マーク・ウォールバーグ / Mark Wahlberg

かつてのワルも、今じゃ人気俳優&腕前経営者!

成田陽子とマーク・ウォーバーグ

新作『Transformers: The Last Knight』の会見で、マーク・ウォールバーグは、「今回のアクションシーンは、これまでのキャリアで初めて『死ぬ!』と思ったくらい恐かった。撮影中、映画に登場する巨大なマシーンが誤作動して、その上に乗っていた撮影技師が落下したり、マシーンの動きで立っている場所がものすごく揺れたり…。自分にはコントロールできない危険が発生する恐怖は、かなりのものだったよ。一方、アンソニー・ホプキンスとの格調高い会話の場面は、本当に楽しくて刺激的だった。もうアクション映画は引退しようかなと思ったくらいだよ」と、口を尖らせて言いながらも、シャツの下から浮き出るモリモリの筋肉を自慢げに強調していた。
 
しかし、マーク主演のアクション映画は次々と企画されており、まもなく年代テレビドラマをリメイクした映画、『The Six MillionDollar Man』に主演する予定だ。

成田陽子とマーク・ウォールバーグ

1997年、『Boogie Nights』公開時のマークとツーショット。まだ初々しいですね。

「兄弟で経営しているバーガーチェーン、『Wahlburgers』がうまくいって、これから中国に3店舗出店するし、LAのSunse Blvd.にもオープン予定。全体では現在、118店舗を待っている状況だ。なにしろおいしいんだよ!」と自慢されたが、底抜けにお気楽なマークが言うと、全く嫌味がないから不思議だ。
 
初めて彼と会ったのは、彼が『Boogie Nights』(97)でポルノ映画のスター、その名もダーク・ディグラーを熱演した時。まだ今のような分厚い筋肉はなく、幼い顔にスリムな体の歳だった。ちなみに、当時無名の故フィリップ・シーモア・ホフマンが、ダークを追い回すゲイの若者の役で共演していた。二人の掛け合いが、ともすれば暗くなってしまいそうなポルノドラマに、コミカルな味を添えていたのを思い出す。
 
当時のインタビューでは、「僕は3寝室のアパートに9人兄姉と暮らす極貧の家に育った。何度も刑務所に入れられた非行少年だったけど、成年用の刑務所に入れられた時は本当につらくて、真っ当な人生を歩もうと決心したんだ。兄たちのバンドに入って音楽活動を始めて以来、大したトラブルは起こしていないよ」と述懐していた。今では日曜日には仕事をせず、必ず教会に行くという習慣をしっかり守る、敬虔なカトリック信者なのである。

 

成田陽子

成田陽子
なりた・ようこ◎ゴールデングローブ賞を選ぶハリウッド外国人記者協会に属して30年余の老メンバー。東京生まれ、成蹊大学政経学部卒業。80年代から映画取材を始め、現在はインタビュー、セット訪問などマイペースで励行中。

 

(2017年7月16日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年7月16日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

ショー・コスギ / 俳優、作家

Sho Kosugi小説出版記念・特別インタビュー

僕の集大成である『YIN-YANG CORD』、ぜひ読んでいただけたらうれしいです。

1980年代、アメリカで一大忍者ブームを巻き起こした日本人ハリウッドスター、ショー・コスギさん。5月に初の小説『YIN-YANG CODE』を上梓したばかりのショーさんに、同書への思い、さらに映画化の夢、今後の展望などについて伺いました。
(2017年6月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

ショー・コスギ◎1948年生まれ。19歳で単身LAに渡る。パサデナ市立大学に入学すると、在学中は数々の空手大会で優勝。卒業後はブルース・リーに憧れて俳優を志す。8年の下積み生活後、『Enter the Ninja』(81年)で準主役として抜擢されると、次作『Revenge of the Ninja』に主役で主演するなどし、アメリカに忍者ブームを巻き起こした。98年、世界的エンターテイナーの育成を目的にショー・コスギ塾を開校。近年は執筆活動に没頭し、2017年5月、空海の財宝と修験者をめぐる冒険活劇、『YIN-YANG GOOE』(英語版とスペイン語版)を上梓。

―今回、ご自身初の長編小説を上梓されましたが、執筆にはかなりの時間がかかったとか。

ショー・コスギさん(以下、ショー・コスギ):はい。1980年代、多くの忍者映画に出演して以来、息子のケイン(俳優のケイン・コスギ)を出演させた映画、『兜KABUTO』で原案、製作、出演を担当したりして、アクション俳優としてはある程度やりきった感があったんです。その後は、俳優マネジメント事務所の経営、さらにハリウッドスターを育てるための私塾「ショー・コスギ塾」を開校して教えたりしましたが(2012年閉校)、何か自分の集大成となるものを作りたいとずっと考えていたんです。それで辿り着いたのが、『YIN-YANG CODE』。映画化を見据えて、まず本を執筆するアイデアでしたが、構想が生まれたのが2000年頃なので、約17年かけてようやく形になったという感じです。映画出演などは極力断ってきたのですが、いろいろな仕事の合間を縫って進めてきたので、時間がかかってしまいましたね。

―どんなお話なのでしょうか。

ショー・コスギ:僕は空海、そして四国八十八箇所(空海ゆかりの88ヶ所の寺院の総称)の話にすごく興味があって。四国八十八ヶ所は修験者の修行の場だったのですが、修験者は忍者のルーツと言われていますからね。ここを舞台に、『ダ・ヴィンチ・コード』や『ナショナル・トレジャー』のようなストーリーを作れないかと思ったんです。時代考証もかなりしていて、日本の歴史や文化を知れる内容になっていますが、やはりアメリカで映画化するにあたっては、アクションシーンをふんだんに入れたいと思っています。主演は次男のシェイン(俳優のシェイン・コスギ)にして、僕も出演する予定です。

―70歳近くだというのに、アクション俳優として出演されるというのは驚きです。

ショー・コスギ:年齢に加えて、僕は身長が183㎝、体重が96㎏あるんですが、この体を動かすのは本当に大変なんですよ。だからとにかく、『YIN-YANG CODE』出演に向けて毎日2時間半の筋トレ、ストレッチを続けています。1週間も動かすのをやめようものなら、すぐ筋力は落ちるし、体も硬くなっちゃいますからね。

格闘雑誌のDVD収録用に、忍者アクションシーンを実演するショーさん。

―映画化はいつ頃を予定されているのでしょう?

ショー・コスギ:2020年くらいには公開できたらいいなと思っています。その準備として、スタントマンなどの出演者を育てるべく、シェインが小さなアクション・スクールを東京の麻布に開校しました。僕も来日の際、特別に上級者にアクションを指導します。アクションシーンはいつもの慣れた人間同士でやる方が、間合いが合ってより迫力が出ますからね。

―それは楽しみです。最後になりますが、『YIN-YANG CODE』プロジェクトも含めた、今後の展望を教えてください。

ショー・コスギ:今年に入って、格闘雑誌「MASTERS MAGAZINE」と、「The Art of Hollywood Ninja Action Movie Making」という、忍者アクションをレクチャーするDVDを作りました。演技や動きはもちろん、かっこ良く撮るためのカメラアングルなど、僕がハリウッドで培った知識や経験を後進たちに残しておきたくて。全部で15枚も作る予定なので、まだまだ人生、やることはたくさんあるなぁという感じです(笑)。

ショー・コスギさん執筆の、『YIN-YANG CODE (イン・ヤン・コード)』($20)が全米各地の書店で近日中に発売!

 
【あらすじ】
日本古代史を学ぶUCLAの学生たちが、研究の一環で教授と四国八十八ヶ所巡礼に参加することに。日本人大学院生の池大樹は諸事情でこの日本行きを断るが、後日、四国に渡った一行が交通事故に遭い、教授と学生の一人が亡くなってしまう。いてもたってもいられず日本へ向かった大樹は、教授が残した古い掛け軸に、空海が隠した財宝の在処が暗示されていることを知る…。忍者のルーツと言われる修験者集団と財宝を巡って死闘を繰り広げる大樹の姿を描いた、全2巻の一大スペクタクル。
 
取り扱い書店:Barnes & Noble、Amazon、その他各有名書店(世界100カ国以上で英語版とスペイン語版を同時販売予定)

 

※このページは「2017年6月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

いまだに奇妙な日本のメジャーリーグ報道

冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

チームの勝敗より個人の記録を優先する日本のメディア

メジャーリーグ

野茂英雄氏がドジャースに入団して大活躍して以来22年、日本ではメジャーリーグ・ベースボール(MLB)に関する報道がずっと続いているが、その姿勢については、どうしても違和感を感じざるを得ない。そして、この問題は今でも続いている。
 
日本のメディアだから、日本人選手が中心の報道になるのは仕方がない。問題は、その報じ方だ。とにかくチームの勝利への貢献ではなく、あくまで日本人選手の記録とか活躍という視点「だけ」での報道が続いているのである。それも22年ずっとであり、全く改善の兆しはないどころか少しずつ悪化しているように見られる。
 
一つのパターンは、試合に負けたのに日本人選手が活躍すると大きく取り上げるというものだ。例えば打者の場合であれば、「A選手3安打、チームは敗戦」というパターンである。試合に負けたのだから、A選手も悔しいはずなのに、「3安打」などと見出しになっては本人も困るだろうと思う。また、投手の場合は「M投手好投、6回無失点も勝敗つかず」というのがある。結局リリーフが打たれて負けたということだが、何だか日本のファンが一丸となって打たれたリリーフ投手を責めているようでいい気持ちがしない。
 
おかしな例としては、これは特別なケースなので実名を挙げるが、シカゴ・カブスの上原投手の場合だ。上原投手はセットアッパー(中継ぎ)である。救援投手としてホールドする、つまり、勝っている試合の8回1イニングを投げてリードを守るのが仕事だ。そして、上原投手の凄いところは、ボストン・レッドソックス時代なども含めてチーム事情によっては、より華やかでセーブポイントのつくクローザー(抑え)を担当することもあれば、今年のようにセットアッパーを担当することもあり、どちらでも高い能力を発揮しているということだ。正に真のプロフェッショナルである。
 
その上原投手は、同点の試合に登場することもある。その場合、1回を抑えた直後に味方が点を入れて勝つと、上原投手が勝利投手になる。別にそれだけのことなのだが、この「勝利投手になる」と日本のメディアはやたらに喜ぶのである。上原投手にしてみれば、勝利がつかなくてもリードしている局面で登板し、リードを守ることに大きな意義を感じているわけで、勝利もホールドも同じと思うのだが、そうした本人の志を無視して、勝ち星をやたら喜ぶというのは、何とも奇妙な話だ。

記録優先の報道がもたらす悲劇

こうした記録優先報道の最大の犠牲者は、イチロー選手だろう。シアトル・マリナーズ時代に、年間200安打の記録を毎年達成することを、日本から暗黙のプレッシャーとして受け続け、そのために四球を選んで出塁することが許されず、チームプレーより記録を優先する姿勢は賛否両論を呼んだ。ある大選手(著名な三塁手とだけ言っておくことにする)は、当時同僚であったイチロー選手のプレースタイルを激しく批判していたぐらいである。つまり、イチロー選手は安打数にこだわった結果、出塁率が低く、自分は打点の機会で損をしたし、チームの勝敗にも悪影響があったというのである。
 
だが、日本からの暗黙のプレッシャーを感じていたイチロー選手には選択の余地はなかったのだろう。一種の悲劇とも言えるが、今ではイチロー選手は超ベテランとして後進の良い手本になり、そのような苦しい過去は通り抜けた一種の境地にいるようだ。
 
日本の解説者の中からは今頃になって「イチロー選手にも優勝を経験させたい」などという声が出ているが、何を今更という感じだ。とにかく、野球というのはチームで戦うスポーツであり、個人記録というのはあくまで結果である。個々人の選手も、まずはチームの勝利に貢献することで尊敬される。日本では過剰なまでにそうした価値観があるのに、MLBの日本人選手については、あくまで個人記録だけが重視される。そろそろ、こうした習慣から脱してもいいのではないだろうか。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

(2017年6月1日号掲載)

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年6月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

アメリカTV Q&A

Q : シリーズを欠かさず観る方法は?
 
A:
ケーブル会社のDVRを借りて、好きなシリーズを登録しておけば、毎週欠かさず録画されます。デジタルなので、録画した順序は無関係に、好きな時に観られる上、メモリーが一杯にならない限り、半永久的に保存できて便利です。
 
U-Verse(at&t)のDVRは優れもの!同時間枠に観たい作品が重なっても、4本まで同時録画。更に、放送中の番組を一時停止、巻き戻しできるありがた~い機能があるので、情報を書き取ったり、聞き逃した言葉を確認できます。チャンネルを変えなければ、1時間まで巻き戻し可能。
 
「しまった!」の穴埋めは、局のオンライン放送を利用しましょう。また、Huluで無料で観られる番組も多数あります。1話あるいは1シーズン単位でiTunesで購入、またはシーズン終了後、DVDを一気に通しで観る方法もあります。
 
今週のオススメ番組表『This Emotional Life』はこちらから
今週のオススメ番組表『Ugly Betty』はこちらから

Chris Lowell

◎クリス・ローウェル
【俳優】
デビュー作 『: Life As We Know It』
最新作 『: Private Practice』

『Veronica Mars』シーズン3以来、クリス・ローウェルに注目していた。『Private Practice』では、サーファーの受付デル・パーカーが、先輩医師たちに意見する「大人」に成長したと喜んでいたら…。尊敬できるデル役の出番が半減してしまったローウェルに聞いてみた。

暇さえあれば、旅に出て、写真を撮る。趣味の域を越えて、今では「強迫観念」だと言うクリス・ローウェル。地上の楽園発見には至っていないが、今年の夏休みにヘミングウェイ作品の舞台キューバ、パリ、ケニア、タンザニア等を訪ねた。キリマンジャロに登り、スペインでは牛追い祭に参加。甘いマスクに似合わず、生粋の冒険好き。男の中の男なのかもしれない。「友達も冒険野郎ばかりで、止める人がいなくて。牛追い祭にはしらふで参加し、『何やってるんだろう?骨折ったら、仕事できなくなるぞ』と一瞬だけ不安が胸をよぎりました」と言う。メールで居場所を知らせると、どこからともなく友達が集まって来るとか。
 
故郷ジョージアで芝居をしていたが、運試しはLAで。「USCで映画制作を学んで、自作自演が近道かな? と。役者でも、裏方でも良いや! と思いました」と笑う。しかし、海岸でバレーボールをしていてスカウトされ、結局表に立つことになった。「将来ですか? 宇宙飛行士になりたい! いや、やっぱり、ハックルベリー・フィンかな?」と茶目っ気いっぱい。
 
今シーズンは出番が減ったが、「全話にちらっと登場するのではなく、出番がある時は中味の濃い展開になっています。デルは苦労人だから、診療所の常識ある羅針盤的存在に成長。視聴者に成り代わって、ハチャメチャな先輩たちに意見します」と言う。創作者ションダ・ライムスが、本作の「分別のあるキャラ」になれると見込んだ役者だ。子持ちの助産夫役について、「デルの理想主義と純粋さが、診療所の先輩たちの悲観主義の中でひと際輝いていると思います。悩みを山ほど抱えているのに、いつも善=光に向かって歩いて行く奴。デルの爪の垢を煎じて飲みたいと思います」と尊敬の念を抱く。
 
デルは不可欠な役どころだと思うが、予算上リストラに遭ったようだ。今後の計画はどうなっているのか?
 
「この機会に、ニューヨークに引っ越して、大学を出ておこうと思います」とローウェル。撮りためた写真の個展も準備中(スケジュールはwww.chrislowellphotography.com参照)だし、映画出演の話もある。
 
音楽の才能にも恵まれ、ボーカルとハーモニカを担当。「僕が出るとお客さんが帰ってしまうから、終演用だよ!」と笑う。しかし、アトランタから友達と車で貧乏旅行に出た際、「ハーモニカ、キーボードとギターしか積んでなかったから、フォークの弾き語り程度だったけど、小銭を稼ぎながら1カ月半でカナダに着いた」と語る。次回はどんな冒険談を聞かせてくれるのだろうか?楽しみだ。

★★アメリカTV Q&A
 
Q : 英語が苦手でも楽しめる番組は?

A: 地上波局と異なり、特定の視聴者に絞り込んで開局されたのがケーブル局。なかでも老舗Lifetimeは、20年余り前、女性向け番組編成を始めた最初の局です。女性の心をしっかり捕まえているので、性別から入る手が1つ。
 
趣味や興味のある分野に絞る手もあります。料理や食べることが好きな方にはFood Network、インテリアや住まい一般に興味がある方には、HGTVがおすすめ。健康志向の方にはFitTVやDiscovery Health等、各局の専門性に注目してください。
 
英語力を磨きたい方には、昼メロがおすすめ。筋のみを追っているとイライラしますが、感情表現を勉強するのにこれ以上の教材はありません。気持ちを言葉にする訓練を受けていない日本人は、米国では饒舌家に丸め込まれがち。言葉の護身術を身につけましょう!
 
ドラマ『Eastwick』の詳細はこちらから


Paul Gross

【俳優、脚本家、プロデューサー、監督、音楽家】
デビュー作 『: Due South』
最新作 『: Eastwick』

『Due South』で律儀な騎馬警官を演じたポール・グロスは、1994年以来私の「死ぬまでに会いたい人」リストの首位を維持。やっと叶ったグロスとの対面は、期待以上!カナダの自然もさることながら、長年の異文化体験も器の大きさに加担しているのだろうか?

『Due South』では、カナダの大自然の中で活躍していたフレイザー騎馬警官が、シカゴで父を射殺した犯人を探す、いわゆる「陸に上がった河童」役だった。最新作『Eastwick』では正反対の、得体が知れない実業家ダリル・ヴァン・ホーンを演じる。「『Due South』終了以来、毎年シリーズ出演依頼はありましたが、3年かけた映画が終わったことだし、すぐに手をつけたい企画もなかったので、ちょっと中休み。それにこの役は演じ方が無限大で、チャレンジだと思って引き受けました」と久々の米シリーズ出演について語る。
 
カナダでは舞台/映画/テレビ、何を手掛けてもヒットする国民的英雄グロス。「『DueSouth』の宣伝にあちこち引っ張り回されたのには面食らいました。カナダでは、宣伝予算なんてありませんから(笑)。今回は業界が一変したことに驚きました。地上波局は、崖に向かって突進しているような感じで…」と鋭いコメント。
 
米芸能界にカナダ人が多いと気が付いたのは、『Due South』の好演を観て、グロスの経歴を調べて以来。カナダ文化を長年礼賛してきたグロスに聞く2度とないチャンス。「うーん、ここが違う!と指摘するのは…、例えば英雄の観念が違うことでしょうか?カナダでは『Rambo』制作などあり得ません。歴史が浅いし、常に隣国と比較されるので、米国のここが良くないから、その逆をやるのがカナダ!という、極めて消極的な定義です。カナダ首相が『kinder, gentler nation』を目標に掲げることは考えられません」と、41代ブッシュ前大統領のスローガンを持ち出す。そのものずばり! だから、目標にならないと言うことだ。
 
カナダ陸軍戦車隊司令官だった父親の赴任先、米国、イギリス、ドイツ等を幼い頃から体験。礼儀作法はイギリス仕込みだが、ワシントンDCの高校時代「長除法辺りから、数学は捨てました。科学系は全滅ですから、『芝居しかない!』と決めました」と語るグロスだが、先生の後押しが大きいという。14歳からCFで活躍、ギャラを貯めてアルバータ大学の演劇科に進んだ。
 
しかし、思春期に異文化体験を重ね、母国や自分を見つめ直したことが、今日につながっていると言う。「1週間だけでもカナダの首相になれたら、国外に出たことのない人に切符を発行して、海外からカナダを振り返る企画を実行したいです。外に出て初めて母国を知るものです」と語る。
 
『Due South』映画化の可能性については、「あの窮屈な制服が辛くて…」と笑う。えー、凛々しい騎馬警官姿が売りなのに?!

★★アメリカTV Q&A
 
Q:米国テレビのゴールデンタイムは?

A: 毎晩、午後8時から11時までですが、ゴールデンタイムではなく「Primetime」と呼ばれます。この3時間は、地上波局にとって、広告費を稼ぐ一番貴重な時間だったのですが…。
 
午後10時枠にドラマを放送しているのは、ABCとCBSのみになってしまいました。NBCは今秋から平日午後10時枠を『The Jay Leno Show』で埋めています。ドラマは制作費がかさむからですが、業界関係者はNBCの諦めの象徴と解釈。『Friends』『Seinfeld』『ER』で地上波局のトップの座を満喫した局のなれの果て。
 
FoxとCWの「Primetime」は、午後8時から10時までの2時間ですが、放送時間にテレビの前に座って観る視聴者は減る一方=広告費収入が激減すると「Primetime」概念は意味を失い、消失する可能性があります。
 
ドラマ『Eastwick』の詳細はこちらから

俳優Eijiro Ozaki◎尾崎英二郎

デビュー作 : 連続テレビ小説『あぐり』 (NHK)、『Heroes』(NBC)
最新作 『: FlashForward』

映画「Letters of Iwo Jima」の好演、American Film Institute生の卒業作「The 8th Samurai」で主演男優賞を受賞し、スター街道まっしぐらの尾崎英二郎。LAに越して来て間もないが、人柄、感性と実力で無名俳優のパイオニアになるべく全力投球!

今秋の話題作『FlashForward』に出演したばかりの尾崎に、開口一番役どころを聞いたが、「秘密保持契約を結んだので、役名さえ言えなくて、ごめんなさい」の答え。11月19日の放送を待つしかないが、尾崎は「最初から『グローバル』を目指していて、フラッシュフォワード体験を日本人が日本語で語るのが第9話。日本とインドの有名な女優も起用したそうです」と言う。
 
オーディションで手にした役だが、「台本は英語で書かれていて、自分で和訳しました。責任重大です」と言う。配役する側が、日本語を理解できないことが落とし穴。「80~90年代は、日本語のできない人が堂々と日本人を演じましたが、雑な外国文化描写は許されない時代に入ったようです。リアルな日本人像を描こうという動きです」と明るい兆しを喜ぶ。
 
「『Heroes』に出た時から一歩時代が進んだかな?と思えるのは、日本の文化や言葉を知らないアジア系米国人ではなく、生粋の日本人が多数起用された点。画期的なことです!」と尾崎。米国で制作される番組に、日本から若手トップ女優を呼び寄せたのも前代未聞。
 
大人になるまで、俳優は単なる憧れだった。ネブラスカの大学に短期留学中、「英語で、身の入らない経済学でしょ(笑)。何やってるんだろう?」と見つめ直した。情熱で進路を決める米国人にパイオニア精神を叩き込まれたが、律儀にも帰国して卒業。ただし、「仕事は好きなことをやらないと、ダメになる!」の信念で、外国人モデルの通訳や英会話講師をしてNYの演劇学校へ行く資金を貯めた。しかし、同校の演技手法を日本で教える先生と出会い、師事。「いつかアメリカには働くために戻ろう」と方向転換した。転機は2002年。ブラジル映画「Gaijin2」に起用され、タムリン・トミタと共演。海外で仕事をする醍醐味を味わった。
 
俳優志望は星の数ほどいても、あえてハリウッドを本拠地に選ぶ日本人は少ない。「オーディションのシステムや組合のお陰で『フェアな業界』。芸能事務所の政治力で配役が決まる日本と異なり、演技力と個人の魅力でどこまで行けるかを試すことができます。ハリウッドで一気にスターダムに駆け上がり日本人俳優の道を開拓してくださった渡辺謙さんのようにはいきませんが、日本ではほぼ『無名』だった僕だからこそ、才能を磨いてチャンスを掴めばハリウッドの奥深くまで入れるのだというサンプルになりたいです」と抱負を語る。更に、「アジア人男性=滑稽」の固定観念を覆すべく、日々奮闘する。今後の活躍を期待しよう!

★★アメリカTV Q&A
 
Q: ケーブル局にもシーズンがあるの?

A: ケーブル局(ベーシック、プレミア共)は、かつては地上波局が再放送で乗り切る夏に、オリジナル作品やテレビ用映画をぶつけていました。最近は各局が思い思いのスケジュールで新番組を発表したり、継続番組を再開するようになり、ほとんど毎月、どこかのケーブル局で新番組が始まっていると言っても良いほど。シーズンはあってないようなものです。
 
ケーブル局の1シーズンは13話。内容が凝縮されている上、一気に放送されるため、あっと言う間に終了しますが、その分来シーズンが待ち遠しくなります。9話放送して、残りの4話を翌年にとっておく局、地上波局の約3分の1の7~9話でシーズンを乗り切る局等、さまざまなゲリラ戦法を駆使するケーブル局。ただし、再放送が散りばめられていますので、見逃しても大丈夫。
 
ドラマ『FlashForward』の詳細はこちらから

俳優 Taylor Kinney

【テイラー・キニー】
デビュー作: 『 Fashion House』
最新作 : 『Trauma』

数年に1度、「希望の星!」と直感する役者に出逢う。今回ご紹介する、テイラー・キニーは、ルックス、演技力はもちろん、人柄がきらきら輝いている。新番組『Trauma』を、見習いグレンの目から見たドラマ仕立てにすれば、視聴率も上がるのだが…。

『Trauma』のパイロット版を観て、傲慢な救急救命隊員に拒否反応を示し、ボツにした評論家が多い。しかし、プレスツアーのパネルインタビューにキニーが登場。パイロット版撮影後の登板で、制作陣を立てて発言を控えている様子が読み取れた。インタビュー後、「作家志望で、観察眼が鋭いけれど、ナイーブさが玉に瑕きずのグレン役です。2話からですが、よろしくお願いします!」と個人的に挨拶されてしまったから、観ない訳には…。
 
「元『ER』の医療アドバイザーに『ER』のジョン・カーター役だと言われました。早く仕事を覚えようと、焦って手が出てしまう。悪気はまったくないのに、ミスも多い…。小突き回されるカーター体験は、万国共通では?」と語る。未知の世界に飛び込み、同情を誘う水先案内人に挑戦する。
 
昔、マウンテンバイクを乗り回していて、崖から落ちて骨折。「救急車が来た時の安堵、隊員の冷静沈着な応急処置は忘れません」と自身の体験から、救急救命隊への畏敬の念を抱いて、役作りに臨む。
 
ルックスがルックスだけに、モデル出身?と思いきや、「スタントマンになるのが夢でした。授業中よく居眠りしてた体育系です(笑)」と意外な答え。大学2年目、選択課目で演劇を取り、やみつきになったにも関わらず、中退して友達とハワイへ。えー?? 「自力で生きていけるか試したかったので…。友達は彼女に振られて、5日後には本土に帰りましたが、屋根ぶきや大工仕事で生計を立て、1年でサーフィンやスカイダイビングをマスターしました」。

LA進出は5年前。「初仕事はミュージックビデオでしたが、編集、編集で、結局僕の指しか写っていませんでした(笑)。でも、ギャラの100ドル札は額縁に入れて飾っています。兄から家賃を借りてたので、返すべきなんだけど」と下積み時代を語る。しかし、紙媒体のモデルテ➝レビのCF➝舞台➝映画・テレビと昇格。「ブルーカラーの世界ですよ。たまたま、僕はサイクルが短かっただけです」と幸運に感謝する。
 
2006年『Fashion House』でデビュー。甘いマスクは、ファッション業界を牛耳る女実業家の御曹司にぴったりだったが、女に振り回される役は役不足? 「62話を4カ月で撮影、ギャラをもらって、訓練を受けたも同様。お陰で、今の仕事に就けました」と言う。
 
「3年前にオーディションを受けて以来、ピーター・バーグ監督(『Friday Night Lights』)に惚れ込み、粘りで手に入れたグレン役。ぜひ観てください」と夢の仕事が楽しくて仕方ない様子。応援したくなる役者だ!

★★アメリカTV Q&A
 
Q: 米国テレビのシーズンっていつから?

A: 地上波局(ABC, CBS, CW, FOX, NBC)は、9月から翌年の5月を1シーズンとしています。逸話数は平均22~23話ですが、毎週放送すると、5カ月ほどで消化してしまうので、再放送や特番等を混ぜて、巧みに配分します。スポンサーが注目する11月、2月、5月に未放送の逸話で視聴率を上げる習わしです。誰もテレビを観ていないと解釈される12月は、ほとんど再放送なので、ここで追いつくのも手?
 
シーズン開始時は、新番組の視聴率争奪戦。視聴率がとれないと、あっけなく打ち切りとなるのはご存知ですよね? 今年の被害者第1号は、CW『The Beautiful Life』。アシュトン・カッチャーのモデル時代の体験を基に制作、ミーシャ・バートンの復帰で、日本でも話題になりましたが、2話で一巻の終わりとなってしまいました。
 
ドラマ『Trauma』の詳細はこちらから

シーズンプレスリポート

今夏もリアリティー番組満載の新番組内覧会。ドラマは貴重な存在? とほほ。それでも、中にはと探していたら…「前向きで賞」をあげたいリアリティー作『Giuliana & Bill』が登場。『The Apprentice』1期生ビル・ランシックと『E! News』のレポーター、ジュリアナの新婚生活ビデオ日誌は、後味が良い。
 
パネルインタビューで、新妻の「私って、口うるさい女だって反省したの!」の告白に仰天。人間、臭いものには蓋をしたがるものなのに、実に健全な2人。自分の言動や伴侶の反応を客観的に分析して対話が生まれ、お互いを理解するのに大いに役立ったと語る。本コンセプト、普通の夫婦のカウンセリングに使えないか?
 
今週のオススメ番組表『The Dr. Oz Show』はこちらから
今週のオススメ番組表『Accidentally on Purpose』はこちらから

 

プレスツアー直前に運命が決まったCBS の秀作2本は、犯罪捜査モノでも、捜査官/刑事の私生活が複雑にからんで面白かった。『Without a Trace』は制作費高騰を理由に一巻の終わり。
 
危うく命拾いしたのは『Cold Case』で、パーティーでキャストに会って、継続に乾杯した。でも、はしゃいでいたのは私だけ。「ま、これが役者の人生だよ!」とダニー・ピノ。6年もサラリーマン生活を楽しませていただいたから、もう十分というのが一致した感想のようだ。意外とクールなんだ!? ジプシー生活に慣れると、ここまで悟りを開けるものなのか?見習わなくては…。とは言え、年間のギャラと今後再放送される度に入って来る再放映料収入の存在は否めない。
 
今週のオススメ番組表『The Good Wife』はこちらから
今週のオススメ番組表『Eastwick』はこちらから

 

10月4日の『Next Iron Chef』開始に先駆けて、Food Network がプレスツアーの一貫としてパーティーを開催。パサデナの高級住宅街にある個人宅が会場。裏庭にはプールがあり、オリーブの木に囲まれた、それはリッチな空間。
 
米国版『料理の鉄人』候補10 人が、各人の自慢料理を披露、試食できるようになっていた。さすが鉄人候補が腕によりをかけただけあって、唸る程の美味しさ。特に、アマンダ・フライタグのシーフードのフライ、ホセ・ガルセスのミニ豚まん、誰の料理だったか、カスタードの上にセラノ・ハムがのったオードブルを満喫した。それにしても食べ物の冒険はしないおじさん評論家の多いのにびっくり!こんな機会、2度とないのでは?
 
今週のオススメ番組表『Man Shops Globe』はこちらから
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Richard Foreman (c)NBC Universal, Inc.

監督/プロデューサー クリストファー・チューラック

多数決で決められないテレビ制作

Christopher Chulack
LAで生まれ育ったテレビ界の叩き上げ。大学を卒業することなく、19 歳で撮影所の使いっ走りで業界入り、編集、プロデューサーと、着実に技を磨いて昇進。1992 年『Homefront』で監督としてデビュー。『ER』制作を任されたライター出身のジョン・ウェルズと共に、TV 史に残る番組作りに関与。『Third Watch』『Presidio Med』などを経て、自ら企画した『Southland』の監督、プロデューサーとして活躍中。

昨夏、DGA(米国監督組合)のパーティーで、『Third Watch』撮影の苦労話を聞かせてくださったクリストファー・チューラック。15年も関与した『ER』の完了を待たず、新番組『Southland』制作に奔走する職人気質満々の監督に聞いた。

オープニングにLAの凶悪犯の写真を使われた理由は?

チューラック(以下C) :創造力をかき立てられたので、LAPD広報部の壁から拝借。街は変わりましたが、地形も犯罪も同じ。昔の写真を提示して、同じ場所で今は…、の対比に使いました。映画『LA Confi dential』仕立てのナレーションも、昔を偲ばせる要素です。

ベンは、『ER』のインターン1年生カーターの役所ですか?

C :どの作品でも、新米は未知の世界へ誘ってくれる水先案内人の役。パトカーを乗り回すベンの目線で、LAを描こうと…。お坊ちゃま育ちが故に、職場で信用されず、妬まれる…。なるほど、同じですね(笑)。

いつもジョン・ウェルズの作品に、関わっておられますね。

C :『ER』で共同制作して以来、私生活でも親友と呼べる奴です。『Third Watch』はウェルズの、本作は私の企画ですが、売り込みは一緒にしたほど。

本作は『Third Watch』LA版ではないとおっしゃっていましたね?

C :あの作品ではNYPD、消防署と救急救命隊の3部門が複雑にからんでいたので、「それぞれの機能は?」「いかに協調するのか?」に、NYの街としての長短を加味しました。アクション、スリルありのストーリー性の高いものでした。犯罪取締という意味では、LAは管轄域が広大で地域社会がなく、経済、人種、地形的にもバラバラ。1カ所にまとまったニューヨーク、シカゴなどとはまったく違います。

エミー、WGA賞などを何度も受賞されましたが、業界入りの経緯を聞かせてください。

C :大学を辞めて、19歳で撮影所に映画のリールを届ける使いっ走りで入りました。編集の弟子↓助手↓音響効果/台詞編集を経て、準プロデューサー↓テレビ番組のラインプロデューサーを長年務めました。1992年『Homefront』のシーズン2で、制作が軌道に乗っていたので、監督という新しい分野に挑戦させてもらいました。

どの逸話を監督するかは、いかに決まるのでしょうか?

C :プロデューサーの仕事も兼ねているので、スケジュール優先。ストレスをためたままだと良い仕事ができないので、1話終了したら間を置きます。ライターと相談して、筋が込み入っていて手間暇かかる逸話が回って来ます(笑)。いつも何かに挑戦していないとね!

監督業に不可欠の要素は?

C :まず、楽な靴を見つけること(笑)。批判を穏やかに受け止めること。制作はチームワークですが、最終決定は多数決ではないと肝に銘ずること!

監督を目指す人へひと言。

C :自主制作から始めることしかありません。ライター、役者でも同じことが言えますが、最初から人気番組に抜擢されることなど、万に1つ。下積みをしっかりして、経験を積むことが第1です。実績あるのみ!

[業界コボレ話]
2009 ~ 10 年シーズンのTCAプレスツアー(新番組内覧会)に参加した。ケーブル、PBSと地上波局の計125 作品が発表された。作品は次号からご紹介するが、「変化」「希望」「人類皆兄弟」が一貫したテーマだった。オバマ政権の目標と同様である点が面白い。
 
8 月30 日開始の『The Human Family Tree』(NGC)は、6万年前東アフリカの部落から人類が発生したという説を元に、NY 州クィーンズで道行く人から採集した遺伝子で辿るDNA 人類学のドキュメンタリー。プレスツアー会場で私のDNAサンプルを提出したので、結果を心待ちにしている。日本人も元を正せばアフリカ?

俳優/歌手 クリスチャン・ケイン

空想を現実にしたルネサンス・オーキー

Christian Kane
オクラホマ州ノーマン育ち。転校5回の一匹狼は、映画と空想に逃避。オクラホマ大学で美術史専攻中、思い立ってLAに。タレント事務所の使いっ走りから、1997 年『Fame L.A.』でデビュー。映画、テレビのゲスト出演、『Angel』『Close to Home』を経て、2008年より『Leverage』のエリオット・スペンサーで活躍中。音楽、料理、デザインも手掛けるルネサンス・オーキー。

プレスツアーでは印象が薄かったが、蓋を開けてみたら主役より存在感のある役者が最近多い。正真正銘の新人もいれば、テレビ界の新人もいる。しかし、『Leverage』のエリオット役を射止めたクリスチャン・ケインは、映画、テレビ、音楽、ファッションなど、多分野で活躍するルネサンス人。シーズン2の撮影中、成功の秘訣を聞いた。

オクラホマ州ノーマン育ちとか。私はデューイに留学していたので、懐かしくて…。

ケイン(以下K) :近所だね。最近、タルサに家を買ったし、クリスマスに必ず帰るから、僕も「オーキー」。ジェームス・ガーナーやヴィンス・ギルなど、ノーマン出身の芸能人は多いよ。

『Leverage』は痛快で、大好きな作品です。

K :キャラクターの旅に便乗でき、視聴者は「悪党」退治大作戦の一員のような錯覚に陥る映像になっているしね。現実にはできない「権威」懲らしめを疑似体験できるから痛快なのさ!

エリオットは、どんな人間ですか?

K :パーカーとエリオットは、自分を守ることに精一杯の悪ガキ。「心」が備わってないから、何も感じない=無神経と解釈してるんだ。ネイトは酒で心痛を紛らしがちだけど、パーカーとエリオットに「心」を吹き込むはず。鼓動し始めて、痛みを感じるまでの変遷を時間をかけて描くんじゃないかな? エリオットは「007」気取りだけど、思ってるほどモテないんだな、これが(笑)。元彼女が次々と現れるけど、今シーズンは気になる相手も登場するよ。

咋夏のプレスツアーでは「この役を演じるためにハリウッドに来た」との発言でしたね?

K :オクラホマにくすぶってたら、携帯の営業マンで家族扶養にあくせく働いて一生を終えるか、刑務所入りかの二者択一が現実。何が何でも脱出してみせるぞって、情熱に進路を委ねたんだ。授業料を払ってでも演じたい役なのに、ギャラが出るから凄いよ!

多芸多才でも、くすぶっている人はどうすれば良いですか?

K :小学校で転校5回の一匹狼だったから、映画に出る自分を空想しながら生きてたけど、行動力もあったから。よく俳優志望に相談されるから、LAに来たら連絡するように言うけど、1年以内に電話がかかってきた試しがない。LAで当たって砕けるしかないと思うよ。本作にもティモシー・ハットンが出てるけど、著名な俳優がテレビに出る時代。10年前も厳しかったけど、不況で最近は新人発掘なんかに手間暇かけないから、過当競争もいいとこだけど、やるっきゃないでしょ?

料理を始めたのは?

K :LAに来た当時、豆の缶詰をいかに美味しく食べようか工夫を凝らすしかないほど、貧しかったんだ(笑)。朝から晩までFood Networkを観て、メモ取って研究したなー。子供の頃、母が料理するのを見ていたから、見よう見真似で始めたけど、材料が買えるようになったら、料理が成功の証みたいで…。「ガラガラヘビ・ステーキ」は自慢の一品。ブルーチーズ、ハラペーニョ、ベーコン詰めのフィレミニョンなんだ。紫色のピザもいけるよ!(笑)。

[業界コボレ話]
7月16 日、エミー賞の候補者や作品を発表するイベントに参加。大好きな『Grey’s Anatomy』のシャンドラ・ウィルソンと、『The Big Bang Theory』のジム・パーソンズが司会した。
 
思い返せば、パイロットを観て「凄い!」と、早速セットに出向いたのが2007 年の秋(本誌07 年12 月16 日号参照)。司会に選ばれただけでも、自分の発掘眼に悦に入っていたのに、パーソンズがコメディー主演男優賞候補に入ったのだ。俳優に投票できないATAS(米国テレビ科学技術アカデミー)会員として、パーソンズを選んだ俳優グループに感謝、感謝。気に入らないことは多々あるが…。

上級プロデューサー/監督 グリア・シェパード

文学少女からライターの守護神に

Greer Shephard
父の転勤を期に、13 歳でLAに。文学少女は、東海岸の大学に進み、国文学専攻。卒業後、ディズニー・テレビジョンの幹部候補生養成プログラムを経て、1991 年ABCの企画部に転職。93 年ドラマ企画部長、95 年より副社長を務めたが、新人ライターのビジョンを守りたいと独立。98 年The Shephard/Robin Companyを設立し、『Nip/Tuck』『The Closer』『State of Mind』『Trust Me』などを制作、活躍中。

『The Closer』のブレンダ・リー・ジョンソン本部長補佐は、21世紀の「デキる女」。LAPD特別班を率いる実力は、華奢な外見からは想像できない上、甘い物に目がない、片付けられない、縦列駐車できないなど、完璧からは程遠い。ブレンダの生みの親グリア・シェパードに聞いてみた。

番組が始まって以来、ブレンダ誕生の経緯をうかがいたくて。

シェパード(以下S):ABC時代、『Prime Suspect』風の作品をと何度も試みたのですが、結局「胸のある男」を創り出す結果に(笑)。映画『Fargo』を観て、男以上に働かないと出世しない時代は終わり、詫びない、媚びない「デキる女」の時代が来たのだ!と閃きました。ついでに、40を過ぎて独身、子供は要らないけど恋愛はしたい=母性本能と無関係に生きる少数派の女を代表してもらおう!とか、攻撃DNAを持ち合わせない女を、暴力の真っ只中に置いてみよう! など…過去に学んだこと、私が描いている理想の女を混ぜ合わせたのがブレンダです。甘い物に目がないのは、実は私!(笑)

女刑事多しと言えど、職場にスカートをはいて来るのはブレンダだけですね?

S :外見も、計算ずくです。警察の過剰暴力が世間を騒がせた時に企画を練っていたこともあって、才色兼備の刑事が、スカートを翻して取調室に入って来るほど意外な絵はないと計算しました。犯人は「たかが女」と油断するはずで、見くびりを逆手に取る心理作戦です。

シリーズ企画が目標で業界入りされたのでしょうか?

S :父はCBSで、『Magnum』や『Cagney & Lacy』を企画した業界人ですが、私は本の虫でした。大学を卒業して、ディズニーの幹部候補生訓練プログラムに受かったのですが、コメディー最盛期で、私の出番がなくて。結局、新人ライターを発掘するドラマ部門で、ダイアモンドの原石のようなライターを探す訓練を受けました。今の仕事が務まるのは、この訓練のお陰です。

ABCでドラマ企画の采配を振っておられたのに、独立されたのは?

S :ABCの本体である撮影所が銀行化し、著名なプロデューサーにしか投資せず、無名のライターを養成できなくなったからです。新人+ベテランのコンビで制作したこともありますが、必ずベテランが新人のビジョンを押し潰してしまう苦い体験でした。ライターを守りつつ、局が求めるレベルの作品を創る「保証」を提供するのが私の使命と、会社を設立しました。

地上波局の問題は、いまさらお尋ねする必要はありませんね?

S :ケーブルには「冒険心」と「遊び心」があると同時に、失敗が許されないので、万全を期してリスクを冒します。地上波局は、失敗は不可避と見なすのが最大の違いでしょう。

テレビを選ばれたのはなぜ?

S :脚本を書いてから、放送までの期間が短いので、アイデア↓反応や社会への影響が手に取るようにわかる「即時性」が魅力。監督中心の映画と違って、放送作家の世界という点と、時間をかけてキャラクターがどう変遷して行くかを目撃できる点が小説っぽくて、大好きです。

[業界コボレ話]
大和撫子は今「結婚したい!」ブーム。「ウッソー」と同時に、「ついに来たか?」と思ったのは、専業主婦憧れ現象体験済みの米国から客観視しているからか?
 
40 歳前の、最後のあがきに違いないが、大黒柱が2本必要な昨今、自立した女にメリットがあるのか? 結婚に心の糧を求めたい気持ちはわかるが…。
 
婿探しは「婚活」と呼ばれ、昔は結婚相談所と呼ばれた会社から、町内のお節介おばさんまでが、可愛い女をアピールする付焼き刃を指導する。
 
時代錯誤も甚だしい。女性が自分に100%満足していれば、付焼き刃の愚かさに気付くはず。結婚への憧れを煽っているのは誰なのか?

俳優 タニア・グナディ

ジェットコースター初乗りで掴んだ運

Tania Gunadi
インドネシアで生まれ、14 歳でグリーンカード抽選に当たり、兄姉を頼ってLAに移民。ピザハットの販売員からディズニーランドのCFを経て、2002 年『Even Stevens』2話にゲスト出演、「ディズニーっ子」になる。テレビ映画『Pixel Perfect』『The Magic of Ordinary Days』に出演し、『Boston Public』『It’s Always Sunny in Philadelphia』を経て、09 年『Aaron Stone』の紅一点、エマに抜擢された有望株。

1月のTCAプレスツアーで『Aaron Stone』パネルインタビューがあったが、タニア・グナディはアジア人特有の遠慮だったのか、借りてきた猫のようだった。しかし、キャスト4人に直にインタビューしてみると、グナディの人となりがきらきら輝いたので紹介したい。

『Aaron Stone』の人気の秘密は何でしょう?

グナディ(以下G) :アクション、スリル、友情、どんでん返しや意外な展開のドラマに、ロボットを加えて…。どう説明すれば良いのかな?『Alias』の子供版?(笑)

エマ役を射止めた経緯は?

G :7 年前に『Even Stevens』にゲスト出演した時、毎日ディズニーで働きたいって思ったの。主役のケリー・ブラッツと演じるまでに、何度もキャスティングの面接があってね。喉から手が出る程の役だったから、神経ぴりぴり。でも、ブラッツがリハーサルしてくれたので、オーディション本番で自然な芝居ができたんだと思うわ。

オンライン・ゲームで、無敵のアーロン・ストーンになった高校生の二重生活を描くドラマですが、初めて台本を読んだ時の感想は?

G :スーパーヒーロー物語に出るって、誰でも憧れるでしょ? 役は何でも良いの。参加することに意義があるから!私は1度に2~3役演じ分けできる贅沢な作品だと思ったわ。

役者を目指して、LAに?

G :アメリカに住む姉がグリーンカードに応募したら、私と父が当たったの。父はインドネシアを出る気がなかったし、末っ子の私だけは手元に置いておこうと思ったみたい。でも、チャンスを無駄にするなと母や兄姉に言われ、思い切って。
 
当時は英語がしゃべれなくて、ピザハットで働いてたから、16歳なのに語彙はピザ一点張り。ペパロニ? ソーセージ?(笑)。ある日、お客さんから「ギャラ500ドルのディズニーランドのCFに出い?」と誘われ、オーディションが何かも知らずに付いて行ったの。ジェットコースターのCFだから、オーディションは叫ぶだけ。ジェットコースターを見たこともない私が選ばれちゃった。
 
撮影当日、私は「その他大勢」の一人だったけど、撮り直し、撮り直しで、主役の子は乗り物酔いでゲーゲーやってるし、20回も上下したら楽しそうな顔なんかしてられないのよ。初めて乗った私だけがはしゃいでいるから、監督が主役に昇格してくれたの。結局、私ひとりがジェットコースターに乗ってキャーキャー叫んでいる撮りがCFになったの。ギャラは4倍、SAG(米国俳優組合)会員になれるで、良い事尽くめ。これが初めの一歩!

明るさが成功の秘訣ですね?話していて、とても楽しいもの。

G :そう?だったら、彼氏、紹介してくれない?ディカプリオみたいな人…。

番組に因んで、ヒーローは誰ですか?

G :人生の要所要所で、士気を鼓舞してくれた人たち。幼い頃は、母が楽観主義と何にでも美しさを見つけなさいと教えてくれたわ。LAに来てからは、面倒みてくれて、感謝して生きることを教えてくれた兄と姉よ。
 
(2009年7月16日号掲載)

[業界コボレ話]
人間ドラマ党の私にとって、リアリティー番組は無用の長物。最近、少し下火になったものの、夏場は穴埋めに放送される。
 
米国各地の成金主婦たちの小競り合いを記録した番組に学ぶことは何もないが、Food Networkの次世代の看板シェフ決定戦は、才能+タレント性+人格が試されるので面白い。毎週熱い闘いが繰り広げられるが、なかには「目立つことのみが命!」や「勝つことが命!」の輩もいる。
 
この手の勝ち抜き戦を観る時は、この人の番組なら観たいと思わせる「魅力」がにじみ出る人を選び出し、応援しながら観ると、ハマってしまうものだ。

創作者/プロデューサー  デボラ・ジョイ・ラヴァイン

「希望を捨てないで!」がメッセージ

Deborah Joy LeVine
親の期待を裏切ることなく、カリフォルニア州弁護士協会会員となり、LAで数年弁護士として活躍した。弁護士一家への義務を果たした後、1985 年テレビ映画『Murder: By Reason of Insanity』の創作/制作で業界入り。93 年『Lois & Clark』を共同創作、『Early Edition』『Dawson’s Creek』『The Division』等の制作を経て、TNT 用に創作した『Mental』がFOXで制作され、現在放送中。UCLAで脚本執筆講師をすることもある。

『Mental』は、精神科医ジャック・ギャラガーの熱意と飽くなき探究心に、声援を送りたくなる医療ドラマ。パイロット版を視聴後、理想の先生は創作者の精神疾患体験から生まれたに違いないと直感し、早速、創作者デボラ・ジョイ・ラヴァインに聞いた。

精神疾患患者と共に生きる家族は、ギャラガー先生はどこにいるの?
紹介して欲しい!と番組を観ていると思います。

ラヴァイン(以下L) :息子も11歳で躁鬱病と診断されました。薬を処方して「はい、さようなら」の医者ばかりで、知性と「心」を兼ね備えた先生を探すのにひと苦労。どの薬で症状を抑えようかではなく、手がかりを掴んで謎を解く探偵であり、患者の立場で考えてくれる医者の理想像です。これまでは、暴力沙汰や妄想等の症状を描くことで、視聴者を恐怖に陥れるホラー的ドラマばかりでした。でも本作は、温かく見守ってくれる先生もいるから、「希望を捨てないで!」がメッセージです。

創作の経緯は?

L :数年前、TNT局から「精神疾患を扱うドラマを」と依頼されて、兄と2人でパイロット版を執筆しました。残念ながら、TNTは犯罪捜査モノ路線を選択したので、お蔵入り。WGA(米国脚本家協会)のスト解除後に映像権を持っていたFOXで13話制作して、今放送中です。

精神疾患への理解度は深まりつつありますか?

L :露出度が高まったので、徐々に。ただし、子供の躁鬱病を認めない親は多いですね。大人しかかからないと頑に信じ、子供には薬剤治療を拒否したり…。「無視すれば何とかなる」は大間違いです。

精神疾患の完治はあり得ないのでは?

L :骨折はレントゲン写真を見れば、誰も疑いませんが、日常生活に支障を来たす精神疾患は証明できない厄介な病気。鬱病、躁鬱病、統合失調症等、どの疾患かは医者の診断を信じるしかありませんし、時間がかかり、誤診も多いものです。また、本作の挑戦は、医療ドラマなのに治療できない=結末がない点です。「結末のないドラマなんて無意味?」と思いましたが、ハッピーエンドを「疾患を認め、対処方法を探す方向に踏み出すこと」と定義しました。完治はしないけれど、薬とカウンセリングで普通の生活ができるようになる、病気とつき合って行く方法があるという希望の光を与えることとしました。

テレビ業界に入られた経緯は?

L :弁護士一家で、義務だと思って弁護士になりましたが、昔から執筆業が夢でした。「石の上にも3年」と頑張りましたが、弁護士体験中に読んだ刑事事件をテレビ映画用に創作/制作して業界入り。その後、法廷ドラマを多数書きました。

険しい道でしたか?

L :数カ月で22〜23話制作、しかも毎回良い逸話を書くのが当然と期待される、きつ〜い仕事です。疲れたから、ひと休みという訳にいかないし、長時間コンピューターの画面を見つめる生みの苦しみを毎日味わうのですから(笑)。好きこそ物の上手なれと言いますが、この業界は好きでなければすぐに弾き出されます。
 
(2009年7月01日号 掲載)

[業界コボレ話]
最近、言葉の威力について考えることが多い。モノ書きだから、余計に敏感なのかもしれないが、特にインターネットやメール、更に最新の「Twitter」なる厄介な代物で飛び交う無責任な発言に辟易としている。
 
ブログが蔓延したお陰で、事実を丁寧に検証して責任を持って書いたプロの文章と、見たまま感じたままを日記のように綴った素人の文章の区別がつかない人が増えている。Twitterはその最たるもの。すっぱ抜きやスキャンダルを追いかけるゴシップ欄記者(?)が蔓延しているようなものだ。井戸端会議もグローバル化したワケだ。発言に責任を持つなど古代の遺物?

小児科医/司会者 ジム・シアーズ

公共電波上の発言は責任重大

Dr. Jim Sears
1996 年、セントルイス大学医学部を卒業、オハイオ州で小児科研修医を修了。カリフォルニア州カピストラーノ・ビーチで、両親が開業したシアーズ小児科医院を弟と共に運営する医者一家。一家の著書『The Baby Book』
『The Premature Baby Book』等は和訳されている。『Dr.Phil』『Help Me Grow』(PBS)で 小児科の専門知識を時折 披露していたが、2008 年秋より『The Doctors』の司会者の1人に抜擢され、現在活躍中。

昨夏、『The Doctors』の制作チームに会った際、場慣れしたトラビス・ストーク先生(『The Bachelor : Paris』)に気を取られていたからか、印象が薄かったジム・シアーズ。フタを開けてみたら、4人の司会者の中でチャレンジ精神旺盛で、包容力ある理想の医師はシアーズ先生だと判明した。

開業医からテレビへの飛躍は?

シアーズ(以下S) :3年ほど前から『Dr. Phil』に小児科医として何度か出たのがきっかけです。ドクター・フィルのご子息で、本作プロデューサーから出演を依頼されました。

診察の時間はありますか?

S :第一線で働く医師が司会者の条件なので、診察時間は死守していますよ! 職場の症例を取り上げることも多いので、週1~2日は診察。2日はロケ撮影、木、金の2日間で7、8本を公開録画します。

笑いのネタになっていらっしゃいますね?

S :網タイツをはかされたり、宙ぶらりんにされたり、なかには不愉快な実験もありますが、冒険だと思って何でも(笑)!

この仕事で、人生観が変わりましたか?

S :開業医の患者数はたかが知れていますが、視聴者何百万人というのはうれしいようで恐いというか…。公共の電波に乗って、毎日お茶の間に招かれる情報発信者の責任の重さを感じますね。一語一句に気を遣うようになりました。

話しやすい医者を見つける方法を教えてください。

S :恋人探しと同様、数をこなすしかありません。充分下調べして、「面接」感覚で初診に臨みましょう。気が合うか、聞き上手か、慎重派か大胆か等を見極め、満足がいかなければ、諦めないで探すことです。医者は、乗り換えられても気にしませんから(笑)。

開業医の立場から、医療は今後どうなると思われますか?

S :国民保険の方向に進みつつありますが、内科医数を増やさない限り、待ち時間が今以上になるだけです。専門医の方が高収入なので、内科医は近年減っています。保険会社が口を挟んで、思い通りの治療ができないし、医院を維持していくためには患者数を増やすしかありませんが、そうなると患者の悩みを丁寧に聞く時間がない=やり甲斐がないというジレンマです。保険がないから医者に行かないため、重症になって駆け込む人が年々増加しているのも確かだし、肥満、糖尿病等の成人病も増えているので、予防医療を充実させるしかありません。

最近は緑茶が大流行りですが、「流行」についてのご意見を。

S :「流行」は番組で検証します。有名人が効くと言う「今週のオススメ」等に科学的裏付けがあるかを確認しています。また、ネット上の情報=事実ではありません。まことしやかな作り話もあるし、素人が信じていることが書かれているだけかもしれないし…。Mayo Clinic 等の信頼できるHPで、根拠やデータ源を確認するのが得策です。

風邪の治療薬の開発状況は?

S :何十年研究しても駄目ですね(笑)。常に進化する何百種類のウイルスをやっつける1錠は、初めから負け戦かもしれませんよ。
 
(2009年6月15日号 掲載)

[業界コボレ話]
『TV Week』誌に21 世紀の最優秀ドラマ、コメディー6本と各ジャンルの男優と女優6人を投票したばかりだというのに、今度はTCA(テレビ評論家協会)賞の投票。去年、トム・ハンクスを拝ませていただいた例の表彰式が、今年も7月のプレスツアー中に開催されるので、投票義務がある。
 
今年から会員同士が討論できるよう、ネット上に場が設けられた。毎分のように、全米の評論家同士が、あの俳優が良い! とか、この作品に投票すべき! の雑音がメールで届く。鬱陶しいったら、ありゃしない! エミー賞のように、黙って投票させて! 「口は禍の門」変じて、ネットは禍の門だ。

俳優 リサ・エデルスティーン

タイトスカートはもう懲り懲り

Lisa Edelstein
ボストン出身。ニュージャージーで育ち、NYU 芸術学部で演劇を専攻。自らも君臨したNY のナイトクラブ体験をもとに、エイズを主題にした画期的ミュージカル
「Positive Me」を自作自演して一躍有名に。
90 年代、MTV を皮切りに、主にコメディーにゲスト出演したが、『The West Wing』『Ally McBeal』『Felicity』の忘れ難い役を次々とこなし、04 年『House』のカディ役に抜擢され、活躍中。

FOXのドル箱番組『House』で、ハウス医師に唯一「駄目!」と言えるカディ事務局長を演じるリサ・エデルスティーン。個性派俳優は、職場でも私生活でも「救助」に執念を燃やすが、過去に意外な汚点(?)が…。

創作者デビッド・ショアにインタビューした際、昔、敢えて飲み込んだ言葉を、ハウスに託していると明かされていました。

エデルスティーン(以下E)
:本作を観ると、ショアの生き様が明らかになりますよ(笑)。

オーディションを受けて?

E :正規の長いプロセスを経て。台詞も良いし、ハウスとの複雑な関係が面白く、やりたい! と思った役です。パイロットで垣間見たカディとハウスの関係は、シーズン5の関係を示唆していました。でも、最初は環境やキャラの設定に時間をかけたので、カディは「その他大勢」として葬られるのでは?と心配しました。

医学用語はほとんど解らないので、ハウスの行動や発言、インターン・同僚・上司との絡みだけを追っています。

E :『Greys Anatomy』と違って本作は医療ミステリー。専門用語について行けなかったら、人間関係を追うしかないわね。

本作に出て、人生観が変わりましたか?

E :父が小児科医だし、決して嫌いな分野ではないのですが、まだまだプロでも知らないことだらけで、病因だって無限大!本作を観ている医者に行くと、同僚として扱われるようになりました。診断の過程を説明されてもね…(笑)。診断=推理の連続を毎日体験しているので、病気になるのが恐くなりました。これが駄目なら、あれを試そうかの世界ですもの。

シーズン毎に、ハウスの偏屈度は増していませんか?

E :もつれた糸がほどける感じかしら? 「キャラを変えることはできない。タマネギを1枚ずつ剥くように、人物像を明らかにするしかない」がショアの口癖。やっと芯に近づいて来たのでは? でも、天才的頭脳、無慈悲な率直さ、青い目にカディは惹かれてます。2人とも仕事しか生き甲斐のない寂しい人間だし、お似合いだと思うわ。救助願望の強い人間は、家庭向きではないから、いつまで続くかは別として…。

カディの悩殺ファッションはどう思われますか?

E :職場でオシャレするしかない仕事の鬼という設定。でも、タイトスカートはもう懲り懲り。私生活では二度とはきたくないわ(笑)!

『Felicity』のローレン役への反響は?

E :観たことがなかったし、端役だから誰も観ていないだろうと軽く引き受けた役なのに、ベンの子供を身ごもってフェリシティーとの仲を裂いたと総スカンを食らったわ(笑)。公園で見つけた犬を保護して、動物愛護協会に届けを出した所、「フェリシティーを苦しめた『悪女』がつれて帰った」と飼い主に言われるほど!

捨てイヌを放っておけないタイプとか?

E :飼い主が見つかるまで、何匹捨てイヌや猫を預かったかしら。苦労して成犬にした愛犬の最期を看取るのは何回やっても辛いけど、やめられません。
 
(2009年6月1日号 掲載)

[業界コボレ話]
地上波局の08 ~09 年度の番組は終了してしまったが、ABC は数年前TCA プレスツアーで約束した通り、打ち切った番組の未放映の逸話を放送している。完結編でなくとも、ある程度心理的に終止符を打つ事ができるので、従来の「宙ぶらりん」気分が解消され、精神衛生上良いことだ。
 
5月23 日から『Pushing Daisies』を放映中。コンセプト自体に無理があるものの、第二話に個人的に関与したこともあって画面から葬られるのは名残惜しい。「Eli Stone」は6月20 日から4話で完結する。残念無念! いずれも、USA 局向きだと思うのだが、拾ってもらえないかな?

俳優 モニカ・レイマンド

たくましい母を思い浮かべて役作り

Monica Raymund
フロリダ州出身。著名な受験校を経て、理系に進学しようと願書を提出したが、結局、ジュリアード学院で演劇を専攻。在学中、『Cymberline』『The Diviners』『AnimalFarm』等に出演して、才能を発揮。幼い頃からピアノ、声楽訓練を受けていたので、卒業後はミュージカル出演を目ざしていた。テレビ初出演はNBCの『Law &Order: SVU』で、卒業後1カ月で『Lie to Me』に抜擢された注目の若手。

『Lie to Me』のリア・トレス役で、今春デビューしたモニカ・レイマンド。主役を食う勢いの存在感はベテランの証拠と信じて止まなかった。シーズン1の最終話撮影中にも関わらず、気軽に応じてくれたインタビューで明らかになったレイマンドの素顔とは?

リアが一番魅力あるキャラですね?

レイマンド(以下R):シリーズは初めてで、「何をやってるんだか?」と思う日もあるので、そう言われるのは何よりうれしいです。舞台と違って、撮影は筋が後先になるので、演技上難しいし、カメラのアングル、立ち位置、台詞、動きなど、一瞬、一瞬、押さえる要素がごまんとあって大変です。振り出しに戻ったようで、ジュリアードの恩師に助けを求めたほど(笑)。

リアは貫禄があるので、ベテランだとばっかり。

R :FOXのキャスティング担当からオーディションを受けてみないか?と言われて…。学校を出て間もなくでした。ブロードウェイでミュージカルに出ている姿を想像していましたが、ボストンでホセ・リヴェラの芝居にゲスト出演していたら、テレビシリーズやゲスト出演の話が舞い込んで、新卒なのに? って感じでした( 笑)。無我夢中で今の役をこなしてきて、つい1カ月程前に恵まれているなってしみじみ感じた次第です。

子供の頃から俳優を目指して?

R :学芸会で歌ったり、踊ったりしていましたし、地元の舞台に立っていましたが、進路が決まるまでは、あれもこれも!と欲張りでした。化学や生物が好きだったので、願書を出した
11校中で文系は3校だけ。幸いジュリアードに受かって、親が夢を実現しろと言うもので…。

右脳と左脳の両方を使える人は、奥が深いですね。

R :演技を過剰分析する癖があって、学校で自分に優しく!を叩き込まれましたが、すぐ元の木阿弥です。分析→反省→学習過程と、感情表現のバランスの問題だとは思いますが…。

ご家族の反応は?

R :父が今週末、撮影現場を見に来ます。コンピューター業界の実業家で、定年退職したと言いながら、まだせっせと働いています(笑)。母はドミニカ出身のクリエイティブな人です。頭脳は父から、心は母からの贈り物です。

オバマ大統領のおかげで、米国史上初めて人種の差なく希望の光がさしているようですが、芸能界はどうですか?

R :やっと多様化が実現しそうで、わくわくします。「血」が流れていなくても、女優は髪型で国籍を変えられるから、得だと思います。ストレートだと、インド人役ができるし、カーリーにするとアフリカ系の役が可能に。中東、南米、ネイティブ・アメリカンもできるし、カメレオンになれるのが役者の醍醐味ですね。

お手本にしている方は?

R :苦労人の母です。苦しい時にも心を閉ざすことなく、ハードルを乗り越えながら、「生きる」意味を学び、前進するたくましい人。そんな母を思い浮かべてリアを演じています。駆け出しの私に時間を割いてくださって、ありがとうございます。

[業界コボレ話]
『Grey Gardens』は、故ジョン・F・ケネディ夫人の実家ブービエ一族の「つらよごし」ビール母娘を描いた映画。故大屋政子を彷彿させる母、イーディーの自由奔放な生き方の巻き添えになり、波瀾万丈の一生を送った娘、イーディーの「priceless life」を描いた作品だ。
 
35年余り前に制作された同名のドキュメンタリー以来、知る人ぞ知る母娘と聞くが、名門ブービエ一族は、株や不動産売買、芸能人の家系で、お世辞にも高貴な家柄とは言えない。ファーストレディーにのし上がったジャックリーンの血縁でなければ、社交界から落ちこぼれ、ゴミ箱のような屋敷で芸能界入りを夢見て生きていたビール母娘は単なる狂人でしかない。米国民の貴族への憧れの産物と、興味深く観た。

放送作家/プロデューサー:ベッツィー・トーマス

暇に飽かして書いた芝居が認められて

Betsy Thomas
ミシガン州出身。ノースウェスタン大学で演出家になる勉強をした後、LA に引っ越した。1992 年に執筆/演出した戯曲『Us & Them』『Choices』で注目を浴び、『My So-Called Life』のスタッフライターとしてテレビ界入り。30 分コメディーが得意で『Then Came You』『Run of the House』などの創作、制作に関与。2002年、ABC 用に創作した『My Boys』は、TBS でシリーズ化され、3年目は9話制作を手掛けた。

コメディー不作と言われながらも、TBSオリジナル『MyBoys』は3年目を迎える。根強い人気を誇るコメディーを創作したのは、演出家を目指していたベッツィー・トーマス。手塩にかけて育てたシリーズの人気の秘密を聞いてみた。

自作が毎週放送されるのは、どんな感じですか?

トーマス(以下T):うわっ!そんなこと、今までに聞かれたことなかったわ。うーん、毎日が楽しくて、楽しくて、仕方ない! って言えば良いのかしら? まさか、現実になるとは思っていなかったので、感謝感激雨あられの毎日。

創作3 本目の大成功ですが、きっかけは?

T :大学を出てすぐにLAに越してきましたが、そうそう面白い仕事があるワケもなく、補佐的なことばかり。暇に飽かして書いた芝居が認められて、エージェントが見つかり、気が付いたら、ハースコヴィッツとズウィック監督(『ラストサムライ』の制作コンビ)と話をしていたの・・・。運が良かったのね。

子供の頃から脚本家を夢みて?

T :舞台の演出をやりたかったの。LAに来た当時はインターネットもなく、仕事をする振りをして、何かを書いて暇潰しするしかなかった。でも昔書いたものを読むと恥ずかしくなるから、うまくなったのかな?って。

『My Boys』のビジョンは?

T :元々ABCのために書いた
作品。当時、女性の主人公が何か違う! と不満だったので、リアルな女性を描こうと。PJ同様、思考回路が男っぽい私の目から見た、男女の相違と類似点を映像化しようと思ったの。

スポーツ、ポーカー、はしご酒の世界とは無縁な私でも、肩肘張らずに生きるPJは新鮮で、しかも応援したくなるキャラですね?

T :嘘のない作品にしたかったので、大成功ってことね?うれしいわ! 素朴でさばけたPJの素直な生き方と、それを無条件に受け入れる友達や家族の輪が受ける要因かな?

休み時間に漏らしたことが、次の週には台本になるとキャストから聞きました。好みの役者を集めて実験ですか?

T :そう言われても仕方ないわね(笑)。実際に身に降り掛かったことを題材にするから、役者の体験をそのまま拝借することもあるわ。配役の際に、私のイメージに最も近い役者を選んだこともありますが、3年もやっていると、役者の性格がキャラを引っ張って行くようになりました。下手するとコメディーの題材になるので、私の近辺にいる人は、気をつけてものを言うようになったみたい(笑)。

ケレー・スチュアートが唯一の女っぽい女を演じていますが、配役は最後だったとか?

T :ほとんどの女優が、笑えるけれど、自意識過剰で、批判的なステファニーをオーディションで演じたので、「そんな嫌な女とPJが友達になるはずないでしょ!」と思いました。最後の最後まで決まらなくて。スチュアートは自分に自信があるから、PJを批判しない親友を演じてくれたので、これだ! と思いました。PJもステファニーも異種の自信を持った女性で、お互いの長所、短所を認めた上の友情です。
 
(2009年5月1日)

[業界コボレ話]
HBO の『In Treatment』が再開された。昨年、人のカウンセリング風景など、何が面白いのだろう? と疑っていたが、1シーズン分をまとめて観て病み付きになってしまった
 
共依存の妻の支配から逃れようと家を出た夫との間で右往左往する少年オリバー。犠牲者にも関わらず、家庭崩壊は自分のせいと自虐する姿は不憫そのもの。同時に、子供や夫に良かれと「尽くす」妻が、実は自立を妨害していることが読みとれて目からウロコ。 不眠症を相談に来たCEO ウォルターは、原因を追求することを拒み、権力と金力に飽かして、症状のみを治療しようと焦る。「心」の問題も、商談として性急に処理を試みる…。立身出世すると女性もこうなるだろうか?

俳優 キャスリーン・クィンラン

骨の随まで俳優だな~って

Kathleen Quinlan
パサデナ生まれ、ミルバレー育ち。スポーツ万能の高校時代、映画『American Graffiti』の端役がきっかけで芸能界入り。以来、50 本余りの映画に出演。代表作は『I Never Promised You a Rose Garden』『TheDoors』『Apollo 13』。1999 年より『Family Law』
の正義の味方ホルト弁護士役で本領を発揮。『Prison Break』のシリーズ完結話で、スコフィールドの母親クリスティーナ役で活躍する。

『Family Law』で弁護士を熱演したキャスリーン・クィンラン。打ち切り以降、子育てに専念していたが、4月17日再開する『Prison Break』のクリスティーナ・ローズ役に起用された。普通の主婦は演じないと釘を刺して得た役どころは? 期待のシリーズ・フィナーレ開始を目前に、話を聞いた。

クリスティーナ・ローズとは?

クィンラン(以下Q):マイケルとリンカーンの死んだはずの
母親役で、陰謀の鍵を握る役。
詳細は明かしてもらえず、雲を掴むような面接でしたが、長年、子育てに専念していたので、「休暇」だと思えば良いか?と。伝統的な母親は現実でたくさん!なので(笑)、洗い物はと約束してもらいました。息子の好きな番組なので、時々観ていましたが、決まってからDVDを観て、すっかりハマってしまいました。

ウェントワース・ミラーとの演はいかがでしたか?

私も『Family Law』を3年続けて、惰性の仕事にならないよう、自分自身に挑戦しなけばいけないと学びました。ミラーは、そのあたりをわきまえて、役作りに打ち込んでいる真面目な青年。照明やカメラ位置を変える待ち時間に、気持ち良くリハーサルに応じてくれました。お行儀も良いし。

芸能界入りは『AmericanGraffiti』と聞きました。

Q :ジョージ・ルーカスがミルバレーの高校で、「キャトル・コール」(大勢の未経験者を集めてオーディションをすること)をしました。試験を控えていたので廊下で勉強していたら、コッポラ監督が通りがかりに「オーディション、始まるよ」と声をかけてくださったの。体操の仲間を引き連れて踊る端役でしたが、それを観たエージェントから電話があって、芸能界入りしました。

受からなかったら、今頃何をしていたと思われますか?

Q :映画のお陰で一直線に芸能界に入れただけで、寄り道しても、結局俳優だと思います。行き当たりばったりの人生だけど、それが好きだし、それで良なんて思います。
役には恵まれてきたし、今は骨の随まで俳優だな?って

天職は俳優! と確認された役がありますか?

Q: 映画『I Never Promised You a Rose Garden』のデボラ役。統合失調症の16歳は心地良い役ではなかったけど、感銘を受けたという声を聞きました。心を動かしたり、凝り固まった考え方を変えることが、天命だと信じています。『Family Law』のホルト弁護士も、意義ある仕事をしている実感があったので撮影所が経済的に続けられなくなって悔しい思いをしました。もっと、続けたかった作品。

まだ実現しない、夢の役は?

Q :最近、珍しい西部劇なの。今、若手脚本家に書いてもらってます。楽しみだわ

[業界コボレ話]
DirecTV がNBC と制作費を折半し、13話に短縮した『Friday Night Lights(FNL)』のシーズン3。NBC 放送分には、毎週400 万人が釘付けになっているが、視聴率が低いと叩かれっぱなしだ。それでも、DirecTV はシーズン5まで制作を希望。交渉が成立すれば、予想通りテレビ業界の斬新なビジネスモデルになるに違いない。
 
かたや、視聴率も人気も高いユニークな犯罪捜査ドラマ『Cold Case』と『Without a Trace』が危ない!? と聞く。制作費が嵩むからだとか。犯罪捜査モノ専門局と化したCBS の、柳の下のドジョウ狙いではない2作の危機は不可解。話題になるドラマが欲しい!
 
とないものねだりするCBS の選択がこれとは。矛盾してない?

特別企画『Samantha Who?』セット訪問レポート

Christina Applegate
サマンサ役。芸能一家に生まれ、CMや子役を経て、17歳から11シーズンもの間、『Married with Children』のケリー・バンディー役で名を馳せた。映画、舞台でも活躍し、女優として飛躍を遂げた。
 
Barry Watson
トッド役。15歳で昼メロに抜擢され、WBの看板番組『7th Heaven』で一躍有名になった。『What About Brian』のブライアン役がまだ記憶に新しいが、映画『Boogeyman』等にも出演している。
 
Melissa McCarthy
ディーナ役。WBの看板番組『Gilmore Girls』のスーキー役で注目される。元々は、コメディー劇団で活躍。映画『White Oleander』、テレビ『Curb Your Enthusiasm』でも実力を発揮する。
 
Jeniffer Esposito
アンドレア役。ブロードウェイで大活躍していたが、映画、テレビにも進出し、活動の場を広げる演技派。代表作は映画『Crash』、テレビ『Spin City』『Related』『Rescue Me』等、数えきれない。
 
Kevin Dunn
ハワード役。映画『Dave』の大統領報道官アラン・リード役で知られているが、ゲスト出演も多数。テレビでは、『Prison Break』『Lost』『The Closer』『Law & Order』等がある。
 
Tim Russ
フランク役。芸歴30年余りで、音楽業界や声優、映画/テレビ制作など、さまざまな才能を発揮。テレビ『Star Trek: Voyager』のバルカン星人、戦術顧問のトゥーヴォック役で名を馳せた。

『Samantha Who?』は、生活には支障はないが、事故以前の価値観や嗜好等の記憶がない逆行性健忘症を患うサマンサの自分探しの旅を描いたコメディー。記憶喪失という繊細な題材を、クリスティーナ・アップルゲイトが見事に演じる。
 
2日間のセット訪問の機会に恵まれた。1日目は、サマンサのアパートや実家の居間および台所、コーヒーショップ等を見て、撮影見学とインタビュー。我々がセット入りした午前8時半には、アップルゲイトとバリー・ワトソンが既に本番撮影中だった。
 
メークの時間が必要なアップルゲイトは、早朝6時半入りで1週間が始まり、連日16時間労働! 昨春、乳ガンが見つかり、ガン体質と判明したため、あえて両胸切除した直後のハードスケジュール。「『明日がないかも!?』の恐怖を体験すると、“今”を大切にするようになるわ。毎朝目が覚めるだけでもありがたくて、一瞬一瞬を精一杯、楽しく生きよう! って決めたの」と、自らの再出発を語った。

悪女と天使の演じ分けについてアップルゲイトは

「悪女って変な自信があるし、欲しいモノを手に入れる方法も知っているから、リラックスできるの! 逆に『私は誰?ここはどこ?』って模索する方が、エネルギーを消耗しちゃう」と、意外な答え。

元彼トッドを演じるワトソンは

「トッドは無邪気で純粋なサマンサが新鮮で、ヨリを戻してみようかと見守る忍耐強い男」だと言う。自身は、飽き性で役者以外は考えられないが、もし再出発するなら「自然が好きだから、森林警備隊が理想的な仕事!」と語る。

ジェニファー・エスポジートはサマンサを“浅はかで欲深い悪女”に戻そうと躍起になるアンドレア役。

「『良い子ちゃん』と夜遊びしても楽しくないでしょ? 言いたい放題、したい放題の悪女コンビに戻れなかったら、アンドレアが『私は誰?』の旅に出る羽目になるから、必死なの」と説明。エスポジートはやり直しが利くなら「食べることが好きだから、絶対にシェフ!」と決めている。

メリッサ・マッカーシーは、絶交した幼馴染みサマンサを、良い子に戻そうと目論むディーナ役。

「クリスティーナからケータイに電話がかかって来たら、友達に『見て見て!』って見せびらかしちゃうの!」と言う、アップルゲイト・ファンだ。
 
2日目は、ケヴィン・ダンとティム・ラスにインタビュー

サマンサの父親、ハワード役のダンは、

「娘が自立して『やれやれ!』と思っていた矢先の事故に戸惑う父親」と話す。アップルゲイトとの共演について、「クリスティーナの演技に見とれて、台詞を忘れてしまうことも。“番組のエンジン”は馬力がありますよ」と語る。

サマンサを四方八方に引っ張る取り巻きの中で、唯一相談相手に選ばれたドアマンのフランクを演じるラス。

「鼻持ちならぬサマンサが相談に来るので、嫌々ながら」と苦笑い。遭難したサマンサ号の北極星をクールに演じる。「なぜか威厳のある役しか受かりません」と言いつつ、やり直すなら中学校の先生だとか。

アップルゲイトの底力を肌で感じたセット訪問だった。“番組のエンジン”に声援を送りたい。

[業界コボレ話]

俳優 アヤ・スミカ

「Yes we can」魂は母譲り

Aya Sumika
シアトル出身。日本人の母とドイツ系アメリカ人の父のハーフ。幼い頃から舞台が大好きで、高校からダンスに専念し、名門ジュリアード音楽院でコンテンポラリー・バレエ専攻。NYでCMモデルをしながら、演劇を勉強。
 
LAに越して間もなく『Hawaii』に抜擢され、オアフ島で9カ月ほど撮影したが、あっけなく打ち切りに。2006年より『Numb3rs』のリズ・ワーナー捜査官として活躍中。「邦画に出演するのが夢」と言う、将来が楽しみな有望株。

アヤ・スミカとの初対面は、2003年のプレスツアー。役者に転向した初のシリーズ『Hawaii』は打ち切られたが、06年より『Numb3rs』のFBI捜査官役で活躍中。下積みをした自信もさることながら、逞しさはダンサーゆえ? 久し振りに会った親友に語るかのように、スミカはテレビ業界を語る。

『Numb3rs』のリズ・ワーナー役、おめでとうございます。

ドンの相手役オーディションは、満足ゆく演技ではなかったのに、3話契約。ドンとの関係は終わりましたが、レギュラーに残れました。デンバー転勤話が織り込まれた時は、びくびくもの。今のところ、無事です(笑)。エップス家の男性3人が主人公なので、助演キャラには余り触れませんが、レギュラーになった時、プロデューサーと相談した結果、アメリカ・インディアンと白人のハーフになりそうです。インディアンって、日本と似通った文化なので楽しみです。

『Hawaii』の刑事役体験は役に立っていますか?

S:武器の使い方、射撃体験がね(笑)。ドアを蹴飛ばしたり、犯人追跡したり、アクションが楽しくて! 『Numb3rs』のアクション指導の先生が、格闘技に長けているので、出番ではなくても常に研究しています。

『Hawaii』の体験を聞かせてください。

S:ケリー・ヒロユキ・タガワが手取り足取り指導してくださいました。映像はキレイでしたが、ハワイを数カ月体験した白人が描いた違和感は否めません。カラーが決まる前に切られたのは、心残りです。

私も映画『SAYURI』で、ケリー・タガワに随分学びました。

S:あの映画に出たくて、どれだけ憧れたことか! あれも映像はキレイでしたね。母と一緒に観ましたが、我々日本人には奇妙としか…(笑)。

米国育ちでも、日本人だと意識しておられますか?

S:日本の何もかもが新鮮で、同時に懐かしい…。女性には将来がないと見切りを付けた新1世の母と違い、嫌な体験をしていない分、日本人だと言い切れます。年に3カ月は日本で暮らすのが夢です。その前に日本語を勉強しないとね! いつか日本語でインタビューできるようにします、絶対、約束!

バレエから俳優への転向は?

S:ダンスの基本がバレエだと思って選びましたが、子供の頃、芝居やミュージカルにも出ていたので、ジュリアードで演劇を選択したら面白くて。NYでCMに出る傍ら、演劇の勉強をしてLAに。マネージャーの紹介で、『Hawaii』に抜擢されました。トントン拍子のようですが、胡散臭い人にも出会ったし、下積みはしっかりやりました!

アジア系俳優にやっと陽が射した感がありますが?

S:まだまだ、厳しいですよ。身を以て成功への道を示す母に育てられたので、ハーフだから、アジア系だからと諦めません。偏見や差別は体験しましたが、「Yes we can」魂は捨てないし。『Hawaii』も『Numb3rs』も、キャラクターの人種が明示されていない台本でした。創作者の波長に合えば、人種は後から…というパターンが増えているから、少しずつ改善されています。

[業界コボレ話]
昨年エミー賞の最優秀ドラマ候補に挙がった『Damages』シーズン2の3話までを観たが、相変わらず面白い。昨年と違って、グレン・クローズが演じるパティーと、パティーに利用され、婚約者まで失った新米エレン(ローズ・バーン)の立場が大逆転した。1話ごとに「凄い!」と唸ってしまう。この作品が日本で受けなかったのは、放送局の怠慢としか説明のしようがない。
 
Foxから届いたのは、『Dollhouse』の小包。主人公の名前入りの箱に何の変哲もない、木彫りの人形が入っていた。目的に応じ、性格や履歴書をダウンロードして貸し出すサイボーグの物語で、コンセプトは斬新。前評判が先走りした『Fringe』と違い、パイロットを観たので、オススメしても良いかな?

プロデューサー リーナ・ミムーン

つらかった20代を描くのが大好き!

Rina Mimoun
LA出身。劇作家を目指していたが、初仕事はプロデューサーのアシスタント。
 
『Dawson’s Creek』で、バーランティと肩を並べて働き、才能を認められて、バーランティ創作の『Everwood』に引き抜かれた。バーランティ多忙時、ピンチヒッターとして制作を任されて昇進。同作終了後、ワーナーのお抱えとして、『Pushing Daisies』に関与。2008年秋には、『Privileged』を創作、制作総指揮者として活躍中。
 
テレビっ子の希望の星として君臨。

グレッグ・バーランティの愛弟子から、今や売れっ子プロデューサーに成長したリーナ・ミムーン。最新作『Privileged』は、『How to Teach Filthy Rich Girls』を基に、テレビへの熱い想いを込めて制作。テレビっ子の憧れの的ミムーンに、成功への道を尋ねた。

シーズン1は何話ですか?

ミムーン(以下M):18話です。尻すぼみにならないよう、来秋まで引っ張れる盛り上がりを入れようと思います。12話までは、人物紹介で手一杯でしたが、後半に入ってメーガンやウィルの家族等、新しいキャラを紹介して、世界を広げました。

『Friday Night Lights(FNL)』の崇拝者で、メーガンの母親役をコニー・ブリットンに…と、ひたすら念じておられるとか?

M:『FNL』の本数が減ったと聞いていましたが、オースティンで撮影中だったので、諦めざるを得ませんでした。私たち『FNL』狂はNBCでの再開まで耐えるしかないわね!

昨夏お会いした時、テレビへの熱い想いが伝わってきて、ワクワクしました。

M:テレビ好きが昂じてね(笑)。高校時代に、スタッフライター応募時に出すサンプルのように、『Mad About You』『Friends』等の台本を書き始めたのが最初かしら? 私ならもっと面白い話を書ける! と(笑)。自慢じゃないけど、未だ誰にも負けないテレビ狂よ!

業界へはいかに?

M:初仕事はアシスタント。プロデューサーに「一旦、タイプが早いと知れ渡ったら、ほかの才能が色褪せる」と言われ、事務能力はほどほどに(笑)。放送作家たちが、エージェントを紹介してくれました。

3年振りにバーランティ氏にインタビューしたら、「作品が地味なので、ファンはありがたい」とおっしゃっていました。

M:特にCWの作品は、ファンが神様! 私たちの書く作品はニッチ番組ですから(笑)。

「テレビは観ない」と言われるとグサリ! とくる私には、まばゆいばかり! 憧れます。

M:私もよく刺されるけど、「なぜ観ないの?」って聞き返すの。テレビは、世の中でどんなことが許容範囲に入ったかを知る試金石。米国の集団意識と言っても良いのではないかしら? 放送翌日「昨日、観た?」で会話が始まり、「私なら、あんなこと絶対にしない!」なんて意見交換から対話が始まるでしょ?

原作のメーガンとは違いますね? 家族と疎遠になって大学へ逃げたメーガンが、いつも楽観的なのはなぜですか?

M:あえて明るい材料に焦点を合わせるか、暗い材料にこだわって、落ち込むかの選択。「臭い物に蓋をする」ように避けて、過去を否定しているメーガンも、いずれは直面しないとね。青春時代を謳歌する人が多いけれど、私はとにかく暗中模索の20代はつらかったわ。大学を卒業する頃には、人生設計があって、何もかも完璧にできると信じていたのに、何もわからないし、満足にできない、ストレスだらけの毎日。自己中心に世界が回っているから、何もかもがドラマチックで、些細なことで世も終わり! と感じる時期なのだと、青春真っ只中の視聴者に読み取ってほしいです。

[業界コボレ話]
11月末に、番組の打ち切りが相次いだ。なぜ今なのか?
 
今まで続いたことが謎の『Dirty Sexy Money』は納得したが、視聴率の伸び悩みを理由に、昨年の話題作『Pushing Daisies』と、21世紀の預言者を描いた秀作『Eli Stone』の打ち切りには不平不満を言いたい。放送日を変えた上で、葬り去られたのは『Lipstick Jungle』。例によって、尻切れトンボか、うやむやにされる可能性が高い。連続番組は観たくない視聴者が後を絶たないわけだ。運命が決まってから、DVDで観るという手もあるが…。
 
観ない→視聴率低迷→打ち切りが方程式だが、すぐに闇に葬るから「連続モノは遠慮しちゃう!」と敬遠する視聴者の気持ちが、なぜ理解できないのか?

俳優/作曲家 マリアンヌ・ジャン・バプティースト

視聴者に任せるドラマが好き

Marianne Jean-Baptiste
ロンドン出身。王立演劇アカデミー卒。
96年、映画『Secrets & Lies』でアカデミー助演女優賞候補となり、脚光を浴びた。90年代はヨーロッパの舞台、映画、テレビで活躍したが、2001年以降、映画『The Cell』『28 Days』『Spy Game』や、テレビ映画『Silent Hearts』『A Murder of Crows』、ミニシリーズ『The Wedding』などに出演。
02年よりLAに本拠地を移し、『Without a Trace』のジョンソンFBI捜査官として活躍中。

燻し銀のような深い味わいある演技を見せてくれるマリアンヌ・ジャン・バプティースト。方言指導なしで、NY訛りをマスターしたのは、作曲家の耳の賜物。今夏、自作の短編を撮影し、『Without a Trace』(以下『WAT』)の監督にも挑戦。感性豊かな元舞台俳優に聞いた。

映画で大成功を収められたのに、LAで制作されるテレビシリーズ出演を決心されたのは?

ジャン・バプティースト(以下JB):子供は落ち着いた生活ができるし、私は仕事ができるので一石二鳥。『WAT』は、死体から始まらないこと、犯人捜査が趣旨ではないのが特徴。ほかの犯罪捜査ドラマと違って、「ハッピーエンドの可能性=微かでも希望がある」ことと、捜査過程で失踪者の生きざまを垣間見る人間ドラマという点が、気に入りました。

エログロが出て来ないので安心して観られます。

JB:女性の胸は御法度で、首が吹っ飛んだりするのは良いって、どういう基準なのかしら?ほかの番組では最近、ますますエスカレートしてますね。

捜査官の私生活も見え隠れするのが好きなのに、シーズン6はサマンサの妊娠だけでしたね?

JB:先シーズン、キャストが薄っぺらになってしまったので、肉付けしてほしいです。犯罪捜査ドラマは1話完結型と見なされるので、私的な伏線を盛り込むと、売りづらくなるのかしら? 好奇心をくすぐる人間が捜査するから面白いんですよね? 私の役も始まった当初は、次々と苦い体験をしました。手術も体験したり、家族も時々出てきたのですが…。

『Wanted』という逸話を監督されたと伺いました。

JB:舞台出身なので、チームの一員として、創作に参加するのが基本姿勢でした。未知の世界でしたが、夏に自作を監督して練習しました。後から編集できない舞台と違って、テレビは編集で完璧にするので、カットの選択等、最終決定権を行使する醍醐味を味わいました。

NY訛りの方言指導を受けられたのですか?

JB:独学です。米語、特にNY訛りはとても楽しい挑戦です。ゲストがNY出身だと、微妙な違いが聞き取れるようになって、気が引き締まるの(笑)。

役者になろうと思われたのは?

JB:法学科に進むつもりでしたが、バンドで1年ツアーして、ロンドンの小劇場で何度か芝居をして決心。王立演劇アカデミーを受けたら、通ってしまって。入ってから、競争率に気付きました(笑)。卒業1カ月前に役が付いて、順調にここまで。

将来は、どんな役を?

JB:舞台ではおどけた役が多かったのに、10年余りドラマ漬け。コメディーに戻れないかしら? それから、悪魔の申し子みたいな役をしたいです。

お好きな番組は?

JB:『Weeds』と『Mad Men』が好きです。友達がゲスト出演したので、久々に『ER』を観ました。15年で随分変わりましたが、テレビを変えた画期的作品です。医療用語が解らないのに、視聴者は諦めなかったでしょ? 基準を高くして、「理解したいなら、勉強しなさい!」と、視聴者に付いて来るかどうかを任せるドラマが好きです。

[業界コボレ話]
Samantha Who?』のセットに招待された。日本人3人、和気あいあいの取材。日本ではグループインタビューの場合、誰が何を聞くか、更に質問する順番まで決めるそうだ。
 
世界中から記者が集まるジャンケットは、1グループに20人ほど詰め込まれるので、生き馬の目を抜くようなインタビューになる。気弱な人向きではない。タレントの話の腰を折るなど朝飯前。面の皮の厚い人の勝ちだ。
 
昨年、オーストラリアの女性が、LA在住の記者数人から「今度、下らない質問したら、主催局に言い付けるぞ!」と脅される現場を目撃した。LA在住の人間はいつでもセット訪問したり、インタビューできる。遠路遥々やって来る人たちに譲るのが筋では?

俳優 ポール・エーデルスタイン

真の芝居好きが集まるシカゴで修業

Paul Adelstine
シカゴ出身。英文科を主席で卒業した後、ジョン・キューザックのNew Crime Productionsで舞台経験を積む。キューザック主演の『The Grifters』で映画デビュー。
 
90年代『Cupid』『ER』『Without a Trace』『Scrubs』などにゲスト出演。2005年『Memoirs of a Geisha』に出演後、『Prison Break』に抜擢された。
 
昨年の話題作『Private Practice』の小児科医役で活躍中。06年、『Gilmore Girls』のパリス役を演じた個性派女優ライザ・ウィールと結婚。

ポール・エーデルスタインとの初対面は『Memoirs of a Geisha』の撮影現場。その後の活躍は目を見張るものがある。『Prison Break』の冷血漢は殺されてしまったが、主演のウェントワース・ミラーに「蘇らせたいキャラクター」と言わしめた。『Private Practice』では、小児科医に変身。女優ライザ・ウィールとの結婚も吉報だ。

私が応援する俳優さん同士が結婚するなんて、感激! 今、公私共、最高潮ですね!

エーデルスタイン(以下A):ライザがよろしくと。ライトハウスのインタビューがとても楽しかったそうです。ストや業界の現状を考えると、仕事にありつけるだけでもありがたいです(笑)。『Prison…』のケラーマンが殺されて、どうしよう? と思っていた矢先、『Private…』の面接が転がり込んで、1週間後には決まりました。
 
小児科医のクーパーは、ケラーマンから180度転換ですね?
A:邪魔者は情け容赦なく消す極悪人でしたが、素顔が見え隠れするケラーマン。視聴者受けなどお構いなしに演じられた楽しい役でした。どの役にも必ず自分との共通点があるものですが、クーパーに近いと悟った点では、冷血漢からの180度転換は貴重な体験と言えます。でも、役作りは結構難しくて…。

シーズン1から最も成長が顕著な役ではないでしょうか?

A:クーパーは、インターネットで出会った得体の知れない女性とデートして、危ない橋を渡っていましたからね。医者という社会的地位と私的行動のギャップが誰よりも大きくて、成長したように見えるのでは?

相手が事務局長シャーロットとは意外でした。

A:人間ドラマが得意な創作者のライムズは、不似合いな人間をくっつけて観察するのが常套手段なので、このコンビになったのでしょう。傷付くのが恐いから、仕事に逃げていたシャーロットとクーパー。殻を破ったらどうなるか楽しみです。

『Grey’s Anatomy’s』は、まともに観られないシーンが急に増えて食傷気味ですが、『Private…』はまだ安心です。

A:どうしたら良いか解らない難問に、さまざまな意見や観点を提示して、視聴者に考えてもらうのが趣旨ですから、目を背けるシーンは押さえないとね。

俳優になろう! と思われたのは?

A:小さい頃から音楽や芝居に興味があり、20歳の時にひょんなことからジョン・キューザックの劇団に行ってやみつきに。大学を1年休学して、2本芝居をやりました。芝居で食べて行けるかが不安で、結局、卒業証書を手にしてから、劇団に舞い戻って5年。シカゴでCMや映画の端役をやって、オーディションでLAに来るようになりました。出稼ぎを6年して、LAに越して4年足らずです。

シカゴは芝居を学ぶには、素晴らしい環境と聞いています。

A:NYのような過当競争はないし、LAみたいに狂気の沙汰(笑)ではない。洗練されている上、サークルが小さく温かい環境です。スターになるのが目的ではなく、真の芝居好きが集まって来ます。舞台経験を積みながら、生活したい人には最高ですよ。オススメします。

[業界コボレ話]
オバマ大統領に決まり、「この国は変わるんだ!」ムード。イラク攻撃を弁護できず、里帰りの度に責められて、肩身が狭かった私の喜びは殊更だ。同時に、この国の健全さに新たに感激した。
 
ブッシュ現政権の不始末を批判する映画『W.』を選挙前に公開できるのも健全さの証拠。ブッシュの取り巻き3人(誰かはご想像に任せる)に底知れぬ恐さを覚え、ワシントン総入れ替えの必要性を再確認。
 
ニュースを観ない私は、ティーナ・フェイが茶化して初めて、恐~い副大統領候補を観た。何と、政治風刺劇は、ほとんどがペイリンの発言をそっくりそのまま。候補者や政治家の「地」をお茶の間で見極められるようになったことも、オバマ勝利に繋がったのかも。

脚本家/プロデューサー ジョーザン・マクギボン&サラ・パリオット

1+1=3にも4にもなる
コンビ脚本家/プロデューサー
ジョーザン・マクギボン&サラ・パリオット

Josann McGibbon & Sara Parriott
マクギボンは劇作家を目指し、パリオットは美術を専攻。出会いは出版業界の上下関係だったが、意気投合して2人で脚本を執筆するようになって20年余り。
脚本家コンビの代表作は、『Runaway Bride』『The Favor』『Chicken Little』などで、2007年の夏に放送された、『The Starter Wife』ミニシリーズをUSA局から依頼されてテレビ制作を初体験。バツイチ体験を活かしてユーモアを盛り込む親友コンビは、引き続きシリーズの執筆/制作で活躍中。

『The Starter Wife』ミニシリーズから継続して、シリーズの脚本から編集までこなすジョーザン・マクギボンとサラ・パリオット。コンビを組んで20年余りのベテランは、自らのバツイチ体験を基に、離婚と再出発を遮る厳しい現実を描く。

シリーズは別れた夫といかに子育てするかが中心ですか?

マクギボン(以下M):第1話から、ジェイダンにブラックベリーを持たせるかどうかでモリーとケニーが衝突したのが良い例。子育ては女の仕事だと一任されていたのに、別れた途端、目の届かない所で男が子育てに参加することになる(笑)。夫婦だった時以上に、親として団結しないといけなくなる。永遠に見えない糸でつながっている厳しい現実を描きたかったの。
女性も好きな仕事で自立できる時代。バツイチとしては結婚=荷物を背負うように思います。
パリオット(以下P):女性が出世すると特に大変よね。モリーの成功を受け止められる男性がいるのか? いたとして、もし大黒柱になったら、恋や結婚にどのような影響が出るのかが課題だと思うの。今シーズンは、出世の荒波をモリーがどう乗り切るかを描きました。自立できたら、男は不要!?(笑)。

離婚は新しい自分を発見する好機だと思いますが…

P:白紙に戻すのが新たな旅路の第1歩。長年の癖や習慣に逆らって、未知の世界に踏み出すわけだから、自制力がないとすぐに元の木阿弥。意識して行動するのが鍵かしら?
M:新たな旅路に、恋は逃げ道か寄り道でしかないと、モリーはサムとの体験から学んだので、まず「男断ち」します。

お2人は制作も担当しておられるのですね?

M:最初はキャスティングが面白くて、やみつきになるかと思ったけど、待ち時間も長いし、1日中籠っているのも退屈だし、もう卒業! 今は、音楽と映像を合わせるのが楽しくて。
P:何から何までやっていますが、編集は撮影後の創作過程なので、力が入っちゃう。脚本を書いた時に気が付かなかったところを修正できるし。

脚本家/放送作家になられた動機は?

M:劇作家を目指していましたが、UCLAの英文科在学中に、切り替えました。出版、広告業界にもいましたが、「書く」ことが好きだったので、サラと親友になってから、この仕事をするようになりました。
P:私は美術学校卒で、本のイラストから始めて、随筆を書くように。次は何をしようかな?と考えていたら、テレビ業界が長い兄が、脚本を書けと色々と指導してくれました。技術のみでなく、諸々を教えてくれたし、何度か放送作家として雇ってくれました。私の書いた本の映画化権を売る際に、エージェントを見つけました。

共作って、楽しそうですね?

M:良いことも、悪いことも、2人で分かち合えるから楽よ!
P:もう20年余り共作しています。絶対に味方になってくれる人がいると、安心して仕事ができるし、問題が起きたら慰めたり、励まし合ったりできるし。何かを生み出す時は、1人より2人の方が絶対に良いわ! 1+1が3にも4にもなるもの。

[業界コボレ話]
根強い『ビバヒル』ファンはLAにもいて、オススメ新番組に『90210』が入っていないと指摘された。今秋は新番組が少なく、プレミアと2話まで観たが、主人公に抜擢されたシェネイ・グライムズとジェシカ・ストループが良い。特にストループは有望株だと思うが、同局の『Gossip Girl』同様、ティーン向けの夜メロには興味がないので、『90210』は放棄した。中学生がお手本にしていると聞いたが、良いのかな…。
 
『Privileged』の方がずっと爽やかで、楽しい。メーガンがお茶目で可愛いし、富と権力に惑わされない芯の強さが良い。悪いことをすれば、必ずツケが回って来るという内容は、大人にしか受けないのか? ロマンチック・コメディーを楽しみにしているのは私だけ?

プロデューサー/俳優 グレッグ・エヴィガン

アイドルを卒業して制作を目指す

Greg Evigan
両親共に、音楽界のプロ。幼い頃から歌って踊れる芸人になる訓練を受けた。高校卒業直後にブロードウェイで『Grease』等の主役を演じ、運試しにハリウッドに。プロデューサーのノーマン・リアーに見込まれ、『A Year at the Top』でティーンアイドルに。『B.J. & the Bear』『My Two Dads』等、13本のシリーズに出演。
最近は『Reba』『Desperate Housewives」等にゲスト出演。SciFi局の『Phantom Racer』を企画、制作、主演の予定。

80年代後半、『My Two Dads』で毎週グレッグ・エヴィガンを観ていたが、最近はゲスト出演でしか見かけなくなった。TV映画のプロモーションに駆け付けたエヴィガンは、能ある鷹は爪を隠すを地で行く、ダンディーで気さくな人だった。

『Desperate Housewives』のイーディーの元夫がレギュラーにならなくて残念無念!

エヴィガン(以下E):パーティー中に電話があり、夜台詞がファックスされてきて、翌日撮影して終わりでした。人気番組なので、出番が増えたら良いなと思ったのですが…(笑)。

テレビ映画は久しぶりでは?

E:配役担当者から、出演依頼がありました。以前仕事をしたプロデューサーなので、トントン拍子に決まりました。西部劇は初めてだし、たまには悪役も面白いし! 続編でトムの過去を探ろうという話があるので、肉付けしたいですね。

17歳から『Jesus Christ Superstar』や『Grease』の主役を務められましたが、ミュージカルを目指して?

E:母がピアニストで、子供の頃からクラシックを叩き込まれました。音楽で食べて行こう!と決めたわけではなく、友達に誘われて『Jesus…』のオーディションを受けました。主役に抜擢されて運命激変! テレビ界でも機会があれば作詞作曲したり、主題歌を歌ったりしてます。

テレビ界に移られたのは?

E:『Grease』の契約が切れた時点で、ハリウッドに運試しに。『A Year at the Top』に抜擢されて、やみつきになって居着いたと言う方が正確かな?(笑)。

ティーン・アイドルとしてデビューされたとか?『

E:『A Year…』は、音楽と映像がうまく調和した作品でした。放送に漕ぎ着けるまでが大変でしたが、若かったし、暢気な性格なのでビーチを満喫しました(笑)。休み中にエージェントを見つけて喜んだのも束の間。仕事にあぶれて、故郷に帰ろうと荷造りまでしました。これで最後と言われて行ったオーディションで、プロデューサーが即決してくれたのが『B.J. & the Bear』。チンパンジー相手の役でしたが(笑)。

My Two Dads』は、2人の独身男が娘かもしれない女の子を育てる物語でしたが、今ならDNA判定ができるから、企画は通りませんね?

E:正にその逸話がありました。マイケルもジョーイも情が移っているので、結果を見ずに父親役を続けようと決めます。当時スタッフライターだったチャック・ローリーの『Two and a Half Men』は、同一企画!

今も作詞作曲を?

E:脚本を書くようになりました。SciFi局で放送される『Phantom Racer』は、脚本から主演まで自作自演の処女作になります。

最近、映画人がテレビに出るようになりましたね?

E:集客力のある映画スターの数が減ったからでしょう。興行収入を見込めないと映画を作らないので、ベテランや大物でも独立系映画に出るしかありません。最近、独立系はただ働き同然なので、ギャラが良く、知名度が高いと制作にも発言権があり、自由に秀作を作れるテレビに流れて来るのでしょう。

[業界コボレ話]
デジタル時代の若者は実に排他的!里帰り便の隣りの席の少年は完全に自分の世界に浸り、時々、周囲から音が聞こえ、同じ時空に他人が存在しているとは認めない。お先真っ暗!
 
LAに戻る直前に、子供にストリートダンスを教える傍ら、ウエイトレスで生計を立てる23歳の慧未(えみ)さんに会った。色々と無理な注文をした私たちだが、接客態度は満点以上。人の目もまともに見ないデジタル・オタクに爪の垢を煎じて飲ませたい。好きなことを極めている人、生きることが楽しくて仕方がない人は、輝くものだ。
 
2年連続エミー賞を受賞した『30 Rock』のティーナ・フェイではないが、こんな素敵なお嬢さんを育てたお母さんの顔が見たい!と思った。

制作総指揮 グレッグ・バーランティ

人間の悲しい性(さが)を描く地味な作品

Greg Berlanti
『Dawson’s Creek』のライターとして業界入り。弱冠30歳でお抱えプロデューサーとなり、WBの看板番組『Everwood』(2002-06)を創作、『Jack & Bobby』(04-05)で評論家の注目を浴びた。
06年Touchstone Televisionに移籍、ABCの番組のコンサルタントを務めたが、『Eli Stone』をプロデューサーのグーゲンハイムと共作、今夏から本作のみに従事。
10年公開予定の映画『Green Lantern』を執筆、監督もする予定。

業界の「希望の星」として8年前にデビューしたグレッグ・バーランティは、低視聴率のABCの番組のコンサルタントに駆り出されて、軌道修正に成功。『Brothers & Sisters(B&S)』でエミー賞を受賞したサリー・フィールドから名指しで感謝されたほど。今や押しも押されもせぬプロデューサーは、最新のオリジナル作『Eli Stone』で生きる意味を問いかける。
 
Photo: © ABC/Karen Neal

3年前にインタビュー第1号になっていただきましたが、その後ますますのご活躍ですね?

バーランティ(以下B):WB局の『Everwood』が打ち切られて、ABCに移りました。上司とライターに恵まれて、楽しく働いています。『B&S』は3週間の約束でしたが解放してもらえず、『Dirty Sexy Money』も任され、新番組『Eli Stone』の3本を股に掛けて大忙し!

3本同時!? 神業ですね!

B:自作以外は、軌道に乗るまでの雇われ社長みたいなもの。新番組創作過程が好きなので、当分『Eli Stone』に専念します。

お抱えになると、1年に何本という契約ですか?

B:ほかに何も関わっていなければ、年1本が義務です。自分の番組ではないけれど、手伝っている場合は、創作の義務はありませんが、ついつい手が出てしまって(笑)。

でも、数年経つと新番組を創作したくなるのが放送作家では?

B:最後まで見届けるんだ! という人もいますが、私はある程度土台が固まった時点で落ち着かなくなりますね。『The Sopranos』のデビッド・チェースはあれ以来何も書いていません。1本だけ秀作を書くというのも手だと思いますが、アイデアがどんどん湧いてくるので、フタをしておけない、映像にして発表したくなるクチ(笑)。

『Eli Stone』は?

B:人生の岐路に立った30代の青年を描きたかったのと、昔、予言者の再来を映画の企画として練ったことがあったので、2つの要素を合わせました。この国では、生死は宗教的討論になりがちですが、死に直面して初めて生きることを学ぶ人間の悲しい性、科学では説明のつかない体験から何を学ぶかを、宗教とは無関係に描きたいと思いました。人生の意味を紐解く奥深い作品を目指しています。

シーズン1は13話でしたが、シーズン2は?

B:同じく13話です。6月に書き始めて、7月中旬から撮影を開始しました。シーズン1はイーライの幻覚症状が仕事にどのような影響を及ぼすかと、周囲の人間の反応を描きました。最終話で自分の未来像を見たイーライは、やっと予言者だと認めたので、今シーズンはさらに広がる波紋を描く予定です。

「灯台」を探している時に、巨匠ノーマン・リアーとの出逢いがあったそうですね?

B:『Jack & Bobby』のファンだと電話をもらって以来、航路を照らし出してくださいます。

私は『Everwood』『Jack & Bobby』と『Eli Stone』から学んだことを、灯台にさせていただいています。

B:私の作品は、圧倒的人気を誇る番組ではありません。地味なので、ファンは少ないと思いますが、そう言っていただくとうれしいです。励みになります。

[業界コボレ話]
エミー賞授賞式会場に到着し、スターを探してレッドカーペット外側を歩いていたら、守衛に追い立てられ劇場に押し込まれて、一巻の終わり! えーっ!?
 
円形舞台と番組ごとの座席が廃止され、私の席から誰も見えない。「録画で観るの?」と諦めの境地。とほほ。
 
ただし予想が当たったし、外れても、私が入れ込んでいた作品や俳優が受賞したので、大満足。例年、エミー賞とTCA賞は大きく異なるが、今年はいずれの団体も『Mad Men』『30 Rock』『John Adams』を秀作と認めた。
 
主演女優賞受賞のグレン・クローズ。「デキル女」が主人公になれることを実証した他の候補者にも敬意を表して、私の「デキル女全盛期説」を証明! 熟女主演の番組ブームの続行を祈って。

俳優/監督/プロデューサー トニー・ダウ

「これだ!」と直感すると信じて

Tony Dow
西部劇のスタントを母に、建築家を父に持つ生粋のハリウッドっ子。飛び込みの子供チャンピオンだった。
 
12歳で『Leave It to Beaver』に抜擢され、1957~63年まで兄ウォリー役を演じる。『My Three Sons』『Dr. Kildare』など数々のゲスト出演後、70年代には映画/テレビ制作を学び、脚本執筆や監督、プロデューサー、映像効果などで活躍。2003年、映画『Dickie Roberts: Former Child Star』に出演したほか、土地開発や彫刻家としても活躍。

昨年、制作50周年を迎えたテレビの古典『Leave It to Beaver』。1963年の制作完了以来、間断なく放映されるこの番組に、弱冠12歳で抜擢されたトニー・ダウ。ビーバーちゃんのやさしいお兄さんウォリーを演じて、50年代のアイドル的存在だったダウに尋ねた。

俳優志望だったのですか?

ダウ(以下D):通っていた水泳教室の監視員に頼まれて、ある番組の親子のオーディションを受けました。泳ぐシーンが多かったので、私だけ受かってしまいました。数本パイロットに出た後、降って湧いた『Leave It to Beaver』。素人っぽさが受けたのか抜擢されました(笑)。

母親役のバーバラ・ビリンスリーは躾もしてくれたとか?

D:親から教えてもらえなかったことや大人との接し方を、バーバラとヒュー(父親役)から学びました。バーバラとは今でも行き来する仲です。ビーバー役のジェリーとも、ずっと一緒に仕事をしてきました。

将来の計画がありましたか?

D:子役から俳優になるのがこれほど大変だとは思いませんでした。経験を積むにつれて、監督の仕事に興味が湧き、「創造力を活かせる仕事をしたい!」と思いました。「これだ!」と直感すると信じて、この歳に(笑)。テレビの監督はCFはやらないとか、ドラマとコメディーの線を越えないなど、杓子定規な考えですが、創造力を活かせるのなら何でも来い! 芝居、CF、『Coach』のような伝統的コメディー、ドラメディー、ドラマやドキュメンタリー、何でも手がけました。

お気に入りのフォーマットは?

D:時間をかけて制作できる連続ドラマが性に合います。脚本家やプロダクション・デザイナーと相談したり、カメラマンと構図を決めたり、各分野の担当者と番組作りができて楽しいので。30分のコメディーは脚本家が主役で、急かされて場面の処理で終わる感じです(笑)。

躁鬱病と闘うビデオ日誌を発表されたそうですが?

D:隠してもバレますから、躁鬱病と診断されたと公言しています。昔は精神的病いは人格の問題とか、気持ち次第で治ると誤解されていました。親は子供が怠けるための言い訳に使っていると思いがち。ビデオを観て誤解が解ければ幸いです。

芸能界はこの50年間にどう変わりましたか?

D:技術の進歩で洗練されましたが、内容は使い回しが多く、今ひとつ。コンテンツに演技力とテクノロジーが乗っかれば最高ですが、まだテクノロジーに振り回されている感じかな?

次期プロジェクトは?

D:不本意ながら、定年退職しました(笑)。業界にどっぷり浸かっていれば、友達の輪が広がりますが、年に4~5本制作ではそれほど広がりません。人気作家アニータ・シュリーヴの『The Last Time They Met』の映画化を考えていますが、今はサンタモニカのマンション建設の仕事を始めたところ。完成するまで、建設業に忙しくなります。

[業界コボレ話]
Disney Channelのミュージカル、『Camp Rock』のプレミア試写会兼インタビューにニューヨークまで出かけた。5月にオーランドで会ったジョナス・ブラザーズは、マイリー・サイラスの後釜を狙うポップロック・バンド。
卒倒する女の子が出たり、マンハッタンの交通渋滞を引き起こすほどの大騒ぎになったが、3兄弟はまだ純朴で熱狂ぶりが信じられない様子だった。
末っ子ニック(15歳)はオーランドの時より発言も多く、意外にビジネスに長けているよう。長男ケヴィン(20)はファンサービスに徹し、カリスマ性を見込まれ主役に抜擢されたジョー(18)は顔に似合わずコメディアン志望!
秋から始まるシリーズ『JONAS』が楽しみな、今をときめく3兄弟である。

衣装デザイナー キャサリン・ジェーン・ブライアント

芸者に夢中だった子供時代

Katherine Jane Bryant
テネシー州出身。幼い頃からファッションに興味を示し、8歳でサンドレスを縫製。ジョージア州立大学で美術、応用美術大学でファッション史を専攻し、主席で卒業後パリでも勉強。ニューヨークでは、ジョン・シェアーに弟子入りしてデザインを学ぶ。
90年代よりCFや映画を数々手がけ、LAに本拠地を移したが、テレビ『Big Apple』でNYに逆戻り。2004~06年に手がけた『Deadwood』でエミー賞受賞。現在『Mad Men』の衣装デザイナーとして活躍中。

『Mad Men』で、60年代ファッションを再現するキャサリン・ジェーン・ブライアント。『Deadwood』でヴィクトリア朝時代を再現しつつ、キャストの個性を引き出し、エミー賞を獲得。売れっ子デザイナーのブライアントにデザイン工程や芸能界を選んだ理由を尋ねた。

『Mad Men』の仕事はどういった経緯で?

ブライアント(以下B):シリーズ化が決まった時、パイロットの監督、アラン・テイラーから、創作者マシュー・ワイナーに推薦していただきました。

デザイナーの責任範囲は?

B:番組のカラーを決める責任者。主役から背景まで、すべてデザインし、衣装部主任がどの縫子に任せるか、ヴィンテージ購入か、レンタルかを決めます。エキストラ100人余りは、要点のみ伝えて部下に任せ、衣装合わせの写真を見て修正します。私は主役担当ですが、群像劇は出演者が多いので、微妙なニュアンスを伝えるのにひと苦労。

時代劇では、「歴史に忠実に」がモットーですか?

B:60年代の世界に視聴者を引き込むのに、衣装が当時と異なるわけにはいきません。とはいえ、現代人のフィルターがかかるし、セットデザイナーに「○色の衣装が欲しい」と言われると、要求を飲まなければなりませんから、常に歴史に忠実とは言えません。

女性のファッションは、随分変わりましたね?

B:ストッキングを履いてガードルで腰を細く、胸が前に突き出すように円錐形のブラを着けていました。円錐の形状は第2次世界大戦時の戦闘機の機首を真似たもの。ハリウッドのセックスシンボル、ジェーン・マンスフィールドやマリリン・モンローがぴったりしたセーターを着て人気爆発。

「デキル女」など、誰も想像しなかった時代ですね?

B:女性は観賞の対象でしかなかった頃。秘書ジョーンのように体型を活かして出世する時代だったので、タイトスカートや薄手の生地のドレスが主流。

デザインの工程は?

B:脚本を読み返す度に湧いてくるイメージを丁寧に記録して、図書館やWestern Costume社の資料室を使ってリサーチ。スケッチかコラージュで各キャラクターを描写し、色パレットを配分します。

8歳の頃から、手製の服を着ておられるそうですが、今でも?

B:最近は忙しくてそれどころでは。小さい頃は、アジア人女性が世界一キレイ! と憧れ、夢中で描いたのが芸者のスケッチばかり! 祖父は大恐慌の最中にソックス工場を作り、祖母は母の衣類を縫い、母も私たちの服を縫ってくれました。ミシンは子守りのお姉さんに教わりました。

芸能界と結び付いたのは?

B:パーティーで衣装デザイナーに会って「これだ!」と。役柄や過去、現在の気持ちを衣類で表現するのは奥が深いと思いました。時代劇は、専攻のファッション史が役立つ願ってもない仕事。でも、この業界はジプシー生活。時間は不規則、プロジェクトが終わったら仕事を探して流浪の旅に出るので、安定を求める人には向かないかも…。私はそこが大好き!(笑)

[業界コボレ話]
U-verseのキャンペーンで、主要ケーブル局が入るように。10月まで月39ドルと割安で、7月からケーブル局の新シーズンが観られるが、当座、再放送権を購入した地上波番組を観ている。
昔大好きだった番組の中で、最近、価値を再確認した『Providence』。LAで整形外科医として華やかな生活を送っていたシドニー・ハンセン(メリーナ・カナカレデス)が故郷プロビデンスに戻り、一家をまとめるべく大奮闘。年配の男性評論家に「甘ったるい」と言わせた本作は、リアルが売りの昨今のドラマに比べると、往年の家族ドラマっぽい。仕事に生きる姉と子育てに奮闘する妹の関係は、笑えて、ホロリとする「癒し」だ。FitTVのヨガ教室が入らなくなった代償なのか?

俳優 ミケーラ・コンリン

逃げ道がないことが活力に

Michaela Conlin
ペンシルベニア州出身。中国系とアイルランド系アメリカ人のハーフ。6歳から舞台に立ち、ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部で演劇を専攻。卒業後、ケーブル局のドキュメンタリー『The It Factor』に俳優の卵として出演。2001年、LAに本拠地を移し、『Law & Order』『The Division』『J.A.G.』等のゲスト出演を経て、『MDs』や『The DA』でレギュラー役を獲得。05年より『Bones』のアンジェラ役で活躍中の成長株。

170センチの長身もさることながら、アジア系には珍しい存在感のあるミケーラ・コンリン。『Bones』のアンジェラに注目する評論家も少なくない。舞台で培った演技力を持ってしても、LAが恐かったと告白するコンリンの芸能生活を聞いた。

お忙しい中、時間を割いていただいて…。

コンリン(以下C):スト中はヒマだったから、憧れの日本に行ってたの! 東京はニューヨークみたいだけど、治安が良いのね。レストランにバッグを置き忘れて、3時間ほどして戻ったのに、保管してくれていて、感激! 日本が大好きだから、日本語の雑誌と聞いて飛び付いたの。

アンジェラはブレナン博士の親友という設定ですが、母親みたいでは?

C:ブレナンは理性、アンジェラは心で動くので、陰陽かな? お互いに学ぶことがいっぱい。2人で1人前みたいな…(笑)。

パイロットの台本には、どう描かれていましたか?

C:3次元のコンピューター映像で犯行手口を再現する方法を編み出した「科学者の中の唯一のアーティスト」で、心理学をかじった毛色の違う法医学研究所員。「生きる」ことに好奇心旺盛、自由奔放な女。空港の係員に無視され、ブラウスをはだけて「ちょっと! 聞いてるの?」と、居直るシーンがオーディションだったの。局のお偉方の前でよ!(笑)

職場恋愛の末、ホッジンスと結婚するのかと思いましたが…。

C:意外な組み合わせの代表選手だから、前途多難ね。荒波を乗り越えられるかどうか…。私としてはくっついてほしいわ。

将来はどんな役をやりたいですか?

C:映画『Broadcast News』のジェーン、『Working Girl』のテスのような、底力のある女性が好き。出世も恋も家庭も手に入れたいけど、そうは問屋が卸さない的コメディーで、哀愁の漂ったものが良いわ。

子供の頃から舞台に立っておられたようですね?

C:芝居以外、何も興味が湧かなくて。6歳で「これだ!」と決めた親泣かせの子だったの。

住み慣れたニューヨークを離れたのは?

C:LAが恐かったけど、居心地の良い古巣にいても発展がないと思って。今だから言えるけど、LAではシリーズにレギュラー出演できるって、宝くじに当たった様なものなのね!

これまで1番苦労した役は?

C:ジェームス・ダフの『The DA』で演じた打算的な悪女。自分と違う性格を演じるのは面白いけど、心身共に疲れて大変だった。反対に、アンジェラは地でいける部分も多いし、人間として尊敬できる。でも、慣れっ子になると、成長のない薄っぺらな役になりがちだから、別の苦労があるの。

アジア系俳優のパイオニアとして、日本から来た俳優にひと言。

C:『Grey’s Anatomy』の貢献が大きいと思うわ。サンドラ・オーが演じる役は、固定観念になっていたアジア系の役じゃないもの。「役者をしたい!」と思った理由を忘れず、寄り道せずに、芸を磨くことかしら? 私は逃げ道がなかったことが、逆に活力になったと思うわ。

[業界コボレ話]
噂で聞いていたWe局の『Bridezillas』を観た。結婚式に異常な執念を燃やし、「完璧」を求める余り、新婦がゴジラに変身するリアリティー番組。
今も開いた口が塞がらない。式の準備は確かにストレス一杯だが、あそこまで醜い姿を曝け出して恥ずかしくないのか? あれだけ罵倒され、顎でこき使われ、新婦が怪獣になっても式を挙げる新郎の神経も疑う。私が新郎なら、本性見たり! と逃げ出している。
新郎が無関心なのは、式は新婦のものだから口出しできないから? どうせ押し切られると諦めているから?
人生の一大事を、穏やかに相談できない相手と末永く続くのだろうか? この番組で挙式した夫婦の何割が離婚したか、そんな統計…出すわけないか?