飛行機乗りは、みんなええカッコしい
でも、それは大切なモチベーションなんです
アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回はフライトインストラクターの長岡洋昭さんをご紹介。日本での就職を袖にして航空留学し、インストラクター免許を取得。日本人インストラクターがレッスンを行うフライトスクールを、今年1月にサンディエゴで設立。大空への憧れを現実にするための手助けをしている。
そもそもアメリカで働くには?
- アメリカで働くためには、原則として合法的に就労可能な「ビザ」が必要になります。
アメリカ・ビザの種類と基礎知識 - 日本から渡米してアメリカで働く方法として、18ヶ月の長期インターンシップも選択肢の1つ。
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苦手な英語は
飛行機の専門書で勉強
アメリカに来たのは1990年10月。同年3月に東海大学法学部を卒業し、内定もいただいていましたが、父がJALのパイロットで、子供の頃から飛行機の写真が身の回りにあり、「やっぱり自分も飛行機、やってみようかな」という漠然とした軽い気持ちが、渡米のきっかけです。
サンノゼにあるパイロットの養成学校に通い始め、プライベートパイロット、日本では自家用免許と呼ばれていますが、それをまず取得することにしました。でも僕は、買い物に行くのも躊躇するぐらい英語が苦手。ただ、専門書を読まないと飛行機の勉強ができません。飛行機が好きだったので、英語の勉強は専門書でしました。
インストラクターの言うことも、最初は全然わからなかったです。でも、航空無線などはアメリカ人でも最初はわからないんです。僕は航空無線の受信機を買って、滑走路の横に1日中座っていました。実際に目前を飛行機が通って行って、受信機から話していることが聞こえます。そうすると、どういう指示で、飛行機がどういう動きを取ったかがわかってくるのです。実際に飛行機に乗って勉強すると、お金がかかりますが、これならタダです。また、学科試験はすべて問題集の中から出題されます。だからちゃんと勉強していれば、まず落ちることはありません。
開かれた米航空業界
飛行経験を積めばプロに
飛行機の免許には、プライベートの次にコマーシャルパイロット(事業用免許)があり、それに加えて計器飛行証明があります。それらの免許を取得すると、今度はインストラクターの受験資格がもらえます。そのテストに受かれば、インストラクターになれます。
その中で1番難しかったのは計器飛行証明。普通、飛行機は、有視界で外を見ながら飛ぶんですが、計器飛行は計器だけを見て、後は管制官と通信しながら外を見ないで飛びます。天気が悪い時、雲中を飛ぶことを想定しているんですが、外の景色を見るのが楽しくて乗っているのに、外が見れないとは何事ぞという感じでした。
また、インストラクターの試験では、試験官が生徒に扮します。空に行くと試験官が、普通そんなことやらないだろうというような、無茶苦茶なことをやるわけです。それを感情的にならないで、適切に安全に正してやることができるかが課題になります。
インストラクターになりたくて免許を取る人だけでなく、プロのパイロットになりたい人も、インストラクターを経ていきます。プロになるには、何千時間という飛行経験が必要なので、自分でお金を払って飛んでいたらとんでもない。だから、インストラクターになって教えながら飛行経験を積んでプロになる人が多いんですね。
日本には、実はそういう道がないんです。アメリカは航空業界が結構開かれていて、そうやって地道にインストラクターを経て、よじ登っていくルートがあるんですよね。日本は「アメリカで免許を取ってきてください。戻って来たら、あとは会社で教えます」という世界みたいです。
嫌なことがあっても
空に上がれば忘れられる
実は、僕もアメリカンやユナイテッドに入って飛びたいと思っていましたが、最悪な時期には生徒が1人もいなくて、1カ月の給料が600ドルだったことも。当時はアメリカで免許を取ってきた人が、日本に帰ってパイロットになれる環境ではなかったので、日本に帰ってもプロになれない。ある時、昔の生徒に連絡を取ってみたら、1人目の生徒は全日空のパイロットになっていました。「僕の生徒が全日空のパイロット!」と驚いていたら、他の生徒も全日空系列のパイロットでした。2007年問題が日本の航空業界にもやはり響いていまして、団塊の世代のベテランパイロットたちが一斉に退職します。ですから、今年から来年にかけて、パイロットがものすごく不足するんです。
自分の手でラインパイロットを育てるのも楽しいかもしれないと思い、97年にサンディエゴに移って、今年の1月11日にSky Gate Aviation, Inc.を立ち上げました。フライトスクールを立ち上げたいと、前からずっと思っていたんです。昔の教え子がプロになっていたこと、さらに「スクールを始める」と言ったら「協力するよ」と言ってくれたことが、きっかけになりました。
上から下界を見ると、すべてが細かいんですよ。ちっちゃいクルマがうごめいていたり。だから、何か嫌なことがあっても、空に上がっちゃうとちっぽけなことに思えます。渋滞もありませんから、空港から離れて無線を切るとすごく静かになります。それで、ぼーっと飛んでいるとストレス解消になります。それが面白くて、ずっと飛び続けてきたんでしょうね。
今後はヘリコプターも導入して、実現するかどうかわからないですが、5年以内に小型ジェットを入れたいですね。飛行機乗りは、みんなええカッコしいですから(笑)。でも、それは大切なモチベーションなんですよ。パイロットと言えばカッコいいとか、スチュワーデスにモテそうとか。動機はともかく、諦めないでとことん追求していけば、夢はいつか叶うはずです。
(2006年9月16日号掲載)