自分で考え自分で表現する力の育て方

船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの学校に子どもが通い始めた時に戸惑うのが授業スタイルの違いです。日本の講義型の授業とは異なり、アメリカは参加型(アクティブラーニング)が一般的です。生徒には、議論に参加すること、意見を発言することが要求されます。黙っていると「理解していない」「考える気がない」「参加する気がない」とマイナスの評価をされてしまいます。
先生は、「本当に正しいのか」「他に考えはないのか」「他の見方はないのか」と繰り返し生徒に問います。情報を鵜呑みにしていないか、他人の意見に流されていないか、判断に偏りがないか、生徒に「問い」を重ねることで、思考を再評価する習慣を身に付けさせようとしています。
日本人の子どもの多くは、英語力に問題がなくても、あまり議論に参加しようとしません。日本人は集団の和を重視しますから、意見を戦わせることが苦手なのです。和の精神は素晴らしいのですが、議論に参加しないと「やる気がない人」というレッテルを貼られてしまいます。子どもがアメリカの学校教育を受けるのであれば、家庭で「自己表現力」を育てておくことが大切です。

子どもに話をさせる

表現する力を育てる最初のステップは「たくさん話をさせること」です。まず親が聞き上手になりましょう。子どもが話をしたがっている時に「忙しいから後にして」なんて言わないでください。子どもの目を見て真剣に話を聞いてあげましょう。
幼い子どもは支離滅裂な話をしたり、話があちこちに飛ぶことがありますが、急かしたり、批判したり、訂正したりせず、十分に話す時間を与えてください。また、うなずいたり、共感したり、感嘆したり、相づちを打ったりしながら聞くと、子どもはどんどん自分から話を広げてくれるようになります。
子どもは自分の考えを親と共有することを心から望んでいます。親子の日常的な会話、子どもの気持ちや意見を大切にすることで、子どもが生来持っている「自己表現したい気持ち」を引き出し、伸ばしていくことができます。

親が上手に質問する

また、親子の会話の中に「問い」を増やすことを心がけてください。例えば絵本を読みながら「ママはこの絵が好きだけど、◯◯ちゃんはどれが好き?」と質問します。子どもは「ボクはこの絵が好き!」と答えます。すかさず「◯◯ちゃんはどうしてこの絵が好きなの?」と質問を重ねます。
「問い」を繰り返すことによって、子どもは深く考える習慣を身に付けることができます。「ママはリンゴが好きだけど、◯◯ちゃんは何が好き?」と聞けば「バナナが好き!」と答えます。すかさず「どうしてバナナが好きなの?」と聞きます。すると「甘いから」「黄色が好きだから」と理由を考えてくれます。
質問のポイントは尋問しないこと。「今日学校で何をした?」「誰と遊んだ?」「何を食べた?」と一方的に聞かれると子どもは答える気を失います。「ママは今日お買い物したけど、◯◯ちゃんは何をした?」「ママはお昼にトーストを食べたけど、◯◯ちゃんは何を食べた?」というように「ママはこうだけど」と言ってから、質問してください。

考える力は自分らしく生きる力

自分で考える力を伸ばすことは、子どもが自分らしい人生を生きることにつながります。自分は何が好きなのか、自分は何を信じるのか、自分は何をしたいのか、どんな人生を歩みたいのか、自分自身をより深く理解できるようになります。
周囲の意見や社会通念に流されることなく、自分で考え、自分を信じて行動する習慣を持つことは、自らの意思で進路を選択していくことにつながります。その結果、自分の生き方を見つめながら目標に向かって真っすぐに進むことができる、自分らしい人生が実現できるのです。
 
(2016年10月1日号掲載)

バイリンガル子育ては自信育て

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

子どもが現地校の授業を楽しみ、意欲をもって学習に取り組めるようになるには「英語の読書力」を育ててあげることが大切です。英語の読書力が身に付けば、子どもは自力で語彙と知識を増やし、思考と学力を伸ばすことができます。
「現地校に通っていればいつか読めるようになるだろう」と読書力の発達を学校任せにしてはいけません。英語の読書力を子どもの努力だけで身に付けることは簡単ではありません。子どもが日本語を習い始めた時は必ず親が手伝ってあげますよね。同様に英語の読書力を定着させるには、学校に加えて家庭でサポートを与えることが大切です。
読書力が育っていない子どもは英語の本を読むのに人一倍時間がかかる上、内容の理解度が低く、本を読んでも学力に結びつきません。理想は小学1年の終わりまでには自分の力で英語の本がストレスなく読めるようになっていること。遅くても小学2~3年までには英語の活字への抵抗感を取り除いてあげるように家庭でサポートを与えましょう。

読書力を育てるのは母国語

学齢期前の子どもの場合、英語よりも日本語の読書力を先に育てることが原則です。遠回りのようですが、母語の力(親の言葉)が強く育っているほど、第二言語である英語の読書力も短期間で身に付けることができます。日本語の読書力でしたら「英語が苦手」という親でも教えることができますね。
読書教育は「絵本の読み聞かせ」からスタートします。絵本は子どもを本好きに育てる最良の教材です。親が絵本を読んであげると、子どもは頭の中でイメージを操作することを学びます。これが想像力や読解力となって、将来の子どもの学習活動を支えてくれるのです。
毎日欠かさず本を読んであげましょう。平均的なアメリカ人家庭は子どもに毎日30分の読み聞かせをします。2つの言葉を身につけるバイリンガル子育てではその倍!60分の読み聞かせを目標にしてください。

最適期は6歳まで

まだ早いと思わずに1~2歳から文字読みを教えてあげましょう。バイリンガルの子どもは2つの読書力を身に付けなければなりませんから、できるだけ早い時期に文字教育を始めなければ「読書力を身に付ける最適期」である6歳を通り過ぎてしまいます。
最初はひらがなから教えます。ひらがなチャートの文字を指差しながら「あ」「い」「う」と読み方を教えてあげましょう。また、ひらがなが書かれたカードを使ってカード取りゲームをしたり、カードを並べて子どもの名前、家族の名前、物の名前などの読み方を教えてあげたりしましょう。
家庭の中の文字環境にも配慮します。子どもの持ち物や洋服には子どもの名前を書いてあげます。また子どもが目にする「物の名前」を紙に書いて貼っておきます。「ほん」「いす」、「どあ」「かべ」「ほんだな」「おもちゃばこ」と書いた紙を貼ると、子どもが自主的に文字を練習するようになります。
小さな子どもに文字を教える場合、学問的に教えるのでなく、生活の中で自然と文字に親しめるような環境作りが大切です。家庭内の文字環境が貧弱だと、文字への興味を引き出すことができず、文字がなかなか定着しないので注意してください。

レベルに合った本を読ませる

子どもに本を読ませる時は(日本語でも英語でも)本の難易度に配慮してください。まだスラスラ文字が読めない子どもに「難しすぎる内容の本」を与えると読書嫌いになります。本を読み始めて間もない子どもは、文字を追いかけるだけで精一杯です。一生懸命活字を追いかけて最後まで本を読んでも、内容が頭に入っていなかったら本を読む気が失せてしまいます。最初は簡単な内容の本をたくさん読ませることが読書好きにするコツです。
 
(2016年9月1日号掲載)

読書教育の重要性

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

子どもが現地校の授業を楽しみ、意欲をもって学習に取り組めるようになるには「英語の読書力」を育ててあげることが大切です。英語の読書力が身に付けば、子どもは自力で語彙と知識を増やし、思考と学力を伸ばすことができます。
「現地校に通っていればいつか読めるようになるだろう」と読書力の発達を学校任せにしてはいけません。英語の読書力を子どもの努力だけで身に付けることは簡単ではありません。子どもが日本語を習い始めた時は必ず親が手伝ってあげますよね。同様に英語の読書力を定着させるには、学校に加えて家庭でサポートを与えることが大切です。
読書力が育っていない子どもは英語の本を読むのに人一倍時間がかかる上、内容の理解度が低く、本を読んでも学力に結びつきません。理想は小学1年の終わりまでには自分の力で英語の本がストレスなく読めるようになっていること。遅くても小学2~3年までには英語の活字への抵抗感を取り除いてあげるように家庭でサポートを与えましょう。

読書力を育てるのは母国語

学齢期前の子どもの場合、英語よりも日本語の読書力を先に育てることが原則です。遠回りのようですが、母語の力(親の言葉)が強く育っているほど、第二言語である英語の読書力も短期間で身に付けることができます。日本語の読書力でしたら「英語が苦手」という親でも教えることができますね。
読書教育は「絵本の読み聞かせ」からスタートします。絵本は子どもを本好きに育てる最良の教材です。親が絵本を読んであげると、子どもは頭の中でイメージを操作することを学びます。これが想像力や読解力となって、将来の子どもの学習活動を支えてくれるのです。
毎日欠かさず本を読んであげましょう。平均的なアメリカ人家庭は子どもに毎日30分の読み聞かせをします。2つの言葉を身につけるバイリンガル子育てではその倍!60分の読み聞かせを目標にしてください。

最適期は6歳まで

まだ早いと思わずに1~2歳から文字読みを教えてあげましょう。バイリンガルの子どもは2つの読書力を身に付けなければなりませんから、できるだけ早い時期に文字教育を始めなければ「読書力を身に付ける最適期」である6歳を通り過ぎてしまいます。
最初はひらがなから教えます。ひらがなチャートの文字を指差しながら「あ」「い」「う」と読み方を教えてあげましょう。また、ひらがなが書かれたカードを使ってカード取りゲームをしたり、カードを並べて子どもの名前、家族の名前、物の名前などの読み方を教えてあげたりしましょう。
家庭の中の文字環境にも配慮します。子どもの持ち物や洋服には子どもの名前を書いてあげます。また子どもが目にする「物の名前」を紙に書いて貼っておきます。「ほん」「いす」、「どあ」「かべ」「ほんだな」「おもちゃばこ」と書いた紙を貼ると、子どもが自主的に文字を練習するようになります。
小さな子どもに文字を教える場合、学問的に教えるのでなく、生活の中で自然と文字に親しめるような環境作りが大切です。家庭内の文字環境が貧弱だと、文字への興味を引き出すことができず、文字がなかなか定着しないので注意してください。

レベルに合った本を読ませる

子どもに本を読ませる時は(日本語でも英語でも)本の難易度に配慮してください。まだスラスラ文字が読めない子どもに「難しすぎる内容の本」を与えると読書嫌いになります。本を読み始めて間もない子どもは、文字を追いかけるだけで精一杯です。一生懸命活字を追いかけて最後まで本を読んでも、内容が頭に入っていなかったら本を読む気が失せてしまいます。最初は簡単な内容の本をたくさん読ませることが読書好きにするコツです。
 
(2016年8月1日号掲載)

帰国後の英語力の維持について

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

海外駐在を終えて日本に帰国することになった時、心配なのが「子どもの英語力の維持」です。アメリカで苦労して身に付けた英語力をどうやったら日本でもキープできるのでしょうか?特に年齢が低い子どもの場合、日本の学校に通い始めるとあっという間に英語を忘れてしまうので深刻です。
帰国後に英語力を維持する最良の方法が、アメリカ滞在中に「英語の読書力」を子どもに身に付けさせることです。日本に帰れば英語を使う機会がほとんどありませんから「英会話力」は必ず低下します。でも「英語の読書力」を身に付けていれば、日本の学校に通っていても、読書を通して英語力を維持・向上させることが可能です

インターか日本の学校か

帰国が決まった時にまず悩むのが「インターナショナルスクールに入れるか、日本の学校に通わせるか」です。私の経験から言えば、必ずしも英語力の保持目的でインターに通わせる必要はありません。親と子どもの努力次第で、日本の学校に通いながら英語力を保持することは可能です。
ただし、大学受験を控えている場合は慎重に考えてください。アメリカの大学進学を希望するのであれば、日本の学校では準備が困難です。インターに通わせれば、アメリカの大学受験で必要な試験対策やエッセイ対策などをしてもらうことができます。
グローバル化の進行に伴い、最近は帰国子女学級や外国人生徒の受け入れをしている学校が増えています。このような学校は、英語で授業をしたり、海外の大学受験の準備をしてくれます。帰国子女の学校選択については「JOBA」のウェブサイトを参考にすると良いでしょう。

日本の学校に通わせる場合

インターも帰国子女受け入れ校も近くにない場合、一般の日本の学校に子どもを通わせることになります。このケースでは、子どもの日本語のキャッチアップが早い反面、英語力の衰えも急速に進みます。英語に触れる機会を親が与えなければ、子どもの英語力はあっという間に低下してしまいます。
日本の学校に通っていても、家庭では英語の読書時間を設けて、毎日英語に触れることを習慣にしてください。英語の本を読んでいる時、子どもは音読(黙読)しています。つまり本を読むことでスピーキング力もリスニング力も鍛えることができるのです。
私は日本で生活しながら、インターに通うことなく、バイリンガルに育った子どもをたくさん知っています。そうした子どもに共通するのが「英語の読書力を身に付けている」ことです。親が大きな努力をして、子どもに英語の読書力を与えたのです。子どもは読書を通して英語力を限りなく向上させていけるのです。
私は日本で英語力を維持・向上させる秘訣は「英語の読書力育成」に尽きると確信しています。親の仕事は、子どもが好きそうな本、子どものレベルに合った本を探して買い与えることです。子どもが自分で英語の本を探すことは難しいですから必ず親が手助けしてください。
子どもは読書を通して語彙力を増やし、表現力を豊かにし、思考力を高めていけます。英会話学校に通ってネイティブと雑談していても、これらの能力は向上しません。英語の読書を習慣とすることができれば、英語力だけでなく「学力」も向上させていくことができるのです。

英語学習の目標を持たせる

日本で英語学習を継続するには「目標設定」が大切です。子どもは目標がないとモチベーションがすぐに下がってしまいます。手っ取り早い目標が英検です。小学校低学年の子どもは英検2級を目指しましょう。小学校高学年は英検準1級を目標とします。中学生以上であれば、英検1級も視野に入ってきます。
高校生以上であれば、英検1級に加えてTOEFLやTOEICなどの試験を受けさせてみましょう。日本で英検1級を持っていれば「英語の達人」です。大学受験や就職など、あらゆる場面で英語力の高さをアピールできますから、大変有利になります。
また、夏休みを利用してインターナショナルスクールなどのサマースクールに参加させるのも良いでしょう。年齢の近い帰国子女たちと知り合うチャンスです。同じ境遇の仲間と過ごすことによって、英語力がよみがえってきます。他にも、海外子女教育振興財団が行なう英語保持教室(www.joes.or.jp/foreign)などを活用して英語力の保持に努めてください。
 
(2016年4月1日号掲載)

コミュニケーション力を育てる

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの学校に通い始めた日本人の子どもが最初にとまどうのが、日米のコミュニケーションスタイルの違いです。自分の考えや意見を明確にする、イエス・ノーをはっきり言う、授業中は積極的に発言する。日本の学校では先生の話を聞いてさえいればよかったのに、アメリカでは授業に参加しなければ評価が下がってしまうのです。
多様な価値観が混在するアメリカでは、文化や言語背景の違いによるミスコミュニケーションを最小限に抑えるために「明確に言葉に出す」コミュニケーションスタイルをとります。アメリカ人の自己表現が直接的なのは、自分の意見をゴリ押ししたいからでなく、正確に相手に伝えることで問題解決や意思決定をスムーズにするためです。

高度なバイリンガル

高度なバイリンガルというのは日本語と英語が優れているだけでなく、日米の文化的な違いにも対応できる人です。アメリカ人と接する時はアメリカ的スタイル、日本人と接する時は日本的スタイルというように、相手に合わせてコミュニケーションスタイルを切り替えられる人です。
アメリカで暮らしていても日本人家庭に育つ子どもは、両親から「和」を重視する日本的なコミュニケーションスタイルを継承します。集団内の人間関係を良好に保つことに配慮し、率直な意見を言うことを避けたり、年上や目上の人に対して直接的な表現を控えるようになります。もちろん日本的コミュニケーションスタイルを身に付けることは、子どもが日本人社会の中で良い人間関係を築くために必要です。日本人相手にストレートな表現をしたり、年長者に「ため口」を使ったりしたら、すぐに社会からつまはじきにされてしまいます。
同じようにアメリカ人と接する時は、欧米流のコミュニケーションスタイルを身に付けていることが求められます。日本人的なあいまいな表現や遠回しな言い方はアメリカ人にとって理解が困難です。伝えたい内容は同じでも、相手に応じて「伝え方」を変えられるのが高度なバイリンガルです。

言葉で表現する力を育てる

もちろん日本人の子どもだって意見や自己主張を持っています。ただそれを「言葉で表現する」機会が少な過ぎるのです。「以心伝心」「空気を読む」はアメリカ人相手には通用しません。必要な時にはしっかりと自分の意思を言葉で表現できるように日頃から導いてあげましょう。
「言葉で表現する」ための良い練習が、親子の会話に「なぜ?」「どうして?」を増やすことです。「◯◯ちゃんは水泳が好き?」という問いに「嫌い!」と子どもが答えたら「なんで水泳が嫌いなの?」と、すかさず聞き直します。子どもは「水が怖いから」「冷たいから」など、理由を説明してくれます。会話の中に問いを増やし、自分の考えを説明することを習慣付けるのです。
また、できるだけあいまいな表現を使わないように注意してください。子どもがゲームを欲しがっています。「みんな持ってるから僕にも買ってよ!」これに対してお母さんは「みんなっていうのは誰のこと?」と聞き返してください。子どもは具体的に「たかし君が持っているから自分も欲しい」と説明してくれます。「お母さん、あれ取って」と子どもが言えば「あれって何?」と聞き返します。
他にも「それ」「何となく」「ちょっと」「いつも」などの、あいまいな言葉を子どもが使った時は「ママ分からないから説明してもらえる?」と聞き返してください。もちろん両親があいまい言葉を使わないように普段から言葉使いには配慮しなければなりません。

演劇のテクニックを活かす

子どもの言語表現力を向上させることができる優れた習い事が「演劇」です。演劇は言葉だけでなく、表情や身体の動きを使って相手に伝える技術です。演劇を習うことによって、アメリカ人はもちろん、世界中の人たちとスムーズに意思疎通できる高いコミュニケーション能力を手に入れることができます。
伝わりやすい発声・発音方法、表情やボディーランゲージを駆使した表現方法、人前で堂々と自己表現する技術。欧米の学校では演劇のテクニックは子どもたちのコミュニケーション力全般を高めてくれるツールとして授業にも盛んに取り入れられているのです。
最後に演劇を経験している子どもは英語習得も学校適応も異文化適応も一般的な子どもよりもはるかに早いという事実を付け加えておきます。
 
(2016年3月1日号掲載)

学齢期の子供の学校適応

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

海外転勤などで小学生の子どもを連れて海外に移り住むケースがあります。両親は「このチャンスを活かしてバイリンガルに育てよう!」と意気込む反面、「本当に英語ができるようになるのか」「授業に付いていけるのか」「日本語が遅れるのではないか」「友達はできるか」など不安でいっぱいになります。
家族で海外に住むことになった時、一番苦労するのが現地の学校に通う子どもです。それまで日本語を何不自由なく操っていたのに、ある日突然、言葉が全く通じない世界に放り込まれるのです。英語が分からず、授業が分からず、友達ができず、言いたいことが言えず、毎日本当につらい思いをします。日本で活発だった子どもが現地校に入ったとたん、無口になったり、ふさぎ込んだり、自信喪失状態に陥ることもあります。

生活英語力と学習英語力

英語力には日常生活で必要な「生活英語力」と学校の授業で必要な「学習英語力」があります。両親はこの2つの英語力をはっきりと区別してサポートをすることが大切です。
学校に通う子どもにとって、より重要度が高いのが「学習英語力」です。「学習英語力」は「読み書きの力」であり、授業に付いていくために不可欠な力です。子どもがアメリカの授業に早く追い付くために、そして「アメリカでもやっていけそうだ!」と自信を回復するためにも、早急に英語の読み書きをサポートしてください。
「生活英語力」はテレビを見たり、学校で友達や周囲の人とのコミュニケーションを重ねたりすることで少しずつ身に付いていきます。社交的な性格の子、スポーツ・音楽・演劇などの特技がある子ほど「生活英語力」の習得は短期間で実現できます。それでも友達との会話で不自由を感じなくなるには2年は必要です。
一方「学習英語力」はサポート次第でどんどん伸ばしていくことができます。小学校低学年でアメリカに移り住んだ子どもであれば、1年も努力すれば学年レベルの授業内容を理解できるようになります。もちろんネイティブと同じ語彙力、読解力、文法力、作文力というわけにはいきませんが、学習活動に支障のないレベルの学習英語力の習得は短期間で実現できるのです。

読み書きが自信回復の特効薬

子どもは現地校で毎日5~6時間「英語で」授業を受けます。アメリカへ来たばかりの子どもは、学校で「英語」と「勉強」の2つが「できない」経験を繰り返します。その結果、子どもにとって大切な「自信」が減退していくのです。日本で優秀だった子ほどアメリカの学校に通い始めた時大きなギャップを経験し、自尊心やプライドが大きく傷つきます。
子どもが現地校で経験する自信喪失を軽減する特効薬が「読み書き」です。日本で学力の土台が育っている子どもに英語の読み書きを教えると、たちまち現地校の授業が分かるようになります。小学校低学年程度の学習内容であれば、英語を読む力が育てば、子どもは難なく付いていけるようになります。
英語が分かり、授業が分かるようになると「自信」が回復します。すると気持ちが前向きになりアメリカの学校生活が楽しく豊かなものに変わっていきます。英語力不足による自信喪失から子どもを救うのは「読み書き」です。学校にはELLなどの英語力サポートがありますが、それだけでは不十分です。専門の塾やチューターなどの支援を得てください。

子どもの学校適応について

子どもの学校適応は一般に学年が低いほどスムーズです。しかし、年齢にかかわらず、どの子も親が思っている以上に大きなストレスを経験することを知ってください。どんなにつらくても親に心配をかけないように、親の期待に応えようと子どもなりに努力しているのです。そんな健気な気持ちを理解し、努力を認め、安心させてあげるのが両親の大切な仕事です。
また学校以外で地域の人たちと交流する機会を、配慮して作ってあげてください。両親が日本人としか付き合わないでいると、子どもの交流範囲も限定されてしまいます。その結果、英語力の伸びが悪くなったり、偏った価値観を与えることにつながります。
アメリカ滞在を子どもの将来に活かすためにも、地域の活動に親子で参加しましょう。スポーツ、音楽、ダンス、演劇、アメリカには学齢期の子どもが参加できるコミュニティーがたくさんあります。勇気を出して地域社会に飛び込みましょう。今までとは違ったアメリカが見えてきます。
 
(2016年2月1日号掲載)

英語の読解力を育てるには

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

バイリンガル育児で見落とされがちなのが英語の「読解力」の育成です。英語の「会話力」は現地校に通っていれば自然に身に付けることができます。しかし、英語の文章を読み解く力は訓練を継続しなければ身に付きません。「親が英語苦手だから!」と英語のサポートを怠っていると、子どもに満足なコンプリヘンションが身に付かず、教科学習全般で苦労するようになります。
「うちの子は本好きですが、成績が今一つです」という相談をよく受けます。そのようなお子さんのリーディング力を査定すると、語彙力が乏しく、読解力が弱いケースがほとんどです。いくら本が好きでも内容を正確に読み解く能力が育っていなければ、学校の成績には結びつかないのです。
お子さんが算数の文章題で苦労しているようでしたら、読解力に問題があるサインです。英語の読解力を育てるには、多読で語彙を豊かにする、再読で読書スピードを高める、そして文法を理解して論理的に読み解く練習を継続することが必要です。

本嫌いの子はイメージ力不足

読解力以前の問題に子どもの「本嫌い」があります。本嫌いの子に共通する理由は「面倒くさい」「面白くない」というものです。なぜ本を楽しめないかというと、活字で書かれている内容をうまくイメージできないからです。その結果、ストーリー理解や感情移入が深まらず、本の世界の面白さを体験できないのです。
現代社会は子どもたちの周囲に「映像」が氾濫しています。自分の想像力をフル稼働させてイメージすることよりも、テレビやゲームのように一目で内容が分かる映像メディアに子どもたちがどっぷりつかってしまっているのです。
映像の氾濫は子どもからイメージ力を奪い取ります。特に幼い子どもを育てている家庭ではあまりテレビやテレビゲームは見せないようにしましょう(教育的なものはOKです)。その代わりにお母さんが絵本の読み聞かせやお話をしてあげてください。
お母さんがお話をしてあげると、子どもは想像力を駆使して頭の中にイメージを描く能力を育てることができます。寝がけの絵本読みやお話は親子の絆を強めるだけでなく、子どものイメージ力を高める効果もあるのです。

家庭で読書指導をしよう

アメリカではキンダーガーテンから英語の読み書き指導が始まります。キンダーから小学1年生にかけては、リーディング力の土台を構築する大切な時期です。この年齢のお子さんがいる家庭では、必ずフォニックスやサイトワーズのワークブックを購入して家庭でも文字の練習に取り組ませてください。
既に簡単な英語の本が読めるお子さんの場合、多読を通して語彙力を豊かにする取り組みをしてください。毎日必ず30分、英語の読書時間を作りましょう。読む本は子どもの読書レベルに合ったものでなければなりません。子どもと一緒に図書館や書店に行き「読書レベル」をチェックした上で本を選びましょう。難し過ぎる本は子どもを本嫌いにするので注意してください。
毎日コツコツと読書に取り組ませていると、英語の活字に対する抵抗感を取り除くことができます。アメリカの学校は日本に比べて大量の読書を要求しますから、ストレスなく本が読めるレベルのリーディング力をできるだけ早く養うことが子どもの学校適応を促します。

英文法を教える

学年にかかわらず読解力を高める有効な取り組みが「英文法」です。アメリカの学校では「ランゲージアーツ」という授業で英文法を指導します。しかし日本人の子どもが授業だけで英文法を十分に理解することは困難です。短い授業だけでは文法を練習する量が足りないのです。
日本の小学校の国語の授業を思い出してみましょう。どれだけ日本語の文法を教えてもらったでしょうか?おそらくほとんど何も教えてもらっていないと思います。日本で生まれ育てば、特に文法を教えなくても日本語のルールは理解できると思われているのです。同じようにアメリカの学校、特に小学校では英文法を詳しく教えることはありません。
英語を第2言語で学ぶ日本人の子どもにとって英文法は必須です。生まれた時から英語に囲まれて育ち、感覚的に文法を身に付けているネイティブの子どもたちとは英語知識に大きな「差」があるのです。主語は何、動詞は何、目的語は何、補語は何と明確に理解することで、英文を正確に読み解く力を高めることができます。
 
(2016年1月1日号掲載)

どう違う?英語の会話力と読書力

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

バイリンガル育児を成功させる重要なポイントは、英語を「話す力」と「読む力」を区別すること。この2つを「英語力」と一緒くたに考えていると、子どもの英語力は伸び悩み、学業で苦労することになります。英語を「話す力」と「読む力」は全く異なる発達をします。両親は2つの英語力を区別し、それぞれに必要な環境作りやサポートを心がけてください。
 
子どもの「話す力」を育てるのは環境です。完全英語環境に浸り、英語話者とコミュニケーションする機会が多いほど「話す力」は早く身に付きます。子どもは周囲の人とのコミュニケーションを通して、生活で必要な英語表現を覚えていきます。アメリカで暮らしていても生の英語に触れる機会が少なければ「話す力」は育ちません。
 
英語の「読む力」を育てるのは両親のサポートです。「読む力」はどれだけ長く英語環境に浸っても自然に身に付くことはありません。学校で指導を受け、さらに家庭でコツコツと読書練習に取り組まなければ、英語を「読む力」は身に付かないということを肝に銘じてください。

話す力は環境で育つ

小学生以下の子どもの場合、「読む力」よりも「話す力」が先に育つのが一般的です。「話す力」を育てるには、子どもを完全英語環境に浸らせればよいのです。英語だけの環境に入ると、子どもの頭の言語スイッチが「英語脳」に切り替わります。すると頭脳に英語情報がどんどん溜まり、短期間で英語を話せるようになります。
 
「いきなり英語だけの環境に入れるのはかわいそう」と、日本語と英語がミックスした環境に入れたり、日本人の先生から英語を習っても子どもの言語スイッチは「英語脳」に切り替わりません。つまり英語情報が蓄積していかないのです。子どもの頭脳は、話す相手に合わせて無意識に言語回路を切り替えることを知りましょう。
 
英語話者だけの習い事に参加させたり、ネイティブのチューターを雇ったり、英語の教育テレビを見せたり、日本語を一切介さずに英語だけで思考する訓練をさせましょう。日本語と英語の言語スイッチの切り替えがスムーズにできるようになると、2つの話し言葉とも短期間で向上していきます。

キンダーからは読む力をサポート

アメリカではキンダーガーテンから「読む力」の指導が始まります。キンダーガーテンからは必ず家庭でも「読む力」のサポートを与えてください。「話す力」は毎日学校で英語環境に浸っていれば自然と身に付きますから心配いりません。
 
「現地校(ELLプログラム)に通わせておけば、英語の読書力は育つだろう」と考えてはいけません。授業だけでは練習する量が全然足りません。日本語であれ英語であれ、子どもが「読む力」を身に付ける時は家庭でもコツコツと読書訓練に取り組むことが必要です。ストレスなく英語の本を読めるようになるまで、子どもを励まし、読書活動を支援してください。
 
英会話が流暢にでき、特別な指導が必要なさそうな子でも、少し調べると読書力がネイティブに比べて弱いケースがほとんどです「。読書力の弱さ=読解力の弱さ」であり、学力不振や自信喪失を引き起こす原因です。両親は子どもが飛ばし読みや斜め読みをしていないか、読むスピードが極端に遅くないか、しっかりとチェックしてください。

読書指導が子どもを救う

トロント大学のジム・カミンズ博士は、英語を第2言語で学ぶ子どもが「学習英語力」(授業に付いていける英語力)を身に付けるには5~7年かかるという研究結果を発表しています。少し想像力を働かせれば分かりますが、5~7年も授業が分からない状態が続けば、子どもは「自分は勉強ができない」とやる気を失ってしまいます。
 
カミンズ博士の研究は「家庭でサポートを得られないケース」を想定しています。私の経験から言えば、家庭で適切な「読む力」のサポートを与えれば、2~3年でネイティブ並みの読書力を身に付けることが可能です。「読む力」が育てば、読書を通して英語力も学力も子ども自身の力で向上させていけるようになります。
 
「親が英語が苦手だから」と、子どもの読む力の発達を学校任せにしてはいけません。両親がサポートを与えることができない場合は、リーディング指導に特化した家庭教師や塾の助けを借りてください。読書力の獲得に時間がかかるほど子どもは学習意欲を失っていきますから早急に対処してください。
 
(2015年12月1日号掲載)

バイリンガルの特性を活かす

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

子どもをバイリンガルに育てるには、親子が長期間にわたってコツコツと努力を継続しなければなりません。でも苦労してバイリンガルに育てたその先には何があるのでしょうか?バイリンガル育児の実践は子どもにどのようなメリットをもたらすのでしょうか?
確かに2つの言語を話せれば、大学進学や就職での選択肢は広がります。まだ日本やアジア諸国では英語が話せる人はそう多くないですから、バイリンガルであることの利点は大きいです。でもアメリカの学校生活を生き抜いてきたバイリンガルたちが身に付ける利点は言語だけには留まりません。

グローバルな価値観

海外で育つバイリンガルの子どもは、2つの言葉と2つの文化を受け入れながら成長していきます。そのプロセスにおいて、モノリンガルの人とは異なる、独特な世界観とアイデンティティーを形成していきます。
特定の文化が持つ価値観にとらわれることなく、物事を多様な角度から見ることができるのが、バイリンガルの強みです。偏りのない価値観を育むことは、人間形成途上にある子ども時代にのみ可能であり、大人になって身に付けることは極めて困難です。
政治、経済、教育、環境、医療、あらゆる分野において国境を越えた理解と協力が求められるグローバル時代。バイリンガルの子どもたちは、人種・民族・宗教を越えて相互理解を増進することができる人材、異文化をつなぐ架け橋としての役割が大いに期待されます。
子どもをグローバルリーダーへと導くには、母文化の土台に加えて欧米文化への理解をバランス良く育てることが大切です。両親が特定文化へのこだわりが強いと、グローバルな価値観どころか、異文化への偏見を植えつけることになりかねません。世界中の文化や習慣には上下優劣はありません。お互いの違いを受け入れ、認め、尊敬し合うことから異文化理解はスタートします。

高いコミュニケーションスキル

バイリンガルの子どもは学校教育でアメリカ流のコミュニケーションを叩き込まれます。自分の考え・意見・立場を明確にする、ロジカルに思考し分かりやすく伝える、積極的に議論に参加する。多文化社会であるアメリカでは、文化背景の違いによる誤解を避けるために「言葉」を重視したコミュニケーションスタイルを子どもたちに指導します。
単一民族間のコミュニケーションに慣れきっている日本人は、いちいち言葉に出して説明しなくても理解し合える「察し」を重視したコミュニケーションスタイルを好みます。また日本は「和」が社会の根底にあるので、グループ内の衝突を避けるために、自分の考えや意見を状況に合わせて変えたり、直接的な表現を避ける傾向があります。
バイリンガルの子どもは家庭では日本的スタイル。学校ではアメリカ的スタイルと、2つのコミュニケーションスタイルを学びます。その結果、相手の文化背景に応じて、より伝わりやすい、より意思疎通がスムーズなコミュニケーションスタイルを選択する能力が身に付くのです。
バイリンガルの子どもが有する高いコミュニケーション能力は、グローバル時代に最も求められているスキルです。いくら言語知識が豊富でも、コミュニケーション能力が低ければ、異文化の人と友好な関係を構築することはできません。人間は機械ではないのです。信頼関係を築くためには心の通ったコミュニケーションが必要なのです。

高い言語運用能力

バイリンガルは英語を話す時は英語で思考し、日本語を話す時は日本語で思考します。つまり日本語と英語、2つの独立した思考回路を持っているのです。そして、1つの言語から他の言語へと言葉のスイッチを自在に切り替えられます。
普通日本人は、耳にした英語を頭の中でいったん日本語に翻訳して理解し、それをまた英語に直すという翻訳作業を行います。これが多くの日本人に英語が身に付かない原因なのです。バイリンガルは言語を翻訳せず、その言語のまま理解する頭の使い方を知っています。
この優れた頭の働きは、3カ国語目、4カ国語目にも応用されます。つまり、中国語を学ぶ時は、他の言語を介在せずに、中国語のまま理解する頭の回路を作ることができるのです。だからバイリンガルは普通の人よりもはるかに短期間で、外国語を身に付けることができるのです。ぜひ2カ国語に満足せず、3カ国語目、4カ国語目にチャレンジさせてください。
 
(2015年10月1日号掲載)

アメリカの学校適応を促すには

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

学齢期の子どもを連れてアメリカに移り住むことになった場合、最初に配慮すべきが子どもの学校適応です。ある日突然、自分の意思とは無関係に、言葉も文化も異なるアメリカの学校に放り込まれ「英語で」授業を受けなければならない子どもは、両親が想像する以上につらい思いを経験します。
先生が何を言っているのか分からず、クラスメートとコミュニケーションがとれず、自分がどう行動すべきなのか分からず、右も左も分からないことだらけで、精神が疲れ果ててしまうのです。それでも何とか授業についていこうと必死で先生の言葉に集中しますが、早口の英語は頭の中をただ通り抜けていくだけです。
日本で優秀だった子ほど現地校で大きなギャップを経験します。「勉強ができるね、頭がいいね」と周囲から言われて育った子が、アメリカでは全く授業についていけないのです。急に自分が何もできない、ダメな人間になったような気持ちになり、がっくりと落ち込みます。日本では明るく元気だった子どもが現地校に入った途端、ふさぎ込んでしまうことはよくあります。

学習英語力と英会話力

子どもの学校適応を促すには「学習英語力」を集中的に指導する必要があります。学習英語力とは学校の主要教科で必要とされる英語力。簡単に言えば英語の「読み書きの力」です。英語の教科書が読めて、英語で文章が書けるようにならなければ、学校の授業についていくことも宿題をこなすこともできません。日本人両親の多くは「英語力=英語を話す力」だと思っています。しかし現地校に通う子どもにとって重要なのは「読み書きの力」です。アメリカの学校はリーディングとライティングを重視しますからなおさらです。小学校低学年では、毎日大量の本読みの宿題が出ます。小学校高学年からは、全教科において「作文/エッセイ」を書く技術が要求されます。
現地校で良い成績を取るには「読み書きの力」を向上させることが近道です。基本的な読み書きが身に付けば、教科書を頼りに授業内容の理解を深め、宿題や課題も自分の力でこなせるようになります。成績が上がれば「自分はアメリカでもやっていける!」と自信が回復し、学校適応が促進されるのです。
英会話は教えなくても現地校に通っていれば自然に身に付きます。一般的に現地校に通い始めて半年くらいは、発音や文法ミスを恐れるので、英語をあまり話したがらない傾向があります。どうしても会話力に不安がある場合は、日本人が少ない習い事に参加させて、学校以外でも英語に触れる機会を増やしてください。

サポートを与え安心させる

子どもの学校適応は学年が低いほどスムーズに進みます。しかし、年齢にかかわらず、どの子も大きなストレスを経験することを知ってください。どんなにつらくても両親に心配をかけないように、子どもなりに精一杯努力しているのです。両親はそんな健気な気持ちを受け入れると同時に、学習のサポートを与えて子どもを安心させてあげてください。
現地校に通い始めた子どもは、必ず初歩の英語力獲得で苦労します。問題を先延ばしにせず、速やかに英語のサポートを強化してください。両親が英語力に自信がない場合は、ESL(英語を第2言語で学ぶ人)指導に特化した塾やチューターで「読み書きの力」を重点指導してもらってください。
読み書きを身に付けるまでの期間が長くなるほど、子どもは「自信」を大きく喪失していきます。一般的に学習英語力を身につけるには5~7年必要と言われていますが、「読み書きの力」を集中指導することによって、そのプロセスを大きく短縮することができます。

学校任せにしてはいけない

子どもの英語力の発達を学校任せ(ELL任せ)にしてはいけません。必ず家庭でもサポートを与えてください。学校と家庭は車の両輪のような関係です。片輪だけをせっせと回しても、車はまっすぐに進むことができません。学校と家庭が協力して、同時に両輪を回転させることで、目標に向かって進むことができるのです。
英語が苦手という多くの両親にとって、アメリカ人の先生とコミュニケーションをとることは勇気がいります。でも子どものためだと思えば、できないことはないはずです。クラス担任およびELL担任とコミュニケーションを密にして、子どもが何を勉強していて、家庭でどのようなサポートを与えるべきなのかを、しっかりと把握してください。
 
(2015年9月1日号掲載)

スタートダッシュで差をつけよう

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの学校は8月中旬から下旬にかけて新しい学年がスタートします。バイリンガルの子どもがスムーズに新学年に適応するには、夏休み中に子どもの生活面と学習面のリズムを整えておくことが大切です。生活環境が一変する夏休み明けは、多くの子どもに情緒不安や集中力の低下が見られるので注意が必要です。
夏休み明けの心理不安は、既にアメリカの学校に通っている子どもにも起こります。特に、夏休みを日本で過ごした場合、大きな生活変化への適応を余儀なくされるので、子どもの精神は不安定になります。まだ新学年のスタートまで時間がありますから、早急に子どもの生活リズムを現地校モードに切り替えると共に、学習面の準備を開始しましょう。

生活習慣を整える

円滑に新学年をスタートする秘訣は、何と言っても生活リズムを安定させることです。夏休みはさまざまな理由で生活が乱れがちですが、できるだけ安定させるように努力してください。早寝早起きは基本中の基本。食事、勉強、おやつ、昼寝、習い事、読書、遊びなど、1週間のスケジュール表を作成して、同じ活動を同じ時間に行なうように心がけましょう。
生活の乱れは必ず子どもの精神を不安定にします。心理が不安定な状態で現地校生活が始まると、学校適応により多くの時間を要することになります。学校に行きたがらない、勉強に集中できない、忘れ物やケアレスミスが増えるなどの症状は要注意です。ただでさえ英語力に遅れがあるバイリンガルにとって、学年スタート時の出遅れはキャッチアップが困難です。
カリフォルニア州の公立学校の年間授業日数はたったの180日です。学校生活に慣れるまでに1〜2カ月かかれば、大きな学習ロスが発生します。長いようで短い現地校の1年間を有意義なものにするためにも、子どもの習慣管理には細心の注意を払い、スムーズなスタートが切れるように配慮してください。

学習習慣を整える

バイリンガルの子どもが学習英語力を獲得するには5〜7年が必要と言われています。この期間をいかに短くできるかが、子どもの学校適応を左右します。「英会話ができるようになったから英語はもう大丈夫だろう」と安心してはいけません。夏休みの間、英語に全く触れなければ、せっかく定着してきた英語力が錆びついてしまいます。
夏休みの英語力低下を防ぐには英語の読書が必要です。毎日最低30分は読書時間を作ってください。日本に帰省すると英語の本を読みたがらないかもしれません。その場合「読書をしなければ遊びに行けない」などルールを決めて毎日英語に触れる時間を作りましょう。
英語の本を読めることは日本では特技です。祖父母や親戚に頼んで「英語の本が読めるなんてすごいね!」と子どもを褒めてもらいましょう。アメリカで英語の本が読めるのは当たり前ですが、日本ではすごいことなのだと分かると、積極的に(人前で)英語の本を読むようになります。子どもなりに英語ができることを自慢したいのでしょう。きっかけは何でも構いませんから英語の本を読むように上手に誘導するのが両親の腕の見せどころです。

特技を持たせる

子どもの学校適応は年齢が低いほどスムーズに進みます。しかし、年齢にかかわらず、学校適応を劇的に促進する方法があります。それは「自信」を育てることです。自信が大きく育っている子どもほど新しい環境への適応力が高く、英語力も学力も短期間で身に付けられます。
自信が育っている子は「自分はやればできる」と確信していますから、何事にも粘り強く努力を継続することができるのです。英語も勉強もコツコツと継続すれば、短期間で高いレベルに到達できるのは当たり前です。
子どもの自信育てには「特技」を持たせてあげることが一番です。もちろん勉強ができるに越したことはありませんが、英語力にハンディのある日本人の子どもが勉強でトップに立つには相当の時間を要します。それよりも、夏休みを利用して、スポーツ、音楽、ダンス、演劇、何でも構いませんので、好きなことや得意なことに集中的に取り組ませ、特技へとレベルアップさせてあげるのです。
どんなに小さな特技でも、人には絶対に負けないものが一つあるだけで、子どもの自信は倍増します。その自信が源となって、学業にも課外活動にも対人関係にも前向きに取り組むことができる資質が育つのです。
 
(2015年8月1日号掲載)

日米学校教育の大きな違い

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカと日本の学校教育の最も大きな違いは「ハードスキル」と「ソフトスキル」の比重です。ハードスキルとはテストで測定できる知識や技術のこと。ソフトスキルはテストで測定できない技能のことで、コミュニケーション、クリティカルシンキング、問題解決力、協調性、周囲への影響力などを指します。
日本の学校教育はほぼ100%ハードスキルによって生徒を評価します。高校や大学受験も一部の推薦入試を除いて、テストの点数で合否を判断します。周囲とコミュニケーションをとらなくても、授業に参加しなくても、リーダーシップを発揮しなくても、テストで高得点を取れば、良い成績がもらえ、希望の学校に合格できます。
一方、アメリカの学校はハードスキルに加えてソフトスキルも評価の対象です。「子どもがテストで『A』を取ったのに成績は『B』だった。人種差別だ!」という話をよく日本人保護者から聞きますが、これは差別しているのではなく、ソフトスキルの評価が低いのだと理解してください。

社会で成功できる技能を育てる

アメリカはテストで高得点を取っても必ずしも良い成績はもらえませんし、良い大学にも合格できません。ハードスキル中心の教育を受けてきた日本人には理不尽に思えますね。なぜそれほどまでにソフトスキルを重視するのか?その理由は学校教育の目的にあります。
アメリカの学校教育の目的は「社会で成功できる人材の育成」です。保護者は社会で役立つ実用的な技能の指導を学校に期待し、学校もそれに答えようとしています。もし「テストで高得点=社会的成功」ならば、アメリカの学校教育はハードスキル主義になっていることでしょう。
あらゆる知識へ簡単にアクセスできるようになった現代社会では、知識よりも「知識を応用する技能」の重要性が増しています。この社会環境の変化に応じて学校教育も、クリティカルシンキングやコミュニケーションといったソフトスキルの指導に重点がシフトしてきているのです。
実社会では教科書には答えが載っていない問題解決を迫られます。その時にどう思考し、判断し、行動し、検証すべきなのか。自分にとってより適切な選択ができれば、自分らしい人生を回り道少なく歩んでいけます。それを実現するための技能がソフトスキルなのです。

ソフトスキルをどう育てるのか

多くの両親はアメリカの学校教育に馴染みがないため、家庭でソフトスキルをどうサポートしてよいか分からないと思います。そんな方のためにソフトスキルの中でも重要な「クリティカルシンキング」と「コミュニケーション」についてお話しします。
クリティカルシンキングは簡単に言えば「問う習慣」です。なぜなのか?本当なのか?そのようにあらゆる事象について「なぜ?」と問う習慣を子どもに与えるのです。情報が氾濫する現代社会では、知らず知らずのうちに他者の意見に流
されるリスクが存在します。「なぜなのか?」「本当なのか?」と問うことによって、思い込みや直感による判断ミスを回避できるようになります。
学校では「私はこう思う。なぜなら〜」「私は賛成だ。なぜなら〜」という受け答えが要求されます。これに対応するには、日頃から自分の思考について「なぜそう思うのか」と問う習慣を持つことが必要です。まずは両親が「なぜ?」と問うことから始めてください「。果物は何が好き?」と聞けば「、リンゴ」と答えます。「なぜリンゴが好きなの?」と問えば、子どもはより深く考える習慣が身に付きます。

コミュニケーションスキルは明瞭性

アメリカ流のコミュニケーションスキルとは「明晰・簡潔に伝える技術」です。多様な人種、民族、文化、価値観が混在する多文化社会では、言葉を明確かつシンプルにしなければ、自分の考えを正しく相手に理解してもらうことはできません。言葉を明晰にする習慣を身に付けることで、文化や価値観の違いから生じる誤解を避けることができます。 日本人最大の弱点がコミュニケーションスキルです。多くの日本人は直接的な言い方よりもあいまいな表現の方が、やわらかくて丁寧な感じが出ると思っています。しかし、アメリカの学校ではあいまい表現は通用しません。郷に入れば郷に従えです。親子の会話においても「あれ」「別に」「何となく」といった不明瞭な表現は避け、明快なコミュニケーションを心がけてください。
 
(2015年7月1日号掲載)

夏休み明けは要注意!

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの長い夏休みが終わって現地校生活が始まると、多くの子どもが情緒不安定になります。夏休み前までは元気に学校に通っていたのに「学校に行きたくない」とぐずったり、幼い子どもですと、指しゃぶり、おねしょ、母親から離れられないなど、赤ちゃん返りの症状が表れます。夏休み明けの情緒不安定は子どものわがままでなく、子どもの生活を管理している保護者側に原因があります。長期間日本に滞在して生活リズムが崩れると、アメリカに戻ってきてからもペースが戻らず、グズグズや不機嫌が続くようになります。可能であれば、里帰りは夏休み前半に行い、後半はアメリカに戻ってきて生活リズムを整えるように配慮してください。

里帰りする時の注意

毎年夏休みに日本に里帰りすることを多くの子どもが心待ちにしています。アメリカで育っていても、故郷である日本には深い愛着を感じているのです。川や海で遊んだり、虫取りをしたり、お祭りに行ったり、花火をしたり、キャンプをしたり、日本の夏ならではの楽しい思い出は、子どものアイデンティティー形成に大きく影響します。多文化社会であるアメリカで生活する子どもにとって自己アイデンティティーを明確に持つことは極めて大切です。
ただ、日本滞在中に特にすることもなく遊んでばかり、祖父母に甘えてばかりでは問題です。夏休み前までの9カ月間、アメリカの学校で一所懸命がんばってきた子どもは、英語力も学力も大きく伸びる時期にあります。低空飛行をしていた飛行機が一気に上昇していく、大体そのタイミングで夏休みになるんですね。この伸び盛りの時期に日本で自由気ままな生活をしていると、せっかく加速してきた学習意欲がまた下がってしまいます。「夏休みくらい思いっきり遊ばせてあげてもいいではないか」という考えもあると思います。でもアメリカに戻ってきた時に苦労するのは親ではなく、アメリカの学校に通う子どもたちなのです。子どものことを本当に心配するのであれば、夏休み中といえども生活管理を厳しくするのは当然です。

日本の学校に通わせるケース

最近は里帰りを利用して日本の小学校に通わせる家庭が増えています。日本の学校を経験することは、アメリカに住む子どもにとって短期留学のようなもの。しっかりと準備した上で日本の学校に通わせることができれば、子どもを一回りも二回りも成長させることができる素晴らしい体験となるでしょう。
日本で学校に通っていれば、生活リズムが極端に乱れることがありませんので、子どもの情緒は安定し、学校生活を存分に楽しむことができます。アメリカとは異なる授業スタイルやクラスメートとの交流を通して、子どもは多様な価値観に触れることができます。子ども時代に多様性を多く経験するほど視野が広がり、人間形成を豊かにしてくれます。
子どもを日本の学校に通わせる場合、日本語の「読み書き」ができるように事前に準備してあげてください。日本の小学校に通わせれば、読み書きを教えてもらえるだろう、なんて思わないように。小学校は語学学校ではなく、日本語を使って教科学習をする場所です。
学校に通えば毎日、国語、算数、理科、社会の授業を日本語で受けなければなりません。その時、教科書が満足に読めない、授業についていけない、というのは子どもにとって楽しい経験ではありません。日本の子どもと同レベルとまで言いませんが、最低限の読み書きができるように準備してあげてください。

アメリカに戻った時にすること

アメリカに戻ってきてからは、子どもの生活リズムをアメリカの学校に合わせるように調整します。学校の時間割に合わせて早起きし、食事をとり、勉強し、アクティビティーに参加させるのです。生活リズムが崩れたまま学校生活が始まると、心身のリズムが合わずに授業に集中できなくなるので要注意です。
また、頭を日本語から英語モードに切り替えさせることが大切です。時間に余裕があれば、サマープログラムや学習関連の習い事に通わせて英語の学習ペースを取り戻してください。理想は学校が始まる前に授業内容を少しだけ先取り(予習)しておくこと。
新学年が始まった時に「授業が分かる」「勉強は簡単だ」と実感できると学習意欲が向上します。両親が新学年へ向けて準備を整えてあげることで、子どもは最高の状態で新しい一年間のスタートを迎えることができます。
 
(2015年6月1日号掲載)

夏休みの過ごし方

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの長い夏休みをどう過ごすか。これはバイリンガルの子どもにとって重要なテーマです。英語力でハンディがある子どもが、夏休みを遊んで過ごしてしまうと英語力は錆びついてしまいます。夏休みはアメリカの学校生活をがんばってきたご褒美の「遊ぶ時」ではなく、新学年に向けての準備期間です。 
アメリカでは6月初旬から8月下旬まで長い夏休みがあります。多くの子どもは夏休みの里帰りを心待ちにしていると思います。もちろん、日本に住む祖父母や親戚と過ごす経験は、日本語習得やアイデンティティー形成にとって大切です。しかし、ただ毎日を遊んで過ごしてしまうとアメリカに戻ってきた時にツケが回ってくるので注意しましょう。
理想は、新学年が始まる1カ月前にはアメリカに戻り、生活面と学習面の準備を整えること。アメリカの学校生活に合わせて、早寝早起きをし、頭がすっきりしている午前中に勉強に取り組ませましょう。できれば、サマープログラムや夏期講習に参加させて、頭を英語モードに切り替えさせましょう。

アメリカのサマープログラム概要

アメリカにはあらゆる種類のサマープログラムがあります。スポーツ、演劇、音楽、絵画、国際交流、屋外キャンプなど、子どもの特技や興味に合わせてプログラムを選ぶことができます。
サマープログラムは、普段学校ではできない経験を通して、子どもがひと回り成長する機会です。多くのアメリカ人家庭は子どものニーズに応じて毎年サマープログラムに参加させます。 一般的にサマープログラムへ参加できる年齢は5歳以上です。プログラムの多くは、6月初旬から8月下旬にかけて実施されます。4~6週間といった長期参加が多いですが、中には1週間単位で参加できるものもあります。住んでいる地域によって時期や期間は異なりますのでリサーチしてください。
サマープログラムは、学校が主催するもの、非営利団体が主催するもの、一般企業・団体が主催するものに大別されます。
公立学校のサマースクールは、学習遅れがある生徒のキャッチアップが目的です。極端に学習遅れがある生徒は、進級の条件としてサマースクールへの参加が義務付けられることがあります。
私立学校のサマースクールは、豊かな設備と学校スタッフを利用して、スポーツ、音楽、演劇、絵画、勉強などの複合プログラムを提供しています。安全な環境で勉強もアクティビティーもやらせたいという家庭にお勧めです。
YMCAなど非営利団体主催のプログラムは、アクティビティー(遊び)中心です。同年代の子どもたちとさまざまなアクティビティーを通して交流を深めることができます。子どもの自信や社会性を育てたい方にお勧めです。
企業や団体主催のプログラムは、勉強からスポーツまで目的に応じて選択できます。テニス漬けにしたければテニスアカデミー、演劇漬けにしたければシアタープログラム、英語漬けにしたければ集中英語など、子どもの弱点克服や得意分野を伸ばしたい方にお勧めです。

ニーズに合ったプログラム選択を

プログラム選びのポイントは、子どもの性格とニーズに合ったプログラムに参加させること「。仲の良い友だちが参加するから」という理由で選んでもあまり得るものはありません。普段とは違う環境で、新しい仲間と切磋琢磨することにサマープログラムの価値があります。
一般にバイリンガルの子どもは英語力に遅れがあります。英語力の遅れは教科学習の足を引っ張るだけでなく「自分は勉強が苦手だ」と自信喪失につながるので深刻です。夏休みを利用して英語力の遅れを解消し、新学年を自信満々で迎えられるように準備するのも一つの選択です。
スポーツや音楽などに真剣に取り組んでいる子どもであれば、サマープログラムを利用して技術を飛躍的に向上させられます。同年代のライバルたちと差をつけるチャンスも夏休みなのです。

親の責任でプログラムの選択を

子どもに合ったサマープログラムを選ぶには情報収集が必要です。参加を決める前に学校や施設を訪問して担当者から話を聞いてください。どういうタイプの子どもが参加するのか、指導者の資格や経験は十分か、指導者に対して子どもの数は何人なのか、安全面の配慮は行き届いているかなどを確認してください。十分なリサーチをせずにプログラムを選ぶと、子どもが適応できずに嫌な思いをすることがあるので注意してください。
 
(2015年5月1日号掲載)

駐在員家庭のバイリンガル子育て

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

駐在など期間限定でアメリカに滞在する家庭のバイリンガル子育ての目標は、子どもに「一生使える英語力」を与えることでしょう。2~3年の限られた期間でも、適切なサポートを与えれば、帰国後も一生失うことのない、高度な英語力を身に付けることができます。
一生使える英語力とは、具体的には英検準1級以上、ハリーポッターが原書で読める読解力、学年ではアメリカの小学3~4年生レベルです。これが達成できれば、大学受験から就職まで、あらゆる英語の試験をトップで突破していくことができます。
日本では英語ができることは「特技」です。多くの人が英語を身に付けるために10年、15年と努力しています。その「特技」が、駐在期間のたった数年間で身に付けられるのです。「一生使える英語力」が身に付けば、子どもの将来の選択肢は大きく広がります。

小学生以上であれば日本語は大丈夫

駐在家庭の父兄は、子どもの日本語力を過度に心配する傾向があります。日本に帰ってから勉強についていけるのか、受験で出遅れないか、という不安です。結論を言いますと、小学生以上の子どもがアメリカに2~3年滞在しても日本語力が大きく落ち込むことはありません。
もちろん家庭で日本語の本を読ませたり、漢字学習をサポートしたりするという前提です。小学生レベルの学習内容であれば、両親が先生になって教えることができます。最近はアメリカでも漢字検定試験が受けられますから、◯級合格!など、具体的な目標を持って取り組ませるとよいでしょう。
駐在を終えて帰国した時は、塾などで学習のキャッチアップを集中的に行なってください。補習が必要な教科は国語と社会です。算数と理科については、アメリカの学校でも習っていますので、大きく遅れることはありません。普通、数カ月もすれば日本の教科学習に追いつくことができます。
両親が帰国後の日本語力を心配するのは分かりますが、アメリカの学校に通っている子どもにとって重要なのは英語力です。子どもからすれば、毎日苦労している英語を一刻も早く身に付けたいのです。両親は子どもの心情を理解し英語を優先してサポートを与えてください。

英語の読み書きを早期に与える

「一生使える英語力」を身に付けるには、両親の責任で英語の「読み書き」をサポートしなければいけません。現地校(ELL)に通わせておけば、英語力は身に付くだろうと思ってはいけません。ELLで身に付けられるのは必要最低限の英語力だけです。
特に初歩の読み書きは待ったなしです。読み書きを獲得するまでの期間が長くなればなるほど、子どもは自信を喪失します。英語が分からない間は授業も分かりませんから、「自分は勉強ができないのだ」と思い込んでしまうのです。この状態が続くと、自信とやる気が減退し、対人関係などにも影響を与えるようになります。アメリカでの滞在を有意義な経験にするためにも、両親は英語の「読み書き」を早急にサポートしてあげてください。英語の本が読め、文章が書けるようになって、子どもは初めて授業が分かり、教科学習についていけるようになります。

短期間で読み書きを身に付けるには

読み書きを短期間で身に付けるには、ESL指導を専門とするチューターや塾の助けが必要です。子どもがアメリカに来て間もないうちは、外国人の指導経験がない先生から教わるのは極力避けましょう。「英語ネイティブ」というだけで先生を選ぶのは軽卒です。
日本人なら誰でも日本語を話せますが、外国人に日本語を教えることはできませんね。同様に、英語を英語が分からない外国人に教えるには、専門知識と経験が必要です。指導経験を確認した上で、専門性の高い先生を選んでください。
また、家庭でも読み書きのサポートを与えることが大切です。教える時のポイントは2つ。一つは「英語で英語を教える」こと。日本人は英語を訳して考える習慣がありますが、子どもは英語で英語を理解できます。シソーラスと呼ばれる類語辞書を与えて英語で理解できるように導いてください。
二つ目は「頻出単語を教える」こと。英語は文章でよく使われる単語が明確です。頻出単語は「サイトワーズ」と呼ばれます。サイトワーズのリストはインターネットで簡単に入手できますから、プリンアウトして覚えさせましょう。
 
(2015年4月1日号掲載)

放っておいても英語力は育たない

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

海外子育てをしている両親の多くは「現地校(ELLプログラムを含む)に通わせておけば英語力は身に付くだろう」と思っています。そのため、子どもの英語力を学校任せにする傾向があります。実は、これこそがバイリンガル子育ての最大の誤解であり、子どもの学力獲得や学校適応を難しくしている原因です。
現地校で自然に身に付くのは英会話力、つまり「生活英語力」です。授業で要求されるリーディング力やライティング力、すなわち「学習英語力」は、学校に通っているからといって自然に身に付くとは限りません。
バイリンガル育児を成功させるには、学習英語力の発達をモニターし、適切なサポートを与えていかなければなりません。学習英語力が身に付くには5〜10年という期間が必要です。中でも、子どもの勉強に対する姿勢を左右する重要な「時期」についてお話しします。

ポイントになる時期

学習英語力の発達をスムーズにするには、子どもがキンダーに上がる前、そして小学1年生になる前に学習面の準備をすることが大切です。この時期に適切なサポートを与えれば、子どもは授業で困難を感じることはありません。すると「自分はアメリカの学校でもやっていける!」と自信を持つことができるのです。
自信は、学習英語力の発達をスピードアップさせる特効薬です。「やればできる」と信じている子は、粘り強く学習に向かい合うことができます。諦めずにコツコツと努力を継続すれば、英語力も学力も短期間で向上するのは当然です。
この大切な「自信」ですが、海外生活では、親が気付かないうちに削られてしまうことがあります。それが、キンダーガーテンと小学1年生に上がるときです。特に日本語が得意な子、日本語で勉強が良くできる子ほど、現地校で大きな落ち込みを経験し「自分はできない」と自信が揺らぐのです。
日本語で何不自由なく会話ができ、本が読め、文字が書け、周囲から「◯◯ちゃんは勉強ができるね!」と褒められていた子が、現地校に上がったときのことを想像してください。友だちや先生とコミュニケーションがとれない、言いたいことがうまく伝えられない、本が読めない、授業が分からない、まるで自分が何もできない人間になったようなショックを受けるのです。

キンダーでのサポート

アメリカではキンダーガーテンの一年間で、基本的な文字の読み書きを習います。大文字・小文字のマッチング、アルファベットの名前と音の区別、単語の最初の音・最後の音・真ん中の音の聞き分け、音節の聞き分け、ライミング(韻を踏む)の理解、基本サイトワーズなどを、どの子も実質9カ月間(9~5月)で身に付けなければなりません。
ペースの早いキンダーの授業についていくためには、家庭でフォニックスをサポートすることが必要です。これは日本人に限ったことではなく、英語ネイティブでも同じです。毎日、家庭で子どもに文字読みを教えることによって、子どもは文字と音の関係を覚えられるのです。
フォニックスは、英語力に不安がある両親がサポートすることは困難です。でも、現代のテクノロジーを利用すれば、日本人家庭でもフォニックスをサポートすることは十分可能です(フォニックスの教え方はTLC for Kidsのフォニックスビデオを参考にしてください。https://www.youtube.com/watch?v=OAkUwfneCmc)。

小学1年生までに行うサポート

フォニックスの次のステップが、リーディング指導です。単語読みから本読みへと一気に要求が高くなる小学1年生までに、簡単な本が読めるようにサポートすることが理想と言えます。1年生のリーディングでつまずくと、英語だけでなく、理科や社会などの教科学習の足も引っ張ってしまいます。
リーディングを短期間で上達させる秘訣が「サイトワーズ」指導です。サイトワーズというのは英語の頻出単語のことで、頻出300単語を覚えるだけで、小学生レベルの本であれば、約80%が読めてしまうという優れものです。
サイトワーズのリストはインターネットで入手できますから、プリントアウトして子どもの目に入る場所に貼っておきましょう。また書店でサイトワーズのワークブックを購入して取り組ませましょう。家庭でのサポート方法が分からない方は、TLC for Kidsまでお気軽にご連絡ください。
 
(2015年3月1日号掲載)

勉強ができる子の育て方

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

学生になった子どもを持つ父兄から「子どもが勉強嫌いで困っています」という相談をよく受けます。私は「勉強好きにすることよりも、勉強が苦にならない習慣を育てる努力をしてください」とアドバイスします。今までさまざまなタイプの子どもを見てきましたが、勉強ができる子に共通しているのが「勉強が苦にならない」心の習慣です。
「勉強が苦にならない」習慣は、親から遺伝するものではなく、両親の働きかけによって育てられるものです。そして、この習慣を育てる最適期は、皆さんが思っているよりもはるかに早く、子どもがオギャーと生まれたその日から、小学校に上がるまでの6年間です。小学1年生になったときには、勉強が苦になる子とならない子は、はっきりと分かれています。
勉強が苦にならない習慣は、年齢が小さいほど高度に備わります。5歳よりも4歳、4歳よりも3歳の子どもの方が楽に身に付けることができます。小学生になって慌てて「本を読みなさい」「勉強しなさい」と言っても思うようにいかないのは周知の事実。子どもが学校で苦労する羽目にならないように、小学校入学までに学習習慣を付けてあげることは「親の責任」です。

自信があるから勉強に向き合える

勉強が苦にならない習慣を育てる第一歩は「自信育て」です。「自分はやればできる」と信じている子は、何事にも積極的に取り組むことができます。反対に自信が育っていない子は、「やってもどうせ無理だ」という気持ちが根底にあるので、物事に粘り強く向き合うことができず、すぐに投げ出します。
ここで言う自信とは、「親から愛され必要とされている」自信であり、子どもの努力によって獲得する自信ではありません。親が無償の愛を与え続け、それを子どもが実感することによって育つ自信です。もちろんたいていの親は子どもを愛していると思っています。でも、それが子どもに伝わっていなければ「愛情のすれ違い」となり、子どもの自信は育たないのです。
愛されている自信が揺らぐと、子どもは臆病で消極的になる反面、他人には攻撃的になります。また親の愛情を、甘え、反抗、自損、他損など、さまざまな行為で確認しようとします。子どもに愛情不足の兆候があるときは、スキンシップを増やし愛情のインプットを積み上げてください。親の愛情が実感できれば、問題行動は改善し、学習習慣作りを受け入れる準備が整います。

忍耐力を育てる

勉強が苦にならない習慣を育てる次のステップが「忍耐力」の育成です。毎日同じことにコツコツ取り組み、忍耐力として定着させるのです。最初は、絵本の読み聞かせとプリント学習を日課とすることから始めてください。忍耐力を育てるには、5〜10年という長い期間が必要です。乳幼児から始めても最低5〜6年はかかると思ってください。両親にも多くの根気を要しますが、この時期の献身的な働きかけが、将来、子どもに強靭な忍耐力を与えます。
絵本の読み聞かせは、毎日30分〜1時間を目安に行なってください。幼い子どもには、同じ絵本を何度でも繰り返し読んであげましょう。読み聞かせによって言語力や想像力が豊かに発達することはもちろん、活字に対する抵抗感がなくなり、子どもを本好きに育てることができます。
プリント学習は毎日10〜15分を目安に行ないます。幼い子どもには、塗り絵や線つなぎなど、筆圧を育てるプリントから取り組ませます。年齢とレベルに応じて文字や数字などのプリントを与えてください。ポイントは、難しすぎる内容を与えないこと、そしてプリントをするときは両親が一緒についてあげることです。毎日決まった時間に、決まった量をこなすことを心がけてください。

現地校入学までに英語力を育てる

バイリンガル子育てでは、勉強が苦にならない習慣と同時に、小学校入学までに英語面の対策をしておくことが大切です。いくら日本語で高い学力が育っていても、英語が全くできなければ、現地校の授業についていくことはできません。
現地校に入学すると、多くの子どもが、英語力不足から「自分は勉強ができない」と自信喪失を経験します。これを回避するには、基本的な英語の読み書きを身に付けさせておくことが必要です。読み書きができれば、小学低学年程度の学習内容であれば簡単についていくことができますから、子どもの自信が傷つくことはありません。
 
(2015年2月1日号掲載)

アメリカのELLについて

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

ニエベス・ガルシアさんは6歳のときにメキシコからカリフォルニアに移住してきた。そして小学校の大半をELL(English Language Learner、英語学習者)として過ごした。彼女は学校生活で必要な英語力を身に付けてからもELLから解放されることはなかった。
現在、母親となった彼女は、娘が自分と同じようにELLのレッテルを貼られ、英語力テストを受けさせられることを恐れた。そして、ガルシアさんは娘が幼稚園に入園する際に『家庭では英語しか話さない』と嘘をついた。ガルシアさんの夫は英語が全く話せないのにである。
『家庭の使用言語調査表』にどれだけの親が嘘の申告をしているのか分からない、とカリフォルニア州教育省関係者は言う。『家庭の使用言語調査表』に嘘を書くことは、子どもの学力向上の足を引っぱるだけでなく、米国連邦法が定める教育を平等に受ける権利の侵害に当たる、と教師たちは言う」。

子どもにとってELLは劣等体験

前記はAP通信が配信した記事(Amy Taxin著)の抜粋です。移民の国アメリカでは、ほとんどの州において、子どもが公立学校に入学する際に「家庭の使用言語調査表」の提出が要求されます。この調査表に基づいて、学校は生徒をELLに配置するか否かを決定します。ELL配置は、メキシコ人移民だけではなく、アメリカで子育てをする日本人も真剣に考えなければならない問題です。
「ELLに入ればタダで英語を教えてもらえるからラッキー!」と考えるのは軽卒です。ガルシアさんのように自分自身の経験から、嘘をついてでも子どもをELLに入れたくないと望む親はたくさんいるのです。なぜならELLに配置されると、クラスメートから切り離され、英語の特別授業と追加の英語力テストが義務付けられるからです。
クラスメートから区別される(ELLのレッテルを貼られる)ことは、子どもにとって「劣等体験」です。これはアメリカの学校に馴染みがない父兄でも少し想像力を働かせれば分かります。クラスメートが社会や理科の授業を受けているときに、自分だけが普通クラスを離れて、ELLに行かなければならないのです。
現地校へ子どもを通わせるときに両親が最も配慮すべきが、英語力不足から生じる「劣等体験」や「自信喪失」をいかに軽減できるかです。もちろん英語力ゼロの子どもにはELLは大きな助けです。しかし、ある程度英語力が身に付いている子であれば、できるだけクラスメートと一緒に授業を受けられるように両親が対策・支援することが望ましいのです。

ELL生徒の指導方法

ELLの指導には「Pull Out」と「Push In」と呼ばれる方法があります。Pull Outは、生徒が普通クラスを離れて、他のELL生徒と一緒に英語の特別授業を受けるスタイルです。生徒は英語のレベルに応じて、週に1日〜5日、各45分程度の授業をELL専門の教師から受けます。
Push Inは、生徒が普通クラス内で、クラスメートと同じ授業を受けながら必要な英語サポートを受けるスタイルです。英語力が比較的高いELL生徒が対象で、担任の先生、アシスタント教師、ボランティア講師などからサポートを受けることができます。
生徒の英語レベルや性格にもよりますが、通常授業を受けながら支援が得られるPush Inは、教科学習のロスが少ない上、子どもの精神的なマイナスも軽減されるので、総合的な学力向上には有効だと考えられます。いずれにしても、ELLに配置される子どもは、クラスメートとは「異なる」扱いを受けることになりますから、自信やプライドが傷つきます。両親はこのことを十分に理解し、子どもが短期間で英語力を身に付けられるよう最大限の支援をしてください。

子どもがELLと認定されたら

子どもがELLに配置されたら、担任の先生、またはELLの先生と面談し、指導カリキュラムと家庭での支援方法について意見交換をしてください。子どもが効率的に英語力を獲得していくには、学校での適切な指導に加えて、家庭での予習・復習が必要です。決して英語学習を学校任せにせず、家庭でどのような支援をすべきなのか、先生と詳しく話し合いましょう。両親が協力的な姿勢を示すことで、学校も親身になってサポートしてくれるようになります。
家庭で英語力をサポートすることが難しい場合は、塾や家庭教師など専門家の助けを借りましょう。英語力を速やかに身に付けることが、子どもの自信回復につながり、アメリカの学校生活をより楽しく豊かなものにしてくれます。

学校ボランティアに参加しよう

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの学校教育への馴染みがなく、また、英語が苦手な日本人父兄は子どもの勉強を学校任せにする傾向があります。「現地校に通わせておけば勉強は何とかなるだろう」と考えるのは危険です。子どもが、自分の努力だけで英語力と学力を身に付けていくことは困難です。
アメリカの小学校には教科書がないため、両親には授業の内容が知りづらく、子どもに「何を勉強しているの?」と聞いても要領を得ないことがほとんどです。だからといって家庭で何のサポートも与えなければ、子どもは勉強で消化不良を起こすようになります。
子どもの学びをサポートするには、両親が担任の先生とコミュニケーションを取ることが必要です。アメリカの学校は、先生によって指導内容や進め方に違いがありますから、直接尋ねなければ具体的な授業内容は分からないのです。先生との関係が深まるほど、より適切な指導が期待できるようになります。

子どものことを知ってもらう

先生との関係を築く最初の機会はカンファレンス(個別面談)です。どの学校にも先生との個別面談があります。このときに子どもについて詳しく説明してください。アメリカ滞在年数、英語歴、兄弟姉妹、家庭の言語環境、性格、課外活動などについて伝え、先生に我が子のことをよく知ってもらうのです。
その上で、各教科のカリキュラムと目標、宿題の量や課題のタイミングなど具体的な授業内容について質問しましょう。先生との連携を強め、子どもの学びを家庭でもサポートしたいという気持ちを表明することによって、先生は親身になって子どもの学習活動を支えてくれるようになります。
子どもがELL(EnglishLanguageLearners)プログラムに入っている場合、担任の先生に加えて、ELLの先生とも面談をしてください。面談では英語の四技能(聞く、話す、読む、書く)について、子どもの現在のレベルと目標を確認しましょう。子どもが何で苦労しているのか、それを家庭でどうサポートしたらいいのか、アドバイスを受けてください。

ボランティアで信頼関係を深める

先生と友好な関係を築く第二のステップが、学校ボランティアです。先生も人の子ですから、協力的な家庭の子どもには目をかけたくなるものです。初めて学校ボランティアに参加するときは勇気がいりますが、子どものためですから思い切って行動してください。
学校ボランティアには、PTA役員やクラスマザーとしてボランティアを統括するリーダー的活動、登下校や放課後に子どもの安全をモニターする活動、フィールドトリップの付き添い、プリントの製作やコピー、貸し出し図書の整理や補修、イベントの準備や片付け、生徒のスナックや飲み物の用意、授業中の先生補佐など、多くの労力を要するものから単発のものまでさまざまです。
また、季節の行事やイベント時の写真やビデオ撮影、広報物の作成や配布、ウェブサイトの制作や管理、スポーツ・楽器・ダンス指導、日本の行事・文化紹介など、自分の専門や特技を活かせる分野でボランティアをすることもできます。
ボランティアを始めるよいきっかけが、カンファレンスやオープンハウスです。先生にどんなボランティアが求められているのかを聞いてみましょう。英語が得意でなくても手伝える仕事はいくらでもあるはずです。

英語ができなくても大丈夫!

子どもが学校でどんな様子なのか、どの子と仲がよいのか、クラスメートはどんな雰囲気なのか、先生はどんな人柄なのか、アメリカの学校はどんな授業をしているのか、などを自分の目で見ることができる学校ボランティアは、日本人の両親にとって貴重な体験です。
英語力に不安があるのは子どもも一緒。両親が学校ボランティアに参加することで、異文化に放り込まれた子どもが、どのような気持ちで学校生活を送っているのか、子どもの心情をより理解できるようになります。これはバイリンガル育児を実践する両親にとって、極めて重要なことです。
アメリカの学校は、英語が苦手という父兄でも、子どもの学びをサポートしたいという気持ちがあれば、温かく迎えてくれます。まずは担任の先生に相談してみましょう。両親が学校に参加することで、先生や他の父兄たちと協力して子どもをサポートする体制を整えることができます。また人間関係の広がりと共に、英語を練習する機会が増えるのもボランティア参加の副産物です。

家庭で英語力をサポートする

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

 子どもの英語力には「生活英語力」と「学習英語力」があります。「生活英語力」は社会生活で必要な英会話力。「学習英語力」は現地校の授業で要求される読解力・論理的思考力・ライティング力など高度の認知や思考を伴う英語力です。バイリンガル子育てではこの2つを区別し、それぞれの発達に必要な教育や環境を与えることが大切です。
 「生活英語力」は日常生活の中で獲得していく力で、現地校(完全英語環境)に2、3年通えば誰でも身に付けることができます。生活英語力は社交的な子ほど短期間で身に付きますから、家庭ではソーシャルスキルの形成を重視した子育てを心がけましょう。また、スポーツや音楽などの課外活動に通わせることも生活英語力の発達を促してくれます。
 一方、「学習英語力」はどれだけ英語環境に浸っても自然に身に付くことはありません。学校の指導、両親のサポート、そして子ども自身がコツコツと努力を重ねることで習得していく力です。子どもの学習英語力が学年相当レベルに達するには、母国語が育っている子で5〜7年、母国語が弱い子では7~10年かかると言われています。

英語の読み書きは難しい

 「学習英語力」を支えているのは英語の「読み書きの力」です。アメリカでは小学校に上がる1年前、キンダーガーテンで英語の読み書きを習います。キンダーガーテンは小学校の教科学習に適応するための準備学年、言い換えれば学習英語力の土台を築く学年。現地校に通う子どもは、キンダーガーテンの1年間(正味9カ月間)で基本的な読み書き力を身に付けなければなりません。
 もちろん、日本人の子も現地の子と同じように読み書きを習います。しかし、日本人の子どもが、たった9カ月間で十分な読み書き力を身に付けられるケースは稀です。というのも、英語の読み書き指導法として一般的な「フォニックス」はルールが複雑で例外が多く、4〜5歳の子どもが(理屈中心の授業で)習熟することは大変難しいのです。
 フォニックスは英語ネイティブ向けの文字指導法であり、学習者が英語の音や文字に親しんでいることが前提です。例えば、フォニックスでは「cat」を「c/ク」「a/ア」「t/ト」と分解して教えますが、このルールを理解するには単語の最初の音(ク)と終わりの音(アット)を聞き分けられる英語力と、アルファベットに対する予備知識が必要です。

家庭でのサポートが重要

 英語であれ日本語であれ、子どもが読み書き力を身に付けるときは、学校に加え、家庭でもできるだけ多くの文字に触れなければなりません。絵本を読み聞かせたり、文字カードや文字ブロックで遊んだり、言葉遊びをしたり、ワークブックに取り組んだりという両親のサポートによって子どもは読み書きの力を発達さることができるのです。
 日本人父兄の多くは、英語の文字指導についての知識がないため、家庭で読み書きをサポートすることができません。また、多くの父兄が「自分が英語下手だから」と、英語を教えることをためらってしまいます。ただでさえフォニックスは難しいのです。その上、家庭でのサポートがなければ、子どもはいつまで経っても読み書きを定着させることができません。
 子どもが現地校に通っているのであれば、両親が間違った発音で英語を教えても心配はいりません。子どもは毎日学校で正しい英語を聞いていますから、発音の違いを区別できます。ですから安心して家庭でも読み書きをサポートしてあげてください。

どの家庭でもできる文字教育

 子どもの目に入る場所(トイレなど)にアルファベットチャートやフォニックスチャートを貼りましょう。子どもは無意識に目に入るものを反復学習します。また、市販のフォニックスワークブックを購入して毎日取り組むことを日課としてください。ワークブックをするときは、必ず両親が一緒についてあげること。分からない時は、すぐに答えを教えてあげてください。
 最近は、スマートフォン、タブレット、コンピューターなどで使えるフォニックスソフトがたくさんあります。これらを活用しない手はありません。ゲームはダメと、頭ごなしに否定するのでなく、子どもの学習に役立つものはどんどん取り入れましょう。学習英語力の獲得プロセスは子どもの学校適応と学力を左右する極めて重要なポイントです。

根拠のない自信を育てる

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

海外での子育てでは子どもの自信を育てることが大切です。自分の意思とは無関係に異文化への適応を余儀なくされる子どもは、親が想像する以上に多くのストレス、戸惑い、不安に直面します。慣れ親しんだ言葉や習慣が通用しない集団社会(現地校)に入るとき、誰でも多かれ少なかれ劣等感を覚えたり、自信喪失を経験します。
 このとき、子どもの学校適応を左右するのが「自信」です。自信が大きく育っている子は、新しい環境への不安や恐怖よりも「自分はやればできる」という気持ちが勝っているので、困難に立ち向かっていくことができます。その結果、英語力も人間関係も積極的に身に付け、自分らしさを保ちながら新しい環境へ適応していくことができるのです。
 一方、自信のない子は「自分はどうせできない」という気持ちが根底にあるため、ストレス、不快といったマイナスの刺激を恐れ、避けるようになります。すると、何事にも消極的で、友だちがなかなかできず、英語力が伸び悩み、学力が停滞し、さらに自信が減退するという悪循環に陥ってしまいます。

根拠のない自信を育てる

 子どもの自信の源は「根拠のない自信」です。勉強や課外活動など、自分の努力によって自信をつけていくのは先の話。根拠のない自信というのは「ボクはママから愛されている」「私は親から必要とされている」という自信であり「自分は価値がある人間だ」と心から信じている状態です。
 人間にとって最も大切な資質である「やる気」の大小も「根拠のない自信」が関わっています。「困ったときにはママが助けてくれる」「いつもママはボクの味方だ」という安心感が根底にあれば、失敗を怖がらない積極的な性格に育ちます。反対に「誰も助けてくれない」「世の中は敵ばかりだ」という不安感が根底にあると、臆病で消極的な反面、他人には警戒的、攻撃的な性格になります。
 「根拠のない自信」を育てるには、親から愛されていると子どもが「実感」していなければなりません。もちろん大抵の親は我が子を心から愛していると「思っている」でしょう。しかし、多くの子どもは親から愛され受け入れられていると「実感」できていないのです。この愛情のすれ違いが多くの子どもに自信と積極性が育たない最大の原因です。

自信を育てるコツは「お手伝い」

 子どもに愛情の「実感」を与える一番の方法が「お手伝い」です。簡単なお手伝いを頼み、できたら「手伝ってくれて助かったわ、ありがとう」と言い、ギュッと抱きしめて感謝するのです。子どもはお母さんの胸に抱かれ感謝されたことで「自分は愛され、必要とされている」という「実感」を得ることができます。
 子育て上手なお母さんは、子どもに頻繁にお手伝いを頼み、愛情のインプットをせっせと積み上げています。人から感謝される喜びと快感をたくさん経験して育った子どもは、前向きで積極的、そして開放的な人柄になります。
 子どもが2、3歳でもどんどんお手伝いを頼みましょう。ただ、命令や指図で子どもを動かそうとしてはいけません。ささいなことでも必ず「頼むこと」から始めてください。「○○ちゃん、悪いけどママを手伝ってね」。そして、子どもがしてくれたら「ありがとう、助かったわ」と抱きしめて感謝する。これで子どもは自分の働きがママに必要だ、自分は役に立つ人間だという「実感」を得ることができます。コツはスキンシップを加えること。言葉で感謝するよりも100倍愛情が伝わります。

勉強以外の特技を持たせる

 根拠のない自信を育てることは小学生以上の子どもにも効果がありますのでぜひ実践してください。同時に、小学校高学年からは、根拠のある自信作りにも配慮しましょう。バイリンガルの子どもは、英語力でハンディがありますから、学力面でトップに立つには長い時間と努力が必要です。そこで両親が目を向けるべきは「勉強以外の特技」を持たせることです。
 スポーツ、音楽、絵画、演劇、どんな分野でも、どんなに小さなことでも構いませんので、子どもが好きなこと、得意なことに集中的に取り組ませ、特技へとレベルアップさせるのです。マンガを描けば人には絶対に負けない、ギターを弾けば自分が一番だ、卓球なら誰にも負けない、そんな特技が一つあるだけで、子どもの自信は倍増します。その自信が源泉となって、学業にも課外活動にも対人関係にも積極的に取り組める資質が育つのです。
 
(2014年10月1日号掲載)

ソーシャルスキルを育てる

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの子育てで留意すべき点に「ソーシャルスキル」があります。これは集団や社会で周りの人たちと良い人間関係を形成していく力のことです。バイリンガルの子どもが、学校に通い、さらに社会に出て行く過程で、ソーシャルスキルは、環境適応を促進し、アメリカの生活をより楽しく、快適にしてくれる役割を持ちます。
ソーシャルスキルには、礼儀作法、コミュニケーションスキル、シンキングスキル、問題解決スキル、自己表現スキルなど、対人関係に関わる全ての技術が含まれ、子どもの成長に応じて家庭や学校で指導されます。多様な文化と価値観が共存するアメリカでは、人間関係を円滑にするための技術として、誰もがソーシャルスキルを身に付けておくことが求められます。

対人関係の土台は親子関係

ソーシャルスキルは「技術」なのですが、それを支えているのは性格と人柄です。子どもが素直で、思いやりがあれば、ソーシャルスキルは簡単に身に付きます。一方、強情で、自分勝手だと、対人関係の技術を身に付け、良い人間関係を築いていくことは難しくなります。
子どもの性格や人柄の方向性を決めるのは親子関係です。中でも、一緒に過ごす時間が長いお母さんの影響が一番強いことを知りましょう。「自分はお母さんから愛され受け入れられている」と子どもが100%実感できると、母子の信頼関係が成立します。すると、その信頼感が心の土台となって、周囲の人にも思いやりと信頼感を持って接する人柄に育ちます。
反対に、お母さんがいつも不機嫌でガミガミ怒っていると「自分はお母さんに受け入れられていない」という不安感が潜在して、周囲の人にも不信感を持つようになります。この乳幼児期に成立する心の土台の違いが、外交的・内向的、明るい・暗い、素直・頑固、人懐こい・人見知り、という性格や人柄の違いへと発展していくのです。
もちろん、友だち作りや人付き合いが苦手なお母さんもいるでしょう。しかし、だからといって子どもも似ていて当たり前ということではありません。子どもの対人関係は、親から遺伝するものではなく、母子関係から育まれる「信頼感」や「安心感」によって方向性が作られることを忘れないでください。

ソーシャルスキルを高めるには

子どものソーシャルスキルを高める簡単な方法は、スキンシップを増やすことです。子どもが朝目覚めたとき「○○ちゃん、おはよう」と言って抱きしめ、ほおずりをします。簡単なお手伝いを頼み、できたら「ありがとう、○○ちゃんが手伝ってくれて助かったわ」と言って抱きしめます。お母さんが意識してスキンシップを増やすことによって、子どもの安心感と信頼感は大きくなり、家族以外の人とも積極的に関われるようになっていきます。
コツは言葉だけでなく、必ずスキンシップを加えること。欧米ではスキンシップは信頼感を確認するための常識的なマナーですが、日本人にはちょっと照れくさいですね。でも、愛される人柄作りのためですから、恥ずかしがらずにどんどん実践してください。スキンシップは子どもの年齢にかかわらず「親から愛され大切にされている実感」を高める効果があります。

人付き合いのルールを教える

友だちが作れない、極端な引っ込み思案、極端に攻撃的など、人付き合いが苦手な子どもを「持って生まれた性格だから」と放っておいてはいけません。繰り返しますが、子どもの対人関係は改善できるのです。まずは母子の信頼関係を大きくすることから始めましょう。
また、ソーシャルスキルの基本を教えてあげてください。笑顔で挨拶する、相手の目を見て話す、人の話をしっかり聞く、感謝の意を伝える、相手の気持ちになる、丁寧な言葉使いをする、自分の感情をコントロールする、どれも当たり前のルールですが、きちんとできない子どもが多いのです。人と関わる基本的なルールを学ぶだけで、子どもの対人関係は目に見えて良好になります。
町中で見知らぬ人と目が合ったときに無愛想だった子どもが、ニッコリ微笑んで挨拶できるようになれば、周囲の人の対応はガラリと変わります。人付き合いのルールを実践すると、何よりも自分自身が楽しく、明るい気持ちになることを理解させましょう。母子の信頼関係作りと対人関係のルール、これがソーシャルスキルを育てるポイントです。
 
(2014年9月1日号掲載)

競争心を育てる

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカは自由と平等を重んじる国です。万人に自由と平等を保障するということは競争が激しい社会ということでもあります。集団や協調を重んじる日本では子育てや教育に競争を持ち込むことは少ないですね。しかし、競争文化の国アメリカでの子育てでは「競争心の育成」に目を向けることが必要です。日本で競争心が強いというと、他人を踏み台にしたり、自分の利益のために手段を選ばないなど、否定的なイメージがあります。一方、アメリカで「competitive」といえば、自己の能力を高めるために努力を惜しまない、意思が固い、負けず嫌いで粘り強いなど、肯定的に見られる場合がほとんどです。アメリカ人は本当に競争が好きです。自分が競争に参加することも、競争を見ることも好きです。競争が生活のあらゆる場面に浸透しているので、アメリカ人家庭では、ごく当たり前に、子どもを幼い頃から競争に参加させます。勉強もスポーツも競い合わせて能力を向上させるのがアメリカ流です。

個性とチャレンジ精神の育成

競争に参加させる目的は個性と才能の錬磨、そしてチャレンジ精神の育成です。スポーツ、音楽、勉強、さまざまな分野の競争に参加することで、子どもは「自分は何に向いているのか」を知ることができます。個性に気付き、能力に磨きをかける。それを自覚させるために多くの競争を経験させるのです。また、困難に立ち向かう力、敗北から再び立ち上がる力、失敗を恐れずチャレンジする力、プレッシャーの中で実力を発揮する力、絶対に諦めない根気強さなど、たくましい精神力を育てるには競争を体験させるのが一番です。目標達成のためにコツコツと努力する経験は人間の資質の中で最も大切な「自信」を大きく育ててくれます。もちろん競争は一握りの勝者と多くの敗者を生み出します。確率では敗者になる可能性が高いのに競争に参加させるのは、子どもがアメリカ社会で生きていく上で欠かせないトレーニングだからです。競争と向き合う訓練をせずに厳しい競争社会に放り出す方が、保護者として、よほど無責任なのです。

充実した子どもの競争環境

アメリカの競争文化を支えているのが競争環境の豊かさです。スポーツを例にとりましょう。ほとんどの競技はシーズン制で、一年間に2、3の異なる競技に参加できます。複数競技を経験することで偏りのない運動能力を開発できると同時に、子どもが自分の才能や好みに合った競技を見つける助けとなります。多くの競技は参加者の年齢やレベルによって細かく分類されており、初心者から上級者まで、自分の能力に合った競争に参加できるようになっています。この仕組みがあらゆる競技に根付いているので、子どもは自分と同レベルの相手と切磋琢磨しながら技能を向上させていくことができるわけです。アメリカで特筆すべきが、両親を始め、競争に関わる人の「勝敗へのこだわりが少ないこと」です。もちろん競争に参加する目的は勝つことです。しかし、勝つために一所懸命努力したのであれば、負けても、それは勝利と同様に高く評価されます。真剣勝負の中にも「ゲームを楽しめばよい」「負けても次に勝てばよい」という寛容さがあるので、誰でも気軽に競争に参加できるのです。反対に「やるからには勝たねばならない」と勝敗へのこだわりが強過ぎると、子どもに恐怖心や不安感を植え付けてしまい、実力を発揮できなかったり、競争を楽しめなくなったりします。子どもに健全な競争心を育てるためには、どのようなレベルで競うにせよ、両親が「全力を出し切ればよい」という姿勢を保つことが大切です。

競争経験を積ませよう

アメリカで子どもが自己実現を図っていくためには、競争を避けることはできません。大学受験、就職、昇進、転職と、子どもの未来は厳しい競争の連続です。もちろん敗北や挫折もあるでしょう。しかし、次の目標に向かって立ち上がり、自己研鑽を怠らない精神が育っていれば、どんな困難も力強く乗り越えていくことができるはずです。真剣に競争と向き合う経験は、子どもの人生に必ずプラスの影響をもたらしてくれます。アメリカは健全な競争心を育てる環境が整っていますから、両親は「社会に出すためのトレーニング」と捉え、積極的に競争経験を積ませてあげてください。
 
(2014年8月1日号掲載)

国際性を育てる

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

バイリンガル子育てを実践している父兄は、子どもを世界で活躍できる「国際人」に育てたいと望んでいることでしょう。日本で国際人といえば、真っ先に思い浮かぶのがバイリンガルです。しかし、外国語が話せる=国際人ならば、世界中のバイリンガルは皆国際人ということになります。アメリカは移民の国です。2カ国語を話すバイリンガルは珍しくありません。そこで育てば誰でも国際性を身につけると思われがちですが、実際はそんなことはありません。アメリカで生まれ育ち、2カ国語が流暢に話せても、 異質な文化や価値観に対して偏見を持っている人はたくさんいます。もちろん、アメリカは子どもの国際性を育てやすい環境であることは事実です。これは子どもの学校を見れば一目瞭然で、多様な国籍、人種、民族、文化を持つ生徒が、一つ屋根の下で席を並べて勉強しています。自己とは異なるバックグラウンドを持つ同年代の友だちと交流することによって「人間は皆同じである」という偏りのない視野を身につけることができます。しかし同時に、多様性に富んでいるが故に、文化的同質性を求める傾向もまた強くなるのです。

母文化と母語を伝える

異質なものを受け入れる、それを可能にするには、まず、自分が何者なのかを知ることが必要です。そのためバイリンガル子育てでは、両親の文化を子どもに伝えることが強く求められます。母文化環境が希薄な海外で育つ子どもにとって、親から継承される文化は「アイデンティティー」形成の土台となる大切なものです。また、家庭における母語教育をもっと強調しなければいけません。言葉と文化は車の両輪のようなもので、切っても切り離せない関係です。親から言葉を継承せずに育った子どもは、文化アイデンティティーも生活する土地の主要文化へと同化してしまいます。子どもに確固たる文化アイデンティティーを与えたければ、しっかりした日本語力を身につけさせることが必要です。永住家庭の中には「子どもはアメリカで生活するのだから言葉もアイデンティティーもアメリカ人で構わない」という考えの方がいます。しかし、両親から母語と母文化を継承されずに育った子どもは、自己形成の過程で大なり小なり葛藤を抱えることになります。「自分は何者で、どこに属すのか」という帰属意識(文化アイデンティティーと呼ぶ)があいまいであることは、人間の精神をとても不安定にするのです。

文化意識を持った子育て

多文化社会を構成する人は、1人1人がそれぞれの文化の代表者です。これは子どもの社会でも同じで、日本人であれば「日本の代表」のように周囲から扱われます。子ども自身は日本人という意識が薄くても、周囲から「日本ではどうなのか?」と絶えず質問されます。つまり日本人であることを強烈に意識させられながら育つのです。日本では子どもが日本人である自分を意識することは少ないですが、海外ではそうはいきません。両親はこのことを知り、文化意識を強く持って子育てにあたってください。といっても難しく考える必要はありません。日本の昔話や絵本を読み聞かせたり、日本の祝祭日を祝ったり、日本の行儀作法を教えたり、日本のポップカルチャーに触れさせたり、和食を食べるのだって立派な文化教育です。また、日米の文化や習慣の違いについて子どもと話をしましょう。例えば、日本ではお茶碗を手に持って食べますが、欧米では食器を持ち上げるのはマナー違反です。どちらが良い悪いではなく、それが文化の違いであり、それぞれの文化を尊重し、場面に応じて使い分けることを教えてあげればよいのです。

多様な文化に触れる経験

多様性を重視するアメリカでは、世界中の文化に触れる機会が日常的にあります。学校行事はもちろん、それぞれの文化コミュニティーが相互理解を深めるためにさまざまなイベントを開催しています。異質な文化と身近に触れ合うことができる環境を子どもの国際教育に利用しない手はありません。文化というのは居心地が良いものですから、気づかないうちに、特定グループとの交流や慣れ親しんだ習慣に流されがちです。しかし、国際人としての広い世界観や視野を子どもに与えたければ、まず両親が自文化の殻に閉じこもることなく、異文化との交流を楽しむ姿勢を持つことが大切です。
 
(2014年7月1日号掲載)

考える力を育てる

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの学校に子どもが通い始めると「クリティカルシンキング」という言葉を耳にするようになります。文字通り「考える力の育成」のことで、アメリカでは1980年代以降、その必要性が盛んに強調されるようになりました。しかし、具体的に授業でどのように「クリティカルシンキング」を指導しているのか、アメリカの学校になじみが薄いといまひとつピンときません。「クリティカルシンキング」を言葉にすると「物事を無批判に受け入れず、客観的かつ多面的に吟味し、本質を見極めていく思考態度」です。クリティカルシンキングの目的は論理的思考の育成ですが、同時に、コミュニケーション力、ライティング力、コンプリヘンション力(理解力)など、学習能力全般の向上に寄与することが分かっています。よって、多くの学校が、教科学習の理解を深める手段として「クリティカルシンキング」を授業に取り入れているわけです。日本の講義型スタイルとは異なり、アメリカはディスカッション、ディベート、プレゼンテーションなど、生徒参加型の授業スタイルが主流です。これがクリティカルシンキング指導の例です。生徒は意見交換を通して他者の考えを批判的に検討すること、そして、自らの思考を再評価し、深めていく思考方法を学びます。この思考プロセスを多く経験することで「考える」とはどういうことかを理解していきます。

なぜクリティカルシンキング?

学校教育の目標は、社会生活で必要な実用的能力を子どもたちに与えることです。クリティカルシンキングは、実社会で出会うさまざまな問題をロジカルに分析・判断・解決していく技能です。常識、直感、偏見によるリスクを減らし、明確な根拠と論理に基づいた思考を身につけることで、迅速かつ適切な問題解決が可能になります。高度情報化社会では情報を主体的に選択し、活用できる「情報活用能力」が不可欠です。学校教育においても情報メディアの比重が大きくなっていますが、その一方で、生徒が氾濫する情報に流されてしまうことが危惧されています。クリティカルシンキングは課題や目的に応じて情報を取捨選択し、自己の学習や生活に活用する技能です。多様な価値観が共存するグローバル社会で活躍する人材にとって、クリティカルシンキングは必須です。文化や価値観の異なる人たちと友好な関係を築き、相互理解を深めるためには、論理的かつ偏りのない柔軟な思考が求められます。「世界は異質なものから成り立っていて、文化や習慣に上下や優劣はない」「自己の文化を大切にするのと同じように他者の文化も尊重する」そんなグローバル感覚を支える思考がクリティカルシンキングです。

自分らしく人生を生きるために

クリティカルシンキングは学習活動や社会生活で役立つ技能であると同時に、人生をより主体的に生きるためのものでもあります。考える訓練を受けて育った人は、自分は何者なのか、自分は何を信じるのか、自分は何をしたいのか、どんな人生を歩みたいのか、自分自身をより深く理解できるようになります。周囲の人間や社会通念に流されることなく、自分で考え、判断し、行動する習慣が身につけば、自らの意思で自分の進路を選択できるようになります。結果、自分の生き方を見つめながら、目標に向かって真っすぐに進む、自分らしい人生が実現できるのです。情報化・国際化が進んだ社会で子どもたちが個性的にたくましく生きていくためにクリティカルシンキングは欠かせない技術です。特に子どもがアメリカの学校教育を受ける場合、両親はクリティカルシンキングの重要性を認識し、家庭においても考える力の育成に取り組むことが望まれます。

子どもがよい人生を歩むために

人の一生は「選択」の連続です。毎日、毎時、毎分、今この記事を読んでいることも「選択」です。クリティカルシンキングの最大の価値は何かというと、より賢い選択が可能になることです。人生の岐路において、右と左、どちらの道を選択するかによって、その後の人生はまったく違ったものになります。人の意見や目先の利益に流されて右に行くか、自分の考えを信じて左に行くか、どちらが悔いのない人生を歩めるのかは明白です。賢い選択をするためには、自分自身を知ることが必要であり、それを実現してくれる思考技術がクリティカルシンキングなのです。
 
(2014年6月1日号掲載)

夏休みが子どもの進路を決める

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

もうすぐ子どもたちが待ちに待った夏休みです。アメリカの学校は、一般的に、6月初旬から8月下旬まで3カ月近い夏休みがあります。日本で夏休みといえば、子どもたちが思いっきり外で遊ぶ時。しかし、アメリカの学校に通うバイリンガルの子どもにとっての夏休みは、弱点を克服したり、普段できない活動に取り組む時です。毎年、夏休みになると多くの日本人が里帰りします。もちろん、日本に住む祖父母や親戚と過ごすことは、子どもの日本語発達やアイデンティティ形成に重要な影響を持ちます。しかし、特にすることもなく、だらだら毎日を過ごしてしまうと、アメリカで新学年が始まった時にツケが回ってくるので注意しましょう。気持ちがゆるみ、生活が不規則になり、英語力が錆びつき、現地校へスムーズに適応できなくなってしまうのです。アメリカで学校教育を受ける子どもにとって、夏休みは将来を左右すると言っても過言ではありません。幼稚園から高校まで13年間のうち、夏休みが36カ月(3年間)もあるのです。この3年間を遊んで過ごすか、自分の能力を向上させるために過ごすかによって、子どもの進路選択に大きな「差」が生じることは容易に想像できると思います。

英語力を低下させない配慮をする

アメリカでは夏休みに宿題や課題が出ることはありません。従って、休み中に子どもがどう学習活動に取り組むかは、100%家庭に任されています。夏休みまでの9カ月間、コツコツがんばって向上させてきた英語力と学力が、夏休みに入って落ち込んでしまうことのないように、毎日少しでいいですから、英語の読書やワークブックに取り組む時間を作りましょう。日本に帰省する場合は、現地校が始まる1カ月前にはアメリカに戻り、生活リズムを整えておくことが大切です。気持ちを英語モードに切り替え、学習面の準備をすることによって、スムーズに新しい学年を迎えることができます。バイリンガルの子どもは英語力でハンディがありますから、学年のスタートでつまずくと、ますます学習遅れが目立つようになります。夏休み明けに良いスタートダッシュが切れるように、夏休み後半の過ごし方には特に配慮してください。英語力が弱い子どもの場合、帰省はできるだけ短期間に抑えましょう。子どもがアメリカの学校に通っている間は、英語力の強化を第一に考えてあげてください。現地校に通う子どもは英語への苦手意識から「自分は勉強ができない」と思い込みがちです。英語力を早期に向上させることが現地校適応には不可欠であり、それを実現できる最適期が夏休みです。英語ができるようになれば、自信が回復し、学校の授業にもついていけるようになります。

自信を持って新学年を迎えるには

新学年が始まると、先生、クラスメート、授業の進め方など、子どもを取り巻く環境が一変します。特に、キンダーガーテン、小学1年、ミドルスクールに上がる子どもは、大きな変化と直面するので、心理不安定に陥りがちです。子どもの学校適応を促すコツは、夏休みだからと油断せず、睡眠、食事、遊び、勉強など、毎日の生活リズムを一定に保つことです。生活リズムの乱れは必ず心理不安を悪化させるので注意してください。また、アメリカのサマープログラムに参加させて、子どもが好きなこと、得意なことに取り組ませてあげましょう。スポーツ、音楽、演劇、キャンプなど、アメリカにはあらゆるプログラムがありますから、これらを利用しない手はありません。サマープログラムに参加することで、新しい友だちと出会えるだけでなく、自分の得意分野に磨きをかけることができます。そんな夏休みの経験が、子どもを一回り大きく、たくましく成長させてくれます。自信が大きく育つほど、現地校への適応は円滑に行なわれます。

学齢期を通して計画を立てる

夏休みの過ごし方は、長期的な視野で計画を立てることが大切です。例えば、小学校低学年は英語力強化、小学校高学年から中学はスポーツなど課外活動の強化、高校ではボランティアやインターンなどの社会参加、というように、学校生活を通して夏休みをどう過ごすのか、大まかな計画を立てておくのです。子どもの現地校生活をより充実したものにするために、そして、子どもの自信を大きく育てるために、アメリカの長い夏休みを有効に活用してください。
 
(2014年5月1日号掲載)

両親のサポートが子どもを伸ばす

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

日本語を母語とする子どもが、英語を身に付け、アメリカの学校に適応していく道のりは平坦ではありません。多くの子どもは十分なサポートを得ることができないため、自分の力で困難を乗り越え、英語力と学力を伸ばしていかなければなりません。アメリカは英語を第二言語(ESL/ELL)とする子どものプログラムが充実しています。しかし、学校が提供するプログラムだけで十分な英語力を身に付け、学力を獲得していける子どもはごくわずかです。ELLに入れておけば、いずれ必要な英語力は身に付くだろうと安易に考えてはいけません。なぜ多くの子どもが英語習得で苦労するのでしょうか?一番の原因は両親のサポート不足です。子どもが学校で何を勉強し、授業で何を要求され、何で壁にぶつかっているのか、正確に把握している両親は少ないのではないでしょうか。両親とも英語が苦手という場合、子どもの教育全般を学校任せにする傾向があるので注意が必要です。ELLや教科学習の内容を知り、家庭で適切なサポートを与えなければ、子どもの英語力と学力は伸び悩みます。英語ネイティブの子どもたちが両親から教育的サポートを受けているのに、英語を第二言語とする子どもが何のサポートも得られなければ、ネイティブとの学力差は広がる一方です。

担任とコミュニケーションを取る

アメリカの小学校には、日本の教科書のように学習の目安となるものがありません。さらに困ったことに、アメリカの学校には共通カリキュラムがないのです。学区によって、学校によって、さらに、先生によって授業内容に違いがあります。つまり、子どもが何を勉強しているのかを知るには、担任の先生に聞く以外方法がないのです。「英語が苦手」という親にとって、先生とコミュニケーションをとるのは勇気が要ることです。しかし、学習内容が分からなければ、問題を改善していくことはできません。日頃から先生とコミュニケーションを取り、友好な関係を築く努力をしてください。先生との信頼関係が成立すれば、授業内容や家庭でのサポートについて親身になって相談に乗ってもらえます。先生とのカンファレンスは子どもの状況を伝えるチャンスです。家庭の言語環境、アメリカ滞在歴、子どもの性格、趣味や興味など、先生が知らない情報をできるだけ多く伝えてください。「言わなくても分かってくれるだろう」はアメリカでは通用しません。必要な情報を伝えることによって、先生は子どもの状態をより正確に知ることができ、適切なサポートにつながっていきます。

親が関わると子どもは伸びる

言葉も文化も異なるアメリカの学校で1日の大半を過ごす子どもは、毎日が不安で仕方ないのです。この子どもの心情を理解し、両親は精一杯サポートすることを子どもに約束してください。「困ったときは親が助けてくれる」と子どもが確信を持てなければ、学校生活を楽しむことができません。家庭では子どもと一緒に宿題や課題に取り組むようにしてください。両親のサポートを子どもが実感できると、精神は安定し、集中力が高まり、学力が向上します。小学校レベルであれば、英語が苦手という親でも何とか一緒に取り組むことができるはずです。毎日、親子で英語と格闘することが、大切なコミュニケーションの時間となります。多くの子どもは、学校に通い始めると、英語力の弱さから「自信喪失」状態に陥ります。英語が分からなければ、授業も理解できませんから「自分は勉強ができない」と思い込んでしまうのです。この状態が長く続くと、子どもにとって最も大切な「やる気」が失われていきます。子どもが学校で必要な英語力をできるだけ早く会得できるよう、最大限のサポートを与えてください。

必要なら専門家のサポートを得る

両親が学校と関わり、子どもの勉強に関わることで、子どもの英語力と学力は確実に向上していきます。両親にとってもアメリカの教育システムを知り、先生やクラスメートの親たちと親交を深めることは、貴重な異文化体験となります。また、子どものサポートを通して自分の英語力も向上していくので一石二鳥です。ただし、英語経験がゼロでアメリカの学校に通い始める子のように、緊急サポートが必要な場合は、両親の努力だけでは解決できませんので専門家の助けを借りるようにしてください。
 
(2014年4月1日号掲載)

日米の意思表現 スタイルの違い

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカは移民の国です。さまざまな人種、民族、文化を持つ人たちが一つのコミュニティーを構成しています。多様な価値観が混在する社会で、人々が快適に暮らしていくには、お互いが考えを伝え合い、相互理解を深めていくことが要求されます。日本人から見るとアメリカ人の意思表現は率直すぎて、思いやりに欠けると感じるかもしれません。しかし自分の考えをあいまいにせず、明確に相手に伝えることは、多文化社会で意思疎通を円滑にするために必要なことです。日米の表現の違いで大人以上に戸惑っているのが子どもです。家庭では日本的な「察する」意思表現が(暗に)期待され、学校ではアメリカ的な「率直な」意思表現が(明確に)要求される。「家庭と学校、一体どっちのスタイルが正しいの?」と、子どもは混乱します。

アメリカの学校教育を理解する

アメリカで暮らしていても日本人家庭では、子どもを日本的価値観に基づいて育てているのが普通です。親の価値観や文化を継承することは、アイデンティティー形成に不可欠なプロセスであり好ましいことです。しかし親が過度に日本的な物の見方に偏った子育てをすると、子どもが現地校適応で苦労することになるので注意が必要です。現地校に上がれば、アメリカ的個人主義に基づいた教育が子どもを待っています。そこでは、生徒一人一人が自分の考えを持ち、自分の考えの根拠を説明することが要求されます。意思表現が苦手な日本の子どもたちは、先生から指名されないようにと、教室の隅で小さくなっているのです。現地校の生活はカルチャーショックの連続です。「答えは自分で考える」「分からなければ質問する」「意見を言うときは理由を言う」「話し合いで問題解決をする」。大人でも難しい表現力を要求される子どもが、毎日どれだけ苦労しているのか、少しはお分かりいただけるでしょうか。なぜアメリカの学校で意思表現が重視されるのか。それは、自分を深く知ることができるのと同時に、他人にも自分を知ってもらうことができるからです。自分は何が好きで、何が嫌いなのか、自分の良いところは何で、悪いところは何か、自分は何を考え、何をしたいのか。意思表現を通して、人間は一人一人が違う存在であること、そして互いの違いを認め合うことが、より良い社会形成につながることを理解させるのです。

子どもに選択させるのがアメリカ流

アメリカの子どもたちは生まれつき自己表現が得意かというと、そんなことはありません。家族や周囲の人によってトレーニングされています。アメリカは個人主義が徹底していますから、子どもといえども意思を尊重します。はっきりしない子どもに「Yes or no?」「It”s up to you!」と親が選択を迫る場面に遭遇した経験を持つ方も多いと思います。どのアイスクリームが食べたいのか、ジュースは何を飲みたいのか、靴は何色が欲しいのか、おもちゃはどれが欲しいのか、プールで遊びたいのか、サッカーがしたいのか、子どもは常に選択を迫られて成長していきます。選択することによって、自分のことがよく分かるようになり「好き・嫌い」や「イエス・ノー」をはっきり表現できるように育つわけです。一方、日本人の子育てでは、幼い子どもに選択させることはほとんどありません。食べ物も洋服も、親が選んで与えるのが一般的です。親からすれば、子どものためにより良いものを選んであげているわけですが、その一方で、子どもが選択する機会や「僕はこれが好き」と意思表現するチャンスを奪っているとも言えるのです。

意思表現の源は「自信」です

大抵のバイリンガルの子どもは、現地校に数年通えばアメリカ的な意思表現ができるようになります。それは生きていくために必要だからです。しかし形だけの意思表現では周囲に受け入れてもらうことはできません。日本の学校に通う外国人が日本人に溶け込むために日本人を真似ても、違和感を感じると言えば分かりやすいでしょうか。意思表現にはアイデンティティーが伴います。私はこういう人間です。だからこう考えます。そう胸を張って表現できることが理想です。そのためには、何よりも、子どもが自分の存在に「自信」を持つことが大切です。海外生活では子どもが「自信」を喪失しがちです。両親は子どもの「自信作り」に配慮した子育てを実践してください。
 
(2014年3月1日号掲載)

欧米流コミュニケーションスキルを育てる

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカで暮らす日本人の子どもたちに求められるものが、欧米流のコミュニケーションスキルです。「以心伝心」に代表されるように非言語コミュニケーションを重んじる日本人にとって、自分の気持ちを伝えたり、意見を主張するのは苦手分野です。しかし、アメリカで育つ子どもが、欧米流のコミュニケーションスキルを身に付けずに現地校に通い始めると、学校生活や対人関係でさまざまな不利益を被ることになるので注意が必要です。これは子どもだけの問題ではありません。ネイティブとコミュニケーションできる高いレベルの英語力を身につけている大人でも、欧米流のコミュニケーション「スキル」が未熟なため、地域コミュニティーに溶け込めなかったり、誤解を受けたり、無用なトラブルに巻き込まれたり、という経験を持つ方は多いと思います。欧米流のコミュニケーションスキルというと「自己主張ばかり」と思っている方がいますが、それは誤りです。相手の感情や文化的背景に気を配りながら「自分の考えを正確に伝えるスキル」は、多様な人々が共存する多文化社会で快適に暮らしていく上で誰もが身に付けなくてはならない生活技術なのです。

コミュニケーション形態の違い

ほぼ単一民族国家である日本では、いちいち言葉で伝えなくても察し合える非言語コミュニケーションが、生活のあらゆる場面で通用します。最近では非言語コミュニケーション能力の高さが、人々の社会性や集団適応力の尺度と考えられているようです。いわゆる「KY(空気が読めない)」という流行語の登場です。一方、多様な人種、民族、価値観が混在するアメリカでは、自分の考えをきちんと言葉で伝えなければ、正しく理解してもらえなかったり、誤解を受けたりすることがしばしばあります。文化背景が異なる相手と円滑な意思疎通をするには、互いの意見を明確にした上で、互いを理解しようとするコミュニケーションスタイルが必須なのです。海外で子育てをしている家庭では、日米のコミュニケーションスタイルの違いを認識し、両者をバランスよく育てることが望まれます。現地校では日本流の非言語コミュニケーションは通用しません。周囲の意見に合わせたり授業中に黙っていたりする生徒は、理解していない、英語力が不足している、授業に参加する意欲がない、などマイナスの評価を受けてしまいます。

日米子育て文化の違い

日本の子育てでは、個性が強い子よりも協調性が高い子、自己主張する子よりも素直な子が「良い子」の条件と一般的に考えられています。子どもが自分の意見を押し通せば「わがまま」や「生意気」とマイナスに捉えられるかもしれません。このような、集団、調和、協調を重んずる価値観を受け継いだ日本人の子どもたちが、直接的な自己表現をためらい、議論や衝突を避ける性格に育っていくのはうなずけることです。他者に共感したり、他人のことを気遣う思いやりを育てるのは素晴らしいのですが、同時に、自分のことを他人に理解してもらうことの大切さも子どもには伝えたいものです。「言葉に出さなくても分かり合える」、自分でそう思っていても、相手は自分のことを理解していない、また、実は自分も相手のことを分かっていないという経験をしている方が大勢いるのではないでしょうか。欧米の子どもたちはコミュニケーションスキルを身に付けている親によって育てられるので家庭で「伝える技術」が自然にトレーニングされています。欧米の子育てでは、子どもが自分の考えを持ち、その考えを周囲に伝えることが何よりも重視されます。これは子どもが生まれた直後から母子のコミュニケーションを通して始まり、成長に応じて段階的にトレーニングされていきます。

子どもの言葉に耳を傾けよう

もちろん日本人の子どもも意見や主張を持っています。ただそれを「言葉で伝える」訓練が足りないだけなのです。日本人としての価値観やアイデンティティーを維持しつつ、必要な場面では自分の思いをしっかり表現できるように、子どもを導いていけば良いのです。伝える技術を育てる一番の方法が、子どもとの会話に「なぜ?」「どうして?」を増やすことです。自分の思いを言葉で表現することを習慣付けるのです。問いを増やすことで思考が深まり、豊かな表現が身に付いていきます。
 
(2014年2月1日号掲載)

日本語を維持するには

「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

海外で暮らす日本人の子どもが、日本語を維持・向上させていくのは長く険しい道のりです。子どもがまだ小さい頃は日本語を育てるのは簡単です。両親が日本語で語りかけ、絵本の読み聞かせをすれば、子どもはどんどん日本語を吸収していきます。ところが、現地の小学校(完全英語環境)に通い始めると、順調だと思っていた日本語学習が停滞し始めるのです。考えてみればこれは当たり前です。子どもは現地校で、毎日5~6時間、英語で授業を受けています。学校から帰ってきても英語の宿題をし、英語のテレビを楽しみ、読書も英語中心です。また、この時期の子どもは兄弟姉妹や日本人の友だちとも英語でコミュニケーションをとりたがりますから、一日中英語漬けの状態です。さらに、日本語学習の内容が読み書き中心になり集中力を要すようになると、日本語に対するモチベーション低下に拍車がかかるのです。

幼児期に読み書きの力を付ける

小学校時代に起こる日本語の停滞期は、焦って改善しようとしないことがポイントです。現地校で日々英語と格闘している子どもからしてみれば、英語力を向上させることが優先であり、日常生活であまり必要のない日本語は二の次なのです。親はこの子どもの心理を理解し、現地校の勉強を中心にサポートしてあげてください。現地校の勉強に自信が持てなければ、子どもは安心して学校生活や課外活動を楽しむことができません。日本の同年代の子どもたちと同じレベルの日本語力を与えたいという親の気持ちは分かりますが、英語の重要性が高まる小学校時代に日本語教育を強調し過ぎると、かえって学習意欲を低下させる原因になります。学習のペースダウンは仕方がないものと考え、日本語については細く長く学習を継続していけるよう環境を整えてあげましょう。日本語の停滞期を乗り切るには、小学校低学年までに日本語の読み書きを一通り教えておくことが大切です。基本的な読み書きの力が身についていれば、一時的に日本語が伸び悩んでも、あるいは学習を休止しても、日本語力を失う心配はありません。将来、子どもの意志で日本語学習を再開した時には、幼児期に獲得した日本語がよみがえり、スムーズに日本語力を伸ばしていくことができます。

テクノロジーを活用する

海外で暮らす子どもたちが日本語に触れ、日本語を使う(読む・書く)機会を増やすにはどうしたら良いでしょうか。現代社会は対面での会話よりも、Eメールやテキストなど文字を使ったコミュニケーションが主流となっています。このテクノロジーを日本語学習に活用しない手はありません。アメリカでは小学校からコンピューター指導が始まるのが一般的ですから、家庭でもコンピューターに触れさせて、基本的な使い方を教えてあげてください。まだ早すぎると思わずに、5~6歳の子どもにもコンピューターを使わせてあげましょう。最初は子ども用の学習ソフトを使うと良いでしょう。日本で販売されているタイピングゲームやソフトウェアを活用すれば、英文タイプだけでなく、ローマ字変換の方法もゲーム感覚で覚えていくことができます。子ども用のメールアカウントを作り、日本にいる祖父母や親戚と文字を通してコミュニケーションする方法を教えましょう。子どもは遠い日本に住む人たちと手軽にコミュニケーションできることを喜び、自分から日本語でメールを書くようになります。日本に住む友人や親戚に協力してもらい、簡単な日本語で書かれたメールを子ども宛に送ってもらいましょう。

日本語・日本文化への興味は復活する

日本では多くの親の目の敵ですが、海外で暮らす子どもにとってマンガは日本語の教科書です。子どもが好きそうな分野のマンガを読ませてみてください。子どもの目に入る場所(トイレなど)に置いておけば、必ず手に取って読むようになります。多くのマンガにはルビがふってありますから、漢字が苦手でも読み進めることができます。現地の中学や高校で第二外国語を習い始める年齢になると、子どもの日本語への興味は復活します。その時まで、あらゆる方法を駆使して日本語を維持してあげることが親の大切な仕事です。異国で育つ子どもにとって、日本語は心の故郷であり、アイデンティティーの拠り所であり、かけがえのないものなのです。
 
(2014年1月1日号掲載)