この仕事は、毎日がドラマ
どんな患者も救ってあげたい
アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回はパラメディック(救急救命士)の成川憲司さんを紹介しよう。高校生の頃からパラメディックになることを目指し、「10年計画」を立案。いつも崖っぷちにいる気持ちで地道な努力を続け、現在、チュラビスタにてパラメディックとして活躍する。
そもそもアメリカで働くには?
- アメリカで働くためには、原則として合法的に就労可能な「ビザ」が必要になります。
アメリカ・ビザの種類と基礎知識 - 日本から渡米してアメリカで働く方法として、18ヶ月の長期インターンシップも選択肢の1つ。
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人命を救いたい
という強い思い
母が看護婦だったからなのでしょうか、昔から病気やケガで生死をさまよっている人たちを助けてあげたいという気持ちが強く、日本で救急救命士という職業について色々と調べてみました。日本の救急救命士が行える救命措置には、かなりの制限がある一方、アメリカのパラメディックは、医師と同じ処置・治療を施すことができるという大きな違いがあることがわかりました。その分、パラメディックの資格を取ることは容易ではなく、何段階にもわたって講習と実習、そして試験が繰り返されます。
僕は高校生の時に、まず、将来パラメディックになるための「10年計画」を立てました。高校卒業後は、日本の大学の生物科で、あらゆる生き物について勉強し、その後、サンマルコスにあるパロマカレッジのEMT(Emergency Medical Technician)科のベーシックコースに入学しました。ここで1年間、パラメディックの基礎を学び、コース修了後に国家試験を受けなければなりません。この試験に受かると、次は最低6カ月間の実務研修をすることになります。あまり一般には知られていないのですが、アメリカのパラメディックは、市が運営しているパブリックサービスと、民間の救急会社が、市から委託されて業務を行っているという2パターンあります。
僕は、AMRという民間の救急会社で実務経験を積みました。そして、実務経験を積んだ後に、カレッジのプレパラメディック講習を受け、パラメディック科に進学。しかし、同科には入学試験があり、合格率は60~70%。毎日、死に物狂いで勉強した結果、1度の受験で合格・入学することができました。
試験に落ちたら
帰国しかない
しかし、本当に大変だったのは入学した後。医師を目指す人が9年間じっくり学ぶことを、9カ月間で頭に叩き込まなければならないのです。病院や現場などでの実務研修では、教えてもらうというよりは、学んだことを試される毎日です。うっかりミスをしようものなら、入学試験からやり直しになってしまいます。
テストも厳しく、この9カ月間で、精神力も相当鍛えられました。このコースが修了して初めて、いよいよ国家試験を受ける資格が与えられるのです。試験は3時間にわたる筆記試験と、8種類の実技で構成されるのですが、なんとかパスし、渡米から約4年半、念願のパラメディックの資格を手にしました。
資格取得後は、手当たり次第、民間のパラメディック救急会社に飛び込み、自分を使ってほしいと売り込みました。ラッキーなことに、以前、実務研修を受けさせてもらっていたAMRが採用してくれて、現在に至っています。長い道のりでしたが、ビザの期限もありましたので、「試験に落ちたら帰国しかない!」という、後がない気持ちで頑張ったのが、良かったのだと思います。
瞬時の判断が
人命に直結
この仕事は、毎日がドラマ。一般的な病気で搬送を必要とする人もいれば、薬物中毒や銃で撃たれた人、ナイフで刺された人などもいます。現場での瞬時の判断が、人命につながるわけですから、その責任は重大です。
どんな患者も救ってあげたいと、最善を尽くしていますが、特に患者が子供だった場合には、なんとも言えない辛い気持ちになりますね。また、救えなかった患者の家族へ死を告げる時は、どんな場合でも本当に辛いものです。でも、次から次へと的確に業務をこなさなければならないこの仕事は、落ち込んでいる暇はありません。肉体的にも精神的にもこうした苛酷な状況を乗り越えられるようになったのは、学生時代の厳しい実務研修があったからこそだと思います。
逆に、この仕事をやっていてうれしく思うことは、患者が助かった時や搬送先のERドクターから「良くやった」と、ほめられた時ですね。この仕事のやりがいを感じることができる、うれしい瞬間です。
これからの目標というか、実現したいと思っていることは、アメリカのパラメディック事情を、日本の救急救命士たちに伝えていくこと。例えば、アメリカでは気道を確保するための気管内挿管や、心臓蘇生術の薬剤投与も、必要ならば救急救命士が行うことができます。しかし、日本では心肺停止が確認された患者にのみ、施すことが可能なだけで、救急救命士が行える処置の範囲は大きく制限されています。実はこれまでにも数回、日本でセミナーを開き、こういったアメリカと日本のパラメディックの違いを話したことがあります。
日本の救急救命士たちが自らアクションを起こし、法律の改正や、教育、資格について改善を求めていかなければならないと思います。アメリカでの僕の経験を、日本の救急救命士の発展に少しでも役立てることができればうれしいですね。
アメリカで、夢を実現するために頑張っている日本人は、たくさんいると思います。僕が言えることは、「気合いで頑張るしかない!」ということですね。後がないと思えば、人間どんなことでも頑張れるものです。夢が実現するよう、崖っぷちに立った気持ちで頑張ってください。
(2007年2月1日号掲載)