は、保護者の要請に基づき、このファイルを前の学校から新しい学校へと学校間で移すのが原則です。履修単位を元に卒業資格を授与する高校の場合とは異なり、小学校や中学校ではこの記録の扱いが雑で、時として紛失してしまう場合もあります。転出時に学校へ申し出て、ファイルを保護者自身が新しい学校へ持参することも可能です。

日本語のために、現地校を転校?

これまでの子供たちの実態から判断すると、現地校での友達との日本語による接触程度では、遊びの中に出てくる、ごく限られた単語を覚える程度です。

この文からだけでは、お子さんの年齢、滞在歴、今後の予定などがはっきりしませんが、「土曜日は習い事があるので補習校に通わせることはできません」とのこと。日本語の実力をどのレベルまで伸ばしたいと考えられているのでしょうか。

「日本人が少ない」からといって、転校しても、昔のように1クラスに日本人生徒が何人かいる学校は、南カリフォルニアといえども、ほとんどなくなってしまったのが現状です。よく調べてみてください。逆に、この地域には、良くも悪くも、全米の他の地域では望めないほどの、塾や平日の補習校など、日本語での勉強の機会に恵まれています。「日本語に接する機会」を求めるならば、その中から、お子さんの状況に合った勉強の方法を探すことをおすすめします。

また、私の持論ですが、お子さんが大人になった時に役立つ日本語力をつけるためには、会話だけではなく読み書きのトレーニングが必要です。もう1度、お子さんの日本語教育について考えてみませんか?

(2006年8月16日号掲載)

現地校と補習校の両立が大変。どうしたらいいですか?

Q. 現地校と補習校の両立が、親子ともにかなりの負担に…

渡米2年目、6年生の息子がいます。週末補習校に通わせていますが、現地校との両立が、親にとっても子供にとっても、かなりの負担になっています。

A. 現地校第一、補習校はその次。日本語は保護者のサポート次第

松本輝彦(INFOE代表)

「両立」とは具体的には、補習校、すなわち日本語での勉強をどのように続けるのかを考えることです。最初に、この学齢期の子供がどんな状況にあるのか、整理してみましょう。

小学校高学年の子供の状況

●読み書きの勉強が増える
4年生くらいになると、学校での学習内容は「話し言葉」中心の勉強から、「読み書き」中心の勉強へ移っていきます。言葉の習得、第1言語習得の最終段階にさしかかっています。机に座って、自分自身でコツコツ勉強する時間と量が増えてきます。それまで皆と一緒で楽しかった学校の勉強が、だんだん苦しくなってくるこの時期は、日本の子供、アメリカの子供にとっても大変で、勉強嫌いの子供が生まれます。

●体力を持て余す
小学校高学年から中学生にかけては、体力の成長が最も著しい、心身のバランスの取れた発達のために大切な時期です。「体力を持て余す」男の子が増えてきます。「落ち着いて、机で勉強をする」ことが困難になって、宿題をスキップするなど勉強にも影響が出てきます。

●自己主張が出てくる年頃
体力の伸長と心の成長のバランスが取れない、自分で自分自身がコントロールできない年頃です。それまで、お母さんの言うことをよく聞く「良い子」だったのが、言うことを聞かない「反抗児」に変わってきます。

●渡米2年
ESLレベルからレギュラーに移る時期で、勉強の内容も、英語自体も難しくなります。渡米直後は余裕のあった算数などの貯金も使い果たし、英語で新しい内容を学び、理解していかなければなりません。

どんな子供に育てたい?

人間の成長にとって最も困難な時期にあるお子さんに向かい合って、勉強を含めて、日々どのように対応すればいいのか?その答えは、「親として、お子さんをどんな大人に育てたいか?」によって決まります。

お子さんを「日本語も英語もネイティブレベルのバイリンガル・バイカルチャー」に育てたいならば、この時期の英語と日本語での勉強を何とか乗り越えられるように、親子一緒に頑張るしかありません。

「勉強よりも心身の発達を」と考えて、スポーツに専念させることも可能です。その場合、「半年間の補習校の休学は、読み書きの能力を極端に低下させ、日本語の会話ができるだけの子供にしてしまいます」と、私自身の補習校の教員の経験から警告しておきます。

または、渡米後のお子さんの学習状況をよく振り返って、「日本語で勉強させたい」と考えられるならば、これを機会に日本人学校へ転校し、日本語だけでの勉強に集中させてあげることです。

あなたのご家庭はどの方向へ向かっていますか?現実的には、「日本語も英語もスポーツも、バランス良く。子供の選択できる幅を広く取っておきたい」と考え、「両立」に悩む保護者がほとんどでしょう。答えは、「現地校第一、補習校はその次」。そして、「日本語での学習は、お父さん・お母さんの努力・サポートで決まる」です。

夏休みを利用して

1つだけ、現地校の勉強への、具体的なサポートの方法を紹介しておきましょう。

週5日通う現地校の勉強の負担の方が大きいので、現地校の学習内容の新学年に向けての予習を、この夏休みにさせてください。まったく知識のないアメリカの地理・歴史などを学ぶ社会科、日本語での理解が簡単な算数や理科の、次の学年の教科書を使った予習です。

これで、これまでお客さんだった授業の内容が少しでも理解できるように、現地校の勉強に対する余裕を持たせ、心の負担を軽くします。その結果、宿題やクイズなど日々の学習を評価する現地校の成績が上がってくれば、勉強に対する気持ちも大きく変わってきます。

補習校の勉強の具体的なサポート方法については、ただ1つだけアドバイスを。お子さんは小さい時と違います。別の勉強のさせ方を工夫してみてください。

(2007年7月1日号掲載)

Q. 5年生の男の子が補習校に行きたがりません。いつまで続ければ良いですか?

 

A. 補習校は中学卒業を目標に。バイリンガルに育てる

松本輝彦(INFOE代表)

「5年生の壁」

4・5年生で、「補習校に行きたくない」「辞めたい」という子供、特に男の子が増えてきます。その主な理由は、「体力の向上」と「勉強の変化」です。

この時期の子供の抱える問題、特に「第一言語の習得」への最後の坂道を、私は「5年生の壁」と呼んでいます。

身体と心の変化

小学校高学年から中学までの子供の身体の成長と体力の向上は大変大きく、それに伴い精神的にも大きな変化が現れます。俗に言う「思春期」です。

4・5年生は、その始まりの年齢です。外見的には、身体の発達と運動能力の向上が目立つ時期です。特に、男の子は「じっとしていられない」と身体を動かしたがるようになります。本格的にスポーツを始める子供が多くなり、補習校の欠席など、勉強にも大きな影響が出てきます。

「読み書き」の勉強に移る

「話し言葉」での勉強から「書き言葉」での勉強に大きく変化するのも4・5年生です。

補習校の国語や社会で扱う教材は、もはや親子の会話の内容のレベルではなく、「大陸漂流説」「環境問題」など抽象的で幅広い題材に変わっていきます。その内容を、自分1人で「読んで、考え、書く」作業が、勉強の中心となってきます。

実は、この勉強の変化は、日本だけではなくアメリカの学校での勉強でも起きてきます。現地校での「エッセイ」の勉強の始まりと徹底した指導が、その象徴です。

この現地校と補習校での「じっと机に向かっての勉強への変化」に対応できない子供が、日米どちらでも多く出てきます。

第一言語の完成期

この「読み書き」の学習レベルを乗り越えれば、お子さんの言葉は「第一言語」「ネイティブとしての言葉」の基礎が完成します。逆に言うと、この壁で止まると、「おしゃべりだけ」「大人では通用しないバイリンガル」で終わってしまいます。

中学1・2年生までのこの段階は、高校・大学、さらには大人になってからの学習や生活に必要な基礎的な言語の力を身に付ける、非常に大切な時期です。その基礎の上に、より専門的な知識の習得や抽象的な思考力を築いていきます。

「読み書き」の力を付けることは、言語の基礎の習得に終わらず、社会人としての基礎能力やアカデミックな学力の基盤となるのです。

目標は中学卒業

お子さんには、「中学卒業までがんばろう」と(ご夫婦で)声を掛けてください。学校教育のひと区切りで、分かりやすい目標になります。この掛け声の下、大変な海外での日本語の習得、日本語での学習を続けていきましょう。

しかし、この目標の最終段階の中学2・3年は、現地校の勉強も坂道にかかってきます。がんばって勉強している子供には「もっとレベルの高い勉強を」、苦労している生徒には「高校に備えて基礎力の充実を」と、家庭学習の質・量が共に増えてきます。学力や知識の飛躍的な向上の中心となるのは、当然週5日学んでいる現地校の勉強ですから、力を抜くわけにはいきません。

そのため、「中学卒業」の目標を達成するのは大変になってきます。そこで、現実的な(保護者だけに向けての)目標として「最低、中学1年終了まで」を、私はすすめています。その理由は、これまでの説明でお分かりになるように、「第一言語としての日本語の習得」です。

これからのバイリンガル?

今の子供たちが大人になった時に「宝」となるバイリンガルのレベルは、「会話」だけではなく「日本語と英語で読み書きも出来ること」です。そして、その言葉の力で、多くの異なった文化を吸収し理解していく「バイ・カルチャー」のレベルが、現代の子育ての目標です。

子供だけではなく保護者にとっても、「バイ・カルチャー」のレベルに達するまでには大きな努力が必要です。もし、お子さんをこのレベルまで育てる決心をしたならば、ここで紹介した「5年生の壁」を親子で乗り越える最大限の努力をしてください。

あと2・3年のがんばりで、お子さん自身を「宝物」に変えてあげることができるのです。

(2009年4月1日号掲載)

Q. 中2の長男の補習校の学習が続きません。今後、どうすれば?

 

A. 補習校を辞めても仕方ありません。しかし、次に述べるような約束を、お子さんと交わしてください

松本輝彦(INFOE代表)

ある質問

在米8年になります。この先、特に帰国の予定はありませんが、できれば子供たちには日本の大学に進学してもらいたいと思っています。

最近、中2の長男が思春期(反抗期?)に入ったらしく、補習校の宿題等が以前のようにうまく進んでおりません。補習校の先生とも、どのように学習を進めたら良いのか暗中模索の状態です。

現地校ではちゃんと宿題も提出し、成績も取れています。

質問への回答

私の回答は、「補習校を辞めても仕方ありません。しかし、次に述べるような約束を、お子さんと交わしてください」です。

「日本語での読書を増やす」
日本語での知識を獲得する最も効果的な方法は、日本語の本の読書です。日本語での知識、さらには日本人としての常識・文化的な力を伸ばします。

「現地校の成績を上げる」
現地校の学習・成績は、今後のお子さんの学業・進学の成功への鍵です。また、英語での知識・学力が日本語での能力に大きな力を発揮します。

◇  ◇  ◇  ◇

回答の根拠をご紹介します。

■中学生:補習校が続かない
中学生になって、日本語での勉強が続かなくなって、補習校を退学する。

実は、中学生が、現地校での英語での勉強と並行して日本語での学習を続けてきた子供(保護者)が、補習校を退学する最も一般的な時期です。どの補習校でも見られる現象で、それぞれの補習校の小学生と中学生の生徒数を比べればはっきりします。

中学生になって日本語での勉強が続けられなくなる理由、また、補習校を退学する理由は、子供・家庭の事情によりさまざまです。しかし、日米の学校の小学校と中学校の勉強の目的の違いが、その理由の根底になっています。

■小学校での学習
小学校段階での学習の大きな目的の1つは「言語の習得」、具体的には「話す聞く」から「読み書き」の能力の完成です。

低学年の「話し言葉中心の学習」「文字の導入」から、高学年の「読み書き」能力の完成までの学習ステップを通じて、第1言語の習得を目指します。日米どちらの小学校でも、高学年になると読書量が増えて、作文・エッセイで苦労する子供が多くなります。

補習校でも、国内の学校と同じカリキュラムで日本語を学びます。この時期を補習校で学んだこのお子さんは、読み書きも含めた日本語の基礎がほぼ完成していると思われます。

■中学・高校での学習
日本(補習校)の中学校以降の学習は、言語としての日本語ではなく、日本語での知識や学力の獲得が目的です。そして、知識・学力の量と質は、学年と共に飛躍的に増大していきます。それは、日本の中学・高校の学習内容を振り返ればはっきりとわかります。

また、現地校の中学・高校での学習もまったく同じ状況です。ご相談のお子さんは、現在中学2年生(現地校7~8年)とのことですが、今後、現地校での勉強は学年が上がるに従って学習の質量共により厳しくなってきます。習熟度別のクラスが多くなり、生徒の学習レベル・能力に応じた学習が要求されます。

すなわち、現実的には、中学・高校のレベルのすべての学習内容を、日本語と英語で学ぶことは不可能ということです。

■大学進学
アメリカの日本人高校生が、日本・アメリカを問わず、大学に進学するためには、現地校での学習・成績が最も大切です。

日本の大学への進学に当たっては、「帰国子女大学入試」を受験します。この特別入試は、海外で学んだ日本人を対象としています。この特別入試を実施する大学は、語学力・海外生活体験・現地高校で得た学力など、国内受験生が持たない、海外の学校で学んだ受験生だけが持つ能力や特性を求めています。日本語だけで授業を行う大学・学部は基礎的な日本語能力を求めますが、補習校の中学校で学んだ基礎があれば十分です。また、最近は英語のみ、あるいは英語での授業が大半の受け入れ大学・学部が多くなりましたので、入学後の日本語力を必要以上に心配することはありません。

アメリカの大学に出願・進学の可能性のあるお子さんの場合、現地校での学習・成績が最重要なのは当然です。

(2010年7月1日号掲載)

アメリカの学校での成績評価方法とは?

Q. 現地校で、発言回数が重要視されるのはなぜですか?

授業の際、娘の発言が少ないと、先生から注意されました。確かに、娘は家庭内でも口数は少ない方ですが、なぜ現地校では発言回数を重視するのでしょう?

A. 授業態度を低く評価され、成績が下がることがあるからです。

松本輝彦(INFOE代表)

授業への参加?

アメリカの学校での授業態度の評価項目の1つに「授業への参加(Class Participation)」があります。文字通り、子供がどれだけ積極的に授業に参加したかを評価する項目です。

具体的には、授業中の質疑応答やディスカッションで積極的に発言し、自分が学ぶだけではなく、グループ全員が学ぶことに、グループの一員としてどれだけ貢献しているかを評価するものです。先生によって、評価の基準に多少の差はありますが、子供の学習態度を評価する大切な項目であることに、変わりはありません。

【授業参加の例】ディスカッション

授業でのクラス・ディスカッションやグループ・ディスカッションは、あるテーマについて子供同士が意見を出し合って、一緒に考えます。もう少し詳しくみると、「他の人の発言を聞く」「それについて考える」「自分の意見をまとめる」「その意見を皆に向けて発言する」というステップを繰り返します。そして、時には、グループとしての意見や考えをまとめるというプロセスです。

この「聞く」「考える」「話す」という繰り返しのプロセスをトレーニングするのがディスカッション活動です。活動には、「子供同士で学ばせる」「良きアメリカ国民を育てる」という、大きなねらいがあります。

子供同士で学ぶ。日米の教育の違い

学校での授業には、「先生が教え、子供は受身で学ぶ」「先生はサポーターで、子供同士が主体的に学ぶ」という2つの方法があります。「先生の話をしっかり聞き、先生に聞かれた時に発言する」という日本の典型的な授業は、前者の受身的な学びが中心であることが理解できます。

一方、アメリカの教室では、「授業は先生と子供全員で作り上げていくもの」という考え方のもと、後者の「子供が主体的に学ぶ」方を大事にしています。

さらに、アメリカの授業では、ディスカッション活動を通して、自分1人では思いつかないような考え方や情報を、また、それについてみんなの考え方を、お互いに提供・共有(share)するという「子供同士での学び合い」が、日本と比べてより大きな意味を持っています。

この日米の授業に対する考え方の差が、「発言」に対する評価の違いに表れているのです。また、お子さんだけではなく、日本の教育しか受けていない保護者の皆さんの「発言」についての混乱の原因にもなっているのです。

良き国民を育てる。アメリカの教育の目的

「子供同士で意見を出し合って、1人1人がよく考え、お互いの意見を修正し合って、最終的には1つの意見にまとめていく」というディスカッションのプロセスは、アメリカの国の基礎である「民主主義」の根幹です。

そのプロセスを、国民としてこの国を支えていく子供たちに身に付けさせるために、国民の税金を使った学校教育を通して、日々の学校での活動の中でトレーニングすることは当然です。「良きアメリカ人」を育てるという、アメリカの教育の目標です。

例え、皆さんが数年の滞米のみで日本に帰られるとしても、現地校で、この国の教育を受けているならば、お子さんを「良きアメリカ人」に育てていかないと、高い評価は受けられません。

アメリカの学校で学んでいる子供をサポートしていくために、保護者として知っておいてほしい「アメリカの教育の考え方」についてお話しました。ここで紹介した背景を含めて、おとなしい性格であっても、「必要な時にははっきりと発言する」という努力が必要だと、お子さんに話をしてあげてください。その努力によって、友達の輪が広がり、学校での生活がより楽しくなるに違いありません。

また、いつもの話になりますが、その努力が、日本帰国後やお子さんの将来に「宝」になることを、最後に付け加えておきます。

(2008年3月16日号掲載)

Q. 成績表で「積極的に質問を」と 指摘されました。その理由は?

 

A. 「授業中の質問・発言は成績の一部」は、アメリカの教育の特徴

松本輝彦(INFOE代表)

「授業中の発言が少ない」「より積極的な授業参加を」と、学期末・学年末の成績表に記入されたり、保護者面談で現地校の先生から指摘されることがあります。

日本からやって来た子供たちは「質問ベタ」です。その背景には日本とアメリカの学校教育の違いがあります。

日本:質問は恥ずかしい!

日本の子供たち(小学生から大学生まで。大人も?)は、「授業中に質問することは恥ずかしい」と言います。その理由を聞くと、「『そんな簡単なこともわからないの』とクラスメートや先生に思われるから」との返事です。この「質問することは恥ずかしい」との思いは、実は、日本の学校教育の中で受けた指導や教育の結果なのです。

授業中に質問した生徒に対して、「お前、授業をちゃんと聞いていなかったのか!?」と詰問する先生すらいます。その先生の頭には、「僕は、ちゃんと説明をした。その説明で理解できないのは、生徒の努力不足だ」との思いがあるはずです。そして、その思いは、「教師の話を聞いて理解するのは、生徒の責任だ」、もっと極端には「先生の説明はいつも完全だ」という考え方に基づいています。

この考え方を元にした学校教育を受け続けた子供が、「質問することは恥ずかしい」と思い、質問をしなくなるのは当然です。

アメリカ:質問は先生の恥?

一方、アメリカの先生は「子供が質問をするのは、私の説明が不十分な証拠だ」と考えています。「子供に理解させる責任は、先生にある」との教育文化が背景になっています。

そのため、「Any questions?」と、子供たちに何度も問いかけます。そして、出てきた生徒の質問に対して、前とは異なる新たな説明をして、「これでわかった?」と確認をします。理解する責任が子供にある日本と先生にあるアメリカ。まったく逆の教育文化です。

質問を活用した授業

現地校での質問の大切さには、もう1つの理由があります。それは、子供からの質問に答えることで、クラスの子供全員の理解を深める授業方法の活用です。

「くだらない質問はない!」は、現地校の先生の口癖です。1人の子供の質問が、他の子供たちが抱いていたのと同じ疑問である場合が多くあります。また、その質問が、他の子供たちが「わかったと思い込んでいた」、基礎的で重要な内容の場合もあります。さらに、クラスメートの誰も思い付かない、まったく異なった視点に立った貴重な質問であることもあります。

これらの、子供たちから出された質問を活用して、子供たちの間でのディスカッションを展開し、学習内容のより深い理解へと進めている授業を、現地校でよく見かけます。

発言は、成績評価の一部

このように、授業中の子供の質問、また他の子供の質問や回答に対する発言(コメント)などを、授業中に積極的に発することが子供たちに求められています。そして、その授業中の発言や質問は、授業態度や授業参加(class participation)の一部として、評価に反映され、成績表に記載されます。授業参加の評価を、評価全体の2割程度まで配点する先生も珍しくありません。

お子さんへのアドバイスを

日本で学校教育を受けてきた子供にとって、「質問はしない」日本の学習習慣を、現地校への編入と同時に「積極的に質問する」に切り替えることは、不十分な英語力も加わって、大変な努力が必要です。しかし、お子さんが現地校での勉強にサバイブするために、「質問上手」になることが必要です。

もし、お子さんが「質問は恥ずかしい」と感じているならば、ここで紹介した日米の学校教育の違いを話して、その理由を理解させてあげてください。

◇ ◇ ◇ ◇

「積極的な発言力」「的確な質問ができる」は、帰国子女の大きな「望ましい特性」です。お子さんが、現地校での学習を通して、これらの「宝」を身に付けられるよう、サポートしてあげましょう。

もっとも、友人の現地校の先生の言う「授業中の質問と、授業中のおしゃべりを勘違いして、むやみやたらに発言する子供が増えてきた」にもあるように、アメリカの子供たちにも変化が出てきているようです。

(2010年8月1日号掲載)

Q. 現地校の出欠管理。 なぜ、こんなに厳しいの?

 

A. 子供の指導に加え、学校の財政維持が大きな理由

松本輝彦(INFOE代表)

アメリカの小学校から高校まで、子供の出・欠や遅刻早退に大きな注意を払っています。子供の発達段階に応じた理由と、学校自体の都合があります。

小学校:学習指導のため

「出欠記録を見ていると、子供の学校外での生活や学習の様子がわかる」。現地の小学校の校長先生の言葉です。

「子供が学校で落ち着いて勉強できるように登校させる」ことを、小学校の先生たちは保護者に期待しています。小学生の欠席や遅刻は、保護者の家庭生活のコントロール不足とみなされます。当然その結果が、子供の学校での学習や生活に現れてきます。

欠席や遅刻が多くなった子供に、まず先生が事情や理由を聞きます。担任や校長から保護者に家庭生活改善の希望が電話で伝えられます。それでも続く場合は、保護者を呼び出して面談を繰り返します。家庭を訪問するようなことはありません。

中学:生活指導のため

中学では、学習指導や生活指導のために、出欠記録が活用されます。

中学校になると、勉強が質量共に増えてきます。教科によってはレギュラーやアドバンス(オナーズ)などと呼ばれる習熟度別クラスで、子供の学力に応じた指導が始まります。この変化に、子供たちは勉強のプレッシャーを感じ始めます。「遅刻・欠席が多くなってくると、勉強が赤信号」とみなされます。

また、中学生は思春期の真っ只中です。急激な身体的成長と並行して、反抗的な態度が目立ってきたり、生活態度が大きく変わってきます。学校が、友達との社会生活の場所へと変化してきます。身体・精神の急激な変化に自分自身がどう対応したら良いのか戸惑って、行動や生活のモデルとして学校の友達を大変気にするようになります。友達の影響(peer pressure)を強く受け、一緒に行動することが多くなり、家庭や学校での問題行動がしばしば見られるようになります。その変化が出欠記録に現れてきます。

遅刻や欠席、時には早退などが増えてくると、校長やカウンセラーの本人との面談に始まり、保護者の呼び出しへと発展していきます。

高校:単位発行のため

アメリカの高校は、受講クラスの科目・種類や取得単位数で卒業が決まります。単位の発行は、受講クラスでの宿題やテストなどの学習成果に加えて、授業への出席日数・時間数を基にして決められます。

成績がたとえ「A」でも、一般的に、合計授業時間数の1割以上の欠席があると単位は発行されません。例えば、年間授業日数は180日で毎日同じ時間割で授業があるとすると、学期(セメスター)の授業時間数90コマとなります。そのうちの1割、9回を欠席すると「F」が付いて単位が発行されません。授業への遅刻や早退も「3回で欠席1回とみなす」などと扱われます。

欠席や遅刻・早退の回数が増えてくると、土曜日や放課後などに補習させて、なんとか出席時間数を確保する機会を与えてくれる学校もあります。

学校:補助金確保のため

公立の学校を運営・維持管理していく基礎的なお金は、「学校に出席した児童・生徒数の毎日の平均(ADA)」に基づいて、州政府から補助金が出るのが一般的です。

補助金を少しでも多く得るためには、1人でも多くの子供が出席し、その出席者数を正確に把握・記録することが大切です。また、欠席や遅刻が「正当な理由」のあるものであれば補助金は支給されるのが一般的ですので、欠席した場合の保護者の届出やその理由の記録が欠かせません。そのための努力、出欠を記録する担当者やオフィスの設置などを、学校区や学校は決して惜しみません。

「1人の生徒が無断欠席すると、1日に数十ドルをもらえない」と、ずいぶん昔に聞いたことがあります。学校が出欠管理に必死な理由がよくわかります。

◇ ◇ ◇ ◇

ここで述べた学校での出欠に関わる話は一般的なものです。実際のルールや運営方法等は、州・学校区・学校により大きく異なります。お子さんが学んでいる州や学校のルールがどのようなものかを、一度確認されることをおすすめします。

(2010年10月16日号掲載)

Q. 子供がレポート作りで苦戦。レポート指導の目的と対策は?

 

A. 「調べて、書く」トレーニング。レポートの「型」を身に付ける

松本輝彦(INFOE代表)

レポート?

アメリカの学校で必ずトレーニングされる「レポート」は、「調べた事実や内容、それに対する自分の考察・考え・感想をまとめた文章」のことです。読書後に感想を書かせたり、内容を分析させたりする「ブックレポート」と区別してください。また、「考えて、書く」のがエッセイで、「調べて、書く」のがレポートだと理解してください。

小学校での練習

小学校でのレポート作成指導は、レポートの「型」と「方法」をしっかり身に付けさせるのが目的です。「考えて、書く」エッセイと並行して、「調べて、書く」レポート作成のトレーニングが始まります。

最初のステップは、3年生くらいで、半年から1年かけて、先生の指導に従って、表紙・内容・まとめ・感想とレポートの内容を徐々に仕上げていきます。この段階では文字よりも絵・写真・サンプルなどを決められた大きさの用紙に書いたり貼り付けたりして、1ページずつ作っていきます。最後に、それらを綴じこんで1冊の本(ノート)にして、レポートの完成です。レポートの「型」と作成のステップ・内容を、子供が身体で覚えていきます。

次は、自分の住んでいる州の地理や歴史の学習の一環としてのレポートの作成です。カリフォルニアの4・5年生が作る「ミッションレポート」がその例です。キリスト教伝導のために、南から北へと建設された21のミッションをたどることにより、ヨーロッパ人による開拓初期のカリフォルニアの歴史が概観できます。子供たちは、1つのミッションを選び、1年かけてそのミッションについてのレポートを作成します。

レポートの全体構成を示す目次が、先生より渡されます。表紙にミッションの絵を書き上げ、地図を示し、建設の歴史や建物の特徴を文章にまとめます。最後に、子供自身の考察や感想を書いて完成です。選んだミッションの調査は、インターネット・図書館や自分で購入した資料を活用します。さらに、ミッションを訪問し、資料を集めたり子供自身が写真を撮ったりするのに、家族全員が協力します。子供によっては、自分のミッションの大きな模型を作って、レポートの一部として提出する場合も多くあります。

小学校の最後は、アメリカ合衆国全体の学習の一部としての「State Report」の作成です。さまざまな方法がありますが、1つの州を選んで、その地理や歴史、さらには現状を調べまとめます。あるクラスでは、自分の選んだ州の観光局に子供自身が手紙を書いて、観光用の資料を送ってもらいます。その資料の中の写真・絵・地図・図表を活用して、レポートをまとめました。

中学・高校での練習

小学校でのレポート作成トレーニングを基礎として、中学校では「調べる」、調べた結果を「まとめて書き上げる」スキルの向上が中心となります。口頭で発表する「プレゼンテーション」のトレーニングも始まります。そのトレーニングは、すべての教科の学習の中で行われます。英語・社会・理科はもちろんのこと、最近では数学でレポートを作成させる学校も見受けられます。

高校になると、「レポートが書ける」のを当然として、レポート課題が出されます。指導の中心は、「調査の方法や内容が十分で、考察ができているか」「読者が理解できるような、より効果的なレポートが書けているか」など、より高度な指導が行われます。

帰国生の「宝」

アメリカの学校で学んだ子供が日本に持ち帰る「宝」の1つが、レポート作成能力です。「レポートって、何を、どう書いたらいいんですか」と質問する日本の大学生に、レポートは書けません。日本の学校では指導されることのない能力を、お子さんは身に付けているのです。

◇  ◇  ◇  ◇

このコラムは、レポートの一般的な内容や指導方法を、保護者の皆さんに理解していただく目的で、まとめてみました。ここで説明したレポートの構成や狙いを、お子さんに日本語でお話ししてあげてください。お子さんのレポート理解の参考になると思います。

(2011年1月16日号掲載)

カリフォルニア州の州立大学、CSUとUCの違いは?

A. 教育の役割が分担され、全米トップレベル。しかし、州の財政難に要注意

松本輝彦(INFOE代表)

カリフォルニア州立の大学

カリフォルニア州は人口に比例して大学進学希望者が多いため、2年制と2つの4年制の大学システムが州により作られ、州の財政援助を受けて運営されています。

カリフォルニアの大学システム

システム コミュニティカレッジ カリフォルニア州立大学 カリフォルニア大学
California Community Colleges (CCC) California State University (CSU / Cal State) University of California
(UC)
年数 2年生(短大) 4年生 4年生
過程 準学士 学士・修士 学士・大学院(修士・博士)
キャンパス数 110 23 10
在籍学生数 290万人 40万人 学部 18万人
大学院 4万人
高校卒業生 トップ約30%が進学 トップ約15%が進学
学部生
年間授業料
(概算)
 CA州民: $26/unit
 留学生: $249/unit
 (El Camino College, 2010)
 CA州民: $4,810
 非州民追加額: $8,928 (12単位)
 (CSULB, 2010-11)
 CA州民: $11,868
 非州民追加額: $22,021
 (UCLA, 2010-11)
生活費他 $15,000 $15,000
Webサイト www.cccco.edu www.calstate.edu www.universityofcalifornia.edu
特徴 世界最大の大学システム キャンパスが多い 全米のトップレベル
カリフォルニア・マスタープラン 公立短期教育機関
ユニバーサル教育機関
学部課程教育機関
マス型高等教育
大学院教育と研究機能
エリート型高等教育

 

コミュニティカレッジ

2年制(短大)のカリフォルニア・コミュニティカレッジ・システム(CCC: California Community Colleges)は、幅広い地域住民を対象にさまざまな教育の機会を提供しています。高校卒業生には基礎的教育・職業訓練と4年制(大学)へ編入(transfer)のための準備教育を行ない、地域の成人には教養・趣味から職業能力の向上を目指した生涯教育を提供しています。
 
転進学準備クラスの受講は、一般的に高校卒業資格(Diploma)があれば可能です。CCC在学生の約1割が転進学を目指し、そのおよそ半数が、所定の単位と成績を取得して、4年制大学へ転進学を果たしています。

4年制の州立大学(CSUとUCの違い)

毎年、カリフォルニア州の高校卒業生の成績上位約3割が、4年制大学であるカリフォルニア州立大学(CSU / Cal State: California State University)かカリフォルニア大学(UC: University of California)のどちらかに進学しています。この2つの大学システムの大きな違いは、表の「カリフォルニア・マスタープラン」に示した、CSUとUCの役割の違いにあります。
 
1960年に州議会で制定された「カリフォルニア・マスタープラン」で、学部4年間での実務的な教育を中心とするCSU、より高度で理論的な大学院生への教育と大学自体の研究の促進を目指すUC、とそれぞれの大学の役割分担を決めました。
 
CSUとUCの2つの大学システムの役割は今でも基本的に守られながら、教育・研究で非常に多くの成果を収めてきました。現在は、アメリカのみならず世界の大学教育・大学改革のモデルとなっています。

大学選びに当たっての注意

CSUとUCのもう1つの特徴に、それぞれのシステムを統一して管理運営する機関があり総長がいますが、ひとつひとつのキャンパスが独立した大学のように理事会・学長を持つ運営方法があります。そのため、同じCSU/UCでも、キャンパスによって、大学・学生数の規模、学部・専攻分野などの教育内容、キャンパスライフまで非常に幅広い差があります。
 
大学・キャンパス選びや進学では、CSUとUCだけではなく、それぞれのキャンパスでの教育・学生生活の違いをよく理解することが必要です。

最近の状況:財政難

ここ数年の国と州財政の危機が、大学の運営に深刻な影響を与えています。特に、この2年のカリフォルニア州立大学への州補助金の大幅な削減は、入学定員・開講クラス数・教職員の削減と授業料・諸経費の高騰を招いています。そのため、進学希望者には、入学への競争が厳しくなり、卒業までの年数が長くなるなどの影響が顕著になっています。

(2010年9月1日号掲載)

Q. カリフォルニアの公立大学、その特徴は?

高校生の子供がアメリカの大学への進学を希望しています。カリフォルニア州にはさまざまな公立大学があると聞いています。それらの大学の特徴を教えてください。

A. カリフォルニア大学、カリフォルニア州立大学、コミュニティカレッジの3システム

松本輝彦(INFOE代表)

12年生の秋は、アメリカの大学に出願するシーズンです。ご質問にありましたカリフォルニアの公立大学について、大まかに紹介します。

カリフォルニアの公立大学

カリフォルニア州は、全米で最も人口が多い州です。その州民に平等に高等教育を受ける機会を与えるため、3つの公立大学システムが設置されています。これらはすべて州によって設置され、州の公的資金援助を受けて運営されています。
 
コミュニティカレッジ(CCC: California Community Colleges)は、誰でも学べる地域のカレッジとして位置づけられています。高校卒業資格があれば正規の学生(Fulltime Student)として登録でき、所定の必要単位を取得すれば準学士号(Associate Degree)を取得できます。在学中の単位の取り方により、4年制の大学に編入(transfer)することも可能です。
 
カリフォルニア州立大学(CSU / Cal State: California State University)とカリフォルニア大学(UC: University of California)は、ともに4年制大学ですが、前者は実務的な教育を行う大学、後者は研究中心で理論的な教育の大学と大まかに分けることができます。取得できる学位(Degree)は、CSUは学士号(Bachelor)、修士号(Master)で、UCはそれに加えて博士(Doctor)課程があります。
 
どちらも、非常の多くの学問分野から専攻を学べますが、キャンパスにより取得できる学位や専攻分野は異なります。出願時に要求される条件(Eligibility)はUCの方がCSUに比べて厳しく、入学の難易度は高くなっています。全米のレベルでも入学が難しい、人気のある大学です。
 
最近はCSU、UCともに、入学がだんだん難しくなってきています。また、入学後も在校生が多いので、希望クラスの受講が困難で、卒業に5年を要する学生も多く見られます。また、授業料の高騰が著しく、比較的安いコミュニティカレッジで最初の2年間を学び、編入後、4年制の大学を目指す学生が増えてきています。

出願・入学の手順

2007年秋学期へのCSUとUCへの出願は、今年の11月30日で締め切られます。出願には、10・11年生の受講科目と学業成績(GPA)・統一試験の成績などの提出が必要です。1通の願書で、複数のキャンパスへ出願できます。大学は出願書類を審査の上、来年の2、3月に合否の通知を出願者へ郵送します。07年5月1日付で、どの学校へ進学するかを決定し、大学へその旨を連絡します。そして6月の高校卒業後、最終成績を大学に送り、夏から秋にかけて大学に入学し、講義を受け始めます。

授業料

ここで紹介した大学は州の税金でサポートされていますので、カリフォルニア州の住民かどうかで授業料に非常に大きな差があります。授業料を決めるための州民かどうかの判定は、ビザの種類と州内での居住歴によって決められます。一般的に、学生が市民権か永住権を持っている場合か、保護者がEビザかLビザを保持している21歳以下の子供の場合で、入学の直前に1年間カリフォルニアに住んでいると、州民の授業料が適用されます。子供が21歳になると保護者のビザではなく、留学生(F-1)ビザへの切り替えが必要となり、非住民追加額(Out-of-State Tuition)の支払いが発生します。住民かどうかの判断は各大学が独自に行い、同じ大学システムでも、キャンパスによりその判断が異なる場合があります。
 
授業料以外の面でも、アメリカの大学は、同じシステムでもキャンパスによって、出願や入学などの詳細が大きく異なります。ここで紹介したことは、その概要に過ぎません。必ず、各大学ホームページで、詳細を確認してください。

(2006年10月16日号掲載)

Q. 2012年以降のカリフォルニア大学の入試は?

UCの入学が大変だそうですが来年と2012年からはどうですか?

A. 2012年は経済危機の影響が大きく、その後は出願方法が変更されます。

松本輝彦(INFOE代表)

カリフォルニア大学(UC)

カリフォルニア州は、高校生の人口が多いので、カリフォルニア大学(UC: University of California、定員は高校の上位12.5%)・カリフォルニア州立大学(CSU / Cal State: California State University、上位30%)・カリフォルニアコミュニティカレッジ(CCC: California Community Colleges、学生数200万人)の3つの州立の大学システムを設けています。
 
そのうち、UCは11のキャンパスを持ち、世界でトップクラスの教育・研究の質と量を誇っており、州内だけではなく他州や世界中の国々から優秀な学生が集まってきています。

現状と来年度は?

州政府の財政危機
世界中の経済不況の中、カリフォルニア州の財政が危機的状態です。この危機を乗り越えるために、税収の増加と大幅な支出削減が避けられません。
 
州の年間予算の約30%が義務教育(K-12)、約10%が高等(大学)教育に充てられています。州の税金で運営されている公立学校や州立の大学にも、経費削減による深刻な影響が出ています。
 
カリフォルニア大学(UC)への影響
州立大学であるUCシステムへの大幅な経費削減は、入学者数の減少、学費の値上げ、奨学金の減額、クラスの閉講などに現れてきます。
 
現在12年生の来年秋の入学申し込みは、この11月末で締め切られますが、各キャンパスで入学定員の削減が予想され、入学希望者にとっては厳しい戦いになります。また、入学後も希望のクラスの受講登録が困難になるなど、卒業までの期間が長くなる可能性も高くなります。
 
授業料値上げの提案
さらに、今後2年間で次の3段階の授業料値上げが検討されています。
①来年2010年初めの学期から約600ドル
②10年秋から約1200ドル
③11年秋から約1350ドル
 
②、③は現在の授業料の各15%に相当し、11年秋入学から「UCの年間授業料が1万ドル」の時代に入ることになります。これに加え、州外生追加授業料も年間2万ドル以上に値上げされることが予想されています。今後の報道に、十分ご注意ください。

12年からの変更点

上位9%は合格保証
各高校または州全体で上位9%の成績を収めた12年生はUCキャンパスへの進学が保証されることになります(ELCプログラム: Eligibility of Local Content Program)。
 
11年生修了時の受講科目と評点平均(CPA: Grade Pont Average)を各高校が州に報告し、このECLプログラムが適用される生徒が選ばれます。その生徒は希望するUCキャンパスに出願します。入学審査の結果、希望するキャンパスに合格できなかった場合は、別のキャンパスへの進学をすすめられます。
 
カリフォルニア州の高校卒業生の12.5%が進学できる定員をUCは目標としています。このELCプログラムで上位10%がUCに進学できるよう計画されています。そうすると、その差2.5%の定員枠に、上位9%の成績を取れなかった学生の出願が集中し、入学競争が激化することになります。
 
SAT Subject Testは不要
現在、UC出願時に提出しているSubject Test 2科目の成績提出が必要なくなります。しかし、Reasoning Test(英語・数学・エッセイ)はこれまで通り必要です。
 
受験科目削減は、高校生の統一試験受験の負担減少、学校での学習成績の重視などが主な理由です。
 
「楽になる」と喜ぶ日本人生徒も多くいますが、これまでの受験生のように、Subject Testの1つである「Japanese」で高得点を上げてUC入学を有利にするチャンスを失うことになります。出願にあたり「日本語ができる」をアピールしたい高校生は、「AP Japanese」を受験することになるのです。また、試験の数が減ることから、ひとつひとつの試験成績の重要さが増すことにもなります。
 
9、10年生は注意!
これらの変更は、12年秋の入学生、すなわち現在の10年生から適用されます。ですから、9、10年生は、今受講している科目やその成績がELCプログラムに使われるということをよく理解して、頑張ることが必要です。決して、「先の話」と思わないでください。
 
(2009年11月1日号掲載)

須田達史 / 武道家・人間教育家

人間の意識と体の関係を理解することがビジネスにも生活にも活きてくる。

キックボクシングの元日本チャンピオンで、引退後は空手やK-1選手のトレーナーとして世界チャンピオン8名を輩出。現在は独自の教育体系「中心道」の創始者として日本で多くの経営者やリーダーの教育に携わる須田達史さんが、アーバインで講演を行います。同氏にその教えや講演の内容について伺いました。
(2017年7月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

すだたつし◎1964年長崎県生まれ。幼少より剣道、柔道、空手を学び、18歳で特殊部隊、陸上自衛隊習志野第一空挺団に入隊。20歳でキックボクシングを始め、23歳で日本チャンピオンとなる。引退後はキックボクシング、K-1選手などのトレーナーを務めながら、独自の体幹チューニング法を開発し、世界チャンピオン8名、日本チャンピオン20名を輩出する。現在は、「須田塾」にて、武道の技と思想哲学、さらに脳科学、量子物理学の法則から導き出した人間能力を最大化する教育体系「中心道」を、経営者やリーダーに教えている。

―数多くの武道、格闘技に携わってこられていますが、そういった世界に惹かれた理由は?

須田達史さん(以下、須田達史):自分は出身が長崎なのですが、両親が被曝をしていまして。母から当時の体験を聞きながら育った中で、母を守っていかないとという気持ちが芽生えたんです。それには強くならないと、と剣道を始めて、それから柔道、空手…とさまざまな格闘技に挑戦していきました。最終的に、20歳の頃、キックボクシングが一番強い格闘技ではないかと思って始め、没頭していきました。

―3年で日本チャンピオンまで上り詰めながら、その後、ケガで引退をされてしまいました。

須田達史:はい。オランダに1年半ほど武者修行に行っていた際、スパーリング中に強烈なハイキックを頭に受けて。それから頭痛や吐き気などの症状に悩まされ、診察を受けたら「パンチドランカー」だと診断されて…。引退を勧められました。26歳の時でしたね。

―しかしそこから、トレーナーとして力を発揮されましたね。

須田達史:引退後もしばらくは、まだ強くなりたいという思いがあって、東京都内の公園で、一人でトレーニングをしていたんです。そこに後輩たちが集まってくるようになって。最終的には20人くらいの規模になったのですが、青空道場という形で約10年間、彼らの指導を続けました。ここからキックボクシングの小林聡選手など、多くの世界チャンピオンが誕生しました。

昨年、LAで行われた講演の模様。教えを話だけでなく体で体感してもらうのが須田さんの講演の特徴です。

―格闘技のトレーナーとして大きな成功を収められたわけですが、その後、経営者など世の中のリーダーたちを教えるようになっていかれました。どういう流れでそうなったのでしょうか。

須田達史:格闘技で強くなるには、肉体はもちろんですが、メンタルトレーニングが非常に重要なんです。そこで、自分でも講演などに行って学ぶ中、多くの経営者の方々と知り合うようになって。話をするうちに、自分が学び、実践してきた格闘技、そしてメンタルトレーニングは彼らのために役立つものだと確信し、約10年前に私塾、須田塾をスタートさせました。

―須田塾においては「中心道」(プロフィール欄参照)という独自の教育体系をベースに教えられていますが、中心道とは?

須田達史:中心道とは、私が格闘技やメンタルトレーニングを学び、教えていく中でたどり着いた考えなのですが、基本は人間の意識と体の関係性を知ること。これを座学、そして武道の動きの中で学んでもらいます。自分でできると思っても、体がその通りに動かないことってありますよね。でも、それを意識でコントロールしてできるようにするという体験を、何度も何度も積み重ねてもらうんです。そうすると、例えばビジネスにおいても自分がイメージしたビジョンをきちんと具現化する力が付く。こういったことを体系付けてプログラム化したのが中心道です。

―アーバインでの講演ではどんなことをお話しされるのでしょう。

須田達史:基本的には今お話ししたことの初歩的な部分になります。また、人とコミュニケーションを取る際、威圧的にきた相手を力で返そうとすると、衝突が生まれますよね。武道では相手が力で来たらそれを受け流す技があるのですが、これを体得することで、人との会話ややりとりもスムーズにできる、みたいなこともお伝えしたいです。

―同日午後に行われる体幹チューニングのワークショップは、どういった内容になりますか?

須田達史:体幹部分を中心に、体全体を水のように感じる状態にすることを私は「体幹チューニング」と呼んでいます。ものすごく体の力が抜けた状態と言えば分かりやすいでしょうか。この状態は先ほど言った、武道において力で来た相手を受け流すためのベースとなるため、やり方をお教えしたいと思っています。参加いただければきっと新しい発見や驚きがあるはずです。ぜひお越しください。

「アメリカ在住日本人に贈る大和心の人間育成講座」

講演は午前と午後の2部構成。午前は、日米で複数の事業を展開し、ライフコーチ、ベストセラー作家として活躍中の岩元貴久さんと須田さんのコラボ講演。午後は須田さんによる体幹チューニング教室です。
 
【講演詳細】
■日時:7/29(土)講演10:00am-12:00pm、体幹チューニング12:45pm-3:45pm
■会場:17881 Sky Park Circle #J,Irvine(Orange Island Culture Salon)
■料金:講演$40(16歳以下は$20)、体幹チューニング$45(16歳以下は$25)
■チケット購入、講演詳細:www.rocknoble.com/ch/yamato.html

※このページは「2017年3月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

高橋大輔 / 元プロスケーター

チャレンジは、チャンス。まずは、流れに身を任せること。

引退後、プロスケーターとしてアイスショーに参加するだけでなく、キャスターやダンサーなど、スケートの枠を越えて活躍する髙橋大輔さん。2017年6月にロサンゼルスへ練習に来ていた同氏に、チャレンジすることの大切さや今後の展望を伺いました。
(2017年7月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

たかはしだいすけ◎2010年のバンクーバーオリンピックで銅メダル、同年のトリノ世界選手権で優勝、2012年のグランプリファイナルでも優勝など、数々の“日本人男子初”を成し遂げる。2013、14年のソチシーズンを最後に、28歳で現役引退。現在は国内外のアイスショーで活躍中。

―競技スケーターの生活と、引退後のプロスケーターの生活に大きな変化はありましたか?

高橋大輔さん(以下、高橋大輔):現役時代は、大会に出場して良い成績を残すとか、五輪を目指すとか、スケート競技だけに注力すれば良かったので、次に進むべき道筋が自然と見えていたのですが…今は、スケート以外にも、キャスターやダンスなどさまざまなことに挑戦しながら、何が自分に向いているのか?を模索している感じです。その中には、自分に向かないのでは?と思う時も(苦笑)。現役時代の方が、目指すべき方向性が明確だった、という意味で、ストレスが少なかったかなと思います(笑)。

―過去には、ご自身を「考えてしまう性格」「ネガティブ」とおっしゃっていましたが、そのわりに、次々と新しいことに挑戦されている印象があるのですが。

高橋大輔:実は、ネガティブじゃない疑惑が、周りから出ているんです(笑)。結局、ポジティブなんじゃないの?って。多分、諦められるんだと思います。自分の能力を信じてオファーしてくださるのだから、その期待を信じて、思いっきりやるだけやってみよう!という、覚悟が生まれるというか。実は、今までの人生を振り返ってみても、自分から積極的に選択するというよりも、いつも誰かが手を差し伸べてくれていたんですよね。

―でも、フィギュアスケートはご自身の意志で始められたんですよね?

高橋大輔:それも今となっては、よく分からないですね(笑)。きっかけは、知り合いのお姉さんが、スケートが好きで、自分も始めたら喜んでくれるかな?と思ったこと。やり始めたら、ただただ楽しくて、気づいたらジュニアの大会で優勝したり、海外の大会に出場したり…その延長線上に、オリンピックがあったというのが本音なんです。初めて目標を持ったのは、トリノオリンピックの出場枠がひと枠になった時ですね。絶対に行きたい!と、その時ばかりは強く思いました。ただ、昔から自分の意志で決めたことは、何かと意気込んでしまったりして、うまくいかないことが多いんです。なので、今は、何事にも挑戦してみようと。そして、チャレンジしてから、自分に合うものを判断すれば良いと思っています。いい意味で、決めつけずに幅を持たせておきたいなと思っています。

「スケートの醍醐味は、迫力と臨場感。近くでショーがある場合は、一度観に来てください!」と高橋さん。

―その向いてるか、向いてないかの判断はどうされるのでしょうか?

高橋大輔:小さい時に、周りから「大輔は、ダンスが下手だ」って言われて、以来、踊ることそのものに苦手意識があったんです。そこで、中学2年の時に、長光歌子コーチと出会い、表現力を強化したプログラムを作ってもらいました。それが、国内外で高評価を得たんです。「あっ、これでいいんだ!」って思いました。なので、私の場合は、周りの評価が後押しして、徐々に自信が積み上げられていく感じですね。その中で自然と、やるべきことや進む道を判断している気がします。

―今後は、どんなことにチャレンジしていきたいですか?

高橋大輔:いつか、自分でアイスショーの演目を作ってみたいですね。それも、有名選手が出演するから観たいではなく、演目そのものを観に行きたいと思わせる、そんなショーを作ることが夢です。最近、舞台でのダンスショー「Love On The Floor 2017」や歌舞伎とフィギュアスケートのコラボ「氷艶 hyoen 2017‐破沙羅‐」に出演させていただいたのですが、こういった独自のストーリー性のある作品には、フィギュアファンならずとも観たいと思わせる魅力があると思うんです。今は、さまざまなショーに参加させていただいて、演出方法などを学ばせてもらっています。例えば、「Love On The Floor」では、フラメンコやタンゴ、コンテンポラリーなど多彩なダンスを、「氷艶」では、氷上での盾やスパイクシューズでのスケーティングをと、それぞれに斬新な試みと学びがありました。今は、こういった新しいことにどんどんチャレンジして吸収している時期です。競技生活で自分の持っているものは全て出し尽くしてしまったので、またゼロからって、感じですね(笑)。
 
※このページは「2017年7月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

夏休みの活用方法を教えてください

Q. 小学生2人。夏休みに自宅で指導できる日本語力向上の良い方法は?

 

A. 読み聞かせ、書き写しがおすすめ「継続は力」で、習慣付けを

松本輝彦(INFOE代表)

夏休みです。子供に「勉強しなさい」と言っても、「夏休みは遊ぶためにあるんだよ」と切り返されるのが落ちです。「勉強」と考えずに、「日本語に毎日触れる習慣付け」を目標にしてみませんか。その方法として、幼児、低学年の子供には「読み聞かせ」を、4年生以上には「書き写し」をすすめます。

読み聞かせ簡単です。毎日決まった時間に、少なくとも30分位、日本語の本をお母さんが読んで聞かせるだけです。クッションのよくきいたソファーに子供と一緒に座って、子供が選んだ本を読んであげるのです。

低学年の子供は、まだ字を拾い読みです。「うちの子はもう本が読めるから」と言わずに読んであげて、書かれた日本語のリズムや言葉のイントネーションをお母さんが口移しで教え、言葉の意味を説明してあげるのです。

始めは、子供が絵本や童話を選んでも気にしないで続けます。子供は同じ本を何度も持ってきまので、お母さんの頑張りどころです。短い文章でも、大げさに演技して読んであげましょう。しばらくしたら、「この本、お母さんが子供の頃読んだけど面白いよ」とそっとお母さんの好みの本を出してみましょう。そして、お母さん自身も楽しみましょう。

我が家の3人娘は、小学校高学年になるまで、母親にほとんど毎日「読み聞かせ」をしてもらいました。「読み聞かせで、日本語の基礎、日本の文化や習慣を日本語で学んだ。そして、日本に興味を持ち続けることができた」は、バイリンガル・バイカルチャーに成人した娘たちの言葉です。

書き写し

3、4年生からは子供に日本語の本を選ばせて、その本を1日に原稿用紙1枚(400字程度)書き写させるだけです。

家庭での会話が日本語でも、バイリンガルとなるためには書かれた日本語を読めるようになることが必要です。書き写す作業を通して、日本語を読み書く基礎を作ることが目的です。あまり難しく考えないで、「書かれた日本語に触れる」が当面の目標と考えてください。

場所はキッチンやリビングルームのテーブルなどでOKです。できれば、お母さんも付き合ってください。お母さんが台所仕事をしながら「やりなさい」では、子供のやる気はもうひとつ。

お母さんのやってはいけないこと。

その1
「何これ。もっときれいに書きなさいよ!」とは絶対に言わないこと。毎日漢字を書いていない子供が、お母さんが満足するレベルの字を書けるわけがありません。やんわりと「丁寧に書こうね」ぐらいで辛抱してください。

その2
「教科書を書き写しなさい」もダメです。子供の好きな本はOKです。最初は、ひらがなばかりの本を子供が選んでも、ニッコリと。教科書は、お母さんは教育上良いからと思われるでしょうが、子供にとっては大嫌いな本の一つです。子供が喜ばない本を選ばないこと。絵本から写し始めてもOKです。ただし、「マンガ以外ね」とルールを決めます。

中・高校生には、『天声人語・英文対照版』がベストです。朝日新聞に掲載された「天声人語」とその英訳が見開きで掲載されています。英語の方が得意な子供は、英文で内容を理解してから日本文を書き写します。日本文は800字程度ですから、書き写し2回分です。漢字に振り仮名が打たれ、簡単な用語解説も付いていますので、自習用に最適です。

「書き写し」は勉強とは呼べないかもしれませんが、私自身の経験で、帰国子女大学入試を目指す高校生、日本の大学を目指す外国人留学生に活用してもらって大きな成果を上げています。

継続は力

「読み聞かせ」「書き写し」は単純な作業です。単純だからこそ、工夫すれば長続きします。その継続の中で、子供の日本語力、日本語での知識が身に付いていきます。1日の書き写しを完璧にやらせるよりも、「50点、60点の書き写しを30日続けさせる」と考えてください。

そのためには、お父さんの参加も大切です。帰宅したお父さんが、子供が書き写した原稿用紙の隅っこに「見たよ。Very good」と書いてあげるだけで、継続する力となります。頑張ってください。

(2011年7月16日号掲載)

Q. 夏休み中に現地校の教科の成績を上げる勉強法を教えてください。

子供が6月に6年生を修了しました。英語は問題ありませんが、現地校の教科の成績が良くありませんでした。中学になる9月からの学習が心配です。

A. 新学年の学習内容の予習をおすすめします

松本輝彦(INFOE代表)

英語力と成績

現地校の成績が伸び悩む原因として「英語力不足」がよく挙げられます。滞在年数の短い場合は、英語の基礎力(基本的な単語や文法)が十分に身に付いていないケースが多く見られます。しかし、滞在が長くなり基礎的な英語力に問題がなくなっても、道具としての英語を使って、学習内容を理解できるかどうかが成績向上の鍵となります。お子さんの成績を上げるサポートに、英語力の向上だけではなく、学習内容の理解向上を目指しましょう。

新学年への予習

英語より日本語の方が得意であれば、日本語で9月からの学習内容を予習させてあげてください。この予習の目的は、9月からの現地校での授業で、最初から「お客さん」にならずに、その学習内容を少しでも理解させてあげることです。授業の内容が理解できると先生の評価が上がります。AやBが付き始めると、良い成績への欲も出ます。このサイクルに入れば、自然に成績も上がり、子供の自信につながります。

最終的にお子さんに自信を付けさせるための予習ですので、「新学年の学習内容を完全に予習し、理解させる」など気合を入れ過ぎて、逆に自信を失わせることのないようなサポートを心がけましょう。

算数・数学

現地校より1つ上の学年の日本の教科書を使って、予習をさせてあげてください。日本の教科書の学習進度は、現地校での同学年の学習進度よりも遅れている学年が多いです。そのため、補習校や日本の学校で算数が得意だった子供でも、学習内容が先に進んでいる現地校での算数の勉強に苦労する場合があります。計算問題ができるように予習させることが必要です。新しい単元の概念や細かな説明が理解できなくとも、式を見て、その計算ができるようになるだけで十分です。

英文法の勉強

小学校高学年以上ならば、日本語で英文法を勉強させて、英語力の向上を目指すことが可能です。その内容は、中学1・2年生レベルの基本的な文法事項で十分です。名詞・代名詞・形容詞・副詞などの品詞の区別、動詞の活用と簡単な時制などの項目を、受験用ではない、基礎的なテキストを使って教えてあげてください。基本的な動詞の活用(現在・過去・過去分詞)をゲーム感覚で覚えさせると効果があります。くれぐれも、ご自分の知っている内容をすべて教えようなどと意気込まないでください。

社会

予習の効果が最も大きいのは、社会です。どの学校区でも学年ごとの学習分野(カリフォルニア州の歴史・地理・アメリカの歴史など)が決まっています。次の学年での学習分野を、近所のお子さんなどに聞いてください。また、来年度の教科書を入手してみてください。入手困難な場合、教材店でその内容のテキスト・問題集などを購入することをおすすめします。教科書・テキスト・問題集のいずれも、どんな内容を勉強するのかをお子さんに知らせる程度の予習で十分です。写真・表・図など簡単な説明を、日本語で話してあげるだけでOKです。文章の解説を覚えさせる必要はありません。

誰が教える?

お父さん・お母さんが、感情的にならずに、子供に教えるのがベストです。次の候補は、バイリンガルの高校生・大学生です。説明しようとする学習内容を自分自身が勉強した経験があり、日本語で説明できるお兄さん・お姉さんを探してください。「日本語では説明できません」と断られたら、「テキストに出る言葉や単語は英語のままでいいから」と交渉しましょう。「これはSanta Barbaraのmissionの写真でしょ」と話ができれば十分です。

個人的に指導してもらえる人が探せなくて、塾などに頼む場合は注意が必要です。進学や受験を目標にした塾ではなく、基本を個別指導してくれるところを探してください。受験指導の塾は、日本の学年での学習項目を受験レベルで勉強させます。その内容とレベルは、現地校の学習内容とは異なり、子供が困難を抱え、自信を失うケースが多く見られます。「秋の新学期には、こんなことを勉強するんだ」とお子さんに知らせるための、日本語での予習です。試してみてください。

(2008年7月1日号掲載)

Q. 夏休みを使った有意義な勉強法を教えてください。

現地校の小学校と中学校に通う子供がいます。夏休みの間にできる勉強法を教えてください。

A. 前の学年の復習や予習をするのに絶好の機会です

松本輝彦(INFOE代表)

現地校の勉強

「夏休み前に教えたことを忘れてしまうので、9月からの指導が大変」と現地校の先生である友人が言いました。夏休みには、前の学年の復習や次の学年の予習などができます。

●復習
算数・数学など、前の学年の学習の上に新しい学習内容を積み重ねていく教科に遅れがある場合は、ドリルやワークブックなどの自習教材を与えて、復習する必要があります。もし、英語での復習が大変ならば、同じ内容の日本の教科書を使うのもいい方法です。もちろん、日本の教科書は予習にも使えます。

●予習
次の学年で学ぶ社会、特に歴史の予習を強くおすすめします。これまでの日々の生活の中で、見聞きした歴史事実を柱にして指導していくのが歴史学習の特徴です。アメリカの歴史なら、お子さんたち(保護者も)はあまり知識はありません。少しでも知識を貯金しておくための予習です。次の学年で使う教科書は、一般の書店で購入できます。また、ドリルやワークブックも使えます。

●補習
教科書の内容ではなく、単語・読解力・文法などの基礎的な英語力の向上です。これは、夏休みだけではなく、日頃から色々工夫されていると思いますので、お任せします。

ただ1つ、予習と同様に、次の学年で読む小説などの課題を学校の先生に聞いて、事前に読ませてください。いきなり英語が大変なら、日本語の訳本を先に読んでも構いません。お子さんの学校や学校区で作っている「Core Book List」には、必読・推薦図書が挙げてあります。英語の読書は、夏休みだからできる最も大切な活動です。

サマースクール

最近は、学校教育に使える財源が少なく、学校や学校区が提供する無料のサマープログラムも少なくなってきました。しかし、州の統一試験結果などに基づいて、英語力の不十分な子供のためのプログラムなどを実施している学校区もありますので、学校からのお知らせに気を付けてください。

高校生になると、成績が良くなかった科目の再履修や、基礎科目の単位が取得できるサマークラスがあります。ほとんどのプログラムは、学校区が承認した短大などから有料で提供されます。8年生終了後の夏休みのサマースクールで取得した単位は、高校の単位と見なされるので、成績にも十分注意が必要です。

日本語での勉強

●補習
現地校と違って、補習校は日本の学期に近く、夏に入ってもしばらく授業があります。年間授業日数を確保するために、夏の集中授業を行う補習校もあります。いつもどおりに勉強を続けてください。

帰国が近い、もしくは帰国後に受験があるお子さんは、学習が抜けた部分や理解不足の学習内容を復習するのにいい時期です。すぐに塾や家庭教師に頼らずに、ご自分たちでお子さんの勉強の状態を把握することが大切です。

体験入学
この夏、日本に一時帰国する機会があるのなら、日本の学校に2、3週間通い、学ぶことができます。ただし、短い期間なので、学力向上よりも日本の学校生活の体験を中心に考えてください。事前準備が必要なので、体験入学を希望する学校にすぐ連絡を取ってください。

家庭での学習
日本語での学力向上を目指す場合、家庭での学習環境作りが保護者の仕事です。特に、お子さんの日本語での読書の習慣化に、家庭全員で挑戦してください。夏時間で長くなった夕方や夜のひと時を、家族で本に親しむ時間と決めましょう。そこで獲得した読書の習慣は、一生の宝物になります。

全部はダメ!

この文章を読んで、「全部やらせよう」などと決して思わないでください。「こんなことが可能ですよ」という、私からの情報ですから。どれかを実行してみたいと思われるならば、お子さんの様子や環境をよく観察し、お子さんの意見も取り入れてください。お子さんにとっても、お父さん、お母さんにとっても、良い夏休みになることを祈っています。

(2008年5月1日号掲載)

Q. 滞米2年の5年生、社会科で苦戦。夏休みにできる勉強は?

 

A. 現地校の6年の教科書を購入し、夏休み中に日本語で予習を

松本輝彦(INFOE代表)

英語での知識不足

英語力は伸びてきたのに、社会や理科の教科学習で成績が伸びないケースの理由のひとつに「英語での知識不足」があります。

日本の小学校3、4年生が都道府県名の漢字の読み方とその地図上の位置を覚えるのと同じように、アメリカの子供も州名のスペリングとアメリカ大陸での位置を学びます。日本から来たばかりの子供は、マサチューセッツ州の英語の綴りが読めず、ボストンがアメリカ地図のどの辺りにあるのかを知らないので、アメリカ建国の歴史を覚えたり理解することが十分できません。

また、日本・アメリカ共に小学校高学年になると、教科書で学ぶ学習内容、項目が急激に増えてきます。さらに、現地校の社会の教科書は500ページにも及ぶ厚さです。限られた英語力でそのページを読みこなし、その多い学習内容を理解し、しっかり記憶することは至難の業です。

このように、学んだことがない内容や不十分な英語力で学習内容が理解できないことが理由となって、「英語での知識不足」が起こり、良い成績をあげることが困難になるのです。

日本語で予習を

その知識不足を補うために、夏休みの間に、現地校の新学年の教科書を日本語で予習することをおすすめします。

まず、9月から現地校でお子さんが使用する社会の教科書を購入してください。教科書ですが、一般の書店で購入できます。そして、その教科書の内容を日本語で予習します。予習の目的は、教科書の文章を細かく理解することではなく、何が書いてあるか、どんな内容の学習なのかを理解することです。ご両親が手伝える現実的で簡単な方法は、教科書中の絵、写真、図などの説明です。それらの下に書いてある簡単な説明を読んで、何の絵・写真なのかの説明だけでも結構です。それができれば、文章中に太字やカラーで印刷されている基本的な用語を説明してあげてください。自分で購入した教科書ですので、説明を教科書の余白に書き込みしてもOKです

説明の秘訣は「子供がすでに身に付けている知識を活用する」ことです。日本語で知っている知識と、教科書に英語で書かれた内容をリンクしてあげることで、その内容がよく頭に入って、覚え、理解することが容易になります。もうひとつは、物語風やお芝居調で説明し、お子さんの記憶に少しでも残るように工夫することです。

この予習を通して学習内容が頭の隅に残っているだけでも、新学期の授業で「今、何の勉強をしている」かがわかるので、授業の「お客様」でなくなり、学習内容の理解が進みます。この方法で数多くの子供の予習を手伝ってきた経験から、強くおすすめできます。

役立つ補習校の勉強

補習校での日本語での学習も「英語での知識不足」の解消に大きな効果を発揮します。まず、日本語で基礎知識を習得して、その知識の内容を英語に置き換えることにより、現地校での英語の学習でサバイブできるのです。

渡米後の学年の進行と共に、日本で習得した知識のレベルよりも高い内容の学習が現地校で始まります。この「知識の貯金」を使い果たす現象は、大体渡米後2年くらい経つと始まります。この現象を少しでも遅らせるためには、補習校での日本語での学習を頑張って続けることです。

さらに、渡米後、数年間は英語力が壁になって、現地校の学習でフルに頭を回転させる機会が限られます。しかし、その間、日本語でしっかり考え理解する訓練を積み重ねることは、最終的に、日英の言葉の障害を乗り越えた真の思考力・学力を養成します。

日本語の習得、伸長に加え、これらの理由から、補習校で日本語による教科学習を続けることが大変重要なのです。

◇  ◇  ◇  ◇

安全な学校生活のためにも、日本語での予習が必要です。現地校の校長から、「日本から来たばかりの子供たちに、理科の実験の基礎的内容を日本語で予習させてほしい」と、何冊もの現地校の教科書を渡されたことがあります。「先生の英語での指示が理解できなくて、火や薬品を使う理科実験中に、日本人の生徒に事故があった」が、協力依頼の理由でした。

効果の大きい日本語での予習です。試してみませんか?

(2011年6月1日号掲載)

日本の学校への短期留学について教えてください

Q. 日本の寮がある高校への留学。どんな生徒が、何を目的に参加?

 

A. 海外子女+外国人が留学中。日本語・文化の習得に大きな成果

松本輝彦(INFOE代表)

昨年のこのコラムの「高校生の日本留学」を読んで、全寮制の日本の高校に留学する生徒が出てきました。その高校生たちの留学の目的と学習・生活の様子を紹介しましょう。

明徳「1年留学プログラム」

以前紹介したのは、明徳義塾高校(高知県)の「1年留学プログラム」です。この学校では在校生の9割(約800人)が寮生として、校地に住む教職員(とその家族)と共同生活をしています。また、留学生(300人・日本の高校で最多)向けの基礎日本語から、大学入試向けの高レベルの国語まで、数多くの授業が提供されています。

◎Aさんの場合
アメリカ人・日本人をご両親に持つAさんが、このコラムで明徳のプログラムを知ったのは、高校11年生の初めでした。

バイリンガルに育てたいというご両親の強い希望で、毎年のように、夏休みに日本に滞在していたAさんですが、「日本の高校生活を体験したい」と希望して、11年生の4月から8月の終わりまで、明徳の制服を着て、寮生活を経験しました。

日本語の日常会話には困りませんが、読み書きは小学校3年生程度。日本語クラスで特訓を受けると同時に、留学生と一緒に他教科の勉強もしました。放課後の部活動では「和太鼓」を選び、夢中になって活動を楽しみ、和太鼓大会出場を最後に、アメリカに帰国しました。

12年生の初めから現地校に戻り、アメリカの大学に出願中です。明徳での経験で自信を得て、少なくとも1年は日本の大学で学び、卒業後は日米の橋渡しになるビジネス関係の職業に就きたいと希望しています。

◎B君の場合
ご両親が日本人でロサンゼルス生まれのB君は、メキシコの高校9年生でした。ご両親がサンディエゴで手にしたライトハウスのこのコラムを読んで、B君の明徳への留学が決まりました。

数多くある部活動の見学中に、重量挙げのコーチに「良い体格しているな、少し挙げてみろ」と言われました。初めてリフトしたところ、そのコーチの「重量挙げの才能がある!」の一言で入部。その後の3カ月間の上達ぶりがケタ違いに素晴らしく、オリンピック選手を育てた有名なコーチが東京から高知まで出向いて指導に来るほど。周囲の期待と同時に、「日本のチャンピオンになる」と本人も自信が付いてきました。

大学進学は、「メキシコには大学が少ないので、アメリカの大学へ」と計画していましたが、「勉強と重量挙げの両立を」との希望が強くなり、1年の留学を3年に伸ばし、日本の大学への進学も考え始めました。

◎C君の場合
英語と韓国語のバイリンガルで育った9年生のC君は、3年ほど前から日本文化に興味を持つようになりました。高校の日本語クラスだけでは物足らず、日本語学校に通い、家庭教師にも付いて、日本語・日本文化を学びました。

ある日、明徳のパンフレッ卜を日本語学校で貰って帰って来て、「明徳へ行きたい」と言い出しました。「他の子供と違う教育を」と考えていたご両親にとって、アジアからの留学生が3割を占める明徳のユニークさと、韓国からの留学生も多く、C君が英・韓・日の3カ国語を身に付ける機会は魅力的なので、留学を決めました。

日本語の日常会話がやっとのC君ですが、寮で同室のB君と英語で意思疎通し、日本語のサポートを受けられるので、入学後3カ月で見違えるように日本語力が向上しました。同時に、寮生活を通して、挨拶・食事などの日本的なマナーも身に付き、「留学生が多く、楽しい」と明徳での生活をエンジョイしています。

多様な留学生と目的

昨年始まったばかりの明徳の1年留学プログラムは、ここで紹介したように、多様な子供たちが異なった目的を持って入学しています。しかし、その子供たちに共通するのは、「日本の学校生活を通して、日本語・日本文化を身に付ける」ことです。永住予定や長期滞在の日本人家庭が増えています。その様なご家庭のお子さんたちを「日本人に育てる」例として、ユニークなプログラムで学ぶ生徒を紹介しました。

留学プログラム説明会
ロサンゼルス・オレンジカウンティー地区
2月4日(金)、5日(土)、6日(日)
詳細:明徳義塾ホームページ(www.meitoku-gijuku.ed.jp

(2011年2月1日号掲載)

Q. 日本で短期に学べる学校を教えてください

アメリカ永住予定の高校生です。短期で学べる日本の学校は?

 

A. 高知の明徳義塾は、1年間の留学が可能な、寮のある学校です。

松本輝彦(INFOE代表)

長期滞在・永住の子供の日本語・日本文化の習得

「日本人に育てたい」「日本語・国語の力を伸ばしたい」「日本の習慣・文化をしっかり身に付けさせたい」。

アメリカでの滞在が長くなってきた、または永住予定の保護者の皆さんから、最近よく出る質問です。アメリカでの教育に加えて、日本語や日本の習慣・文化を、子供に身に付けさせたい保護者の希望を反映した言葉です。

日米のバイリンガル、さらには両方の習慣・文化を身に付けることは、ただ単に親の希望だけではなく、子供本人にとって将来の大きな宝になることは、間違いありません。

このような、長期滞在・永住の子供を短期・長期的に受け入れて、「日本人」に育てたいという保護者のニーズに応えてくれるプログラムを持つ、日本の学校を訪問する機会がありましたので紹介しましょう。

明徳義塾の特徴

四国・高知県にある、地元の通学生・日本全国から寮生・外国人留学生・外国からの日本人生徒などの多様なバックグラウンドを持った約900名の生徒が学ぶ中学・高校。数多くのプロ選手を輩出するスポーツ活動で有名です。

この学校は、海外から子供を送り込む保護者にとって大きなメリットとなる、2つの特徴を持っています。

1. 安全な寮生活
第1の特徴は、広大な学校の敷地内で、数多くの寮に住む約800名の中学・高校生と、およそ150名の教職員とその家族が共同で生活し、教育のためのコミュニティーを作り上げていることです。

先生方が生徒を監督するのではなく、朝から夜まで「師弟同行」として生徒と共に生活し、指導しています。

海外から子供を日本に送り込む時に、学業以外の日常生活や環境が心配になります。しかし、この学校は、留学生だけではなく、日本国内から生徒が多く来て寮生活をしていることからわかるように、安心して送り込める寮・指導体制などの環境が整っています。

2. 初歩の日本語から国語まで
第2は、全生徒数のおよそ3割を占めている外国人留学生の存在と、30年間にわたる留学生受入れプログラムです。

「あいうえお」を学んだ経験もない留学生向けの日本語の基礎クラスから、日本の大学入試向けのレベルの高い国語のクラスまで、多くの日本語・国語習得のための授業が提供されており、長年の経験を経て充実した指導が行われています。

海外の子供たちの日本語力には開きがあります。高校生でも、日本の小学校程度の読み書きができるとは限りません。

ところが、帰国生受入校でも、あまりにも低い日本語力を指導できるプログラムを持っている学校はほとんどありません。留学生への指導実績の豊富なこの学校の、幅広いレベルに対応した日本語教育が受けられるのは、海外滞在が長い日本人の子供にとっても大変メリットです。

多様な学習プログラム

明徳義塾は、これらの特長を活かして、海外・帰国生にとってメリットのあるいくつかのプログラムを持っています。

1. サマースクール(体験入学)
サマースクールでは、レベルの異なる日本語・国語クラスと日本文化学習の活動があり、海外から一時帰国した生徒とすでに帰国した生徒が一緒に学んでいました。

公立の小学校・中学では夏の体験入学を受け入れてくれますが、高校生になるとその機会は限られます。寮生活も含めて、日本の高校生活を体験させる良い機会になります。

2. 留学
海外生活が長くなった子供たちが日本語・日本文化を習得するために1年から3年間の留学をする。たとえば、9~12年生の間の1年間であれば、アメリカに帰ってきた後、現地高校の卒業も遅れることなく、大学に進学することも可能です。

子供をアメリカの高校からアメリカの大学に進学させる場合でも、1年間の留学は、日本での生活体験をさせる良い機会となります。

また、高校3年間の留学の後、日本・アメリカを含む海外の大学へ進学することも可能です。

(2009年8月16日号掲載)

日本の学校への体験入学について教えてください

Q. 夏休みを利用して、日本の学校へ体験入学させたいのですが

私の娘は4月から小学2年生です。こちらの夏休み期間を利用して日本の学校に一時入学させようと思っています。その目的や効果について教えてください。

A. 体験入学は大変意義のあるもの

松本輝彦(INFOE代表)

学校の状況と子供の変化に注意

現地校の夏休みを利用して、日本へ帰国し、日本の学校に一時的に入学することを「体験入学」といいます。

目的

体験入学の最も一般的な目的は、「学校も含めた日本での生活体験をさせたい」です。より具体的には「日本の学校での勉強を体験させたい」。特に、日本帰国が視野に入ってきた家庭で、帰国後の学校での勉強の適応の練習として体験入学を実施する場合です。

また、滞在が長くなり、「日本語だけでの生活体験」を通して、言葉としての日本語、または日本語での勉強へのモチベーションを高めたいと考える保護者もいます。時には、保護者が一時帰国しなければならない、家庭の都合に付き合わされたケースもあります。

時期・期間・学校
現地校の夏休み開始と同時に帰国すれば、日本の学校が夏休みに入るまで約4週間。実際には2~3週間の体験入学が一般的です。小・中学生の公立学校での体験入学がポピュラーですが、私立の中学校や高校でも受け入れてくれる学校があります。

手順

公立の学校の場合を考えてみましょう。

①学校に連絡を取る
一時帰国先が通学区域となっている学校に、自分で直接連絡を取るか、親類・友人に依頼して、問い合わせます。

②問い合わせる内容
体験入学受け入れの是非は当然ですが、受け入れ可能な時期や学年、教科書や学校用品についてのルールの確認も。体験入学先の学校で、教科書の一時的な貸与ができないと、すべての教科書を購入させられたケースや、制服・体操服・上履き用の靴などの学校用品をすべて揃えることを要求する学校もありました。友人の子供の物を借りる手配が必要かもしれません。

③持参品の準備
入学後、指導してもらう先生の参考として、お子さんの日本語の力や教科の学習の理解度が判断できるような資料を準備しましょう。子供が書いた作文やテストの結果などが役に立ちます。補習校によっては、持参する資料の準備をサポートしてくれるところもあるようです。

注意点

●学校の状況の理解を
体験入学の時期は、日本の学校では1学期終了直前です。遅れている指導内容の追い込み、学期末の成績・評価、夏休みの宿題の準備など、先生と学校にとって超多忙な時期です。この時期に、短期間しか在籍しない子供の面倒をしっかり見てもらおうと期待するのは無理です。

「体験入学で、海外での日本語での勉強の遅れを取り戻そう」と意気込むお母さんがいますが、このような学校の状況を考えると、それは無理です。勉強にあまり大きな期待を抱かないことが必要です。

●子供の変化に注意
子供にとっては、渡米直後と同じくらいに緊張する環境です。短期の滞在であっても、子供の日々の変化、適応の様子に十分注意をしましょう。

小学校高学年や中学生で、友達との間でトラブルを抱えたり、ちょっとした「いじめまがい」の扱いを受けたりするケースが見られます。体験入学の目的と逆に、子供を「日本嫌い」にしてしまう場合もあります。

効果

体験入学の評価は、子供によって大きな差があります。「体験入学」は、文字通り、日本での生活を「体験」することです。良くも悪くも、現実の日本の生活を体験し、知ることです。学校だけではなく、家族全員で日本の親戚を訪問したり、旅行したりして、日本の生活をエンジョイさせてあげてください。その体験を通して日本を理解し、日本にも自分のベースがあることを知るのは、将来のアイデンティティーを確立するのに大変貴重な経験となります。

現地校の夏休みを利用しての日本の学校での「体験入学」は、大変意義のあるものです。機会を見つけ、ぜひお子さんに体験させてあげてください。

(2007年4月16日号掲載)

Q. 日本の小・中学校に体験入学します。何か注意することは?

 

A. 小学生は、楽しい思い出作り。中学生は、勉強に注意!

松本輝彦(INFOE代表)

体験入学

西海岸の現地校は6月中旬、日本の学校は7月20日前後に夏休みに入ります。

この時期の違いを利用して、日本の学校の生活や勉強を体験させるために、一時的に、2~3週間程度、日本の学校に通学するのが「体験入学」です。

滞米期間が3~4年を超えたり、帰国予定が近づいた家庭の小・中学生が、一時帰国の機会を利用して、出身地域の公立の学校に一時的に入学する例が多く見られます。

体験入学の間に寄宿する親戚、友人、知人宅が通学区域になっている学校に連絡を取り、体験入学の希望とお子さんの情報を伝えます。最近は、体験入学もポピュラーになって来ましたので、大きな問題なく引き受けてもらえるでしょう。あとは、学校の指示にしたがって準備してください

小学生は

「面白かった、また行きたい!」「プールでの授業が良かった」。体験入学から帰って来た小学生、特に低学年の子供から多く聞かれる言葉です。

現地校の授業では経験したことのない、音楽やプールでの授業を、大変ながら楽しんだり、学級活動での共同作業に少し戸惑ったりします。しかし、アメリカとは異なった日本の学校での体験を楽しんでくる子供が多くいます。

また、毎日の勉強でも、1人の担任の先生が多くの科目を教えるので、先生の目が行き届き、細かな指導を受けることができて、良い印象を抱き、アメリカに帰ってくる小学生が多いようです。

中学生は

「友達ができて良かった」「日本の学校は嫌い」「2度と行きたくない」。小学生と異なり、中学生の体験入学への感想は、賛成・反対とさまざまです。

中学生にとって、同級生との人間関係は大きな関心事です。アメリカからやって来た子供の持つ英語や生活態度に対して、国内の子供達は好奇心・憧れ・反発など複雑な気持ちを抱きます。帰国した子供自身も同級生が示す態度に神経質になっています。この帰国生と同級生の組み合わせで、短いけれども楽しい体験になるのか、つらい一時帰国になるのか分かれます。

また、先生に対しても、現地校との授業の内容や進め方などの違いに批判的であったり、先生の生徒に接する態度に戸惑う中学生も多くいます。

さらに、小学校高学年から中学生になると、授業内容や勉強が、子供たちの判断の基準になる場合も多く出てきます。自信を持って臨んだ英語の授業が、現地校で身に付けた英語とは違った内容や方法で指導されているのに混乱する子供が多くいます。また、算数・数学の進度や授業の進め方の違いに戸惑う場合もあります。

このように、小学校の時の体験入学と似たような経験をしても、感情の豊かな、精神的に多少不安定な思春期の真只中にある中学生同士のクラスでの体験から、子供たちが感じ学び取るものが、大いに異なるのは当然です。

学校をよく調べて

学校をよく調べてください。教育委員会(地域)や学校(校長)により、体験入学についての知識や態度に大きな差があります。「大歓迎」から「冷たい態度」まで、さまざまです。「子供たちの良い刺激になる」と、一時帰国してきた子供たちを歓迎し、さまざまな便宜を図ってくれる学校がほとんどです。

しかし、たった2週間の体験入学なのに、住民登録をして正規の入学でないため、お子さん3人分の全教科の教科書・問題集や学校指定の小物入れなどを購入させられた保護者がいました。中学生で「必ず制服」と言われ、大急ぎで近所の子供に借りた例もあります。

体験入学する時に補習校で

使っている教科書を持ち帰った方がいいのかどうかなど、先方の学校に「体験入学の受け入れ」をお願いした時に教科書・制服などについて確認してください。そうしないと、お子さんだけではなく、保護者の皆さん自身が嫌な「体験入学」を経験することになるかも?

体験入学は、貴重!

短期間の体験入学ですが、その結果が子供たちにとってプラスでも、マイナスでも、貴重な経験になることは間違いありません。できるだけプラスの経験になるよう、保護者の皆さんの事前準備をお勧めします。

(2009年5月1日号掲載)

Q. 今年の夏、中高生が1人で体験入学希望への学校

今年の夏、中高生が1人で体験入学希望。どんな学校がありますか?

A. 寮のある中学高校で、日本体験・日本語特訓を受けられます

松本輝彦(INFOE代表)

日本への一時帰国である「体験入学」は、海外の子供たちにとって、直接、日本・日本の学校を経験する貴重なチャンスです。

小・中学生の体験入学は、帰省先の公立小学校・中学校に事前に受け入れのお願いをすれば、ほとんど引き受けてくれます。しかし、「高校生を受け入れてくれる学校がなくて、あきらめた」という話を、保護者からよく聞きます。

また、米国滞在が長く日本語の力が不十分で、子供が授業についていけそうにない、あるいは、2、3週間の長期にわたって(時には家族一緒に)寄宿できる帰省先がないなどの理由で、体験入学をあきらめているご家庭も多いと思います。

そんな中学生、高校生、保護者のために、「日本語・国語の特訓と日本の生活体験を提供する、寮のある学校」を紹介しましょう。

広島三育学院中学・高校「体験入学プログラム

一時帰国した中学・高校生が、日本の生徒と寮で寝起きを共にしながら、日本の学校生活を経験できるプログラムです。

夏休みの期間だけではなく通年で参加可能とのことで、帰国生のために通常の授業の他に国語、英語の特別クラスを開講したり、日本の文化、社会を見聞する活動も用意されています。

広島県三原市大和町下徳良296ー2
http://sites.google.com/a/san-iku.net/ja/Home

明徳義塾中学・高校「Japan Summer School 2010」

外国の学校で学ぶ生徒のための体験入学プログラムです。

2回目の今年は、7月17日からの12日間、世界中から集まった参加者全員が学校内の寮に宿泊し、午前中は授業、午後は日本の文化・自然を体験します。夏休み中の活動で寮生活をしている国内生、留学生との交流活動も、数多く組み込まれています。

午前中の授業では、基礎日本語から古文までの幅広いレベルの日本語・国語や理数科目などを、習熟度別クラスで受講します。また、午後は、水族館、植物園の訪問、カヌーでの四万十川下り、龍河洞探検などアクティビティーいっぱいです。

高知県須崎市浦ノ内下中山160
www.meitoku-gijuku.ed.jp

寮での体験入学

ここで紹介した2校のプログラムの、海外の中学・高校生にとってのメリットを考えてみましょう。

1. 子供だけで参加
家族揃っての一時帰国は、数年に1回と機会が限られます。子供の学年、日本語力などに応じ、体験入学の時期や回数を自由に決められるのであれば、教育上の効果も大きくなります。

家族で帰国する場合は、子供が寮で体験入学をしている間に、ご両親は所用を済ませ、親戚回り(時には温泉でゆっくり?)ができます。保護者と中高生がべったり一緒に親戚の家を泊まり歩くのは、両方にとって本当に大変で、子供が「日本嫌い」になることもあります(私の経験)。

2. 日本語・国語の授業
紹介したプログラムは、海外の中高生のための国語や日本語の特別クラスを設けています。それらのクラスで、子供の日本語力のチェックや補習、特訓を受けて、遅れぎみの日本語力を補強しましょう。また、24時間日本語で生活する経験は、それ以降の日本語の学習への大きな自信となります。

3. 日本人に育てる
日本の学校の寮で同年代の子供たちと24時間生活を共にすることで、現代の日本文化を体験します。たとえ、1~2週間であっても、その後に子供自身が「日本人」に育っていくための大変貴重な経験になることは間違いありません。

4. 子供の進路のため
海外が長くなったり、帰国の予定がない家庭では、「子供の将来の生活の場は、日米のどちらの方が良いのか?」と悩みます。、その際、子供のアメリカでの生活は、日々の生活を通して想像できますが、日本での生活で「日本語は通じるのか?日本で生活できるのか?」がはっきり見えないので、親の方針が決められません。中学、高校生の間に子供だけで日本に帰り、日本での生活体験を持つことは、子供自身が「日本か、アメリカか」を決める時の大きな判断材料になります。

◇ ◇ ◇ ◇

最後に、どちらの学校も自然に恵まれた(脱走不可能な!)環境にあり、安心して送り出せます。いかがですか?

(2010年4月1日号掲載)

Q. 一時帰国の際に日本の学校へ体験入学より長く通う方法は

小学3年生の子供の母親です。滞米3年半ですが、今後の滞在が長くなることになりました。一時帰国する際に、日本の学校に子供を通わせたいのですが、体験入学では、短すぎるような気がします。何か他に方法はありますか。

A. 学習の効果を期待するなら、年度初めの「長期の帰国」を

松本輝彦(INFOE代表)

「体験入学」とは、現地校の学年が終わってから、日本の学校が夏休みに入るまで期間、日本で学校生活を体験することを言います。長くても1カ月程度ですので、文字通り体験にはなりますが、日本語や日本の教科の学力を伸ばすことは、期待できません。

「長期の帰国」のすすめ

もしも、体験入学以上のものを望むなら、現地校を3月末で休学し、4月からの1学期間、日本の学校へ通わせることを考えてはいかがでしょうか。これを私は「長期の帰国」と呼んでいます。

私が留学するために、長女が1歳半の時に、家族揃って3~4年の予定で渡米しました。しかし、長女が小学3年生の時に、初めの予定を変更して、もう数年アメリカに住むことになりました。それまでは、言わば「仮のアメリカ生活」をしていましたが、「腰をすえた」生活を計画しなければならなくなりました。長女の日本語教育についても、充分ではないと感じました。また、日本にいる私たちの両親や親戚との絆も作ってやりたいという希望もありました。そんな時、「長期の帰国」を家内と思いついたのです。

アメリカの学校を休学

さっそく、現地校に相談したところ、「学校を2、3カ月休んでいる間の勉強内容よりも、日本の学校で学ぶ体験の方がずっと貴重ですよ」と、簡単にOKが出ました。それでも、勉強の遅れが心配だと伝えたところ、「6月は学年末の行事が多いので、実際の勉強が抜けるのは4、5月だけ。アメリカの子供も、長い夏休みの間に忘れてしまうので、秋の新学年の始めに必ず復習するから、その時に追いつけば良いです」と言われました。

担任の先生に長期欠席することを口頭で伝え、教科書を返して、現地校の「休学」手続きは簡単に終わりました。

日本の学校での生活

3月末に日本へ帰国し、長女が赤ちゃんの時を過ごした祖父母の家に。市役所で住民登録を済ませると、4月から通学する学校が決まりました。アメリカの学校からの書類は、何も必要ありませんでした。

日本の学校では、新年度にクラス替えが行われて、どの生徒もお互いによく知らない人間関係の中に入ることになります。長女もクラスの中で「お客さん」扱いされることなく、自然にクラスの一員となりました。

勉強も、クラスメートと同じ条件でのスタートです。3年生は、話し言葉での学習から、書き言葉の学習へ移る時期です。会話だけではなく、読み書きの基礎を作る大切な時期です。学習する漢字の数も増えてきます。算数でも掛け算や割り算の勉強に入ります。勉強が厳しくなる学年なのです。

長女はどんなことでも、普通の生徒として扱われ、アメリカから帰って来たとは気がつかないクラスメートもいたようです。

再び、アメリカの学校へ

そんな学校生活も、1学期の終業式に出席し、通知表をもらった時点で終わりです。事前に転出の手続きをしておきます。

長女はクラスメートに別れを告げて、同い年のいとこの家に移動し、夏休みを一緒に楽しく過ごしました。そして8月末、一時帰国した私も含めて、家族全員でアメリカへ再出発したのです。

現地校へは「長期欠席」と届けていますので、子供の学習記録は学校に残っています。ですから、アメリカに初めて来た時のような、テストや編入手続きは必要なく、新学年が始まる際の、通常の簡単な手続きで「復学」できました。一時帰国の前に、2カ月のブランクを心配した現地校の勉強も、事前に先生が言っていたように、新学年で問題が生じることはありませんでした。

我が家での20年も前の「長期の帰国」。今思い出してみると、思い切ったことをしたと感じますが、この時、長女が体験した日本語力の向上と日本での生活は、それ以後の補習校での日本語の学習だけではなく、現地校での学びにも大きなインパクトを与えました。この半年間は、長女にとって最も長い日本生活となりましたが、大人になった今でも貴重な思い出として残っています。

会社のルールが厳しいところもあり、駐在員の家庭では、「長期の帰国」は難しいと聞いたこともありますが、アメリカ滞在が長期になってきたお子さんの、教育のヒントになれば幸いです。

(2007年2月1日号掲載)

サマースクールって何ですか?

昨年渡米して、現地校に通う小学校1年生と3年生の息子たちは、初めての夏休みを迎えます。長い夏休みをどう過ごさせようかと考えておりますが、サマースクールがあると聞きました。どのような種類があるのでしょうか?

A. アメリカの文化に触れるためにも目的に合わせて積極的に参加を

松本輝彦(INFOE代表)

長い夏休みは新しい体験のチャンス

本当に長い夏休みです。3カ月近くあります。宿題もなく、本当に自由に過ごすことができます。この間に保護者は、学期中にはできないさまざまな体験を子供にさせようとします。その代表がサマースクールでの活動です。

夏休みの活動の形式や内容は千差万別で、サマースクール、サマーキャンプ、デーキャンプ(Day Camp)などの名前で呼ばれます。ここではそれらをまとめて「サマースクール」と呼びます。

さまざまな選択肢。事前に十分な情報収集を

◎形式
自宅から通うタイプ、泊まり込みで参加するタイプがあります。活動時間・期間は、数時間のものから夏休み中を通して実施されるものまであります。また、活動する場所も、自宅近くの小さな教室や学校から、シビックセンターやレクリエーションセンターなどのコミュニティーの施設、さらには活動により、キャンプ地は船上、大学のキャンパスなど、これもまちまちです。

◎内容
大きく分けると、アカデミックなものと、レクリエーションのタイプのものがあります。アカデミックなものでも、選抜された子供を対象に数学の英才教育を行う真剣なものから、理科の観察や実験を通して科学に興味を持たせるものまであります。教科は算数・数学・理科・作文・読書などがあります。

その一方、夏のスポーツなど自然の中でおもいっきり運動させようとするキャンプもあります。水泳など夏のスポーツ、野球などの球技、体操、ダンスなど盛り沢山です。

◎どこで情報を?
サマースクールの情報は、どこでも手に入ります。身近なところでは、電話帳、図書館、雑誌、パンフレットなどがあります。それとインターネットで「Summer School」で検索すれば、驚くほどの情報が入手できます。もちろん、ほとんどの情報は英語ですが、日本語で書かれた案内やパンフレットも多く見られます。

しかし、最初にすることは、近所の親や友人に聞いてみることです。その場合、紹介された活動が本当にご自分のお子さんに向いているのかどうかの判断が必要です。

日本人の子供にとってのサマースクールの重要性

次に、渡米間もない日本人の小学生にとってのサマースクールの大切さを考えてみます。

「前の学年で学習した内容を忘れている子供が多い。9月に新学期が始まった時に、復習をするのに2カ月ほどかかる」と、現地の小学校の先生が嘆いているのを聞いたことがあります。夏休み前に学年が修了するので、宿題もなく、勉強から遠ざかってしまうことが原因です。そのため、公立でも夏の休暇を1年間に分散した通年制の学校が人気を集めています。

このブランクは、渡米間もない子供にとっては英語力の保持に非常に重要です。学期中にせっかく覚えた英語を、長い夏休み中に失ってしまうのは、ただ残念では済まず、9月からの新学年の勉強にも大きく影響します。

会話力の低下を防ぐためにも、ネイティブの子供たちが参加し、団体やグループでするアクティビティーに参加させることを考えてください。理想的には、学校が提供する日ごろの学校生活に近いものがいいと思います。しかし、そのような機会がない場合は、アクティビティー中心のものでも、その目的に沿うのならばOKです。

ご相談のお子さんはまだ小学校低学年ですが、5年生以上くらいになると泊まり込みのサマーキャンプなどに参加できます。ただし、参加してみたら日本人の子供だけだったというようなことのないように、よく調べてください。

サマースクールは、英語力の総合的な向上のため、同年齢の子供たちと一緒の時間を過ごすため、身体を鍛えるためなどのさまざまな目的があります。しかし、最も重要なのは、サマースクールというアメリカの文化自体に触れるという体験です。帰国後も、子供たちのすばらしい思い出になります。

(2005年5月16日号掲載)

Q. 中学生向けで、特徴のある サマースクールはありませんか?

 

A. NYと日本で、私立校が提供するサマープログラムがあります

松本輝彦(INFOE代表)

長ユニークなサマースクール

今回は、日本またはアメリカの学校が提供する、サマースクールを紹介します。世界中からの中学生を中心とした参加者が寮生活を共にして、言葉の学習やさまざまな体験ができるユニークなプログラムです。

慶應NY学院

ニューヨークの郊外にある慶應NY学院(高校)では、3年前から日英バイリンガルのサマースクールを実施しています。

「ハンズオン形式の映像制作ワークショップ」がこのプログラムの特徴で、映像のプロたちによる実践的な指導を通じ、短編作品を作ります。1グループに1人のインストラクターが付き、カメラの使い方、映像表現、基本的な編集テクニックを学びます。プログラム最終日には、各グループが作成した作品の試写会を行います。

その他、ESLと日本語クラスや、ダンス、文化交流イベント、ブロードウェイ・ミュージカル鑑賞などのフィールドトリップも含めてプログラムが構成されています。また、バイリンガル・バイカルチュラル教育の選択科目を受講することも可能です。

緑豊かなキャンパスにある寮で、日米各地から集まった仲間たちとの共同生活を体験し、国際的な交流を深めることができます。

明徳義塾

高知県土佐市の、太平洋を目の前にした明徳義塾中学・高校のキャンパスで開かれる、3年目のプログラムです。

午前中は習熟度別の日本語、国語の授業、午後はキャンパス外での見学やアクティビティーを通しての日本の文化、自然を体験、さらに、夜は自由時間や和太鼓体験と、朝7時半から夜10時半までの盛りだくさんの内容です。

明徳義塾では全生徒数の3割に当たる約350名の留学生が学んでいます。その留学生のための日本語、国語教育のプログラムがあるので、「日本語の会話も不自由」から「古典も読める」までの幅広いレベルの学習ができます。

アメリカ、アジア、ヨーロッパと世界中から、現地校、インター校、補習校、日本人学校で学ぶ生徒と、非常に多様な子供たちが参加してきます。家族揃っての日本への一時帰国の機会を利用する参加者も多くみられます。

参加者は学寮・食堂で共同生活をして交流を深めると同時に、夏休み期間中の集中授業やクラブ活動で寮生活を続けている明徳義塾の中・高生との交流も行われます。

◇  ◇  ◇  ◇

アメリカで生活する子供たちは、集団生活の機会に恵まれません。短い期間ですが、同年齢の子供たちと寝起きを共にし、共に学び、活動する場を与えてみませんか。

(2011年3月16日号掲載)

アメリカの「マグネットスクール」「ギフテッドクラス」とは何ですか?

Q. 「マグネットスクール」「ギフテッドクラス」とはどのようなものですか?

「マグネットスクール」とか「ギフテッドクラス」という言葉を耳にしますが、どういうものなのでしょうか?誰もが希望すれば入れるものでしょうか?学校区によって、あるところとないところがありますか?

A. 才能を広げ、学びのチャンスを広げる公立学校の英才教育システム

松本輝彦(INFOE代表)

小中学校に多いGATEプログラムとクラス

「マグネットスクール」「ギフテッドクラス」は、公立学校で行われている英才教育の一部です。カリフォルニア州の公立学校には、「GATE(Gifted and Talented Education)プログラム」があります。これは、「同じ学年の他の子供に比べて、ずば抜けて高い成果を挙げられる才能や能力を持った子供を対象に、よりレベルの高いカリキュラムや指導を提供する教育」と定められています。

ここで言う「才能・能力」は知的能力だけではなく、学習能力、リーダーシップ、美術、パフォーミングアート(音楽・ダンスなど)などでの能力が含まれます。GATEのクラスを受けるには、その子供が特定の分野に才能があると、事前に学校区に認定される必要があります。

認定のプロセスは通常、子供のずば抜けた才能や成績に気づいた先生の推薦で始まります。先生から推薦を受けた学校区は、児童心理の専門家に依頼し、様々なテストや面接をしてもらいます。才能があると認められれば、GATEの児童・生徒として認められます。先生だけではなく、保護者や児童自身が申し出ることも可能です。小学校低学年が圧倒的に多く、小学校高学年でわずかに見られますが、中学以上ではないようです。1度認定されると、義務教育が終わるまで有効です。現在、州で約50万人の児童・生徒がGATEに認定されています。

小・中学校では、GATEの子供だけが参加できるクラスが開かれます。1つの学校の中にGATEクラスを作る場合や、いくつかの学校から子供たちを決められた曜日・時間にバスで1つの学校へ集めてクラスを開いたりします。夏休みに特別クラスが組まれることもあります。通常の授業よりレベルの高い内容を学びますが、現在の学年よりも上の学年の内容というのではなく、コンピュータ、美術、エッセイなど、幅広い様々な分野の学習をします。

高校段階では、「Advanced Placement (AP)」「Honors」「International Baccalaureate (IB)」などの、通常クラスよりもレベルの高いクラスやプログラムがGATEプログラムとみなされます。受講の条件を満たせば誰でも受講できますが、GATEに認定された生徒は優先的に受講できます。

GATEの教育には州政府から財政援助がありますが、各学校区の財政状態により内容は大きく変わります。GATEに認定された児童・生徒の数、学校区の規模によっても、大きな差が出ます。

特定分野の学習に重点、マグネットスクール

生徒数が多く、GATEの生徒も多い大きな学校区では、理数・医学・アートなどの特定の分野の学習に重点を置いた学校「マグネットスクール」を設けています。例えば、美術のマグネットスクールに通い、午前中は普通の学校で学習する内容を勉強し、午後の時間すべてを絵や彫刻に費やします。

南カリフォルニアではロサンゼルス学校区がこのタイプの学校を作っていますが、カウンティーも独自に設立しています。最近は、理数の教育に特化したチャータースクールなども生まれています。このような学校に入るには、学校区の様々なルールを満たし、学校独自の選考にパスすることが必要です。入学希望者が多く、入学の1、2年前から準備が必要なようです。

これらの英才教育は、エリート養成が目的ではありません。「才能や能力の高低にかかわらず、児童・生徒1人1人が自分の能力をより高いレベルに伸ばす」という教育の平等の考えを基礎としています。

「横並びの平等」の日本での教育を受けた保護者の方々には馴染めないシステムですが、お子さんの学びのチャンスが広がる可能性もあります。校長先生に、「GATEのテストをしてください」と申し出てみてはいかがですか?

(2004年12月16日号掲載)

Q. 公立学校の特別クラスは自分で選べますか?

公立学校にある、「オナーズ」「ゲート」「マグネット」「AP」というクラスの種類を詳しく教えてください。またそれらは、自分で選ぶことができるのでしょうか?

A. 特色あるクラスは特色ある選抜で

松本輝彦(INFOE代表)

ご質問にある公立学校における特別なクラスの種類は、アメリカにおける公立学校教育の特色をよく表しています。それぞれの言葉の意味を紹介しましょう。

オナーズ:高校のハイレベルクラス

アメリカの高校は希望者全入ですから、通学区域に居住する者が、入試などで選考されることなく進学します。高校によっては1学年700~800名、4学年で3千名以上の大規模校もあります。

生徒数が多いので、学力の異なる生徒に、同じ学習内容を同じクラスで教えることは不可能です。そのため、習熟度別クラスが編成されます。一般的に、習熟度の低い方から「シェルター(shelter)」「レギュラー(regular)」「オナーズ(honors)」と呼ばれます。英語力の低い生徒のために「ESLクラス」を設けている学校もあります。一部の中学でも似たような習熟度別クラスを設けています。

どのクラスでも学習する最低限の内容は同じですが、レベルが上がるに従って、学習進度が速かったり、内容を深く掘り下げたりして、生徒の学力に応じた指導がされます。どのクラスを受講するかは、カウンセラー、科目担当教員の推薦や生徒自身の希望に基づいて決められます。しかし、どのクラスを履修しても、高校卒業資格の取得に差はつきません。

ゲート:一種の英才教育

ゲート(GATE=Gifted and Talented Education)プログラムは、学校教育の早い段階で、さまざまな能力に恵まれた子供を見出し、その才能に応じた教育を与えようという、全米の公立学校で実施されている英才教育です。

授業中の成果や学力試験の結果などで、子供に特別な才能を発見した担任が学校区(school district)に推薦します。学校区では、教育心理学などの専門家を含むチームが、試験やインタビューなどを実施して、才能の有無の判断を行います。保護者が認定審査を希望することも可能です。

その子供が才能に恵まれていると認定された場合、ゲートスチューデントとなり、学校区が提供する通常クラス以外のゲートプログラム(マグネットの学校やクラス)に参加することができます。

ゲートの対象となる才能は、算数や英語などの教科だけではなく、美術や音楽など幅広い分野が含まれます。幼い時期に才能を見出し伸ばすという考え方から、4年生くらいまでに認定されるケースがほとんどです。

マグネット:優等生を引き寄せる

マグネットスクールは、ゲートスチューデントや学業成績が優秀な子供を、磁石で引き寄せるように集めて、よりレベルの高い学習内容を厳しく指導する学校で、中学や高校が一般的です。ゲートスチューデント、先生の推薦の他、定員に余裕があれば希望者から選考して、入学が許可されます。

ロサンゼルス学校区(LAUSD)のように、児童・生徒数も多く規模の大きな学校区では、数学・科学、音楽・芸術、医学などの分野でマグネットスクールを設けています。学校を作るほどゲートスチューデントがいない比較的小さな学校区では、マグネットクラスを設け、週に何時間か、近隣の学校のゲートスチューデントを集めています。例外的に、英語力の十分でないESLの子供だけを集めた、英語のマグネットクラスもみられます。

AP:大学の単位を先取り

AP(Advanced Placement)は、高校在学中に大学レベルの授業を受け、試験に合格した場合、大学の履修単位として認めるという、全米規模のプログラムです。

AP試験のために、オナーズクラスの上にAPクラスが設けられます。受講生はそれまでの成績を基に決められます。英語、数学、アメリカ史など高校卒業の必修科目を、大学教養課程レベルの学習内容で学び、毎年5月に全米で実施されるAP試験を受験します。それに合格した場合、大学入学後にその科目を修得したものとして、単位を認定され、高校卒業と大学卒業の単位を同時に得られることになります。合格したAPの科目数と種類によっては、大学入学時点で、大学2年生になることも可能で、全米で毎年約3万人の大学進学者がこの制度を利用しています。保護者の立場で考えると、大学の1年分の授業料や寮費が節約できることになります。

日米の学校教育における公平観の違い

日本もアメリカも、公立学校では「フェア」な教育を目指しています。しかし、日本では「すべての子供に同じ教育」が、アメリカでは「子供1人ひとりの能力に応じた教育」 がフェアだと考えられています。ですからアメリカの学校では、多様なクラスやプログラムが設けられているのです。

(2006年7月1日号掲載)

Q. 中学生の娘に、より優れた教育を受けさせたい

現地校に通うもうすぐ中学生の娘を持っております。中学校に通うにあたり、ただ学校区の定められた中学校だけでなく、より優れた教育を受けられる選択肢が多くあると聞きました。こういった情報はどうやって得られるのでしょうか?

A. 「一人ひとりの力を伸ばす」をモットーに公立学校にも様々な選択

松本輝彦(INFOE代表)

現地校は校区制を採用しています。まず、あらかじめ決められた学校の通学区域に居住する児童生徒が、その学校に通学できます。次に通学区域内に住んでいなくても、保護者の勤務先がその校区内にあれば通学できます。

「児童生徒一人ひとりの力を伸ばす」がモットーのアメリカでは、様々な個人の能力に応じた教育が見られます。ご質問の「優れた教育」は様々な意味に取れますが、ここでは公立の学校でも提供されている「該当学年のレベル(grade level)を越えた教育」を中心に紹介します。

小学校の英才教育、GATEプログラム

小学校段階の子供たちを対象とした、公立の学校の英才教育の1つがGATE(Gifted and Talented Education)プログラムです。学校の日々の教科活動の中で、「この子は特別な才能がある」と担当の先生が認められた子供が、教育心理の専門家の評価を受けて、学校区によりGATEの子供として認められます。

GATEクラスは、1つの学校の中にそのようなクラスを作ったり、決められた曜日・時間にいくつかの学校から子供たちを1つの学校へバスで集めてクラスを開いたりします。夏休みの間に特別クラスが組まれることもあります。しかし、クラスの内容や方法は、その学校区の財政状態により大きく変わります。

教科ごとに設けられた習熟度別クラス

習熟度が進んでいる子供の指導は日常的に行われます。小学校の場合、例えば、3年の算数のクラスの中に4年生以上の内容をすでに学んでいた子供がいると、同じ算数の時間に教室内で別のグループを作り、進んだ内容の教科書を使わせたりして、別途に指導をします。

中学、高校になると、同じ教科のクラスでも習熟度別クラスがあり、子供の実力に応じた、よりレベルの高い学習をさせています。中学校では、一般のRegular Classに対してAdvanced Classなどと呼ばれます。高校ではRegular、Honors、AP(Advance Placement)クラスとレベルが高くなります。

前の学年のその科目の成績や先生の推薦などを元に、受講許可の是非が決められます。小学生の時にGATEと認められた場合に、受講が許可される場合もあります。

特定分野の学習に重点、マグネット・スクール

ロサンゼルス学校区(Los Angeles Unified School District)のように大きな学校区では、理数・医学・アート(美術・音楽・演劇など)などの特定の分野の学習に重点を置いた学校、主に高校を設立しています。私の教え子は、美術のマグネット・スクール(Magnet School)に通っていました。午前中は普通の学校で学習する内容と同じものを勉強しますが、午後の時間中、絵を描いたり彫刻を作ったりして美術に費やします。

このような学校に入るには、学校区の様々なルールを満たしたり、学校独自の選考をパスすることが必要です。この形式の学校やプログラムは大変人気があり、希望者のウェイティングリストがあるのが普通です。入学希望の1、2年前から準備が必要のようです。

地域住民で運営する、チャーター・スクール

地域住民が自分たちの子供のニーズに合った教育をするために、設立・運営するのがチャーター・スクール(Charter School)です。学校区などの公的組織が設立しないので私立学校のようですが、授業料を州政府が税金から捻出しますので、公立学校の性格も持っています。設立の動機は、保護者の地元公立学校での教育への不満が主です。そのため、公立校以上のアカデミックな実績を目指す学校、公立校では法律等の制約があり提供できないバイリンガル教育を目指す学校が、多く見られます。

チャーター・スクールは、カリキュラム、実績、財政状況など、非常に多様性に富んでいます。そのため、選択に当たっては、十分調べることが必要です。

(2004年6月1日号掲載)

5段落エッセイ(Five Paragraph Essay)とは何ですか?

Q. 子供が現地校の 「エッセイ」 で苦労。 エッセイの目的と勉強法は?

 

A. エッセイは現地校で最も大切。 基本形を日本語でしっかり理解する

松本輝彦(INFOE代表)

エッセイとは?

アメリカでのエッセイにはさまざまな目的・形式の文章が含まれます。しかし、小学校から高校までの学習で中心となるのは「persuasive(説得力のある)essay」です。私は、日本人の子供たちにそのタイプのエッセイの特徴を「自分の意見を、読み手に伝えて説得する文章」と説明しています。

「essay」の日本語訳は「随筆」が一般的です。しかし、日本語の「随筆」が示す「味わい深く情緒的な不定形の文章」ではなく、現地校で学ぶエッセイは「自分の主張をはっきり伝える、形式の明確な文章」のことです。

エッセイ学習の目的

アメリカの学校教育の大目的は、「民主主義を守る子供を育てる」ことです。そのための「自分の意見を、相手にしっかり伝える」教育は重要です。その「自分の意見をまとめ、相手に伝える文章表現のトレーニングがエッセイの学習」で、小学校高学年から中学・高校へと繰り返し続けられます。

また、アメリカの大学教育では、自分の研究や考察の結果・内容を、他の学生・研究者に論理的に伝えるためのエッセイ(ペーパー、論文)のトレーニングが続けられます。自分の研究内容を他の研究者に理解してもらって、初めて「研究」として認められるのです。

エッセイ学習のステップ

学校での言語としての英語の学習は、小学校低学年(1~3年)の「話し言葉」中心の学習から始まり、高学年(4~6年生)では「読み書き」の学習へと移っていきます。

「書く」学習は、低学年のジャーナルなどで自由に文章を書かせ、「書くこと」の習慣付けをスタートします。その後4年生頃から、エッセイの学習として「五段落エッセイ(five paragraph essay)」のトレーニングが始まります。6年生の終わりまで、この基本的な型に従ったエッセイの書き方が、徹底して繰り返し指導されます。

中学校になると、五段落エッセイで、自分の意見を読み手に伝える文章の練習が多くなります。「主張は明確か」「主張をサポートする理由は」「主張やサポートが論理的か」などの質問が繰り返され、この質問に回答するための「考える」トレーニングがクラス内の質疑応答・ディスカッションを通じて行われます。

高校では、五段落エッセイの基本の徹底復習をする生徒から、五段落エッセイの型を崩してより内容の充実したエッセイの勉強をする生徒まで、生徒の学習レベルに応じた多様な指導が行われます。

大学入学にあたって、大学での学習の基礎としての五段落エッセイの実力を判定するために、統一試験(SAT、ACT)でエッセイのテストの受験を、4年制大学のほとんどが要求します。

五段落エッセイ

文字通り、5つの段落で構成されるエッセイの型は、エッセイの基本形です。

導入と主張・意見をまとめた第1段落。その主張・意見を説明する3つの理由と、それぞれの理由をサポートする文章で構成される第2~4段落。最後に、第1段落の主張・意見を繰り返し強調する第5段落。

このように、形式・ルールがはっきりしているので、それを理解すれば、限られた英語力でもエッセイを書き上げることができます。

エッセイの勉強法

小学校低学年から現地校で学んでいる子供は、学校の指導に従い、コツコツと勉強するのが最も効果的な勉強方法です。

小学校高学年で渡米した子供は、英語力も不十分なまま、いきなり英語で、型の決まったルールの多い文章を書かなければならないので大変です。英語力の向上と並行して、学校でのエッセイ指導の内容を、子供がしっかりと理解できる日本語で教えてあげるように、サポートしてあげてください。

中学校以降から現地校で学んだ生徒は、五段落エッセイの基本型の理解と練習ができていません。基本形は簡単ですから、一度、日本語でしっかりと理解する機会を作りましょう。

◇ ◇ ◇ ◇

エッセイを書く力は、アメリカの学校教育で最も大切なスキルの1つだと、おわかりいただけましたでしょうか。その力は、日本帰国後も、大学、社会に出てからも、お子さんの「宝」になることを信じてください。

(2010年11月1日号掲載)

Q. 英語の成績は良いのですが、エッセイが書けません。

渡米して3年。10年生の娘は、英語の成績は良いのですが、エッセイが書けないと悩んでいます。どんな勉強方法があるのでしょうか?

 

A. 「Five Paragraph Essay」の基礎トレーニングがあります。

松本輝彦(INFOE代表)

「Five Paragraph Essay」

小学校高学年で学ぶ「Five Paragraph Essay」は、自分の意見を読み手に伝えるための文章です。

文章の形式は、序論(Introduction)・本論(Main Body)・結論(Conclusion)からなる3段法ですが、本論をさらに3段落に分け、全部で5段落になることから「5段落エッセイ」と呼ばれています。各段落の役割をはっきりさせ、形をしっかり習得することから、本格的な書き(Writing)が始まります。

テニスの入門者にラケットの握り方・振り方を教えるように、4年生から6年生の間に徹底して型にはめるトレーニング方法を科し、子供全員ができるようになるまで続けられます。

エッセイの重要さ

「Five Paragraph Essay」のトレーニングは、アメリカの教育のねらいを最も良く表しており、かつ、日本の教育ではまったく見られないものです。

このエッセイは、相手を説得・納得させるために書くもので、内容的には「Persuasive Essay」に分類されます。自分の主張がないと書けませんし、書く必要もありません。

まず、自分の意見をしっかり持ち、それを相手に伝え、時には相手に行動を取らせるために書くものです。「民主主義を守るアメリカの国民」を育てる目的に合致するものです。

そのトレーニングは4年生から始まり、高校卒業まで続きます。大学入学に当たり、しっかりした「Five Paragraph Essay」が書けることが、書きの最低限の能力として要求され、大学出願のための統一試験にも含まれています。

さらにそのトレーニングの特徴は、5段落というしっかりした形式・構造を、子供たちに叩き込む勢いです。その構成の単純さゆえに、誰でもできる、誰にもやらせるトレーニングになっているのです。

まさに、「書く」というアカデミックなスキルと、自分の意見を最も効果的に伝える形式という意味で、「Five Paragraph Essay」を書くトレーニングは重要なのです。

勉強方法

日本からやってきた子供自身はあまり自覚していませんが、このエッセイのトレーニングは大きなハードルです。

英語力の問題は明らかですが、それに加えて、日本の学校で型にはまった文章の書き方などを学んだことがないからです。さらに、自分の主張を相手に伝えるための文章を書く指導もほとんど受けていません。

エッセイの日本語訳は「随筆」ですが、情感豊かな文章を表す日本の随筆とはまったく異なります。伝統的にも、文化的にもなじみのない文章なのです。これらの違いをはっきり認識しておけば、現地校で学ぶ日本人の子供たちにとっては、そんなに大きなトラブルにはなりません。

具体的な勉強方法は、「『Five Paragraph Essay』の型を知り、練習すること」です。小学生でもできる簡単な型の練習ですから、中学生や高校生にとっては決して難しいものではありません。現地校の英語の先生に指導してもらっても結構ですが、日本語でしっかりと理解できるようにバイリンガルの家庭教師や大学生を探してみることをおすすめします。

「Five Paragraph Essay」は、アメリカの教育で最も重要なスキルです。また、日本帰国後の子供にとっての「宝」になるものです。しっかり理解し、確実に学んでください。

【Five Paragraph Essay(5段落エッセイ)】

 

第1段落:序論(Introduction)
自分の意見(Thesis)を述べる。

第2-4段落:本論(Main Body)
自分の意見をサポートするため、段落ごとに異なった事実や根拠を示す。
各段落の始めにはその段落の内容を述べた文(Topic sentence)を必ず入れる。

第5段落:結論(Conclusion)
表現を変えて、自分の意見をもう1度述べる。

(2007年11月1日号掲載)

アメリカの高校制度とは

まずはじめに、日本とアメリカの教育制度の違いを理解する必要があります。アメリカの学校では学年のことをグレードと呼び、日本の小学校1年~高校3年にあたる12年間が、グレード1~12に相当します。一般的には、グレード9~12の4年間を高校(high school)とします。さらに各グレードには別称があり、グレード9を「フレッシュマン」、10を「ソフォモア」、11を「ジュニア」、12を「シニア」と呼びます。
関連:アメリカ生活大事典「アメリカの学校・教育制度」
関連:アメリカでの教育「アメリカでの高校生活の悩み」
  
日本と異なり、高校まで義務教育のアメリカでは「高校受験」というものはなく、居住している学校区の高校に通います。通学していれば自動的に卒業できるわけではなく、必須科目の取得、必要な取得単位数を満たす、卒業試験に合格するなどにより卒業資格が与えられます。以下、アメリカの高校での科目選択や取得単位、卒業試験や繰り上げ卒業などについて解説します。

 

Q. アメリカの高校の科目選択、注意すべき点を教えてください

アメリカの高校に通うお子さんを持つお母さんから、アメリカでは自分で選ぶ科目がとても多くて、科目登録の際は大変だと聞いています。実際の科目の内容と、科目選択の際、注意すべき点がありましたら教えてください。

A. 自由度も自己責任度も高いアメリカ。高校の科目選択は、大学出願条件を考慮して選んで

松本輝彦(INFOE代表)

日本の高校制度

日本の高校は、普通・工業・農業・商業・漁業などの種類があります。その中で生徒数の最も多い普通高校は、入学試験で比較的アカデミックな能力のそろった生徒を集めています。一方、アメリカの高校は、義務教育の最終段階なので、当然入学試験もなく、地域の高校学齢期の若者を全員集めて教育を行っています。
 
この制度の違いによる、高校での教育のあり方は大きく異なります。多様性に富んだ生徒を集めたアメリカの高校では、生徒が選択可能な科目は英語・数学などのアカデミックな主要科目から、自動車整備・製図などの実務科目まで、さまざまな内容に分かれます。さらに主要科目は、ESL・レギュラー・オナーズ・APなどの習熟度別クラスに分けられており、生徒は自分の希望と習熟度に応じてクラスを選ばなければなりません。

アメリカの高校制度

アメリカの高校での科目選択を複雑にしている別の理由に、授業の形式があります。必修科目の単位や総取得単位数で高校卒業が決まる「単位制」を採用しているのはどちらも同じです。しかし、日本は「学年制」や「学級制」も取り入れたクラス編成を特徴としており、学年や学級単位でのクラスでの受講が中心です。最近は選択科目も増えてきていますが、学年ごとにクラスが分かれるのが普通で、自由に選べる科目はそんなに多くありません。また、普通高校は大学進学が主たる目的の学校ですから、主要科目の学習が中心で、実務的な科目はほとんどありません。
 
一方、アメリカの高校では、はっきりした「学年」や「学級」の壁はなく、クラスによっては9年生と12年生が隣に並んで授業を受けます。もちろん、学習内容を考慮した、主要科目における各学年での配当科目はありますが、必ずしも従う必要はありません。さらに、前に受講したクラスで不可になった場合は再履修の必要も出てきます。「高校在籍中に所定の科目の単位を取得すれば、高校卒業の資格が与えられる」という仕組みが、しっかり守られています。
 
「アメリカの高校は、科目選択が大変」と思われる最も大きな理由に、日米の高校の制度的な違いがあります。

アメリカの高校の受講科目の選択

実際の受講科目の選択にあたっては、「高校卒業要件」と「大学出願条件」を考える必要があります。
 
アメリカの高校卒業要件
各学校区(School District)では、高校卒業要件のひとつとして、「必修科目とその単位数」「合計単位数」を決めています。クラスを履修する順序や、どの学年で受講するかといった詳細は、学校が発行している「Student Hand Book」や学校のホームページで確認してください。
※アメリカの高校卒業の科目指定(例)は本ページ下表を参照ください
 
アメリカの大学の出願条件
さらに、アメリカの4年制大学に進学を希望するならば、希望する大学や大学システムの出願要件を満たす科目を受講し、単位を取得する必要があります。一般に、大学が要求する条件は、高校卒業の条件よりも、受講科目や単位数が厳しくなっているのが一般的です。また、カリフォルニア州の2つの州立大学システム、カリフォルニア州立大学(California State University、Cal StateまたはCSUと呼ばれる)とカリフォルニア大学(University of California、UCと呼ばれる)では、要件が少し異なります。詳細は卒業要件同様、資料をご覧ください。
 
また、州立や私立の有名大学に進学したい場合は、受講する科目や単位数だけではなく、オナーズやAPなどのクラスを何科目受講したか、それらの成績はどうだったかなど、よりレベルの高い学習を要求します。そのため、9年生からスケジュールを考えて、クラスを受講する必要があります。
 
高校の科目選択の問題も、ひと言で言うと、「日本の高校に比べ、アメリカの高校では科目の選択の自由が与えられている代わりに、生徒自身の自己責任が大きい」ということです。
 
(2006年3月1日号掲載)

Q. アメリカの高校の卒業単位取得に必要な成績を教えてください

現在11年生の息子がいます。もうすぐ、セメスターが終わりますが、2科目の成績が「F」になりそうです。このままでは、高校が卒業できるかどうか心配です。

A. 各教科で合格点以上の成績を取れば、各科目の単位が与えられます。

松本輝彦(INFOE代表)

アメリカの高校卒業要件

まず、アメリカの高校を卒業するための一般的な条件を確認しましょう。
 
●高校卒業試験
カリフォルニア州では、2006年の卒業生から卒業試験合格が、卒業資格取得の条件になりました。試験は、英語(English Language Arts)と数学(Mathematics)に分かれ、各セクションで合否が決定します。受験は、10年生で1回、11年生で2回、12年生で3回のチャンスが与えられます。
 
●取得単位数
学校区(school district)により、卒業に必要な取得単位数が決められています。1科目を1学期(セメスター)間に受講し合格した場合に、5単位が与えられます。1年は、1学期(秋学期、9月~1月)、2学期(春学期、2月~6月)、サマースクールに分かれていて、各学期に単位の取得が可能です。8年生終了後のサマースクールから12年生の2学期の間に取得した単位が、高校卒業に必要な単位として認められます。
 
●科目指定
卒業に必要な受講科目(必修科目)と単位数が、学校区で決まっています。これらは必修なので、卒業のために必ず履修し合格しなければなりません。この必修科目に加えて、学校区で決められた取得単位数に達するまで、選択科目を受講・合格する必要があります。科目指定は、下の表にて確認ください。

 

アメリカの高校卒業の科目指定(例)

科目 単位
英語 40
数学 20
理科 20
生物 10
物理・化学 10
社会 30
世界史・地理 10
米国史 10
米国の政治 5
米国の経済 5
体育 20
美術/外国語 20
保健 5
合計単位数 225単位
出典:Palos Verdes Unified School District

 

ここで紹介した高校卒業要件は、卒業試験のように州で統一されたものもありますが、詳細は学校区によって異なります。例えば、トーランス学校区では220単位取得で卒業できますが、パロスバーデス学校区では225単位が必要です。学校区独自の条件を追加している場合もあります。詳細は、学校が発行する「Student Hand Book」やホームページで確認できます。

単位取得について

1. 単位制
アメリカの高校は「単位制」を採用しています。上に示した卒業要件を満たす単位が取れれば、高校の在籍期間が4年(9~12年生)より短くても、高校卒業資格が取得でき、卒業証書(diploma)がもらえます。日本人生徒によく見られる繰り上げ卒業(早卒)は、この制度をフルに活用したものです。
 
単位制の質問に「単位取得に必要な成績は?」というものがあります。各教科で合格点(passing grade)以上の成績を取れば、単位が与えられます。普通の科目では「D」、一部の科目では「Pass」が最低の成績です。学校区によっては、卒業に必要な最低の成績平均点(GPA: Grade Point Average)を決めています。
 
2. 再履修
悪い成績を取ってしまった科目をもう1度受けて、良い成績に書き換えたい」という再履修の希望については、学校区ごとに再受講できる「最初の成績」や科目が決められています。これは、大学出願時の成績に関連します。
 
アメリカの大学の場合は、GPAや受講科目の内容を詳細に評価しますので、再履修で大きな差が出る場合もあります。日本の大学の場合は面接試験で質問される程度なので、取得単位よりも卒業の方が重要になります。いずれにせよ、しっかり勉強して、良い成績を取るに越したことはありません。日本の学校制度とは異なるアメリカの高校の卒業要件については、さまざまな質問を多くお聞きします。ご質問をお持ちの方は、ご連絡ください。
 
※用語の訳
High School Graduation Requirements(高校卒業要件)
California High School Exit Examination(CHSEE)(卒業試験)
Subject Requirements(科目指定)
 
※学校区ホームページ
トーランス学校区(http://www.tusd.org/
パロスバーデス学校区(http://www.pvpusd.k12.ca.us/
 
(2008年1月16日号掲載)

Q. アメリカにはインターネットの高校がある?海外子女にどんなメリットが?

 

A. オンラインと通信制の高校は海外・帰国生の新たな選択肢です

松本輝彦(INFOE代表)

オンライン・ハイスクール

アメリカで、オンラインのハイスクールで学ぶ高校生が急激に増えてきています。
 
インターネットの発達と通信環境の向上を背景に、動画や双方向の通信をフル活用した、インターネット上のオンライン形式授業が、容易に受けられるようになり、アメリカ全土で急激な広がりを見せるようになりました。
 
オンライン・ハイスクールでは、それぞれの学校が要求する受講科目で単位を習得し、要件を満たせば、高校卒業資格を取得し、大学へ進学することができます。
 
多くは私立(有料)ですが、最近、地域住民のために学校区やNPOが運営する公立校(無料)も増えています。

通信制高校

日本には、教育の多様化を目指した、文部科学省が近年設立を認めた新タイプの高校、通信制高校があります。
 
新入学だけでなく在学中の途中編入も可能で、入学資格は学校により異なります。資格の一つとして、一定の地域の生徒だけを受け入れる学校から、どこに住んでいても(外国でも)入学・卒業が可能な学校もあります。
 
通信制高校は、学校により形式、指導方法が大きく異なります。「通信制」では、その名前の通り、ほかのタイプの高校のように、全日制・定時制のような定期的な登校を前提としていません。しかし、「スクーリング」と呼ぶ、年1回1週間などと比較的短期間の通学を要求する学校もあります。その一方で、100%自宅学習で卒業できる学校もあります。
 
「通信」の方法も、郵便・放送・インターネットなどと、学校によってさまざまですが、最近は、通信環境の向上を活かして、動画での授業や、先生とのリアルタイムでの質疑応答など、その指導方法も多様になっています。

海外・帰国生のメリット

ここで紹介した新しいタイプの高校は、現在アメリカで学んでいる高校生、また、日本に帰国後の高校生に、新たな選択肢を提供します。
 
●高校生で日本から渡米した場合
単位数不足で現地高校が卒業できない時、オンラインで受講した科目・単位を現地高校に認めてもらい、卒業することが可能になる。ただし、現地高校の事前の許可が必要。
 
●現地の高校在学中に日本に帰国
帰国と同時に、現地高校からオンライン・ハイスクールに転校し、残りの単位を取得して、「現地高校」を卒業する。この卒業資格で帰国子女大学入試を受験したい場合にも、この方法が可能?(まだ誰もトライしていない?)
 
●日本帰国後、英語での勉強を続けたい
日本の公立高校(授業料無料)で日本語で学び、オンライン・ハイスクールで好きなクラスだけを英語で受講する。こうして英語力を伸ばしておけば、アメリカの大学に進学することも可能になる。
 
●日本に帰国するが、アメリカの大学に進学希望
オンライン・ハイスクールで「アメリカの高校」の卒業資格を取得し、アメリカの大学に出願する。この場合、日本の高校卒業資格は必要ない。
 
●日本帰国後の高校編入が大変
無理に普通の高校に入学・編入しないで、学校選択の一つとして、通信制の高校で学ぶ。
 
(2012年4月1日号掲載)

Q. 1年下げてアメリカの現地校に入学した娘。高校を繰り上げ卒業したい

4年前に渡米、娘は1年下げて現地校に入学しました。現在8年生、日本の大学進学を目指しており、できれば繰り上げ卒業をして、同じ年の幼馴染みたちと一緒に進学させたいと考えています。早卒で気をつけるべきことはありますか?

A. 必修科目の受講は特に注意が必要。サマースクールを活用しましょう

松本輝彦(INFOE代表)

普通4年をかけて卒業する高校を、在籍期間3年や3年半で卒業することを「繰り上げ卒業」「早卒」「early graduation」などと呼びます。

繰り上げ卒業の理由

「家族の日本帰国」と「学年の遅れを取り戻す」の2つが、繰り上げ卒業を希望する理由として一般的です。駐在員である父親の日本への帰任予定時期までに高校を卒業できない生徒は、繰り上げ卒業をすることにより、家族揃って日本へ帰国することができます。高校生の単独残留のためのビザの取得が困難なこと、経済的な問題、家庭事情などが、その背景にあります。
 
渡米直後の現地校への編入時に、生年月日などの理由により、日本での学年より現地校の学年を落として入学する生徒がいます。この場合、3月に日本の高校卒業の年齢に達していても、現地校ではまだ12年生で卒業は6月。ほとんどの帰国子女受け入れ大学の帰国子女入試は秋から春にかけて実施され、入学は翌年の4月になります。そのため、半年遅れの高校生は、大学入学が日本の同級生より1年遅れになります。ご相談のケースのように、この遅れを取り戻すために、繰り上げ卒業を希望する生徒がいます。

アメリカの高校卒業には何が必要?

アメリカの高校は、すべて単位制システムを採用しています。一般的に、学校区(school district)によって決められた次の条件を満たせば、「高校卒業資格」を取得できます。
 
●総単位数:
卒業までに取得しなければならない単位数。1授業時間の授業を1学期(約90回)受講し、必要な成績を修めれば5単位が与えられる。学校区により多少異なるが、卒業のためには220単位程度が必要
 
●必修科目:
受講科目の中に必ず含まれなければいけない科目と単位数の指定。例えば、4年間の英語、2年間の数学、2年間の体育、アメリカ史、アメリカ政治など
 
●学業成績:
受講した科目で得た成績の平均点(GPA)が2.0以上など、学業成績の最低点が定められている
 
●その他:
最近は、決められた時間数のボランティア活動などを、卒業の条件としている学校区もある
 
単位制では、年数に関係なく、これらの条件を満たせば卒業となります。例えば、3年間、早朝のクラスも受講して、1日7つの授業を受けると、合計で210単位取得できます。1回のサマースクール(10単位)を追加すれば、卒業のための総単位数を確保できることになります。
 
8年生修了後も含めて、サマースクール受講のチャンスも3回以上あります。必修科目の受講などの計画をしっかり立てれば、1年の繰り上げ卒業も、決して無理なことではありません。
 
普通、1学期ごとに単位が発行されますので、秋学期が終わる2月、春学期の終わる6月、サマースクールの7月と、年に3回卒業時期があります。繰り上げ卒業は1年間の繰り上げが一般的ですが、半年の繰り上げも可能です。

早卒は何が大変?

繰り上げ卒業のこれまでの例を振り返ると、必修科目の受講に注意が必要です。例えば、1年繰り上げすると、通常12年生で配当されている必修科目(英語や政治・経済)を、前倒しで受講する必要があります。通常4年間の英語が必修となっていますので、3年目と4年目に配当されている英語を11年生のうちに受講しなければなりません。さらに、政治・経済などの必修科目もあります。
 
これらが11年生に集中すると、成績も下がり、単位を取得できないこともあります。それを避けるために、サマースクールで事前に受講するなど、必修科目の負担が重ならないようにすることが必要です。

帰国子女大学入試

海外からの帰国生を対象とした大学入試は、単に「現地の高校卒業」を出願資格の1つとしていますので、繰り上げ卒業でも問題なく受験できます。現地校が半年早くて、かつ繰り上げ卒業をして大学に4月入学した場合、まだ17歳になります。日本国内の高校卒業では18歳が普通ですが、帰国子女に限り、国公立大学の一部を除いて、17歳で問題なく進学できます。
 
お子さんの在籍する学校や学校区のカウンセラーに、ここで紹介した卒業の条件や単位数の計算方法などのルール、また受講科目の選定や受講順序などを確認してください。その説明を聞き、繰り上げ卒業を決めたら、正式にカウンセラーへの届出が必要です。
 
繰り上げ卒業には、事前の計画と無理のない準備が重要です。
 
(2006年5月16日号掲載)

Q. アメリカの公立高校卒業に必要なハイスクール・イグジット・イグザムって?

2004年夏に渡米し、9月から公立高校の10年生に娘を入れた母親です。最近、「公立の高校は、ハイスクール・イグジット・イグザムがあるから卒業が大変よ」と言われて心配しています。この試験について教えてください。万一、卒業できない場合、どうしたらいいのでしょうか?

A. 卒業までに合格することが条件の英語と数学の試験

松本輝彦(INFOE代表)

カリフォルニア州の高校卒業試験

この試験の正式名称は「California High School Exit Examination (CAHSEE)」です。日本語で「高校卒業試験」と呼びましょう。この試験はカリフォルニア州の法律で決められており、カリフォルニア州の公立高校の生徒全員に適用されているものです。公立高校の卒業資格を2006年6月以降に取得するためには、この試験に合格しなければならず、試験は英語(English-language Arts)と数学(Mathematics)に分かれ、それぞれ合格する必要があります。
 
英語のセクションは10年生までの学習内容をカバーし、読解(Reading and Decoding)と作文(Writing)に分かれ、選択問題と作文問題が課されます。数学セクションは、Algebra Iまでの数学のほとんどの分野から、選択形式の問題が出題されます。
 
10年生の春に1回目の試験が実施され、その後、12年生終了まで5回、受験の機会が与えられます。英語力の不十分な生徒(English learner)も他の生徒と同様に受験することになっています。

新たに加わった卒業の条件

これまで、カリフォルニア州の公立高校を卒業するためには、
①必要単位(必修・選択)の取得
②最低基準以上の成績(GPA)の取得
③決められた時間以上のボランティア活動(一部の学校区)
など、それぞれの学校区で決められた条件を満足すれば、卒業証書(Diploma)が発行されました。ところが、2006年6月以降に卒業する生徒(現在の11年生以下)には、高校卒業試験合格が新たな卒業条件として加えられることになります。
 
すでに2003年9月から、対象となる生徒(当時10年生)はこの試験を受験しています。150万人の高校生が受験した結果によれば、全体の約75%の生徒、English learnerの約40%が合格、アジア系生徒の85%が合格しています。
 
この結果は1回目だけのもので、不合格者は再受験の機会を与えられており、合格率はより高くなっていると思われますが、結果はまだ発表されていません。なお、この統計で言うEnglish learnerとは、法律上は「入学後1年以内」の生徒という定義になっています。

日本人生徒にとって、やはり難しい?

この試験の日本人生徒への影響に対する見方は、人によって大きく異なります。先述の試験結果を参考に、「2年位の高校在籍でも卒業できる」と判断する現地校の先生もいますし、「7年生以降ぐらいに渡米した場合、12年生終了までに合格するのは難しい」と話す、日本人生徒の実態に詳しい学校区の関係者もいます。ただ、どちらも「生徒の個人差」を強調します。生徒の能力と日々の努力で、合格に必要な年数が大きく異なるとのことです。

対策として私立への転校を考慮

公立の高校で卒業試験合格が困難ならば、卒業資格を取得する方法は「私立高校への転校」です。しかし、その私立学校も日本ほど学校数が多くありません。最近のアメリカ全体での私立校ブームでレベルの高い高校に入学すること自体が難しくなってきており、受験準備に最低2年くらいかかるのが現実です。英語力が不十分な日本人の高校生がいきなり編入することは、より困難です。
 
そんな日本人高校生にとって、現実的な選択肢は、日本語と英語のバイリンガル教育を行う私立高校です。東海岸には慶應義塾ニューヨーク学院(www.keio.edu)、西海岸にはロサンゼルス・インターナショナル・スクール(LAインター、www.LA-INTER.org)があります。
 
高校卒業試験の合格の可能性の判断は、お子さんの学習状況を把握することが前提となります。お子さんの学力、進路が心配な方は、どうぞご連絡、ご相談ください。
 
■出典: California Department of Education (http://www.cde.ca.gov/)
 
(2005年1月1日号掲載)

アメリカでの高校生活の悩み

Q. 高校2年生の息子を、アメリカに連れてくるか迷っている

こちらに単身赴任で着任したばかりです。妻と子供たちはまだ日本ですが、高校2年生の息子をこちらに連れてくるかどうか迷っています。メリット、デメリットを教えてください。また、連れてくるとしたらどのようなコースがありますか?
関連:アメリカでの教育「アメリカの高校制度とは」

A. 11年生もしくは12年生での編入か、日本の大学を受験するか…選択肢は様々

松本輝彦(INFOE代表)

高校生を海外赴任に同行するかどうかは、様々な条件が絡むので、本人とご両親にとって大きな悩みです。高校2年生で初めて渡米するケースについて、お答えします。

まず、現地校での学年は、生年月日で現地の学校の学年が異なりますので注意してください。カリフォルニア州の場合、一般的に12月1日までに生まれている場合、9月からは日本の学年より現地校の学年が1つ上、すなわち、高校の最終学年である12年生になります。12月2日以降であれば11年生です。

これはあくまでも一般的な話で、編入する高校の判断や、本人の希望で変わる場合もあります。どちらの学年で編入するかにより、後に述べるような差が出てきますので、十分にご注意ください。

かけがえのない海外体験と英語力向上がメリット

12年生で編入の場合、高校卒業まで10カ月しかありません。その後すぐに日本へ帰国であれば、この短い期間にネイティブ並みの英語力を身につけることは不可能ですが、レベルの高い英語力を身につけることは努力次第で可能です。11年生で現地校へ入った場合は2年近くあるので、帰国後、読み書きも含めた高いレベルの英語力を身につけることが可能です。

また、海外での生活で得た経験・知識は、子どもたちの考え方に大きな影響を与え、その幅を広げます。さらに、カリフォルニア州では18歳までが義務教育ですので、公立高校の場合、個人的な費用以外、一切お金はかかりません。

とにかく卒業が大変。それが最大のデメリット

高校卒業は完全な単位制で、必修・選択科目単位の取得が必要です。ほとんどのクラスはネイティブの人と同じように扱われます。そのため、単位の取得が困難な場合があります。高校卒業で試験をする州もあり、1~2年の在籍では、その試験に合格するのが大変困難なところもあります。

高校卒業で日本へ帰国する場合、短期間での英語習得は大変な努力を要します。逆に「日本語力が落ちるのでは」という質問を聞きますが、高校生段階での渡航では、心配は要りません。

公立や、私立、バイリンガル高校もあり

カリフォルニア州では18歳までが義務教育ですので、公立の高校には必ず入れます。居住地や保護者の勤務地を校区とする高校へ出向き、簡単な英語力の試験を受け、入学します。授業料は無料です。

近年は公立高校の抱える問題を嫌って、私立の高校へ子どもを送り込む保護者も増えています。しかし、大半は進学準備の学校(プレップ・スクール)ですので、現地の大学への入学希望者が多い優秀な学校へ渡米直後の日本人が入学することは難しいでしょう。

また、郊外の寮のある私立高校では、外国人のための英語クラスなどを設けて、積極的に外国人を受け入れているところもあります。さらに、南カリフォルニアには日英バイリンガル高校・ロサンゼルス国際学園などがあり、日米の大学への進学実績があります。

帰国子女入試で日本の大学へ、またはアメリカの大学へ

現地校で2年学べば、ほとんどの大学の帰国子女大学入試が受験できます。日本の高校の卒業生に比べて、受験・進学できる大学のチョイスが多く、有利なのが現状です。

12年生で編入した場合は、帰国子女入試が受験できる大学は現実的に数校しかありません。しかし、そのわずかなチャンスを生かして、日本の大学へ進学する高校生もいます。

アメリカでは、高校を卒業すれば誰でも2年制のコミュニティーカレッジに編入できます。大学の教養レベルクラスやより実務的なクラスまで幅広い内容が学べ、専門スキルを取得し日本で就職する人もいます。費用も大変安く、学校も非常に多くあります。

4年制の大学に進学することも可能です。カリフォルニア大学やカリフォルニア州立大学がその例です。これらの大学への出願は12年生の秋です。コミュニティーカレッジで必要な単位を取得して、4年制の大学の3年生への編入もできます。

(2004年8月1日号掲載)

Q. 日本からハイスクールに転校。でも、友達ができません

日本から駐在員として家族とともに赴任してきました。憧れだった現地のハイスクールに入学した娘は、日本のテレビドラマで見たハイスクールのフレンドリーな生徒たちに比べて、現在のクラスメートたちの冷たさにショックを受け、早くも日本に帰りたがっています。彼女のクラスメートたちは、娘の英語に問題があるから冷たいのでしょうか?彼女に早く現地校の友達ができる秘訣はありますか?

A. 友達作りには積極性が必要。言葉より連帯感や特技を活かして

松本輝彦(INFOE代表)

アメリカの学校で友達を作る鍵は「積極性」です。転校生の気持ちを察して、同級生が声をかけてくれるなどという「消極的」な態度で学校生活を過ごそうとしても、アメリカでは通用しません。

「もし、日本にいた時に言葉のまったく通じない転校生が来ました。その子の趣味も関心もわからない。そんな転校生に、どのように接しますか」と、お嬢さんに自分が日本にいた時を想定して聞いてみてください。

また、アメリカの高校は、日本の学校のようにホームルームがありませんし、授業は科目ごとに教室を移動します。もし「フレンドリーな生徒」がいたとして、転校生の友達になろうとしても、声をかける機会がほとんどないのが現実です。

さらに、アメリカの高校生は忙しい生活を送っています。「お父さんは、日本からの転校生をサポートしてあげなさいというけれど、分刻みの学校でのスケジュールやたくさんの宿題に追いまくられている高校生は大変なのよ。それにジョークも通じない相手と付き合うのも大変なんだから」と、我が家の娘たちに何度か言われました。

もうひとつ指摘すると、高校は義務教育で通学地域が決まっているので、ほとんどの高校生の仲間は小学校や中学校時代からの友達という生徒が多いのです。ですから、別の地域からやってきたアメリカ人の転校生がそのグループに入り込むことさえ、大変なのです。

クラブ活動や数学など、得意分野でのきっかけ作り

これまで日本からやってきた高校生たちも、簡単に現地の友達ができたわけではありません。皆、それぞれ工夫をしたり、努力をしたりして友達作りをしています。彼らがどんな工夫をしたか、例を紹介しましょう。

1番よくある友達作りのきっかけは、クラブ活動などを通してグループに入り込むことです。現地校には、音楽やスポーツなどのグループ活動が数多くあります。言葉も文化も異なる生徒同士でも、同じ目的に向かって協力し合う活動に加わることにより、英語で話し合い、連帯感が生まれて、仲間となれることが多いようです。コーラスでも、バンドでも、サッカーでも、バレーボールでも何でもOKです。これらの活動は、同じことを1年中やるのではなく、数カ月で終了するシーズン制になっているものが多く、初めてチャレンジする生徒でも参加しやすくなっていますので、自分の興味のあるものを選んでみてはいかがでしょうか。

「数学をがんばって、友達を作った」という高校生もいました。現地校へ転校して数学の授業が簡単だとわかったので、少し勉強をしてみたところ、ある日、試験でクラスの最高点が取れました。そのうち、クラスメートから声をかけられるようになり、計算の仕方を周りに教えているうちに友達になったということです。勉強ができることを示して、クラスメートの尊敬を勝ち取り、友達作りに活かした例です。

もうひとつ、友達作りで考えてほしいことは、どんな友達を探しているかです。日本で見たテレビドラマと同じように、フレンドリーな友達は「白人」と決めつけていませんか。南カリフォルニアにある学校では、さまざまな国からやって来た移民の子供たちが多く学んでいます。日本人もその中のグループのひとつとみなされています。これまで子供たちの友達作りを見ていると、アジア人の子供と最初に友達になる場合がほとんどです。その後、仲間の範囲を広めて白人の友達も持つようになります。文化的に共通点が多くなじみもあり、お互いに英語で苦労している中国人や韓国人のクラスメートと友達になるのも楽しいですよ。

毎朝、毎日、友達になりたいと思う相手に「ハロー、グッド・モーニング」と声をかけることです。必ず「ハロー」と返事が返ってきます。それからがスタートです。がんばってください。

(2004年3月1日号掲載)

アメリカの中学校に通う子どもの悩み

Q. 今秋からミドルスクールの子供。どのように指導したらよい?

この秋から子供がミドルスクールに上がります。小学校と違い中学校での学習は大変だと聞きます。子供をどう指導したらいいのかアドバイスをください。

A. 成績だけで判断せずに精神的に温かくサポートを

松本輝彦(INFOE代表)

子供の自主性を育てる現地の中学校

現地校の、小学校から中学校への指導方法の変更の理由は、アメリカ社会の伝統的な教育の考え方の中の「16歳で自立」にあります。中学に入ると、「自分で考え、行動し、責任を持つ」自立のためのトレーニングが始まります。勉強や学校生活を通して「自己管理」を自分自身の体で経験するような環境に、子供たちは放り出されます。

親や大人に放り出された中学生は、仲間同士で助け合います。その人間関係が、時に「友達からのプレッシャー」として中学生の肩に大きくのしかかり、大人には理解できないさまざまな行動の原因となります。

学級担任から教科担任へ

小学校との最も大きな違いは、授業が学級担任制から教科担任制に変わることです。

現地校の先生は、それぞれの教室を持っているので、教科担任制に変わることにより、生徒が時間割に応じて教室を移動することになります。小学校より広いキャンパスを、授業終了後の数分の空き時間に、ロッカーから教科書やノートを取り出し、大急ぎで次の教室へ移動します。先生は教室にいますので、始業のベルが鳴った時に教室の自分の机に着席していないと、遅刻とみなされます。このように、生徒自身が行動することが「自己管理」のトレーニングの第一歩です。

小学校との違いは、学習指導にも現れます。特定の科目を担当する中学校の先生が100人以上の生徒を教えることは、めずらしいことではありません。そのため、先生が生徒1人1人の学習状況を細かく把握することが困難で、宿題・テストなどの成績を通しての指導が中心になります。多くの生徒を複数のクラスで教えるために、そのクラスの学習指導のルールが大きな意味を持ってきます。

生徒指導の違い

友達・親・大人からの精神的プレッシャーは、学校・授業の欠席や遅刻・早退などの出席の乱れとして顕著に現れます。また、一段と難しくなった学習内容の成績の変化は、出席の乱れとともに、学校生活だけではなく、学校外での生活の変化も示すサインとみなされます。そのため、出欠や成績の変化に注目して、生徒指導が行われます。

出欠管理は学校の事務室が、成績管理はカウンセラーが担当するのが普通です。出欠・成績に急激な変化が見られた場合は生徒本人を呼んで、その理由を探ります。問題が認められた時には、必要に応じて保護者に連絡を取り、カウンセラーを含めて三者面談を行います。面談で問題が解決できなかったり、友人関係でのトラブルが認められた場合などは、学校区(school district)の心理カウンセラーなどを交えて、より丁寧な指導が行われます。

オープンハウスに必ず出席

「自己管理」を行わせて「自立」させるトレーニングが始まる中学ですが、生徒がその試練を乗り越えるためのサポートは、学校や学校区の中に準備されています。その具体的な内容を、保護者が直接確認できる貴重な機会が、新学年が始まってすぐに開かれる「オープンハウス」です。

生徒の日常の勉強に最も関わりの深い、教室内での学習や成績の付け方などのルールは、それぞれの教科を担当する先生の裁量の範囲が広く、クラスによって大きく異なります。各クラスのルールは、学年の初めに生徒に伝えられます。

「オープンハウス」では、教科担当の先生がルールの詳細を、直接保護者に説明してくれます。特に、成績や評価の具体的な内容を保護者が知っておくことは、時に理解不十分でトラブルを抱える子供のサポートに不可欠です。このように貴重な情報収集の機会であるオープンハウスには、ご夫婦揃って必ず出席してください。

中学生の時期は、身体だけではなく精神的・心理的な発達の著しい思春期にあたり、生活にさまざまな変化を生じます。日本の学校以上に「自立」を求める現地校、友達、そして保護者からのプレッシャーに、中学生は苦しみます。そんな困難な時期を過ごしている中学生を、「成績」だけで判断せず、精神的に温かくサポートしてあげてください。

(2007年7月16日号掲載)

Q. 英語が苦手な中学生は、どんな勉強をすればよいか?

渡米して3年目になります。先日、7年生になった息子の現地校の先生との面談で、「『日本人の子供はよく勉強する』と言われるのに、彼は成績を上げようという努力をしない。このままでは、留年の可能性すらある」と言われました。小学校では、成績もそこそこで、楽しくやっていました。今後、どんな指導をしていけばいいのでしょうか。教えてください。

A. 中学の勉強は難しくて当然。親も子も根気よく予習することが大切

松本輝彦(INFOE代表)

「日本人の子供は、よく勉強し、成績もいい」は、昔、現地校の先生が数多く口にした言葉です。しかし、そのプレッシャーに苦しんだ子供たちがいたものです。こんなことを聞いたのは久しぶりです。ご相談のケースは、もっと具体的にお聞きしなければならない事柄がありますが、ここでは、中学生が抱えるであろう一般的な問題について考えてみましょう。

中学校の授業

教科担任制の中学校になると、各教科の先生は子供に会うのは1日1コマだけで、1日で100人以上の生徒を指導します。生徒1人ひとりの学習状況を把握しているのは、カウンセラーだけになります。しかし、そのカウンセラーも、何百人もの生徒を担当していて、コンピュータに入力された生徒の学習や出席情報を基に判断するのが精一杯です。

7年生には、この中学校のシステムに適応できない子供が多くいます。1日中、教室から教室へ移動する学校生活になじめず、勉強への集中力や努力が欠如します。

英語力

日本の学校での学習同様、現地校でも小学校4、5年生から、書き言葉中心の学習に入ります。この年齢で渡米して、英語の書き言葉での学習に遭遇した子供が、2、3年で周りについていくのは大変です。英語だけではなく、実は日本語すら完成していない、渡米に最も厳しい年齢であることを理解してください。

学習内容

学校での勉強は、言葉だけではありません。各科目の内容を理解することが要求されます。日本語で学んだことのない、基礎的な術語さえ聞いたことのない内容を、新しい言語で学び、理解するのは、時間をかけて努力するしか方法がありません。

学習は積み重ね

「日本人の子供は、簡単なエッセイやレポートさえ書けない」と、現地校で教える友人に言われたことがあります。当然です。アメリカ人の子供は、低学年からエッセイを書く基礎的なトレーニングを何度も受けてきているのですから。そんな練習をしたことがない日本人の子供が、いきなり書けるわけがありません。中学校の勉強は、キンダーからのさまざまなトレーニングで得たスキルを前提にしているのですから。

中学生の大変さ

このように小学校から上がったばかりの中学生は、他の学齢では見られない問題を抱えます。もちろん、この問題に加えて、思春期、反抗期の苦しみが加わります。この年齢の子供の指導には、親の根気と継続した努力が必要です。

最初にすること

まずは、「自信を持たせる」ことです。英語・社会以外の数学・理科の勉強で成績を上げるサポートを始めてください。ハンデの少ない科目の成績向上で自信を持たせるのです。基礎学力が付いてないからといって、英語の学習をしても即効性はありません。算数か理科の日本語での予習が効果的です。予習がないと、次の日の授業でも何を勉強しているのかわからずに、お客さんになってしまいます。その章で、何を学ぶのか知ることが、第1の目標です。その内容を、日本語で説明してください。

指導するのは、言葉も学習内容も理解できる日英バイリンガルの家庭教師が最高でしょう。しかし、週1回では効果半減です。図表の簡単な説明や、基礎的な計算問題の解き方は、お父さんやお母さんもできます。親が「苦手だ」と言ってしまっては、子供はやろうとはしません。多分、親にとって1番難しいのは、「子供に冷静に話す」ことでしょう。しかし、その努力が、子供にとってどれほど問題の解決につながるかを想像すれば、声も小さくなるのでは。学校の成績が少しでも上がれば、自信もついてきます。その先は、子供自身の努力に期待です。

(2004年2月16日号掲載)

Q. 宿題が大変で毎晩遅くまで勉強。転校も真剣に考えています

ミドルスクール7年生の娘がいます。ホームワークが本当に多くて、毎日何時間も夜遅くまで勉強してやっと終わらせられるくらい。楽しみにしているアクティビティーを欠席することもしばしばです。娘は心身共に疲れてしまっており、我が家では転校も真剣に考え始めました。

A. 子供の現状を把握し、学校から具体的なアドバイスをもらうのが先

松本輝彦(INFOE代表)

ホームワークや家庭学習の量が多くて、お子さんがトラブルを抱えているご相談です。解決案を、手順を追って紹介しましょう。

具体的な解決案

1. お子さんの現状は?
まず、お子さんが家庭学習に長時間かけている勉強の内容について、お子さんに次の質問をして、回答を表にまとめてください。

①どの科目か? 内容が難しいのか、苦手科目なのか
②どんな学習内容か? 数学なら計算問題か、図形の学習か
③どんなタイプの課題か? 教科書やプリントか、エッセイやレポートか
④何時間くらいかかるか? 科目ごとの週平均と最大時間数

2、担任の先生に会う
ミドルスクールでは、教科ごとに先生と教室が異なるのが一般的です。ホームワークが多すぎる教科の先生1人1人に、「何時間くらいの家庭学習を想定してホームワークを出しているのか」を聞いてみてください。そして、お子さんの回答表を見せて、先生の意見を聞いてください。

もし、先生が「そんなに時間がかかるはずがない」と言うのであれば、お子さんの学習方法に問題があるのか、その理由は何か、解決法はあるのか、などの具体的なアドバイスを聞いてみましょう。

3、カウンセラーと会う
それぞれの先生の想定している時間数の合計が予想通り大きなもので、到底お子さんがこなせないような学習量ならば、次にカウンセラーに会います。学校としての家庭学習の想定時間数を確認してください。お子さんの回答表と最も時間のかかる教科の宿題や課題の資料を持参して、実情を訴え、アドバイスをもらいましょう。

4、クラスの変更を考える
教科担任とカウンセラーから納得のいく説明がなければ、クラス変更が可能かどうか調べます。学校や学校区によって異なりますが、習熟度別クラスを組んでいるミドルスクールが多くあります。習熟度の高いほうからオナーズ、レギュラー、シェルター(ESL)などが典型です。

もしお子さんがオナーズのクラスにいるならば、レギュラーに変更するのも1つのチョイスです。どのクラスでも学習内容は同じが原則ですが、学習進度や宿題の質・量、指導方法などに差がありますので、クラスを変更することで、家庭学習も楽になるはずです。

クラス変更は、教科担当の先生とカウンセラーのOKが必要でしょう。納得がいかない理由でクラスの変更が認められない場合は、校長への直談判となります。

5、転校する
最後は学校区(School District)に相談に行くこともできます。転校は、通学区域のある学校では、転校先の学校の許可などが必要です。また、転校先の学校ではどんな指導をしているのか、よく調べる必要もあります。

学習のサポート

教科担任の先生から具体的なアドバイスがあった場合は、お子さんの学習をご両親がサポートすることも考えてください。

現地校では、4~6年生で徹底してエッセイの書き方の基礎を指導し、7年生以降ではその指導を前提にエッセイを書かせます。この基礎練習が充分にできていないために、エッセイに苦しんでいる日本人の子供が多くいます。このタイプの子供には、ご両親や家庭教師などによる、日本語での書き方説明が効果的です。

時間がかかる理由として、これまで学習したことのない内容の宿題を1人でがんばってやっているケースを多く見てきました。

米国の学校教育の特徴

アメリカの学校では、スタディースキルのトレーニングも大きな目標にしています。そのトレーニングの中には、与えられた課題について調べてレポートを書く、ブックレポートを書くなど、時間のかかるものが多くあります。トレーニングですので、生徒のレベルが上がると、より内容の豊富な宿題や家庭学習を与えて、練習量を増やしていきます。宿題が多いのは、現地校での学習が進んでいる証拠です。

アメリカの教育は上がるにつれて、日本にはないトレーニングが受けられます。こうして身に付けたスタディースキルは、日本の帰国子女受け入れ校から「宝物」と評価され、期待されています。

(2006年4月16日号掲載)

Q. アメリカの学校の成績はどのようにつけるのですか?

中学生の子供を持つ母親で、日本から来たばかりです。成績のつけ方について、アメリカの公立校ではどのようになっているのか教えてください。

A. 成績のつけ方は学校区により違う。個々の努力を反映した評価が一般的

松本輝彦(INFOE代表)

「子供のジャーナルのノートを見たが、英語のスペルが間違っていたり、主語や動詞がめちゃくちゃな文を書いている。なのに、先生はその間違いを指摘していないし、訂正もしていない」。こんな、お母さんからの苦情をよく聞きます。

アメリカは「絶対評価」、日本は「相対評価」

成績のつけ方は学校区で大きく異なります。ここでは、一般的な「評価」の例とその考え方についてみています。

アメリカの学校では、子供の評価は「絶対評価」によることがほとんどです。この方法には
①客観的な評価基準(例えば統一試験)に対して、どのレベルの成績が取れるか
②一人一人の子供の学習上の到達目標に対してどれだけ達成できたか
の2つの評価方法が含まれます。

中学レベルになると、レギュラークラスでは①の方法を、レギュラークラスの基準で評価するのが困難なESLクラスでは、②の方法が取られる学校区が見られます。どちらにしても、子供一人一人の努力を反映した評価方法になっています。

日本の学校で採用されている「相対評価」は、特定の子供の学力がクラス全体の中でどの位置にあるかを示します。40名のクラスだと、最も良い「5」の子供と、最も悪い「1」の子供が、各クラスに必ず2名ずついます。クラスの大部分は「3」です。この方法だと、クラス間や学校間の格差が問題になるため、日本の学校でも絶対評価を採用する都道府県が、徐々に増えてきています。

評価される3つの項目、「学力」「努力」「態度」

アメリカでは子供の学校での生活に対して、学力・努力・態度の3項目が評価されます。

■学力(ACADEMIC)
勉強の成果に対する評価です。宿題・試験・小テスト・プロジェクト・レポートなどのアカデミックな課題に対する成績をまとめたものです。

先生により異なりますが、ほとんどの先生は、前記の課題のそれぞれ全体の成績に対する割合(%)を決めておいて、そのうちの何%を生徒が獲得したかで、成績を決めていきます。例えば、宿題(30%)のうちの80%を取ったとすると、30×80=24%で、宿題の成績として24%を獲得したことになります。同じ計算を他の課題すべてに行って、学期の終わりに82%を獲得したとすると、別表「学力」の評価に示した成績範囲(80-89%)の成績が取れたことになり、「B」がもらえます。

■努力(EFFORT)
学力の評価は、学習の結果に対する評価ですが、「努力」はその成果を上げるために、どのような努力をして勉強したかに対する評価です。例えば、学力の評価が「C」であっても、その成績を上げるために個人的に非常な努力をすると、先生は努力に対する評価で「A」をつけます。もちろん、その逆もあります。

■態度(CITIZENSHIP)
学習態度に対する評価です。学校は勉強だけ教えるところではなく、「良きアメリカ市民を育てる」ことが公教育の大きな目標とされています。他の子供への思いやりがあり、ルールを守り、他人を尊重した態度が取れ、協調性がある、などの態度を示したり、態度の顕著な向上が見られた場合は、「秀でている」として「O」の評価が下されます。その評価により、子供の授業中の態度を垣間見ることができます。

「日本の学校では成績は学期の終わりに先生が決めるもの」でしたが、アメリカの学校では、「自分の成績は自分の努力の結果」と考えるようになります。この成績のつけ方の違いが、子供の努力の差となっているようです。

(2005年4月16日号掲載)

Q. 成績低下で自信喪失。現地校での勉強方法は?

7年生の息子は3年前に渡米し、現地校で学んでいますが、1学期の成績がC、D、Fばかりで、これまでで最低でした。最近は「どう勉強したら良いのかわからない」と、自信を失っています。日本では小学校生活を楽しみ、成績も良かったのです。将来の進学の準備よりも、現地校での普段の勉強で、子供に自信を取り戻してやりたいと思っています。どのように勉強させれば良いでしょうか?

A. 成績評価方法を理解し、スタディー・スキルを身につける

松本輝彦(INFOE代表)

ご相談のお子さんに必要なのは、現地校で良い成績を取るための勉強方法のトレーニングをすること、特に重要なのは、家庭学習の練習をすることです。
最初に現地校の成績のつけ方を理解し、それから具体的な対策、勉強法を考えてみましょう。

現地校での成績評価方法

秋の新学年が始まってすぐの「Back to School」で、教科担当の先生が、成績評価の基準・ルールを保護者に説明します。宿題、課題、レポート、小テスト、中間・期末テストなどの評価がどのような割合で成績に反映されるか、課題などを期限より遅れて提出した場合の評価などが具体的に示されます。もちろん、生徒自身にも十分説明されます。時には、保護者・生徒から確認のサインを求める先生もいます。

例えば、宿題の評価が「A」ならば4点、「C」ならば2点、未提出ならは0点というようにポイントが与えられます。その合計が、その時点での獲得可能な総ポイント数の何%かで成績が算出されます。91%以上ならA、81~90%ならばBというように、先生や学校によって評価基準が決められています。先生は常に宿題やテストなどを記録し、その時点での評価を把握しています。各生徒の記録をプリントして、配布してくれる先生もいます。ですから、日本と違って現地校では、いつでも生徒自身が自分の成績を知ることができるのです。

「日本の時に比べて、3倍は勉強している」と、多くの子どもが言います。誰でも、返却された宿題や課題にその都度「D」や「F」の評価がついていたら気になります。そして、その理由が、「適当にやった」「提出が遅れた」など自分自身でわかっていたら、成績改善のために、どうすべきかを自覚できます。その結果が3倍の勉強量なのです。

なぜ成績が悪かったのか

成績に「D」がついているのは、日々の学習である宿題や課題がしっかりできていない、ということに尽きます。ほとんどの先生は、中間・期末テストだけでは良い成績を取れないように、日々の学習をしっかりやることで「C」が取れるように、成績評価基準をデザインしているからです。「宿題を含めた家庭学習の標準時間数」を学校や学校区が決めているのもそのためです。

お子さんの1学期中の成績の推移について、特に宿題や課題などの家庭学習の提出状況や評価について、詳細に振り返ってみてください。提出を忘れた(していなかったのかも知れません)から「F」、いい加減に提出したから「D」だったのではありませんか。もしそうならば、成績が悪かったのは、勉強がわからなかったからではなく、家庭での学習を怠っていたからです。

家庭教師に勉強方法を教わる

一緒に宿題や課題をして、勉強方法を教えてくれる「家庭教師」を探してください。小学校高学年から現地校で勉強してきた人で、日本語で説明できる人がベストです。高校生や大学生で十分です。できるだけ頻繁に来てもらってください。

家庭教師の候補者には、「5段落エッセイが書けるか」「レポートには何が必要か」「ノートの取り方・書き方を知っているか」などの質問に答えられる人にお願いしましょう。
実はこの質問は、中学校の先生が「小学校で当然身につけているはず」と考えている勉強方法、いわゆる「スタディー・スキル」を聞いているのです。ご相談のお子さんのように、小学校高学年で渡米した場合は、これが身についていないので、それを教える必要があります。それが、家庭教師の役割なのです。

スタディー・スキルは「宝」

「点数を取るためだけの勉強方法をすすめている」と思われるかも知れません。しかし、それは誤解です。スタディー・スキルこそが、日本の教育では得られない、アメリカで教育を受けた子供たちの「宝」なのです。その理由については、別の機会にゆっくりご説明しましょう。
今は、スタディー・スキルをお子さんに身につけさせることを考えてください。成績が上がることをお子さんが体験したら、きっと自信が戻ってくるでしょう。

(2007年1月16日号掲載)

Q. テストで良い成績でも「A」が取れません。

現地校の中学生の母親です。私の子供は、いつもテストでは良い成績なのに、「A」が取れません。どうしてでしょうか?

A. 家庭学習に問題があるかもしれません。

松本輝彦(INFOE代表)

お母さんは、お子さんのクラスの先生がどんな成績の付けけ方をしているか、ご存知ですか?

まず、各クラスの成績の付け方、特に、テスト以外にどんな項目の成績を基に、科目の評価(A-F)をしているのか確認してください。

中高生であれば、学期の初めに、成績の付け方や教室でのルールが書かれたプリントを受け取って、それらについて説明を受けているはずです。そのプリントに保護者のサインを求める先生もいます。また、秋の新学年が始まってすぐにあるオープンハウスに出席されたことがあるならば、保護者の方ご自身も説明を受けているはずです。ご記憶はありませんか?

アメリカの学校のほとんどの先生は、成績の付け方(項目・評価基準)についてルールを作り、それに基づいて評価をしています。その評価方法については、児童生徒・保護者に公表しています。

現地校での児童生徒の学習評価は、一般的に、試験・宿題・課題などを基にして決められています。ほとんどの先生が、例えば、試験30%・小テスト20%・宿題30%・授業参加20%など、項目別の配分を決めています。その配分をより細分化して、学期中に宿題を15回出した場合、宿題の評価がAならば2点、Bならば1.5点など、毎回の得点を与えます。

このように評価のルールがはっきりしていますので、先生に聞けば、生徒は自分自身の成績を、学期中いつでも知ることができます。最近では、インターネットで毎日の成績が見られるようにしている学校区や学校も増えて来ているようです。

「日本の学校の時よりも、3倍も勉強するようになった」。こんな言葉を、子供からよく聞きます。その理由を聞くと、「日本の学校では学期の終わりに通知表をもらうまで、自分の成績はわからない。アメリカの学校では、先生の成績の付け方がはっきりしているし、毎日の宿題やテスト結果がすぐに成績の上昇下降に反映される。自分の成績は、自分の勉強の結果と自覚している」という趣旨の答えでした。

子供たちの学校生活への評価は、ここで紹介した学業成績(Achievement)の評価のほかに「学習(就学)態度(Study Habit / Work Habit)」や「生活態度(Citizenship / Social Attitude)」の評価があります。「学習態度」は、指示に従う・課題を時間内に終わらせる・ノートの整理ができる、などの勉強の仕方について、「生活態度」は、共同作業・自己コントロールなどの授業中の生活態度についての評価です。

現地校から送られてくる成績書(Progress Report / Report Card)の内容や表記の仕方は、学校区、小・中・高の学校レベルによっても大きく違っています。しかし、それらの評価内容や方法・基準がわかると、子供の学校生活全般がよりはっきりと見渡せるようになります。

ご相談のように、テストの成績がいいのに評価が付かないのであれば、宿題・課題・レポートなどの家庭学習に問題があるかもしれません。

先生から学習の記録をもらってみてください。テストの成績や家庭学習の課題など、学期の初めから日付順で詳細な学習記録をプリントアウトしてくれるはずです。それらを見て、宿題・課題の提出の有無とその評価を確認してください。その記録を見せて、お子さん自身の記録・記憶と差がないか確認してください。

もし、家庭学習にも問題がないなら、次に、お子さんの学校では、どんな点数で「A」の評価を付けるのか、確認してください。「Aは90%から100%」などと、点数の範囲で評価が決められています。お子さんの点数は、その範囲に入っていますか?

もう1つの可能性は、お子さんの授業中の態度です。授業に積極的に参加しているかどうか、例えば、ディスカッションで自分の意見を明確に述べたり、授業中に何度発言しているかなどが、学習成績の評価に加味されている場合もあります。

それでも、はっきりしないようなら、先生の記録の間違い・記録漏れなどの可能性もありますので、先生に直接問い合わせてみてください。

(2008年4月16日号掲載)

アメリカの小学校に通う子どもの悩み

Q. 渡米後、算数の苦手意識がでてきました。どのように克服すればいいでしょうか?

1年前に日本から来ました。現在小学6年生になる息子は、日本では算数はできる方だったのですが、こちらに来てから、だんだんできなくなってしまいました。日本人は算数ができると言われているため、本人も周りからのプレッシャーもあり、苦手意識がすっかりできてしまいました。どうしたらよいでしょう?

A. 日本の学校との進度差が原因。現地校の勉強内容を日本語で予習

松本輝彦(INFOE代表)

日本人は 算数がよくできる?

「ABCも分からないのに、うちの子供が学校へ行けたのは算数のおかげです」。渡米直後の適応の期間を振り返って、多くの父母はこう言います。実際、「日本人の子供は算数がよくできる」、という現地校の先生の賛辞をよく聞き、「日本の算数教育の成功の秘密を知りたい」と、現地校の算数の先生たちのミーティングに招かれたことも何度かありました。

しかし、この私の経験も10年以上も前の話になってしまいました。最近は「韓国人の子供は算数がよくできる」とよく聞きます。変わってしまいました。日本人の子供の算数の成績が他の人種の群を抜いて優秀でなくなったことは残念ですが、追い抜いていった人たちを褒めることにしましょう。

英語力のいらない。計算問題ができない

ところが、そんな悠長なことを言っていられない状況が、最近、現れ始めました。現地校の算数の勉強が分からない、あるいは授業についていけないという、渡米間もない日本人の子供が出てき始めたのです。優秀どころではなく、現地校のお荷物にもなりかねないケースすら見られるようになってきました。

英語で書かれた文章題の意味が読み取れなくて、問題が答えられない子供はこれまでもたくさんいましたし、それは英語力不足で仕方がないことです。しかし、ここで問題になっているのは、文章題ではなくて、計算問題なのです。それも複雑なものではなく、基本的な計算ができない子供が増えているのです。

学習内容改定による日米の進度差が原因

その原因を探るために、補習校で使っている日本の教科書と、同じ学年で使うアメリカの教科書の内容を比べてみました。結果は、明らかでした。日本の教科書より、現地校の教科書の方が、扱う内容が進んでいたのです。

私が個人的に指導しているRちゃんは、小学校6年生の夏休みにアメリカに来ましたが、現地校6年生の11月には一次方程式の勉強に入りました。その内容は日本の教科書だと、中学1年生の夏頃に学習するものです。現地校の算数が半年から1年分進み方が早くなっています。

この差は、日本の学校の算数の進み方が、徐々に遅くなってきたことの結果です。現在の学習内容を決めた2002年の改定では、各学年の算数・数学の内容の3分の1が、次の学年以降に回されました。これが現地校の算数との進度の差を決定的にしたのです。

進度は州・学校区・学校で違う

アメリカの教育は多様性に富んでいます。算数のカリキュラムや進度は、州・学校区によって大きく異なります。また、クラスによっても差があります。

1度、お子さんの現地校の算数の教科書を見てください。もしあれば、補習校で使っている教科書と比べてみてください。そして、お子さんに現地校の算数のクラスの様子や、適応に苦労していないかどうか、聞いてみてください。お子さんの算数の能力ではなく、日米の学習する内容の進度にギャップが生じているかどうかを知るのが目的です。

現地校の勉強内容の予習を

もし、お子さんの補習校の学習進度が遅れているならば、現地校で学習している単元の計算問題だけでもできるように指導してやる必要があります。現地校の勉強内容を日本語で予習させてください。基本的な内容だけで十分です。

もし、指導してもらえる適当な人がいない場合は、お父さんとお母さんががんばるしかありません。昔を思い出して、我が子の先生になるのです。指導のための教材は、様々な物があります。現地校でわからない、日本語で未学習の部分が載っている日本の教科書や問題集を、補習校や友人の子供から借りて使うこともできます。

何も自信を持てるものがなく、「現地校へ行きたくない」という言葉を子供から聞かないためにも、ここで述べた対策を使って、お子さんをサポートしてみてください。それでよくならなければ、別の理由でしょう。再度ご相談ください。

(2005年3月1日号掲載)

Q. 算数の勉強方について教えてください

「日本人は算数がよくできる!」でも、うちの子は?どうすれば?

A. 次の学年で学ぶ算数の予習を、夏休みの間に、日本語で!

松本輝彦(INFOE代表)

現地校の算数・数学で苦労しているお子さんに、夏休みの間に、次の学年で学ぶ計算問題を、日本語で予習させてあげてください。9月からの勉強が楽になり、お子さんが自信を取り戻すでしょう。

神話と現実?

「日本人の子供はよく勉強し、特に算数・数学がよくできる」。

かつて、日本人の子供の勉強ぶりを評した、現地校の先生方の言葉です。しかし、この言葉は「神話」になってしまい、算数・数学で苦労する日本人の子供が、全米で多くなっているのが「現実」です。

特に、渡航直後の子供への影響が大きくなっています。

教科書の違い

アメリカに来て年数が短い子供が、算数に苦労する理由のひとつは、日本とアメリカの教科書の違いです。

現地校の算数の進み方が、日本の文部科学省が決めた学習進度より、早くなっている学習部分や学年があります。そのため、よくわからない英語の苦労だけではなく、学習内容を英語で理解しなければならないという大きな負担が加わります。

夏休みに予習

夏休み中に、9月から使う現地校の教科書を予習しておくのが、効果的です。

教科書は、書名・著者・出版社がわかれば、普通の書店で注文して購入できます。もし、使用する教科書がわからなかったりして購入できない場合は、大きな本屋か教材専門店で、学年別の問題集などを入手できますので、教科書代わりに使ってください。ほとんどの教科書は、練習問題の半数くらいの解答が巻末に掲載されていますから、活用してください。

その教科書の中の、計算問題だけを予習します。現地校の教科書ですからすべて英語で書かれていますが、解説や応用問題は無視してください。新しい単元で出てくる、新しい計算(掛け算、割り算、分数、小数など)の仕方だけでOKです。

計算の仕方だけを、日本語で教えてあげてください。簡単な内容を日本語で予習させるのですから、お母さん、お父さんでも十分教えられます。もし、親子関係でトラブルようであれば、近所の日本人の高校生にお願いしましょう。

日本の教科書で予習

英語の教科書や教材を使っての予習に抵抗感のある場合は、日本の学校教科書を活用してください。

補習校に通っているお子さんならば、まず、今の学年の算数の教科書の計算の仕方だけを教えてあげてください。

それが済んだら、補習校の先生にお願いして、次の学年の教科書を借りましょう。兄弟や近所のお子さんが使った古い教科書でもOKです。同じ要領で、予習です。

教科書では、練習する問題が少なかったり、解答がないので困る場合は、学習参考書や練習ドリルを、教科書代わりに使うことも可能です。

予習への注意

ここでおすすめしているのは「予習」です。

決して、「勉強したすべてを、完璧に理解させよう」としないでください。月からの新学期が始まった時に、お子さんが「これ見たことがある。やり方知ってる」と思ってくれることが目標です。

先生の英語での説明がよくわからなくても、勉強している内容が少しでも理解できれば、授業中に「お客さん」になりません。初めて、授業中に学び、参加することができるようになります。すると、先生の言っていることややっていることが少しずつわかるようになり、より理解が進み始めます。

算数で自信を!

「算数の計算ができて、先生が褒めてくれたから、子供は現地校に通ってくれた」というのは、アメリカに渡航直後のお子さんの現地校適応を振り返った保護者がよく口にする言葉です。

たった1つでも自信の持てる勉強があれば、ABCのわからない子供でも元気に学校へ行ってくれます。現地校への適応のためにも、「算数の予習」は必要なのです。

アメリカ滞在が長くなった子供にとっても、「A」が取れる教科が1つでもあれば、勉強や自分自身に自信が持てるようになります。

夏休みの算数の予習。お子さんと一緒に実行しましょう。

(2009年7月16日号掲載)

Q. 4年生になって現地校の成績が下がってきた

5歳で渡米してキンダーガーテンに編入、地域の公立学校で4年生になる子供がいます。1年生の時にはESLから普通クラスに移り、学校の成績も順調に伸びてきましたが、4年生になってから、成績が下がって悩んでいます。

A. 書き言葉の学習に移行する段階。乗り越えればバイリンガルに一歩前進

松本輝彦(INFOE代表)

子供の学校成績が下がる原因は、その子供の個人的な理由も含めると、星の数ほどあるでしょう。ご相談では「成績が下がって」とのことですが、何の科目で成績が下がり、どんな内容で苦労しているのかがはっきりしません。ここでは、一般的な対応と、現地校4年生前後における一般的な学習のステップに着目して、あえてご質問にお答えします。

先生と面談し、具体的な話を聞く

1番最初にすることは、現地校の先生との面談です。お子さんが、どの科目で、どのような困難を抱えているのか、低い評価を下している担任の先生の意見をしっかり聞くことです。お子さん自身の授業態度や家庭学習に問題がないかについて、また、同じ年頃の子供が抱える問題についても、意見を聞きます。抽象的な話だけではなく、成績を上げるための具体的な勉強方法や親としてできるサポートのアドバイスを求めてください。先生も熱心に答えてくれるはずです。

なぜできないのか、理由を子供と話し合う

先生のアドバイスを頭において、次は、お子さんと話をしてください。怒っても何の意味もありません。お子さんが苦労している内容を見つけ出すための話し合いです。「ホームワークを提出していない」のならば、「サボっている」と責めるのではなく「なぜ」提出できないのか、その理由を一緒に考えるのです。算数がわからないのならば、どの部分がわからないのか教科書を広げて確認してください。

この学齢での勉強のつまづきは、後で述べるように、それ以後の学年の勉強に大きく影響します。先生・お子さんと話した結果を踏まえて、サポートを始めてください。ご両親自身が毎日の家庭学習に付き合う、家庭教師など外部のリソースを求める、などが現実的な方法でしょう。行動が大切です。

低学年は、よく話す子ができる子

キンダーから現地校で学び、英語力にも問題がない子供が4年生で苦労し始める。その苦労の1番の原因は「話し言葉での学習から書き言葉での学習への移行に伴う困難」です。

キンダーから小学校低学年までは、簡単に言うと「よくおしゃべりする子が、勉強のできる子」です。日常生活の延長で、話し言葉、特に生活に必要な言葉(生活言語)での学習が中心です。学習内容は非常に基礎的なもので量も少なく、子供たちが楽しく学校へ行ける時期です。

この学齢段階の読書は「Reading for Fun」という呼び方が示しているように、「楽しんで読書をし、読書を習慣づけする」のが目的です。

書き言葉での学習への移行が困難に

ところが、4年生以降の勉強は、高校や大学での学習に必要な学習やスキルの基礎トレーニングが本格的に始まる時期です。こちらも簡単に言うと「本を読む子が、勉強のできる子」です。

勉強の中心が「書かれた言葉」に移る時期です。生活言語から学習言語へと移ってきます。学習で扱う内容が、家庭生活や日常生活とは関係ない内容、お父さんやお母さんと話し合うような話題を越えていきますので、読書での知識獲得が不可避になるのです。

読書では、4年生以降は、文章に書かれた内容を正確に読み取るトレーニングが中心になります。「Critical Reading」と呼ばれるこの読書の仕方の練習は、高校卒業まで続きます。

もう1つの顕著な違いは、「書く」トレーニングの始まりです。「Five Paragraph Essay(5段落エッセイ)」の書き始めです。自分の意見や考えを相手に正確に効果的に、文章で伝える書き方です。5つの段落という形式的な基礎的段階から、論理的な段落構成というより高度な段階の練習を大学進学まで続けます。

現地校の4年生での勉強の変化がいかに大きなものか、ご理解いただけたと思います。「成績が下がった」というサインの原因を知り、お子さんを積極的にサポートしてください。この苦しい、書き言葉の学習移行段階が乗り越えられれば、英語が第一言語として定着し、バイリンガルの夢に一歩近づきます。

(2004年7月1日号掲載)

Q. 現地校2年生がジャーナルで苦労。先生の添削もいい加減?

 

A. 子供の「創造性」を大切にして、「自由に書かせる」トレーニング

松本輝彦(INFOE代表)

「子供のジャーナルのノートを見たが、英語のスペルが間違っていたり、主語や動詞がめちゃくちゃな文を書いている。なのに、先生はその間違いを指摘していないし、訂正もしていない」。こんな、お母さんからの苦情をよく聞きます。

ジャーナル指導の目的

現地校の小学1年から3年の子供は、ジャーナル(Journal)を書く指導を受けます。

ジャーナル指導の目的は、句読点(カンマやピリオドなど)の使い方、単語の綴り(スペル)、文の書き方(語順や文法)などの重要な基本事項、さらには文章全体の構成や展開などを、子供たちに身に付けさせることです。

1、2年生では、日記や子供の感想を自由に、多くても5文(数行程度)で書かせることからスタートします。3年生になると、先生が与えたテーマについて5文以上で、構成も考えて書かせる練習です。指導熱心な先生は、授業中だけではなく、毎日の宿題としてジャーナルを書かせます。

添削がいい加減?

「添削指導が不十分」というお母さんの不満もわかります。しかし、それには理由があるのです。

実は、ジャーナルの添削指導には、2つの流れがあります。

第1の方法は、子供の書いたジャーナルを徹底してチェックし、間違いを指摘し、赤字で訂正やコメントをいっぱい書く方法です。先生のその添削を見て、子供たちは自分の間違いに気付き、より正確でより良いジャーナルを書くようになります。

しかし、この方法でしばらく指導すると、ジャーナルを書かなくなる子、またはいい加減に書く子が増えてくる現象が現れてきます。あまり細かく指摘するので、子供が「やる気」をなくして、ジャーナル指導自体が成り立たなくなるのです。

そこで、子供の「やる気」を引き出すために、第2の方法として「間違いを気にしないで、自由にたくさん書かせる」という方法が導入されました。スペルミスや文法の間違いの指摘や訂正は最低限にして、子供が自分で考え、自由に発想した内容の文章をできるだけたくさん書かせます。「正確さ」を犠牲にしてでも、子供に「創造性」に富んだ文章を書かせようとする方法です。この指導方法で、子供の「やる気」が向上し、ジャーナルの文章の量は増え、書く回数も増えていきます。

しかし、馬力だけでたくさんジャーナルを書かせていると、スペルや文法を気にしない子供が多くなり、「正確」な英語が書けなくなって困ってしまいます。そのため、第1の指導方法に戻る先生や学校が増えていきます。

現地校の教員の友人によると、ジャーナル指導の流れは「第1と第2の方法を、10年ごとに行ったり来たりしている」のが実情のようです。

ジャーナルからエッセイへ

小学校低学年でのジャーナルの学習は、4年生以降の「エッセイ」の指導につながります。

小学校高学年で学ぶエッセイとは、「読者に自分の意見をしっかり伝える」文章です。5つの段落からなるエッセイの書き方を、4、5、6年の3年間で、繰り返し、徹底して指導します。

この指導は、テーマ、内容、形式がより複雑で、よりレベルの高いエッセイへと、中学、高校まで続きます。さらに、大学では、専門分野でのエッセイ、論文、レポートの書き方に発展していきます。

「読み書き」は基礎

以前のこのコラムで、現地校での「読み」のトレーニングとしての「リーディング」の重要さを、お話しました。

その「リーディング」力と並行した、「ジャーナル+エッセイ」の「書く」能力は、小学校で身に付けなければならない最も基礎的で重要な学習スキルです。

日本の学校の勉強に比べて、「より多くの文章、本を読まされ、より多くのエッセイ、レポー卜を書かされる」のが現地校の特徴です。アメリカの学校での勉強は、この「読み、書き」能力を基礎としているのです。

お子さんの先生は「添削に熱心ではない」のか、学校でのジャーナル指導の流れが「創造性」を大事にしているのか、わかりません。「添削指導が不十分」と思われるなら、上の話を頭に置いて、先生に相談してみてください。

(2010年10月1日号掲載)

Q. 息子への現地校の先生の対応、どうしたら事実を知ることができる?

現地校に通う小学校4年生の息子が、最近学校に行きたがらないため理由を聞くと、先生はいつも息子以外の子をえこひいきして、息子が不利な立場になるような課題を与えたり、英語の不得意な息子が笑い者になるような授業を展開するそうです。どうやったら事実関係を知ることができますか?私自身も英語が不得意で先生に直接尋ねる度胸がないのです。

A. 子どもからの話をまとめて、担任ではなく校長先生と話し合う

松本輝彦(INFOE代表)

この問題の解決の手順です。
① お子さんから事実関係をはっきり聞く
② その事実と子どもの希望をメモにまとめる
③ 校長先生との面談を申し込む
④ お父さん、お母さんが校長先生に会い、メモを使って説明する
⑤ 校長先生の指示に従う
以上です。

それでは、手順のステップごとに、詳しく説明しましょう。

①まず、お母さんとお父さんが一緒に、お子さんから、いつ、どんな状況で、どんな出来事があったのか、具体的な話を聞いてメモしてください。ご両親とも落ち着いて聞き出してください。

②お子さんの主張を、そして子どもが「何を、どうしてほしい」のかも、1度文章にまとめてみてください。子どもの主張や希望を、親のそれに代える必要はありません。日本語で書いたのならば、アメリカ人の友人にでも頼んで英語に直してもらってください。その際、子どもの主張を、アメリカ人の目から見てどう思うかを聞いてみてください。

相談は予約を取り両親で

③日本的な感覚だと校長先生に会う前に担任の先生ですが、アメリカの学校では、担任の先生は授業のプロで、それ以外の仕事は校長先生の担当です。立ち話ではなくちゃんと予約を取って、話し合いを持ってください。

④必ず、ご両親揃って校長先生に会いに行ってください。必要ならば、友人を通訳として連れていっても結構です。その場合、現地校のシステムをよく理解した人がベストです。適当な友人がいなければ、学校に通訳が必要な旨を事前に伝えておきましょう。

謝罪ではなく解決を求めて

話し合いに当たっては、感情的にならずに冷静に、子どもの状況の説明と、改善してほしい項目を明確に、メモに従って、伝えることです。さらに、校長先生が出してくる解決案に対して、あいまいな返事をせず、「Yes」「No」をはっきりしてください。「日本人のお母さんは、『はい、はい』と返事をしておきながら、最終的に合意をしない」と小学校の元校長だった友人がこぼしていました。これでは、問題解決の担当者である校長先生の信頼を失い、トラブルの解決自体が危うくなります。

⑤話したあとは、校長先生の指示に従います。恐らく「担任の先生に改善するよう、お願いしました」などと解決策を連絡してきます。時には、担任の先生をまじえて、もう1度話し合いを開く場合もあります。その時には、先生からお子さんの問題点が指摘されたりします。

このミーティングで、先生や学校からの「謝罪」を要求する保護者が、時々います。アメリカ人にとって「謝罪」は、自分の非を100%認める行為です。日本人の考える「謝罪」とは意味が全く異なります。そのため、謝罪要求は、何の問題解決にもなりません。クラスでのトラブルを解決することが目的であることを、もう1度思い出してください。

⑥問題によっては、学校では解決できなくて、学校区まで、訴えなければならない場合もあります。そんな場合でも、「事実」と「要求」事項が明確になっていれば、問題ありません。

しっかりと子供の味方になる

子供が学校でトラブルに遭った時、「両親は子供の味方だ」ということをはっきりと告げてください。

私の子供も友達関係がうまくいかず、トラブルを抱えたことがありました。その時、「お父さんもお母さんも私のことがかわいくないんだ。だって、私を守ってくれないから」と娘に言われました。私たち夫婦の意図とは異なり、私たちが事実を問いただす態度を、娘は「先に自分が悪いと決めてかかっている」と非難したのです。

私たち夫婦は、この言葉が一生忘れられません。苦しんでいる子どもを唯一守ってやるべき親が、言葉の鞭を振るってしまった、少なくとも娘がそう思ってしまったのですから。私たちの過ちを、皆さんは繰り返さないようにしてください。

「親がしっかりサポートしてくれた。一緒に戦ってくれた」との思いは、子どもの心の中に、親への感謝として、長い間残ります。

(2004年4月1日号掲載)

キンダーに就学できる年齢は?歯科検査が必要って本当?

Q. 子供をキンダーに就学させられる年齢を教えてください。

この夏に渡米しました。友人から、長女が「9月からキンダーに入学する年齢だ」と言われたのですが…。

A. 12月2日以前に5歳になる子供が対象です。

松本輝彦(INFOE代表)

小・中学校での英語教育

「保護者は、子供をキンダー(Kindergarten)に就学させる義務はない。しかし、保護者が希望すれば、12月2日以前に5歳になる子供を、学校開始時か子供が編入して来た時に、学校は受け入れなければならない」とカリフォルニア州の法律で決められています。

入学手続き
まず、通学校区になっている小学校に出向き、事務室で入学手続きについて聞いてください。もし、学校が夏休みで閉まっているならば、学校区(School District Office)へ行ってください。具体的な入学手続きについて教えてもらうには、お子さんの年齢と居住地を証明する書類が必要です。法律で決められた予防接種を受けていれば、必要書類に記入し提出して、入学手続き完了です。

学校区にもよりますが、先生が子供にインタビューをして、指導・授業についていける学力や英語力を判定します。知的発達や共同生活へのトレーニングが不十分で、キンダーへの入学を1年延ばすようにすすめられることもあります。

●キンダーの生活
キンダーは公立小学校に併設されており、幼児の安全のためのキンダー専用の校舎や遊び場などが作られています。授業開始は小学校と同じ時刻で、午前中の4時間が指導に当てられ、お昼に下校します。保護者が送迎するのが基本です。

●キンダーでの教育
キンダーでの教育は、「子供の社会的・感情的・身体的・知的な成長を最大限伸ばす」のが目的です。そのため、教員資格を持った先生がクラス担任となって、継続した指導を行います。カリフォルニア州がガイドラインで決めた基本的なカリキュラムは、日本とよく似ています。従って、日本からの保護者が、キンダーでの日常の指導に大きな違和感を持つことは少ないと思われます。

ただ、日本以上に、先生の判断で具体的な内容が決められることが多く、クラス・先生ごとの指導内容の違いとなって現れます。また、最近のアメリカ全体の傾向で、知的発達に重点を置く指導が増えています。

●1日キンダー?
全米規模での幼児早期教育(Early Childhood Education)の流れを反映して、指導時間の長い教育(Extended-day Kindergarten)を提供するキンダーが、1998年で約半数と、増えています。一般に1日キンダー(Full-day Kindergarten)と呼ばれ、通常4時間の半日でなく、小学校低学年と同じ下校時刻まで指導時間を延ばすプログラムです。

その目的は、指導時間を長くすることで、短時間の指導より教育内容の充実を図ろうとするものです。また、働く保護者の送迎の便宜に応える意図もあります。この時間延長に必要な州からの財政援助(先生の給与など)はありません。実際の時間延長は、学校区の判断に任され、各学校区の財政状況などに応じて、指導の時間延長が決められます。お子さんが通学するキンダーで時間延長指導があるか、確認してください。

●私立のキンダー
私立のキンダーも多くあります。上で紹介したプログラムを基本として、各キンダーの特徴的なプログラムを加えています。例えば、英語に加えて日本語の指導をする、また、公立キンダー以上のレベルの学習内容を教える私立のキンダーなどがあります。働く両親の時間に合わせて、夜まで保育をするキンダーや、昼の下校時にキンダーに子供を迎えに来て、午後、子供の面倒を見る私立のデイケア施設もあります。

●アメリカでの教育の始まり
キンダーは、アメリカでの義務教育の始まりです。公立学校での義務教育は「良きアメリカ市民を育てる」のが目的の1つで、さまざまな内容・工夫・仕掛けが、キンダーの教育指導に散りばめられています。幼児の教育として、知的な指導、マナーなど、アメリカでの社会生活の基本を指導されます。

その日々の指導が、「日本人に育てる」ための日本人家庭の教育内容と異なり、戸惑いが出てきます。その違いを受け止め、乗り越えて、海外で子育てをするには、「お子さんと一緒に、保護者もアメリカの教育について学ぶこと」が必要です。

子供にとってキンダーでの教育の始まりは、保護者にとってもアメリカでの教育の始まりです。頑張ってください。

(2008年8月16日号掲載)

Q. キンダーに入るのに、歯の検査が必要だと言われました。どうすれば良いですか?なぜ必要なのですか?

 

A. 加州の法律で、キンダー入学前に歯の検診が必要です

松本輝彦(INFOE代表)

2007年1月施行の州法で、キンダーか1年生入学前か在学中に、歯の検診(Dental Checkup)を受けることが義務付けられています。

●検診の時期
歯の検診は、次のどちらかの期間に受けてください。
①キンダーか1年生に入学前の1年以内
②キンダーか1年生に入学している子供は、その学年が終わる前の5月31日まで

●フォーム
現地校で「Oral Health Assessment/Waver Request Form」をもらい、検診した歯医者さんに必要事項を記入してもらいます。

このフォームは、通常、入学案内のセットの中に入っています。見あたらない場合は、学校の事務室にお聞きください。

●検査内容
フォームの歯医者さんの記入欄を見ると、「目に見える虫歯はありますか?」「歯に詰め物はありますか?」「治療の必要性は?」といった質問だけで、虫歯の有無を目で見るだけの簡単な検診で済むと思われます。

●提出
歯医者さんに記入してもらったフォームは、学校へ提出してください。

●検診費用
検診の費用は、自己負担です。必要なら、カリフォルニア州などからサポートが受けられますので、学校からの案内をご覧ください。

詳細については、次のホームページを参照してください。
California Department of Education:
www.cde.ca.gov/ls/he/hn/oralhealth.asp

California Dental Association:
www.cda.org

☆☆☆

なぜ、歯の検診?

「ギャングや非行少年・少女の中に、虫歯が多かったり歯のケアが不十分な子供が多い」「歯のケアの不十分な子供は、学校を欠席することが多い」。

実は、近年の調査や研究で、このような「歯やあごの健康」と「子供の生活・健康・学業」との関係が明らかになってきました。また、最近は、脳の働きの研究からも「かむ回数が多いと、脳の活動が活発になる」などの見解も出てきています。

そんな事情に詳しい歯医者さんたちの運動が実って、「キンダー入学前の歯の検診を義務付ける」法律の条項が、カリフォルニア州の教育関連法の中に入れられました。このような法律はアメリカでは初めてでしょう。しかし、ヨーロッパのいくつかの国では、子供の健康・教育向上のために、「子供の歯の無料定期検診」を行っている国もあります。

●日本では
日本では、「歯医者に行くのは、虫歯の治療」だけと考えている人が多いようです。歯列矯正中の子供の数も、アメリカの方がずっと多いことに、皆さんも気付いておられるでしょう。アメリカ人の矯正の多さは、「歯並びの美しさ」だけではなく、健康を大切にしているからなのです。

歯のケアに熱心でない日本人の口の中を見た、欧米の人たち(特に歯医者さん)の間では、「日本人は、歯の手入れが悪い」と言われているそうです。しかし「食育」がブームですので、健康や教育という観点からも「歯のケア」を考えてみることが、大切ではないでしょうか。歯がないと食べられませんから(笑)!

●乳歯を大切に!
私は、日本の歯医者さんと協力して、「歯育-歯のケアを通して、知的発達を促す」という、若いお母さんたちが対象のプロジェクト(www.nobukids.com)で活動をしています。

その活動を通して、「乳歯とそのケアの大切さ」を痛感しています。例えば、「お母さんの口の中でかみ砕いたり柔らかくしたりした食べ物を、赤ちゃんや乳児に与えると、大人の虫歯菌を口の中に移してしまう」「歯のかみ合わせの悪い子供は、学業成績が悪いという統計結果がある」などです。

お子さんの歯を大切にしてあげてください。

(2009年2月16日号掲載)

アメリカの大学入学審査のケーススタディー

アメリカの大学に進学する際に、必ずお世話になるのがアドミッション・オフィスです。ここが入学審査やファイナンシャルエイドの判定などを行う部署であることはよく知られていますが、入学審査の具体的なプロセスについてはあまり知られていません。今回は、デンバー大学(DU)で実際に行われた合否判定を基に、アドミッション・オフィスでどのように入学審査が行われているのかを考察します。
 
DUは、コロラド州デンバーにある私立の総合大学です。学部学生数5000人程度と比較的小規模ながら、ビジネスや工学系の専攻も充実しています。デンバーは西部有数のグローバル都市であり、年間晴天日数300日など住みやすい街として発展しています。
 
2016年秋にDUに進学した学生の、高校の成績の平均値はこのようになっています。

【DU入学者の平均値】
・GPA(Unweighted):3.77
・SAT(1600点満点):1236
・ACT(36点満点):28
 
アメリカの大学は、成績やテストのスコアだけで合否を決めるわけではなく、それはDUの場合も同じです。大学が目指す理想の学生像を実現するために、さまざまな学生を受け入れます。実際に合格した学生、不合格になった学生の事例を見てみましょう。

合格した学生の例

【学生①(合格)】
・GPA:3.15
・SAT:1280
・上昇傾向の成績、魅力的な推薦状学生①(合格)は、学校の成績が低めですが、11年生になって大きく成績を伸ばしたことが高く評価されました。また、エッセイや推薦状から誠実で思いやりに溢れた人となりが感じられました。
 
【学生②(合格)】
・GPA:2.84
・SAT:1200
・キャンパス訪問、DUが本命学生②も、成績はあまり良くありませんが、成績向上に向けてたゆまぬ努力を重ねてきたことが推薦状から感じ取れました。また、常に冷静で、周りから信頼されるリーダーであることも、高く評価されました。さらに、DUが本命であることが明確に示されていたことも重視されました。
 
【学生③(合格)】
・GPA:3.8
・ACT:18
・英語が母国語ではない、やる気がある学生③は、アプリケーションから大学で学ぶことへの意欲が強く感じられたことが、高く評価されました。テストスコアがかなり低いですが、高校の成績と、海外から移住して、英語が母国語でないことが考慮されました。

不合格の学生の例

【学生④(不合格)】
・GPA:3.78
・SAT:1330
・下降傾向の成績学生④は、成績やテストスコアは決して低くないのですが、11年生の成績が大きく下がったことから、大学進学後の学習意欲に問題があると判断されました。
 
【学生⑤(不合格)】
・GPA:3.12
・ACT:36
・高校の成績に複数のDとF学生⑤は、ACTで満点を取るほどの高い学力を有していますが、高校の成績に数多くのCに加えて、DやFも複数あるなど学習への取り組み姿勢に大きな問題があります。また、その低成績の理由がアプリケーションで全く説明されていないことから、リスクの高い学生と判断されました。

経済状況が合否に影響する場合

DUの学生の83%がニードベースまたはメリットベースの奨学金を得て進学しています。しっかりした奨学金制度を有する大学ですが、合格者の下位25%については経済状況も考慮されます。つまり、ボーダーラインの学生にとっては、ファイナンシャルニードの有無が合否に影響する可能性があるのです。
 
【学生⑥(不合格)】
・GPA:3.14
・SAT:1250
・EFC:1万4000ドル
 
【学生⑦(合格)】
・GPA:3.08
・ACT:28
・ファイナンシャルエイド不要
 
どちらもボーダーラインの学生ですが、合否を分けたのは経済状況でした。学生⑥はEFC(家庭で負担可能な学費)が1万4000ドルしかなく、この学生を合格させると、DUはニードベースの奨学金として年間3万3000ドルを負担することになります。一方、学生⑦はファイナンシャルエイドが不要であることをアプリケーションで示しているため、大学が学費を負担する必要がありません。学費の差が合否に表れました。 
 
(2017年8月1日号掲載)

アメリカの社会保障(Social Security)

アメリカの社会保障(Social Security)①

アメリカの社会保障を定年退職後の収入源として期待されている方も多いと思いますが、日本の年金問題と同様、アメリカの社会保障も先行きが不透明です。今回はアメリカの社会保障について解説します。

アメリカでは、10年(40四半期)以上、社会保障(Social Security)を納めれば社会保障が給付されます。2016年の社会保障委員会の発表によると、社会保障が現在の給付予定額の満額が支払われるのは2034年までで、それ以降の満額支払いは難しいとされています。しかし、将来的に給付金が0になるわけではなく給付予定額の75%は保障されるようです。

退職金制度の活用

社会保障の減額が見込まれるならば、他の収入も確保しておくべきでしょう。IRA(個人退職金口座)や401(k)(確定拠出年金)など、定年後の生活費確保のみならず、節税対策にもなる制度を利用してはいかがでしょうか。2017年、IRAは50歳未満は5500ドル、50歳以上は6500ドルの控除が、401(k)は50歳未満は1万8000ドル、50歳以上は2万4000ドルの控除が取れるので、節税効果も期待できます。しかし、両制度とも59.5歳までに引き出すとペナルティーが発生するというデメリットもあります。

社会保障の支払い・受給

アメリカ市民または居住者で雇用主から給与を受け取っている場合は給与の6.2%、個人事業主は純利益の12.4%を社会保障として支払わなければなりません(駐在員やF・Jビザの場合、支払わなくてもよい場合があります)。
 
社会保障の満期は表Aを参照してください。62歳から引き出すことも可能ですが、満期の支給額より低くなります。減額率は表Aの「減額」を参照してください。

繰延受給

アメリカの社会保障

一方、繰延受給には利子が発生します。生まれ年と利子の関係は表Bを参照してください。繰延受給は、受給開始する年齢から満期の年齢を差し引いた月数に図で示した月利を掛けた金額が生涯支払われ続けます。例えば、1945年8月生まれの人が、2018年3月より受給を開始するとします。1945年生まれは66歳が満期です。受給開始時の年齢73歳7カ月から66歳を引いた91カ月に、0.666%を掛けた数字、60.606%が利子です。仮に満期で月1000ドル受給予定だったとすると、繰延受給で毎月1606ドル6セントが支払われ続けます。
 
快適な定年退職後の生活には、在職中の収入の7~8割の収入が必要と言われていますが、社会保障のみではその40%程度にしか達しません。IRAや401(k)の活用も検討しましょう。
 
(2017年7月1日号掲載)

アメリカの社会保障(Social Security)②

社会保障は、社会保障税を支払っていた本人だけでなく、その配偶者や元配偶者、扶養している子どもにも受給する権利があります。今回は、社会保障税を支払っていた本人以外が受け取る社会保障について解説します

配偶者の受給

社会保障は、支払っていた本人と、その配偶者も受給できます。配偶者は本人の半額の受給権利があり、この権利は、配偶者が全く社会保障税を支払っていなくても発生します。もし、配偶者自身が社会保障税を納めていた場合、自身の権利と配偶者の権利のどちらか大きい額を受給できます。
 
配偶者の受給ルールは本人と同様で、62歳から早期受給が可能、満期年齢は生まれ年によって決まります。本人が社会保障の受給を開始していなければ、配偶者として社会保障を受給できませんが、本人が満期年齢に達して繰延受給(受給開始年齢を遅らせること)を選択していれば、本人が受給していなくても受給可能です。配偶者は繰延受給の利息が付かないので、満期を迎えたら受給の開始をお勧めします。一方、本人の社会保障の受け取り開始は、繰延受給で発生する利子を生かすため、70歳まで待つのも手です。

元配偶者の受給

以下の条件を全て満たす場合、元配偶者として社会保障を受給できます。
・受給開始時に未婚である。
・62歳以上である。
・社会保障税を納めた本人と10年以上の婚姻関係があった。
・離婚から2年以上経過している。
・自身で支払った社会保障を受け取っていない。
 
2人以上と婚姻関係があった場合、一番額の高いものを選択できます。元配偶者は配偶者と違い、62歳になれば本人が受給開始していなくとも、満額(本人の社会保障の半額)を受給できます。配偶者が62歳から受給する場合は、本人が受給開始していることが条件かつ減額されますから、元配偶者の方が好条件と言えるでしょう。

子どもの受給

 下記の条件を全て満たす子どもは、本人の社会保障の半額の受給権利があります。
・未婚である。
・扶養家族である。
・18歳以下である、または19歳で高校に通っている、または22歳になる前に障がいを持った。
 
社会保障は家庭単位で受給額に上限があり、一般的に本人の社会保障額の150~180%が上限です。例えば、本人と配偶者が満額受給している場合、その家庭は150%(本人100%+配偶者50%)受給していることになり、子どもは最大で本人の受給額の30%(180%-150%)まで受給できます。

受給時の税金

一般的に社会保障には税金がかかりませんが、受給時に一定額以上の収入があると課税対象となります。税額は確定申告時に、「総収入額+給付金額×1.5」で算出される数値で決まります。
 
申告ステータスが独身の場合、数値が2万5000~3万4000未満は給付金の50%に対して課税、3万4000以上は給付金の85%に対して課税されます。夫婦合算申告では、数値が3万2000~4万4000未満は給付金の50%に対して課税、4万4000以上は
給付金の85%対して課税されます。
 
高齢化に伴い、収入源のあるうちに、社会保障の受給可能年齢に達する方も多くいます。社会保障の受給開始時期は他の収入や支払う税額のバランスを考えて決めるといいでしょう。
 
(2017年7月16日号掲載)

石上洋◎米国公認会計士
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校を卒業後、大手監査法人、現地会計事務所パートナーを経て石上・石上越智会計事務所を設立。税務をメインに事業を展開。
アメリカでの会社設立・確定申告・タックスリターンは「石上、石上&越智公認会計士事務所」へ
米国公認会計士・石上洋さんのインタビュー

※本コラムは、税に関する一般的な知識を解説しています。個別のケースについては、専門家に相談することをおすすめします。ライトハウス編集部は、本コラムによるいかなる損害に対しても責任を負いません。

アメリカ、アコギ界の革命児!「テイラー・ギター」

ライトハウス・サンディエゴ版編集長、吉田聡子が、サンディエゴ生まれのブランドを訪問。世界に羽ばたいた物から、ローカルにこだわる物まで、名品の背景にある物語を探ります。

Taylor Guitars / テイラー・ギター

店に展示されているギター

店に展示されているギターは全部試し弾き可。ウン千万ドルのギターの音色を試してみては?

テイラーギターの名は音楽好きの方ならまずご存知のはず。アメリカのアコースティックギターの老舗メーカー、マーチンやギブソンと並ぶ知名度を誇るテイラーギターは、故プリンスをはじめ、ジェイソン・ムラーズ、テイラー・スウィフトら多くの人気ミュージシャンに愛好家がいることで知られる。その主工場はエルカホンにあり、一般向けに無料のファクトリーツアーを実施しているというので行ってきた。

パトリックと

今回のツアー案内人、パトリック(左)と吉田(右)。

案内をしてくれたのは、普段はリペアを担当しているというパトリック。店内で簡単にギターの成り立ちを教わった後、材料の木が置いてある倉庫から、ボディーを作る部門、ネックを作る部門、組み立て、仕上げまで、各部門を約1時間かけて見学した。
 
テイラーギターが他メーカーと一線を画しているのは、革新性だ。代表的なのはネックを簡単に外せる「NTネック・ジョイント」という独自の構造。アコースティックギターではこれまで、弾きやすさにかかわる弦の高さを調整するには複雑な作業が必要で、理想を完璧に実現することは必ずしも容易ではなかった。しかし、ネックを取り外せる作りにすることで、その常識を覆したのがテイラーギターなのだ。
 
ファクトリーツアーでも、手作業のクラフトマン的な工程の間に、先端技術を取り入れた機械を使った工程があることが印象的だった。

木材を接着する工程

ギターの背面の木材を接着する工程。機械がちょうど一周した時に接着剤が固まっているよう設計されているそう。
メキシコの工場

メキシコにも工場があり、900人近くが働いている。

たとえば、伝統的には数週間かけることが当然とされている塗装&乾燥の過程は、テイラーギターでは機械を使った「UVフィニッシュ」と呼ばれる方法で、数秒で終える。これはただ時短になるというだけでなく、音も良いし、後に変質がしにくいという特長もあると言う。

パトリック

革新的なネック構造について解説するパトリック。

テイラーギターの技術革新がただ効率を追求した結果でないことは、多くのミュージシャンに愛されていることからも分かる。ツアーにはイギリスからやって来た青年もいて、「テイラーの音を聴いた瞬間、これだ、求めてたのは!って思ったんだよ」と熱く語ってくれた。
 
テイラーギターは1974年、ギターに魅せられ、小さなギター製造工場で働いていたボブ・テイラーとカート・リスタグが周囲から借金をしてその店を買い取ったことが始まりだ。その店の名は「アメリカン・ドリーム」だったというのはなかなか面白い事実である。

 

Taylor Guitars

◎ Taylor Guitars/テイラー・ギター
1980 Gillespie Way, El Cajon
☎ 800-943-6782
▶ 営業時間:平日 8am~4:30pm
▶ Webサイト:www.taylorguitars.com
※ファクトリーツアー(無料・予約不要)は月~金曜1:00pm~。詳細はウェブで。

 
(ライトハウス・サンディエゴ版 2017年7月号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・サンディエゴ版 2017年7月号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

 

藤田理麻 / 画家

自分のルーツは”資産”。誇りを持った時、道が開ける。

世界の恵まれない子どもたちに絵本を制作&寄贈するプロジェクトを立ち上げ、支援を続けている画家、藤田理麻さん。チベットのダライ・ラマ法王との交流もある藤田さんが社会活動に目覚めた経緯と、これまでの活動について伺いました。
(2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

ふじたりま◎東京都生まれ、兵庫県芦屋育ち。NYの名門、パーソンズ・スクール・オブ・デザイン在学中に画家デビュー以来、雑誌や広告で引っ張りだこに。南カリフォルニア、NY、東京、インドを行き来し、各地で個展を開催。Web: http://rimafujita.com

―画家になった経緯を教えてください。

藤田理麻さん(以下、藤田理麻):一人っ子だったこともあり、子どもの時から一人でお絵描きをして遊ぶことが多かったんです。中学生の時に父親の仕事の関係でNYに引っ越した後も、いつも校内で絵を描いていました。両親が帰国する時、「アーティストを目指すなら、アメリカがいいかもしれない。残ってもいいよ」と言ってくれ、デザイン界で有名なパーソンズ・スクール・オブ・デザインに進学。ありがたいことに在学中から絵が売れて、画家としてデビューしました。

―アメリカに来たことは作品にどう影響していますか?

藤田理麻:渡米して最初に通った学校は生徒の99%がマンハッタンの大富豪の子どもという特殊な環境でした。友だちがほしくて彼・彼女らに近付こうとしましたが、相手にしてもらえませんでした。ある日、人気グループの男の子が突然「歌舞伎役者にはどうして男性しかいないの?」と聞いてきました。「知らない」と答えたら、「日本人なのに日本のことを知らないんだね」と。その時、はっとしました。私は日本人なんだから、誇りを持って日本人らしくしていればいいんだって。そうして自分の態度が変わったら、面白いように友だちが増えました。
 
以来、「自分のルーツは資産」が私のモットー。絵を描く時に日本人らしさや日本らしさを常に意識しているわけではないですが、私にしか描けない絵を描けばいいという気持ちは絵に影響していると思います。

―独特の世界観のある絵の構想はどこから得るのですか?

藤田理麻:目で見えるものを描いていた時代もあるのですが、今は夢で見たビジョンを描いています。不思議と、細部まで全部覚えているんです。だから、絵について「なぜこう描いたの?」と聞かれても答えられません(笑)。注文をいただいて描く場合も、夢でイメージが降りてくるまで待たせていただきます。絶対に出てくるんです。必要なことは、自分をピュアに保つこと。そのためにメディテーションを日課にしています。

―恵まれない子どもたちを絵本で支援するプロジェクト
「ブックス・フォー・チルドレンBFC)」を始めたきっかけは?

藤田理麻:BFCの立ち上げは2001年ですが、その発端となった出来事は1993年頃、JFK空港で起こりました。高熱でぼんやりしていた私はドル札を全く持っていなくてタクシーに乗りたいのに乗れない…すると目の前に突然、女性が現れてお金を握らせてくれ、あっという間に姿を消しました。それからしばらくして行った本屋で、目の前の棚から一冊の本が落ちてきました。見知らぬ誰かに助けられた体験談を集めた本でした。その時、JFK空港でのことが蘇り、「人生の目的とは利他主義だ!」と思いました。それまでキャリアは順調でしたが、幸せではなかったんですね。この時から、絵は目的ではなく、誰かのために役立てる手段なのだと意識が変わったんです。

藤田さんの絵本によるチベット難民孤児支援の取り組みを、ダライ・ラマ法王が賞賛。

―特にチベットの難民孤児支援に力を注いでいるのはなぜ?

藤田理麻:ちょうど同じ頃、夢で「チベットのために今すぐ何かをしなさい」という強い声を聞きました。とにかく何かしようとまずは関連団体でボランティアを始めました。そのうち、チベット人の友だちができて、話をしているうちに「私は画家だから絵本なら作れる!」とひらめきました。
 
中国に侵攻されたチベットではチベット語を学べず、文化も消えていっています。私のモットーは「自分のルーツは資産」ですから、チベットの民謡の絵本をチベット語で作ってチベット難民孤児に送ろうと決めました。決めた途端、まるで全てが準備されていたかのように協力者が現れ、とんとんと話が進みました。アメリカは中国とのしがらみが日本より少ないので、支援をしやすい環境でもありますね。

―理麻さんの知るダライ・ラマ法王を教えてください。

藤田理麻:猊下の並大抵でない洞察力にはいつも驚かされます。あるイベントで、100人近い参加者がいる中で、裏方の仕事で人知れず苦労していた私の友人に目を留めて、すっと歩み寄って「ごくろうさま」と言った話は私が最も好きな猊下のエピソード。あと、相手が有名でも、市井の人でも、誰に対してもまったく同じ態度を取られるのもすごいと思います。言葉と行動が完全に一致している方ですね。

―今後の展望は?

藤田理麻:チベット支援は、ライフワークとして死ぬまで関わっていきたいです。今は絵本を作ってっていますが、そのうちeブックになるかもしれませんね。時代と共に変えていくこと必要はあると思っています。私にとって絵は道具ですから、その道具を使って役に立てられることがある限り、やり続けるつもりです。
 
※このページは「2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

和田麻亞璃 / 靴下ブランド「tabbisocks」代表

個人と企業の可能性をグローバルに広げることが、私のミッション。

奈良県産の高品質な靴下を、北米を中心に世界各国で販売する「tabbisocks」。従業員は4人と小規模ながら、WalmartやUrban Outfittersをはじめ400社以上と取り引きをする同ブランドの代表、和田麻亞璃さんにお話を伺いました。
(2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

わだまあり◎東京都生まれ。2001年渡米。2002年よりシリコンバレーでアパレル販売業を開始し、2006年、北米を中心に奈良県産の靴下を販売する「tabbisocks」を立ち上げる。現在は同ブランドの運営に加え、ビジネスコンサルタント業にも携わる。

―渡米のきっかけは?日本では何をされていたのでしょう?

和田麻亞璃さん(以下、和田麻亞璃):日本では貿易事務の仕事をしていました。渡米は当時の彼(現在の夫)がシリコンバレーに転勤となった際、遊びに来たことがきっかけ。居心地が良くて居座ってしまいました(笑)。

―渡米後、「tabbisocks」を始めるまではどんなことを?

和田麻亞璃:渡米して約5年は、アメリカの洋服を買い付けて「ヤフオク!」や「楽天市場」で売ったり、日本の問屋に卸したりしていました。最初はセレブが着る、まだ日本に入っていないようなブランドを扱っていたのですが、その後、日本にはない特大サイズの服を日本人向けにネット販売するように。SmallやMediumの服はどこでも手に入りますが、特大サイズの服はそうもいかないので、固定客を作りやすいと思ったのです。この目論見は当たり、月1000万円の売上を出すビジネスとなりました。

―「tabbisocks」を始めたきっかけは?アイデアはどのように生まれたのでしょう?

和田麻亞璃:私が今も恩人と慕う方に、ある時言われたんです。「あなたは洋服を仕入れて売る、仲介役に過ぎない。それではある程度成功しても、大きな富は築けない」と。続いて、アメリカで富を作る方法を伝授されたのですが、それは、①Dig(掘る)=温泉や石油、ダイヤモンドなどの地下資源、②Grow(育てる)=農業や畜産業、③Make(作る)=何か自分だけのオリジナルなものを作る、の3つでした。
 
①②は難しいので、③しかないな、と考える中、着目したのが靴下。アメリカの靴下ってすぐゴムがダメになったり、やぶけたりしてしまいますよね。デザインも良くないものが多いですし。日本で3本1000円で買った安い靴下を履いていても、「その靴下、いいね」とアメリカ人に褒められたり(笑)。ファッション分野が既に成熟しているアメリカでも、靴下ならまだ参入の余地があると思ったんです。そこで目をつけたのが靴下の生産量日本一の奈良県。ここで作った高品質な靴下をアメリカで展開すれば、うまくいくかもしれないと考えました。

カラフルでオシャレな靴下やタイツが揃う「tabbisocks」。奈良県の靴下職人たちが丹精込めて作る靴下の品質は、折り紙付き。

―今では400社以上と取り引きする大きなビジネスになりました。その要因はなんでしょう?

和田麻亞璃:うちはとにかくデザインが生命線なのですが、「日本の靴下だから和柄の靴下で勝負!」みたいなことはしませんでした。なぜなら、和柄ではブームは起こってもそれを定着させるのは難しいから。あくまでも「破れにくい」「フィット感がいい」など品質は日本クオリティーながら、柄はアメリカ人向けに開発したのが良かったと思います。また、オシャレ過ぎても一部の人にしか受け入れられないので、多くのアメリカ人にウケるデザインを意識してきました。例えば、ハート柄などは日本ではちょっとダサいかもしれませんが、アメリカではよく売れるんです。
 
あと、ここ数年は通常の営業に加えてマーケティングにも力を入れていて、約50人のファッションブロガーと契約しています。彼らから靴下に関する意見をもらって商品開発に生かしているほか、うちの商品を履いて「Instagram」に投稿してもらうなどのPRも行っています。

―アメリカでビジネスをする魅力と、難しい点をそれぞれ教えてください。

和田麻亞璃:北米という大きなマーケットが魅力的なのはもちろん、一度英語でビジネスを始めると、カナダやイギリス、オーストラリアなどほかの英語圏の国にも手を広げやすいのが大きな魅力だと思います。逆に難しいのは、私がアメリカ人の価値観を持っていないことや、英語が完ぺきでないこと。ただそこは無理をせず、先ほどの話のようにブロガーに意見を求めたり、営業はアメリカ人の代理店にまかせるなどして補っています。大事なのは、自分個人の「できる、できない」でビジネスの可能性を制限しないこと。いいアイデアがあればとにかく自由に広げて、足りない部分をどうするかは後から考えればいいんです。

―今後の展望は?

和田麻亞璃:展望というか、最近始めたことがあって。靴下のデザインは外部デザイナーに依頼しているのですが、これまで、1つの柄に対していくら、というふうに報酬を支払っていたんです。でも、ヒット商品をデザインした人にはもっと報いたくて、「SockNation」というブランドを立ち上げました。同ブランドのデザインは世界中の誰もが参加でき、採用したら1足売れるごとに売上の15%をデザイナーに還元します。これに参加することで、多くの人に自分の可能性を広げてもらえたらと思っています。また、弊社が持つ400社以上の流通網をシェアすることによる個人と企業の販売サポート、海外進出コンサルティングなどにも力を入れていきたいです。
 
※このページは「2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

MOTOKO / メイクアップアーティスト

ハリウッドでの経験を生かして日本の人たちを笑顔にしたい。

アン・ハサウェイ、タマラ・モーリー・ハウスリー、マライア・キャリー、チャン・ツィーなど、数々のセレブにメイクを施してきたメイクアップアーティストのMOTOKOさん。2015年、16年にはエミー賞のメイクアップ部門にノミネートされるなど、ハリウッドで活躍する彼女にお話を伺いました。
(2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

もとこ◎1987年渡米。日米で約11年間銀行に勤めた後、メイクアップアーティストに転身。以後、アン・ハサウェイ、マライア・キャリーなど多くの著名人をメイク。現在テレビなどの仕事に加え、セミナーや専門学校の講師など、後進の育成にも力を注いでいる。

―日本にいた頃から渡米後まで、銀行員として約11年働かれていましたが、そこからなぜ、メイクアップアーティストになろうと思ったのでしょう?

MOTOKOさん(以下、MOTOKO):昔から、友人にメイクをして、キレイに変身する姿、彼女たちが喜ぶ顔を見るのが大好きでした。国際結婚でLAに移住した後も、休みの日などに友人のメイクをしていたのですが、ある友人に「そんなにメイクが好きなら、仕事にしてみたら?」と言われて。その時から、プロのメイクアップアーティストになることを意識し始めました。また、ほぼ同時期に、知り合いの写真家からプロのモデルをメイクさせてもらう機会を得たんです。
 
しかし、メイク道具などがプロフェッショナルなものではなかったため、モデルに「なぜこんな人を連れて来たの!?」と言われ、メイクもさせてもらえず帰宅することに。本格的にメイクの勉強をしたい!と思ったきっかけでした。それから約2年間は学費と生活費を貯め、1994年に銀行を退職し、メイク学校に入学。そして卒業する頃には「これが私の仕事!」と迷いなくプロのメイクアップアーティストになることを決め、その道を歩み始めました。

―比較的遅いスタートですが、仕事はすぐ入ってきましたか?

MOTOKO:卒業後は、俳優やモデルのポートフォリオ用のメイク、他のメイクアップアーティストのアシスタントなどをしつつ、銀行でのアルバイトもしました。でも、目標はメイクアップアーティストとして独り立ちすることだったので、とにかくクライアントの要求に応える柔軟性や真摯な態度、人をキレイにしたいという強い気持ちを持って一つ一つの仕事を頑張りました。営業もあちこち回ったり、必死でしたね。でも、そんな努力の結果、1998年に有名なメイク、ヘアのエージェントに所属することができ、これを機に大きな仕事が入ってくるようになりました。

―これまでで、特に印象に残っている仕事は?

MOTOKO:2000年頃から約6年、マライア・キャリーのプライベート時のメイクをしていました。ツアーでは時間との競争だからと、テキパキとこなすことを教えてもらうなど、彼女の仕事に対する姿勢は学ぶことが多く、今の自分の仕事に生きています。

2015年エミー賞授賞式のレッドカーペットで出演者達と撮影された写真。MOTOKOさんにとって、アメリカに来て最も嬉しかった瞬間の一つだそう。

―今年のアカデミー賞で作品賞を獲得した『Moonlight』の出演者、ナオミ・ハリスなど、アフリカ系アメリカ人のメイクを担当されることも多い印象ですが、理由があるのでしょうか?

MOTOKO:今では普通ですが、2000年頃に複数のファンデーションを使って顔の凹凸を強調するようなメイクは、彼女ら独特のトレンドで新しかったんです。そういったメイクを施すのはいい勉強になるし、面白いと思って積極的に仕事を引き受けるうちに、実力を認めてもらえた感じです。ナオミもそうですが、テニス選手のセリーナ・ウィリアムズ、女優のレジーナ・キングなど、多くの著名人から仕事をいただくようになりました。

―ハリウッドで仕事をしていて、大変だったり、つらかったりすることはないですか?

MOTOKO:自信を失ったり、目標が見えなくなってしまったり、それなりに辛いこともありました。でもそのたびに、「この仕事が好き!」という情熱と、「これを乗り越えたら何かが見えてくるはず。Never Give Up!」という思いで頑張ってきました。

―逆にハリウッドで働いていて楽しかったこと、良かったことはありますか?

MOTOKO:4年ほど前に、ユニオン(ハリウッドの映画やテレビ、演劇などの分野で働く技術者やアーティストたちの労働環境を守る組合)への加入が決まったんです。加入には多くの条件があり、かなりの時間がかかります。だから、これまでの自分が認められたようで本当にうれしかったです。ユニオンメンバーには、予算の多い大きな仕事も回ってきやすいですしね。

―トークショー『The Real』で、タマラ・モーリー・ハウスリーのメイクを担当し、2015年、16年とエミー賞のメイクアップ部門にノミネートされました。これもうれしい出来事だったのでは?

MOTOKO:2回とも、授賞式でレッドカーペットを歩いた時は、本当にうれしく、また誇らしかったです。毎回メイクを新しくし、彼女が一番きれいに見えるようにベストを尽くしたことが評価されたのかもしれません。

―今後の展望は?

MOTOKO:これまでの自分の経験を、日本に還元していきたいです。ハリウッドのメイク術を教えるセミナーなどを通して後輩たちを指導し、結果、日本の人たちがもっとキレイになって、笑顔で前向きに生きてくれたらと思っています!
 
※このページは「2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

祐真キキ / 女優

『HEROES Reborn』出演は通過点。世界規模で活躍し、世界に貢献したい

英語は非ネイティブ、コネも演技の経験もないままハリウッド女優を志し、単身渡米した祐真キキさん。100回以上オーディションを受けた末、大ヒット米テレビドラマ『HEROES Reborn』の主要キャストの座を掴んだ経緯や人生の目標など、キキさんの生き様に迫りました。
(2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

すけざねきき◎京都府生まれ。高校在学中にアメリカに1年間留学。23歳でハリウッド女優を志し、単身渡米。現在は日米を行き来しながら、女優活動を続ける。2016年5月には、熊本地震の復興支援のため、ロサンゼルスでチャリティーイベントを主宰した。

―女優を目指した理由は?

祐真キキさん(以下、祐真キキ):小中学生の頃からいじめを見ると放っておけない性格で、ドキュメンタリー番組で世界の難民問題や環境問題を見ては、「いつか世界を救いたい」と考えるような子どもでした。ただ高校卒業後、明確な将来の目標が持てないままフリーターをしていた時、今時間のあるうちに世界の現実を見てみたいと思い、タンザニアにバックパッカーとして行くことにしました。タンザニアに決めたのは、日本でスワヒリ語を教えていた知り合いがいたからという、なんてことのない理由。そこで出会ったのが、南スーダンで環境問題の解決策を探るアメリカ人の慈善活動家でした。彼の話を聞いて、私も慈善活動をしたいとは思ったものの、自分一人にできることには限界があるという厳しい現実に気が付きました。
 
1カ月経って帰国後、自分の将来を考え直した時、幼い頃は子ども向けテレビ番組『天才てれびくん』に出たいと思うほどの目立ちたがり屋だったことを思い出し、まずは有名になってその知名度を生かして、人道支援活動をしようと決めました。

―女優の中でも、なぜいきなりアメリカで、ハリウッド女優を志したのですか?

祐真キキ:世界を救うには、世界規模で有名にならなければいけないと思ったからです。それなら一番手っ取り早い方法がハリウッド女優。アンジェリーナ・ジョリーのように世界に影響力を持つ存在になってから慈善活動をすれば、多くの人に世界に存在する問題の深刻さを伝えられるし、解決もできると思ったんです。
 
ですから私の目標は、ハリウッド女優になることではなく、世界規模で有名になること。正直、有名になれれば、女優でなくてもどんな職業でも良かったのですが、女優という仕事は、次にどんな役柄を演じるか分からないワクワク感が魅力。興味が多方面に分散しがちな私には、ぴったりだと思っています。

現在はテレビ東京の深夜ドラマ、「コードネームミラージュ」に出演するなど、アメリカのみならず、日本のテレビ番組でも活躍中。

―仕事をする上で最も大切にしているポリシーは何ですか?

祐真キキ:仕事に何かしら役立つ可能性のあることであれば、自分の興味の範囲内でなくても挑戦することが大切。実は、米NBCテレビドラマ『HEROES Reborn』で主要キャラクターの一人「刀ガール」を演じるチャンスに巡り会えたのは、サンタモニカで殺陣(たて)のクラスに通っていた時に同じクラスの受講生の母親が、同番組のキャスティングディレクターの友達だったことがきっかけなんです。日本でも殺陣はやっていましたが、アクションの演技に興味があったわけではなく、女優という職業を目指す上で「もしかしたら芸の足しになるかも」くらいの気持ちで始めました。でも、せっかく身に付けた技能を無駄にしたくないという思いから、アメリカに行っても続けたことが、結果、ビッグチャンスにつながりました。
 
それから、私が大切にしているもう一つのポリシーが、プラス思考。『HEROES Reborn』出演契約を掴むまでの渡米後約3年間は、エキストラなどをして生計を立てながら、時間を見つけては100回以上オーディションを受けました。いくら落ち続けても終わった後は、毎回「今日の私、最高!」と自信満々で会場を去っていました(笑)。だから挑戦し続けて来れたのかな。

―どうしたらそんなプラス思考になれるのでしょう?

祐真キキ:自分がやるべきことを100%やりきれば、自然とポジティブなエネルギーが湧いてきます。そうすると、楽しい時は全力で楽しんで、悲しい時はしっかり悲しむようになる。そうして感情が豊かになっていくと、演技力にプラスになるのはもちろん、人に対して自分の意見もすらすら言えるようになります。
 
アメリカに来てから特に感じるのは、意見を率直に伝える重要性。例えば、スケジュール調整をお願いする時に「申し訳ないんだけど、この日程は再調整してくれるとありがたいです」と伝えると、アメリカでは「ありがたいと言う程度なら、スケジュールの変更は必須ではない」と捉えられることが多々あります。日本人特有の丁寧さは大切なアイデンティティーですが、自分がどうしたいのかは明確に伝える必要があります。

―最後に、今後の展望をお聞かせください。

祐真キキ:『HEROES Reborn』に出演できたことは大きな収穫ですが、世界的に有名になって世界的な問題を解決するための人道支援活動をするという目標においては、一つの通過点。女優として認知されたことで、今は日本からもテレビドラマの出演依頼をいただき、日米を行き来しながら女優活動ができるようになりました。でも日米の2国間を超えた、もっとグローバルな場で「祐真キキ」の名を広げたいです。そのためにも、今勉強しているのがスペイン語。英語圏以外の国で活躍するためにも、この言語の習得が直近の目標です。
 
※このページは「2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

坂口剛 / 日本車いすスポーツ協会・車いすテニスクラブ「ウラテク」代表

スポーツを通して障がい者を自立させていきたい

日本の障がい者アスリートの海外進出を促すロサンゼルスのNPO団体「B-Adaptive Foundation(BAF)」。同団体が2017年7月、車いすテニス日本ジュニアランキング1位の坂口竜太郎選手をロサンゼルスとサンディエゴに招待し、試合出場、練習などを行ってもらう「JTB車いすテニスサマーチャレンジ」を主催します。父親として同選手を支えてきたと同時に、日本で車いすスポーツの推進活動に携わる坂口剛さんに、今回の意気込みや車いすスポーツの現状などを伺いました。
(2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

さかぐちつよし◎1975年福岡県生まれ。車いすテニス日本ジュニア王者である坂口竜太郎選手の父であり、一般社団法人日本車いすスポーツ協会代表理事、車いすテニスクラブ「ウラテク」代表。2006年、竜太郎くんが交通事故に遭い、胸から下が麻痺してしまう「胸椎損傷」を負ったことを機に、故郷の福岡県を離れて車いす利用者に優しい土地に移り住む(現在は千葉県浦安市在住)。2009年には車いすテニスに挑戦したいという竜太郎くんの望みを叶えるべく、浦安ジュニア車いすテニスクラブ(現ウラテク)を創設。以来、障がい者のスポーツ参加を推進すべく、さまざまな活動に関わる。

―車いすテニスクラブ「ウラテク」を始められたきっかけは?

坂口剛さん(以下、坂口剛):2008年北京パラリンピックの車いすテニスで、日本の国枝慎吾選手が金メダルを取る姿を見て、息子の竜太郎が「僕もやりたい」と言ってきたんです。しかし、当時車いすテニスができる施設はなかなかなく、1カ所あったところも千葉から通うには遠くて。それなら自分の息子を含め、障害のある子どもたちがスポーツをする場を作ってしまおうと。はじめは竜太郎を含めてたった3名でしたが、今では20数名が所属しています。

―車いすスポーツ協会の活動内容も教えてください。

坂口剛:「ウラテク」の課外活動としてやってきたことを今年、法人化しただけなのですが、障がいのある子どもたちに、テニスに限らずスポーツや遊びの場を提供しています。例えば、車いすの子どもたちにマラソンに出場させたり、スキーを体験させたりしてきました。

―2020年には東京パラリンピックが開催されますが、それに向けて車いすスポーツは盛り上がってきているのでしょうか?

坂口剛:東京、千葉、埼玉、神奈川あたりでは強い選手も増えて盛り上がってきています。ただ、それは一部の選手たちだけの話。私の役割は、いかに車いすスポーツの裾野を広げるかということです。今の日本では、障がい者の多くがスポーツに出会うことなく、家からすらめったに出ないのが当たり前。私は彼らに子どものうちから外に出て、遊んだり、スポーツをしたりしてほしいのです。そこでスポーツが気に入れば打ち込めばいいし、外の世界に触れることで勉強だったり音楽だったり、何か他のことに興味が出ればそれを極めていけばいい。障がいを持つ子どもたちがそうやって好きなことを見つけていけば、将来、生活保護などに頼らずとも仕事をして、納税をして、より社会と深く関わって…というふうになっていくと思うんです。そんな未来が私の望みであり、目指すところですね。

―「JTB車いすテニスサマーチャレンジ」の主な内容は?

坂口剛:まずはサンディエゴで7月15日(土)、16日(日)に行われる車いすテニス大会「18th Annual Hendrickson Wheelchair Classic」への出場ですね。アメリカの選手はレベルが高いので、竜太郎にはいい経験になると思います。それから、アメリカの大学テニスでトッププレイヤーとして活躍する柴原エナ選手、そのお父様である柴原義康コーチと一緒に練習ができる時間をいただいていて、それが本当に楽しみですね。

巧みな車いすコントロールと相手の裏をかくプレーが持ち味の竜太郎選手。

―今回、どこか訪れてみたい場所などはありますか?

坂口剛:竜太郎が交通事故で胸椎損傷を負った時、彼はまだ2歳。その年齢でそれだけのケガを負うと死亡してしまうケースが多いため、彼にように麻痺を負いながらも助かるというケースはまれでした。そのため、リハビリを引き受けてくれる病院がなくて…。そんな時、竜太郎を引き受けてくれたのがサンディエゴにあるリハビリセンターでした。3カ月ほど現地に滞在して通ったのですが、本当にここのおかげで竜太郎は救われましたし、家族一同、サンディエゴは第二の故郷みたいに思っています。当時よく行ったのがコロナド島。ビーチで砂遊びしたり、ホテル・デル・コロナドで食事をしたりといい思い出があるので、今回も家族で行けたらと思っています。

―今後の展望は?

坂口剛:自分としては、今の活動をもっと大きくしていきたいですし、竜太郎は将来、パラリンピックなど大きな大会に出られたらいいですね。その意味で、車いすスポーツ先進国のアメリカを体感できる今回の渡米は、大きなチャンスだと思っています。テニス大会もぜひ、応援に来てください!

坂口竜太郎選手の歓迎パーティーを開催!

「JTB車いすテニスサマーチャレンジ」で来米する坂口竜太郎選手とそのご家族の歓迎ファンドレイジングパーティーが、LAにて行われます。坂口選手と柴原エナ選手の合同練習も見学できるので、ぜひご参加を!(要事前の申し込み)

【歓迎パーティー詳細】

■日時:7/12(水)4:00pm-7:00pm
■会場:Peninsula Racquet Club(30850 Hawthorne Blvd., Rancho Palos Verdes)
■会費:$30(軽食、ドリンク付き)
■参加申し込み&イベント、試合詳細に関する問い合わせ:BAF(E-mail:info@b-adaptive.org/☎310-294-9240)

※このページは「2017年7月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。