俳優 カイル・ハワード

高校で親を説き伏せ、進路をまっしぐら

Kyle Howard
コロラド州ラブランド出身。中学生で芝居に魅せられ、『Sound of Music』『The Unsinkable Molly Brown』などの舞台に立つ。新聞配達をして車を買い、休学してLAでオーディションのハシゴをした結果、映画『House Arrest』『Skeltons』に出演。TVデビューは『Chicago Hope』で、『Grosse Pointe』『Related」などで助演、『CSI』『Friends』『Nip/Tuck』のゲスト出演を経て、2006年より『My Boys』で活躍中。

『My Boys』で、「ワケあり」ボビーを演じるカイル・ハワード。一旦は断った役の意外な展開、芸能界入りの経緯を聞いた。やんちゃな遊び仲間的雰囲気の裏に、彼の信念が読み取れた。

おてんば娘のPJが仲間を犠牲にせず、恋愛できるか? がテーマの珍しい作品ですね?

ハワード(以下H):彼女は何度か恋人候補を連れて来ましたが、すんなりと仲間になれそうな男、尻尾を巻いて逃げ出した男など、色々ですね。確かに、恋人の兄弟に品定めされてるようなもの。それに、仲間と言ってるけれど、「PJが好きな奴がいるのでは?」と勘ぐるだろうし。創作者のベッツイー・トーマスの私的体験を元に書かれていて、登場人物は実在の友人。プロのコメディアンも出ているので、アドリブも多いし、台本を書く手伝いもしています。

ボビーも実在の人物ですか?

H:最初はトーマスの旦那のことかな? と思いましたが、段々違いが見えてきました。ボビーは完全に架空の人物です。

オーディションを受けて獲得した役ですか?

H:以前出演した『Run of the House』を手がけたトーマスから台本が送られて来ました。相手役タイプではないと断ったけれど、PJ役のスパイロと、息が合うかどうかだけのオーディションでした。決まってから、すぐにポーカー仲間に成り下がるから大丈夫と言われて(笑)。

ボビーがシカゴの名門の御曹司だったとは仰天しました!

H:僕も台本を読むまで知らなかったんですよ(笑)。最初から、秘密があるとだけ聞かされていました。ゲイ? フランス人?など、色々考えましたが、まさか御曹司とは!? サラリーマン軍団に、お金に困らない人間が入ると、力関係が微妙に変わりますから、今シーズンが楽しみ。

役者になろうと決めたのは?

H:中学2年生で、陸上か芝居かを迫られて。舞台に立ってからは、スポーツには見向きもしなくなりました。ミュージカルが多かったけど、歌唱力は若さで補ってね(笑)。

LAに越して来たのは?

H:オーディションのハシゴをして運試ししたいと母親を説き伏せたのが高校2年生。僕は休学、母は休職して、2人で乗り込みました。母には足を向けて寝られません。コーラのCFが初仕事で、2週間後には映画『House Arrest』に出演しました。映画はポシャりましたが、コネなしで勝ち取ったので、「夢を追いかける価値あり!」と、進路が固まった瞬間でした。一旦コロラドに戻り、18歳で本拠地をLAに移しました。

これまで最大のチャレンジは?

H:『Numb3rs』で爆弾魔の囚人を演じた時かな? いつものお茶目な役とは正反対の極悪人で、役作りに苦労しました。

いずれは放送作家を目指しておられるのですか?

H:親友と脚本を書いて、ABC Familyに企画を出しました。半年ほど前には、初めて短編を監督しました。創作や監督などに興味があります。

日本人俳優にアドバイスは?

H:米国まで来たということは、最初の1歩は踏み出しています。考えているだけでなく、行動に移してください。夢は大きいほど良いと思います。

[業界コボレ話]
テレビ芸術科学アカデミー(ATAS)で、テレビ番組の“お母さん”新旧11人を讃えるインタビューが開催された。
『ビーバーちゃん』のジューン・クリーバーは理想の母として、いまだに引き合いに出されるほど。バーバラ・ビリンズリーをひと目拝もうと参加したが、体調を崩して唯一欠席だった。
最後にビーバー役ジェリー・マザース、兄役のトニー・ダウ、『名犬ラッシー』で愛くるしいティミーを演じたジョン・プロヴォストなどが登場し、思い出話に花が咲いた。この時代の典型的アメリカの家庭に憧れたからこそ、今日の私があるので、感慨もひとしお。
『Two & a Half Men』や『Cold Case』のような、箸にも棒にもかからない母親の急増は、現実の反映か?

俳優 ジェイク・ウェバー

マルコヴィッチの名演技に魅せられて

Jake Weber
15歳までロンドンで育ったが、養子としてサンフランシスコに移住。バーモント州のMiddlebury Collegeで英文学と政治学専攻。ジュリアード学院で演劇を勉強し、舞台、映画『Meet Joe Black』『Dawn of the Dead』、テレビ『American Gothic』『Law & Order:Criminal Intent』など、数々のゲスト出演を経て、HBO『The Mind of the Married Man』にレギュラー出演した。現在は、『Medium』で主人公アリソンの夫、ジョー役で活躍中。

『Medium』で、アリソンの追体験や犯行現場からの呼び出しで叩き起こされたり、仕事を放り出して子供を迎えに行ったり、振り回されっぱなしの夫を演じるジェイク・ウェバー。理詰めのエンジニアが、あそこまで鷹揚で忍耐強く妻を支えられる謎を解き明かしてもらった。

今シーズンは夫婦とも失業中で、ジョーは「Mr. Mom」になってしまいましたね?

ウェバー(以下W):創作者グレン・ゴードン・キャロンは霊能者とエンジニアという、相容れない世界に住む夫婦に着想を得て本作を書き、いつも「これはラブストーリーだ!」って言い張っています(笑)。性別で役割を決めるのではなく、平等な夫婦。できる方が、家事や育児をやれば良いのでは?

おまけに、再就職できない、ローン滞納、親に借金など、これまでの幻想の世界とは趣が違いますね? アリソンは正義か報酬かの二者択一を迫られたし…。

W:アリソンの才能はさておき、キャロンは普通の主婦が遭遇するありとあらゆる問題を詰め込んで、リアルにしようと試みているようです。「生きる」現実の中で、夫婦の絆を試すのが意図ですから。

先シーズン、彼女が検事局で何をしているか暴かれ、デュボア家の土台が崩れて以来ですね。

W:社会では尋常でない言動を繰り返す主人公の私生活を覗くという語り口です。超能力を持つ主婦は、普通の家庭生活ができるのか、特殊能力は恵みか負担かを探ります。ジョーも乱射事件に巻き込まれ、トラウマを家庭に持ち帰ると、どんな波紋を投ずるかが描かれました。でも、必ず「希望の光」が差しているのが、キャロンの世界。

キャロンは天才ですね?

W:最近、離婚したにも関わらず、夫婦の理想を描いていますよね? 離婚したからこそ…かな? 『Moonlighting』のファンだったので、彼と仕事ができるのは役者冥利に尽きます。

今、テレビで理想の夫婦としてお手本にできるのは、『Friday Night Lights』のテイラー夫妻と、デュボア夫妻だけですね?

W:単細胞の集まりみたいな番組が多いから。複雑なジョー役を演じるのは、楽しいです。

いつ頃から役者を目指されたのですか?

W:大学時代、ナンパが目的で演劇の講座を選択しましたが、サム・シェパード作『True West』でジョン・マルコヴィッチの名演技を見た時に、役者になりたいと思いました。ジュリアードに願書を出したら、なぜか通ってしまって…(笑)。

何本かテレビ出演されましたが、本作はもう4年目?

W:毎回、仲間、環境、役を変えるのが楽しくて、役者になったのに、ジョーを演じてもう4年…。『Groundhog Day』の主人公になったような気分です。舞台は期間が限定されたプロジェクトですが、テレビのレギュラー出演は就職みたいで、なかなか慣れませんでした。扶養家族がいても、イタリアの陶器を気兼ねなく買える金銭的余裕はうれしいですが(笑)。

日本人俳優志望者にひと言お願いします。

W:業界に入るのは厳しいと思いますが、方程式も王道もありません。失敗の繰り返しかな?

[業界コボレ話]
来年2月からアナログ放送はアンテナのみでは使用できなくなる。デジタル化の犠牲となった商売を挙げるときりがないが、書籍の小売りはシーソーゲームのようで、予測がつかない。
Amazon.comやHalf.comの台頭で古本屋が姿を消し、古本屋巡りが趣味だった私もオンライン購入するようになった。しかし送料の値上がりで、1冊最低でも4ドル。先日、久々に近所の叩き売り店に行くと、何と1ドル均一に変身! 「1ドルでも結構!」と思う手垢の付いた本や図書館のお古が大多数で、近刊は少ない。それでもうれしい。こんな店が増えたら、ドットコムの死活問題になるのか? 大型書店はコーヒーを売るための図書館になってしまったが、倒産しないのはなぜ?

創作者/プロデューサー ドナルド・トッド

善悪の岐路に立った瞬間の二者択一

Donald Todd
自他共に認めるテレビっ子。大学で演劇を専攻したが、ブロードウェイはご免と、放送作家を目指してLAに。業界の使いっ走り、広報など、さまざまな地位を経て、『Twilight Zone』のリメイクを執筆して以来、『Alf』『Dave’s World』『Life As We Know It』など、主にコメディー作家として活躍。27歳で、ショーランナーとしても抜擢され、制作現場の経験を積む。『Ugly Betty』でWGA最優秀新番組賞を獲得後、昨秋より『Samantha Who?』で活躍中。

コメディーの古典『The Dick Van Dyke Show』に憧れて放送作家を目指したが、現実は大違いと笑うドナルド・トッド。ABCのお抱えプロデューサーとして発表したパイロットがポシャった体験を活かして、『Samantha Who?』を企画して大成功。苦い体験から得た番組作りの秘訣とは?

創作の経緯は?

トッド(以下T):セシリア・エイハーンの『P.S. I Love You』を読んだABCのお偉方が、番組創作を依頼。企画は通ったものの、エイハーンは放送作家ではないので、3日連続面接をして私に白羽の矢が立ちました。

クリスティーナをイメージして執筆を?

T:テレビ出演は蹴り続けていた喜劇の最高峰なので、キャスティングは無理かと。ですから台本が良いと受けてもらって、筆がスラスラ。セクシー美女なのに庶民的、天使と悪魔を厭味なく演じる類稀なる女優です。

記憶を失い人生を見直すサムですが、趣旨は自分探しですか?

T:白紙に戻ったわけで、何を書き込むか、何色に染めるかは日々の積み重ね次第。新しい人間に生まれ変わるのか? 行き着く先が決まっているから、行動は人となりの表現か? など、哲学的疑問が湧いてきます。テレビの使命は、答えを出すことではありません。特に、台詞に答えを盛り込むのは厳禁!

悲劇がない限り、人間は自分探しの旅には出ないものでは?

T:障壁に正面衝突した衝撃で後ずさりを強いられて、初めて反省するのが人間。人生のレールをまっしぐらに走っている人は、少々のことがあってもいち早く元に戻って旅を続けようとします。サムの場合、脳がショートして「善の回路」につながりましたが、「悪の回路」も残っていて、時々昔の言動が飛び出すので、善悪の岐路に立った瞬間の二者択一が最大の課題。

業界に入られたきっかけは?

T:放送作家が主人公の番組を観て、「楽しそう!」と感激したテレビっ子。暗くなる前に帰宅する主人公に憧れましたが、あれはファンタジーでしたね(笑)。テレビガイド誌の『Family Ties』の放送作家の記事を起爆剤に、大学卒業後LAに直行。使いっ走りで業界に入って書きまくり、エージェントに巡り会い、CBSの『Twilight Zone』のリメイクが初仕事でした。その後、ドラマ1年、コメディーに手を染めて15年です。

今はABCのお抱えですか?

T:放送中の作品傾向を分析して、斬新な企画を出す主義でしたが、立て続けにパイロットがポシャりまして(笑)。ABCの視聴者の性質とヒット作との互換性が大切で、流れに逆らっても無駄と悟りました。本作は、編成上前番組と後番組のスタイルや姿勢と類似していれば、視聴者を引き付けておけると判断。放送にこぎ着けるため、「プロデューサー脳」で考えました。

シリーズ創作を夢見る放送作家にひと言。

T:特に失敗作のテーマや内容、放送局/時間、裏番組等を分析すると良いでしょう。柳の下のドジョウ狙い、私的なこだわりで作品を書くのは無駄。忙しい現代人が「時間を割いても観たい!」と思わせる作品を書いてください。

[業界コボレ話]
秀作を持っているのに、依然として低視聴率に悩むNBCが08~09年のスケジュールを発表。苦肉の策は1年を通じて新番組を発表していくというもの。数年前、FOXが実施したが、半年も経たないうちに放棄した戦術だ。
『Friday Night Lights』や『Lipstick Jungle』の継続、『Monk』が09年夏にも予定されているのはうれしいが、『Medium』がまた日曜日に移動。視聴者を混乱させ、葬り去るつもりなのか?
パイロットを観るまでは何とも言えないが、新番組はどれもパッとしない。『Knight Rider』のリメイク、『クルーソー漂流記』のテレビ化、SF2本、ファンタジー2本、冒険モノ1本。『The Office』のスピンオフに歓喜しているファンはいると思うが、お先真っ暗!?

地上波局の戦略を披露

ストの後始末をどうする?

2月末にWGA(脚本家組合)のストが解決したのに、「私の好きな番組はいつ復帰するの?」とよく聞かれるので、3月中旬より順次始まった地上波局のストの後始末戦略をご紹介しよう。何がどうなったかさっぱり解らず、テレビ離れを決め込んでいた方に、07~08年シーズンの後半を観ていただきたい。最近は各局のHPで放送済み逸話を無料で観られるので、筋を忘れた方は再確認を。

3月中旬から再開されたコメディーは、中年女性の離婚後の生活を面白く描く『The New Adventures of Old Christine』と、昨秋始まったオタクが主役の『The Big Bang Theory』。CBSお得意の1話完結型の犯罪捜査モノ『Cold Case』と『Without a Trace』も再開されたが、最近事件1点張りで、キャストの私生活が描かれないのが残念だ。逆に天才数学者がFBI捜査官の兄に手を貸す、男3人が主役の『Numb3rs』は、益々私生活が盛り込まれるようになった。事件を練り出す方が大変なのかもしれない。私の大好きな『The Unit』の運命は未定。
 
CWでは『Reaper』が3月25日から再開され、シーズン2が決まった『Gossip Girl』が1カ月遅れで復帰し、シーズン1が幕を閉じる。

再開は4月から本格化 気になるあの番組は?

4月6日より、ケーブル局で大人気のミステリー『Monk』と、犯罪捜査モノ『Psyche』で、ヒット作のない日曜日を盛り上げる計画のNBC。木曜のコメディー時間帯は4月3日に『My Name is Earl』の延長逸話で始まり、10日からエミー賞最優秀コメディー賞受賞作『30 Rock』が復帰。残念ながら、『Lipstick Jungle』は風前の灯。『Friday Night Lights』と『Heroes』は今秋、シーズン3が再開される。やったー!
 
FOXの『Caterbury’s Law』は、早くも3月28日から金曜午後9時に移動した。ドル箱番組『House』は、4月28日より再開されるが、4話のみ。火曜日に『House』の前番組として放映されていた『Bones』は14日に復帰する。『24』は2009年1月まで放送しないはずだったが、間を置き過ぎて忘れられるのを懸念し、今秋2時間のつなぎ特番を放送すると発表があった。
 
ABCは1月31日にシーズン4が始まった『Lost』以外、ほとんどの番組が4月から再開される。ただし、木曜日午後8時枠には『Ugly Betty』が復帰するため、『Lost』は4月24日から午後10時に移る。コメディー低迷の中でひと際輝く『Samantha Who?』は7日、『Boston Legal』のシーズン4後半6話は8日から再開。シーズン4前半を竜巻で劇的に締めくくった『Desperate Housewives』は、13日から再開されるので、お楽しみに! 『Ugly Betty』はアマンダの父親が誰なのか? 家長を失ったミード一族の運命は? を明かす後半に期待が寄せられる。シーズン3後半から4前半までメレディスとデレクの優柔不断に完全にだれてしまった『Grey’s Anatomy』は24日に復帰。『Grey’s Anatomy』のスピンオフとして鳴り物入りで登場した『Private Practice』、ほろ苦いお菓子のようなファンタジー捜査モノ『Pushing Daisies』、金持ちにだって悩みはある! が主題(?)の『Dirty Sexy Money』の3新作は、今秋まで復帰しない。秀作『Eli Stone』に未来はなさそう…?
 
打ち切りが公表されたのは、『Viva Laughlin』『Cavemen』『Journeyman』『K’ville』とわずかで、ストのどさくさ紛れにうやむやに闇に葬られそうなのは『Bionic Woman』『Big Shots』『Cashmere Mafia』等。波瀾万丈の07~08年シーズン後半だが、ストのお陰でじっくり考える時間があり、作品の方向性を見直したという創作者もいるので、出来映えに期待したい。待った甲斐があるかな?

[業界コボレ話]
出張先のダラスで、骨董品屋巡りをしていた時のこと。ぽかぽか陽気の中、レンガ造りの街並を歩いた。金曜の放課後、家まで歩いた留学時代を思い出した。
どの店でも、家具の大きさと巨大なシャンデリアに圧倒された。テキサスには『風と共に去りぬ』風の豪邸が多いから? 民家2軒に、所狭しと物が詰め込まれた店。裏にある3階建ての納屋に足を踏み入れた途端、撮影所の大道具部に戻ったような錯覚に襲われた。それもそのはず、『Prison Break』がお世話になった店。レジの金髪美女は、「ウェントワース・ミラーが何回も来たけど、すっごく良い感じだったわ。後になって誰かわかったのよ」と話す。ダラスまで来て、ミラーの人柄の良さを話し合っているなんて変かな?

テレビ評論家チーフ バリー・ギャロン

未だに消えないテレビへの畏敬の念

Barry Garron
ミズーリ大学でジャーナリズム科卒業後、政治記者を目指し同校で政治学学士号取得。『The Kansas City Star』紙に就職し、政治、教育や消費者お助けコーナーを担当すること10年。経営学の修士号を取得、管理職への道を歩み出して1年後、常勤のテレビ評論家のピンチヒッターをして病みつきになり、以来13年評論家を務める。1998年『The Hollywood Reporter』のチーフとして迎えられた。TCA会長を務めたり、『Emmy』『TV Guide』『Broadcasting & Cable』にも投稿。

毎朝読まなければ、モグリとまで言われる名門業界誌『The Hollywood Reporter(THR)』でテレビ界を斬って10年のバリー・ギャロンは、意外にも温和な教授タイプ。テレビと共に歩んで25年、テレビに魅了され、今テレビは絶好調! と言う。熱い想いを聞いてみた。

評論家チーフの仕事内容は?

ギャロン(以下G):8割は番組評を書いたり、今巷で話題になっている現象の分析です。2割は部下1人と外部のライター1人のコーディネーション、今後の企画管理。ここまで人員削減されたのは初めてですが、また増やすという話があります。

「THR」に就職された経緯は?

G:念力、念力(笑)! 『The Kansas City Star』紙で機嫌良く働いていたのに、経営者が変わって新しい上司がテレビ嫌い。部署を変わる気もなく、転職先を探そうにも何しろカンザス。LAに引っ越し、仲間に声をかけたら、投稿を頼まれ食いつなぐこと5カ月。「THR」の前任者が辞めると聞いて応募。固い決意、夢を追う愚かさと運の組み合わせ(笑)。でも、一般大衆向けと、業界人向けの評論では雲泥の差があると、すぐに気が付きました。数少ない業界誌として、テレビ番組を商品としていかに作るか、売るか、編成するかなど、押さえるポイントが違うので、観点を変えるのに数年かかりました。

テレビを選ばれたのは?

G:テレビと共に歴史を歩み、どの業界よりも面白いと思っています。天職というほどではありませんが、「これだ! これしかない!」と。テレビへの畏敬の念は未だに消えません。

お好きな番組は?

G:『LA Law』は新しい語り口と、登場人物の描写が1つになった革新的な番組です。懐かしくて忘れられないのは『The Many Loves of Dobie Gillis』。モテようと必死のダサイ高校生ドービーに共感を覚えたから(笑)? 最近は『Damages』『The Riches』、時々やり過ぎだと思いますが『Boston Legal』も好きです。『30 Rock」『My Name is Earl』と、政治評論の『Real Time with Bill Maher』は欠かさず観ます。評論家は不平不満を並べるのが常ですが、選択肢が急増した昨今、テレビは絶好調! ワクワクします。

Television Critics Association(TCA)会長の仕事は?

G:TCAは宣伝活動とジャーナリズムの境界線を明確にした組織として、他分野の評論家に崇められています。元々、映画のジャンケット同様、番組宣伝にプレスツアーが開かれ、超豪華な接待旅行でした。私が会長を務めた91~93年は過渡期で、自費参加に切り替わり、評論する上で必要な情報を要求できる立場になりました。

「Do what you love, the money will follow」論派ですか?

G:同等の知的レベルを必要とする仕事に比べ、リサーチに時間がかかる割には評論家の収入は低いです。夢をすべて実現するのは不可能なので、夢に優先順位をつけて、上位から選ぶしかありません。大好きな仕事ができて、まがりなりにも生きていけるなら、1%にも満たない「幸せ群」に入れます。更に金持ちになれたら、良いに越したことはありませんが(笑)。

[業界コボレ話]
テレビ芸術科学アカデミー(ATAS)のイベントで参加者に職業を聞かれ会話を進めていくと、「テレビは観ないから」の反応にずっこける。けしからん! それなら会員になるな! テレビへの熱い想いはどこだ? と腹が立つ。
「テレビを観るような低俗な人間と一緒にしないで!」のエリート意識か、映画の方が芸術としてレベルが上と示唆する優越感の表われと解釈していた。ギャロンに尋ねたところ、一般大衆も同じ反応だそう。しかし、彼の解釈はテレビが生活の背景の一部と化して、○○しながらテレビを観る「ながら族」は無意識にテレビを観ていて、「うろ覚え」=「ついてはいたが、観ていない」となるのではと、好意的な解釈だ。私もこれからはさらっと聞き流そうっと。

俳優 ショーナ・コーフェッド

今はテレビ探検モード

Seana Kofoed
シカゴ出身。ノースウェスタン大学で演劇を専攻、ロンドン国立劇場でも勉強。卒業後はシカゴで舞台経験を積んだ後、ニューヨークへ。ブロードウェイでは『Proof』『Night Must Fall』などが代表作。テレビ『Third Watch』『Law & Order:SVU』『Ed』のゲスト出演や多数のCF出演をする傍ら、舞台女優としての経験を積む。2004年以来、LAにも本拠地を構え、テレビへの進出を図る。06年より『MEN IN TREES』のジェーン役で活躍中の有望株。

アラスカが舞台の『MEN IN TREES』で、主人公マリンがニューヨークに残してきた親友かつ編集者ジェーンを演じるショーナ・コーフェッド。昨シーズン、賢明にも遠距離恋愛に終止符を打ったと思ったら、よりを戻すどころか電撃結婚してしまった。長年ニューヨークで頑張ったコーフェッドに、ジェーンを分析してもらった。

シーズン1の問題はそのままなのに、サムと結婚しましたね。

K:衝動的に結婚した以上、話し合うしかありません。サムは除雪作業が好きなので、冬はアラスカ、夏はジェーンの本拠地ニューヨークに住みます。

大自然が好きな公務員と都会の「デキる女」の結婚は成立するでしょうか?

K:前途多難だとは思いますが、乙女チックにハッピーエンドを信じたいですね。東海岸対西海岸、都会対大自然など、両極端の夫婦を演じるのは初めて。彼女の希望条件には、公務員は入っていないはずですが(笑)、両極端は新鮮でワクワクするので、理想のタイプではないけれど潮時だと思ったのでしょう。画面上だけでも結婚してくれたと親が喜んでいます。

この番組は脇役にツワモノが揃っていますが、ジェーンは現代女性を代表する役ですね?

K:ニューヨークっ子のドライさと「デキる女」は外装で、中身は繊細で傷付きやすい。アラスカの大自然が、ニューヨークで培った硬い殻に挑みます。ありのままをさらけ出すほど、恐いことはありませんからね。

婚約解消したマリンのウェディングケーキを引きずって帰宅するシーンが印象的でした。

K:公私ともテキパキ処理して帰宅した「デキる女」の姿でしたよね? 最近、職場でも女性が活躍できるようになったから、家庭と両立させようと躍起の女戦士は疲れていますね。ここだけの話(笑)

舞台派俳優は、映画やテレビに出演した後、古巣に戻りたいと言う方が多いですが。

K:テレビは未開拓なので、知らないことが多いんですよ。心地良い古巣に年に何度かは立ちたいですが、今はテレビ探検モード。今『30 Rock』にハマっています。ゲスト出演したい役者が順番待ちしていると聞いてますが、気長に待ちます。

学校に通っておられるとか?

K:自叙伝執筆教室は、70代以上の方が対象。最近50~60代の若者(笑)がチラホラで、今20人。人生経験は浅い私ですが、脚本課程修了後、先生が好きなので特別に参加させてもらっています。イタリア、ケニア、ナチ下のドイツなど異国の昔話を聞くことができ、勉強になります。

日本から俳優を目指して来た人へひと言。

K:アジア系の役はまだ数が少ないので道は険しいですが、猪突猛進しかありません。仲間を見つけて、助け合い、励まし合うのが大切。LAでは友達と共作の芝居を発表するとか、自作自演できるようになると強いですね。アジア系指定でなくても、どこで誰の目に留まるかわからないので、オーディションを受けてみるとか? 韓国系の友人は、最近は白人、ラテン系と指定されていても、オーディションに行っています。エージェントを教育するのが先決かも?

[業界コボレ話]
最近、ハマっているHGTVを観ていた時のこと。美しいレンガと白い円柱の「コロニアル」造りの正面玄関が映し出された。好みのスタイルで、思わずため息が出たが、な、な、何と家主は「コロニアルは嫌いなの。クラフツマンに変えて!」と依頼。「何で買ったのよ!?」と画面に向かってひと言。
改築後の玄関に家主は満足していたが、異様なスタイルに。私の頭をよぎったのは、「待てよ! 犬も配偶者選びも、後で変えられると思っていないか?」だった。家だって本来の姿を変えた後「異様」になったのだから、生き物を変えようなど傲慢の極み。最初からこういう素質を持っていると納得した上でなければストレスが募り、いずれは破局が訪れる。またもや、目からウロコ!

デザイナー カレン・マッカルーン

やってやれないことはない!

Karen McAloon
レドンドビーチ出身。幼い頃から室内装飾に余念がなく、高校時代には衣類をデザイン。高卒で全米7都市に住む大冒険を試み、25歳でサンフランシスコに落ち着く。1930年築の田舎屋のリフォームが受け、口コミで売れっ子デザイナーに。造園家として数回HGTVの『Landscaping Design』に借り出され、2004年にはペンキと50ドルだけでリフォームする『Design Remix』のデザイナーに抜擢された。07年より『Find Your Style』で活躍中。

HGTVの無数のリフォーム番組の中で、シーズン3に突入の『Find Your Style(FYS)』は、ひねりの利いた異色作。室内装飾の荒海に乗り出す視聴者の水先案内人を務めるカレン・マッカルーンは、「デザインに規則などない。好きか嫌いかだけ!」が信条の型破りなデザイナー。話を聞いてみて、謎が解けた。

独学とうかがいましたが、本当ですか?

マッカルーン(以下M):独学というより独習かしら? 山ほど失敗したから、今日の私があるの(笑)。だから、『FYS』も『Design Remix(DR)』も、インテリアデザインを難しく考えない、「沈みそうになったら救命具を投げますよ」という姿勢。デザインは好みだから、気に入るまで試行錯誤あるのみ!

どなたの影響ですか?

M:6年生で、近所の憧れの若い奥さんに、「壁紙貼りを手伝っ
て」と言われて、うれしくて。見よう見まねだったけど、やればできる! 魂をもらったの。

独習の少女がHGTVの人気デザイナーになるまでを聞かせてください。

M:結婚して最初に買った家がモデルホーム的役割を果たして、仕事が来るようになったの。元々草ぼうぼうだった広い敷地を、友達の結婚式会場に整備したのが発端。本を読み漁り、ホーム・デポで店員を質問攻めにして(笑)。結婚式の後、1930年築の母屋の改装も解体作業から配管、配線まで、何もかも自分でやったのよ。テレビに出られるようになったのも、『Landscape Smart』のゲスト造園デザイナーで頑張ったから。労力を惜しまなかったので、ギャラを時給にしたらわずか3ドル(笑)。『DR』のデザイナーになれたから、笑い話だけど…。ペンキと50ドルだけの模様替えの体験はなかったものの、「やってやれないことはない!」をモットーに頑張ったわ。

大金を積まれたけれど、断った仕事はありますか?

M:「暖房便座を推薦して」と言われたけど、どうしてもできなかったわ。ギャラはすごかったけど、イメージ的にどうも…(笑)。

『FYS』が生まれたきっかけは?

M:TLCの『What Not to Wear』のインテリアデザイン版を作りたかったの。私が参加者のスタイルを診断して、色や木目等4要素を決める手助けをし、家主が家具や調度品を買い揃えて、レイアウトまでする番組。最後に、私が選んだ家具や改善策を提示するの。でも、参加者の好み優先で、お仕着せではないのがミソ。

ご自身のスタイルは?

M:今、コンドミニアムを模様替え中なの! モダン家具一辺倒だったけど、最近クラシックの温かみが良いなと。歳のせい?(笑)。クラシック調の色や生地をベースに、極端にシンプルな家具を置く予定。

今後はどんな夢を叶えたいですか?

M:3歳になる息子と『FYS』だけで手一杯。子供の手が離れたら、また造園や趣味に復帰したいけど。インドや中国のような環境で味わう異文化体験は、創造力と元気の源。宝くじを当てて、世界を旅行し続けるのが夢!

[業界コボレ話]
今年初のテレビ芸術科学アカデミー(ATAS)のイベントは、『Friday Night Lights』の制作陣とキャストが明かす舞台裏。ザック・ギルフォード、スコット・ポーターの不参加は残念だったが、タイラ役のエイドリアン・パリッキは、目ざとく私を見つけて大歓迎してくれた。
番組ではジャンパー姿しか見られないコーチ役、カイル・チャンドラーの背広姿はまばゆい限り! ストでインタビューを取るのに四苦八苦している現状を伝えると、「もう2週間もしたら終わるよ」と言う。「ずっと家にいるから、女房が早く仕事に戻れってせっつくんだ」と、優しい目でウィンク。夫は元気で留守が良いとは言うけれど、私の王子様も家ではゴキブリ亭主扱いされているとは。何と、もったいない話。

プロデューサー ケイ・サムナー

奇跡的な「変身」を目撃できる最高の仕事

Kay Sumner
ミシガン出身。デトロイトの局で営業を経て、プロデューサーに。最初に制作したクイズ番組が大当たり。同番組をカナダでリメイク後、『Any Woman Can Fix It』『Eye Bet』など数々のテレビ番組を制作、ジニー賞候補に。5年かけて映画『Shadow Dancing』を制作したが、テレビ制作のチームワークが忘れられず、2004年『Dog Whisperer』を創作。同作は06、07年と2年連続エミー賞最優秀リアリティー番組候補にあがった。

テレビ芸術科学アカデミー(ATAS)の勉強会で、リアリティー番組『Dog Whisperer』が取り上げられた時のこと。ケイ・サムナーが、同作の目玉ドッグトレーナーのシーザー・ミランを引き連れて登場。その後、『Oprah』で紹介され一躍有名になったシーザーの偉業を、最近National Geographic Channel(NGC)で視聴している。番組のファンとして裏話が聞きたくて、サムナーの職場に足を運んだ。

番組が生まれた経緯は?

サムナー(以下S):愛犬エミーが人に噛みつく上、子犬を生んだばかりで7頭に振り回されていた時、新聞でシーザーの存在を知りました。エネルギーがあり余った落ち着きのない7頭も、シーザーが来て10分後にはソファーで居眠りするほど。目を疑いましたよ、本当に!(笑)。

放送局への売り込みは?

S:NGCの制作担当者が、話題になる「都会的スター」を探していると、勉強会で話していたのでパイロットを見せました。気に入ってもらったのですが、担当者が異動になり、一からやり直し。でも、後任がその場で26本発注! 他社から同一企画が26回も来ていたけれど、パイロットを持ち込んだのは私たちのみだったそうです。

この番組は『Supernanny』のイヌ版では?

S:はい、シーザーも認めています。規則、限度などを示して躾ないと、手が付けられなくなるのは、イヌも子供も同じ。

獰猛なイヌを撮るカメラマン! イヌ好きだから、平気なのでしょうか?

S:問題犬が従順になる「変身」過程が売りなので、シーザーが登場する「変身」前の撮影はどうしても慎重になります。4年目なので、2人とも冷静沈着に臨めるようになってきました。

シーザーが登場すると、「問題犬」を守る飼い主がいますよね?

S:シーザーの能力を疑い、「やれるものならやってみろ!」的態度だと、リハビリは難しいですね。飼い主が「目からウロコ」の瞬間を体験しない限り、問題矯正は不可能です。飼い主が問題の場合がほとんど(笑)。

番組やシーザーの人気は予想通りでしたか?

S:シーザーの稀な才能を世に知らせたいとは思いましたが、ここまで受けるとは夢にも…。シーザーのカリスマ性と裏表のない自然体のお陰? 奇跡的な「変身」を目撃できるのは最高!

番組創作を目指す人にアドバイスを。

S:ユニークな素材を確保するのが第1。第2は類似番組がないことを確認すること。第3は、すべてが固まった時点で制作会社と組むこと。時期尚早だと、盗作される可能性が…。局は、予算、スタッフ採用、経理などを処理でき、しかも実績を目で確かめられる会社を求めます。予算も重要な要素ですから、制作標準価格を調べましょう。企画書ではなく、パイロットを用意すること。長いほど、けなす部分が増えますから、5分以下に収めましょう。毎日、送られて来るパイロットの山は「ダメ」「?」「行けそう!」の3種類に分類されるので、「行けそう!」に入るために、あらゆる意味で最高の作品にしてください。

[業界コボレ話]
介助犬養成所でボランティアをしていた頃に比べ、LAに越して以来、イヌとの触れ合いの機会が減ってしまった。『Dog Whisperer』を観てから、仕事に生きる今の私には無用の長物と悟った。
捨てイヌ救出願望の強い私に衝撃的だったのは、女性教師のケース。捨てイヌに「かわいそう」という気持ちで接した結果、「問題犬」に早変わり。イヌは、かわいそう=マイナスのエネルギー=弱味と解釈する。相手が弱いと見ると、イヌは主導権を握ってしまう。
実はこの先生、恋人救出願望があると告白。シーザーは「弱い男を愛情で強くできないのと同じ」と分析した。目からウロコ! イヌを理解しようと観ているが、人間心理も学習でき、下手なカウンセリングよりためになる。

俳優 ジェームス・サイトウ

アンバランスが面白い役

James Saito
LA出身。12歳で芝居に魅せられ、芸能界で活躍していた兄姉に励まされ、UCLAで演劇を専攻。1976年、テレビ映画『Farewell to Manzanar』でデビュー。『M*A*S*H』『Airwolf』『Law & Order』『Third Watch』等、ゲスト出演は数え切れない。映画『The Thomas Crown Affair』『Pearl Harbor』、舞台でも活躍。88年以来、本拠地はニューヨーク。現在話題作『Eli Stone』のドクター・チェン役で活躍中。

春の新番組の中できらっと輝く『Eli Stone』は、『Ally McBeal』の男版と言われるが、『Ally…』に欠けていた人生観が散りばめられた、味わい深いドラマ。人生の意味を紐解こうとする主人公の唯一の理解者で、知恵を授けるドクター・チェンを演じるジェームス・サイトウ。役者経験豊かな日系3世のサイトウに、真理を語る賢人役の醍醐味を聞いてみた。

本作が初めてのレギュラー出演とうかがいましたが。

サイトウ(以下S):初レギュラーが、秀作の異色の役どころなんて、願ってもないこと! 鍼を打っている時はぶっきらぼうで、英語がしゃべれない振りをしているドクター・チェンですが、私生活は流れに任せて生きる、悟りを開いた人間というアンバランスが面白くてね。

人生観を解き明かす、心と魂に響くドラマですね?

S:キリスト教徒として育てられましたが、ドクター・チェンがイーライに諭す「生きる」意味や知恵は、私の信条と同じです。台詞を覚えて演技するという感覚ではなく、友達と話しているような楽しさがあります。

デビューは?

S:1976年に『Farewell to Manzanar』というテレビ映画で、リチャード・ワカツキを演じたのが最初。収容所に送られた日系家族のドラマです。

40年間に日系、中国、韓国、ベトナム人など幅広く演じておられますが、今回も日系ではない役。平気ですか?

S:今回の役は、ユダヤ+中国系で毛色が違うので、全然気になりません。昨年オービー賞をいただいた『Durango』では韓国人役でした。リアルに描かれている複雑な役なら、日系でも、中国人でも何でも構いません。

日本のイメージって、相変わらず時代錯誤で、指摘しても聞く耳持たぬアメリカ人が多いのにはびっくりします。どうしたものですかね?

S:事実は指摘すべきですが、決定権は資金を出している側にありますからね(笑)。日系の若い監督やプロデューサーがどんどん出ていますから、日本文化を正しく映像化してくれると期待しています。

俳優の道を選ばれたのは?

S:中学校で演劇の授業を取るハメになり、友達に冷やかされたので、最初は抜け出そうと思いました。先生に励まされて、年に2回芝居に出てみて、イベント性と脚光を浴びるのが面白くて病みつきに。フットボールの試合が終わると、急いでシャワーを浴びて稽古に駆けつけたものです。兄の映画を観て育ったし、姉も芸能界にいたので、違和感がなかったのかもしれません。

ご両親の反対はありませんでしたか?

S:友達は「時間の無駄」「まともに就職しなさい」と言われて落ち込んでいましたが、うちの親は一切文句を言わず、いつも応援してくれましたね。

俳優を目指している日本人にアドバイスを。

S:私が駆け出しの頃と比べたら、テレビもアジア系が増えましたから、チャンスは増えています。でも、まともに英語がしゃべれないとお話になりません。アメリカ人並に英語ができないと仕事の枠が広がりませんよ。

[業界コボレ話]
WGA(脚本家組合)のストは長期戦になるという情報が飛び交っている。11月にはデモ行進する放送作家に同情して、クラクションを鳴らして支持を表明していたが、最近では「いい加減にして!」と脇を走り抜ける。
ストのとばっちりを受けて大道具、小道具、照明など何千人単位の職人が失業中。働かなければ収入がない、でも稼ぎようがない。私も他人事ではない。コネ作りの場であるプレスツアーがキャンセルされ、放送作家はもちろん、プロデューサーやSAG(俳優組合)会員の役者もインタビューに応じない。死活問題だ。ゴールデン・グローブ授賞式中止、アカデミー賞まで危ういでは、ハリウッドを支える周辺産業まで立ち行かなくなってしまう。

俳優 マルゲリート・マッキンタイヤー

満足の行く仕事をさせてもらえる舞台

Marguerite Maclntyre
アリゾナ州出身。USCの演劇部を卒業後、ロンドンの王立演劇アカデミー芸術院で演劇を専攻。16歳から舞台に立ち、ブロードウェイで『Jane Eyre』『City of Angels』など数多くの芝居を手がける。1994年『Seinfeld』で音痴のミス・ロードアイランド役でテレビデビュー。2001年より本拠地をLAに移し、『The Practice』『The Pretender』『Judging Amy』など数々のゲスト出演を経て、06年より『Kyle XY』のニコール役で活躍中。

楽しもうと思って引き受けた端役で認められ、以来仕事にあぶれたことがないマルゲリート・マッキンタイヤー。2006年からバンクーバーでテレビ『Kyle XY』撮りする傍ら、時間を都合してブロードウェイに舞い戻る舞台派。一見若者向けの同番組が哲学的なSFミステリーであると同様、ニコールを演じるマッキンタイヤーも奥の深い人だ。

若者向け番組の母親役ですが、演じ甲斐がありますか?

マッキンタイヤー(以下M):パイロットの台本が、謎の少年を通じて宇宙の謎を解く哲学色の濃いものだったので、興味が湧きました。ニコールは精神分析医としても、親としてもカイルを守る立場ですが、実は同等の立場で世の中を見ていると解釈しています。カイルは、使命を探求するためニコールを必要としています。カイルの自分探しの旅仲間といえる役どころ、やり甲斐があります。

ニコールには実子が2人いますが、身元も判らない養子に肩入ればかりできないのでは?

M:バランスの問題ですね(笑)。心理学者としては優秀なのに、実の子の発する信号には疎く、養子と波長が合っている点が面白いでしょ? 仕事だからかしら? 自分が誰なのかも知らない他人が入って来て初めて、家族全員が己を知る、つまりカイルが鏡になる心理学の基本が映像化されています。

10代の子供がいるようにはお見受けできませんが…。

M:まだ独身、子供もいません。衣装合わせで、あまり若く見えないようにといつも注意されます(笑)。

現在バンクーバーでロケですが、本拠地は?

M:9・11テロの1カ月前に、LAに引っ越しました。今度こそLAに根を生やそうと思い、TVシリーズ出演を目指して。でも、機会があればニューヨークで舞台をやって、元気になります。去年も無理を言って数週間、舞台をやらせてもらいました。

舞台が1番お好きですか?

M:高校時代に味をしめ、以来ずっと舞台なので、自然体でいられるのは舞台ですね。テレビも映画もそれなりに面白いとは思いますが、プライバシーを守れないのが怖いですね。レーダーに引っかからずに、満足の行く仕事をさせてもらえるブロードウェイが1番!

なぜ舞台がお好きなのですか?

M:好奇心旺盛で心の広い人、意識して楽しく生きている人が多いからです。なかには子供のままの人もいますが(笑)。

世の中には、無意識に生きている人が多いですね?

M:しっかり目を見開いて、生きる喜びをかみしめている人が舞台役者には多いと思います。それに誰でも善悪のコンパスを持って生まれているのに、周囲の雰囲気に流されて、コンパスを無視しがちでしょ? 直感を信じる人が増えれば、もっと住みやすい世の中になるのに…と思います。

日本人の俳優志望者にアドバイスを。

M:どんな些細な役でも「楽しむぞ!」という意気込みで、何でも首を突っ込んでみてください。何が起こるか? 誰に会うか? それが生きる醍醐味!

[業界コボレ話]
昨年9月から使い始めた「U-Verse」は、140時間、同時に4番組を録画できるので、日本に里帰り中も好きな番組を全部録画でき、重宝した。
しかし、新春早々大きな落とし穴を発見して、真っ青に! DVRからビデオにコピーできないのだ。U-Verseを設置した人にも聞いてみたが、質問の仕方が悪かったのか、まさに後の祭り。
売り込み時には「できないこと」は言わない。嘘ではないが、選択的省略という代物で、消費者の念入りなリサーチと的確な質問が成功の秘訣。従来可能だったから、新機種でも当然と思うのは大間違い! なのだ。我が家のVCRは古代の遺物に成り下がってしまった。だから、140時間も録画できるのか! 今頃気付いても遅い。

『Friday Night Lights』ロケ現場レポート!

新年特別企画

Zach Gilford
シカゴ出身。ノースウェスタン大学卒業後、映画『The Last Winter』『Rise: Blood Hunter』やテレビ『Law & Order: Special Victims Unit』等を経て、『FNL』のナイーブな高校生マット役で活躍中
 
Adrianne Palicki
オハイオ出身。俳優を目指してLAに。『Lost in Space』の映画化で、ジュディー・ロビンソン役を射止めた他、TV『North Shore』『CSI』『Smallville』などに出演。『FNL』の不良女子高生タイラ役で活躍中
 
Scott Porter
ネブラスカ出身。オーランドのユニバーサルスタジオで芸能活動を始め、東京ディズニーランドでも働く。『Altar Boyz』『Toxic Audio』で数々の賞候補に挙がるほどの実力派。『FNL』で半身不随の元スター選手を演じる
 
Taylor Kitsch
バンクーバー出身。2002年、NYでシーラ・グレイの門下生となり、03年故郷に戻り、映画『Snakes on a Plane』『The Covenant』などに出演。TV『Godiva』『Kyle XY』を経て、『FNL』のティム役で活躍

「Friday Night Lights」
Fri 21:00-22:00(NBC・Drama)

 
オースティンの大学のアメフトチームのコーチとなったエリック・テイラー(カイル・チャンドラー)は、ディロンに残した家族とチームが気になっていた。1年で州チャンピオンにまで育て上げたチームが、後釜コーチのえこひいきと軍隊式訓練で元の木阿弥になったと知り、舞い戻って来るのだが…。
半身不随のジェイソン(ポーター)、スターの座を追われたマット(ギルフォード)、チームを追い出されたティム(キッチ)、殺人事件に巻き込まれたタイラ(パリッキ)など、悩み多き高校生が赤裸々に描かれる

私の好きなアメリカが詰まった『Friday Night Lights』(FNL)。2006年秋から欠かさず観ている。残念ながら視聴率は今ひとつで、これほどの秀作も生き残るのに四苦八苦。
制作陣、キャスト、広報にも友達ができ、ロケ現場に招待された。シーズン2の撮影が始まったばかりの現場でお目にかかったのは、主役エリック・テイラーを演じるカイル・チャンドラー以下、若手俳優4人。
美しい学園都市オースティンで、初日に案内されたのはマット(ザック・ギルフォード)の粗末な家。撮影班が動くのも苦労するほどの空間しかないが、本作がリアルなのは地元の民家や建物を借りて撮影しているからだ。父のイラク出征後、アルツハイマーの祖母の世話をしながら、フットボールの練習に励む高校生マットを演じるギルフォードは、画面と変わらない好青年。
「番組のファンとして、今後何がどうなるか? と心待ちにしています」と語るのは、番組のドキュメンタリー式撮影の関係上、放送を観るまで、編集時にどのカットが使われるか不明という裏の事情がある。

ポーターの初めての本格的芝居

夕方、タイラ役エイドリアン・パリッキと会った。舞台風の即興の芝居については、「ゲスト出演するベテランでさえ、戸惑っているのを見ると、いかにユニークな撮影をしているか改めて感じます」と言う。
夏休みにゲスト出演した『Supernatural』で、自由に動き回っていたらNGが出て、「テープが貼ってある位置で台詞を言わなくちゃいけなかったんだ!」と再認識。本作はカメラが役者を探してくれるので、自由に動き回れ、自然な芝居ができる環境になっている。
出番がないにも関わらず、わざわざ来てくれたスコット・ポーター。シーズン1はいきなり半身不随になり、両親やガールフレンドを気遣うあまり、自分はおざなりにしていた。やっと自分と向き合い、「ディロンにいるべきか」「コーチ助手を続けるべきか」などを考える。
「自分をありのまま受け入れた時、新たな人生が始まると体験者から学びました」と語る。車椅子の演技はスタントマンを使わず、自分でこなす頑張り屋さんだが、「これが初めての本格的な芝居」という発言にびっくり。数年前、東京ディズニーランドで歌って踊った体験や、規律正しい日本から戻って来た時の逆カルチャーショックについても語ってくれた。
インタビュー後、中古車販売店でのシーンを見学させてもらったが、撮影は真夜中まで続いた。お疲れさま。

テレビ経験の浅い僕らを信用してもらっている

2日目は、荒れ野原を撮影のために整備した球場に案内された。番組終了時には、地元に寄付する予定とか。
スターになる要素を持ちながら乱行が祟り、チームから追い出され、波瀾万丈のシーズンを送るティム役のテイラー・キッチ。父親に捨てられ、親代わりの兄にも見捨てられ、どんどん深みにはまって行く。おまけに、新任コーチはティムの宿敵スマッシュに肩入れする。
本日のシーンは、二日酔いで練習に現れたティムへの体罰。8回目にやっと監督からOKが出て、キッチより撮影を見ている方が疲労困憊してしまった。
大人に裏切られてきたティムは人間不信。自暴自棄になりかけている時に、信頼していたテイラーが戻って来る。「チャンドラーは役者として尊敬できる大先輩だから、今後のからみが楽しみです」と語る。
舞台風の撮影方法は役者に自由を与える反面、場面を把握する責任が重くのしかかるが、「テレビではまだ経験の浅い僕らを信用してもらっているので、やり甲斐があります」と話すキッチは、あれだけの重労働をこなしたにも関わらず、涼しい顔だ。
翌日、観光にと思って立ち寄った街角には、見慣れたベースキャンプが。町中至るところで撮影しているのに、オースティンの地元民は意外にも無関心。私が番組の宣伝までして、帰途についた。

[業界コボレ話]
放送作家ストの真っ最中に行われた海外の放送局向けインタビューは大盛況。現在、主にABCで放送中の番組に出演する俳優70人が5分間、1対1の質疑応答に応じてくれた。なかには最近のスキャンダルに関する質問を恐れてレポーターを1人に限定する「おっかなびっくり」組や、当日のドタキャン組もあったが、楽しい4日間だった。
これまで多数のインタビューをしたが、放送用となると俳優の緊張度が高い。私はテレビレポーターではないので、相手が気持ち良く発言できる雰囲気作りが仕事。しかし、顔の知れたレポーターともなると、自分がどう映っているかが優先で、俳優に気を遣う余裕などない。「どんな質問をしているのだろう?」と考えてしまった。

俳優 ジェームス・パーソンズ

演じたい役=はまり役の稀なケース

James Parsons
テキサス州ヒューストン生まれ。ヒューストン大学で演劇専攻、大学院ではコミュニケーション/テレビ/映画を研究。劇団のニューヨーク公演時にエージェントが付き、仲間と集団引っ越し後、舞台で活躍。テレビ『Ed』『Judging Amy』のゲスト出演、CF、映画『Garden State』『The Great New Wonderful』等を経て、2007年『The Big Bang Theory』のシェルドン役に抜擢された成長株。本拠地はブルックリンだが、番組収録のため現在LA在住。

今年、オタクが主人公の話題作の中で、唯一好調の『The Big Bang Theory』。昔ながらのコメディー形態で公開録画されている本作の成功は、物理学者シェルドンを演じるジェームス・パーソンズの名演技によるところが大きい。リハーサルの合間に話を聞いた。

現実にオタクをご存知ですか?

パーソンズ(以下P):小学校の同級生に紙を食べる変な子がいました。今思えば、頭が良すぎて、僕たちとは比べものにならないレベルのことを考えていたのかなと、時々、あの子を思い出します。奇人変人扱いされた体験は誰にでもあるのでは?

シェルドンは自覚症状のないオタク、レナードはいやいやオタク。このバランスが絶妙!

P:天才児が大人になって、社交の場でもつい真理の探求癖が出てしまう。真実や結果しかない科学の世界では、礼儀や婉曲な表現は無用の長物ですから。レナードはシェルドンを理解できる、天才と凡人の間を行き来するオタクです。

演技上、1番苦労することは?

P:台詞を覚えるのにこれほど苦労したことはありません。舌がもつれるような専門用語をいかにも自然に口にしながら芝居するのに、神経がピリピリ(笑)。

内容がわからないと、台詞が覚えにくいということですか?

P:何を言っているのか、まったく不明ということもありますが、シェルドンの「万事を明確に」の使命感を表現するために、言葉を正確に発音したいと思う僕の完璧主義のせい。

創作者ローリーは“Beautiful mind”を描きたかったそうですが、どの業界でも天才は子供のようでは?

P:天才は情熱の対象がすべてで、一喜一憂が尋常ではありません。だから人間として成長しないのか、萎縮してしまうのか? 感情は科学に貢献しないから不要と決めてしまったのかも知れませんね。センサーを通さず言葉を発するのは、子供の本質。子供のように振る舞っても社会が許すのか、許してもらって当然と思っているのか。

役者になりたいと思ったのは?

P:小さい頃から映画スターになると宣言していたようです(笑)。高校時代、『Noises Off』という芝居で、演じる喜びとでき映えが同等になったことがあり、これで生きて行こうと決めました。安定を求めた時期もありましたが、大学を休学して手当たり次第挑戦したら、脇役が転がり込んで。以来7年余り役者を。小さい頃から順調に歩んで来たと言うか、苦労した感覚がないラッキーな人間です。

今回の抜擢は一大チャンス。ローリーに「はまり役!」と言わせたゆえんは?

P:役作りに全力投球したから!? パイロットシーズンには無数の脚本を読みますが、演じたい役とはまり役が一致した稀なケース。台本を読んだ時に、この役なら誰よりもうまくできると思いました。後悔しないように役作りに時間をかけ、何を要求されても即興でできるように準備してオーディションに臨みました。プロデューサーが揃うオーディションも稀で、2人の前で実力を発揮できたのも星の巡り合わせ! 幸運の扉が開いた時、飛び込む準備ができていたということですね。

[業界コボレ話]
WGA会員である放送作家が遂にストを決行した。DVDとネット配信収益が争点で、撮影所と作家側の歩み寄りは今の所見られない。ストは予想されていたので、随分撮り溜めしていたものの、毎晩生で録画する深夜のトークショーが第1の被害者。『The New Adventures of Old Christine』や『Two and a Half Men』を始めとする公開録画番組や『Desperate Housewives』『The Office』に被害が及んでいる。
例年1月再開の『24』は、順延を発表。『Lost』は8話まで収録済み。今シーズンは8話+中休み+8話で計画していたらしく、1月に再開される。
ドラマが盛り返した矢先のストは、リアリティー再興を示唆。1月のプレス
ツアーが危うい! 他人事ではない!!

創作/制作総指揮者 ハート・ハンソン

起業家と雇われ社長の関係

ヘビメタのギタリストの道を断念後、トロント大学で英文学と政治理論を専攻。小説コンテストに入賞し、自転車カナダ横断日記を地元新聞に投稿。修士号取得中に宿題で書いた脚本をCBC局が購入してテレビ界に入り、『Traders』でジェミニ賞受賞。1999年、エージェントに逆らってLAに移住。『Cupid』『Snoops』を経て、『Judging Amy』では3年で制作総指揮まで昇格。『Joan of Arcadia』制作に関与後、2004年『Bones』を創作。

現役の法人類学者が書き下ろした小説の主人公を基に、ハート・ハンソンが創作した『Bones』は、人間ドラマ色の濃い科学捜査モノ。火曜日放送の『Bones』と『House』は、いずれもカナダ勢の作品。『House』創作者のショアと密かに、「カナダの日」と呼んでいるとか。本場での運試し秘話を尋ねた。

プロデューサーの役割はシーズンごとに進化しますか?

ハンソン(以下H):3年目は新鮮さが薄れて行く分、ファンをいかに引きつけておくかが課題。50話余り制作したので、「◯話と似てない?」という会話が出るようになりました(笑)。

創造過程にワクワクするのが放送作家だと思いますが、番組が落ち着くと、創作意欲が湧いてきませんか?

H:仲間がパイロットを撮っていると聞くと、ムズムズしますね(笑)。「もうたくさん!」と思ったら、後継者に任せて新作を手がけるかもしれません。番組創作と制作指揮は、起業家と雇われ社長の関係ですから。

カナダでご活躍だったのに、なぜLAに?

H:『Traders』のジェミニ賞をもらいに舞台に向かう途中、潮時か? と。「大リーグで運試ししたい」とエージェントに言ったら、「絶対無理」のひと言に発奮したものの、40近くで売り込みに行くのは惨めでした。当時放送していた番組の中で、リサーチなしで書ける『Ally McBeal』を名刺代わりに書いたので、LAではコメディー作家のレッテルを貼られて。

ドラマがお好きですよね?

H:『Cupid』の後、『Judging Amy』でスタッフライターに雇われましたが、創作者バーバラ・ホールに気に入られたのは、感性が似ていたから。どの番組でも創作者と同様のレンズを持ち合わせていて、そういう先輩が番組を制作していたのはラッキーでした。大家族で育ち、皆が何を考えているのか観察しながら大人になりました。シーズン1でボーンズの口癖だった「どういう意味?」は、息子から「お父さんの口癖だ!」と指摘され、意味を分析してドラマ
材料にしているのだと(笑)。

FOXのお抱えプロデューサーになられた経緯は?

H:デビッド・ケリーの『Snoops』を自ら辞めたのに、なぜかFOXに推してくださったようです。番組の創作が任務ですが、パイロットが番組にならない場合は、同社が制作中の番組を手伝うのがお抱え。僕の契約は6年になりますが、中には遊んでいる人もいますよ。

『Joan of Arcadia』が打ち切られ、未だに残念無念。

H:天才ホールの番組立ち上げの助っ人に駆り出されました。僕はFOX、ホールは当時ソニーのお抱えだったので、普通は考えられないことですが、13話ならと。神様に翻弄される女子高生のドラマはもっと続けたかったですね。

放送作家にアドバイスを。

H:既存の番組のカラーやスタイルを変えずに書けるかどうかが登竜門です。既存の番組の脚本と、オリジナル作品のパイロットの脚本が揃うと鬼に金棒。人を唸らせるほど良いサンプルを書けば、必ず誰かの目に留まります!

[業界コボレ話]
40人の子供が大人の監視なしで、ゴーストタウンを切り盛りするリアリティー番組『Kid Nation』に、すっかりハマっている。
町への貢献度を称え、子供評議員が贈る2万ドル相当の純金の星を巡り、大人の世界と同様の策略が渦巻く。人目につく作業のみを買って出るずる賢い子や根回しに余念がない子を見抜く賢い子供たち。見かけで人を評価する美少女コンテスト荒しの子だけが騙されるのは実に痛快!
日本では刹那主義の気力のない子供が増える一方だが、この番組を見る限り、米国の少年少女は捨てたものではない。持って生まれた直感や無邪気さを守ってやれば、大人顔負けの知恵を発揮してくれそうだ。希望が湧く。

編集者 エリック・ゴールドファーブ

今を逃したらいつ? の気力で

アリゾナ生まれ。アリゾナ大学でメディア芸術を専攻、97年LAに移住。制作助手から始め、編集助手としてドラマ『The Chronicle』『SpecialUnit 2』等に関与。00年、編集者に昇格、スピルバーグの『Taken』を経て、ノンフィクションに転向。『Burned』『What Should You Do?』『Totally Busted』で編集担当。05年より『The Amazing Race』の編集で活躍中。リアリティーで05年よりエミー賞を3年連続受賞した、今注目の成長株。

これまで十数人の編集者と仕事をして、縁の下の力持ちの存在に気づいていた。07年度エミー賞候補者のパネルインタビューで、「リアリティー番組は編集者の媒体」と熱く語ったエリック・ゴールドファーブ。『The Amazing Race』で3年連続、最優秀ノンフィクション編集賞に輝いたゴールドファーブに尋ねた。

3度目のエミー賞、おめでとうございます。

ゴールドファーブ(以下G):初回は05年、受賞で夜勤から解放されたのが何よりの贈り物でした(笑)。編集は地下牢での孤独な仕事なので、陽の目を見たのもうれしいです。

昔から編集の仕事に興味が?

G:大卒の若僧が映画監督になれる訳がないので、制作進行係(PA)で業界に。半年ほど観察し、ライターか編集ならと的を定めたら、編集助手職が降って湧いて。Avid(編集ソフト)を習得するのに、通勤時間が惜しくて1カ月ほど車で寝泊まりしました。ヘマばっかりでしたが、必死だったので、クビにはなりませんでした(笑)。2年半で編集者になり、00年からフィクションを3年余り、リアリティーに転向して4年。

フィクションとリアリティーの編集の違いは?

G:脚本があるフィクションでは、1時間ドラマで処理する映像が13~14時間、リアリティーでは200時間が普通。僕はドラマで技術を覚えましたが、リアリティーはデジタル化が大仕事。

膨大な量の映像を43分に編集するプロセスは?

G:経験を積めば、必須の場面が200時間のどこにあるか察しがつきます。各チームの行動に筋が通るように、上位チームから順を追って編集し、放送時間の2~4倍のラフカットにします。起承転結が決まったら、映像の続き具合を点検、音を入れてから再チェック。1話あたり4~5週間で「編集者版」が上がり、プロデューサー/制作総指揮者の変更に1週間。最終決定はCBSですが、「あーでもない、こーでもない」が2~3週間続いて放送版になります。

『The Amazing Race』はいつからの関与ですか?

G:シーズン6です。ある番組の編集にルームメイトを雇ったお返しに、『The Amazing Race』の編集を辞める時に僕を推薦してくれました。

今の仕事を選んで良かったと思いますか?

G:既にコンセプトが固まったフィクションより、創作力を活かせるのが醍醐味。フィクションだと、10人が編集しても似たり寄ったりですが、リアリティーは客観的な差が出ます。

リアリティー番組では、放送後に参加者の不平不満を耳にしますが…。

G:契約書を結んだ時点で肖像権を放棄した訳ですから、局側は映像を自由に使えます。人間はプレッシャーをかけられると本性を出しますから、通常繕って生きている人の言い訳では?

将来の夢は?

G:5年後にはテレビ番組を世に出す計画。映画創りが夢ですが、テレビの方は話が進んでいます。『The Amazing Race』での実績を足がかりに飛躍したいです。今を逃したらいつ? の気力で、全力投球です!

[業界コボレ話]
遂に出た! 今秋初の打ち切り。予想通り、ミュージカル・ミステリー『Viva Laughlin』。だが、『Cavemen』を始めとする数本が、まだ生き残っている。
今年は低視聴率の番組を各局が辛抱強く見守っているのかと思いきや、放送作家のストのため、早々に打ち切ると穴埋めできないからだと判明。1月のプレスツアー開催も危ういとか。スト決行となった1988年は、非組合員作家にチャンスが巡って来たと聞いた。スタッフライターへの近道かも?
おすすめの新番組で更新が決まったのは『Mad Men』。『The Big Bang Theory』『Private Practice』『Samantha Who?』。『Pushing Daisies』は出だしは好調だったが、毎週視聴率が低下して不安。『Big Shots』は下手をすると…。

俳優 カイル・チャンドラー

苦しみに一抹の光を見出す

11歳までシカゴ郊外、高校卒業まで南部の片田舎で育った。ジョージア大学で演劇専攻中にABCのタレントスカウトに合格、『China Beach』の端役、『Tour of Duty』の脇役を経て、『Homefront』で一躍主役に抜擢された。『Early Edition』で役者として地位を確立、最近では映画『King Kong』、TVドラマ『Grey’s Anatomy』のゲスト出演でエミー賞候補に。昨年よりピーボディー賞受賞の秀作『Friday Night Lights』のコーチ役で活躍中。

昨夏からインタビューを申し込んでいたが、LAにいないことを理由に広報に再三断られ、業を煮やしてロケ地まで出向いた。持ち前の温厚な人柄で誰からも慕われているカイル・チャンドラーの仕事ぶりを目の当たりにして、『The Lyon’s Den』で演じた悪役に信憑性がなかった訳が頷けた。

『Friday Night Lights(FNL)』は、私がオクラホマ留学中に体験した「アメリカ魂」を描いたようなドラマです。

チャンドラー(以下C):僕も11歳で、シカゴ郊外の屋敷街から、ジョージアの田舎に放り込まれた口(笑)。カルチャーショックの上、南部訛りがわからなくて…。

その体験が『FNL』のエリック役の土台ですか?

C:高校時代(79年)に、KKKが町に来ると大騒ぎ。反面、時間がゆっくり流れ、人情味溢れる世界も体験。引っ越し当時、隣家は白人家族2軒、アフリカ系が1軒の水道もない赤貧の村。でも暗くなるまで遊んでいると夕食を振る舞ってくれ、美味しい物は客人に、という人情がありました。あの時の心温まるムラ社会体験が土台。

フットボール体験は?

C:州チャンピオンを獲得したばかりのチームに入り、コテンパンにやられました。障壁を乗り越える方法、努力を重ねれば何でもできる等、スポーツを通じて自分探しをするって大切だと一目置くようになりました。翌年父が亡くなって辞めてしまって以来のフットボール。攻撃本能がないから、コーチで十分!(笑)。

エリックとタミーは、現実はもちろん、テレビでも珍しい「対等な夫婦」ですね?

C:「これが普通では?」って感じです。最初にブリットン(妻役)と、どういう夫婦にしたいか話し合って、絶対に離婚しない、させないでくれとプロデューサーに頼みました。

ずっと役者になりたいと?

C:兄姉が法律、医学、心理学の道に進んだので、いずれかに、と思ったりもしましたが、大学3年まで目標もなく…。たまたま会った役者の紹介でオーディションに受かり、初舞台で拍手喝采を受けて病みつきに。大学を中退してハリウッドに来る勇気はどこから? と、今でも謎。ABCがお抱え俳優を雇った最終年の12人に入って以来、楽観主義クラブの会員(笑)。仕事にあぶれたことがありません。

映画『King Kong』のおどけ役は、息抜きとして貴重な存在でした。

C:ジャクソン監督から電話をいただいて出演が決まってからも、カイル違いじゃ? 「マクラクランの間違いでした」って言われないかとビクビク(笑)。役作りを徹底的に話し合う民主的な監督で、最初のシーンで笑いがとれたので、色々と提案したらどんどん膨らんだ役です。『FNL』でも即興の台詞やユーモアを盛り込む芝居が求められるので、予行演習になりました。

お手本は?

C:父が亡くなった時、心理学者の兄に「苦しみに一抹の光を見出せ」と言われ、肝に銘じて生きて来ました。人は辛苦を嘗めて大人になる、試練に希望を見出せば、苦しみではなくなると諭してくれた兄です。

[業界コボレ話]
占いによれば、今年は人生最高のラッキーな年。確かにエミー賞審査もしたし、念願の授賞式にも参加できた。登竜門テレビ評論家協会に晴れて入会できたし、『FNL』ロケ現場訪問のお誘いもいただいた。
私が夢に描いたデジタル録画装置も登場。同時間枠に4番組録画できる優れモノ。3本目から泣きの涙で諦め、再放送を祈っていたのは過去の話。
15年程前、好きな役者の名前を登録しておけば、自動的に録画してくれる機械が欲しいと言って笑われた。それが実現したのも今年。最新の商売道具の優秀さを嬉々として友達に話し、「仕事バカとはこのことか?」と笑ってしまった。2007年も残り少なくなったが、本の執筆依頼はいつ? ワクワク!

ニューシーズン・プレスツアーリポート

今年からケーブル局のプレスツアーに参加が許され、7月12日から計17日間の長~いツアーになった。ケーブル局は金持ちだ♪ 印刷代の高そうな凝ったパンフレット、番組にちなんだ手土産が席に山積みされる。ホテルに宿泊している評論家の部屋には、毎日つけ届けがあったらしい。
なかでもHBO主催のパーティーは、オシャレなブティックホテルのプールサイド、星空の下でスターらと歓談しながら、シャンペン、チョコレート、ロブスター、ステーキ食べ放題のうえ、帰りにお土産まで頂戴した。それでも昔より財布の紐が堅くなったとかで、口を開けば不平不満ばかりの評論家諸氏。ワクワク、ドキドキ、何にでも感謝感激する私が目ざわりな訳だ。
 
(c)Jason Merritt/Filmmagic

[業界コボレ話]
今秋の新番組の主人公がニューフェイスばかりと、前回書いたが、プレスツアーでもキャストや制作陣に必ず投げかけられた質問だった。
『House』のヒュー・ローリーは、「(ギャラが)安いからに決まってる」と苦笑する。二十数人に上るイギリス、スコットランド、オーストラリア、デンマークからの出稼ぎ俳優は、経費削減に必死の撮影所にとって、願ったり叶ったりのはずだったが…。「Dialect Coach(方言指導)」を雇って発音矯正しなければならないのは、誤算だった。アメリカ人役だから変なアクセントや意味不明の台詞は御法度だが、予算が組まれていない上、コーチの数に限りがあるという「需要と供給」の関係が、まったく考慮されていなかったようだ。
映画『SAYURI』で一緒に仕事をしたコーチは、猫の手も借りたい忙しさ。映画ではコーチは高給取りだが、年間の仕事数に限りがある。しかも、テレビは付け焼き刃で逸話をこなすため、最低1年はコーチが不可欠らしい。コーチ不足解決が先か? 打ち切りが先か? 意外な落し穴という裏話。

 
 

父は俳優、叔母は往年の歌手シルビー・ヴァルタンという環境で育ち、10歳で米国に移住したマイケル・ヴァータン。かつて『Alias』の主役ジェニファー・ガーナーと公私共に恋仲だったが、ガーナーがさっさとベン・アフレックとできちゃった結婚して、今は「花の独身」。
最新作『Big Shots』では、皮肉にも妻に浮気されて傷つく、繊細なジェームス・ウォーカー役を演じる。「共演者は皆家庭持ち、仕事が終わっても飲みに行く相手がいない、デートに花束を持参したいけど、どう解釈されるか不安で躊躇してしまう」とパーティーで打ち明けてくれた。
繊細過ぎるのか、失恋の傷口が塞がらず怖じ気づいたままか? 花でもシャンペンでも、いつでもお相手しますよ。スターにだって悩みはあるのだ。
 
(c)2007 American Broadcasting Companies, Inc.

[業界コボレ話]
今秋の新番組は『Lost』等の大所帯の群像劇からスケールダウンした「4人組」が主流。
『Desperate Housewives』男版と言える『Big Shots』は、結婚や恋愛に一喜一憂する男盛りCEO4人。庶民レベルの男4人組が毎日1台の車で通勤する『Carpoolers』。富も地位も手にし、『Sex and the City』のビッグになった、21世紀の女4人組の『Lipstick Jungle』と『Cashmere Mafia』。どちらに軍配があがるか?
犯罪捜査モノには手を出さないはずのABCは、女刑事、検事、検死官、レポーターが事件を解決する『Women’s Murder Club』で勝負。
懲りずに登場する群像劇は、『Cane』や『Dirty Sexy Money』。「恵まれていても悩みはある」と口を酸っぱくして言われてもねぇ…。共感を覚えないのは私のひがみ?

 
 

番組の制作陣やキャスト(局から評論家のあしらい方を伝授されていると聞く)が登場し、評論家の質問に答えるパネルインタビューを次々とこなすプレスツアー。私は強烈な照明が照らし出す舞台からも見えるかぶりつきに座るため、パーティー席上で、「最前列でニコニコしていた人だ!」と、覚えていてくれる制作者あり、「笑顔に救われたわ!」と、白状するマナ板のコイ状態のスターあり。
今年は距離が近かったのか、意思疎通が頻繁にあり、カイル・チャンドラーやマイケル・ヴァータンとの対話を目撃した仲間に冷やかされた。目が合うとニッコリの役者や、私を認めるや否や舞台から「元気?」と尋ねてくれるお馴染みも増えた。これだから止められない!
 
©2007 American Broadcasting Companies, Inc.

[業界コボレ話]
『On the Lot』は、監督志望者に毎週異なるジャンルの映画を作らせ、一般投票で勝者を選ぶ『American Idol』の映画版。DreamWorksの契約を手にしたウィルは、才能はもちろんのこと、人柄が抜群。
ハリウッドには、才能があってもなくても威張っている輩がごまんといる。人柄がいかに大切か体験した私は、「この人と仕事したいか?」探知機の針が敏感になった。夢を実現する険しい道を踏みしめて来た人には、ウィルの勝利は我が身のことのようにうれしかったのでは?
番組の低視聴率は、芸能界の内幕に誰も興味がないことを実証した訳だが、終盤戦に残ったのが好青年ばかりだったのは、視聴者も見るところはしっかり見ている証拠。女性が残らなかったのは遺憾だが、ウィルの映画に期待したい。

 
 

昨夏、私が「何かやましいことでも?」大賞を差し上げた『Shark』のジェームス・ウッズ。独りでまくしたて評論家を煙に巻いたが、今年は共演の美女ジェリー・ライアンとインタビューに登場。ウッズのセクハラ、差別発言は野放し状態。「PC (Politically Correct)で行きま賞!」を贈り、改善を期待する。
クリストファー・タイタスとジョシュア・マリーナが完全に仕切った『Big Shots』のパネルインタビュー。意味不明の答えだけでなく、内輪の冗談を交わし、繊細なマイケル・ヴァータンをからかうことしきり! 目立ちたがりの子供のような行動は目に余ったので、「お黙りで賞」を贈りたい!

[業界コボレ話]
私が応援していた『Friday Night Lights」がほとんど無視され、興味を失った矢先に、エミー賞取材に席を用意しますと言われた。引き受けたのは良いが、着て行く物がない! 仕事着は、埃だらけのセットのどこにでも座れるジーンズに限るので、ドレスなどすっかりご無沙汰。着飾っても女優に勝てる訳がないから、逆に目立たない方が良いと思うが、張り合っている広報のお嬢さん方もいて、「クライアントより目立ってどうするの」と意見したくなってしまう。
6年前は、ドレッシーなスーツで参加するつもりだったが、結局テロで参加できなくなった。「あのスーツで良いかな?」と思ったら、イブニングと指定された。仕方がないので、生まれて初めてイブニングを購入。奮発していたら、稿料から足が出てしまった。トホホ。

 
 

ABCの新番組『Dirty Sexy Money』のパネルインタビューに、久しぶりに登場したグレッグ・バーランティ。当コーナー初回インタビューで紹介したハリウッドの「希望の星」は、着実に輝きを増している。『Brothers & Sisters』の制作陣に加わり、サリー・フィールドのエミー賞受賞スピーチにもあがる大物になった。荒波に揉まれた結果か、(見た目も)昔より逞しくなってうれしい。
主役ニック(ピーター・クラウザ)の妻を演じるゾーイ・マックレラン。昔、『JAG』で海軍の下士官を好演したが、完璧な変身を遂げたため、パイロットを観た時も気がつかなかった。プロフィールを読んで初めて、「大人になったな」と改めて見直した。ますます輝いてほしい。
 
Photo: (c)2007 American Broadcasting Companies, Inc.

[業界コボレ話]
エミー授賞式会場への道が黒のリムジンやタウンカーで埋め尽くされた光景は圧巻だった。リムジンの横を車で走ると、「誰が乗っている?」と目を凝らす癖がついているが、この日は道行く人が覗き込んでくる姿が滑稽だった。どうせ見えないのだから、あの癖は止めようと反省。
授賞式は、出費の割には期待外れが私の感想。レッドカーペットを心ゆくまで楽しめなかった、会場1階が立ち入り禁止で、天井桟敷からスターを拝まなければいけないなど、プレスツアーの方がワクワク、ドキドキ度は何十倍も高いと再確認した次第。
だが、アメリカ・フェレーラが主演女優賞、『30 Rock』が最優秀コメディー賞に輝いた快挙は忘れ難い。助演女優賞を受賞したキャサリン・ハイグルは穴馬だっただけに、純粋にはしゃぐ姿が新鮮だった。

 
 

1年振りのプレスツアー初日。Hallmark局は、団塊の世代が対象なので、昔懐かしいタレントを起用したオリジナル映画満載だ。
映画の広告に登場した俳優エリック・ラ・サールはベントン医師を演じたベテランだが、『ER』のことを聞かれ「良い体験だったけど、過去をほじくり返してもムダ」と、けんもほろろ。確かにそうなんだけど…。私の大好きなカーターをいびる、高慢ちきな外科医は演技ではなかったと確信した次第。
一方、評論家に混じって昼食を共にした『Somewhere in Time』で名を馳せたジェーン・シーモア。6人出産した後も40キロを維持=霞を食べているとばっかり。食べ物を口に運ぶ瞬間を目にしてしまった!
 
Charlie Galley @ Getty Images

[業界コボレ話]
私も初参加させていただいた『Television Week』誌恒例の評論家投票2008年夏版が発表された。最優秀25作の1位に輝いたのは当然と言える『Lost』だが、これがエミーにつながるだろうか? 2位 『The Wire』、3位『30 Rock』。私の大好きなドラマ『Friday Night Lights』は5位で、視聴率1位を誇る『House』より上だったのはうれしい限り。ほかにもうれしいのは、コメディーの秀作『The Big Bang Theory』と『The New Adventures of Old Christine』の入選と、小粒のダイアモンドのような癒し系ドラマ『Eli Stone』が、かろうじて入選したこと!
驚きはCWの『Gossip Girl』が24位に入っていたことだ。ほかにいくらでも質の高い番組はあるのに! 理由が知りたい。
「最悪!」に選ばれたのは懺悔をクイズ番組にした『The Moment of Truth』。人の運命を弄んだ下品な番組だったから当然だ。
ただし、今年1月6日から6月20日までに未放送の逸話を放送していなければ、投票の対象にならない。脚本家のストで今年はスケジュールが大幅に崩れたので、投票したくても資格がない番組もあった。

 
 

ストの影響で、15話のみの尻切れトンボのまま、打ち切り? と懸念された『Friday
Night Lights』。10月からシーズン3が再開される。吉報! と喜んだのだが…。
よくよく聞いてみると、オリジナル番組が欲しかったDirecTVが制作に関与し、今回は13話限り。加入者を増やすための餌なのだ。従って、加入していない私はシーズン3が始まっても、指をくわえて眺めているしかない。
来年2月NBCで放送されるとは言うが、最初から応援していた番組をDirecTVにさらわれてしまったような気がするのは私だけだろうか? 積み残しされたような気分で、DirecTVに乗り換えるより、加入者を探して録画してもらおうと企んでしまう。
 
© SCI FI/James Tappin, © USA Network, All Rights Reserved.

[業界コボレ話]
6月下旬から、HBOやBBCのパイロットが届き、「この調子で地上波局の新番組も来るのか?」と思いきや…。パイロットが間に合わなかった『Crusoe』『My Own Worst Enemy』『90210』、変更だらけの『Life on Mars』『Eleventh Hour』『Privileged』、パイロットの海賊版をYouTubeで観ろと言う『Fringe』など、不安材料だらけ。
最たる例がNBC『Kings』のパネルインタビュー。タイトルや役名から時代劇を想像したが、プロモ写真はNYが舞台の法廷ドラマの雰囲気。プロデューサーの意味不明の説明に、数人が追求し続け、主役のイアン・マックシェインの逆鱗に触れてしまった。評論家に噛みついてどうする? 前途多難の番組だ!

 
 

『Ally McBeal』で、アリーの初恋の相手ビリーを演じたギル・ベローズを覚えておられるだろうか? 同じ役を長く演じたくないと早々に降板し、以来アリーの相手役は入れ替わり立ち替わりとなったが、番組は火が消えたようになってしまった。時々「ベローズはどうしたかな?」と思っていたら、FOXの『24』に出演しているらしい。11月のつなぎ編放送の宣伝にプレスツアーに駆け付けた(写真左端)。
映画、舞台、祖国カナダのテレビに出ていたらしいが、ビリーの面影はどこにもない。髪が薄くなったからか、長めの髪はボサボサ。革ジャンにジーパンで、目に入った瞬間「これ誰?」と思ったほど。歳と共に魅力を増すジョージ・クルーニーの秘訣は何なのだ?
 
© FOX

[業界コボレ話]
米国のテレビ業界もアイデア不足なのか、放送作家ストでシリーズ化が間に合わなかったのか、昨年の海外タレント輸入ブームに変わり、海外の作品を米国版に焼き直すブームのようだ。
話題は、イギリスで放送された『Life on Mars』。デビッド・E・ケリーが米国版にすることで期待が集まったが、フタを開けてみたら、パイロット撮影後にケリーは降りてしまい、主役のジェイソン・オマラのみが残って新制作陣とNYでやり直し。
ほかにもイギリスの作品は『Worst Week』『Eleventh Hour』、オーストラリアから拝借した『Kath & Kim』、珍しいところではイスラエルの番組を焼き直した『The Ex List』など。このブーム、吉と出るか?

 
 

LAに越して間もない頃、『Alias』で注目を浴びたJ.J.エイブラムスにインタビューした。まるで言葉にして発しないと、脳が一杯になるかのように早口で話すエイブラムスを前に、「何歳かな?」と思うばかり。あれから5年余り、14歳にしか見えない!
 
話題作『Fringe』のインタビューに登場。『Felicity』以降は複雑怪奇な筋で有名だが、新作も1話でも見逃すと意味不明になるかと質問が出た。「まだ放送中に、久しぶりに『Alias』を観たら、3分で混乱したよ。『これ誰だっけ?何の関係があるんだ!』と、画面に向かって叫んだほど。あれじゃ、誰も理解できないよ!」と創作した本人の懺悔。あー、良かった。終盤には『Alias』を放棄した私、頭が悪い訳ではなかったのだと納得。めでたし、めでたし。
 
Photo: © FOX

[業界コボレ話]
エミー賞とはスケールが違うものの、テレビ評論家協会も毎年秀作を表彰する。昨年は、『Friday Night Lights』が皆のお気に入りだったので、数部門で表彰されたが、授賞式に参加できず悔しい思いをした。
 
今年は晴れて投票、授賞式にも参加。私のお気に入りは『Mad Men』で、3賞を受賞した。
 
HBOの『John Adams』はミニシリーズ賞を受賞、制作総指揮のトム・ハンクスのスピーチに会場が湧いた。今や映画界の大物だが、駆け出しの頃は『Bosom Buddies』というコメディーで女装していた。ハンクスが『Mad Men』の創作者マット・ワイナーと歓談する姿は感慨深かった。「ここから傑作が?」と、想像力が膨らんだからだ。

 
 

シャンペン色のドレスで、『The Starter Wife』のプレミアを知らせるデブラ・メッシングのUSA局のCF。ハル・ベリーに次いでメッシングのベストドレッサーぶりは有名なのだが…。
 
小枝みたいな身体に、袋のようなグリーンのドレスでインタビューに登場したメッシング。胸元がはだけて、気にしている様子。これってテープで留められるはずでは? ダサいポニーテールもいただけない。評論家仲間に聞いたところ、プレスツアーではベストドレッサーのタイトルは当てはまらないらしい。いつもノーブラで露出度の高いドレスで現れて、目のやり場に困るとか。レッドカーペットに立つ時は、優秀なスタイリストを雇っているに違いない。雲泥の差にがっかりしたというお話。
 
Photo: © NBC/Chris Haston

[業界コボレ話]
職業柄、言葉が放つエネルギーに敏感になり、師と仰ぐオープラ・ウィンフリーを真似て、ニュース番組を日常から閉め出した。心の糧になる番組を厳選して観るようにしている。
 
9月1日号でご紹介した『The Bonnie Hunt Show』が、まさにそれ。「幸せを呼ぶ」トーク番組には、ハントと同類項の地に足の着いた善人が登場する。
 
9月11日のゲストは幼友達に腎臓を寄贈したオースティンと、普通の大学生に戻れたジョナスの若者2人。テロ追悼話でなく、「人間、捨てたものではない!」と心が温まった。貴重なトーク番組も、低視聴率では打ち切られるので、同番組をぜひ観ていただきたい。公開録画体験したい方、この番組は狙い目かも?

放送作家/プロデューサー/監督 スティーブン・ネイサン

情熱を実現した世界一幸せな人間

バッファロー出身。ニューヨークで演劇を勉強、1971年ヒット・ミュージカル『Godspell』のイエズス役で一躍有名になり、ニューヨークとロサンゼルスで舞台、映画、テレビに出演。76年テレビ『Laverne & Shirley』の脚本を書いて以来、放送作家に転身。『Everybody Loves Raymond』『Family Law』『Joan of Arcadia』など300話余りを執筆。現在『Bones』の制作総指揮者の1人として活躍中。

好きなテレビ番組の中でも、『Joan of Arcadia』はソニー撮影所で仕事をしている時に、録画を見学させてもらったので思い入れが深い。創作者はインタビューに応じないので、番組制作者なら誰でも! と思っていたら、『Bones』のパネルインタビューで、スティーブン・ネイサンに出くわし、45話で打ち切られた秀作を偲ぶことができた。

『Joan of Arcadia』には企画から関与されましたか?

ネイサン(以下N):バーバラ・ホールとハート・ハンソンに会った翌年、ホールが『Joan…』を創作。シーズン1半ばで引き継ぎを探していると、ハンソンから連絡がありました。ちょうど仕事を探していたので、ハンソンから10日ほど引き継ぎしてもらって、番組終了まで関与しました。

脚本も書かれたようですね?

N:はい、すっかり惚れ込んだ番組なので。友達の死を高校生がどう処理するかを斬新に描いた逸話が、最も印象に残っています。大学進学で離ればなれになる主人公のジョーンとアダムの不安や、深入りしない決心など、心の機微を描いた心温まる自慢の番組でした。『CSI』に始まった科学捜査ドラマ全盛期で、生きる意味を模索する女子高生の話は、繊細かつ哲学的過ぎて色褪せて見えたのでは?

宗派を越えた「心の旅」ドラマでしたね。

N:神はこういうもの、人間はこう行動すべきと説くのが通常で、「神とは何か?」から入る画期的なドラマだったと思います。日常の現象を見て、偉大な力が宇宙を司っていると認識できても、それを何と呼ぶかは個人が決めること。今、制作しているミステリー『Bones』では、ブレナン博士は無神論者、ブース捜査官は敬虔なクリスチャンと、両極端に設定してあるので、信念を貫く2人に神について議論を交わしてもらいます。

『Family Law』は、映画『Crash』のポール・ハギス、『House』のデビッド・ショアと3人で制作しておられましたが、カナダ3人組ですか?

N:私はバッファロー生まれですから、近いと言えば近いですね。ハギスとショアは『Due South』を一緒に制作したカナダ組。ハギスとは長い付き合いで、制作が決まった時に声をかけてくれました。法廷ドラマを書くのも、制作も、この番組が初体験でした。

家庭裁判所で活躍する弁護士という内容の濃いドラマで、私は大好きだったのですが、気がついたら消えていましたね?

N:キャストが若者ウケしなかったのかな?(笑)。シーズン1は、番組のカラー設定に書き直しばかり。白黒の判定でなく、灰色の濃淡を表現する自由を満喫できる番組でした。

『Bones』は今までの番組とはひと味違いますね?

N:ハンソン創作なので、飛びつきましたが、謎解きドラマは初めて。数学の問題を解くようで、苦労してます(笑)。『CSI』は精巧に創られたドラマですが、私の好みから言うと冷たいと言うか、生真面目過ぎて、息抜きがないと言うか…。どんなに深刻な問題を抱えていても、笑える一瞬があるはず。それが人間でしょ?

舞台俳優から業界入りされて、転身はどのように?

N:1977年に出た『Busting Loose』で共演した友達と一緒に書いた脚本を、創作者ロウェル・ガンツに見せたら、即座に『Laverene & Shirley』のスタッフライターに迎えられました。5年ほど映画に集中しましたが、脚本が放送されるまでの即時性が好きで、テレビに逆戻り。役者は単なる将棋の駒、欲求不満がたまる一方だったので、はけ口が書くことでした。役者から入って、脚本を書いて、プロデューサーになり、監督もして、世界で1番幸せな人間です。情熱を実現できるって、稀ですからね。

好きな番組の打ち切りは、ファンにはショックですが、創作者にとっては泣きの涙ですか?

N:馬鹿と思われるかもしれませんが、制作して放送されただけで満足です(笑)。創作の過程が楽しくて。

放送作家を目指している人に。

N:私は幸い役者から転身したので、偉そうなことは言えません。現在放送されている好きな番組のカラーを的確に表現した一話を書いて、エージェントを探すことかな。新人ライターを育てる、気の長いエージェントが理想的ですね。

[業界コボレ話]
エミー賞候補が発表された。Academy of Television Arts & Sciences(ATAS)の新選考法のおかげで、今年は晴れて第2次選考会員となり、ドラマとコメディー各10本を5本に絞る過程に参加。エミーの歴史に参加でき、この上ない名誉!
以前は地味な秀作が候補にあがると、「さすが!」と業界人を賞讃したが、番組単位ではなく、選考日に観る逸話で採点する義務があるので、欠かさず観ている番組では、「えー! 何でこの話?」と、選択を疑うことしきり。
最優秀ドラマ候補にあがった『Boston Legal』は、1年以上前に見切りをつけた番組だったが、カトリーナ被災を扱った逸話は涙を誘った。どの逸話を提出するかが決め手という裏話である。最優秀逸話ドラマ部門と呼ぶ方がふさわしい!?

俳優/コニー・ブリットン

対等な夫婦なんて羨ましい!

ボストン生まれ。7歳でバージニア州の田舎町に引っ越す。学芸会の脚本を書く程、芝居に魅せられたが、ダートマス大学ではアジア学を専攻、中国へ短期留学した。同大卒業後、ニューヨークに引っ越し、演劇を勉強。舞台、映画での活躍が認められて、テレビ進出のためロサンゼルスに。『Spin City』に配役され、ニューヨークに逆戻り。『The West Wing』『24』を経て、2006年より『Friday Night Lights』のタミー・テイラー役で活躍中。

マイケル・J・フォックスとコメディー共演経験もあるコニー・ブリットン。『Friday Night Lights』では、コーチの妻・タミー役を熱演し、エミー賞候補の噂もある実力派に飛躍。夏休み中も、番組のプロモーションに多忙なブリットンに聞いてみた。
 
(c)2007 Turner Broadcasting Systems

『Friday Night Lights』は、1話から質がまったく落ちなかった稀な秀作ですが、秘訣は?

ブリットン(以下B):パイロットはピーター・バーグが監督しましたが、制作が始まると、私たちはロケ地のオースチン、ライターはロサンゼルス、監督は毎話替わる、ショーランナーも違うなど、正直言って不安でした。でも、台本も良いものが上がってきたし、撮影班も第一級…、プロ意識と番組への情熱が快挙の秘訣かしら。

バーグ監督のビジョンが、全員に浸透していたんですね。

B:本から映画、映画からテレビと展開する4年間に、何をどう語りたいかが固まった、バーグの情熱の結晶です。原作は1988年のフットボールシーズンをルポしたものですから、テレビ用に登場人物を創作し、制作に入る前から役作りについてとことん詰め、キャストと制作陣にビジョンが明示されました。

フットボール文化を体験した私には、懐かしいドラマであり、アメリカが今抱えている問題も盛り込まれていて、新鮮でもあります。

B:私はバージニアの田舎育ちなので、都会っ子には想像できないほどフットボールは好きですよ。でも、テキサスってフットボールに対する思い入れが尋常でない、根が深いと感じる貴重な体験の毎日でした。

テレビ版では、タミーを芯の強い南部の女にするとバーグ監督が約束してくれたから、この仕事を受けたと、プレスツアーで発言しておられましたが?

B:フットボールのドラマに女の出番があるの? と不安だったし、従来、コーチの妻/主婦/母親=刺身のツマ、だったので、古い習わしを打ち破れるのだろうか? と心配でした。タミーだけではなくて、女性がしたたかに描かれているので文句なし。大満足です!

エリック・テイラー(コーチ)の口癖「女房に聞けば間違いない」は、下手をすると恐妻家の逃げ口上に聞こえますが、タミーは人生の羅針盤として絶対的信頼を得ていますね。

B:エリックとタミーは真の伴侶だと思います。女房の尻に敷かれた男が、嫌味や皮肉で言っているのではなくて、深い信頼の絆が根底にある理想的な夫婦。対等な夫婦なんて羨ましい。

配役はどちらが先に?

B:カイル・チャンドラーに決まるまでに、随分時間がかかったようです。私は映画版でも、コーチの妻役をやらせていただいたのですが、当時、まだテレビドラマ『24』に出ていて、「どうしよう?」と迷っていたなんて信じられないわ(笑)。

アジア学専攻から俳優という転向に驚きました。

B:小さい頃から芝居が好きでした。異文化や未知の世界を見て博学になると、芝居の助けになるかな? と思って、中国に短期留学して、中国語をちょっと。丁度、中国への関心が高まっていたし、第1外国語を決める時に、バージニアの田舎では絶対に考えられない言語が良いと思って。少々遠回りはしましたが、芝居で食べていけるのは、夢のような話。

夏休みはどうされますか?

B:久々にLAでゆっくりしたいとも思うし、エチオピアの孤児の目から見たドキュメンタリーを3年も編集しているので、今年こそ完了させたいとも思うし。秋にオースチンに戻った時、充実した夏だった! と言えるように頑張ろうと、意気込むだけ(笑)。

シーズン2も素晴らしい演技を期待してます。

B:去年の夏、プレスツアーでおっかなびっくり番組発表した時から、ずっと応援してくださって感謝してます。良い作品と信じて支持してくださった評論家から元気と勇気をもらいました。皆さんの応援と口コミがなかったら、とっくの昔に打ち切りになっていたと思います。

[業界コボレ話]
2007-08年の新番組の中で、「面白そう!」と思った3作品。
まず、『Big Shots』は結婚や恋愛に一喜一憂する、女性化した男4人組の物語。マイケル・バルタンとディラン・マックダーモットが主役のちょっと美味しいドラマ。目の保養にもなりそう。
ホッとするのは『Samantha Who?』。記憶喪失になって自分が「嫌な女」だったと知り、善人になろうと試行錯誤しながら第2の人生を歩むサム(クリスティーナ・アップルゲイト)のコメディー。明るく、楽しく、笑える!
リアリティー番組では、『Kid Nation』。8~15歳の子供40人が、ゴーストタウンを切り盛りする様子を記録したもの。大人顔負けのパイオニア精神と民主政治が期待できそう。

脚本家/制作総指揮 グラハム・ヨースト

米国の健全さ、懐の深さに脱帽!

トロントで生まれ育ったが、今年米国に帰化。大学卒業後、ニューヨークでテクニカルライターの仕事を5年、1987年LAに。『Hey Dude』で放送作家の訓練を受け、『The Powers That Be』『Band of Brothers』等を経て、2002年『Boomtown』で注目を浴びた。映画『Speed』『Broken Arrow』等、映画とテレビの世界で活躍。『Raines』が打ち切られ、『Band of Brothers』続編の脚本を手直し中。

1件の犯罪を複数の「目」で語る異色捜査ドラマ『Boomtown』を創作したグラハム・ヨースト。被害者と対話して殺人事件を解決する『Raines』でも、ヨーストらしいユニークな世界を映像化したが、いずれも短命に終わってしまった。「よそ者」の観点から米国を語る放送作家として、今後も大いに期待したい。

『Raines』が継続されなくて、とても残念です。

ヨースト(以下Y):今朝、娘の学校で話をする際に、パイロットを観せたんですが、映像がキレイなので、我ながら感心してしまいました(笑)。「新番組だったらヒットするかな?」程度の後押しだったので、仕方ないと思っています。NBCが空前のヒットを模索するのはわかるのですが…。

『Boomtown』も24話まで。あの体験から何を学ばれましたか?

Y:編集室で通しで観ると筋が通っても、コマーシャルでぶつ切りになって、「誰の視点だっけ?」と混乱を招いたので、HBOで制作すべきでした。物書きとしては、配役が良ければ良い本が書けるというのも実感しました。短時間で台本を書けると自負していましたが、テレビは時間との競争。「完璧ではないけど、この辺でいいか」の妥協ができるようになりました。でも、優秀な撮影班を雇えば、筋を書き換えて、方向転換が容易にできる媒体ということも学びました。

昔から脚本家を目指しておられたのですか?

Y:父がカナダの映画評論番組に出ていたので、芸能界にどっぷり浸かって育ちました。今でも、「最近、面白い映画観た?」で会話が始まるほど。それでも具体的に計画があった訳ではなく、大学卒業後2年程トロントで遊んでから、真面目にやろう! と。ニューヨーク大学で夏期講座を取ったし、友達もいたので、自然にニューヨークに足が向きました。『Soap Opera Digest』『Spy-Tech』『Vitamins & Minerals』など、原稿料を払ってくれるならどこにでも投稿して、5年(笑)。

腰痛からスパイ用具の記事まで、テクニカルライターとして活躍された後、芸能界への転向はどのように?

Y:出版社の友達を通じて、素敵な女性に会ったのですが、残念ながら彼がいて…。彼がNickelodeonで番組制作をしていて、皮肉にも仕事をもらいました。1年後、同局初のオリジナル番組『Hey Dude』のライターに起用され、本格的に放送作家になりました。2年ほどして映画の企画を思いついたので、友達に話したら面白いと言われて。『Speed』が生まれて、人生が大きく変わりました。

いつもユニークな世界を創造されますが、今後の企画は?

Y:『Band of Brothers』続編の本の手直しをしています。舵取りは、スピルバーグとトム・ハンクスに任せています。でも、『Boomtown』も『Raines』もアイデアから編集までやったので、いったん何もかも仕切ってしまうと、一部だけに関わるのは歯痒いですね。この2作はどうしてもやりたくて我慢してもらいましたが、ロサンゼルスに住んでいないので、家族にも負担が…。それを考えると、次は映画が良いかな? と。今のところ未定です。

米国に帰化されて、プレスツアーにミニ星条旗を持って登場されましたが、ユニークな観点は変わりませんね?

Y:「よそ者」の目で客観的に見ているから、ここで生まれ育った人とは違いますね。文化的背景が違うと、周囲を見るフィルターが違いますから。慣れっこになってしまって気がつかない点を指摘できるし、そういう観点を発表する機会があるのが米国の健全さ、懐の深さですね。

お手本にしてこられたのは?

Y:やればできる! と示してくれた父。何冊も本を出しましたから。それと、英国生まれ、トロント育ちで、『The Flying Nun』や『The Partridge Family』などを創作し、ハリウッドで大活躍したバーナード・スレード。背景がよく似ているので、希望を与えてくれた人です。
 
(c)2007 ABC FAMILY

[業界コボレ話]
2007-08年の新番組は、主役に新人を起用した番組が圧倒的に多い。ネームバリューがない分、内容で勝負に出るのか? と観たが、それも期待薄で、「ワクワク度」が上がらない。
『Sex & the City(SATC)』の原作者・ブッシュネルの本『Lipstick Jungle』のTV化と、『SATC』の制作者・スターの手になる『Cashmere Mafia』は、富も地位も手にし、”Mr. Big”になった現代女性を描く酷似作品のようだ。
コンピューターオタクがスパイに変身する『Chuck』、社交性ゼロのオタクコメディー『The Big Bang Theory』『The IT Crowd』、悟りの境地で事件解決に乗り出す元囚人の『Life』、元悪徳弁護士の『Eli Stone』は異色だが、長続きするか? 根暗ムードが続きそう。

監督/俳優/歌手/実業家 コニー・スティーブンス

「生きる=美しい」の方程式に書き替える

ジャズミュージシャンの両親の影響で、幼い頃からバンドで活躍。14歳で父に付いてロサンゼルスに移住し、映画『Rock-a-Bye Baby』でデビュー。ワーナー・ブラザース初のアイドルとして養成され、『Hawaiian Eye』のクリケット役で世界的に有名に。芸能界で活躍しつつも、Forever Springs化粧品で富を築き、実業家の手腕も発揮。俳優の地位向上のためSAG役員として活躍する傍ら、今夏初めて映画監督に挑戦、俳優とは逆の立場を体験予定。

『Hawaiian Eye』のお茶目な歌姫・クリケット役で全世界を魅了した、往年のアイドル、コニー・スティーブンス。そのスティーブンスにインタビューが叶って、感無量! 子供の頃、こんな日が来るとは想像だにしなかった。『Hawaiian Eye』以降、ほとんど見かけなくなったスティーブンスの近況を聞いたが、昔話に花が咲いて…。

ご両親ともジャズ界のプロ。芸能界入りを目指してLAに?

スティーブンス(以下S):父にくっついて越して来て、具体的な計画があった訳では…。好きなことをやっていれば、いつか認められるってナイーブに信じていました。

ジェリー・ルイスに抜擢されて、一躍アイドルに?

S:ワーナー・ブラザースに移って1年ほどゲスト出演して、芝居の実地訓練を受けた後です。当時は流れ作業の大量生産を目指した“Studio System”で、お抱えはベルトコンベアに乗せられて、撮影所の言いなり。でも、給料をもらって好きなことをさせてもらえるだけでありがたかったわ。「スターになりたい!」ではなくて、「次に何をさせてもらえるの?」って、無邪気に目を輝かせている17歳でした。『77Sunset Strip』が登場して、私立探偵モノが売れたから、私の番組の舞台はハワイにしてってお願いしました。ハワイのクラブで歌って本土に戻ったばかりで、ハワイが大好きだったので。まだハワイが州になる前のことよ。

クリケットは、テレビアイドル第1号だったそうですね?

S:独り暮らしの歌姫/カメラマン、しかも探偵の真似事までさせてもらうおてんば。当時は、どんな波紋を投げかけているか考えたこともなかったけれど、ずっと後になって脚本家と話していて、「働く女」の先駆けだったと気が付きました。女の自立に向かって視聴者の意識を少しずつ変えていたなんて、テレビの力って凄いわね!(笑)。

相変わらず魅力的な声なので、ジャズCDが聞きたいです。

S:アラスカの秘境で、目だけしか見えない完全装備でお土産物屋に入って口を開いたら、「コニー・スティーブンスじゃないか!」と地元の老人。中国でも声でバレてしまって、お忍び旅行はできないって娘が笑うの(笑)。番組が大ヒットして音楽活動を辞めてしまったことを、ビル・コスビーに「宝の持ち腐れ!」と、叱られたことがあります。ラスベガスで時々ショーを上演して満足してたけど、映画が終わったら、新しいアルバムを考えてみるわ。

実業家としても大成功を収めておられますね?

S:インフォマーシャルの出演依頼がありましたが、商品が気に入らず、「こうした方が良い」「あれを使ったら?」などと提案しているうちに、「納得のいく化粧品を作ってみたら?」と、言われて化粧品事業を始めました。離婚して、娘がまだ学校に行っていたので、収入になると思って飛び込みましたが、芸能界の仕事も続けられて…。もう15年になります。

慈善活動、俳優組合の役員もしておられますが、よく時間がありますね?

S:1日36時間あれば良いのにね。ブルックリン時代、祖母が作った差し入れをホームレスに届けて、食べるのを確認するのが、小学生の私の仕事でした。この歳になって、子供の頃の習慣を実行しているだけです。

今後の夢は?

S:7月から自作の西部劇を映画化します。随分前に書いたものですが、長い間映画にしたい、したいって言っていたら、友達に「自分で撮ればいいじゃない?」と言われて、決心しました。心の準備ができたので、ミズーリ州で撮影開始よ。

美しく歳を重ねる秘訣は何ですか?

S:キレイに歳をとるぞ! って宣言するのが第一歩。美=若さの方程式が崩れない社会では至難の業ですが、「美」を追いかけるのではなく、「生きる=美しい」の方程式に書き替えましょう! 心身ともに健やかになるには、しなやかさ、明るい展望、不平不満をためないこと。胸のわだかまりをさっさと処理して、滓をためないと、キレイに歳を重ねることができます。

[業界コボレ話]
『Grey’s Anatomy』シーズン3は、創作者のライムズがスピンオフに気を取られ、お粗末そのもの。シェパード医師の女々しさが、目についた。恋人メレディスが九死に一生を得たのに、生きる気力の希薄さを拒絶反応と読み取り、事故以来すねたまま。優柔不断を絵に描いたようなジョージが、妻ケリーとイジーの間を揺れ動くのは仕方ないとしても、女が強いから番組がもっていたと言うのに…。
夫とヨリを戻せないアディソンは、愛人マクスティーミーも放り出し、子供が欲しいとLAへ。誰よりも雄々しかったケリーまで、夫をつなぎ止める手段に「子供」ときた! 「動機が不純?」と問題にならない所が、昼メロに成り下がったと批判したくなる所以。

制作総指揮者/ヴィーナ・スード

ハリウッドって、意外と公平!

コロンビア大学の映画・テレビ学学士号、1999年にニューヨーク大学(NYU)の修士号を取得。ジャーナリスト、リアリティー番組の監督を経て、2002年ABC / Disney Writing Fellowshipを獲得。テレビ番組『Push, Nevada』で実地訓練を受けたが打ち切られ、『Cold Case』創作者に抜擢されて、シーズン1から関与。4年でスタッフライターから制作総指揮者に昇進、エリート街道まっしぐらのインド系アメリカ人。今後の活躍が大いに期待される有望株。

シーズンを重ねるごとに、いぶし銀のような味わい深さを放つ『Cold Case』。立ち上げ時から創作者を支え、遂に番組の舵取りを任されたヴィーナ・スード。出世街道まっしぐらのスードは、放送作家養成奨学金のおかげで、今日の自分があると言う。このいわゆる「徒弟制度」の効果のほどを聞いてみた。

修士号取得からハリウッドへはほんの数年ですね?

スード(以下S):1999年にNYU(ニューヨーク大学)を卒業して、リアリティー番組『The Real World』の監督の仕事にありつきました。ABC / Disney Writing Fellowshipを獲得して、ハリウッドに来たのが2002年1月。脚本家や放送作家を育てるための徒弟制度のようなもので、最初に手がけたのが『Push, Nevada』。プロに混じって創作過程を体験させてもらいました。番組は打ち切られましたが、幸運にも(『Cold Case』創作者の)メレディス・スティームに拾ってもらいました。女刑事って、ほとんどが刺身のつまでしょ(笑)。駆け出しなのに、女刑事が主役の番組で働けるのは光栄の至りです。

リアリティー番組体験は、冷たい目で見られませんでしたか?

S:低予算でササッと制作した程度の低いものと、一般的には批判されましたが、隠れてこそこそ観ている人も多かったので、制作体験やコツなどをよく聞かれました(笑)。裏話やここだけの話など、皆、興味津々で、話のネタに困らなかったし、脚本で評価してもらいました。ハリウッドって、意外と公平。

制作総指揮者(Exec. Producer)が、番組制作者の中では1番上の地位ですよね?

S:スティームにスタッフライターとして雇われ、ストーリー・エディター、上級ストーリー・エディター、副プロデューサー、プロデューサー、中級プロデューサー、副上級プロデューサーを経て、シーズン4でスティームと同じ、EPに昇進しました。

EPの仕事内容は?

S:スティームに替わって、番組の舵取り、ライター雇用/養成、監督選択など、制作の指揮役です。CBSや撮影所との接点でもあります。責任重大ですが、経験豊かなスタッフに囲まれているので、何とか…。

迷宮入りした事件捜査ドラマ『Cold Case』の制作で、1番のご苦労は?

S:年代も設定も、毎回舞台が変わるので、ミニ映画を1本撮るほどの労力がかかる点です。

テクニカル・アドバイザーを雇っておられるとか?

S:番組のモデルの現役刑事の携帯に電話して、仕事の邪魔を(笑)。セット常勤は、元LAPDの刑事さんです。

シーズンごとにどんどん良くなる稀な秀作ですが、秘訣は?

S:ビジョンを的確にライターに伝えられる頭の良いスティームは、番組のカラーやキャラクターをしっかりと定義して礎を築きました。お陰でライターは自由に好きな「家」を建てられます。間違った建材で家を建てようとすると、指摘される前にライターが気づきます。4シーズン分の台詞をすべて記憶しているライターもいるんですよ!

音楽もキャラクターと言えるドラマですが、選曲はどのように?

S:脚本を書くライターに任せています。筋書きと年度に合わせて、ヒット曲のリストをもらって選ぶ、1番楽しいプロセスです。CDが届いたら、聴き込んでムード作りに使います。音楽好きのライターは、好きな曲から物語を創作します。執筆中に「完璧!」と思っても、画像にかぶせると合わなくて、夢にまで見たシーンがコロッと変わってしまい、がっかりすることもしばしばなんですよ。

撮影所のライター養成課程はおすすめですか?

S:まともに正面からアプローチしようと思えば、まずエージェントを見つけないといけない。新人は経験がないから、エージェントは作品を読んでくれないという悪循環を避けられます。業界トップの重役やプロデューサーが、直々に手取り足取り指導しますから、放送作家を目指す人には、夢を実現する最短距離ですね。

[業界コボレ話]
米国テレビ技術科学アカデミー(ATAS)で、『Medium』の創作者グレン・ゴードン・キャロンと主役俳優が、舞台裏を披露するイベントに参加した時のこと。終了後、昨年インタビューさせていただいたお礼をと、キャロンを目指したが、既にファンに囲まれていた。
私の挨拶はすぐに終わるんだけどな…と、我慢強く待った。年輩の女性は、放送日を月曜日に戻せと粘り、アジア系の中年女性は自筆の脚本を手渡そうとした。脚本はエージェントか弁護士を通さない限り、絶対に受け取ってもらえないのが常識だが、食いさがる。
仕方なく1歩前に踏み出した途端、作家志望が般若の形相でギロリ。「ギョッ!」。「assertive」と「aggressive」の違い、聞いてないの!?

俳優/解放運動家 キャシー・ナジーミ

自信のない人が煙幕をはるもの

サンディエゴで生まれ育ったレバノン系2世。幼い頃から自作自演が得意で、サンディエゴ州立大学で演劇と女性学を専攻。芝居仲間と書いた『Kathy and Mo』をニューヨークでヒットさせて注目を浴び、1992年映画『Sister Act』で一躍有名に。テレビでは『Veronica’s Closet』やアニメ『King of the Hill』のペギー役の声優を経て、2006年11月より『Numb3rs』のフィンチ学部長役で活躍中。子育てと解放運動に多忙なため、今回の脇役は理想的と話す。

映画『Sister Act』で演じた無邪気なシスター・メアリー・パトリックは、ミッションスクール体験で傷ついた私を癒す力があった。ナジーミもサンディエゴ州立大学(SDSU)が母校と聞いてますます親近感を感じ、長年インタビューしたいと思っていた。画面で観る前向きの姿勢と逞しさは本物で、すっかり元気をいただいてしまった。

『Numb3rs』のフィンチ博士はバランスのとれた素敵な女性ですね。

ナジーミ(以下N):子育てに忙しくて、TV出演は考えていなかったのですが、嘘がないミリーに惚れました。「デキる女」は皆、ネコに囲まれて、寂しく冷凍食品を食べてる訳じゃないのよ! と、表現したくて(笑)。

創作者に会って感激したので、欠かさず観ています。

N:内容が内容だから、時々訳がわからなくなったりするけれど、「数学って意外と面白い!」と思わせるのは、並大抵の仕事ではありません。創作者の頭が良いってことね。

芝居への興味はいつ頃から?

N:歌ったり、踊ったりが好きで、政治に興味がある変な子でした。SDSUに入った時には、信条を芝居で表現したいという野望があって、演劇と女性学を専攻。”Sisters on Stage”という女性解放が目的の劇団で芝居をしましたが、大学でも演劇部の芝居には配役されませんでした。だから、友達のモー・ギャフニーと、ウーマンリブを面白おかしく描いた『Kathy and Mo』を書き下ろし、サンディエゴで2年上演して、ニューヨークに乗り込みました。最初はキャバレーで上演して、オフ・ブロードウェイからHBOスペシャルになりました。

女性以外にも、数々の団体のために奔走しておられますね?

N:ある程度名前が知れたので、今のうちって感じで、あちこちで講演したり、アラブ系アメリカ人、ゲイ、動物など、さまざまな団体の支援をしています。サンディエゴは、「ビキニ姿の金髪美女が日光浴している」イメージで、そこから外れるとよそ者扱いされるビーチタウン。子供の頃、「絶対に成功しない人」というレッテルを貼られ、学芸会に出してもらえない、演劇の授業さえ受けられないのけ者でした。「今に見ていろ!」と、劇場の案内係のバイトをして、プロの芝居をいっぱい観て、自作自演しかないと学びました。私の思春期の70年代は、ウーマンリブや人権運動華やかなりし頃で、体制に疑問を抱くこと、変えようと運動を始めることが奨励された時代だったから、活動することが当たり前になってしまいました。

日本人の俳優志望者に先輩からひと言。

N:尊敬する人が、いかにそこまで辿り着いたか研究することをおすすめします。100万人に1人しかハリウッドでは成功しない、型にはまらないからダメと、頭から否定的な業界人がごまんといますが、あれは「自分の仕事を取られるのでは」と、自信のない人が煙幕をはっているだけ。人生一度、可能性は無限!を信じて、挑戦しましょう。私でさえ「隙間」を見つけたのですから、誰でもやればできるはず。絶対に諦めないで!

[業界コボレ話]
3時間近く惨殺と謎解きを見せられた挙句、「えっ? 結局、何なの?」と、時間を無駄にされた映画『Zodiac』。
テレビ映画でも最近は2時間がせいぜい。面白くなければ、チャンネルを替えれば良い。おまけにテレビは無料だし、出かける手間も一切不要。
イベント性が良いと映画好きは言うに違いないが、忙しい私にはイベントもへったくれもない。さらに、「なぜ」を追求したがる日本人の悪い癖が遺伝子に組み込まれているせいか、猟奇殺人犯の動機が提示されないと、不満が募るだけ。
終止符を打つことが生きて行く上で大切と悟った今、1話完結型の人間ドラマ『Cold Case』や『Without a Trace』が、ますます光り輝いている。

俳優/オードリー・マリー・アンダーソン

(情熱+献身+やる気)×2

幼い頃からモデルをし、日本で働いたことも。ニューヨーク在住中に演劇学校で訓練を受け、エージェントに巡り会い、ロサンゼルスに。1994年『Beverly Hills 90210』の端役に始まり、『Once and Again』のカーラ役、『Without a Trace』等にゲスト出演。TV映画『A Painted House』や映画『Drop Dead Sexy』『Moonlight Mile』を経て、2006年1月より『The Unit』のキム役で活躍中。

『The Unit』のキム役、オードリー・マリー・アンダーソンと夫・ボブ役、スコット・フォーリーに会うと、話題は決まって日本。スコットは幼い頃の体験談、アンダーソンはモデル時代に回った九州の話。おまけにアンダーソンは、大の日本びいきのレストラン経営者の恋人と、昨年日本の市場調査に出かけた。シーズン2の撮影も残りわずか、初めての大役・キムの成長ぶりを聞いてみた。
 
ⓒ2006 CBS Broadcasting Inc.

キムが1番苦労の多い役ですね。

アンダーソン(以下A):夫の居場所も知らされない、上司夫人からは女の役目を諭され、キムは必死で抵抗しました(笑)。状況が掴め、キムの目標は家庭を守ることで、服従しかないと悟りました。我が道を行く女は強いけど、妥協できる女も別の強さを持っていると思います。

キムの抵抗を応援していたのに、最近の「長い物には巻かれよ」が残念です。

A:ライターはムラ社会順応を選んだので、簡単に「巻かれて」ほしくない私は、抵抗があります。シーズン1はあがき、2は服従。納得しての服従ではないので、3ではまた摩擦が起きるようです。

夫は職場での出来事を妻に打ち明けられない、妻も留守宅を守る苦労を夫に伝えない。それで夫婦は成立するでしょうか?

A:話し合いがないと、長続きしないでしょうね。でも、強い絆があれば、秘密の部分があっても大丈夫なのでは? 夫不在の暮らしを確立してしまうと、退職した時が…(笑)。

日本の熟年離婚がまさにそれですね。

A:相手が何を考え、どう感じているか不明のまま何十年も経つと、向き合った時には「こんなはずでは?」と、思うからでしょ。感情や意志の疎通がないと、人間って他人に戻ってしまいますね。

キムが夫の使命を夢で読み取ってしまう「Sub-Conscious」が斬新でした。

A:夢や第6感など超能力の域だったので、番組のジャンルから離れるのではと、躊躇したようですが、創作者のマメットが「やってみよう!」と。

俳優への転身は?

A:子供の頃から役者になりたくて、モデルは予行演習。お金も貯まったので、「いざっ!」て感じでね(笑)。ニューヨークにいる間に演劇学校に通いました。幸い、すぐにエージェントが見つかって、仕事が入るようになりました。

ロサンゼルスで仕事を始めて何年ですか?

A:7年前の『Once and Again』が、初めて役が付いた仕事。『The Unit』のキム役は、別の人でパイロットを撮影後、再度オーディションがありました。自分では適役と思っていなかったので、びっくり! 今考えると、気の強い女が求められていたから、私になったのね(笑)。

日本人の俳優志望者にアドバイスを。

A:言葉と文化の壁があるから、人の2倍も3倍も大変だと思いますが、(情熱+献身+やる気)×2かしら? 良い刺激をくれる人で周囲を固めて、もらったエネルギーを宇宙に戻すことですね。

[業界コボレ話]
地上波5局のうち、視聴率で言うと4位のNBC。今シーズンは話題作が数本出て、「質」を強調するものの、『Heroes』しかヒットしなかったので、気になるのは話題作の今後。
『Friday Night Lights』が、放送界で最も権威あるピーボディーを受賞して、おっかなびっくり6話のみ更新、『30 Rock』はシーズン2を迎えることになった。ベテラン『Medium』も6話のみの更新。放送時間を『Studio 60』に明け渡し、移転した先が『Lost』の裏。それはないよ!
視聴率が下がったのは編成の問題。おまけに、『Studio 60』を数話で打ち切ったNBC。視聴率が取れないのは当然と言える。「質」を謳うなら、もとの鞘に収めていただきたい。

脚本家/プロデューサー ジェニー・ビックス

おっかなびっくりの領域に追い込む

生粋のニューヨークっ子。広告代理店で5年間勤務後、コメディアンを目指してGotham City Improvに入団。舞台に立つより、脚本家の道を選び、ロサンゼルスに移住。『Seinfeld』『Dawson’s Creek』の逸話を執筆後、映画『What a Girl Wants』『The Nanny Diaries』の執筆も手がけた。『Sex and the City』で数々の賞を受賞し、『Leap of Faith』を経て、2006年より『Men in Trees』で活躍。夢はミュージカルの創作。

ウッディー・アレン監督を崇めながら大人になった、生粋のニューヨークっ子、ジェニー・ビックス。一世を風靡した『Sex and the City(SATC)』でロマンチック・コメディーの腕を磨き、現在『Men in Trees』を制作中。バンクーバー=ロサンゼルスの往復を繰り返す、ノリにノッているビックスに聞いた。
 
Photo: Photographer/Christina Peters

面白いだけでなく、貴重なメッセージが盛り込まれた、勉強になる番組ですね。

マリンのナレーションは私が書くので、「役に立つ」とか、「生き方を見直した」とか聞くのは何よりうれしいです。「快適な生活と引き替えに?」と、おっかなびっくりの領域に主人公を追い込むとドラマになるし、マリンの二の舞を踏みたくない視聴者に予防策を提示できたらと。

親友ジェーンが、アラスカの恋人とは長続きしないと悟って、ニューヨークに帰ったのは賢明ですね。「デキる女」症候群として書かれたのですか?

恋愛ではどうしても女が舵取り役ですが、社会でも女の方が「デキる」と、両方に力の配分という負担がのしかかります。「デキる女」だけど、愛も家庭も諦めていないという面は、第2話でマリンのウェディングケーキを捨てきれないジェーンで表現しました。でも、彼には「デキる女」の面しか見せていないので、深入りすれば衝突の危険が…と、ニューヨークに逃げ帰りました。

ABCへの売り込みはどのように?

タネを明かすと、87年に『Susie’s Alaska Men』という雑誌を見たABCが、テレビ化の権利を買ったことが発端で、制作してみないかと、お話がありました。男は懲り懲りと失望した女を、男世界に放り込んだらロマンチック・コメディーになります。『SATC』のライターが、いつも「恋愛の大家」として引き合いに出され、何も悟っていないから失敗談が書けると主張しても、誰も信じてくれなかった。その体験から、祭り上げられた大家の「医者の不養生」を描きたいと提案しました。

放送作家になるまでの経緯を聞かせてください。

広告代理店に5年勤め、企画・売り込みをじっくりと仕込まれました。退職してGotham City Improvという即興劇団に入ってコメディアンを目指しましたが、舞台に立つより脚本を書く方が性に合っていると悟って、LAに来ました。マイケル・パトリック・キングというプロデューサーと仕事をしたおかげで『SATC』に引っ張ってもらいました。

ロマコメを選ばれたのは?

昔から夢や希望が一杯のロマンチックな話を書くのが好きで、書いているうちに専門になってしまったというのが本当のところ。恋愛関係を分析して、それを乙女チックな目で見るのが好きです。スパイものを書けと言われても絶対無理!(笑)

同ジャンルを目指しているライターにアドバイスを。

どのジャンルでも同じですが、書けば書くほど上達するはず。大切なのは、「どうしても伝えたい!」と、情熱を注ぎ込める内容を選ぶこと。自らの感動体験は、絶対に人の心を動かすものです。

[業界コボレ話]
『Dancing with the Stars』がシーズン4にして、これまでの視聴率を上回って華やかに再登場した。日本で同様の番組を観たが、若い女優対中年女優の一騎討ちだった。ぴちぴちギャルはフラメンコの大御所から、中年女優は日本人夫婦プロから手ほどきを受け、最後にプロ3人が判定する趣向。
ギャルの飲み込みの早さには、師匠もびっくり! しかし、練習しないので、大御所が激怒。一方、中年は、勘も覚えも悪いが、師匠夫婦に励まされて毎日努力する。早い話が、ウサギとカメ。
カメの勝利を目の当たりにし、私の人生に出没するウサギがちらついた。カメの底力と努力の価値を再認識させる良い番組だった。日本人って、根性モノ=努力が大好きな国民なのだ!

エンターテイメント・ライター/ジム・コルッチ

生みの苦しみは記憶に残らない

ペンシルベニア大学でコンピューターとマーケティングを専攻しながら、学園誌に映画評論を投稿。プログラミングやメディアリサーチを経て、『TV Guide』『CBS Watch』『In Touch』誌に投稿するライターに転身。著書に『Will & Grace: Fabulously Uncensored』『The Q Guide to the Golden Girls』。アニメ番組の企画、衛星ラジオ放送でテレビ評論、他分野の本執筆など活躍は多岐に渡る。夢はテレビ番組創作。

プレスツアーで知り合ったジム・コルッチは、テレビ番組のオフィシャルガイドを2冊も書いた大先輩。ツアー終了後、『The Q Guide to the Golden Girls』の出版記念イベントに招待された。『Desperate Housewives』の創作者、マーク・チェリーをパネラーに迎える程、今を時めくコルッチだが、素顔は意外や意外…。
 
Photo: Photographer/Erica Berger
ⓒLifetime All Rights Reserved.

大物、チェリー参加の楽しいパネルディスカッションでしたね。

コルッチ(以下C):3カ月前からおうかがいを立てていましたが、スケジュール調整ができるか不明という返事ばかり。半ば諦めていたら、12月中旬に確約の電話が入って。『The Golden Girls』で放送作家として1人前に育ててもらった思い入れが深いし、裏話を披露する機会は珍しいから、休みを返上して来てくださったのでしょう。本を書く時も、『Desperate Housewives』で復帰直後の忙しさの中、2度もインタビューに応じてもらって、感激!

『Golden Girls』のどこに惚れ込んで、本まで書かれたのですか?

C:「女友達は永遠!」。恋人も欲しいけど、結婚する必要はない。傷つけば友達とチーズケーキに慰められる。共感する女性は多いはず。知的な台詞と衣裳は、ゲイ仲間に大受けなので、本の切り口はゲイの視点です。

大好きな番組の本を2冊書いて、「やった!」と思った瞬間は?

C:憧れの創作者と俳優に会えたこと。フリーのライターの醍醐味は、憧れの人を目前にして、「夢じゃないよ! よくここまで来たもんだ!」と思う瞬間。幸せの頂点では「生みの苦しみ」は、記憶に残っていないから不思議(笑)。あの頂点よ、もう1度→次を書かなきゃ! と焦る程。

昔からジャーナリスト志望?

C:作文が好きなテレビっ子でしたが、気後れして将来の夢はジャーナリストとは書けない子。専攻はマーケティングとコンピューター! 数学や分析は嫌いではないけど、コンピューター専攻なんて自虐的ですよね(笑)。気が狂わないように、学園誌に映画評論を投稿したり、暇を見つけては書いてました。「いつかプロに」が、心の隅にあったのかな? でも、「テレビのことを書こう!」と決めてからですよ、飛躍できたのは。

卒業後、すぐに決心を?

C:とんでもない! 就職して経理関係のプログラミングを少々、広告代理店に転職してマーケティングを7年。会社は食べるためと割り切って、「メディアリサーチが大好き!」という演技を続けつつ(笑)、フリーで投稿していました。昼間にインタビューが入り、個室の戸を閉めてこそこそやったり、取材で休暇を取らざるを得なくなったりして、「限界!」と退職。

もの書きにアドバイスを。

C:書いて、書いて、書きまくること。好きな番組のスペックやパイロット、企画書など。いつか花開きそうになった時に、毛色の違うサンプルから選んでくださいと言えないと、蕾で散ってしまいますよ。ただ、僕も完璧にやっているという訳ではないので、悪しからず(笑)。

[業界コボレ話]
1年間休職し、テキサスの田舎町に家族と移り住み、フットボール文化をルポしたビッシンガーの著書『Friday Night Lights』。テレビ番組は原作を遥かに越え、近年稀に観る秀作だ。若者に夢と希望を託す大人は、完璧ではないが、1本筋が通っているし、女性は現実的で逞しい。米国の底力はこういう町にまだ息づいているのかもしれない。
残念ながら、秀作=ヒットの図式は成り立たず、NBCがじっと我慢の子で継続するか、5月で一巻の終わりになるのか? 視聴率が高かったのに姿を消した『Commander in Chief』や、1シーズンで完結の憂き目に遭った知的な『Jack & Bobby』の仲間入りか? この手の秀作が四苦八苦とは、世知辛い世の中になったものだ。

アメリカTVファンの聖地 ワーナースタジオ博物館のテレビ歴史展

LAに引っ越して来て以来、ほとんどの撮影所やテレビ局を見学したが、テレビの歴史を体験できる展示がないのが不満だった。数年前、テレビ芸術科学アカデミー(ATAS)から、センチュリーシティーにテレビ博物館を建設したいが、会員の意見を聞きたいというアンケートが舞い込んだ。
ちょうど日本の広告代理店の視察旅行を企画しており、LAには目新しいアトラクションがないと指摘されたばかりだったし、制作の裏話などが聞ける空間が欲しかったので、大喜びで賛成した。結局、この案はボツになったが、2005年1月に、ワーナー撮影所内の博物館に、テレビ歴史展が設けられた。

* * *

50年代の西部劇『Cheyenne』『Maverick』に始まり、60年代には私立探偵モノが全盛期を迎えた。底抜けに明るい、アメリカの良さがぎゅっと詰まったような『77Sunset Strip』『Surfside 6』『Hawaiian Eye』の原本、全米の放送局に送られたプロモ資料、出演者が撮影所に勢揃いした1961年の団体写真やレコードは、喉から手が出る程。
 
大道具から衣装まで
1番人気の『Friends』

『77Sunset Strip』のクーキー、『Hawaiian Eye』のクリケットの衣装もあり、67年にジャック・ワーナー氏が撮影所を手放すまでのクラシック作品コーナーの目玉だ。だが、10年近く制作した『The F.B.I.』にまつわる物が一切見当たらないのは、制作会社が別にあってワーナーには何も残っていないから。しかも、その会社はもう存在しないから、歴史の一部がゴミ箱に捨てられた可能性があると考えると哀しい。
 
70年代は『Roots』と『Wonder Woman』が代表、衣装やスクリーンテストを受けた女優の一覧表が面白い。80年代からは『Murphy Brown』や『Alice』の衣装だけと、少々寂しい。
 
過去15年間、活気を帯びたワーナーからは、数々のヒット作が生まれた。94年に始まり、現在も放送中の『ER』。番組で一躍スターになったジョージ・クルーニーの写真入り身分証明証にも、思わず手が出そうに。『Ocean’s13』を撮影していたクルーニー様の後光の差す姿に見とれたのは昨年のこと。
 
セット仕立てで展示されているモニカの台所から、向かいのジョーイとチャンドラーの室内と各キャラクターの衣装。NBCの『Friends』は展示の1番人気。番組の大道具から衣装までほとんど保管していると言うので、場所を聞いたが教えてもらえなかった。盗みに行く訳はないんだけどな…。
 
『Friends』のスピンオフ『Joey』や、NBCの『Third Watch』、『The West Wing』からは、バートレット大統領の机からスタッフの衣装など、かなりの空間を占領中だ。
 
WBの看板娘的番組『Gilmore Girls』(現在CWで放送中)や、現在進行形の『Cold Case』『Without a Trace』『Smallville』『Veronica Mars』『Two & a Half Men』『Nip/Tuck』『One Tree Hill』などにまつわる展示があるが、撮影所内で出演者にばったり会う方がうれしいかも? 内容は一部変わっても、本年11月頃まで継続する予定。
* * *

テレビ歴史展の見学は、撮影所ツアーに組み込まれているので、VIPツアーセンターで当日券を買って参加。テレビ録画が休みの5月から7月末までは、空のセット見学はできるがアクションは期待できない。「行くからにはスターにバッタリ!」を狙うならこの3カ月は外した方が良い。
 
07年3月現在、ワーナーで撮影されているのは、『ER』『The New Adventures of Old Christine』『Cold Case』『Without a Trace』『Two & a Half Men』『George Lopez』『The War at Home』など。
 
VIP Studio Tour
3400 Riverside Dr.
Burbank
☎818-972-8687
http://www2.warnerbros.com/vipstudiotour/
♦$42(2時間15分)
*8歳以上のみ
Delux Tour
♦$150(5時間)
月~金:10:30am
*1日12席限定
 
写真:モニカのアパートのセット展示(『Friends』)
Photographer: Cynthia Martinez
(c) Warner Bros. Entertainment.

[業界コボレ話]
NBCは『Studio 60 on the Sunset Strip』に見切りをつけ、新番組『The Black Donnellys』を開始。一方、ABCは『Men in Trees』をしばらく休み、3月15日から新番組『October Road』を放送する。さらに『Six Degrees』が3月23日午後9時に再開。随分テコ入れしたと聞くので、手放しで喜んで良いのかどうか?
『Grey’s Anatomy』の脇役、アディソン・モンゴメリー・シェパード(ケイト・ウォルシュ)を主人公にした2時間ドラマを5月に放送予定のABC。好評であれば、アディソンはシアトルのグレイス病院を去り、新たな医療ドラマが誕生。CBSは『CSI』、NBCは『Law & Order』のフランチャイズを持っているので、ABCもいよいよか?

俳優/監督/プロデューサー デビット・ジェームス・エリオット

「変な癖」がないのを買われて

カナダ生まれ、1989年にロサンゼルスに移住。ジュリアードに匹敵するライヤーソン・ポリテクニック学院演劇科を卒業した正統派。『Street Legal』『The Untouchables』『Melrose Place』を経て、『Seinfeld』のゲスト出演が引き金となり、95年から『JAG』のハーモン・ラブ役を10年。2005年『JAG』完了後、NBCの『Medium』のゲスト出演を経て、06年より『Close to Home』のコンロン検事役で活躍中。TV映画やシリーズの企画・制作・監督も手がける。

100万ドルの笑顔に魅せられ、『JAG』ファンになった私。初対面は、昨夏『Close to Home』に登板が決まった時だったが、インタビューに漕ぎ着くまで半年。役者など考えたこともなかったと話すが、幸運の女神もエリオットの笑顔に誘われて、微笑みっぱなしのキャリアだ。
 
Photo: Al Silfen, Robert Voets/CBS

なぜ、『JAG』は2年目からCBSに移ったのですか?

エリオット(以下E):NBC版はゲスト出演の俳優が目玉の1話完結方式で、相棒・メグが僕の演じたラブと議論できない上下関係の設定が弱点でした。人間ドラマに変えたから、CBSでは長寿番組になりました。

10年も同じ役って、飽きませんか?

E:アクション、ミステリー、ロマンスと3拍子揃っていたし、海兵隊に入りたかったので、夢が叶った仕事。でも、脚本執筆や監督もさせてもらったし、米軍がからむ事件を語り尽くしたので潮時だと。「まだやってるの?」って言われて数年なんて潔くないし、後悔する作品を残したくなかったので…。

番組完了とともに、髪を伸ばされましたね?

E:週に1回クルーカットにした反動。短い髪型は老けて見えるし(笑)。ドラマとは言え、軍規でがんじがらめでした。
昨年パイロットに名前が挙がっていましたね。

昨年パイロットに名前が挙がっていましたね。

E:SFドラマ『Sixty Minute Man』のパイロットに出ましたが、残念ながらシリーズになりませんでした。将棋の駒のまま歳をとるのも芸がないから、今後は友達と共作の企画を持ち込んで、制作側に転身中です。

『Close to Home』の検事役は、『Medium』のアリソンの夢の中の夫・ダナム弁護士とそっくりですね?

E:2人ともひと筋縄ではいかない野心家。陰のある男は役者として演じ甲斐があります。

高校を中退して、ロックバンドで食べていく計画だったそうですが?

E:昼間はベルト工場で働き音楽活動をしましたが、見切りをつけて復学。演劇史の授業で生まれて初めて『リア王』を読んだら、先生に見込みがあると言われ、演劇学校の名門を受験しました。1千人受けて30人が合格、卒業した6人のうち、役者で食べているのは僕だけ。子役から演劇を目指していた受験生と違って、「変な癖がついてない」のが良かったらしいです(笑)。卒業後は、しばらく舞台。カナダ最大のヒット劇で、ドサ回りを2年しましたが、テレビに抜擢されて、5年間レギュラー出演しました。ハリウッドに越して来たのは89年です。

『Seinfeld』の端役が引き金になったとか?

E:『The Untouchables』『Melrose Place』など順調に歩んで来ましたが、カール役で運が変わりましたね。直後に『JAG』のオーディションに受かって10年ですから。

お手本は誰ですか?

E:率直で頼りになる父から、人間として大切なことを学びました。

日本人俳優にアドバイスを。

E:諦められるなら1日も早い方が(笑)。「絶対に諦めないぞ!」という気力と、常に勉強して技を磨くことが大切。これで良いと満足しないこと。

[業界コボレ話]
伝染病のように日本を襲った中学生の自殺。親はオロオロ、政治家は法律でいじめを規制しようと焦り、教育者は責任逃れに忙しい。
答えを模索していた私は、正月に放送されたオープラの「Challenge Day」にびっくり。デトロイトの高校での実験は、口をきいたこともない同級生60人が、秘密を明かすのが第1歩。誰もが家族という名の重荷を背負い、傷つき、孤独感にさいなまれていることを体験。「優等生」「いじめっ子」「金持ち」等のレッテルの下には、傷だらけの仲間がいるのを目の当たりにして、人種、性別、貧富の差を越えた共通点に気づく。
外観はどうであれ、人間は似たようなものだと子供たちに実感させることが、解決の糸口かも知れない。

俳優/コービー・ベル

試しに…で、はや10年

ロングビーチ出身。サンノゼ州立大学で演劇を専攻し、主席で卒業。『ER』に出演後、『L.A. Doctors』と『Third Watch』のパイロットを射止め、1998年『L.A. Doctors』を1シーズン完了し、『Third Watch』に移行。新人ながら、熱血漢・デイビス役を6シーズンこなした。UPNの『Girlfriends』を経て、2006年秋より『The Game』のジェイソン役で活躍中。06年、映画『Drifting Elegant』を制作/出演、舞台活動もしている。

『ER』のテレビ初出演から『Third Watch』の熱血漢・デイビス警官役に抜擢された新人のコービー・ベル。下積み体験はないが、2代目のおごりもない稀な俳優だ。安定を求めて押し殺してきた芝居への情熱と、父親から受け継いだ才能は、プロの目には明らかだったのか?
 
(c)2006 The CW Network LLC. Bruce Birmelin / The CW

コメディーへの180度転換は、意図的なものですか?

ベル(以下B):『Third Watch』では生真面目な部分しか見せられなくて、撮影の合間は仲間とハメを外していました。面白い面を見せたかったので、あえてコメディーを探しました。(役の)ジェイソン・ピッツはフットボールチームのキャプテンなのに、あきれる程ケチ。コントラストが滑稽だと思いました。

『The Game』は『Girlfriends』からのスピンオフですね?

B:『Girlfriends』のプロデューサーが、ジェイソンを起用して創作した番組です。仕事がしやすい環境を作ってくれるし、キャストも仲が良い、3週間働いて4週目は休み、休暇は5カ月…、これ以上の職場はありませんよ!

ジェイソンの白人の奥さん・ケリーとの摩擦が見所ですよね?

B:人種の違う男女が結婚すると、必ずすれ違いがあるから、面白いでしょ?

俳優になりたいと思ったのは?

B:幼い頃、学芸会で。でも、役者で食べていけるとは思わなかったので、教師になると決めていました。

大学での専攻は?

B:演劇です(笑)。

有名なお父さんの影響ですか?

B:父が大学を出た70年代に、アフリカ系オペラ歌手はいなくて、しばらくフィフス・ディメンションで歌っていました。80年代にやっとオペラ歌手、90年代にはブロードウェイで活躍し、何度もトニー賞候補に挙がりましたが、仕事に波があったことを子供心によく覚えています。「お前なら成功する」と、父はいつも言ってくれましたが、僕は教師になって地道に生きていこうと、芸能界に背を向けて。でも、教師になる前に試しに…で、もう10年!

「試しに」何を?

B:父のマネージャーが、僕の芝居を気に入り、エージェントを紹介してくれました。『ER』の役がついてから、仕事が途絶えたことがありません。

『ER』で発掘された訳ですね?

B:プロデューサーのジョン・ウェルズとクリス・チュラックは『ER』以来、デイビス役は僕と決めていたと、『Third Watch』に出て何年か経って聞きました。そうと知っていたら、オーディションであんなに緊張しなかったのに、人が悪いな!って(笑)。

今後やりたい役は?

B:役で決めずに、流れのままに。「あれがやりたい!」と入れこむと、ダメだった時の失望が大きいから、予防線を張っているだけかも知れません。運良くここまで来たので、これからは「おまけ」だと思って、何でもやります。

ハリウッドで成功したい日本人俳優にひと言。

B:有名になることに労力を無駄遣いしないで、好きな芝居の技を磨くことに専念すると良いと思います。

[業界コボレ話]
インタビュー中で、何回か話題になった放送局主催のライター養成プログラムのウェブサイトをご紹介。「今年こそは!」と思っている方は、応募してみては? 俳優や監督も応募可能なプログラムもあるので、要確認。
The Walt Disney Studios / ABC TV Fellowship Program(ABCtalentdevelopment.com)
CBS Mentorship Initiative(CBSdiversity.com)
Fox Diversity Development(Fox.com/diversity/programs.htm)
NBC Talent Diversity Initiative(www.DiversecityNBC.com)
Warner Bros.(www2.warnerbros.com/writersworkshop)

俳優/フェリシティ・ハフマン

まだまだ、学ぶことがいっぱい!

離婚した母親と兄姉の頑張りを見て育った。8人兄姉の末っ子。10歳で劇団キャンプに入団し、演劇に病みつきに。NYUで演劇を勉強した後、20年余り舞台、映画で活躍。1998年、テレビ『Sports Night』で実力を発揮、『Frasier』『The West Wing』のゲスト出演を経て、2004年から『Desperate Housewives』のリネット役で活躍中。05年エミー賞、06年映画『Transamerica』でゴールデングローブ賞等、数々の演技賞を受賞。

TV界を揺さぶった『Desperate Housewives』で、キャリア組からの転身主婦・リネットを演じ、数々の演技賞を受賞したフェリシティ・ハフマン。今や押しも押されぬ実力派だが、腰の低さと誠実さは業界一と言っても過言ではない。

リネットは1番現実的な役と言えますね?

ハフマン(以下H):きりきり舞いしていても、絶対に助けを求めないタイプ。嫉妬深いし、窮地に追い込まれたら、卑怯なこともやってのけるから、台本読みで「そんなことしちゃうの!」とびっくり。ドラマではありだけど、私にはできません。

今シーズンのヤマ場は、夢見る夫・トムをどうするかですね?

H:結婚前の夢を実現させようと、しゃかりきになっている中年男…。「こんな状況、現実味があるの?」と思いながら演じていますが、「ウチもそうだったのよ!」と、体験者から反響を呼んでいます。脚本が良く書けているということね!(笑)。

俳優になりたいと思ったのは?

H:7歳の頃、母の出張中に姉たちが『ロミオとジュリエット』に連れて行ってくれ、オリビア・ハッシーに憧れました。もっとも私はおしゃべりが過ぎて、母に劇団に押し込まれて病みつきになった口ですが。ヘレン・ミレンやダイアン・ウィーストをお手本にしてきました。

長年の下積み中、「諦めなくて良かった!」と思った瞬間は?

H:マドンナの代役のリハーサルで、監督に「それ、それ!」と褒められた時。『Cryptogram』のドニー役でOBIE賞をいただいた時は、先輩から「君もプロだよ」と言われたようでうれしかったわ。SAGカードはまぐれでもらった訳じゃない! って感じ(笑)。

リネット同様、家族優先の毎日ですか?

H:中年になると女は「内」に、男は「外」に目を向けるとか。でも、自分のことを考えるだけで、後ろめたくなりますね。自分優先を悪びれずにできる女性は、優雅で良いなと思う反面、どこか非難している自分がいて。家族のためには、自分優先が1番だとはわかっていますが、まだまだ修業が足りない。

憂さ晴らしは?

H:やることは山とあるし、家族サービスもしたい…と思いながら読書。フィクションの世界に浸るのが贅沢な時間ですが、すぐに現実に引き戻されてしまって。昔は買い物で憂さ晴らしできたのに、興味がなくなって。物欲は卒業したのかな?

俳優はフリーの職人と位置づけておられますが、アドバイスを。

H:未熟な私は、失敗の繰り返し。しょっちゅうつまずいては、立ち上がって歩き始めます。

誰でも失敗して成長するものですね?

H:人間って苦しまないと変わらないし、大人にならない生き物。子供のあどけない顔を見ると、「可哀想に、これから苦しいわよ!」って思ってしまうの(笑)。中年になると凝り固まってしまうから、心も身体も柔軟にと心がけています。傷つくまいとすると、こぢんまりまとまって、徐々に自分が死んでいくもの。大きく羽ばたくことも忘れないようにしています。未知の危険にも挑戦しないとね。まだまだ、学ぶことがいっぱい!!
 
Photo: (c)2006 American Broadcasting Companies, Inc.

[業界コボレ話]
テレビ東京の『ソロモン流』は、旬の人を取りあげるドキュメンタリー番組。なかでも料理愛好家・平野レミさんは刺激的だった。高校を中退すると言うレミさんに、反対するどころか「好きなことをやりなさい」と言ったお父さん。シャンソン歌手を目指したが、鳴かず飛ばずで廃業、ひょんなことから料理分野で活躍するようになった。
料理の大家になった今、06年12月シャンソンCD発表に漕ぎ着けた。異分野での大活躍は、好きなシャンソンに行き着くための遠回りだった。この道は行き止まりとか、楽しくないと思ったら、しなやかに方向を変えてみよう。本当に好きなことなら、いずれゴールに行き着くもの。私もこんな「偉大な父親」が欲しかった!

プロデューサー/脚本家 キャリー・ライザー

「これだけは譲れない!」を大切に

Kari Lizer
『Matlock』のアシスタント役で有名な元女優。30歳以降、役が付かず、子育てをしながらできる仕事として、脚本を執筆。女優を続けながら、1994年『Weird Science』のスタッフライターに。『The Empty Nest』『Boston Common』などを経て、98年『Maggie Winters』を創作したが、16話で打ち切られた。『Will & Grace』に執筆・出演後、協議離婚やバツイチの子育て体験を基に『The New Adventures of Old Christine』を創作。世のバツイチ女性への応援歌としている。

コメディー低迷のなか、創作2本目の『The New Adventures of Old Christine』の大ヒットで、コメディー界に彗星のごとく登場したキャリー・ライザー。しかし、紆余曲折を経て成功を手にした苦労人なのだ。脚本家への転身談や本作の人気の秘密を聞いてみた。

今シーズン、クリスティーンはどんな体験を?

ライザー(以下L):シーズン1は、元亭主とヨリを戻すかと思わせる所で終了し、今シーズンは、「離婚は間違いだった?」「毎日顔を突き合わせるのなら、夫婦に戻った方が楽?」と、揺れ動くクリスティーンを描きました。結局、リチャードは、別の若い恋人・クリスティーンの元へ、クリスティーンはバツイチのまま子育てに奮闘します。

本作のアイデアはどこから?

L:両親の揃った16人の園児が、3年生では12人が片親になっている現実と、子供を第一に考えた協議離婚体験を描いた番組があっても良いかなと。(クリスティーン役の)ジュリア・ルイ・ドライファスとは感性が同じで、私の声で私の体験を演じてくれます。

クリスティーンは応援したくなるキャラですね。

L:「それはないよ!」的状況や、「そんな人、絶対どこにもいないよ!」的人物が、最近多いですね。人間らしさに欠けるキャラだと笑えません。『Seinfeld』の人気の秘密は、4人がどう振る舞っても、どこか共感できるから憎めない点。巨匠ノーマン・リアーの番組を観て育ったので、現実味があり、親近感が持てるコメディーを目指しています。

『Seinfeld』で名を馳せたドライファスを迎えた感想は?

L:チームワークを大切にし、超真面目に仕事に取り組む女優。番組を創作、維持していく責任を半分背負ってくれる、最良のパートナーでもあります。彼女が引き受けてくれたからこそできた番組です。

脚本家へ転身された経緯は?

L:学校が嫌いだったので、芝居に逃げてここまで。芸能界は長かったのに、歳には勝てませんでした(笑)。役に就けなくて、配役してもらおうと自作自演の舞台を始めました。でも、入って来たのはスタッフライターの仕事。随分迷いましたが、SF番組『Weird Science』でプロにしてもらいました。

転身組ながら、居心地良さそうですね?

L:長いですからね…もう、慣れました(笑)。でも、『Maggie Winters』を創作した時は、右も左もわからず、自信もなかったので、信念のない番組になってしまって打ち切りに。あの体験から、「これだけは譲れない!譲らない!」と信念を通せるようになりました。

脚本家志望者にアドバイスを。

L:最初はAmerican Film Instituteの学生映画制作用の短い脚本を何本も書きました。映像化の過程を見る貴重な体験になりました。映画はオリジナル作品が少ないので、サンプルとして書いてみるのも手でしょう。テレビを目指す人は、ワーナーやディズニーのインターン制度、地上波局の多様化プログラムを積極的に利用してみては?書いて、書いて、書きまくること!
 
Photo: Justin Lubin / Warner Bros.

[業界コボレ話]
技術的にはデジタル化などが進んでいるものの、映像媒体の報道で「!?」と思うことが多い日本。新聞や雑誌の記事に赤線を引き、超拡大した記事を画面に映して読み上げるワイドショーの報道方法は、乱暴としか言いようがない。
米国でも紙媒体は大いに利用されるが、あくまで情報源。制作時に新たに脚本を書いたり、映像を集めて報道する。
紙面で表現できない映像を見せてこそ、テレビではないのか?私には制作者の怠慢としか思えないが、計り知れないウラの事情があるのか?1度、日本のテレビ関係者に聞いてみようと思うのだが、いまだその機会に恵まれず、里帰りの度に苦笑してしまう。