体力が続く限り教えて
ダイビングの楽しさを多くの人に伝えていきたい
プロゴルファーになるために渡米したが、腰を痛め断念。その気晴らしで初体験したスキューバ・ダイビングの魅力の虜となり、インストラクターの資格を取得した幸村さん。カリフォルニア州では数少ない、フルタイムの日本人ダイビング・インストラクターとして活躍する。その醍醐味を聞いた。
そもそもアメリカで働くには?
- アメリカで働くためには、原則として合法的に就労可能な「ビザ」が必要になります。
アメリカ・ビザの種類と基礎知識 - 日本から渡米してアメリカで働く方法として、18ヶ月の長期インターンシップも選択肢の1つ。
アメリカでワーキングホリデーのように働く!「J-1ビザインターンシップ」徹底解説
ゴルファーからダイバーへの転身
高3の時にゴルフ留学を決意。高校卒業後、プロゴルファーを目指して、1996年にロサンゼルスに来ました。渡米後、1年くらいレッスンを受けていたのですが、昔からあまり良くなかった腰を痛め、言葉の壁もあって挫折してしまいました。実は今でも未練はあって、たまにクラブを握ると、昔の思い入れが甦ってきたりしますね(苦笑)。
ゴルフのレッスンを断念し、カレッジに入りましたが、身体を動かすのは好きだったので、ソフトボールや野球を軽くプレイしていました。そんな時、「ダイビングに行こう」と誘われて、あまり海は好きではなかったのですが、一度やってみようと出掛けました。最初は難しかったのですが、だんだん慣れてきて、楽しさがわかってきました。
特にカリフォルニアは、ダイビングで「ハンティング」ができるんです。潜っている最中にエビを取ったり、ウニを取ったり、魚を突いたり。最初はそれにすごく夢中になって。4年制大学に編入した後も、気が付いたら授業の空き時間はほぼ毎日潜っていた感じです。
いつも一緒に潜っていた日本人インストラクターが、ある時「ちょっと教えてみるかい?」って、手伝わせてくれたんです。40代や50代の方も生徒として来ていて、当時22、23歳の僕に「今までこんなに感動したことなかったよ」と、すごく感謝してくれました。「こういう仕事ができたら、すごく幸せだろうな」と、その時思ったのが、インストラクターを目指したきっかけです。お世話になっていたダイビングショップが、インストラクターの養成もしていたので、学校に通いながらインストラクターの授業を取り始めました。
スキューバ・ダイビングには、まずビギナーコースがあり、その上にアドバンス、さらにマスター・スキューバダイバーというレクリエーションの範囲では1番上のクラスがあります。インストラクターになるには、そこからさらに、リーダーシップコースに進まないといけないんです。リーダーシップコースでは、〝ダイブマスター〞といって、免許を持っているダイバーをガイドできるライセンスを取ります。
ビギナーコースですと、教材を渡され、プールで2~3回、海で行うスキルを実習します。それから水泳のテスト。アドバンスでは、ナイトダイビングやディープダイビング、コンパスを使ったナビゲーション、水中カメラ、サーチ&リカバリーといった色々なダイビングのスタイルを勉強します。マスター・スキューバダイバーのコースは、すべてのダイビングスタイルを修得し、物理学などのアカデミックな勉強が中心となります。難しかったですが、やりがいがありましたね。
リーダーシップコースは、どうやって生徒を教えるかというティーチングスキルを磨きます。アシスタント・インストラクターを経て、その上がインストラクターです。僕が所属するNAUIという団体では、インストラクターは、ダイブマスター、アシスタント・インストラクターにも教えることができます。
インストラクターになるわけですから、現場に出て実際に教えないといけない。コースディレクターの前で生徒に教え、それが採点されます。それからアカデミック・プレゼンテーションやプール、海洋でのプレゼンテーションがあったり。また、リーダーシップのダイブマスターになるには、最低でも60本の海洋実習が必要です。スキルチェックでは、900ヤードを18分以内にスキンで泳いだり、25ヤード素潜りしたりします。それらをすべてパスすると、最後に100問の筆記テストを受け、それをパスすれば、晴れてインストラクターです。
1つのコースは、集中すれば1カ月程度で終えられます。リーダーシップコース修了まで半年という人もいますが、僕は3、4年かけて修了しました。早く取ることよりも、どれだけ経験を積むかが重要だと思ったので。
資格を取得してから、05年に1度日本に戻りました。日本に帰る前にショップから「ウチで働かないか?」と誘われたのですが、ビザの問題があったので、いったんはお断りしました。しかし、06年末に再渡米でき、ショップの方から「働くか?」という言葉を再びいただいたので、07年からインストラクターとして働き始めました。
身体の疲れがたまっても常に集中力を持続させる
水の中に入ってしまえば、ハンドシグナルで通じるので、言葉の壁はまったく感じません。ですが、教えるとなると、生徒が完璧に理解していないと安全に関わります。1度で伝わらないことが、未だにたまにあるので、英語はやはり大変ですね。元々、日本人の生徒を教えようと思っていたのですが、日本の方にとってカリフォルニアの海は、ダイビングよりサーフィンなんですね。だから、生徒さんが付かなくて。幸いショップが現地の高校の体育を教えるプログラムを持っていたので、今、インストラクターの仕事のうち95%は英語を使っています。多い時には1クラス生徒が36人います。それでも全員にちゃんと理解させないといけない。最初は言葉のハンデもあって、どうしたらわかってもらえるだろうって、途方に暮れました。しかも、僕も高校生の時はそうだったんですけど、わからないけど、わかったフリをするんですよね(苦笑)。
また、ダイビング中にパニックを起こす生徒もたまにいます。ですが、そういう時でも、意外に冷静でいられます。インストラクター見習いの時は、パニックになっている生徒を見ると、こっちもパニックになりそうでした。しかし、インストラクター・トレーニングコースで、教官に助けてもらって四苦八苦しながら切り抜けた経験が、今すごく活きていると感じます。
カリフォルニア州に関して言えば、ダイビング・インストラクターはパートタイムの人が圧倒的に多いんです。僕は月曜から金曜まで朝7時半から高校に行って、午後2時までずっと教えています。朝早起きして、ギアを何個もセットアップして生徒を教え、土日は海で教えることもあります。休みなく働いていると、身体の疲れも蓄積してきます。しかし、いつも集中力を切らさないよう心がけています。
ダイビングの醍醐味を多くの人に伝えたい
趣味で潜るのと、インストラクターとして潜るのとでは全然違います。趣味で潜るのは自分の楽しみ。ですが、教えていると生徒の喜ぶ顔で、自分も幸せになれます。教えている時に笑顔が浮かぶのが一番うれしいですね。生徒も真面目にずっと教えられていたら長続きしないので、笑いを取って、楽しい授業にしていくのが僕のポリシー。教え始めたばかりの時は、言うことを聞かない生徒にイライラしてしまっていたんですけど、最近は、そういう生徒をうまく使って笑いを取りながら授業を進めると、他の生徒も笑ってくれるし、自分もイライラがなくなることがわかりました。
この仕事で高給を得るは難しいので、ダイビングが好きで、人と話したり、教えることを楽しめないと長続きしないと思います。昔は自分のショップを作りたいという夢がありましたが、そうすると経営メインで、教えることができなくなってしまいます。だから、今は体力が続く限り教えて、たくさんの人たちにダイビングを経験してもらいたいです。
水中で30~40分も魚と泳いでいると「なんで魚と一緒に泳げるんだろう」って、不思議な気持ちになります。僕はその不思議な感覚に魅せられて人生が180度変わってしまいました。だから、日本の人たちに、もっとダイビングの楽しさを伝えていくのが、僕のこれからの目標です。
(2010年4月1日号掲載)