日本人の美容技術やサービスは世界一
これからもっと優れた人材が海外に出てほしい
アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回はサービス業が好きで美容師の道に入り、自らトーランスで美容院を経営している山田実さんをご紹介。日本の美容業界の将来を見据え、その体質やシステムを変えていこうと、日本とアメリカの美容業界の架け橋となって日夜奔走している。
そもそもアメリカで働くには?
- アメリカで働くためには、原則として合法的に就労可能な「ビザ」が必要になります。
アメリカ・ビザの種類と基礎知識 - 日本から渡米してアメリカで働く方法として、18ヶ月の長期インターンシップも選択肢の1つ。
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実力主義に憧れてアメリカに
人々を幸せな気分にするサービス業が大好きで、15歳の頃は、毎週のように幕張のディズニーランドに行きました。ホテル業にも憧れて、新宿のセンチュリーハイアットに通い、フロントマンの近くに座って観察していました。
高校では、バイクやケンカに明け暮れて、1年の春に中退。美容学校に進むことにしましたが、サービス業がやりたくて、学校の傍ら水商売の世界に。客引きやウエイターなど2年間やりました。夜は仕事で昼間は衣装を縫い、ショーの構成を考え、踊りの練習をする。彼らの徹底振りに感銘を受けました。
ところが、美容学校の方は100人中100番の最下位。成績のいい同級生は名サロンに就職していきましたが、僕は水商売上がりで生意気だったこともり、どこも雇ってくれませんでした。やっと入った美容院ではずっと下働き。先輩・後輩の上下関係がとても厳しい。実力があって、売り上げが出せればいいという世界ではないんです。それが僕には納得がいかなかった。
2年目にはブースを借りて、朝7時から夜中の12時まで働きました。また、休みの1日は美容業の経営コンサルタントの運転手をやり、彼から学びました。いずれ美容師をマネジメントする立場になりたいと考えていたのです。
日本では、一流美容院と呼ばれるところには、中途では採用してもらえない。「彼らを越えるにはアメリカに行くしかない」と23歳で渡米。英語もできず、労働ビザも美容師のライセンスもない状態からのスタートでしたから、どこも雇ってくれない。でも、やっと知り合いの紹介でハリウッドの美容院で働くことができました。日本人オーナーのMAROさんは30年間そこで経営しており、お客様は100%アメリカ人。日本では「カリスマ美容師」が持てはやされていた時代でしたが、彼は1人1人に丁寧なサービスを常に提供していた。当時自分はまだ生意気でしたから、彼の大きな心に降参してしまいました。
日本とアメリカの美容業界をつなぐ架け橋に
そこで2年間働いた後、トーランスのピアヘアサロンから働かないかと声をかけられ、手伝うことに。その後、その方に「無利子でいい、返済はいつでもいいから店を買ってほしい」と言われて。名義を自分に変えたのが89年8月。美容師である妻との結婚式も同じ月に挙げました。
夫婦で店をやっていれば一生安泰です。しかし、自分はオープン当初から、日本とアメリカの美容業界の架け橋になりたいと考えていました。最初は赤字続きでしたが、4年でなんとか安定。その後、ビザのサポートも行い、スタッフを増やしました。そして6年前、もう1店舗増やすか、日本の美容師をサポートする事業を始めるか、今後のことをスタッフと相談。これから5年は死ぬほど大変だが、将来開けていく、と後者を選びました。
まず美容師専門の留学プログラムに着手しました。日本の美容業界では優秀な美容師の流出に乗り気でない。そんな中、美容師用の求人雑誌『request/QJ』を手がけるセイファート代表の長谷川高志氏と知り合いました。日本の美容業界を変えていこう、美容師の社会的地位を上げていこうという思いが同じで、意気投合したんです。創刊当初、求人雑誌は美容業界ではタブーでしたが、実際のニーズは大きく急成長していった会社でした。そこに留学プログラムの広告を無料で掲載してもらったのですが、これが大反響。01年からプチ留学と研修をスタートさせました。そして、04年2月、セイファートUSAの代表を任されました。
日本には美容師が20万人、18万店の美容院があります。マーケットとしても非常に大きく、他業種とつなげていくことができる。セイファートでは、美容院に置かれる雑誌を20%引きで定期購読する契約を雑誌社と行っています。アメリカ支部では、海外ウェディングを手がける会社と提携し、美容師をグアムやハワイに派遣して、ヘアメイクを担当するなどの業務を開始します。
海外経験を積んで、センスを磨いてほしい
今後、少子化が進み、美容師の数も減っていくと予測されます。僕は美容師が素晴らしい職業であると伝えることも使命だと思っています。渋谷の109の前でファッションショーを行い、高校生に美容師の技術にトライしてもらうといったイベントもやっています。
今、日本ではどの業界でも、5~20%は英語が話せて、4、5年の海外経験のある人が活躍しています。ところが、美容業界はセンスを売る職業なのに、英語が話せるのは1%程度、海外経験のある人も数少ないんです。日本人の美容技術とサービスは世界一です。ですから、どんどん海外に飛び出して活躍してほしい。日本人という誇りを持ちながらアメリカナイズされた人間になってほしい。美容師のための英語学校も始めますし、留学生を支援するプログラムを増やしていきます。
昔は、こうしたいという野望もあったのですが、今は与えられた貴重なチャンスに感謝し、ベストを尽くしていくことが大事だと思っています。そして、やっている間は文句や人の悪口を言わない。絶対に諦めない、不満を言わない。するとチャンスがやってくる。思いが強ければ必ず道は開けることを証明し、多くの美容師に夢と希望を提供していくことが自分の使命だと思っています。
(2006年4月16日号掲載)