APプログラムの概要と履修方法

多くの高校では、一般のコースに加えて、より高度な学習ができるAP(アドバンスト・プレイスメント)コースが複数教科で提供されています。今回はAP(アドバンスト・プレイスメント)プログラムの概要と履修方法についてご説明します。

AP(アドバンスト・プレイスメント)プログラムの3つの役割

AP(アドバンスト・プレイスメント)は、高校生に大学レベルのカリキュラムや試験を提供するプログラムで、カレッジボードによって運営されています。主にアメリカとカナダの高校で実施されていますが、ヨーロッパやアジアの一部の高校でも採用されています。AP(アドバンスト・プレイスメント)コース履修者は5月初旬にAP(アドバンスト・プレイスメント)テストを受け、 5~1の5段階(5が最高)で評価されます。
 
AP(アドバンスト・プレイスメント)プログラムには、大きく分けて「入学審査」「単位認定」「学力判定」の3つの役割があります。高校生がAP(アドバンスト・プレイスメント)コースを履修する最大の動機付けは、大学進学をより有利に進めることにあります。アメリカの大学は、AP(アドバンスト・プレイスメント)のような負荷の大きいコースに挑戦する生徒を入学審査で高く評価するからです。
 
AP(アドバンスト・プレイスメント)テストの結果は、大学が受験生の成績を評価するのに大いに役立ちます。学力評価で最も重要視されるのは高校の成績ですが、成績のつけ方は学校ごとに多少異なるため、成績表から得られる情報には限界があります。AP(アドバンスト・プレイスメント)テストは全国共通なので、受験生の成績を横並びで評価できるのです。
 
多くの大学でAP(アドバンスト・プレイスメント)コースを大学の単位として認定していますが、その認定方法はさまざまです。AP(アドバンスト・プレイスメント)テストの結果が3以上の場合、単位として認定される可能性がありますが、学力評価を重視する大学では4以上を要求する場合が多く、中には5以外の成績は単位として認めない大学もあります。
 
一般的に、州立大学はAP(アドバンスト・プレイスメント)コースの単位認定の基準が緩い傾向にあります。難関校と言われるミシガン大学やジョージア工科大学でも、多くのAP(アドバンスト・プレイスメント)コースで4以上を単位認定しています。また、カリフォルニア大学各校では、原則として3以上を単位認定しています。これに対し、私立大学はAP(アドバンスト・プレイスメント)コースの単位認定の基準が厳しく、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学では、単位認定は5だけです。デューク大学やプリンストン大学、スタンフォード大学も、一部コースを除き、5のみを単位認定しています。
 
少人数制で質の高い教育の提供に特に力を入れている大学の中には、 AP(アドバンスト・プレイスメント)コースで認定する単位数を制限していたり、中には単位認定そのものをしない学校もあります。例えば、ミドルベリー・カレッジでは単位認定の上限は5コース、ポモナ・カレッジでは上限が2コースです。単位認定を一切行わない大学としては、アイビーリーグのダートマス・カレッジやブラウン大学、名門リベラルアーツ・カレッジのアマースト・カレッジやウィリアムス・カレッジ、理工系のハーベイマッド・カレッジやカリフォルニア工科大学等が挙げられます。いずれも、大学のクラスのレベルや質がAP(アドバンスト・プレイスメント)コースとは比較にならないことを、単位認定を行わない理由として挙げています。
 
州立大学の単位認定が緩い背景には、大学運営において一般教養コースに十分な教員を配置できないという、予算的な制約の大きい州立大学特有の問題があります。AP(アドバンスト・プレイスメント)コースを単位認定することにより大学の一般教養コースの学生数を抑えられることは、州立大学にとって大きなメリットです。
 
単位認定をしない大学でも、AP(アドバンスト・プレイスメント)コースの成績を学力判定に利用します。そのため、AP(アドバンスト・プレイスメント)コースの履修者には同等レベルのクラスを大学で履修せずに、上位クラスから履修を始めることを認めます。この場合、大学で履修する単位数が減るわけではありませんが、自分が取りたいクラスの履修に時間を割くことができるため、学生にとってはメリットがあります。

実現可能な範囲で挑戦を

AP(アドバンスト・プレイスメント)コースで良い結果を残せれば大学進学で有利になることは間違いありませんが、闇雲に取れば良いというものではありません。受験者数の多い英語や米国史のコースでは、4以上の成績を収められるテスト受験者は3割にも満たないのが実情です。せっかくAP(アドバンスト・プレイスメント)コースを履修しても、テストで結果を残せなければ、入学審査での評価にはつながりません。
 
そこで、自分の得意科目や将来の進路により役立つ科目のコースを優先的に取ることをお勧めします。一年間に履修するAP(アドバンスト・プレイスメント)の数も、よほど自信がある場合を除き2コース以内に抑えた方が無難でしょう。そして、AP(アドバンスト・プレイスメント)コースを履修する以上は、年度末のAP(アドバンスト・プレイスメント)テストで4以上が取れるように、しっかり準備してテストに臨みましょう。
 
(2016年4月16日号掲載)

アメリカでの大学受験の失敗を成功に変える方法

昨年末にアメリカの大学を受験した12年生の多くは、3月末には合否の結果が出揃います。この時点で多くの合格通知を受け取っている場合は、合格した各大学を4月中に訪問して自分との相性を再度見極めて、ベストな大学を5月1日までに選んで進学先を決めることになります。
 
しかし、中には満足のいく結果が得られなかった方や、将来の進路で迷っている間にアプリケーションの時期を逃してしまった方もいると思います。今回は、受験で失敗してしまった時の対応の仕方をお話しします。

①今からアプライできるアメリカの大学を探す

きちんとアプリケーションを準備しても合格できなかったのなら、自分を高く評価してくれる大学をしっかり選んで受験できなかったことが原因だと思われます。それなら、選択肢を広げることで、自分に合った大学を見つけることが可能となります。すでにアプリケーションを締め切っている大学は多いですが、全米で探せば4月、5月になってもアプリケーションを受け付ける大学は相当数あります。その中から気に入る大学が見つかるかもしれません。
 
コモン・アプリケーションが仕上がっているのであれば、追加のアプリケーションの作成にそれほど手間はかからないでしょう。コモン・アプリケーションのウェブサイトで締切日を調べ、締切がまだ先の大学およびRolling Admissions(締切を定めていない)を採用している大学を一つずつ調べてみましょう。

②カナダの大学を受験する

カナダの大学のアプリケーションの締切は一般的にアメリカの大学よりも遅く、1月から4月頃に設定されている場合が多いので、アメリカの大学の締切を逃した後でもまだ間に合います。
 
アメリカの大学と比べると、カナダの大学のアプリケーションの準備は非常に簡単です。基本的には学力(高校の成績とテストスコア)のみで合否が決まるため、エッセイや推薦状の提出は不要です。アメリカの州立大学を受ける準備しかしなかった学生にとって、今からアメリカの私立大学を受けるのは難しいかもしれませんが、カナダの大学なら問題ありません。ただし、アメリカの大学の結果が出揃った後でもまだアプリケーションを受け付けている大学の数は限られているので、迅速な対応が必要です。

③大学進学時期を延ばして、計画を練り直す

近年は、高校卒業後すぐに大学に進学せず、ギャップイヤーをとる学生も増えてきました。高校卒業後すぐに大学に行くという選択は、必ずしも全ての学生にとって最善とは限りません。大学受験がうまくいかなかった理由が、将来の進路への迷いや学習意欲の低下に原因があるとしたら、学校生活から離れて自分自身を見つめ直す時間が必要かもしれません。
 
進学時期を延ばせば、選択肢は一気に広がります。例えば、入学時期を1学期遅らせて来年の1月入学に変更するだけでも、受験できるアメリカの大学の数は飛躍的に増えます。入学時期を一年延ばせば、自分の進路をゼロから新たに立て直すことが可能となります。 
ギャップイヤーは一見日本の受験浪人に似ていますが、目的は大きく異なります。自分の将来について深く考えたり、学生では経験できないような活動に参加して人間として成長することがギャップイヤーの主な目的であり、ギャップイヤーで有意義な時間を過ごすことができれば、結果として効果的な進学準備につながります。

長期的な視野で取り組む

希望する大学に進学できなかった際に、とりあえずコミュニティーカレッジでクラスを取り始めてしまう学生がいますが、必ずしもお勧めできる方法ではありません。コミュニティーカレッジでクラスを取ることにより、大学を受ける際に転入生(トランスファー)として扱われることで、新入生(フレッシュマン)として大学に進学する権利を失う場合があります。
 
転入生の受け入れは、大学にとって欠員補充であるため、特に教育の質の高い大学では欠員が少なく、結果的に転入で受け入れる学生の枠も小さくなります。また、メリットスカラーシップなどの奨学金の機会も、一般的に転入生には不利です。
長い人生の中では、大学進学前に少し遠回りすることなど取るに足らないことです。それよりも、慌てて誤った方向に進んでしまい、後に問題を大きくしてしまうことの方が問題です。今回の受験で失敗した原因を認識した上で、将来のキャリアプランを考えてみてください。そうすれば、失敗を成功に転じることができるはずです。
 
(2016年3月16日号掲載)

英語で学べる海外の大学

日々英語で学ぶ高校生が進学するのに適した大学はアメリカ国内だけに限りません。英語で学べる大学は世界中にあり、国外で学ぶアメリカ人学生数も年々増えています。今回は、アメリカ以外で英語で学べる大学を紹介します。

海外の大学のメリット

全米には約3千校もの4年制大学があるのに、なぜわざわざ国外に出るのでしょうか。新たな言語や文化を身に付けたい、アメリカよりもさらにグローバルな環境で学びたいなどその理由は多様ですが、学費を理由に挙げる学生も増えています。
アメリカの大学の学費は過去30年で5倍になっています。年々授業料が高騰するアメリカの大学に嫌気が差して、海外に目を向ける学生が増えるのもうなずけます。特にヨーロッパには、教育の質と学費の面で魅力的な大学が数多くあります。

①北欧4カ国

生活環境が充実していることで知られている北欧4カ国の大学は、大学教育も極めて魅力的です。国民の多くが高い英語力を有することもあり、英語で学べるコースが数多く用意されています。学力が世界トップレベルと言われるフィンランドの大学は、自国の学生のみならず外国人学生も授業料は無料です。ノルウェーの大学は比較的少人数のクラスで、教授との距離が近いのが特徴です。ノルウェーの大学も学費は無料ですが、生活費はやや高めです。デンマークとスウェーデンの大学では、EU/EEA以外の学生は授業料を払いますが、質の高い教育がリーズナブルに受けられることに変わりはありません。

②オランダ、スイス、ドイツ

オランダの大学も英語で学べるコースが数多く用意されていて、外国人学生の学費も低く抑えられています。スイスの大学は、主言語はフランス語、ドイツ語、イタリア語など地域により異なりますが、英語で学べるコースも充実しています。外国人学生からも授業料をとらない大学はドイツにも数多くあります。ただし、ドイツの大学は大人数のクラスが比較的多く、きめ細かいサポートはあまり期待できません。

③イギリス、アイルランド

使用主言語が英語の両国には、アメリカから数多くの学生が進学しています。キングスカレッジやニューキャッスル大学など、アメリカのコモンアプリケーションで受験できる大学も増えたため、アメリカの大学と併願しやすくなりました。学費はヨーロッパの他の地域と比べると少し高めです。イギリスの大学は一般教養課程がなく3年間で卒業できる場合が多いですが、スコットランドはアメリカに似た教育システムを持ち、4年間で卒業するのが一般的です。

④カナダ

近年アメリカからカナダの大学に進学する学生が急増しています。アメリカの大学よりもアドミッションの時期が遅いため、アメリカで希望の大学に進学できなかった場合の選択肢として検討する学生も多くいます。大半の出願にはエッセイや推薦状等が不要で、比較的簡単にアプライできるのも魅力です。

⑤アジア、オセアニア

オーストラリアとニュージーランドの大学は、イギリスに準じたシステムを採用しており、一般教養課程がなく3年間での卒業が一般的です。学費は大学により異なりますが、外国人学生の学費は高めに設定されているため、アメリカの大学に対する学費の面での優位性はあまり大きくありません。中国、香港、韓国、シンガポール、マレーシア、台湾、日本などアジア各国の大学でも英語で学べるプログラムが作られています。

アメリカの大学との比較

世界に目を向けると学費の面で魅力的な大学が数多くありますが、それだけでアメリカの大学には進学する価値がないと決めつけることはできません。高校生のうちから将来の進路が決まっている学生は決して多くはありません。高校時代から明確な目標を持っている学生でも、大学進学後にもっと興味のある分野が見つかることもあります。そのような学生にとって、専攻を決めずアプライでき、進学後も自由に専攻が変えられるアメリカの大学制度はとてもありがたいものです。
 
自分にぴったり合う専攻が大学にない場合は、自分のために新たに専攻を作ってくれるサービスも、アメリカの大学では広く行われています。このようなフレキシブルな教育システムを持つ大学は、世界中探しても、アメリカ以外にはありません。なるべく少ない学費で学位取得を目指すのは良い方法ですが、大学は学位取得だけの場所ではありません。自分の将来の目標をしっかり持ち、その目標に近づくのにベストな進学方法を考えることが大切です。
 
(2016年2月16日号掲載)

大学卒業後の進路~アメリカの大学院進学~

アメリカの大学を卒業した後、大学院進学を希望する学生は多く、毎年約50万人の学生がアメリカの大学院に進学しています。日本以上に学歴を重視するアメリカ社会では、大学院レベルの学位を必要とする職種も少なくありません。文部科学省の2011年の調査では、人口1千人当たりの大学院学生数は日本の2人に対してアメリカは9人、大学院進学率において日本とアメリカでは実に4倍以上の差があります。
 
文部科学省は、日本の大学院の規模が諸外国と比較して小さく、高度な人材を育成する基盤が弱い点を問題視しています。質の高い教育を求めて日本からアメリカの大学院を目指す学生も少なくありません。今回は、アメリカの大学院教育をご紹介します。

アメリカの大学院の特徴

アメリカの大学院教育は、専門分野をより深く学習するためのプログラムです。多くの場合、独自研究に基づいた論文の作成と発表が求められます。学問を追求する一般の大学院(グラジュエイト・スクール)に対して、特定のキャリア・トレーニングを目的とした大学院はプロフェッショナル・スクールと呼ばれます。弁護士を目指す学生のための法科大学院(ロースクール)や医学を学ぶ医学大学院(メディカルスクール)などがこれにあたります。
 
大学院の専攻が学部と同じである必要はないので、大学院で学部とは異なる分野を学び、将来の進路の方向転換を図ることも可能です。特にプロフェッショナル・スクールでは、学部の専攻についての制約は一切ありません。例えば、学部で工学を学んだ学生が法科大学院に進学したり、学部で経済を学んだ学生が医学大学院に進学することは、決して珍しくありません。
 
アメリカの大学院の入学審査では、大学の成績とエッセイ、推薦状およびGRE(Graduate Record Exam)のテストスコアを提出します。また、面接を受ける場合もあります。一連の流れは大学(学部)の入学審査とよく似ています。大学院では、学部のような一本化された入学審査は行われず、各学部ごとに独自の入学審査が行われます。プロフェッショナル・スクールの入学審査では、GREの代わりに指定されたテストのスコアを提出します。

アメリカのプロフェッショナル・スクールの入学審査で提出するテスト

法科大学院 LSAT(Law School Admission Test)
医学大学院 MCAT(Medical College Admission Test)
歯学大学院 DAT(Dental Admission Test)
眼科学大学院 OAT(Optometry Admission Test)
薬学大学院 PCAT(Pharmacy College Admission Test)
経営学大学院 GMAT(Graduate Management Admission Test)*

*ただし、多くの経営学大学院ではGMATの代わりにGREを提出できる

大学院を視野に入れた大学選び

自然科学や工学、教育学など、アメリカで就職する際に修士レベルの学位が求められる分野も多く、大学院進学を前提とした大学進学をする学生も多く見受けられます。この場合は、学部教育は大学院進学の準備という側面もあるため、大学選びにも工夫が必要です。
 
学力の高い学生は、大学選びで知名度の高い大学に目が行きがちですが、必ずしもそれがベストな方法とは限りません。難関大学に進学しても、そこで満足のいく成績が残せなければ、大学院進学で不利になります。逆に、小規模で無名なリベラルアーツ・カレッジに進学しても、そこで手厚いサポートを受けて好成績を修めることができれば、大学院進学の選択肢は大いに広がります。
 
最終的に大学院まで進学する学生は、学部選びの際に専攻分野の評判などを気にする必要はありません。専門分野を極めるのは大学院に進学してからとなるわけですから、大学院選びの際に、自分の専門領域に力を入れている学校を探せば十分です。学部教育では問題の多いアメリカの大規模州立大学も、大学院では質の高い教育プログラムを有している場合が多いです。大学院は高度な教育を受けて自分の専門分野を極める機関です。言い換えれば、明確な目標を持った学生が学ぶところです。「大学を卒業しても、就職先ややりたいことが見つからないから、とりあえず大学院に進学する」ような、曖昧な気持ちで進学しても、問題を先送りするだけで、満足のいく成果にはつながりにくいものです。大学院は、自分の目標が明確になり、必要に迫られた場合に進学を検討することをお勧めします。
 
(2016年5月16日号掲載)

大学アプリケーション・システム最新情報

アメリカの大学のアドミッションは常に変化していますが、特に2016年は大きな変革の年になりそうです。今月と来月は、アプリケーション・システムの最新情報をお話しします。アメリカの大学では、出願書類をオンラインで受け付けます。個々の大学が独自のアプリケーション・フォームを用意している場合もありますが、近年は複数の大学で利用できる共通の出願システムを採用する大学が増えています。

①コモン・アプリケーション (commonapp.org)

コモン・アプリケーションは最も多くの大学で採用されている共通出願システムであり、アメリカの大学を受験する学生が、最初に取り組むべきアプリケーションです。難関私立大学出願のシステムとして知られていましたが、近年採用する大学が急増し、15~16年度は100校の公立大学を含む約600校で導入されています。
 
コモン・アプリケーションのエッセイは、「パーソナル・エッセイ」と「アディショナル・インフォメーション」の2つです。前者は与えられた5つのトピックから1つを選んで書きます。長さ制限は650単語以内です。後者のエッセイの提出は任意で、長さ制限は同じく650単語以内です。

②ユニバーサル・カレッジ・アプリケーション (universalcollegeapp.com)

ユニバーサル・カレッジ・アプリケーションも共通出願システムの一つです。エッセイや推薦状が不要なアドミッションにも対応できることから、より自由度の高い出願システムを求める大学を中心に採用されてきました。今年からコモン・アプリケーションも同等の対応ができるようになり、両者の違いは少なくなっています。15~16年度にユニバーサル・カレッジ・アプリケーションを採用する大学は43校で、その多くがコモン・アプリケーションも採用しています。
 
ユニバーサル・カレッジ・アプリケーションのエッセイは、「パーソナル・ステートメント」と「アクティビティー・ディスクリプション」の2つです。前者では、明確なテーマは与えられていないので、自分の考えを自由に書けます。長さ制限は650単語以内です。後者は、取り組んできた課外活動について100~150単語で書くショートエッセイです。
多くの学生は、コモン・アプリケーションを選択すると思いますが、コモン・アプリケーションで出願できるのは最大で20 校までなので、20校を超えて出願する学生は、ユニバーサル・カレッジ・アプリケーションの併用を検討すると良いでしょう。

③その他の共通出願システム

特定の地域、学校群を対象とした共通出願システムを採用する大学もあります。Apply Texas(applytexas.org) はテキサス州内の私立大学、州立大学への出願システムで、63校で採用されています。Apply SUNY (suny.edu/applysuny)はニューヨーク州立大学への出願システムで、州内の57のキャンパスで採用されています。また、CSUMENTOR(csumentor.edu)は、カリフォルニア州立大学群の23校への出願システムです。

④"新"共通出願システムの誕生

全米を代表する83校が「コアリション」というグループを作り、新たなアプリケーション・システム「コアリション・アプリケーション」を発表しました。新システムの狙いは、コモン・アプリケーション偏重で同質化しつつあるアドミッションを見直し、各大学が学生の将来性をより的確に評価することです。この新システムは16年から導入されます。コアリションには、アイビー・リーグの各校や主要なリベラルアーツ・カレッジ、州立大学などが加盟しています。
 
現在は加盟していないカリフォルニア大学(UC)系列の大学も、将来的にコアリションに加わる可能性があります。ただし、コアリションは、学生の卒業率やファイナンシャル・エイドの充実度など厳しい加盟条件を課しているため、UC全校が加盟するのは難しそうです。

各大学が採用する共通出願システム コモン
アプリケーション
ユニバーサル
アプリケーション
コアリション
アプリケーション
ポモナカレッジ Pomona,CA 私立
UCLA Los Angeles,CA 州立 ?
シカゴ大学 Chicago,IL 私立
ジョンズ・ポンプキンス大学 Baltimore,MD 私立
ハーバード大学 Cambridge,MA 私立
ミシガン大学 Ann Arbor,MI 州立
コーネル大学 Ithaca,NY 私立
デューク大学 Durham,NY 私立
リードカレッジ Portland,OR 私立
ワシントン大学 Seattle,WA 州立

 

2016年から「コアリション・アプリケーション」という共通出願システムが新たに導入されます。では、この新出願システムの概要とアドミッションへの影響についてお話しします。
 
全米を代表する総合大学やリベラルアーツ・カレッジなど83校が「コアリション」というグループを作り、これからの時代に相応しいアドミッションの方法について検討しました。そこから生まれた出願システムがコアリション・アプリケーションです。これは、高校生活全般に関わるシステムであるという点において、既存の共通出願システムとは大きく異なります。

新システムの中核はハイスクール・ポートフォリオ

コアリション・アプリケーションでは、「ハイスクール・ポートフォリオ」を活用します。これは9年生から無料で利用できるオンライン・システムで、学生は日々の学習の進み具合や、高校に提出した論文・作品などを管理できます。また、課外活動での取り組みや成果なども載せられます。つまり、高校での成長の過程を詳細に記したダイアリーのようなものです。
 
ハイスクール・ポートフォリオは、他人と共有することが可能です。例えば、大学のアドミッション担当者と共有し、日々の取り組みに対してアドバイスをもらうことができます。共有レベルは細かく設定でき、共有したい相手を限定できます。ハイスクール・ポートフォリオは、12年生になって大学に出願する際に、アプリケーションの核となります。既存の出願システムでは、アプリケーション用に書くパーソナルエッセイが人物評価で重視されていますが、新システムでは、9年生から積み上げていったハイスクール・ポートフォリオ全体が評価の対象となります。逆に、アドミッション用にエッセイを書く必要はなくなるかもしれません。現行のアドミッションにおいても、キャンパス訪問時やFacebook等を通じて、アプリケーションを提出する前にアドミッション担当者とやりとりをする機会はありますが、ハイスクール・ポートフォリオを共有することにより、アドミッションはよりインタラクティブになると予想されます。

低所得層への進学支援

コアリション・アプリケーションの狙いの一つに、低所得層の学生に対する進学支援が挙げられます。学習や進学準備の支援が受けにくい低所得層の高校生の中には、高い潜在能力を持ちながら、その能力を十分発揮できていない学生が多い点が問題視されてきました。そうした学生は、自分のポートフォリオを共有することで、さまざまなアドバイスが受けられ、その結果大きな成長を遂げることが可能となります。低所得層から金の卵を見つけることも、大学がコアリション・アプリケーションを導入する重要な目的の一つなのです。

導入でアドミッションはどう変わるか

コアリション・アプリケーションは、ハイスクール・ポートフォリオを通じて高校生の日々の活動を評価するので、出願時におけるストレスの緩和が受験生にとってメリットであるとコアリションは指摘しています。確かに12年生の秋に行うアプリケーションに関わる作業は軽減されるかもしれません。しかし、一方でハイスクール・ポートフォリオの導入により、高校生はより長期にわたって進学準備に追われる可能性があります。今までは、進学準備は11年生から取りかかれば十分間に合いましたが、新出願システムでは、高校生は9年生からポートフォリオ作りに取り組むことになるからです。
コアリション・アプリケーションは、コモン・アプリケーションにとって変わるものではありません。後者で出願できる大学は約600校、これに対して前者は現時点で83校です。コアリション・アプリケーションが導入されても、共通出願システムの主流がコモン・アプリケーションであることに変わりはありません。
では、どちらでアプライするのが有利なのでしょうか。充実した高校生活を送ってきた学生には、コアリション・アプリケーションの方が自分自身を表現しやすいと感じるかもしれませんが、アドミッション戦略は一人一人異なるので、一概にどちらが有利とは言えません。ポモナカレッジの担当者は、コアリション・アプリケーションでアプライする学生は15%程度になるのではないかと予想しています。複数の出願方法の中から、自分の価値を大学に伝えるのに最適な方法を選んでアプライすれば良いでしょう。
 
(2015年11月16日号、12月16日号掲載)

アドミッション・インタビューの受け方

アメリカの大学の入学審査は書類選考で行われますが、アドミッション・インタビュー(面接)を行う大学があります。面接を義務付けている大学はほとんどありませんが、希望者に対して面接を実施する大学は数多くあります。今回は、面接の受け方についてお話しします。

面接で合否は決まらない

入学審査で面接を取り入れている大学の多くは私立大学で、公立で面接を行う大学は限られています。面接は入学審査の一部ではありますが、面接での受け答えが合否に与える影響はほとんどありません。では、何のために面接を行うのでしょうか。大学が面接を行う目的は大別して2つあります。それは、学生の「関心度」を見極めることと、学生に「自分との相性」を見極めてもらうことです。
 
大学は、進学を強く希望する学生、すなわち関心度の高い学生をアドミッションで優遇することは以前も書きましたが、その関心度を測る手段の一つとして面接が利用されます。また、面接を通じて大学についての理解を深め、自分に合う学校かどうか学生に判断してもらうことも面接の重要な目的です。

さまざまな面接の受け方

面接は、大学のアドミッション担当者が行う場合と、大学の卒業生が行う場合があります。どちらの場合でも基本的に一対一で行われます。面接時間は、20分から30分程度が一般的です。
 
大学のアドミッション担当者との面接は、オンキャンパス、オフキャンパス、オンラインの3通りの方法があります。オンキャンパスの面接は、自ら大学に出向いて受けます。面接を受けるためだけにキャンパスを訪問する学生は少数ですが、大学見学のついでに面接を受けることは可能です。オフキャンパスの面接は、アドミッション担当者が自分の住んでいる地域を訪問する際に受けます。アドミッション担当者は学生獲得のため各地を訪問するので、もし近所に来ることがあればぜひ利用したい方法です。オンラインの面接は、スカイプなどの通話サービスを利用して受けます。自宅で面接が受けられるので、便利な方法です。
 
アドミッションの面接で最も一般的なのは、大学の卒業生が面接を行う方法です。大学から紹介された、近所に住んでいる卒業生に連絡をとり、コーヒーショップなどで待ち合わせて会話をします。卒業生との面接は、大学職員の視点ではなく卒業生の視点で話が聞けるという点で学生にとって価値のある方法です。また、大学にとってもアドミッション担当者の時間を割かずに数多くの面接ができるため、広く活用されています。双方にメリットのある方法ですが、卒業生のボランティアが近所で見つからないと面接が受けられないのが難点です。

面接の準備の進め方

まずは、自分が志望する大学が面接を行っているかどうか確認します。大学によっては、アドミッションのウェブサイトに面接の有無やリクエストの方法について明示しているので、その場合はアドミッションの指示に従ってください。特に記載がない場合は、アドミッションに連絡をして、面接が受けられるかどうか聞いてみることをお勧めします。面接の予約は出願後に受け付ける大学もありますが、多くの大学では出願前から面接を受け付けているので、出願の意思が固まったら、早めに確認をすると良いでしょう。
 
面接を受ける際に、以下の3つの質問に対する答えを用意しておきましょう。
1.Tell me about yourself.
2.Why are you interested in our college?
3.What can I tell you about our college?
 
30分の面接に臨むのに、この3つだけでいいのかと思われるかもしれませんが、これで十分です。面接というと、相手の質問に答える場と考えがちですが、実はアドミッションの面接で最も重要なのは相手に質問をすることなのです。つまり、3番目の質問の答えを数多く用意しておくこと、これがポイントです。
30分の面接が、こちらからの質問だけで終わっても全く問題ありません。大学が面接をする目的は学生の関心度を見極めることと自分との相性を見極めてもらうことであり、その目的はすでに十分果たされているからです。
 
そして、最も大切なことは会話を楽しむことです。自分が進学する可能性のある大学について詳しい話が聞けるのはとても有意義なことです。質問をたくさん用意して臨めば、面接で失敗することはありません。積極的に面接を受けて、会話を楽しんでください。
 
(2015年10月16日号掲載)

スポーツ奨学金の獲得方法

アメリカは世界で最も大学スポーツが盛んな地域であり、アスリートとして活躍することを目指す学生を経済的に支援する、世界でも珍しい「スポーツ奨学金」制度があります。今回は、スポーツ奨学金の獲得方法についてお話しします。

スポーツ奨学金の概要

NCAA(全米大学体育協会)(全米大学体育協会)に所属する大学は1千校以上あります。NCAA(全米大学体育協会)はⅠからⅢの3つのディビジョンに分かれていて、一般的には規模の大きい大学がディビジョンⅠ、小規模の大学はⅡやⅢに属しています。
 
ディビジョンⅠとⅡの大学ではアスリートのための奨学金制度(スポーツ奨学金)があります。ディビジョンⅢの大学にはスポーツ奨学金はありませんが、その代わりにメリット・スカラーシップの中でアスリートとしての評価が加えられます。なお、アイビーリーグの各大学(ハーバード、イェールなど)はディビジョンⅠに所属していますが、スポーツ奨学金制度はありません。
 
大学のチームのコーチから選抜(リクルート)され大学のアドミッション審査を通ると、進学が認められスポーツ奨学金が授与されます。各チームが授与できる奨学金の合計上限額は、競技の種類やチームが所属するディビジョンにより、NCAA(全米大学体育協会)で細かく決められています。
 
例えば、ディビジョンIの女子水泳・飛び込みチームは、14人分までの奨学金が授与できます。この場合の1人分とは、授業料および寮費、食費等を含む1年間の学費の総額です。この金額がチーム所属の学生に分配されるのですが、均等に分配されるわけでなく、チームにおける選手の重要度により受給額は大きく異なります。

ヘッドカウント競技の奨学金

選手への奨学金の配分方法は、原則としてコーチが自由に決められますが、例外もあります。男子のFBSフットボールや女子のテニスなど、ディビジョンⅠの一部の競技では奨学金数と授与学生数が同数になることが義務付けられています。
 
これらの競技は「ヘッドカウント競技」と呼ばれ、スポーツ奨学金の額は例外なくフルスカラーシップ(学費全額免除)となります。一切学費を負担せずに進学できるので経済的には大きなメリットがありますが、奨学金を授与できる学生数が限られているため、奨学金の獲得はかなりの狭き門です。

スポーツ奨学金の獲得方法

スポーツ奨学金の候補に選ばれるには、自分の存在をチームのコーチに知ってもらう必要があります。何もしなくても大学から誘いを受けるのは一部のトップアスリートだけで、多くの学生は自ら売り込みます。
 
まずは、自分が興味をもったチームのコーチ宛にメールを書きます。メールでは、簡単な自己紹介に加え、自分の得意な種目や記録などアスリートとしての成果を示します。自分がプレーしているビデオを動画サイトに載せて、そのリンクを示すのも良い方法です。
 
高校の成績やテストのスコアなど、学習面での成果も忘れずに伝えましょう。大学のコーチにとって、高校の成績はとても重要です。いくらアスリートとして優秀でも、学力面で大学が求める基準に達していなければ、コーチはリクルートできません。
 
高校で履修したクラスがNCAA(全米大学体育協会)の履修要件を満たしていることも重要です。要件を満たしているかどうかを確認するために、NCAA(全米大学体育協会) Eligibility Center(eligibilitycenter.org)への登録をお勧めします。登録により、履修要件を満たすために何が必要かなども知ることができます。また、大学に対して自分が履修要件を満たしていることを示すことも可能となります。
 
NCAA(全米大学体育協会)(ncaa.org)のウェブサイトでは、競技種目やディビジョンから、またカレッジボード(collegeboard.org)のウェブサイトでは、アカデミックとアスレチックの両面から大学を検索できます。スポーツ奨学金の獲得を目指すなら、あまり地域は絞らず、「自分を必要としてくれる大学なら全米どこにでも行く」くらいのつもりで、数多くの大学にコンタクトすることをお勧めします。

NCAA競技一覧

 

競技名 男子 女子
野球
バスケットボール
ボーリング
クロスカントリー
フェンシング
フットボール
フィールドホッケー
ゴルフ
体操
アイスホッケー
ラクロス
ライフル
ボート
スキー
サッカー
ソフトボール
水泳&飛び込み
テニス
屋内陸上
屋外陸上
バレーボール
水球
レスリング

◎ヘッドカウント競技(ディビジョンⅠ)
 (2015年9月16日号掲載)

ファイナンシャル・ニーズの基礎知識

アメリカの大学の学費は高額ですが、質の高い教育は決して富裕層だけのものではありません。適切な教育を受ける権利は全国民に与えられるべきというのがアメリカの基本的な考え方であり、それを実現する手段の一つが、ファイナンシャル・ニーズベースの奨学金です。

ファイナンシャル・ニーズとは

家庭の所得が学生の学費を全額負担するのに十分ではないと判断された場合、その不足分がファイナンシャル・ニーズです。正確には、授業料や寮費、食費など1年間にかかる学費の総額がEFC(Expected Family Contribution:家庭が1年間に負担できる学費の上限額)を上回っている場合、学費とEFCの差額がファイナンシャル・ニーズとなります。
 
EFCの算出方法には、FM(Federal Methodology)とIM(Institutional Methodology)の2種類があります。FMは連邦政府が定めた算出方法でFAFSA(www.fafsa.ed.gov)のサービスを利用します。IMは各大学が独自に行う算出方法で、主にカレッジボードのCSS PROFILE(collegeboard.org/css-financial-aid-profile)というサービスを利用します。
 
FAFSAは全ての大学で利用されていますが、IMを採用する大学はCSS PROFILEを併用します。従って、IM採用の大学にニーズベースの奨学金を考慮してもらうためには、FAFSAとCSS PROFILEの両方に登録する必要があります。CSS PROFILEの登録は、12年生の年の10月1日以降、FAFSAは同じく1月1日以降に登録できます。

ニーズベースの奨学金

ファイナンシャル・ニーズの一部を負担するプログラムをファイナンシャル・ニーズベースの奨学金と言います。ニーズベースの奨学金には、政府が負担するものと大学が負担するものがあります。ファイナンシャル・ニーズが全てカバーされて、どの学生も無理なく進学できることが理想ですが、それを実現している大学は少数です。
 
ニーズベースの奨学金は大学にとって大きな負担となります。Pell Grant(連邦政府の奨学金)は最大で5千ドル程度であり、ニーズを全てカバーするには、かなりの部分を大学が負担することになります。ニーズを100%カバーすると謳っている大学は全米で50校程度ありますが、実際はその中に学生ローンやワークスタディー(キャンパス内でのアルバイト)などを組み込んでいる大学が大半です。なお、ニーズベースの奨学金の対象は主として米国市民、および永住者であり、非移民ビザの学生や外国人留学生にも適用される大学は少数です。
 
適切な教育を受ける権利は全ての学生に与えられるべきという信念を貫く大学は、アドミッションでニーズ・ブラインドという方針を示しています。ニーズ・ブラインドとは、アドミッションの際に学生の経済状況を一切考慮しない、つまりファイナンシャル・ニーズの大小がアドミッションに影響しないことを意味しています。アプライする学生にとって大変魅力的ですが、ニーズ・ブラインドを採用する大学は経済的に恵まれた一部の大学に限られます。
 
進学した際に実際に支払う学費の予測には、ネットプライス・カリキュレーター(NPC)が便利です。NPCは各大学がウェブ上で提供している無料のサービスで、EFCや連邦政府や州政府から得られる奨学金、大学から得られる奨学金などのおおまかな情報が入手できます。ただし、これは簡易的なものであり、またメリットベースの奨学金は含まれないため、実際の学費とは異なります。

アドミッションで不利?

ニーズ・ブラインドではない多くの大学では、ファイナンシャル・ニーズがあるとアドミッションで不利になるのでしょうか。結論から言うと、あまり気にする必要はありません。なぜなら、大学にファイナンシャル・ニーズをカバーする義務はないからです。メリットベースの奨学金の額が個人の評価で決まるように、ニーズベースの場合も個人の評価によります。上位の合格者には手厚く、下位の合格者には少なくと、差をつけられるのです。
 
従って、ファイナンシャル・ニーズの有無が合否に影響するのではなく、個人の評価が奨学金の額に影響すると考えるのが妥当です。ニーズは100%カバーするけれどニーズ・ブラインドではない大学では、ニーズのない学生を優遇する可能性はありますが、それでも自分を高く評価してくれる大学なら問題にはなりません。自分の価値を高め、その価値を高く評価する大学を受けることが奨学金獲得の王道と言えるでしょう。
 
(2015年8月16日号掲載)

SATリニューアル最新情報

アドミッション・テストのひとつであるSATが2016年3月に刷新されます。大学で学ぶのに必要な基礎学力を評価するのに適したテストとして、より高校の教育課程に沿った内容に生まれ変わります。今回は新SATの概要と準備の進め方についてお話しします。

卒業時期により異なる準備

現行SATを受けるのは、16年までに卒業する高校生です。16年秋に大学進学を目指す場合は15年中に出願することになるので、現行SATを受けます。これに対して、17年に卒業する高校生は原則として新SATを受けることになるので、現行SATの準備は不要です。
 
SATのリニューアルに伴い、SATの予備テストであるPSATも新しくなります。新PSATはひと足早く15年秋から実施されます。新テストは主催するCollege Boardが現在開発中ですが、サンプル問題はCollege Boardのウェブサイトで見ることができます。新SATのスタディーガイド等は15年5月時点でまだ出版されていないので、新テストの準備が始められるのはもう少し先になります。もし17年に卒業する方が今すぐテスト対策を始める場合は、ACTから取りかかることをお勧めします。

オプショナルのEssay

新テストになって最大の変化は、Essay(小論文)がテスト本体から外れてオプショナルとなったことです。これに伴い、採点方法も現行の3科目2400点満点から2科目1600点満点に変わります。オプショナルのEssayを受けた場合、Essayは別に採点されます。
 
Essayの時間は現行の25分から倍の50分に増えます。まず700文字程度の文章を読み、その内容をもとに与えられた課題についてEssayを書くため、作文力だけでなく、読解力と分析力も問われる内容となっています。従ってEssayの採点は、作文力、読解力、分析力それぞれの点数の合計となります。
 
EssayがオプショナルなのはACTと同じです。オプショナルとは言え、アドミッションでACTのEssayの受験を要求する大学が多いことを考慮すると、新SATについてもオプショナルのEssayのスコアを要求される可能性が高いと思われます。従って、新SATを受ける際はEssayも一緒に受けることをお勧めします。
 
SATが基礎学力を評価するテストになれば、入学審査におけるアドミッション・テストの使われ方も変わる可能性はあります。とは言え、「学力評価は高校の成績から」というのが入学審査での基本的な考え方であり、この基本が変わることはありません。
 
従来のSATでは高度な語彙力を要求され、また知能テスト的な側面があり、高得点を目指すためには独自の対策が必要でした。しかし新SATは、ACTと同様学校できちんと学んでいれば点が取れるようになるはずです。そこで、これから進学準備を始める方は、個々のテスト対策よりもまずは英・数の学力向上に努めてください。この2科目には全ての学習の基礎となる読解力、作文力、論理的思考力が含まれており、ここを強化することが学力向上とテスト対策の両面において最良の進学準備となります。

新旧SATの比較

  現行SAT 新SAT
実施時期 2016年1月まで 2016年3月から
年間の試験回数 7回(10、11、12、1、3、5、6月) 変更なし
試験科目(必須) 3科目
Critical Reading(批判的読解)
Mathematics(数学)
Writing(小論文および文法)
2科目
Evidence-based Reading and Writing
(根拠に基づいた読解および筆記)
Mathematics(数学)
試験科目(任意) なし Essay(小論文)
試験時間 3時間45分 3時間(Essay受験の場合は+50分)
採点方法 2400点満点(800}3科目)
誤答は1/4点のペナルティー
1600満点(800}2科目)
誤答によるペナルティーなし
Essayは24点満点
計算機使用
(数学)
全ての問題で使用可 使用可(37問)、使用不可(20問)
PSAT 毎月10月に実施
現行PSATは14年で終了
新PSATは15年10月から実施
試験時間は2時間45分

(2015年6月16日号掲載)

夏休みに行うアプリケーション準備

大学に出願する時期は12年生の秋が一般的ですが、その準備はかなりの時間を要します。十分な成果を上げるのには、12年生になってからアプリケーションの準備を始めるのでは遅過ぎます。今回は、夏休みを有効に利用して進学準備を進める方法についてお話しします。

11年生終了までにすること

言うまでもありませんが、満足のいく成績を収めることが大切です。アドミッションでは高校4年間の成績全てが評価の対象となりますが、12年生が終わる前に合否が決まるため、しっかり評価されるのは11年生の成績までです。また、アドミッションでは成績の動向が重視されます。10年生から11年生にかけて上昇傾向にある成績は高く評価されますから、11年生の成績は高校4年間の中で最も大切と言えます。
 
もうひとつ11年生が終わるまでにすることは、推薦状をお願いできる先生を2人探すことです。一部の州立大学を除き、出願の際に高校の先生からの推薦状の堤出が求められます。必要な推薦状の数は大学により異なりますが、2人確保しておけば安心です。実際に推薦状を書いてもらうのは12年生になってからですが、秋になると各先生に推薦状の依頼が殺到するので、早めに口頭で承諾を得ておいた方が良いでしょう。

夏休みの課題①出願大学

夏休み中に候補となる大学のリストアップと絞り込みを行い、夏休みが終わる頃には出願する大学がほぼ決まっているのが理想的です。なぜなら、早期出願の締切を11月初旬に設定している大学が多く、その締切に間に合うように成績表や推薦状を手配するためには、自分が出願する大学のリストを12年生になったらすぐ高校に堤出することになるからです。
 
College Boardやそれぞれの大学のウェブサイト等で大学を調べ、出願候補となる大学のリストを作ります。興味を持った大学は実際に訪問したり、アドミッションに問い合わせたりしながら、より詳しく調べます。そして、進学したいと思う大学がいくつか見つかったら、それと似たタイプの大学を全米で探しましょう。希望する専攻や経済的ニーズなど、大学を評価するポイントは一人一人異なるので、他人の評価に左右されることなく、自分自身でしっかり評価してください。

夏休みの課題②エッセイ

出願準備で最も時間がかかるのがエッセイです。人物評価が重視される最近のアドミッションでは、エッセイは極めて重要です。多くの学生はコモン・アプリケーション(www.commonapp.org)を利用して出願しますので、夏休み終了までにコモン・アプリケーション用に「パーソナル・エッセイ」と「アディショナル・インフォメーション」の2つのエッセイを仕上げることを目標にしましょう。
 
初めに、家族など自分のことをよく知る人を交えてブレインストーミングを行い、アイデアを出します。アドミッションに自分のどのような価値を伝えたいのか、またその価値を伝えるためには、過去のどのような経験を具体例として挙げるのが効果的か、なるべく多くのアイデアを出していきます。
 
アドミッションに伝えたいことが決まったら、エッセイを組み立てます。パーソナル・エッセイで与えられた5つのトピックの中で、自分が伝えたい内容を盛り込むのに相応しいトピックを選び、エッセイの構成を考えます。ブレインストーミングで得られたアイデアを形にしていくのには時間がかかるので、計画的に取り組んでください。
 
パーソナルエッセイには盛り込めなかったけれど、アドミッションに伝えたいことがあれば、アディショナル・インフォメーションのエッセイで書きます。コモン・アプリケーションの2つのエッセイを仕上げておけば、州立大学など他のアプリケーション・システムを採用する大学にも流用できます。

夏休みの課題③自分の価値

入学審査での評価を高めるためには、自分の価値を高めて他の学生と差別化することが重要であり、夏休みはその最後のチャンスです。アスリートとしての能力を評価してもらいたい学生は、地道なトレーニングで技術を磨き、美術や建築等の専攻で進学する学生は、ポートフォリオに加える作品作りに励みます。また、ACTやSATのスコアアップを目指す学生は、テスト対策に取り組みます。
 
大学進学を目指す学生にとって、夏休みの過ごし方が成否を分けると言っても過言ではありません。ぜひ上記の3つの課題に取り組み、成し遂げてください。
 
(2015年5月16日号掲載)

アメリカの単科大学

アメリカには、幅広い専攻や研究プログラムを有する総合大学や、学部の教育にフォーカスして質の高い教育を行うリベラルアーツ・カレッジなど、さまざまなタイプの大学がありますが、特定の学部に特化した教育を行う単科大学も数多くあります。今回は、アメリカの単科大学についてお話しします。

芸術系の単科大学

単科大学でまず思い浮かぶのが芸術系大学でしょう。音楽系大学では、ニューヨークの「ジュリアード音楽院」や、ボストンの「バークリー音楽大学」が世界的に有名です。両校とも音楽における能力は言うまでもなく、学力面においても高水準が要求される難関校で、その競争率の高さはアイビーリーグの大学をも上回ります。
 
美術系大学で評価の高い「ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン」はロードアイランド州プロビデンスに立地し、隣接するブラウン大学と共同でプログラムを運営するなど、教養教育にも力を入れています。また、カリフォルニア州パサデナの「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」は、世界的に有名な工業デザイナーや映画監督を多数輩出しています。

理工系の単科大学

アメリカには理工系の専攻に特化した単科大学もあります。「オーリン大学」はボストン郊外にある理工系の単科大学です。オーリン大学自体が提供するのは工学部のみですが、近隣のバブソン大学やウェルズリー大学でも、追加の学費を払うことなくクラスが履修できる仕組みがあるため、学生は幅広く学ぶことができます。
 
ちなみに、「マサチューセッツ工科大学」や「ジョージア工科大学」のように、理工系の専攻が充実した工科大学と呼ばれる総合大学がありますが、これらの大学は理工系以外にも、経済学や哲学など社会科学系の専攻も有するため、単科大学ではありません。
 
ニューヨークの「クーパーユニオン大学」は、美術、建築、工学の3つの学部を持つ小規模大学です。それぞれの学部が独立した大学のように運営されているため、3つの単科大学が集まって一つの大学を構成していると言えます。

ビジネス系の単科大学

ビジネス系の単科大学とてよく知られているのが、ボストン郊外の「バブソン大学」です。アントレプレナーシップのプログラムは世界的に知られており、このプログラムを担当する教授は全員が起業で成功した経験を持っています。前述のオーリン大学と同じく、近隣の大学と提携しているので、学生は提携校で自由にクラスを履修できます。

単科大学の特徴

単科大学は、特定の学部に特化しているため、その分野における教育プログラムが充実しています。同じような目標を持つ周りの学生と情報を共有したり、お互い励まし合いながら学べるのは、単科大学ならではのメリットと言えるでしょう。
 
一方で、単科大学ならでは制約もあります。まず、学部がひとつしかないため、一般の大学のように、在学中に自由に専攻を変えられません。主専攻は変えずに、副専攻をとりたいという場合でも、学内での対応は難しいです。小規模な大学で故に、一般教養で学べるクラスの種類も限られているので、自分が学びたいクラスが学内で提供されていない場合は、他の大学に受けにいく必要があります。

単科大学の学費

学費とファイナンシャル・エイドは、大学間で大きなばらつきがあります。基金が小さく財政基盤が弱い単科大学は授業料収入への依存が大きいため、奨学金の予算も小規模です。これに対し、大口スポンサーからの潤沢な基金に支えられて学費を抑えている大学も数多く見られます。例えば、オーリン大学やクーパーユニオンは、入学者全員に授業料の半額をメリット奨学金として授与しています。また、音楽大学として名高いフィラデルフィアの「カーティス音楽学校」やロサンゼルスの「コルバーン音楽院」は、授業料のみならず寮費、食費に至るまで全て奨学金でカバーされるので、学費は実質ゼロです。
 
芸術や工学など、単科大学が提供する専攻を有する総合大学やリベラルアーツ・カレッジも決して少なくありません。選択肢が広がれば、その分自分に合った大学に、よりリーズナブルな学費で進学できる可能性が高まります。将来の進路が決まっている場合でも、単科大学だけでなく、一般の大学も進学先候補に加え、並行して検討することをお勧めします。
 
(2015年4月16日号掲載)

ビッグデータ時代のアドミッション

膨大な情報、ビッグデータを分析して戦略を組み立てることは、現在ではあらゆる業界で行われており、大学も例外ではありません。学生へのダイレクト・マーケティングから入学後の成績の予測に至るまで、あらゆるところでビッグデータが活用されています。今回は、大学がどのように情報を集め、その情報をいかに活用しているかについてお話しします。

データの利用は入学率を上げるため

アドミッションオフィスの目標は、欲しい学生を必要な人数分入学させることですが、その目標達成は年々難しくなっています。その理由として入学率(歩留まり)の低下が挙げられます。
 
大学受験者数の増加に加え、一人の学生が受験する大学数も年々増加傾向にあります。大学のアプリケーションは全てオンライン化され、「コモン・アプリケーション」などの共通出願システムの普及により、複数の大学に志願するためのハードルは大きく下がりました。難関大学の競争激化の影響もあり、今では、一人10校以上出願するのが一般的になっています。
 
一人の学生が数多くの合格通知を得ても、実際に入学するのは一校だけ。各大学にとって、アプリケーションの数が増えるのは喜ばしい反面、実際に入学する学生数の予測は困難を極めています。合格通知を送った学生のうち、実際に進学した学生の割合を示す入学率は、過去10年間で平均10%以上も下がっています。
 
入学率の高さは大学の人気度を示す指標となり、大学ランキングに直結するので、どの大学も入学率を極めて重視しています。また、歩留まりを読み間違えて必要な学生数が確保できなければ、授業料収入に影響するため一大事です。このように、大学にとって入学率は死活問題なのです。

欲しい学生確保のための情報収集

私立大学が学生獲得にかけるコストは、入学者一人当たり約2500ドルと言われています。欲しい学生をしっかり確保するためにはビッグデータの入手と緻密な分析が不可欠であり、そのためにアドミッションは経費を投入するのです。
 
では、大学はどのように学生の情報を入手するのでしょうか。最も簡単なのは、学生の情報を持っている業者からデータを購入する方法です。例えば、College BoardやACTはアドミッション・テストを受けた学生に200項目以上のアンケートを課し、情報提供を許可した学生のリストを提供しています。学生の成績やテストスコア、希望する大学のタイプや専攻、ファイナンシャル・ニーズなど、多面的な情報を大学は一人当たり約35セントで購入できます。SATやACTのテストを受けると、色んな大学から郵便やメールが届くようになるのは、このような理由からです。
 
大学が学生から直接得る情報もあります。キャンパス訪問に来た学生へのアンケートやメール、電話、ウェブサイト、Facebookなどを通じて受けた問い合わせなどから、大学は独自に学生のデータを収集します。このように学生の「自発的な接触」によって得られたデータは、大学にとって非常に大きな意味があります。

「関心度」の高い学生は優遇されやすい

大学がデータを分析する上で極めて重要なキーワードが「関心度」です。関心度は、受験生が大学に対して有する興味の度合いであり、関心度が高い学生は、最終的にその大学を選ぶ可能性が高いと考えられます。つまり、大学にとって学生の関心度を測ることは、入学率を予測する上で極めて重要なのです。そして、学生の大学への「自発的な接触」は、高い関心度の表れと評価されます。
 
大学は関心度の高い学生を優遇します。特にボーダーラインの学生にとって、関心度が合否に大きく影響します。逆に、どんなに優秀であっても、入学の意思のない学生には合格通知を出したくないというのが大学の本音です。大学にとって、入学率が下がるだけでメリットが全くないからです。
 
従って、受験生は自分が希望する大学に対して、高い関心を持っていることをきちんと伝えていくことが重要です。そのためのベストな方法は、自ら積極的に大学にコンタクトすることです。メールのやり取りやソーシャルメディアを通じたコミュニケーションなど、「自発的な接触」は全てアドミッションのデータとして収集され、関心度の評価に反映されるのです。

アドミッションがビッグデータを分析して学生の関心度を測ることは前回説明しました。大学は関心度の高い学生をアドミッションで優遇するため、受験生は希望する大学に対して高い関心を持っていることを伝えることが重要です。では、効果的なコミュニケーションの方法について説明します。

自発的なコンタクトが重要

大学と受験生のコミュニケーションは、願書提出後に始まるわけではありません。学生が大学に資料請求の電話をしたり、キャンパスツアーに参加したりすれば、その時点から始まるのです。最近はFacebookなどのソーシャルメディアを通じて大学に連絡する学生が増えてきましたが、そこでのやり取りは全て大学のデータベースに記録されます。
 
このように、学生が自発的にコンタクトすることを大学は極めて高く評価しますので、ある大学に興味を持ったら、まずはアドミッションに自ら連絡を取ることをお勧めします
興味のある大学なら、質問してみたいことはいろいろあるはずです。特定の専攻やプログラムについての質問も、まずはアドミッションを通して聞いてください。自分が大学に連絡した、という足跡をアドミッションに残すことが大切です。その頻度や方法も重要で、一度連絡したらそれで十分というわけではありません。アドミッション・カウンセラーとは継続的に連絡を取り、質問があれば積極的に聞きましょう。
 
合否に最も大きな影響力を持つのはアドミッション・ディレクターではなく、自分の地域を担当しているアドミッション・カウンセラーです。むろん、アドミッションから受け取ったメールには必ず返信してください。
 
自発的なコンタクトの方法はいろいろありますが、中でもアドミッションが最も高く評価するのが、キャンパス訪問。実際にキャンパスに足を運んで施設を見学したり、学生と話したりする学生は、関心度が極めて高いと評価されます。従って、自分が興味を持った大学はなるべく訪問するようにしましょう。単にアドミッションで有利になるだけでなく、大学への理解が深まり、進学準備を進める上でも大いに役立ちます。
 
キャンパスに一度も訪問しない受験生の入学率が非常に低いことは、データで証明されています。遠方の大学ならともかく、州内の大学を受ける際に事前にキャンパス訪問をしていない受験生は、アドミッションで不利になる可能性が高いでしょう。

願書を早めに提出して大学に関心度を示す

締切直前に願書を提出する学生よりも、早期に提出する学生の方が入学率が高いことも、ビッグデータの分析から明らかになりました。願書のオンライン化に伴い、学生が願書を提出した日時を大学が把握しやすくなったこともあり、提出時期を関心度の評価に使う大学が増えています。
 
じっくりエッセイを練りたいという受験生の考えも分かりますが、他の受験生より早く願書を提出する価値は大いにあることもぜひ考慮しましょう。早期提出で、早めに合格通知が得られたり、奨学金やファイナンシャル・エイドで有利な条件が得られる可能性もあります。 早期締切(Early Action)が設定されている大学もあるので、ぜひこの制度を利用しましょう。ただし、その場合でも締切直前ではなく、早めに提出する方が関心度の評価で有利となります。

データ活用方法の進化と今後の見通し

ビッグデータ活用の進化に伴い、関心度の評価方法も日々進化しています。例えば、最近ではFAFSAのデータが関心度の評価に利用されるようになりました。FAFSAとはファイナンシャル・エイドを受ける際に大学に出す書類ですが、これには堤出する大学を10校まで申請できるようになっています。このリストの上位に記載されている大学は、学生が実際に入学する可能性が高いことから、このFAFSAのデータを関心度の評価に積極的に活用する動きが出てきました。
 
今後も学生の関心度を測る新たな指標が出てくると思いますが、一方でこのようなビッグデータの分析から得られる情報は表面的なものであり、人と人のコミュニケーションに取って代わるものではありません。どんなにデータの活用が進化しても、受験生にとって、アドミッション・カウンセラーと直接やり取りして、信頼関係を築くことが大切だということに変わりはありません。
 
(2015年2月16日号、3月16日号掲載)

大学合格後のキャンパス訪問

大学進学の準備において、実際にキャンパスに足を運んで大学への理解を深めることが大切だということは以前もお話ししましたが、キャンパスを訪問するのは、アプライする大学を選ぶためだけではありません。複数の大学から合格通知を得た後、実際に進学する大学を選ぶ際にも、キャンパス訪問は極めて重要です。今回は、大学合格後にキャンパスを訪問するときの注意事項をまとめました。

5月1日までのカウントダウン

受験生のゴールは、5月1日までに進学先を決めることです。アプライした大学の結果は3月末にほぼ出そろい、受験生は合格大学の中から進学する大学を決めて5月1日までにデポジットを納め、大学の籍を確保します。従って、キャンパス訪問は合格通知を得てから5月1日までの間に行うことになります。短期間に複数の大学を訪問することになるので、それぞれの大学へのアクセス方法をしっかり把握して、合理的な訪問計画を立てましょう。
 
合格した大学は全て訪問するのが基本です。ファイナンシャル・エイドが得られず経済的に進学が不可能な大学を除いて、合格した大学は全て進学先の候補です。滑り止めくらいに考えて受けた大学が、実際に訪問してみたらとても気に入って進学先に決めたという事例はいくらでもあります。数多くの選択肢の中から自分にとってベストな大学が選べるようにするためには、きちんと戦略を立てて複数の大学を受けることが大切です。
アプライする前に訪問した大学も、合格通知を得たら必ず再度訪問してください。各大学は、合格者向けのイベントを行い、合格者のキャンパス訪問を促します。イベントでは、実際の授業が見学できたり、大学寮に泊まって在校生と交流できたりするので、一般のキャンパスツアーよりもはるかに大学に対する理解を深めることができます。
イベントの日に訪問できるのが理想的ですが、万が一予定が合わない場合は他の日でも構いません。その際は、事前にアドミッション担当者に連絡をとり、自分が合格者であることを伝えておけば、イベントに参加する場合と同等の対応をしてもらえます。

ベストな一校を見つけるために

キャンパス訪問では多くの在学生と話す機会が得られるので、いろいろ質問をしましょう。数多くの選択肢の中からなぜこの大学を選んだのか、実際に入学してみてどう感じたのかなど、現役大学生の話を聞くのは自分が進学先を決める上で大いに参考になります。
ベストな一校を見つけるためには合格した全ての大学を訪問すべきですが、それを実行するのはかなり大変です。近年各学生が受験する大学数は増加傾向にあり、10校以上から合格通知を得る学生も少なくありません。4月に春休みがあっても、1か月間に10校訪問するのはあまり現実的ではないかもしれません。
そこで、訪問時期を分散させる必要があります。例えば、週末にキャンパス訪問ができる大学は週末に訪問します。また、早期締切で合格した大学はなるべく3月までに訪問。それでも4月の平日に学校を休んでキャンパス訪問することは避けられないと思いますが、高校への影響を最小限に抑える工夫をしましょう。
 
キャンパス訪問にかかる交通費も大きな負担となります。経済的に厳しい学生は、キャンパス訪問にかかる経費の一部を大学に負担してもらえるか尋ねてみるという方法があります。空港への送迎や大学寮での宿泊を、大学に手配してもらえる場合もありますので、アドミッション担当者に相談することをお勧めします。
進学先を選ぶ上で、学費が支払えるかどうかも重要なポイントです。提示されているファイナンシャル・エイドの金額について交渉したい場合は、キャンパス訪問時にファイナンシャル・エイドの担当者に会って相談してみてください。交渉の余地があるかどうかは分かりませんが、相談してみる価値はあるはずです。
最後に、キャンパス訪問から帰ったら、お世話になった方々にお礼のメールを書き、キャンパスツアーに参加して良かったこと、学んだことなどを簡潔に伝えましょう。全ての大学を訪問したら、進学先を決めることになります。4年間の大学進学という大きな時間とお金を投資する先を決めるわけですから、慎重に比較検討して、満足のいく決断をしてください。
 
(2015年1月16日号掲載)

ギャップイヤーの意義と活用方法

春に高校を卒業した学生は、その年の秋から大学に進学するのが一般的ですが、すぐに大学には進学せず、さまざまな課外活動に取り組む学生も増え
てきました。このような高校卒業から大学進学までの猶予期間をギャップイヤーと言います。今回は、この意義と活用方法について説明します。

ギャップイヤーの目的とその取り方

高校卒業後すぐに大学に行くのは、必ずしも全ての学生にとってベストな選択とは限りません。将来の目標が定まらず、大学で何を学ぶべきか決められない学生や、高校生活で燃え尽きてしまい、大学で学び続ける意欲を失っている学生は、その状態で大学に進学しても満足のいく成果を得ることは難しいでしょう。
 
そのような学生にとって、高校卒業後半年から1年の間、今までとは全く異なる環境に身を置き、今までできなかった活動に取り組むことは、自分自身を見つめる上で大いに役立ちます。大学もギャップイヤーを有効活用した学生を入学審査で高評価する傾向にあり、ギャップイヤーを利用した学生は、そうでない学生と比べて大学進学後の学習意欲が高く、より好成績が期待できるという調査結果が複数の大学から発表されています。
 
ギャップイヤーの取り方は、大きく2通りあり、1つ目は、進学する大学を決めた後、入学を遅らせる方法です。この場合は、高校卒業後すぐに大学進学する学生と同じように進学準備を行います。そして、進学を決めた大学にデポジットを納めて大学の籍を確保した上で、アドミッションに連絡をとり、入学延期の依頼をします。延期の期間は1学期から1年程度が一般的で、多くの大学が一定の条件の下で延期を認めます。
 
2つ目は、進学先を決めずにギャップイヤーを取り、大学進学準備を行う方法です。さまざまな活動に取り組みながら、時間をかけて大学選びや願書作成ができるので、高校在学中に満足のいく進学準備ができなかった学生や、12年生の成績も入学審査で評価してもらいたい学生にとっては、理にかなった方法と言えるでしょう。
 
一見、日本の浪人に似ていますが、その目的は大きく異なります。進学準備を主目的にギャップイヤーをとっても、あまり効果はありません。あくまでも人間として成長するために幅広い活動に取り組むことが目的であり、その成長が結果的に大学進学に役立つのです。
 
ボーディングスクールなど一部の高校では、Post Graduate(PG)という13年生の学年を有し、学校内でギャップイヤー・プログラムを提供しています。PGでは個々の学生の要望に応じてきめ細かく支援するため、学生は大いに成長し、大学からの評価も高まります
 
多くの大学がギャップイヤーの価値を評価するようになり、大学自体がギャップイヤー・プログラムを提供するケースもでてきました。例えば、ニュージャージー州のプリンストン大学では2009年から「ブリッジイヤー・プログラム」というギャップイヤー・プログラムを実施しています。新入生が対象で、参加者は南米やアフリカなどで9カ月間のボランティア活動に従事します。「ブリッジイヤー・プログラム」にかかる費用は全て大学負担です。

自分に合ったプログラムの選び方

社会奉仕活動や海外での異文化体験、インターンシップなど、ギャップイヤーでできることは幅広いですが、大切なのは、自分に合ったプログラムを選ぶことです。大学に進学後、日々の学習や課外活動に意欲的に取り組み、有意義な大学生活を実現するために、ギャップイヤーでどんな経験を積み、何を身に付けるべきかをよく考えて、そのニーズを満たすプログラムを探してください。
 
学習面で不安のある学生は、ギャップイヤーで学術的なプログラムを取ることも可能です。ただし、この期間に大学レベルのプログラムにフルタイムで通うと、大学進学の際に新入生として受験する権利を失いますので、注意してください。
 
ギャップイヤーの発祥はイギリスですが、近年は米国内でも幅広く認知され、多くの情報がオンラインで得られるようになりました。米国ギャップイヤー協会は、その種類や活用方法などの情報を提供しています。米国ギャップイヤー・フェアーでは、多岐にわたるギャップイヤー・プログラムを紹介するイベントを全米各地で行っています。これらの情報を活用しながら、各プログラムを比較して、自分の目的に合うものを選びましょう。
 
(2014年11月16日号掲載)

早期締切の種類と活用方法

高校の12年生(シニア)になると、大学願書の提出が目前に迫ってきます。受験生にとって、締切までにきちんと願書を堤出することが不可欠なのは言うまでもありませんが、決して簡単なことではありません。出願締切は大学によって異なる上に、一つの大学が複数の締切を設けている場合があるからです。今回は、多くの大学が採用している早期締切の種類と活用方法を説明します。

一般締切と2種類の早期締切

願書提出の締切には、一般締切(Regular Deadline)と早期締切(Early Deadline)があり、前者のみを受け付ける大学と、両方を併用する大学があります。早期締切は私立大学で広く活用されていますが、ミシガン大学やジョージア工科大学など一部の難関州立大学でも採用されています。
 
一般締切日は年明けすぐに設定されている場合が多く、通常合否の結果は3月末までに得られます。カリフォルニア大学やワシントン大学など一部の州立大学では、私立大学よりも早めに一般締切日が設定されていますが、合否の通知時期は私立大学と同等です。
 
これに比べて早期締切の多くは11月初旬に設定されており、締切時期が早い分、合否の通知時期も早く、年内に結果がわかる場合が多くあります。同じ大学を両方の締切で出願することはできませんが、どちらにするかは受験生が自由に選択できます。
 
早期締切には、大きく2つに分けてEarly Decision(ED)とEarly Action(EA)があります。どちらも締切が早く、結果が早くわかるという点は同じですが、EDには「合格したら必ず進学する」という制約条件がつきます。従って、EDで出願できるのは1校のみです。
 
対して、EAに制約条件はないので、同時に複数校へ出願できます。実際に進学するかどうかの結論を出すのは、一般締切で受けた大学の結果が出そろった後で構いません。EA、EDのどちらか片方を採用する大学が多く、早期締切日を複数設定している大学もあります。

EA積極活用がポイントEDとREAは慎重に

早期締切の効果的な活用方法として最初に挙げられるのは、EAを積極的に活用することです。EAを採用する大学への出願を決めたら、迷わずEAで出願しましょう。EAで受験した方が多少なりとも入学審査で有利になる可能性が高く、少なくとも不利になることはありません。早期締切に間に合うように願書を準備するのは大変ですが、競争率は低いですし、早期提出の努力を大学が評価してくれるからです。
 
EAでは合格が見込める大学をなるべく多く受験することをおすすめします。見込みのある大学というのは、奨学金が狙える大学とも考えられます。クリスマス前に複数の合格通知と奨学金の提示が得られることは、本人にとっても、家族にとってもありがたいものです。
 
一方、EDで出願する最大の利点は、入学審査で確実に有利になる点です。EDで受ける学生は、合格通知を出せば必ず入学してくれるので、大学側が合格者の歩留まりを気にする必要がなくなるからです。合格したら迷わず進学したい大学にはED受験が効果的です。
 
ただし、EDで出願するかどうかについては、学費が払えるかどうかの見極めも大切です。一般締切やEAで出願した場合は、大学から提供される学費補助(Financial Aid)の条件を比較してから進学先を選ぶことができますが、EDの場合はそれができません。
 
また、EAは制約条件がないと前述しましたが、例外でRestrictive Early Action(REA)という特殊な早期締切を採用している大学もあります。これは、合格しても進学する義務がないのはEAと同じですが、REAで受験する場合は、ほかの私立大学に早期締切で出願できないという条件が付きます。ハーバード大学やイエール大学、スタンフォード大学など一部の超難関大学で採用されています。
 
REAの選択は、EDよりも難しいかもしれません。EDはED受験校が1校のみに絞られますが、EAなら何校受けても問題ありません。ところが、REAを採用する大学は、EAも含めて他の大学を早期締切で受験することを禁止しています。EDと同様に入学審査で有利になりますが、REAを使うと奨学金狙いでEAを活用する戦略が取れなくなるので、慎重な判断をおすすめします。早期締切の日は大学により異なるため、それぞれの大学の締切日をしっかり把握し、余裕を持った準備を心がけましょう。
 
(2014年09月16日号掲載)

工学系学生の大学選び

エンジニアリング(工学)は学生にとって人気の高い専攻の一つですが、大学選びで迷う学生は少なくありません。工学部のある大学は限られている上、大学院進学を視野に入れた大学選びなど工学系特有の課題があるからです。今回は、工学系専攻の学生の進学についてお話しします。

基礎学力は学部で専門性は大学院で

大学は知名度や順位で選ぶのではなく、自分との相性で選ぶという基本的な考え方は、工学系の学生の場合でも同じです。大学選びの際に、機械工学や電気工学など、自分が専攻する分野の評価を気にする学生もいますが、それはあまり重要ではありません。工学系であっても、学部教育では幅広い教養を身に付け、基礎学力を高めることが主眼であり、専門分野を極める教育は主に大学院で行われます。工学系大学の評判や知名度は大学院や研究レベルの評価によるものであり、学部レベルの教育内容に大差はありません。
 
工学系の学生は大学院に進学するのが一般的なので、大学選びは大学院進学の準備という側面もあります。いくら有名大学に進学しても、成績が伴わなければ満足のいく大学院進学は望めませんし、逆に無名大学でも、成果を挙げれば大学院進学には大いに有利です。むしろ、大学院が併設されていない小規模の大学の方が、より質の高い教育を提供している場合があります。ですから学部では、まず自分に合った環境で基礎学力を高めることを念頭に、大学院進学への準備を行うことが重要です。つまり、大学進学は大学院進学の準備であり、専門領域は大学院で勉強すれば十分ということなのです。

工学系が学べる5つの選択肢

①総合大学
多くの州立大学や、学生数が1万人以上の規模の私立大学では、工学部を有し、複数の工学系専攻を提供しているのが一般的。大学院が併設されていることもあり知名度が高く、工学系専攻を目指す学生にとって最も良く知られた進学先です。
 
②工科大学
理工系の専攻が特に充実している学校です。他の専攻が少ない点を除けば、総合大学とさほど変わりません。先端研究で有名な工科大学でも、学部教育で先端分野を扱うことはほとんどなく、むしろ教養教育に力を入れている大学も数多くあります。
 
③工学系専攻のあるリベラルアーツ・カレッジ
リベラルアーツ・カレッジは教育の質の高さに定評がありますが、工学部がない大学が多く、エンジニア志望の学生は見過ごしがちです。しかし、リベラルアーツ・カレッジの中には工学系をしっかり学べる大学もあり、小規模校ならではのきめ細かいサポートが魅力です。
 
④3・2エンジニアリング・プログラム
工学部を持たないリベラルアーツ・カレッジでも、実は工学系の専攻で学位を取る方法があります。それが、「3・2エンジニアリング・プログラム」です。これは多くのリベラルアーツ・カレッジが採用している方法で、リベラルアーツ・カレッジで3年間履修した後、工学系の専攻を持つ提携大学に転入し、2年間履修します。5年間の学習が終わった時点で、在籍した2つの大学から各学位が得られます。例えば、3年在籍したリード大学で生物学、その後2年在籍したコロンビア大学で医用生体工学というように、2つの学士を取得できます。
 
ただし、このプログラムは、卒業まで5年(以上)かかる上に転入先の大学に無条件では受け入れてもらえず、奨学金など不確定な要素が多いため、誰にでもお勧めする選択肢ではありません。しかし、最高水準の教育が受けられ就職にも極めて強いなど、利点も多いので検討する価値はあるでしょう。
 
⑤大学院から工学系を専攻
物理学や化学、生物学など工学の基礎となる学問はリベラルアーツ・カレッジで専攻できるので、学部ではリベラルアーツ・カレッジで理系の専攻を選び、大学院から工学を学ぶという方法もあります。リベラル・アーツ教育の価値を4年間全て享受でき、卒業までの年数にも影響しないという点で、「3・2エンジニアリング・プログラム」よりも現実的な選択と言えるかもしれません。
 
理工系学生は、研究系の総合大学や理工系に特化した工科大学に目を向けがちですが、アメリカならではのリベラル・アーツ教育を受けながら工学を学ぶ方法も視野に入れて、自分にとってベストな進学方法を見つけてください。
 
(2014年08月16日号掲載)

非永住者のアメリカ大学進学

駐在などで一時的にアメリカに滞在している学生にとって、こちらでの大学進学は不利になると考える人が多いですが、そうとは限りません。入学審査における現地の学生との差を理解して準備をすれば、満足のいく進学ができるはずです。今回は、ビザで滞在する学生の大学進学についてお話しします。

非永住の学生は入学審査で有利

アメリカの大学では、入学審査の際に受験生を数多くのカテゴリーに分けて、その枠ごとに学生を選びます。例えば、海外からの留学生は現地の学生とは異なるカテゴリーで審査が進みます。多様性を重視するアメリカの大学は、留学生を積極的に受け入れるので、一般的に留学生は現地の学生よりも入学審査で有利になります。
 
多くの大学で、非永住者は、アメリカ内の高校を卒業しても外国人留学生に準ずる枠で入学審査が行われます。非永住の学生は、外国人留学生と同様に大学卒業後に母国に帰る可能性があるため、大学側は卒業生のつながりを海外に広げる絶好の機会と考え、非永住の学生に対して有利な審査を行います。
 
日本から来て日が浅い学生は、英語力不足により、高校の成績やSATなどの進学適正テストの点数が低くなる場合もありますが、その点についても入学審査で考慮されます。学力と英語力は分けて評価されるので、日本の学校の成績も学力の評価として利用されます

非永住者も対象になるメリット・ベースの奨学金

非永住の学生が入学手続きで有利になるのは、合否の判定だけではありません。学生の評価は奨学金にも関わり、学費の面でも優遇されます。大学の奨学金には、学生の経済的な必要性に応じて給付される「ニーズ・ベース」と、学生の能力に基づく「メリット・ベース」に大別されます。後者は、国籍やビザの種類が問われず、非永住の学生でも獲得の機会があります。
 
メリット奨学金の金額は、大学がその学生をどれくらい欲しているかで決定されます。額は、1千ドル程度から学費全額免除までさまざま。家庭の経済的需要の有無にかかわらず給付されます。外国人学生を増やしたい大学では、非永住学生の評価は自動的に高まります。その評価が合格発表時に提示されるメリット奨学金の金額に反映されるのです。
 
非永住の学生が大学を選ぶ際に考慮すべき点は、メリット奨学金獲得の見込みがあるかどうかです。ニーズ・ベースの奨学金の対象は主にアメリカ市民および永住者であり、それ以外の学生への適用は限定的なので、学費を抑えるためにメリット奨学金の獲得が重要です。 
アメリカの大学の多くは、メリット奨学金の制度を有し、評価の高い学生には積極的に給付しますが、中にはニーズ・ベースの奨学金のみという大学もあります。州立大学にもメリット奨学金の制度はあるものの、私立大学と比べて極少額です。従って、非永住の学生には、メリット奨学金制度の充実している私立大学をお薦めします。
 
非永住者にとって、州立大学に進学する価値は低いかもしれません。低額なメリット奨学金に加えて、入学審査においても、州立大学では州内の高校を卒業する非永住の学生が現地の学生と同等に評価される場合があるからです。州立大学よりも高い質の教育が受けられる私立大学に、州立大学と同等またはそれ以下の学費で進学することは、非永住の学生にも大いに可能です。
 
非永住の学生は、州内の州立大学に進学しても無期限で州内学生の学費を維持できるわけではありません。21歳になると家族のビザから外れて学生ビザに切り替わるので、その時点で州外学生となります。州立大学の州外学生の学費は非常に高いので、メリット奨学金を獲得し、私立大学に進学した方が結果的に学費を抑えられる場合も多いのです。
 
州立大学の1年間の学費例

UCLA ワシントン大学(シアトル) ミシガン大学
州内学生 州外学生 州内学生 州外学生 州内学生 州外学生
授業料 $12,862 $35,740 $12,397 $31,971 $13,486 $41,906
寮費・食費 $14,571 $14,571 $10,752 $10,752 $10,246 $10,246
教材費 $1,599 $1,599 $1,206 $1,206 $1,048 $1,048
その他の費用 $4,161 $4,161 $5,427 $5,427 $2,204 $2,204
学費総額 $33,193 $56,071 $29,782 $49,356 $26,984 $55,404

 

(2014年07月16日号掲載)

アスリートの大学進学

スポーツに積極的に取り組んでいる高校生の中には、大学でもスポーツを続けることを希望している学生が数多くいます。アメリカは世界で最も大学スポーツが盛んな地域であり、アスリートとして活躍することを目指す学生を経済的に支援する、世界でも珍しい「スポーツ奨学金」制度があります。そのために全米はもとより世界中から学生が集まってきます。今回は、アスリートの大学進学についてお話しします。

アスリートは入試でも経済面でも有利

米国内の大学で競技を行う学生の多くは、スポーツ推薦枠を狙います。なぜならアスリートとして進学を希望する場合、一般の学生よりも有利な点が2点あるからです。
 
アスリートの出願手続きは、一般の学生とは異なる基準で進められ、通常かなり優遇されます。ほとんどの4年制大学はスポーツチームを有し、大学教育の一環としてスポーツに取り組んでいます。大学は学生が学業とスポーツを両立してきたことを評価します。将来大学のチームに貢献する見込みがあれば大学の利益にもつながると考えるからです。もし仮に、学力だけでは難しいと思われる大学でも、スポーツ推薦を通して合格できる可能性は大いにあるのです。
 
アスリート推薦枠のもう一つの利点は奨学金の給付です。大学対抗スポーツに参加するチームを管理する最大の組織であるNCAA(全米大学体育協会)には、1千校以上の主要な大学が所属しています。NCAAは、ⅠからⅢのディビジョンに分かれ、一般的には大規模大学が競技レベルが最高のディビジョンⅠ、小規模大学はディビジョンⅡやⅢに分けられています。このディビジョンⅠとⅡの大学には、スポーツ奨学金制度があり、学生アスリートを経済面で支援します。ディビジョンⅢの大学にスポーツ奨学金はありませんが、独自の方法でアスリートを入試と学費の両面で優遇します。
 
スポーツ推薦を目指すならば、まず大学チームのコーチから奨学金の候補者に選抜される必要があります。選抜されたのち、大学の入学審査を受け、通過すると進学が認められます。つまり、大学のコーチによる選抜をクリアすることが、出願への第一歩となります。 
しかし、大学のコーチから選ばれるためには、自ら売り込まなければなりません。何もしなくてもコーチから声がかかるのは、ごく一部のトップアスリートだけ。大半の学生は自らコーチに連絡をとります。自分の評価がスポーツ奨学金の額に反映されるわけですから、文字通り「自分を高く売る」戦略を立てて実行することが重要です。
 
各チームが学生に授与できる奨学金の合計上限額は、競技の種類やチームが所属するディビジョンにより、NCAAで細かく決められています。例えば、ディビジョンIの女子サッカーチームには、12人分までの奨学金が授与できます。この場合の1人分とは、授業料、および寮費、食費などを含む1年間の学費の総額です。
 
ポートランド大学を例に挙げると、1人分の学費は約5万3千ドル、これに12を掛けた額が提供できる奨学金の総額です。この金額をチームに所属する約20名の学生に分配することになりますが、均等に分配されるわけではなく、各選手のチームにおける重要度により受給額が異なります。NCAAが扱う競技の多くは、決められた人数分の奨学金を所属選手に分配する方法を採ります。
 
対して、奨学金の数と授与学生の数が同数となる競技はディビジョンIの一部の競技に適用され、奨学金を獲得する学生全員が学費全額免除となります。

学生アスリートとして活躍するために

授与できる学生数が限られているため学生にとっては奨学金獲得は狭き門ですが、大変魅力的な制度です。よって、他の選手との差別化が大切となります。選手としての能力はもちろん、学力や人間性も重要な評価ポイントです。いくら優秀な選手でも、成績や素行に問題があれば受け入れるわけにはいきません。学習面や統率力なども含め、自分の価値をしっかり大学に伝えることが、他の選手との差別化につながるのです。
 
また、自分に合うチームを見極めることも重要なポイントです。競技のレベルはチームにより大きく異なるので、高いレベルでのプレーが目標ならディビジョンIやⅡ、学業を優先しながらスポーツに取り組みたい学生はⅢというように、自分に合った大学を探しましょう。
 
(2014年06月16日号掲載)

2013~14年度を振り返って

多くの受験生にとって、5月1日は進学準備が終了する大切な日です。出願した大学の結果は3月末にほぼ出そろい、合格した大学の中から進学する大学を決めてデポジットを収め、大学の籍を確保します。その締め切りが5月1日です。
 
5月は進学指導を行うコンサルタントにとって、学生の進学先が決まりほっとする時期であるとともに、1年間のアドミッション・サイクルを振り返る時期でもあります。大学進学を取り巻く環境は常に変化し続けているので、1年を振り返り今後の傾向を予測することはとても重要なのです。

共通願書リニューアルとウエイトリストの活用

2013~14年度もさまざまな変化がありましたが、まずは、全米で最も広く利用されている大学出願システム「共通願書(CommonApplication)」が新しくなったことが挙げられます。エッセイのテーマが刷新され、文字数の制限やエッセイの提出方法など、前年までとは大きく様変わりしました。今回の変更により今後数年間、大きな変更は無いと考えられます。
 
共通願書を採用する大学の大幅増も重要な点です。13・14年度は全米約500校で導入され、その中には70校以上の主要な州立大学が含まれていました。共通願書を採用すると受験者数の増加が見込めるため、年々採用する大学が増え、来年度はさらに採用する大学が増えると思われます。「進学準備は共通願書から」という考え方が一般的になるでしょう。 
ウエイトリストを積極的に活用する大学は2年ほど前から増え始めましたが、今年度はほぼ全ての大学に広まったようです。ウエイトリスト(以下リスト)とは、欠員補充用の「補欠学生リスト」。大学は入学率を考慮して定員よりも多く合格通知を送りますが、合格発表後も定員に達するまでリストから学生を繰り上げ合格させます。
 
最近は、ボーダーライン上の学生をかなり多くリストに掲載し、その後の学生の反応を見ながら、繰り上げ合格する学生を選んでいくという方法が広く利用されています。リストに載った学生にはその旨の通知が届き、手続きを継続するかどうかの意思確認をします。意思表示をしなかった学生は自動的にリストから削除されます。
 
リストから繰り上げる学生を選ぶ際に大学が重視する基準の1つとして、「入学の意思」が挙げられます。大学は、入学してくれる学生に合格通知を出したいのです。そのため、合格者の絞り込みを行う際、その大学に対する興味を強く示した学生を優先して繰り上げます。入学してくれそうな学生を優先して合格させることは、大学の入学率(合格者数に対する入学者数の割合)を高めるのに大いに役立ちます。
 
大学にとって入学率は極めて重要な指標です。入学率の高い大学はそれだけ人気が高いと考えられ、順位に響くからです。リスト積極活用の傾向もしばらくは続くと思われますが、このシステムが受験生に広まると効果は薄れるため、長期的に続く手法とは考えにくいです。

新SATの発表と学生間の学費格差の拡大

受験者数でACTに抜かれ、入試としての価値を失いつつあるSATが、16年1月から新テストに生まれ変わることがCollegeboardより発表されました。14年4月にはサンプル問題も発表され、より高校の教育課程に沿った内容になることが明確になりました。
 
現時点ではまだ全体像が見えず、正確な判断は難しいですが、SATの予備校に通って解法テクニックを身に付けたり難解な語彙を暗記したりといった、いわゆるSAT対策の必要性は少なくなるでしょう。
 
高校できちんと学習することが結果的にテスト対策になることは、受験生にとって喜ばしいことです。今後はSATやACT以外にも入試の選択肢が増えますが、「学力評価は高校の成績から」という基本的な考え方は変わらないでしょう。
 
大学の学費はインフレ率を大きく上回る割合で上昇中です。年間の学費が6万ドルを超える大学も珍しくなくなり、学生にとって奨学金などのファイナンシャルエイド(FA)をどれくらい獲得できるかが死活問題となっています。大学側は、限られたFAの予算を効果的に活用するために、受験生の評価に応じて奨学金の額を決めるので、学生により奨学金の額に大差があります。
 
学生間の学費格差は年々拡大する傾向にあり、受験生は自分の希望校を受けるだけでなく、自分を高評価してくれそうな大学を見極めることもますます重要になるでしょう。
 
(2014年05月16日号掲載)

大学進学プランB ~満足のいく結果が得られなかった場合のオプション~

この春卒業を迎える高校生の多くは、3月末に大学の合否が出そろい、5月1日までに進学先を決めます。この時点で多くの合格通知を受け取っているのが理想ですが、良い結果が得られないこともあるでしょう。そんな時に選べる選択肢について考えてみましょう。
 
まず最初に取り組むべきことは、失敗した原因をはっきりさせることです。高校の成績が良くなかったこと、SATやACTのスコアが良くなかったことなどが原因として挙げられるかもしれません。しかし、多くの場合、それが本当の敗因ではありません。自分に合う大学、自分を評価してくれる大学をしっかり選んで受験することができなかったことが原因です。高校の成績やテストのスコアは願書を提出する前から分かっているのですから、それが理由で合格できなかったのなら、そもそも大学の選び方に問題があったことになります。
 
大学を選ぶ際に、知名度だけで選んでいませんでしたか?州立大学だけでなく、私立大学にも応募しましたか?州内だけでなく、他州の大学は?自分の大学選びを振り返って問題点を明確にしましょう。そうすれば、対応策もおのずと見えてくるはずです。

4月以降でも出願可能諦めるのはまだ早い

満足のいく結果が出なかったからといって諦めるのは、3月の時点ではまだ早過ぎます。4月以降でも出願できる大学は、まだ多くあるので、全米の大学をくまなく探してみてください。その中には、自分に合う大学があるかもしれません。
 
カナダの大学も選択肢に加えてみるのはいかがでしょうか。カナダの大学はアメリカの大学よりも入学手続きの時期が遅いので、今からでも十分間に合います。カナダの大学ではエッセイや推薦状の提出が不要なので、願書を仕上げるのにさほど時間はかかりませんが、アメリカの大学とは教育制度が異なるので、学習目的に合うか見極める必要があります。
 
日本でのキャリアも視野に入れるなら、日本の大学も候補になり得ます。近年は海外で学ぶ学生を積極的に受け入れる大学が増えているので、自分の希望に合う大学が見つかれば、検討する価値はあるでしょう。
今年の秋入学には間に合わなくても、来年の春入学(1月)ならまだ十分時間はあります。学生を通年で受け入れている大学も少なからずあり、もし自分が目指す大学で春入学が可能なら、挑戦してみてください。
 
1年間のギャップイヤーを取り、来年の秋入学を目指すという方法もあります。自分がどうしても進学したい大学と現時点での自分の能力に差がある場合、ギャップイヤーを利用して自分の価値を高められます。大学でアイスホッケーを続けたい学生が大学チームに入れる程度まで技術や体力を高めるためギャップイヤーを使い、ジュニアチームでプレーすることなどが一例です。

選択の幅が縮まる可能性転入は最後の手段

ギャップイヤー・プログラムなどに参加して心身を鍛え、人間として大きく成長することができれば、1年後のアドミッションでは良い結果につながるかもしれません。ただしギャップイヤーは、いわゆる日本の「浪人」とは異なります。テストの点数で入学が決まる日本の受験制度とは異なり、アメリカのアドミッションでは単に「浪人」しても競争力を高めることはできません。仮に「浪人」してテストの点数が上がっても、それは学力が伸びたわけではなくテストの受け方が上手になっただけなので、評価は期待できません。
 
コミュニティーカレッジから転入(トランスファー)を目指す学生も多いですが、実はその考え方は大変危険です。安易にコミュニティーカレッジに進学すると、その後の選択肢を狭めてしまう可能性があるからです。なぜなら、転入生の受け入れは、大学にとって欠員補充だからです。質の高い大学は欠員が少なく、結果的に転入で受け入れる学生の枠も小さくなります。また、メリットスカラーシップなどの奨学金の機会も、一般的に転入生には不利です。
 
入学後、1、2年で退学する学生が多い州立大学では、その分転入で受け入れられる人数も多いですが、カリフォルニア州立大学のように転入で受ける学生が急増している大学では難しいかもしれません。カリフォルニア州立大学は転入できる時期がかなり遅く設定されているため、ここで失敗すると大変なことになります。従って、転入は最後の手段と考えて、まずは他の選択肢を考えることをお勧めします。

(2014年04月16日号掲載)

アメリカの大学受験でプラスとなる課外活動

アメリカの大学を受験する際、成績以外に課外活動への参加が評価されることはよく知られていますが、具体的にどのように評価されるのかを正しく理解している人は少ないようです。今回は、課外活動と進学準備の関係について説明していきます。

積極的な課外活動が人間としての成長を促す

アメリカの大学の入学審査では、将来伸びる可能性のある学生が高く評価されます。将来性を見極めるために、アドミッションでは学力評価に加え、人物評価も重視します。その人物評価の一環として、クラス以外での取り組み、つまり課外活動が評価の対象となるのです。
 
アメリカの高校生は日々、多種多様な活動に励んでいます。スポーツや芸術活動に力を入れる生徒もいれば、ボランティアやコミュニティー活動に取り組む生徒もいます。自分の好きなこと、得意なことに力を注ぐことは、日々の生活に潤いを与えるだけでなく、心身の鍛錬と人格の形成、また社会活動に必要な自律や協調性の習得にも寄与します。
 
ただし、ここでしっかり認識すべき点は、大学進学を有利にすることを目的に課外活動にいそしむのでは意味がないということです。なぜ課外活動を積極的に行うべきかといえば、それが自分自身を高め、人間としての成長を促すからです。
 
「ボランティアは年間何時間以上すれば入学審査で評価されますか?」とか、「ボーイスカウトは何年以上続ければ進学に有利になりますか?」などの質問を受けることがよくありますが、そもそも大学は課外活動自体を評価するわけではありません。生徒が課外活動で習得したことが、大学に価値をもたらすと判断されたときに初めて評価の対象となるのです。ですから、さまざまな活動を通じて成長することが、結果的に大学進学を有利に進められると考えるべきです。

主題となるべきは大学に益を感じさせるかどうか

では、大学にとっての価値とは何でしょうか。さまざまな競技で活躍するアスリートや、音楽や美術で卓越した才能を持つアーティストは、その活動自体が大学に大きな利益をもたらすのは言うまでもありませんが、大学にとってのメリットはそれだけではありません。
 
例えば、福祉施設で年間100時間ボランティアをしたらどうでしょう。大学は福祉の仕事をさせるために学生を入学させるのではありません。ただ年間100時間の奉仕をしました、と言うだけでは、福祉専門の学校でない限り、大学からの評価は期待できません。
 
しかし、ボランティア活動に積極的に取り組んだ結果、規律や時間管理能力、リーダーシップなど、幅広い能力が自然と身に付き、ボランティアの経験を通じて人間として大きく成長したなら、大学進学後の学習やキャンパスでの活動に大いに貢献できることでしょう。その点をきちんと示すことができれば、入学審査で評価されます。
 
文化活動やスポーツ、ボランティアなどは、数多く取り組んだ方が大学に進学する際に高く評価されると考えている方もいますが、決してそうとは限りません。課外活動の数や時間数が重要なのではないことを忘れないでください。

自分を売り込む論文力で大学側の心をつかむ

では、具体的にどのようにアドミッションにアプローチすればよいのでしょうか。その一つが論文(エッセイ)です。各生徒がどのように日々の活動に取り組んできたのか、その活動を通じて何を学び、どう成長したのか、その経験が将来にどのような影響を及ぼすのかなど、アドミッション担当者は論文を通じて学生の人となりを読み取ろうとします。人物評価を重視するアメリカの大学入学で、学生の成長記録を書き表した論文の内容は至極重要なのです。
 
出願の時期が近付いてから、慌てて課外活動に奮闘する高校生を散見します。最近の傾向として、11年生が終わった夏に日本に一時帰国し、東北の被災地でボランティアをする生徒を数多く見受けます。活動自体は大変素晴らしく、ぜひ多くの生徒に取り組んでもらいたいことですが、アドミッションでの評価を期待してだとしたら、有名無実です。願書の見栄えを良くするためのその場しのぎは、評価されにくいでしょう。
 
日々の生活の中で長期的に取り組んできたことはおのずと結果として現れるものです。進学のための課外活動ではなく、自分自身を高めるための課外活動に積極的に取り組むことをお勧めします。
 
(2014年3月16日号掲載)

アドミッション・テストの現状と展望

アメリカの大学を受験する際にSATやACTなどのアドミッション・テストの点数を提出することが多いのは良く知られています。しかし、その目的や準備方法をきちんと理解している人は意外と少ないようです。今回は、アドミッション・テストについて解説します。

アドミッション・テストの有効性に対する疑問視

アメリカの大学が「将来伸びる学生を評価する」のはこれまでにも伝えてきました。各大学は将来伸びる学生を見極める手段として、アドミッション・テストの点数を利用します。現在全米の大学で採用されているアドミッション・テストはSATやACTと呼ばれるものです。これらの受験を義務付ける大学は、受験したテストのどちらか一方のスコアを要求します。
 
アドミッション・テストの中でも歴史の長いSATは、学生の潜在能力を評価するのに適しているとして長年利用されてきました。ところが近年、その価値を疑問視され、2000年頃からはその有効性についての研究が盛んになり、否定的な調査結果も発表されました。
 
これを受けて、数年前からアドミッション・テストのスコアを重視し過ぎると、学生を誤って評価する恐れがあるという危機感から、スコア提出を義務から任意に変更する大学が急増しました。この動きは、小規模のリベラルアーツ・カレッジだけでなく、NYU(New York University)やWake Forest Universityのようなトップレベルの総合大学でも見られます。また、テストスコアの提出を義務付けている大学でも、審査においてスコアを重視しないようにするなど、学生の評価方法が大きく変わり始めています。
 
アドミッション・テストの役割も見直されています。学生の将来性はエッセイ等による人物評価で見極め、テストでは小中高の教育過程の中で学力を付けてきたかどうかを評価すべきという考えが主流です。これに伴い、近年はSATよりも高校のカリキュラムに沿ったACTの人気が高まり、受験者数も増えています。

新しい評価基準となる新テストがもうすぐ完成

これらの変化を受け、現在新しいアドミッション・テストの開発が連邦政府(教育省)の支援のもとで進められています。それにより、PARCC(Partnership for Assessment of Readiness for College and Careers)とSmarter Balancedという2つのテストがまもなく完成予定です。どちらも、高校の教育課程に沿った内容で、学力を正確に評価することを目的に開発されています。近い将来、SATやACTの代わりにこれらが使用される可能性は高いでしょう。
 
SATやACTも手をこまねいているわけではありません。最も問題視されているSATは、15年にテスト内容を改良し、生まれ変わる予定です。新しいSATは、より高校の教育過程に沿った内容になるはずです。ACTはSATほど切羽詰まった状況ではありませんが、15年からテストをコンピューター化するなど、競争力を高めるための変更が予定されています。

これからの受験生が準備すべきことは?

では、これから大学を受験する学生は、どのような準備をすれば良いのでしょうか。最も大切なことは、日々の学習にしっかりと取り組むことです。アドミッション・テストが高校のカリキュラムに沿った内容に変わっていくわけですから、高校できちんと学習をしていれば、結果はおのずと付いてくるはずなのです。特に重要なのは、全ての学習の基礎となる英語と数学の力を付けることです。読む力、書く力、考える力をしっかり養うことが、最善の進学準備と言えるでしょう。
 
一方で、アドミッション・テスト対策に振り舞わされてはいけません。これからのテストは、小手先のテスト対策は通用しなくなりますし、周囲に影響されてSATの準備クラスに通ったとしても、その努力が全て無駄になる可能性もあります。アドミッション・テストがどのように変化しようとも、それに対応できるような日々の学習の積み重ねが大切なのです。
 
(2014年2月16日号掲載)

大学進学準備の年間計画

新年を迎えた11年生のこれからの1年間は、人生で最も重要な1年と言えるかもしれません。大学の出願締切の直前になって慌てなくて済むように、計画的な1年にしましょう。今回は、進学準備を円滑に進めるための年間計画についてお話しします。

1~2月:進路を考える

アメリカの大学は、進学後も専攻を変えられるのが大きな魅力です。それでも今から将来についてよく考えておくことは大切です。自分の夢や目標は何か、それを実現するために、どのような大学生活を送るべきかを考えることは、大学を選ぶ上でも大いに役立ちます。

2~3月:キャンパス訪問

大学進学準備の第1ステップは、大学のキャンパス訪問。実際にキャンパスに足を運び、施設を見学したり、学生と話すことで、大学への理解が深まります。訪問する大学選びは、難しく考える必要はありません。休日を利用して、州立、私立、規模の異なる大学など、さまざまな種類の大学を訪問すると、それぞれの大学の特徴や違いが理解できます。

3~4月:大学選び

大学の種類や特徴を理解したら、候補となる大学をリストアップしましょう。州立大学の学費高騰と質の低下が深刻化する中で、満足のいく進学を実現するためには、私立大学へのアプリケーションが鍵です。SAT等でお馴染みのカレッジボードのウェブサイト(www.collegeboard.org)には、さまざまな条件から大学を検索できるサービスがあります。十分にリサーチして、自分に合う大学を見つけましょう。

4~6月:テスト対策

大学のアドミッションでは、SATやACT、科目別テストSAT Subjectのテストスコアの堤出が必要となる場合が多いので、この時期に受けましょう。また、SATよりもACTの方が点数を採りやすい学生もいますので、どちらも一度は受けてみると良いでしょう。
 
ただし、アドミッションでは、SATやACTのスコアよりも高校の成績の方が遥かに重要です。進学準備が日々の学習に悪影響を及ぼすようでは本末転倒ですから、期末テスト対策もしっかりとしてください。

5~6月:推薦状の準備

私立大学受験の際には、1~2通の推薦状が必要です。11年生が終わる前に、推薦状を書いてもらえる先生を探しましょう。実際に書いてもらうのは9月以降なので、現時点では書いてもらうという確約を取り付けるだけで十分です。

6~8月:エッセイの準備

大学のアプリケーションを期日までに仕上げるには、夏休み中の準備が鍵となります。アプリケーションでどう自分の強みを伝えるかを考え、戦略を練りましょう。
 
戦略が決まったら、コモン・アプリケーション(www.commonapp.org)のパーソナル・エッセイの準備を始めましょう。これは、与えられた5つのテーマから1つを選んで書きます。夏休みが終わるまでに、パーソナル・エッセイを仕上げることを目標に取り組んでください。

8~9月:受験校の決定

アドミッションの締切は、一般締切(Regular Deadlines)と早期締切(Early Deadlines)の2種類です。早期締切は11月初旬が多いので、9月中に志望校を確定し、高校のカウンセラーに報告する必要があります。地域やランキングで絞らず、本当に自分に合う大学選びをしてください。私立大学だけで10校は選ぶと良いでしょう。

9~10月:早期締切の受験

早期締切の中でも、Early Action(EA)という制度で出願できる大学の受験には、なるべくこの制度を利用しましょう。早期締切で出願すれば、結果も早く分かります。コモン・アプリケーションで出願できる大学が増えているものの、各大学ごとに個別のフォームを堤出する場合もあるので、余裕を持って準備を進めましょう。

11~12月:一般締切の受験

早期締切の後は一般締切の準備です。州立大学の中には私立大学の一般締切よりも早く締切が設定されている大学も数多くあります。また、同系列の州立大学でも、締切が異なる場合もありますので注意してください。私立大学の一般締切は年明け早々に設定されている場合が多いですが、年内に全てのアプリケーションが済むように準備を進めましょう。
 
(2014年1月16日号掲載)

グローバル社会を支える日本の子どもたち

近年、日本の若者の内向き姿勢が顕著になっているとよく耳にします。これを裏付ける調査結果を紹介しましょう。ここ10年で日本からアメリカに来た留学生の数は半数以下に減ったのですが、同期間に韓国やインドからの留学生が5割増え、中国からは3倍以上に増えました。これらを比較すると、日本はグローバル化が進むアジアの潮流に逆行しているように感じられます。

深刻さが増す・グローバル人材不足

少子高齢化が進み、国内市場が飽和する中、日本企業が生き残るにはグローバル化が不可欠です。しかし、日本の産業界は、グローバル化を支える人材が育っていないことに危機感を持っています。日本の大学は、教育のグローバル化を掲げた取り組みを進めていますが、状況は改善されていません。
 
このような深刻な日本の状況を救ってくれるのは、海外で育つ子どもたちかもしれません。アメリカで育つ日本の子どもたちは、日米2つの言語を操り、2つの文化に接しています。それに加え、第3の言語を学ぶ生徒も少なくありません。子どもたちは無意識のうちに国際感覚を身に付け、国際社会へ目を向けています。将来日本で活躍し、日本の社会や経済を支える人材がここから生まれてくることを期待できます。日本の若者の内向きな姿勢は、海外で学ぶ日本の子どもたちにチャンスをもたらしているのです。

高校生と親に広がる日本の大学への危機感

ところが、ここ1、2年で日本に新しい動きが見られるようになりました。日本の高校を卒業した後、日本の大学でなく、アメリカの大学(学部)への留学を目指す学生の増加が顕著になっているのです。少し前までは、留学といっても、語学留学や海外経験をする程度の学生も少なくない時代もありました。しかし最近は、日本の有名大学に進学できるレベルの高校生がアメリカの名門大学を目指す事例が増えています。
 
これまで、日本の有名大学への進学を希望する優秀な学生が多かった進学校では、海外留学を積極的に支援してきませんでした。では、何が彼らの意識を変化させたのでしょうか。私は、学生や保護者の中に広がる「危機感」だと感じています。
 
それは、日本の有名大学の卒業証書だけで将来が約束された時代ではなくなったこと、日本の大学を卒業しても、グローバル時代の中で競争力が身に付かないのではないかという不安に起因していると考えます。「先行き不透明な時代だからこそ、社会や企業が変化しても生き残れる力をつけるべき」と考え、海外に目を向けるのは、自然な流れかもしれません。

アメリカの大学で学ぶ価値とは

真の国際人を目指す学生も増えています。そのような学生にとって、世界中から76万人の留学生が集まるアメリカの大学は魅力的なのです。グローバル社会で活躍できる人材を目指し、積極的に海外にチャレンジする若者が増えていることは大変喜ばしく、この流れはこれから大きく加速するのではないかと感じています。
 
アメリカの大学は、日本とは比べものにならないほど専攻の種類が多く、また進学後も自由に専攻が変えられるなど、学生本位の柔軟なプログラムが提供されています。しかし、日本の高校からアメリカの大学に進学する際のハードルは非常に高いのが現状です。
 
その点、アメリカで育つ子どもたちは、言葉や文化の壁をあまり意識することなく、進学準備が進められるわけですから、恵まれた環境にあると言えます。この環境を最大限に活かして、アメリカの大学にチャレンジして、ぜひ将来の日本を支える人材を目指してください。
 
(2013年12月16日号掲載)

アメリカの大学ランキングはこう作られる!

アメリカの4年制大学は全米で約2500校、その中から実際に受験する大学を選ぶのは大変な作業です。そこで、効率良く大学を絞り込む方法として、大学ランキングが広く利用されています。特に保護者は子供に受けさせる大学を選ぶ上で知名度にこだわる傾向が強く、アメリカでは大学ランキングの影響力は極めて大きいと言われています。このアメリカの大学ランキングがどのようにして作られるのかをご紹介します。

参考:アメリカ大学ランキング 2019(出典:『America’s Top Colleges』 Forbes)

ランキング 大学名 場所 種別
1 Harvard University
ハーバード大学
Cambridge, MA
マサチューセッツ州
私立
2 Stanford University
スタンフォード大学
Stanford, CA
カリフォルニア州
私立
3 Yale University
イェール大学
New Haven, CT
コネチカット州
私立
4 Massachusetts Institute of Technology
マサチューセッツ工科大学
Cambridge, MA
マサチューセッツ州
私立
5 Princeton University
プリンストン大学
Princeton, NJ
ニュージャージー州
私立
6 University of Pennsylvania
ペンシルベニア大学
Philadelphia, PA
ペンシルベニア州
私立
7 Brown University
ブラウン大学
Providence, RI
ロードアイランド州
私立
8 California Institute of Technology
カリフォルニア工科大学
Pasadena, CA
カリフォルニア州
私立
9 Duke University
デューク大学
Durham, NC
ノースカロライナ州
私立
10 Dartmouth College
ダートマス大学
Hanover, NH
ニューハンプシャー州
私立
11 Cornell University
コーネル大学
Ithaca, NY
ニューヨーク州
私立
12 Pomona College
ポモナ・カレッジ
Claremont, CA
カリフォルニア州
私立
13 University of California, Berkeley
カリフォルニア大学 バークレー校
Berkeley, CA
カリフォルニア州
公立
14 Columbia University
コロンビア大学
New York, NY
ニューヨーク州
私立
15 Georgetown University
ジョージタウン大学
Georgetown Washington, D.C.
ワシントン D.C.
私立
16 University of Chicago
シカゴ大学
Chicago, IL
イリノイ州
私立
17 Northwestern University
ノースウェスタン大学
Chicago, IL
イリノイ州
私立
18 University of Notre Dame
ノートルダム大学
Notre Dame, IN
インディアナ州
私立
19 Williams College
ウィリアムズ大学
Williamstown, MA
マサチューセッツ州
私立
20 University of Michigan, Ann Arbor
ミシガン大学 アナーバー校
Ann Arbor, MI
ミシガン州
公立
21 Rice University
ライス大学
Houston, TX
テキサス州
私立
22 Johns Hopkins University
ジョンズ・ホプキンズ大学
Baltimore, MD
メリーランド州
私立
23 Harvey Mudd College
ハーベイマッド大学
Claremont, CA
カリフォルニア州
私立
24 United States Naval Academy
海軍兵学校
Annapolis, MD
メリーランド州
公立
25 Swarthmore College
スワースモア大学
Swarthmore, PA
ペンシルベニア州
私立

 

アメリカの大学にとって、学生は巨額の授業料収入をもたらす顧客であり、なかでも優秀な学生は大学に対して長期的な付加価値を生み出す貴重な存在です。従って、学生集めは大学にとって重要なマーケティング活動であり、なかでもランキング対策は各大学にとって最優先課題です。ランキングが上がれば知名度が上がり、優秀な学生を獲得しやすくなるので、大学は少しでもランキングを上げようと策を練っています。

ランキング順位を上げるための大学側の戦略

では、大学の順位はどのように決められるのでしょうか。アメリカの大学ランキングは、大学から提出されたデータや独自に収集したデータに重み付けをして数値化したものから作られます。
 
例えば、『US News&World』のアメリカ大学ランキングは、学生の満足度や卒業率、ファイナンシャル・エイドなど、数多くの指標を基に作られています。大学はそれぞれの指標ごとに評価を高める努力をしていますが、この中で大学が比較的操作しやすいのが、「合格率」「入学率」「テストスコア」の3つです。この3つの指標で評価を高めるために、アメリカの各大学は戦略を立てて実行しています。

戦略1・「合格率」を下げる

合格率は、受験者数に対する合格者数の割合です。低い合格率は難関校の証であり、ランキングに影響します。合格率を下げるのに手っ取り早い方法は、受験者数を増やすことです。そこで、アメリカの大学はさまざまな手法で学生を呼び込みます。例えば、特別に選ばれた学生のみに連絡をしたかのように装った手紙やメールを送り、学生の興味を引く方法などはよく行われています。大学にとっては合格の見込みがまったくない学生でも、受験してもらえれば母数を増やすのに役立ちます。そのため、どの大学のアドミッションも、「受験者数を増やす」ことを最重要課題として取り組んでいます。
 
アプリケーションのハードルを下げるのも効果的な作戦です。他校と共通で使用できるコモン・アプリケーションの採用や、「受験料今だけ無料キャンペーン」を実施し、受験しやすくする工夫をしています。
 
コモン・アプリケーションは、有名私立大学にアプライするためのシステムとして知られていますが、近年は他州からのアプリケーションを増やしたいアメリカの州立大学で採用される事例が増えており、今では国内で70校以上の有名州立大学に採用されています。また、コモン・アプリケーションよりも簡単に仕上げられる簡易アプリケーションを独自に用意している大学もあります。

戦略2・「入学率」を上げる

入学率(「歩留まり」と呼ばれる)は、合格通知を送った学生のうち、実際に進学した学生の割合です。入学率が高い大学は、「学生に人気のある大学」を意味するので、大学ランキングに影響します。従って、学生にとって魅力的な大学になれば入学率が上がるわけですが、一朝一夕にできることではありません。それよりも、自分の大学を本命視している学生に、優先的に合格通知を送る方が、入学率を高める上で即効性があります。そのための方法がウェイトリストの活用です。
 
ウェイトリストとは、欠員補充のための”補欠学生リスト”です。学生は複数の大学を受験するため、大学は定員よりも多くの学生に合格通知を送ります。合格者中、何人が入学するかを正確に予想することは難しいため、合格発表後も定員に達するまでウェイトリストから繰り上げ合格させます。
 
ウェイトリストを積極的に活用する大学が近年よく行っている入学率を上げる方法があります。まず、ボーダーライン上の学生を大量にウェイトリストに載せて、その学生に対しアドミッションを継続するかどうかの意思確認をします。そして、継続審査を希望した学生の中から繰り上げ合格者を選ぶことで、進学の意思のない学生が外しやすく、その結果入学率を高めることができます。
 
次に、「テストスコア」の評価を高める戦略についてご紹介します。
 
前述では、大学ランキングを上げるためのアメリカの各大学の取り組みとして、「合格率」を下げる、「入学率」を上げる、2つの戦略についてお話ししました。今回は、「テストスコア」の評価を高く見せる戦略をご紹介します。

戦略3・スコアを高く見せる

アメリカの大学ランキングには、実際に進学した学生のSATやACTの点数が影響します。それならば、テストスコアの高い学生を選んで合格させれば良いと思われるかもしれませんが、そう簡単ではありません。大学のアドミッションにおいて、テストスコアはあくまでも評価項目の一つに過ぎず、審査では、高校時代の成績やエッセイ等による人物評価がより重要視されます。つまりアメリカの大学は、テストスコアを重視した審査は行わないけれど、結果的に入学する学生のテストスコアは高いものであってほしいのです。
 
そのために編み出された手法の一つが、スーパースコアリングです。これは、過去に受けた複数のテストの点数の中から各教科の最高点を選び、その合計を自分のテストスコアとすることです。テストを複数回受けると、今回のテストでは読解の点数が良かったけど、数学は前回の方が良かった、ということはよくあります。このような場合に、スーパースコアリングをすることで、テストの合計点をより高く見せることができます。学生は、アプリケーションを魅力的に見せることができ、大学は、入学した学生のスコアを高く見せることができる、ありがたいシステムなのです。学生と大学の双方にメリットがあるため、スーパースコアリングを採用する大学はアメリカで急速に増えています。
 
とはいえ、スーパースコアリングで上げられる点数はさほど大きなものではなく、また全ての大学が採用すると優位性はなくなります。では、他にテストスコアを高く見せる方法はないのでしょうか。
 
最も簡単な方法は、テストスコアを水増しして発表をすることです。これは、真剣に大学選びをしている学生や保護者を欺く行為であり、許しがたいことですが、残念ながら実際に行われています。各大学から発表されているテストスコアは、あくまでも大学による自己申告です。ですから、その数字が真実かどうかを客観的に評価する方法はありません。昨年は、Claremont Mckenna CollegeやEmory Universityなどで内部告発等によりテストスコアの虚偽申告が明らかになりました。ですが、表に出るのは氷山の一角だと思われます。

そもそも、誰のためのアメリカ大学ランキングなのか

残念ながら、アメリカの大学ランキング作成者は、学生に役立つ情報を提供するためにランキングを作っているわけではありません。学生にとって価値のある大学は、その学生の学習スタイルやニーズに合う大学です。誰にでも合うオールマイティーな大学は存在しませんから、各大学がいろいろなテクニックを駆使したランキングが、受験生にとって無意味だということは、作成者自身がよく知っています。
 
では、『US News&World』や『Forbes』は、なぜ毎年ランキングを発表するのでしょうか。それは、大勢の学生や保護者がランキングを基に大学選びをしているなど、社会的な影響力が大きいからです。そして、その社会的影響力をマーケティングに利用し、順位の変動に一喜一憂している大学の存在がビジネスを作り上げています。
 
アメリカの大学ランキングは、大学から提出されたデータや独自に収集したデータに重み付けして数値化したものから作られます。しかし、毎年同じ方法でランキングを作るのでは、さほど大きな順位変動は生まれません。そこで、ランキング作成者は、データの重み付けを変更したり、評価の指標を変更して、話題性のあるドラマが生まれるように仕組みます。
 
なぜそんなことをするのかと言うと、ランキング作成者にとって最も大切なことは、毎年ランキングが変動してドラマが生まれることだからです。そして、それがその雑誌の売り上げにも影響するのです。

自分に合ったアメリカ大学ランキングを作る

受験生は、ランキング作成者やアドミッション担当者の思惑によって選ばれた大学ランキングに惑わされないようにしましょう。まずは、環境、学習スタイル、学びたいことなどを指標に大学を見比べ、自分にとって良い大学を探し出します。それを自分でランク付けしてランキングを作成すれば、より自分に合った大学を選ぶ手助けとなるでしょう。
 
(2013年10月16日,11月16日号掲載)

大学ランキングの裏側に潜む、アメリカの大学の意図

秋になると、大学への出願を控えた高校生は、アメリカの大学から次のようなプロモーションを受け取ることがあります。
「おめでとうございます。あなたは簡易アプリケーションで受験できる学生に選ばれました。通常のアプリケーションにあるエッセイを堤出する必要はなく、また今すぐ出願すれば、特別に受験料を無料にします。」
 
学生にしてみれば、「大学は優秀な学生に出願してもらうために学生を評価しており、自分はそれに選ばれた」と考え喜ぶものです。しかし、アメリカの大学がこれらの通知を出す本当の理由は、ほかにあります。今回は、この手紙の背景にある大学ランキングについてお話しします。

簡易アプリケーションは競争率アップのため?

名門私立大学でアドミッションに関わってきた専門家の話を前回ご紹介しましたが、その方がアメリカの大学ランキングについてこう話していました。
  
「大学ランキングは受験生にとって価値はありませんが、大学にとってはマーケティング戦略上、極めて重要です。ですから各校とも、ランキングを上げるためにさまざまなことに取り組んでいます。」
 
つまり、ランキングが上がれば知名度が上がり、優秀な学生を獲得しやすくなりますので、アメリカの大学はランキング向上のための努力をしているわけです。ランキングは、大学から堤出されたデータや独自に収集したデータに重み付けをして数値化したものから作られます。最も知られているのは『US News & World』のアメリカ大学ランキングですが、ここでは学生の満足度や卒業率など、7つの項目の評価を基に作られています。
  
この中で、アドミッションが特に注目しているのが難易度(Selectivity)です。ランキングへの影響が大きいことが理由のひとつですが、アドミッションが操作しやすいことも理由です。受験者数が増えたり合格者のGPAやSATの平均点が高くなれば、難易度が高まったと評価されます。
  
最初に述べた大学からのプロモーションは、実は難易度を上げるための手段なのです。受験者数が増えれば、合格率が下がり難易度が上がるため、大学はアプリケーションのハードルを下げてなるべく多くの学生が出願できるようにします。プロモーションでは、あたかも選ばれた学生のみに連絡をしたように書かれていますが、必ずしもそうとは限りません。その大学に入る学力がない学生でも、受験してくれれば母数を増やすのに役立ちますし、難関大学を目指す学生が受験してくれれば合格者の平均GPAやテストスコアを高めるのに役立ちます。結果、その大学の難易度向上に貢献してくれます。
  
こういった難易度の操作は一例であり、各大学ともランキングを高めるためにさまざまな工夫を凝らし、莫大な費用をつぎ込んでいるのです。以前、アメリカの大学は入学率(歩留まり)を高めるためにウェイトリストを積極活用しているという話をしましたが、この入学率を高めるのもランキングを操作するための手段のひとつなのです。
 
このように大学ランキングの裏側を知れば、ランキング自体が受験生に意味のないものであることは明白です。しかし、出願する大学を選ぶ際にランキングに左右される学生が非常に多いことも事実。大学側も、ランキングが学生に価値がないことを知りながら、他校との競争上やむを得ずランキングゲームを続けているのです。

自分だけのアメリカ大学ランキングを作る

では、受験生はどう対応をすべきなのでしょうか。まず取り組むことは、"自分の大学ランキングを作る"ことです。雑誌のアメリカ大学ランキングは、所詮他人が作ったもの。自分にとって大切なのは、アドミッション担当者の操作によって『US News & World』で選ばれた大学ではなく、自分自身で評価して選んだアメリカの大学です。自分にベストフィットの大学を探し、その中で自分だけのランキングを作りましょう。
  
もう一つ重要な取り組みは、簡易アプリケーションの誘いに乗らないことです。アドミッション・入学試験の目的は、自分をしっかり評価してもらうこと。そのためには、簡易アプリケーションではなく通常のアプリケーションを使い、エッセイをきちんと書いて評価してもらいましょう。そうすれば、単に母数を増やすだけのアプリケーションではなく、その大学にとって大切な受験生のアプリケーションとしてしっかり評価してもらえるはずです。なお、通常のアプリケーションを使っても、受験料無料等の他のプロモーションはそのまま適用されます。
  
(2012年10月16日号掲載)

“新”コモン・アプリケーション

アメリカの大学では、出願書類をオンラインで受け付けるのが一般的です。個々の大学が独自のアプリケーション・フォームを準備している場合もありますが、近年は複数の大学で利用できる共通の出願システムを採用する大学が増えています。中でも最も広く利用されているのが、「コモン・アプリケーション」です。今回は、今年からさらに進化したコモン・アプリケーションの仕組みや変更点についてお話しします。 
コモン・アプリケーションは、非営利団体によって運営されている、大学(学部)へ出願するためのシステムです。これにより、複数の大学に出願する受験生の負担が大幅に軽減され、受験しやすくなります。受験者数の増加が見込めるため、年々採用する大学が増えており、2013~14年度は全米約500校で導入されています。
 
コモン・アプリケーションはアイビー・リーグを始め有名私立大学に出願するためのシステムとして知られていました。しかし、現在では70校以上の州立大学でも採用されているほか、ヨーロッパの大学でも導入されています。

新コモン・アプリケーションの特徴

13年8月1日に新コモン・アプリケーションが公開されました(www.commonapp.org)。見た目も大きく変わりましたが、最も大きな変更点は、ライティング(論文)のセクションです。昨年までは、「ショートアンサー」、「パーソナル・エッセイ」、「アディショナル・インフォメーション」の3つに分かれていましたが、今年から「ショートアンサー」がなくなり、「パーソナル・エッセイ」と「アディショナル・インフォメーション」の2つのエッセイを準備することになりました。
 
ライティング・セクションの中核となる「パーソナル・エッセイ」では、そのトピックが刷新されました。与えられた5つのトピックから1つ選び、それについてエッセイを書きます。単語数の制限も、昨年までの500単語から650単語に変更されました。
 
また、「パーソナル・エッセイ」の提出方法も変わりました。昨年まではワード等で作成した文書ファイルをアップロードして提出していましたが、今年からウェブ上で直接入力するようになりました。アップロード方式では、多少単語数の制限を超えていても提出できましたが、今後は、単語数制限を超えたエッセイは一切提出できません。なお、利用できる文字の装飾は太字、斜体、下線の3種類です。
 
「アディショナル・インフォメーション」では、アプリケーションの中で伝えきれなかったことについて説明します。このエッセイの提出は任意です。提出方法は、基本的には昨年までと変わっていませんが、「パーソナル・エッセイ」と同様、アップロード方式からタイプ方式になり、単語数制限は650字以内に変更されました。

エッセイの基本は自分自身の振り返り

「パーソナル・エッセイ」のトピックが一新された背景には、エッセイによる人物評価を重視したいという大学側の思惑があります。新しいトピックは、学生に内省を促し、自分自身の価値を認識し表現させることを重視した内容となっています。
 
従って、エッセイを書く際にはしっかりと自己分析をして、他人と比べた時に自分の価値や強みは何か、よく考えることが大切です。そして、自分自身がこれまでどのように成長してきて、今後は何を目指して生きていくのか、具体的な経験を交えて伝えましょう。

「パーソナル・エッセイ」のトピック例
●トピック1
自分のアイデンティティーの核となるバックグラウンドや、それにまつわるストーリーを持っている学生は、その説明なしではエッセイを完成できないと信じています。あなたがそうであれば、そのストーリーを聞かせてください。
●トピック2
あなたが失敗した出来事や、その時期について詳しく聞かせてください。その経験はあなたにどのような影響を与え、あなたは何を学びましたか。
●トピック3
あなたが、ある信念や考え方に挑戦した時のことを思い出してください。何があなたにそうさせたのでしょうか。また、同じ挑戦をもう一度しますか?
●トピック4
あなたが心から満足できる場所や環境を教えてください。あなたはそこで何を行い(経験し)ますか。また、なぜそれがあなたにとって重要なのですか?
●トピック5
あなたが属している文化やコミュニティーや家族の中で、あなたを子供から大人に成長させた(公式または非公式の)成果や出来事について話してください。

 

(2013年9月16日号掲載)

ファイナンシャル・エイドの基礎

私は、進学セミナー開催の前に、参加者に聞きたい内容のアンケートをとります。そのなかで最も多い希望は、ファイナンシャル・エイドです。私立大学の質の高い教育を受けたくても、大学によっては年間6万ドルにもなる学費は大きな負担です。「アメリカの大学は高いから、日本で進学する」とか、「私立は高いから、州立を目指す」という声を聞きますが、州立大学より安い学費で私立大学に進学する学生も多くいます。
 
そこで、自分に合った教育をリーズナブルに受けるためには、ファイナンシャル・エイドの正しい知識と適切な戦略は不可欠となります。では、ファイナンシャル・エイドについてご説明します。

多彩なエイドの中で奨学金は返済不要

「ファイナンシャル・エイド」とは、学費負担を軽減するための金銭的支援プログラムの総称です。その種類はさまざまで、返済が必要な「学生ローン」や、キャンパス内で働くことで経済支援を受ける「ワークスタディー」などもファイナンシャル・エイドに含まれます。自分が払う学費を下げるためには、返済不要な支援を大学から得ることが重要で、これが「奨学金(スカラーシップ)」です。日本では、返済義務のある奨学金が多くありますが、アメリカでは奨学金はすべて返済不要です。
奨学金には、民間団体が授与するものも数多くありますが、ここでは金額的に大半を占める大学からの奨学金についてご紹介します。

「ニーズ」と「メリット」2つの奨学金の違いとは

大学の奨学金には、学生の経済的な必要性に応じて給付される「ニーズ・ベース」(グラントとも呼ばれる)と、学生の能力に基づいて給付される「メリット・ベース」に大別されます。
 
自分が「ニーズ・ベース」の対象になるかどうかを知るためには、まず自分にファイナンシャル・ニーズがあるかどうかを知る必要があります。学費がEFC(Expected Family Contribution:家庭が1年間に負担できる学費の上限額)を上回っている場合、学費とEFCの差額がファイナンシャル・ニーズとなります。
 
この様に、ファイナンシャル・ニーズは出願大学の学費と自分のEFCで決まりますが、各大学は、ウェブ上で学費が簡単に計算できるネットプライス・カリキュレーター(NPC)というサービスを提供しています。これを使えば、自分がニーズ・ベースの奨学金の対象になるかどうか、またファイナンシャル・ニーズのうち何割を大学が負担してくれるのかなど、大まかな情報が入手できます。ただし、NPCによる計算はあくまでも簡易的なものであり、実際に大学に出願する時の金額とは異なる場合が多々あります。
 
ファイナンシャル・ニーズの計算方法は必ずしも各家庭の実情に即したものとは言えないため、学費の全額負担は事実上不可能なのにファイナンシャル・ニーズが認められないケースは少なくありません。なお、ニーズ・ベースの奨学金の対象は主として米国市民、および永住者であり、非移民ビザの学生や外国人留学生にも適用される大学は限られています。
 
これに対して、「メリット・ベース」の奨学金は、学力やリーダーシップなど学生の能力への評価として給付される奨学金のことです。その金額は、大学がその学生をどれくらい欲しているかで決まります。額は、1千ドル程度からフルスカラーシップ(学費全額免除)までさまざまで、家庭の経済的ニーズの有無にかかわらず給付されます。また、国籍やビザの種類も問わないため、外国人学生にも大いに獲得のチャンスがあります。その上、非永住者はアメリカの高校に通っていても通常のアメリカ人学生とは異なるカテゴリーでアドミッションされるため、有利な条件が得られる場合が多くあります。実際、私が今年担当した12年生の中に永住権を持たない学生が数名いますが、いずれの学生も1万5千ドル以上のメリット奨学金のオファーを得ています。

大学選びこそ大切なポイント

ファイナンシャル・エイド獲得戦略は、一人ひとり異なりますが、最も大切なのは大学選びです。ニーズ・ベースの奨学金重視の大学もあれば、メリット・ベース重視の大学もあります。難関校には、ファイナンシャル・ニーズは100%カバーするけれども、メリット・スカラーシップはないという大学も数多く見受けられます。学費を抑えるためには、自分に有利な奨学金制度を持つ大学を見極めることがポイントとなります。

まず始めに、経済的な必要性に応じ給付される「ニーズ・ベース」のエイドをご説明します。
 
家庭の収入や資産が学生の学費を賄うのに十分でない場合にファイナンシャル・ニーズが生じます。具体的には、学費がEFC(Expected Family Contribution:家庭が1年間に負担できる学費の上限額)を上回っている場合、学費とEFCの差額がファイナンシャル・ニーズとなります。ファイナンシャル・ニーズの一部を大学が負担するサービスが、「ニーズ・ベース」の奨学金です。

ニーズ・ベースの対象かどうかを知る方法は?

EFC算出には、FAFSAという国のサービスと、CSS Profileというカレッジボードのサービスを利用する2通りの方法があります。FAFSAはすべての大学で利用されていますが、CSS Profileを併用する大学も増えているため、ニーズ・ベースの奨学金を大学に考慮してもらうためには、その両方に登録することが不可欠です。CSS Profileは、12年生の年の10月1日以降、FAFSAは同じく1月1日以降に登録できます。
 
自分はニーズ・ベースの対象かどうかを事前に知ることは、出願大学を決める上で重要です。大学は、ウェブ上で学費が計算できるネットプライス・カリキュレーター(NPC)というサービスを提供しており、これを利用すればFAFSAやCSS Profileの登録前に自分のEFCやファイナンシャル・ニーズの大体の情報が得られます。ニーズ・ベースの奨学金の額の決定方法ですが、ファイナンシャル・ニーズのどの程度大学が負担するのかは、大学で異なります。ここでは、質の高い教育と充実したファイナンシャル・エイドで人気の高いスワースモア大学(Swarthmore College)を例にご説明します。
 
ここの授業料は4万4718ドルです。これに寮費や食費、必要費用を合わせた年間の学費総額は、6万1270ドル。(表①)この大学にAさんが進学する際、学費総額とEFC(4790ドル/表②)の差額の5万6480ドルがファイナンシャル・ニーズです(表③)
表①スワースモア大学の年間学費

授業料 $44,718
寮費 $6,748
食費 $6,404
教科書・文具代 $1,210
交通費・雑費 $2,190
学費総額 $61,270

表②Aさんの状況

年収 $53,000
資産 $127,000
家族の人数 4
大学に進学する子供の人数 1
EFC $4,790

表③ファイナンシャル・エイド・パッケージ

Swarthmore College Scholarship $50,680
Federal Pel Grant $3,800
Work Study $2,000
Loan $0
合計 $56,480

Aさんがスワースモア大学に合格した時、合格通知と一緒に受け取るファイナンシャル・エイド・パッケージの例が表3です。この例では、ペル・グラントという連邦政府の奨学金3800ドルが認められ、学内で働くことで学費の足しにするWork Study(2千ドル程度)の収入も見込まれるため、残りのファイナンシャル・ニーズが5万680ドルとなりました。
 
スワースモア大学は、ファイナンシャルニーズを100%カバーする大学なので、Aさんはニーズ・ベースの奨学金として、大学から年間5万680ドルを給与されます。なお、この大学の例では、ローンが0ドルとなっていますが、ファイナンシャル・ニーズの全額がカバーされない大学では、カバーされなかった分がローンの金額となります。

すべてが奨学金でカバーされるわけではない

ファイナンシャル・ニーズのある学生は大学に大きな負担となるので、アドミッションで不利になるのではと考える方は多いと思います。しかし、そう気にする必要はありません。ファイナンシャル・ニーズを全額カバーする大学は全米で数十校程度。多くの大学では、ファイナンシャルエイドの一部をカバーするだけなので、大学はカバー率を予算に応じて調整します。またファイナンシャル・ニーズを100%カバーする大学の多くは、ニーズ・ブラインド(アドミッション時に、ファイナンシャル・ニーズは一切考慮しない)という方針をとっています。ただし、外国人学生はニーズ・ブラインドの対象外となる場合が多く、また合否のボーダーライン上の学生には影響する可能性があります。従って、ファイナンシャル・ニーズのある学生も、ニーズ・ベースの奨学金だけに頼るのではなく、メリット・スカラーシップもしっかり狙うことが大切です。

では次に、学生の評価に応じて給与される「メリット・スカラーシップ」をご説明します。
 
メリット・スカラーシップは国籍やビザの種類を問わず、また家庭の経済的ニーズの有無にかかわらず給与されるため、学生には最も価値の高い奨学金です。金額は学生に対する大学の評価で決まり、2千ドル程度からフルスカラーシップ(学費全額免除)までさまざまです。
 
大学がメリット・スカラーシップを提示するのは、欲しい学生に入学してもらうためです。従ってこのスカラーシップのオファーは、合格通知と一緒に提示されるのが一般的で、提示金額は一定の条件を満たせば4年間継続されます。
 
メリット・スカラーシップは成績優秀者の特権ではないので、「自分の成績では難しい」と悲観的になることはありません。さまざまな大学が多様な学生を求めていますから、自分の今までの取り組みを評価してくれる大学を探せば、きっと見つかるはずです。

 

メリット・スカラーシップ獲得のための4方策

では、メリット・スカラーシップの獲得方法を考えてみましょう。アドミッションで有利になるには他の受験生との差別化が重要で、これはスカラーシップ獲得も同様です。自分と他の学生との違いを明確にし、それを”価値”として大学に認めてもらうことが奨学金獲得につながります。具体的には、次の4つの方法が考えられます。

①日々の努力の積み重ね

自分の価値を高めるのに小手先のテクニックは通用しません。日々の学習にきちんと取り組み、学力と教養をしっかり身に付けましょう。また、大学が評価するのは成績だけではありません。課外活動に積極的に取り組み有意義な高校生活を送ることが、大学からの評価を高めることにつながります。

 
②自分の強みを伸ばす

満遍なく”そこそこ”頑張った学生よりも、何か1つでも光るものを持った学生の方が他者と差別化がしやすいため、評価につながります。リーダーシップに長けた学生がいれば、芸術的センスに優れた学生もいるなど、自分の強みを伸ばすことは、合格の可能性を高めると共に、奨学金の獲得に有利となります。

 
③多くの大学にアプライする

自分の強みを評価してくれる大学は必ずあるはずですが、どの大学が自分を評価するかを予測するのは困難です。そこで、なるべく多くの大学にアプライすることをおすすめします。もちろん、ただ闇雲に受けるのではなく、自分に合ったプログラムがあり、かつ自分の長所を評価してくれそうな大学をリストアップし、そこから狙いを定めて受けてください。

 
④強みはアプリケーションで

素晴らしいスキルや経験があっても、大学に伝わらなければ価値はありません。アプリケーションのエッセイ等を利用し、自分の強みをきちんと大学に伝えましょう。単に成果を自慢するのではなく、自分がどのように成長してきたのか、またそれを大学でどのように活かすのかを明確にしてください。

大学選びのポイントとスカラーシップの意義

ほとんどの大学は何らかの奨学金を用意していますが、中身は千差万別です。ニーズ・ベース重視の大学もあれば、メリット・ベース重視の大学もあります。限られた運営資金を効率的に使うという観点では、近年メリット・ベース重視の大学が増えていますが、アイビーリーグやクレアモント大学群のように、ファイナンシャル・ニーズはすべてカバーしても、メリット・スカラーシップは原則提供しない大学もあります。
 
メリット・スカラーシップを提示しなくても獲得できる学生にはあえて提示しないか、または微々たる金額を提示することとなります。例えば、州立大学では、州外の学生や海外からの留学生にはメリット・スカラーシップを出しても、州内の学生にはほとんど出さないケースが多いのも、その理由です。
 
メリット・スカラーシップを獲得することは経済的に楽になるメリットがありますが、意義はそれだけではありません。例えば、年間2万ドルのメリット・スカラーシップの獲得は、「大学が4年間で8万ドル払ってでも獲得したい学生である」という客観的な評価を得たことになります。この評価は履歴書に一生書き続けることができるわけですから、将来のキャリアにおいて大いに役立ちます。周囲に惑わされることなく、自分に活躍の場を与えてくれる大学をしっかり選んでください。

アメリカの大学には、スポーツや芸術で優れた才能を発揮する学生への奨学金があります。今回は、アスリートの奨学金についてご説明します。

大学スポーツの仕組みと奨学金の獲得方法は?

4年制大学の大半は何らかのスポーツチームを有し、NCAA(全米大学体育協会)に所属する大学は1千校に上ります。NCAAはⅠからⅢの3つのディビジョンに分かれ、一般的には大規模大学がディビジョンⅠ、小規模大学はディビジョンⅡやⅢに分けられています。競技レベルはⅠが最も高いですが、ⅡやⅢでも種目によっては強い大学があります。

NCAAがサポートする
23の競技一覧
スポーツ奨学金を得るためにどんな競技を選べば良いかの参考となる

 

表①スワースモア大学の年間学費

競技名 男子 女子
野球
バスケットボール
ボーリング
クロスカントリー
フェンシング
フットボール
陸上ホッケー
ゴルフ
体操
アイスホッケー
ラクロス
ライフル
漕艇(ボート)
スキー
サッカー
ソフトボール
水泳&飛び込み
テニス
屋内陸上
屋外陸上
バレーボール
水球
レスリング

出典:MACS Career & Education

ⅠとⅡの大学では、アスリートのための「スポーツ奨学金」があります。
Ⅲの大学にはこの奨学金がない代わりに、メリット・スカラシップ(前号参照)の中でアスリートとしての評価が加えられます。従って、どのディビジョンでもアスリートの能力が評価されれば、学費の軽減につながります。
 
スポーツ奨学金は、プロ選手を目指すトップ選手だけのものではありません。NCAA所属の大学では、45万人もの学生がアスリートとして活動しており、その多くは経済的な支援を得ています。
 
では、アメリカの大学はなぜスポーツに励む学生を優遇するのでしょう。その理由のひとつに、学業とスポーツの両立で人間的に大きく成長することが挙げられます。スポーツを通じてチームワークやリーダーシップの経験が身に付き、また両立で修得した「自律」や「時間管理」の能力は、社会に出た時に大いに役立ちます。つまり、学業とスポーツを両立する人は、即戦力として社会に受け入れられるのです。
 
スポーツ奨学金の候補に選ばれるには、まず自分の存在をチームのコーチに知ってもらう必要があります。何もしなくても大学から誘いを受けるのは一部のトップアスリートだけ。多くの学生は、自分から売り込みます。
 
また、この奨学金を獲得するには他の選手との差別化が大切。「アスリートの能力」はもちろんですが、「学力や人間性」も重要な評価ポイントです。いくら優れたアスリートでも、成績や素行に問題のある学生を受け入れるわけにはいかないため、大学は慎重に学生を選びます。
従って、学生はアスリートとしての能力だけでなく、学習面やリーダーシップも含めて自分の価値をしっかり大学に伝えます。そうすることで、他の選手との違いが明確になり、自分の評価につながります。
 
また、高校でのクラスの履修要件等を満たしていることも条件となります。条件を満たしているかどうかを確認するために、NCAA Eligibility Center(eligibilitycenter.org)への登録をおすすめします。登録することで、条件を満たすために何が必要かなども知ることができます。また、大学に対して自分が条件を満たしていることを示すことも可能となります。

自分を売り込む大学選び

大学は学習の場ですから、自分が学びたい分野や専攻のある学校から選ぶことが大前提です。その上で、自分が活躍できそうなチームがあるかどうかを見極めましょう。より高いレベルでのプレーが目標ならディビジョンⅠ、あくまでも学業優先でスポーツにも取り組みたいならディビジョンⅢというように、自分に合った大学を探すことが大切です。
 
カレッジボードのウェブサイト(www.collegeboard.org)では、アカデミックとアスレチックの両面から大学検索ができます。最初は地域は絞らず、「自分を必要としてくれる大学なら全米どこにでも行く」くらいのつもりで、数多くの大学にコンタクトを取ることをおすすめします。
 
(2013年5月16日.6月16日.7月16日.8月16日号掲載)

リベラルアーツ教育・リベラルアーツカレッジの最新動向

人間育成を目指す、アメリカのリベラルアーツ教育

アメリカの大学教育の特徴に、「リベラルアーツ教育」が挙げられます。これは、身に付けるべき教養を深めるための教育であり、「教養教育」とも呼ばれています。今回は、アメリカの大学におけるリベラルアーツ教育についてお話しします。

日本とアメリカで異なる教養教育の捉え方

教養教育は、日本の大学でも行われてきました。大学4年間を「教養課程」と「専門課程」に分け、教養課程で一般教養を幅広く身に付けるのが一般的ですが、教養教育は日本ではあまり重要視されてはいませんでした。特にバブル後の就職氷河期以降、就職率を高めたい、即戦力を求める企業のニーズに応えたいとする大学の思惑が、”専門教育偏重”の流れを加速させました。もちろん、教養教育の重要性を説く大学もありますが、教養を学んで社会に出ても直接役に立たないと誤解する人は多く、社会の理解が追い付いていないのが現状です。
 
一方アメリカでは、「リベラルアーツ・カレッジ」が高い人気を誇り、日本人でもこの種のカレッジを希望する学生が増えています。リベラルアーツ・カレッジとは、高い教養を有するバランスの取れた人間の育成に注力した大学です。特定の職業に直結する専門知識や技術の会得よりも、幅広い教養の修得を重視した教育を行うことで、将来さまざまな分野で活躍できる人材を育てます。
 
アメリカのリベラルアーツ・カレッジは学部の教育を重視するため、多くは小規模な私立大学です。大規模な総合大学では得られない、各学生のニーズに応じたきめ細かな指導が受けられることが最大の魅力です。リベラルアーツ・カレッジではそれぞれの学生に進路カウンセラーが付き、クラスの履修方法や専攻の選び方、将来の進路に至るまで親身になって相談に乗ってくれます。もし自分に合う専攻がない場合は、新たに専攻を作ってもらうこともできます。

アメリカの総合大学も力を入れるリベラルアーツ教育

アメリカの州立大学や大規模私立大学のように、多数の学部を有し、大学院レベルの教育にも力を入れる大学は「総合大学」と呼ばれています。また、研究に力を入れている大学は「研究系大学」と呼ばれることもあります。研究系大学は、リベラルアーツ・カレッジと対極の大学に見えるかもしれませんが、実は研究系大学の中にも、リベラルアーツ教育に力を入れている大学は多いのです。
 
例えば、ハーバード大学やコロンビア大学のような名門研究系大学も、学部ではリベラルアーツ教育が行われています。また、マサチューセッツ工科大学(MIT)のような理工系専門の大学でも、リベラルアーツ教育に力を入れています。MITと言えば、学部でも最先端の科学や技術の教育が行われているイメージがありますが、実際はそうではありません。先端科学や技術は、大学院以降の研究を通じて自ら開拓していくものであり、学部は将来の準備を行う場として「学ぶ」スキルを身に付けることに力を入れているのです。
 
「サービスアカデミー」と呼ばれる士官学校(陸軍士官学校や海軍士官学校など)も、アメリカを代表するリベラルアーツ・カレッジと言えます。入学にリスクは伴いますが、世界最高レベルのリベラルアーツ教育が無料で受けられ、さらに給料も得られ、外国人でも進学でき、卒業生の社会的評価はアイビーリーグ卒に勝るとも劣らないなどメリットは尽きません。

将来社会で活躍するリーダー育成を目指す

リベラルアーツ教育が目指すのは、あらゆる問題を総合的に判断できる能力であり、幅広い視野で物事を捉えて決断できる能力であり、また、さまざまなタイプの人々を納得させられるコミュニケーション能力でもあります。つまり、将来社会で活躍するのに必要なあらゆる能力を高めることがリベラルアーツ教育の目的なのです。したがって、リベラルアーツ教育は社会でリーダーとして活躍できる人材の育成を目指す、体系的な教育と言えます。
 
リベラルアーツ教育の重要性は、近年日本の産業界でも認識されつつあるように感じます。就職活動に際して専門知識やコンピュータースキルなどの修得に力を入れる学生が多い中、「考える力」や「コミュニケーション能力」を有する学生を高く評価する企業が増えています。つまり、日本の産業界も、”今の知識”よりも”将来にわたって学び続ける力”が評価される時代になりつつあるということです。これこそ、リベラルアーツ教育で得られる価値なのです。
 
(2013年4月16日号掲載)

アメリカのリベラルアーツ・カレッジの特徴と選び方

アメリカの大学が「リベラルアーツ教育」に力を入れていることは、今までも何度かお話ししてきました。質の高いリベラルアーツ教育を提供するリベラルアーツ・カレッジ(LAC)は学生から高い人気を誇り、進学を希望する日本人学生も増えています。今回は、リベラルアーツ・カレッジの特徴と選び方についてお話しします。

アメリカのリベラルアーツ・カレッジが提供する学部学生のための教育プログラム

リベラルアーツ・カレッジは、幅広い教養の修得を重視した教育を行い、将来さまざまな分野で活躍できる人材を育てる大学です。特定の職業に直結する専門知識や技術の会得よりも、幅広い学問領域を学び、多分野にまたがる問題を解決する能力を高めることに注力しています。
 
一般的なリベラルアーツ・カレッジの特徴として、以下のような点が挙げられます。
①小規模:全学生数は700から2500人程度で、原則として学部のみ
②少人数制:1クラスのサイズは12から30人程度
③全寮制:大半の学生(70から100%)が寮生活
④個別指導:個々の学生に対するきめ細かいサポート
 
リベラルアーツ・カレッジの根幹をなすのが教職員と学生の密接な関係です。研究系大学がリサーチや大学院教育に注力しているのに対し、リベラルアーツ・カレッジでは、全ての教職員は学部学生のためだけに存在します。
 
アイビーリーグをはじめとする大規模大学では、高名な教授が学部のクラスを担当することはめったになく、それどころか、アシスタントの大学院生が学部の授業を担当することもよく見受けられます。これに対し、リベラルアーツ・カレッジでは、全てのクラスにおいて担当教授本人から学べます。
 
少人数のクラスでは先生への質問がしやすく、クラスのディスカッションにも参加しやすいなど、学習面で大きなメリットがあります。また、クラスでは全ての学生に気を配った指導が行われるので、単なる教科指導だけでなく、時には学習の進め方や日々の生活についてのアドバイスなども行われます。100人規模の教室でレクチャーを受ける大規模総合大学のクラスでは望むべくもないことです。
 
リベラルアーツ・カレッジでは、それぞれの学生に進路カウンセラーが付き、クラスの履修方法や専攻の選び方、将来の進路に至るまで、親身になって相談に乗ってくれます。もし自分に合う専攻がない場合は、新たに専攻を作ってもらうこともできます。また、大学院に進学する学生のサポートも充実しており、一般的な修士課程だけでなく、ロースクールやメディカルスクール、Ph.Dなどを目指す学生の指導なども行われます。

就職にも強いアメリカのリベラルアーツ・カレッジ

リベラルアーツ・カレッジでは専門性が身に付かないので就職に不利だと言う人もいますが、実際はそうではなく、卒業生はあらゆる職種において高い競争力を発揮しています。その理由として、将来性と即戦力の両面で期待できることが挙げられます。
 
リベラルアーツ・カレッジで習得したスキル、例えば論理的な思考力や作文力、コミュニケーション力、問題解決力などは、生涯にわたって学び続けるのに必要な能力であり、就職活動の際に高く評価されます。このような能力を持つ卒業生は、職場でも大きく成長し、重要な役割を担っていくことになるのです。
 
リベラルアーツ・カレッジの卒業生は、即戦力としての価値も高く評価されています。ウィリアムズ大学の調査によると、リベラルアーツ・カレッジの学生は総合大学の学生に比べてインターンシップを通じて1年以上の経験を積んだ学生の割合が高く、また在学中に海外で学ぶ学生の割合も高いそうです。大規模大学の学生がクラスの中だけで学んだ知識よりリベラルアーツ・カレッジの学生が学外で積んださまざまな経験の方が、社会ですぐに役立つというのは頷けます。
 
リベラルアーツ・カレッジは小規模だということもあり、各大学の個性がはっきり出ています。そこで、自分との相性の見極めが非常に重要となりますので、なるべく多くの大学を訪問し、自分自身で判断してください。また、小規模故に、専攻の数や課外活動の種類なども大規模大学と比べると限られているので、自分に必要なサービスが得られるか、しっかり調べましょう。
 
学費補助(FA)も、大学選びにおける重要なポイントです。リベラルアーツ・カレッジの奨学金の額は、一般的には州立大学と比べるとはるかに大きいですが、大学により、メリット重視、ニーズ重視など、FAの扱いが異なるので、自分にとってどのようなタイプの大学から奨学金が取りやすいのかも考慮して大学を選ぶことをお薦めします。
 
(2014年10月16日号掲載)

参考:アメリカのリベラルアーツ・カレッジランキング 2017(出典:『Top 25 Liberal Arts Colleges in the U.S. 2017』 Forbes)

ランキング 大学名 場所 種別
1 Pomona College
ポモナ・カレッジ
Claremont, CA
カリフォルニア州
私立
2 Claremont McKenna College
クレアモント・マッケナ大学
Claremont, CA
カリフォルニア州
私立
3 Williams College
ウィリアムズ大学
Williamstown, MA
マサチューセッツ州
私立
4 Amherst College
アマースト大学
Amherst, MA
マサチューセッツ州
私立
5 Harvey Mudd College
ハーベイ・マッド大学
Claremont, CA
カリフォルニア州
私立
6 Swarthmore College
スワースモア大学
Swarthmore, PA
ペンシルベニア州
私立
7 Bowdoin College
ボウディン大学
Brunswick, ME
メイン州
私立
8 Haverford College
ハバフォード大学
Haverford, PA
ペンシルベニア州
私立
9 Washington and Lee University
ワシントン・アンド・リー大学
Lexington, VA
バージニア州
私立
10 Wesleyan University
ウェズリアン大学
Middletwon, CT
コネチカット州
私立
11 Davidson College
デビッドソン大学
Davidson, NC
ノースカロライナ州
私立
12 Bates College
ベイツ大学
Lewiston, ME
メイン州
私立
13 Carleton College
カールトン・カレッジ
Northfield, MN
ミネソタ州
私立
14 Middlebury College
ミドルベリー大学
Middlebury, VT
バーモント州
私立
15 Colgate University
コルゲート大学
Hamilton, NY
ニューヨーク州
私立
16 Scripps College
スクリップス・カレッジ
Claremont, CA
カリフォルニア州
私立
17 Wellesley College
ウェルズリー大学
Wellesley, MA
マサチューセッツ州
私立
18 Vassar College
ヴァッサー大学
Poughkeepsie, NY
ニューヨーク州
私立
19 Oberlin College
オーバリン大学
Oberlin, OH
オハイオ州
私立
20 Barnard College
バーナード・カレッジ
New York, NY
ニューヨーク州
私立

リベラルアーツ・カレッジなどの小規模大学におけるSTEM(理工系教育)プログラム

STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)の専攻を目指す学生は、規模の大きな研究系の総合大学に注目しがちですが、小規模大学の中にも質の高い理工系教育を行っているところは少なくありません。今回は、小規模大学のSTEMプログラムをご紹介します。

リベラルアーツ・カレッジのSTEMプログラム

質の高い教育ときめ細かいサポートはリベラルアーツ・カレッジの魅力の一つですが、それはSTEM教育にも当てはまります。単なる知識の詰め込みだけでなく、少人数でのディスカッションやグループワーク、実験を通じて理解を深められるのは大きな魅力です。STEM教育は、女子大学でも積極的に行われており、Smith College やBryn Mawr Collegeが力を入れている大学として知られています。
 
学部生の研究活動をしっかり支援してくれるのも、リベラルアーツ・カレッジの強みです。STEM専攻で進学した大学生に話を聞くと、中には1年生(フレッシュマン)からリサーチプロジェクトに参加している学生がいますが、大半はリベラルアーツ・カレッジの学生です。研究系の総合大学に進学した学生で、フレッシュマンからリサーチに参加できている学生の話はほとんど聞きません。
 
学部で研究活動に関わることは、インターンシップ等の就職活動や大学院進学の際に高く評価されます。例えば、バイオメディカルに強いと言われている研究系の総合大学に進学するよりも、リベラルアーツ・カレッジに進学してバイオのリサーチプロジェクトに参加する方が、結果的に将来目指す進路への近道になる可能性は大いにあります。
 
リベラルアーツ・カレッジは小規模で工学部がないのが一般的ですが、それでも工学系を専攻する方法があります。3‐2エンジニアリング・プログラムは、多くのリベラルアーツ・カレッジが採用している方法で、このプログラムでは、リベラルアーツ・カレッジで3年間履修した後、工学系の専攻を持つ提携大学に転学(トランスファー)し、そこで2年間履修します。5年間の学習が終わった時点で、在籍した2つの大学からそれぞれ学位が得られます。例えば、3年在籍したColorado Collegeで生物学士、その後2年在籍したColumbia Universityでバイオメディカル工学士というように、2つの学士を取得できます。
 
3‐2エンジニアリング・プログラムは、卒業まで5年かかる上に、転学先の大学に無条件で受け入れてもらえるわけではなく、また転学後の奨学金など不確定な要素が多いため、誰にでも勧められる選択肢ではありません。しかし、最高水準の教育が受けられ、就職にも極めて有利など、メリットも大きいので検討する価値はあるでしょう。もっとも工学系を専攻することがあらかじめ決まっている場合は、最初から工学部のあるリベラルアーツ・カレッジに進学する方法もあります。

エンジニアリング専攻があるリベラルアーツカレッジの例

大学名 タイプ 学部学生数
Harvey Mudd College Claremont CA 共学 804
Smith College Northampton MA 女子大 2,563
Union College Schenectady NY 共学 2,242
Bucknell University Lewisburg PA 共学 3,565
Lafayette College Easton PA 共学 2,503
Swarthmore College Swarthmore PA 共学 1,542
Trinity University San Antonio TX 共学 2,297

 

小規模工科大学のSTEMプログラム

工科大学は、STEM分野が特に充実している大学です。中でも小規模な工科大学は、研究系大学の高度なSTEM教育とリベラルアーツ・カレッジの質の高いサポートを併せ持つ大学として、進学を希望する学生が増えています。STEM以外の専攻があまりないことや、一般教養で履修できるクラスが限られるなどのデメリットはありますが、自分が将来目指す進路がはっきりしていて、その進路に向かって突き進みたい学生にとっては、理想的な環境と言えるでしょう。

小規模工科大学の例

大学名 タイプ 学部学生数
Embry-Riddle Aeronautical University Prescott AZ 共学 1,984
Rose-Hulman Institute of Technology Terre Haute IN 共学 2,280
Franklin W. Olin College of Engineering Needham MA 共学 370
Kettering University Flint MI 共学 1,732
Cooper Union New York NY 共学 876
LeTourneau University Longview TX 共学 2,250
Milwaukee School of Engineering Milwaukee WI 共学 2,596

 

大学院進学準備としての学部教育の役割

大学は知名度やランキングで選ぶのではなく、自分との相性で選ぶという基本的な考え方はSTEMの学生の場合でも同じです。大学選びの際に、機械工学や電気工学など、自分が専攻する分野の評価を気にする学生もいますが、それはあまり重要ではありません。工学系であっても学部教育では幅広い教養を身に付け、基礎学力を高めることが主眼であり、専門分野を極める教育は主に大学院で行われます。
 
STEM専攻の学生は大学院に進学するのが一般的なので、大学選びは大学院進学の準備という側面もあります。いくら有名大学に進学しても、成績が伴わなければ満足のいく大学院進学は望めませんし、逆に無名大学でも、きちんと成果を挙げれば大学院進学には大いに有利となります。したがって、学部では、まず自分に合った環境で基礎学力を高めることを念頭に、大学院進学への準備を行うことが重要です。
 
(2017年6月16日号掲載)

 

リベラルアーツ教育が次世代を作る!(教育座談会:池上彰x上田紀行x伊藤亜紗x原田誠)

 

長い間、「専門性」に重点を置いてきた日本の大学教育。ところが価値観が多様化する近年、幅広い視野を持った人材が求められるにつれ、リベラルアーツ教育(教養教育)の価値が改めて注目されています。日本により良いリベラルアーツ教育を導入すべく、カリフォルニア州の大学を視察に来られた東京工業大学リベラルアーツセンターの教授陣と、ライトハウス誌コラムニストの原田誠さんにお話をうかがいました。

リベラルアーツ教育対談

(写真左から)
原田 誠さん
教育コンサルタント。国際的に活躍する人材育成を目指し、MACS Career&Education を設立し、各種人材育成や進学指導を行っている。
上田紀行さん
東京工業大学リベラルアーツセンター教授。文化人類学者。著書『生きる意味』は大学入試出題率第1位の著作。
池上 彰さん
東京工業大学リベラルアーツセンター教授。日本放送協会に記者、キャスターとして勤務後、2005年からフリーランスのジャーナリストとして活躍。
伊藤亜紗さん
東京工業大学リベラルアーツセンター准教授。専門は美学、現代アート。著書に『ヴァレリーの芸術哲学、あるいは身体の解剖』。

-東京工業大学(以下、東工大)でもリベラルアーツセンターを設立されましたが、なぜ今、リベラルアーツ教育が注目されているのでしょうか?

上田:東工大は理工系の大学ですが、1960年代、70年代は優れた文系の先生をたくさん揃えた大学として有名でした。ところが90年代、大学の競争力を高めるために早めに専門教育を行おうと、文系科目を軽視する風潮になりました。ところが、その方針で20年間教育を行ってみたところ、専門の学問しか知らないので、自分の研究が社会的にどういう意味があるのか、世界のどんな問題にどう自分が貢献できるのかといった大きな視野を欠くことになりました。また、科学技術がこれだけ大きな役割と影響力を持っているにもかかわらず、倫理的な知識もなければ、自分の考えもない状態になってしまったのです。そこで大きな反省が起き、リベラルアーツ教育が見直されてきたわけです。

池上:戦後、旧制高校が新制大学の1、2年になり、パンキョーと呼ばれる一般教養課程になりました。ところが、パンキョーは高校の繰り返しに過ぎずつまらない、それよりは早く専門をやりたいという学生の意向があり、十数年前から大学教育の大綱化、つまり自由にカリキュラムを組んで良いことになりました。その結果、全国の大学が文系理系問わず、一般教養を解体し、1、2年から専門科目を増やしたのです。ですが、しばらくすると企業から最近の大学生は一般常識がないのではないかと言われるように…。決定的だったのはオウム真理教の事件です。エリートの理科系の連中が、とんでもないことをしてしまって、大学での教養教育が間違っていたんじゃないかと、リベラルアーツ教育に対する見直しがありました。

-それは従来の文系の教育とは別のものなのでしょうか?

上田:リベラルアーツ教育は、昔は教養教育と言われていました。かつての教養教育は、戦前の一高(現在の東京大学教養学部などの前身となった旧制高等学校)などで形作られてきて、地方からの秀才が東京に来て、いかに西洋的な古典の知識を身に付けて、田舎の子と違う知識人になるかといった、自分を知識人の階級にしていく意味合いがありました。ですが、これからのリベラルアーツ教育は、その教養主義とは一線を画するもので、どのように幸せな社会にしていくのかという未来志向のものだと考えています。

-ご自身の教養は大学教育で身につけられたものでしょうか?

池上:私の頃はつまらない一般教養の時代でしたから、授業なんか出なかったですね(笑)。自分で好きな本を読んで、あるいは読書会を開いて勉強していました。

伊藤:本質的には教養は自分で自分を育てるもので、与えられるものではないですよね。

-教養よりも専門性を早く身に付けたいと焦る学生もいますよね。

上田:日本では90年代から成果主義が取り入れられ、勉強やビジネスでも短期間で評価に結びつくことが求められる傾向が出てきました。そうすると高校生は志望大学の入試科目だけを勉強し、それ以外の知識がほとんどない状態に。また、すぐに評価に結びつくと、何か一つの正解があり、そこが正しくて評価されるものだと考えがちです。そうなると、実際の社会では、多様な価値観の中で皆で合意していくことが重要になるにもかかわらず、その能力のない人間を生産してしまうことになる。リベラルアーツは実学から遠いもののように思われますが、実は一つの評価軸だけで決められないこの世界で、いかに自己実現し、他者を実現させながら生きていくかにつながる実践的なものなのです。

伊藤:実際、社会人になって初めて教養の必要性を感じる人が日本ではとても多く、今、教養ブームが起きていますね。

-アメリカと日本のリベラルアーツ教育の違いは何でしょうか?

リベラルアーツ教育対談_伊藤

リベラルアーツは自分を自由にしてくれます(伊藤)

伊藤:発祥のイギリスとアメリカでも違いますし、大学ごとに相当幅があります。少人数のクラスで先生との濃いコンタクトの中で学んでいく伝統的なリベラルアーツ教育は、教員数も予算も施設も限られた日本では実現は難しい。それを逆手にとって学生同士が学び合うような場を構想していますが、そういったことがうまくいけば、日本的なリベラルアーツ教育の特徴になる気がします。

原田:リベラルアーツ教育というと、日本ではどういうプログラムを作るかという発想になりますが、アメリカではそれは教育に対するアプローチの仕方です。つまり自分で考え、論理的な思考力や読む力、書く力など社会に出て役立つスキルを身に付ける学習方法です。どちらが良い悪いということではありませんが、リベラルアーツ教育がアメリカで深く浸透している理由には、リベラルアーツ教育で学んだ学生を企業も高く評価していることがあります。日本でも最近、社会で最終的に活躍できる人は幅広く教養を身に付けた人だと組織が分かってきて、教養を身に付けた人を採用する傾向が見られ、それが大学にも影響しています。

リベラルアーツ教育対談_池上

自ら問いを立てる力がリベラルアーツでは(池上)

上田:今、日本の大学は過渡期を迎えています。かつては入学時の偏差値が高い大学が良い大学とされてきましたが、バブルが崩壊し経済も停滞する中で、大学の名前以上に、大学の教育力、輩出する人材の質が問われ始めています。

池上:有名大学の先生は研究者として大学にいるので、教育者だという自覚が薄かったのです。一方、有名ではない大学は就職率の良さで売るしかなく、専門学校のような教育をするなど、大学は二極化しつつありました。そこで中程度の大学が、やはり教育でやるしかないとなってきたのが現状だろうと思います。

-アメリカで学ぶ日本人生徒は、日米どちらの大学への進学が良いのでしょうか?

原田:大学進学はゴールではなくて、キャリアのスタートです。ですから、もっと先の将来を考えたときに、自分がどこでどんなふうになっていたいのか、まず目標を定めることが必要です。一つに定まらないかもしれなくても、方向性を決めたときに、そこに辿りつくためのプロセスを考え、そのためにどんな教育が自分にメリットがあるか考えていけばいいかと思います。日米だけではなく、大学ごとに教育の仕方もさまざまですから、学びたい学習スタイルとのマッチングが大事になります。自分が満足して学べる環境がたまたま日本かもしれませんし、他の国かもしれません。ただアメリカで学ぶ学生は言葉の心配がないわけですから、世界中どこでも学べます。その幅の広い選択肢の中から、自分に一番合った環境を選んでいくのが良いでしょうね。

リベラルアーツ教育対談_上田

リーダーを生み出すにはリベラルアーツが必要です(上田)

上田:日本の大学には帰国子女枠があり、アメリカで学ぶ人はすごく入りやすいです。でも名前のある大学だからいいという時代ではありません。やりたいことを明確化して、それが大学の学部やカリキュラムとマッチしているかどうかを見極めていかないと。マッチングが問題になるということは、自分自身が何をやりたいのか、自分自身を知ることに関してもシビアでないといけない。相手の大学の教育の内容だけを見ていてもいけません。ただ、18歳や19歳での選択ですから、いくら周到に準備してもバクチの部分もある(笑)

原田:18歳で決めた進路が将来もピッタリ合っていればいいですが、皆が皆そうではないわけで、そもそも18歳の時点で選べない人も大勢います。そういう人には、学部や学科を決めずに受験でき、入学後も専攻を変えられるアメリカの大学システムは非常に魅力的です。逆に将来がきちんと見えている人は日本の大学でもいいかもしれません。迷っている人や考えが及んでいない人は、リスクを抑える意味でも、アメリカの大学という選択肢はあると思います。

-最後に、皆さんにとってのリベラルアーツとは何でしょうか?

リベラルアーツ教育対談_原田

大学の教育と自分とのマッチングが重要です(原田)

伊藤:リベラルアーツは色々なものをつなぐので、全体を俯瞰できます。自分がやっているものの周りにどんな問題や研究ルートがあるかも意識しながら専門をやっていける。だから、もし現在やっているところが違うと思ったら、もっと自分の興味に近いのはこっちかなと進んでいける。自分を自由にしてくれますよね。

池上:高校までは色々な問題を先生から出されて、問題を出す側がどのような答えを求めているかを推測して、その問いに答えることばかり考えてきたけれども、社会に出てからは問いを立てる力が必要なんじゃないかと思います。自ら問題点を見つけ、その疑問を感じ、それをどうすればいいのかなと問いを立てる力、それがリベラルアーツではないかと、私は定義しています。

上田:できる人は世の中にたくさんいますが、尊敬される人はどれだけいるのかということをよく考えます。誰かが作った価値観の中で必死に偏差値を上げようとする人ではなくて、自分で価値、そして未来を作っていける人が本当の意味でのリーダーになっていくと思います。そういう人を生み出すためには、絶対リベラルアーツが必要だと思っています。

(2014年12月16日号掲載)

大学アドミッションの基礎知識

アメリカの大学のアドミッション(入学審査)は日本と異なり、審査方法も日々進化しています。特に2008年のリーマンショック以降は大学を取り巻く環境が変化し、アドミッションも影響を受けています。今回は、アドミッションの特徴と最近の動向をお話しします。

将来性重視の入学審査

日米の大学で入学審査が異なる最大の理由は、求める学生が異なるからです。日本の大学は「現在優秀な学生」を評価しますが、アメリカは「将来伸びる学生」を求めます。つまり、現時点の成績だけで判断するのではなく、将来のポテンシャルを見極めて評価するのがアメリカの大学です。学生の将来性を重視する理由は、卒業生が社会で活躍することが大学の長期的な繁栄につながると考えているからです。社会で活躍する卒業生が増えれば大学の名声は高まり、寄付金も増え、大学の経営基盤がより強固になります。そのため、各大学は学生のポテンシャルを的確に評価しようと工夫を凝らします。

点数評価から人物評価へ

将来性を重視するアメリカの大学では、学業以外の取り組みや人間性もアドミッションで評価されます。もちろん高校の成績が重要なのは言うまでもありませんが、成績以外もきちんと評価しようという傾向は年々高まっているように感じられます。特に難関大学ほどその傾向は強く、アイビーリーグの大学やスタンフォード大学のようないわゆるトップスクールは、どんなにアカデミックが優れていても、それだけで合格を勝ち取るのは困難です。
 
人物評価の方法として最重要なのは、アプリケーションの中のエッセイです。学生がどんなことを考えながら生きてきたのか、将来どのようなビジョンを持っているのかなど、大学はエッセイを通じて学生の人物像を読み取ろうとします。従って、受験生はエッセイを通じて自分の良い面をどう大学に伝えるかという戦略が重要です。
 
全米の主要私立大学と一部の州立大学は、”Common Application”という共通のアプリケーション・システムを採用しています。このシステムではエッセイのテーマが5つ与えられ、受験生はその内1つ選んでエッセイを書きます。ここで与えられるテーマは毎年同じでしたが、より的確な人物評価を目指す大学側の要望を受け、次年度(平成25年度)よりテーマが刷新されます。

私立大学人気の高まり

最近、私立大学のアプリケーションの数が急増しています。その原因に、州立大学の魅力の低下が挙げられます。州立大学は幅広い分野の教育が格安で受けられることが利点ですが、州の財政難で学費は高騰し、また一部の大学では教育の質の低下が深刻化するなど、州立大学の教育に不安を感じる学生が増えていると考えられます。
 
私立大学には教育の質や学生のサポート等で大きなメリットがありますが、学費の高さを理由に敬遠する人もいます。しかし、私立は州立と比べて奨学金制度がはるかに充実しているため、額面通り払っている学生は多くありません。自分に合った大学を選べれば、州立大学よりも質の高い教育を、州立大学以下の学費で受けることは十分可能です。
 
また、他州の大学に進学する学生が増えているのも最近の傾向です。特に西部は人口の増加が激しく、年々競争が激化しています。その上、人口に対して大学数が非常に少ないため、より有利な条件で進学しようと、マサチューセッツ大学やペンシルベニア大学など質の高い大学が多く集まる州に出願する学生が増えています。
 
アメリカの大学は全米規模で学生を集めたいと考えているため、アドミッションでは遠くの学生ほど優遇されます。つまり、遠方の大学ほど合格しやすかったり、より多くの奨学金がもらえる可能性が高くなるのです。自分に合った大学に、より安く進学するためには、地元だけでなく、遠くの大学もしっかり調べることが大切です。
 
(2013年3月16日号掲載)

学習に問題を抱える学生の大学進学について

思うように成績が伸びず悩んでいる子供は少なくありませんが、成績が良くないという理由で大学進学や将来の夢を諦める必要はまったくありません。成績が伸びないの「勉強ができない」からではなく、「受けている教育が自分の学習スタイルに合っていない」からかもしれません。また、学習に身が入らないのは「やる気がない」のではなく、他に理由があるのかもしれません。
 
学習障害や発達障害などの問題を抱える子供は、適切な支援を受けることで目覚ましい成果を上げる場合が多くありますが、一方で判断の難しさや親の知識不足等の理由で、適切な対応が取られない場合も多くあります。学習面のつまずきの原因を見極め、弱点を補う方策を検討し実施することが重要で、この取り組みを大学進学後も続けることにより、満足のいく学習が可能となります。

障害ではなく個性としてのLD(Learning Disabilities/学習障害)

LD(Learning Disabilities/学習障害)の学生は、読む、聞く、話す、書く、計算する、推論するなど、 学習に必要な能力の中で著しく苦手な分野があります。 ただし、誰にでも得意・不得意はあります。そういう意味では、誰もが何らかの学習障害を持っていることになるため、これを "障害" と呼ぶのは不適切という考え方から、 アメリカの教育界ではLD(Learning Disabilities/学習障害)「学習方法の違い」(Learning Differences)と呼び、個性として扱っています。

活用したい適切な教育を受ける権利

AD-HD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder/注意欠陥・多動性障害)やDyslexia(読語障害)のような発達障害がある場合、学習に大きな影響を及ぼします。AD-HDは注意力を維持しにくかったり、さまざまな情報をまとめることが苦手という特徴があり、Dyslexiaは、文字の読み書きを伴う学習に著しい困難を抱えています。
 
アメリカでは、障害を持つ学生が教育や進学で不利益を被ることがないように、法律により適切な支援が義務付けられています。ただし、高校卒業までと大学進学後では支援内容が異なります。高校卒業まではIDEA(個別障害者教育法)により、学校が個々の生徒の課題を見極め、適切な支援の無料提供が義務付けられています。
 
一方、大学ではADA(アメリカ障害者法)とSection504(リハビリテーション法504条)により、障害を持つ学生に差別がないよう規定しています。ただし、個々の学生に必要な支援を提示するのは学校ではなく、学生本人が要求しなければならず、また、支援範囲は教育機関により異なります。
 
障害を持つ学生は、具体的にどのような支援が受けられるのでしょうか。ノートを取ることが苦手な学生には講義を録音したり代筆する支援が、教科書を読むのが苦手な学生には教科書を録音テープで聞かせる支援などがあります。また、必要に応じてテスト時間や宿題の提出期限を延長する支援も可能です。軽度の問題なら、講義の録音や、授業が受けやすい座席の確保などの支援で十分かもしれません。
 
学習障害や発達障害を持つ学生に必要な支援は、ひとりひとり異なります。そのため、どのような支援が必要なのかを見極めることが大切です。学習上の課題と必要な支援を見極めるために、さまざまなアセスメントが開発されていますので、臨床心理士などの専門家に相談し適切な診断を受けてください。その結果次第では、SATやACTなどのアドミッション・テストにおいてもテスト時間の延長や途中の休憩を増やす等の対応策(アコモデーション)を用意してもらえる場合があります。
 
ADA(アメリカ障害者法)とSection504(リハビリテーション法504条)はすべての大学に適用され、どの大学も対応可能な支援を明示しています。"ADA(アメリカ障害者法)/504 Accommodation Plan"と呼ばれるこの支援プログラムでは、ベーシックなサポートが無料で受けられます。よりきめ細かい支援を受けたい学生のために、包括的な支援プログラムを用意している大学もあります。また、学習障害を持つ学生に特化した大学もあります。どのプログラムが最も適しているか見極めるためにも、学習に問題を感じたら早期に専門家に相談することをおすすめします。
 
(2013年2月16日号掲載)