認知症(Dementia)

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認知症

(ライトハウス・ロサンゼルス版2023年3月16日号掲載)

認知症を患うと、記憶障害、失語、実行機能障害などによって生活に支障をきたします。
将来、自分や大切な人が認知症を発症した時に備えて、今から知っておきたい各種サービスから進行を遅らせるための生活習慣までをお届けします。

認知症をデータで見る

アメリカと日本、それぞれの国でも認知症患者の人口を見てみましょう。まずアメリカの場合、2020年に調査されたデータによると、65歳以上の認知症患者は約700万人となっています。65歳以上の総人口に占める割合は12.5%で、8人に一人に該当します。
(出典:https://www.prb.org/resources/fact-sheet-u-s-dementia-trends/)。
 
一方、日本の場合、同じく2020年の調査で65歳以上の認知症患者数は約602万人で、65歳以上の人口に占める割合はアメリカよりも高く18.5%で、5.4人に一人となります。推計によると2025年には65歳以上の5人に一人が認知症を患うと見られています。さらに、認知症の予備軍とも言える軽度認知障害(以下MCI: Mild Cognitive Impairment)の人は上記の数には含まれていません。つまり、65歳を超えると、5人に1人以上の割合で認知症発症リスクを抱えることになります。
(出典:https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1105.html

1. 認知症について知ろう

認知症について、オレンジ・カウンティーで精神科のクリニックを開業している鈴木アレハンドラ医師に解説していただきました。

認知症とは?そして原因は?

鈴木アレハンドラ医師

取材協力
MD
鈴木アレハンドラ医師
Americas TMS Center
☎️ : 714-689-0637
Webサイト

「認知症とは、さまざまな原因によって脳の細胞の働きが低下することで起こる病気です。認知症を発症すると、社会生活や仕事に支障をきたすことになります。主たる症状は記憶や判断といった認知機能に障害が発生することです。これが中核症状であり、さらに周辺症状として、不安、抑うつ、徘徊といった行動や心理面の症状も見られます」と、鈴木医師は基本的な認知症の定義を説明しています。
 
認知症の中でも最も多いのがアルツハイマー型認知症であり、全体の約60%〜70%を占めるとされています。「アルツハイマー型認知症の根本的な原因は現時点ではまだ解明されていません。しかし、解明されている範囲では、脳の細胞の変性により異常なタンパク質が溜まり、徐々に神経細胞が死滅していくとされています。アルツハイマー以外では、脳血管障害(脳卒中)によるものが20%、レビー小体型(パーキンソン病類縁疾患)約5%、そして前頭側頭型認知症などが原因とされています」。
 
ところで、認知症は遺伝に由来するのでしょうか?その問いに対して鈴木医師は「アポリポタンパクE遺伝子が、アルツハイマー病のリスクを高めることは実証されていますが、その遺伝子を持つ全ての人が発症するわけではありません」と、アルツハイマー型認知症と遺伝子との関連性は認められているものの、必ずしも遺伝の要因によってのみ発症するわけではないと話しています。

治療法は?

認知症

「脳卒中を原因とする場合を除き、認知症には根本的な治療法はありません。しかし、認知症になるのを遅らせる、発症しても進行を抑えるといった取り組みは進められています。最近では生活や仕事に支障をきたさない症状でも軽度認知障害(MCI)として早期に診断がされるようになっています。MCIの段階であれば、症状を軽減、進行を抑えられる可能性はより高くなります。そして、MCIを含む認知症に対する代表的な治療法が薬によるものです」。鈴木医師によると、FDAに承認されて認知症の治療に用いられている代表的な薬は次の3種類です。
 
Donepezil (ドネペジル)
ドネペジルはアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の症状進行を抑制するもので、治療薬の中でも古くから使用されており、大きなシェアを占めています。これにより、アルツハイマー型認知症で見られる脳内コリン作動性神経系の機能低下を改善しますが、脳の変性過程そのものを抑制する効果はないとされています。
 
Memantine (メマンチン)
認知症には「グルタミン酸仮説」という考え方があり、グルタミン酸は脳内で記憶や学習に関わる神経伝達物質という役割を担っていますが、認知症患者の脳内はグルタミン酸が過剰な状態になっていることが分かっています。これにより記憶のシグナルが妨害されているというのが「グルタミン酸仮説」です。この仮説に基づき、グルタミン酸の量を正常に近づけるために、過剰なグルタミン酸の放出を抑えるメマンチンが用いられます。
 
Aducanumab (アデュカヌマブ)
アルツハイマー型認知症の原因とも考えられているアミロイドベータというタンパク質の除去を促進する薬として2021年にFDAに認可されました。MCIの段階の患者に用いられている新薬です。さらに、鈴木医師のクリニックでも施されているTMS治療も認知症、特にMCIに効果があるという研究結果が最近発表されました。TMSは系統蓋磁気刺激法の略称で、前頭葉を磁気によって刺激し、低下した脳の働きを活性化する新しい治療法です。

生活習慣見直しと早期診断

鈴木医師は根本的な治療法が確立されていない認知症に対しては、できるだけ認知症につながるリスクがある危険因子を抑える努力をするべきだと呼びかけています。「危険因子には高血圧、糖尿病、過度な飲酒、タバコ、コレステロール過多、運動不足などが挙げられます」。
 
これらの危険因子を抑えることに努めると共に、「何かおかしい」と思ったら早期に専門家の診断を仰ぐことも重要です。「認知症の早期のサインは、特に仕事に影響はないけれど、忘れっぽい、集中できない、以前のように頭の回転がシャープではない、やる気が出ず何事にも無関心になってしまった、などです。それはもしかしたら、認知症ではなく、うつの症状である可能性もあります。しかし、認知症になってしまうと放っておくとどんどん進行してしまいますから、うつかもしれないとうやむやにしない方が良いでしょう。根本的な治療法はありませんが、進行を遅らせることはできるのです。段階としては、まず本人が『何かおかしいな』と気付くはずです。それを放置しておくと、次に周囲の人が異変に気付く段階まで進んでしまいます。できれば、本人が自覚した段階で診療を受けるようにしてください」。
 
早期の認知症患者には、鈴木医師は医学的な治療以外に次のようなことも勧めています。「認知症患者は引きこもりになりがちで、そうすると社会と隔離されてしまい、脳の活性化には逆効果です。できるだけ人と交流を続けたり、好きな趣味を続けたりすることが大切です。ヨガ、ウォーキング、ダンス、ボウリング、歌、楽器演奏、読書でも何でも構いません。ご家族やお友達との交流や趣味を通じて、脳を刺激するように日々努めてほしいです」。

認知症が進むと

放置して進行が進むとどうなるかについて、鈴木医師は次のように話しています。「まず、昔のことは覚えているけれど、直近のことが思い出せずに『ご飯を食べていない』と食べているのに言うようになります。さらに家を出ると帰り方が分からなくなります。そのために引きこもる方も多いです。身体的には、食べ物をちゃんと飲み込めずに肺に入って誤嚥性肺炎を起こしたり、転んだり、骨折したりなどの障害につながります。脳の機能が低下することで身体の動きも鈍くなるために、症状が進行すると自分で着替えたり食事したりすることもできなくなってしまいます」。
 
上記のように認知症が進行する前に、診断を仰ぐようにと鈴木医師は強調し、さらに認知症患者を介護する家族に向けても次のようなメッセージを送っています。「認知症患者さんの進行が進むと、ご家族は患者さんの性格が変わったように感じてしまいます。激しく怒ったりもします。そんな時に介護している自分に向けて怒っているのだと、パーソナルに受け取らないことが大切です。さらに、自分だけの力で何とかしようとせず、ヘルパーさん、周囲の人々、ソーシャルワーカー、公的機関の力も借りることで身体的・精神的負担を分散し、介護する側のメンタルヘルスも健康に保てるようにしていただきたいです」。

2. アメリカで家族が認知症になったら?

主治医に認知症と診断されたら、医療機関以外で公的なサービスを受けられるのか、費用はいくらかかるのか、認知症患者の入居施設についても調べてみました。

初期の認知症向けサービス

認知症

Keiroの「癒しケア」では医師、看護師、ソーシャルワーカーによるチームが対応。

1981年にロサンゼルスで設立されたAlzheimer’s Los Angelesは、「アルツハイマーを含む認知症によって生活に影響を受けた個人と家族を支援する」ことをミッションに掲げる非営利団体で、主に初期の認知症患者(MCI)を対象にしています。認知症にかかった本人、または家族がその対応策についてどこから始めていいか分からない際は、無料で相談を受け付けており、その相談者の状況によって必要な情報を提供しています。
 
同団体の日本語ウェブサイトに行くと、認知症患者を介護した家族をインタビューした動画(Keiroの助成金によって製作、Keiroについては後述)や、「怒り、いら立ち、けんか」「迷子になる」「幻覚」「自宅を安全な場所に」「薬」「被害妄想」「繰り返し」「夕暮れ症候群(日没頃に認知症患者に見られる徘徊、興奮、攻撃、叫び声、抵抗などの行動)」といったシチュエーション別の介護者が参考にできるアドバイスが掲載されています。
Alzheimer’s Los Angeles
Webサイト:https://www.alzheimersla.org/japanese/

患者の家族向けサービスも

青山裕美さん

取材協力
Director of Internal & External Communications, Keiro
青山裕美さん

「英語が話せても患者さんにとって適切な治療方法を選択するのは、医療システムが非常に複雑なアメリカでは困難なことです」と話すのは、日系および日本人コミュニティーの高齢者とその介護者の生活の質の向上を目的にサービスを提供しているNPO法人Keiroの青山裕美さんです。
 
認知症患者の家族を持つ人にぜひ利用してほしいと青山さんが話すのが「癒しケア」。同サービスの利用者の半数が認知障害を患っているとのことで、「癒しケア」の利用法について青山さんは次のように話しています。
 
「『癒しケア』は、緩和医療で評価が高いProvidenceとKeiroの提携によって開設された、医師、看護師、ソーシャルワーカーから構成される緩和ケアのプログラムです。利用を希望される方はお電話でお問い合わせいただくか、ウェブサイトから登録していただきます。その後、こちらから電話で状況を伺った上で、最終的には主治医の了承を得てから無料でサービスを受けられるようになります。保険の種類などによっては『癒しケア』の登録が受け付けられないケースもありますが、ご自身やご家族が判断する前に、まずはお問い合せいただきたいと思います。家族が認知症になってしまったので、何から始めたらいいか分からないという方も、またすでに治療を始めているが、その方法が適切かどうかの意見を聞きたい、さらには発症前や初期症状を発症している方が、将来の準備や今後認知症が進んでご自身で意思決定や意思疎通、判断能力がなくなってしまうことを見据えて、何を準備するべきかを相談したい場合も、『癒しケア』のチームのスタッフが対応いたします」。
 
登録後は、「癒しケア」チームが患者の主治医と連携をとりながら、患者とその家族の生活の質を向上するためのサポートを提供してくれます。なお、対面、オンライン、電話による相談、往診、さまざまな書類の準備のサポートは無料ですが、処方薬や介護者の派遣などでは実費が発生する場合があります。

 

福山可奈子さん

取材協力
Iyashi Care Clinical Social Worker, Providence
福山可奈子さん
Keiro「癒しケア」
☎️ : 213-873-5791

「癒しケア」チームのソーシャルワーカーの福山可奈子さんは「介護をされる方からは、認知症の方とのコミュニケーションの取り方をご相談されることが多いです。たとえば、徘徊をする、シャワーを浴びたがらない、お薬を飲もうとしないがどう対応したらいいか、といったことです。また、在宅介護から施設に移るタイミングについても相談を受けます。多くの場合、介護される方にとっては初めての経験なので、手探りの状態でご苦労されていることと思います。ソーシャルワーカーとして『そのやり方で正しいんですよ』と背中を押して差し上げたいですね」と話していました。

メモリーケア・ファシリティー

認知症

認知症患者が入居する施設のことは、Memory Care Facility (メモリーケア・ ファシリティー)と呼びます。メモリーケア・ファシリティーも通常のナーシングホームも入浴や着替えを含む24時間介護、食事付きという点では同様ですが、メモリーケアの場合は記憶障害を持つ入居者を対象としているため、入居者が混乱したり迷子になったりしないように、セキュリティー面がより強化されている点が特徴です。
 
さらに介護士は認知症患者に見られる特徴的な言動に対処できるような特別な訓練を積んでいます。それらの特徴とは「夕暮れ症候群」「記憶の喪失や混乱」「徘徊」「攻撃的な振る舞い」「幻覚」などです。
 
施設を選ぶ手段としては、まず、認知症を患っている入居予定者の症状を把握し、どのレベルのケアを必要としているかを洗い出します。次にそのレベルのケアを提供できる、家族が頻繁に訪問できそうな場所にあり、かつ予算内の施設をリストアップします。さらに実際に数施設を見学し、絞り込んでいきます。なお、ロサンゼルス地域のメモリーケア・ファシリティーの月額費用は3千ドルから1万6500ドルの間で、平均が8681ドルとなっています。
(出典:https://www.alzheimers.net/resources/california/los-angeles
 
ロサンゼルス近郊の日系のメモリーケア・ファシリティーを併設している高齢者施設は、サンフェルナンド・バレーの「Nikkei Senior Garden 」、ロサンゼルス市内の「Sakura Gardens of Los Angeles」があります。
Nikkei Senior Garden:https://nikkeiseniorgardens.com
Sakura Gardens:https://sakuragardenslosangeles.com

費用と保険

介護保険

40歳 男性 Preferred(健康状態優良)
インフレ対応上昇率年3%一生、免責期間90日 カリフォルニア州在住の場合
*既婚者は、夫婦で加入しなくても、掛け金が安くなります。
上記は既婚者ではなく独身者の場合です。
*女性の掛け金は男性より高くなります。

認知症を発症するとさまざまな対策を講じる必要が生じます。その対策には、医療機関での治療、徘徊などの防止、またはモニターするための安全面での機器、処方箋薬、デイケア、在宅介護、前述のメモリーケア・ファシリティーを含む介護施設入居などが挙げられます。介護する家族にとっても休息は必要なので、昼間だけ施設に預けるデイケアに始まり、在宅介護、さらに施設入居と段階を踏むごとに費用は高額となっていくのが一般的です。具体的な金額は、その個人が加入している保険の種類や在住している州によって大きく異なってきますが、全米でデイケアが1日26ドルから80ドル、在宅介護で1日95ドルから175ドル(出典:https://www.seniorlink.com/)、そして介護施設の費用は前述のようにロサンゼルス地域では月額平均8681ドルです。
 
65歳以上の人が利用できる「メディケア」は、基本的には医学的治療が必要になった場合に適用されるもので、認知症などの原因をはじめとして日常動作に支障をきたすようになった場合の介護費用はカバーしません。よって、介護保険にあらかじめ加入しておけば、デイケア、在宅介護、メモリーケア・ファシリティーの費用に充てることができます。

 

田口トレーシーさん

取材協力
Financial Advisor
田口トレーシーさん
☎️ : 888-575-0275
Webサイト

介護保険についてアドバイスしてくれたのは、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州の医療保険のライセンスを持つファイナンシャルアドバイザーのトレーシー田口さんです。「認知症に適用される主な保険は、まさに介護が必要になった時のために使える介護保険と、生命保険やアニュイティーに付いてくる介護保障、認知症用のサプリメント保険があります。介護保険に加入する審査は非常に厳しく、少しでも記憶障害の症状が出ていたら加入できませんので、掛け金が高齢になればなるほど高くなることもあり、早期の加入をお勧めします。また、介護保険に夫婦で加入すると、割引以外に、片方が自分の分を使い切っても、残っている配偶者の分を自分の費用に充てられる特約、さらに、掛け金自体は高くなりますが、万が一を考えて加入しておいて、使用しなかった時に掛け金が戻ってくる『リターン・オブ・プレミアム』などの特約を付けられるものもあります」。
 
ちなみに従来は、民間の介護保険のみでしたが、ワシントン州で2023年7月から、州が運営する公的介護保険制度が始まります。州内の給与所得者は給与の0.58%を介護保険の掛け金として天引きされます。田口さんによると「ワシントン州に続き、他州でも公的介護保険制度が検討されています」ということです。ただし、現時点の他州の詳細は不明です。
 
田口さんは「日本に永久帰国する方は別として、アメリカに住み続けるなら認知症を含む何らかの症状で介護されることを前提に、介護保険、もしくは介護費用に充当できる保険への加入を検討された方が良いと思います」と話しています。

3. 認知症の進行を抑える生活習慣

認知症を予防するために、また少しでも進行させないために心掛けたいことを、食生活と運動療法のそれぞれの専門家にアドバイスを求めました。

食生活

いとうひろよさん

取材協力
RD(Registered Dietitian)
いとうひろよさん
Webサイト

日米で栄養士の資格を持つ、いとうひろよさんは「食べ物だけで認知症を予防できるわけではありませんが、心身共に良好な機能を維持するためには食生活は大切です。特にビタミン、ミネラル、抗酸化物質を豊富に摂取していただきたいです。そのために最も簡単な方法が、果物と野菜を積極的に摂取するということです」と語った上で、「心掛けたい食生活のポイント」を次のように解説してくれました。
 
①旬の野菜と果物を摂取する:
緑黄色野菜にはビタミン、ミネラル、食物繊維や抗酸化作用を持つ栄養素が含まれており、それらが認知症予防に効果的との研究結果が出ています。野菜や果物はできるだけ新鮮な旬のものを選びましょう。好きなものだけを食べるのではなく、可能であればさまざまな種類の野菜を料理に取り入れましょう。サラダが好きな方はサラダ、また煮びたし、お漬物も消化が良いのでおすすめです。
 
②発酵食品を取り入れる:
腸内を整えると脳にも良い効果が期待されると言われています。腸内を整えるには味噌、しょう油、ぬか漬け、キムチ、納豆、ヨーグルトなどの発酵食品が良いとされています。一口に発酵食品と言っても「まがい物」が多く売られているのでお買い物の際には気を付けてください。味を良くするために塩分や糖分を加えられた物や食品添加物が多く含まれた製品が数多く見られるからです。品質の良い商品を選ぶようにしてください。
 
③ジュースより果物:
オレンジジュースを飲めばビタミンが摂取できると思うかもしれませんが、砂糖が含まれていたり繊維分が不足していたりします。ジュースよりも食物繊維と栄養価に優れたフレッシュな果物を積極的に取り入れるようにしましょう。
 
④過度な飲酒はNG:
「酒を全く飲まない」「少量飲酒」「中量飲酒」「大量飲酒」の4グループに分けた場合、認知症に最もなりにくいのは中量飲酒で、最もなりやすいのは大量飲酒のグループです。つまり、ある程度お酒を飲むことはリスクにはなりませんが、過度に摂取した場合はアルコールによって脳の萎縮が発生するので非常に危険です。
 
⑤過度な砂糖摂取もNG:
砂糖は身体の酸化を促進します。砂糖が大量に使われている炭酸飲料などは要注意です。
 
⑥ファストフードは油に不安要素:
フレンチフライを揚げる油の質が良質なものかどうかを確認することは難しく、フレンチフライ自体も粉を練って形成していることが多いのも健康面に与える影響が心配です。フレンチフライは、ジャガイモを家で素揚げして食べる方がずっと健康的です。

運動療法

青山惠一さん

取材協力
DC(Doctor of Chiropractic)
青山惠一さん
Zui of Chiropractic
☎️ : 503-941-5465
Webサイト

脳の障害を負った人々にリハビリを指導しているカイロプラクターの青山惠一さんに、認知症を患っている人にお勧めの運動を紹介していただきました。青山さんのクリニックには本人と介護する家族とが一緒に訪れることが多いとのことで、「サポートする人には患者さん本人の人格を否定しないこと、また、スキンシップが大切であることを認識してほしいと思います」と、介護者も次のような運動に一緒に取り組んでほしいと話しています。
 
①椅子に座ったまま体を左右にねじる:
椅子に座って腕を回しながら右へ、次は左へと体をねじる動作を5セットから10セット行います。急いでやる必要はなく、回数を数えながらゆっくりとねじりましょう。
 
②椅子に座ったまま、その場で歩く:
背もたれのある椅子に腰を深く落ち着け、足を浮かせて歩くような動きを繰り返します。またはひざを上下に動かす動作でもいいでしょう。
 
③ラジオ体操:
昔からなじみのある音楽に合わせた体操は、体のためだけでなく脳に良い刺激を与えます。
 
また、このような運動以外にも、介護者が患者の体を優しくマッサージすることで、体がほぐれ、血液の循環が良くなって脳に血液を送り込むことによって脳にも良い効果が期待できるということです。さらに血液の循環を良くするために、「1日に最低でも2リットルの水を飲むようにしましょう。トイレに行く回数を抑えるために水分を取らない人が少なくないですが、周囲の方が水分摂取をこまめに勧めてあげてください」とアドバイスしてくれました。

日本の認知症患者専門施設

日笠光生さん

取材協力
日笠光生さん
桜梅桃里
☎️ : (81)86-238-8290
Webサイト

日本の施設の事情について、岡山県で8カ所の認知症専門の高齢者向けグループホームとその他住宅型有料老人ホームおよび訪問介護サービスを展開している桜梅桃里代表の日笠光生さんに伺いました。
 
最初に施設を下見する際のチェックポイントを日笠さんに挙げていただきました。「まず、アメリカにお子さんがいて、日本の施設に認知症の親御さんが入居する場合、空港からの交通アクセスなどが便利な場所が良いと思います。次に施設側がアメリカにいる家族とオンラインでやりとりしてくれることも大事です。また、施設内でのアクティビティーやレクリエーション、また外出支援が充実しているかどうかも確認してほしいですし、何より介護スタッフがそこで生き生きと働いているかどうかを見るようにしてください。そして、内科、精神科、歯科、調剤薬局の往診が受けられるような医療機関との連携はかなり重要です。最後に、追加料金が発生しないかどうかもチェックしましょう。施設によってはお茶やソフトドリンク1杯いくらと料金を請求するところもあります。蓋を開けたら高額だったということにならないようにあらかじめ確認しておいてください」。
 
気になる料金ですが、桜梅桃里の場合は、日本で介護保険を納めるという条件で、月の食事、家賃、管理費が12万円から13万円、それにプラスして介護保険の負担額は収入によって2万円から9万円ということです。つまり最大で月額22万円になります。介護保険は、日本国籍保持者で日本国内在住者であれば40歳以上は加入義務がありますが、海外在住者の場合、日本に住民票を移した段階で加入すれば良く、しかも介護保険が適用されるのは大きなメリットと言えます。ただし、認知症専門のグループホームの場合は、日本国内の医師による認知症の診断書が入居条件となっています。日笠さんは介護付き有料ホームと認知症専門施設との違いを、桜梅桃里を例に挙げ、次のように解説しています。「まずは介護スタッフと入居者の人数の割合が違います。当施設の場合は、入居者3に対して介護スタッフ1という割合で、朝の9時から夜の9時までは3対1の割合のスタッフが常駐し、夜間は1名のスタッフが残ります。また、スタッフは認知症の専門知識を身に付け、介護方法を研修で習得しています。認知症の方には、同じことを繰り返し言ったりとさまざまな特徴的な言動が見られます。そのような入居者への対処方法を熟知しているスタッフがそろっているので安心していただけると思います。このように、認知症専門施設のスタッフには、体のケアだけでなく心理面でのケアにも高いレベルが求められます」。
 
日笠さんは一時帰国の際などに日本の施設を見学するようにと勧めています。

【体験談】 認知症の家族を持つ方に聞く
「孤立させない、本人の希望をノートに残す」

M・Tさん(オレンジ・カウンティー在住)
アルツハイマー型認知症を患う母は現在88歳です。4年前に日本から呼び寄せて私の家族と一緒に暮らしています。15年前に父が亡くなった後、一人暮らしを自由に楽しんでいたのですが、10年ほど前に物忘れが激しくなり、私が日本とアメリカとを往復して世話をしていました。本人が「老人ホームには入りたくない」と言うので、母の希望も聞いた上でアメリカでの生活が始まりました。
 
渡米した当初は、家族でハイキング、旅行に出かけたり卓球を楽しんだりして、心身ともに元気になっていくのが目に見えて分かりました。ただし、母は認知症のせいで同じことを繰り返し聞いてくるので、それを毎回、気長に相手するのが大変ではありますね。でも、こっちが疲れて返事をしなくなってしまうと、母に怒りや疑いの感情が生まれてしまうので、とにかく毎回きちんと対応します。うちの場合は主人や子どもたちも皆が理解を示してくれるので助かっています。皆が母に話しかけて、「気にかけている。家族の一員だ」ということを伝えてくれています。それがないと母も疎外感を感じてしまうと思うのです。家族皆が母に対しては気長に相手をする一方で、母以外の家族に対しては普通に短気です(笑)。また、主人が家で仕事をしているので、私が気分転換に友達と出かける時には、彼が快く母の世話を請け負ってくれることもありがたいです。
 
そして、母とは話し合いながら、エンディングノートに今後どうしたいのかということを書き留めています。認知症でも、その時思っている気持ちをごまかしたり、嘘をついたりすることはなく、(ノートには)正直に書くので、母がどうしたいかを意思表示できなくなった時に必ず役立つはずです。たとえば「植物人間にはなりたくない」などと書いていますね。
 
認知症の家族を持つ方へのアドバイスを私からするとしたら、とにかく一緒に笑って過ごしてほしいということです。そのためには孤立させず、家族の輪の中に入れて話も聞いてもらいましょう。私の母などは、私と主人が夫婦喧嘩していると、その原因がくだらないことだからか、そばでくすっと笑うこともあります。それから、本人には優しく接することです。家族として本人には幸せな時間を過ごしてほしいという気持ちを忘れないようにしていただきたいと思います。

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版2023年3月16日号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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