トラベルエージェント(企画・コーディネート系):久保 徹さん

ライトハウス電子版アプリ、始めました

大それたビジョンなんてなかった
ずるいことはしない、だまさないが基本

アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回は旅行代理店を経営する久保徹さんを紹介しよう。大学卒業直後に渡米。現地旅行会社に就職し、2年後には独立。バブルにも踊らされず20年以上も会社を育ててきた。現在、ガーデナでトラベルオリエンテッドを経営している。

【プロフィール】くぼ・とおる■東京都出身。1958年生まれ。81年、日本の大学を卒業すると同時に単身渡米、現地日系旅行会社に就職。83年に独立。87年、トラベルオリエンテッドに改組。日本人、日系人のための旅行のみならず、アメリカ人のための日本行きツアーにも力を入れ、幅広く旅を演出している。
www.traveloriented.com

そもそもアメリカで働くには?

知人を頼って単身渡米
2年後には独立

オフィスのメンバーと一緒に。常に各地の最
新情報を集めて、顧客に提供している

 1981年に日本の大学を卒業しました。当時は人気業種でもあった旅行業を目指していましたが、自分の思い描いていた旅行の仕事とは違う事に気がつき始めました。大きな会社だと部署も細かく分かれており、自分の希望職種に進めない可能性があるという先輩の言葉にもショックを受けたのを、今でも覚えています。
 そんな折に、ロサンゼルスで旅行会社を経営していた知人から「アメリカへ来たら」と誘いを受け、卒業と同時に渡米しました。当初は軽い気持ちで、1年くらいと思っていたのですが、2年後にその会社が廃業となり、それを契機に独立しました。不安はありましたが、当時は独身でしたし、割合簡単に考えて起業しました。
 83年、24歳で現在のコリアタウンにアーバントラベルという名前で開業しました。当時は日系1世や帰米2世の方たちの旅行需要が多く、訪日団という名の日本への里帰りツアーがたくさんありました。悪いことは忘れる主義ですので、あえてお話できるような苦労話は覚えていませんが(笑)、若く経験が浅いうちに独立したので、会社の運営上、未知な事柄の連続だったと思います。
 87年にコーポレーション組織に改組し、現在のトラベルオリエンテッドに社名を変更しました。「旅行」のトラベル、「東洋」のオリエントにEDを加え、旅行に長ける会社を意味します。当時の日本はバブル期で、会社としてはまずまずのスタートでした。バブルピーク時には多くのお客様がビジネスクラスで家族の呼び寄せをされたり、留学生の方々でもファーストクラスやビジネスクラスで里帰りされたり、BMWやベンツで航空券の受け取りにいらっしゃることが珍しくない、ちょっと変な時代でした。

ネットにはできない
情報力と対話

細やかな気配りを続けている久保さんのとこ
ろには、毎日相談の電話が引きも切らない 

 近頃のインターネットの普及により、最も大きな変化のあった業種の1つが旅行業と言われています。インターネットを利用すれば、単純な航空券の手配は、誰もがものの数分で完了する時代です。一般に旅行会社には大きく分けて2つのタイプがあります。航空券の販売に特化した会社と、旅行全般を扱う会社です。私たちが目指すのは、すべての旅行ニーズに応えることができる会社です。私たち旅行代理店に求められるものは、お客様の不安を取り除き、期待に応えられる情報力です。求められたことには迅速に応えられるようにと、従業員に常に要求しています。例えば、時刻表を暗記する必要はありませんが、どこを調べればわかるかという情報を入手し管理しておくことが、最低限必要です。繰り返しになりますが、インターネットを利用すれば誰でも旅行情報は手に入ります。だからこそ私たちは、インターネットでは一般的に引き出しえない「生の情報」を常にご提供できるように心がけています。
 もう1つ大切なことは、お客様と「お話し」することです。直接エージェントとお話しされたい方はまだまだいらっしゃいます。特にツアーのご相談はインターネットではできませんからね。ガーデナという土地柄は日系人や年配の方々も多く、日本行きツアーなどのご相談に直接来店してくださいます。電話で済む用件でも「顔を見て話したい」とおっしゃる方たちのお世話は、これからもずっと続けたいと思います。
 ご丁寧にお礼状をいただいた時には、この仕事をしていて良かったなと思います。先日も弊社の日本ツアーをご利用いただいて、41年ぶりの里帰りをされた方より「日本の美しさ、日本人の優しさに驚き、うれしかった」とのお便りがありました。こういった感想やお問い合わせの内容から、日本や、日本文化に対する興味は非常に高いと感じ、外国人向けの日本行きツアーにも力を入れています(www.japandeluxetour.com)。ツアーを通して日本に対する理解が多少でも深まれば、少しは日米友好のためにお役に立てているかなと思います。

20年続けてこれたのは
「毎日の積み重ね」だけ

 20年以上もこの業界に身を置いてきましたが、大それたビジョンも他の方にお伝えできるような成功の秘訣などというものは私にはありません。ただあえて1つだけ申し上げるとすれば、すべてに通じますが「毎日の積み重ね」と「悪いこと、ずるいことはしない。人をだまさない」という祖父の教えを守っていることでしょうか。
 最後に、旅行業界で働きたいという方々へのアドバイスですが、この業界で働くには単に「旅行好きだから」という理由では難しいかもしれません。旅行会社だからといって旅行用の休みが多いわけではないですし、添乗旅行は仕事ですから楽しんでいる訳にもいきません。旅行好きと言う理由でこの職種を選択することもあるかと思いますが、結局はサービス業全般に言えることで、「人のお世話が好き」「人と話すことが好き」、つまり人が好きな人でなければこなせない仕事です。
 私はこれからもこの職種を細く長くやって行きたいと思っています。コツコツやっていれば必ず報われると私は信じています。一般的ですが、やり甲斐のないように感じられる仕事でも真面目にやっていれば誰かがどこかで見ていて、いつか必ず評価してくれると思っています。
 
(2006年12月1日号掲載)

「アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)」のコンテンツ