日本人の女性カイロプラクターとして
アメリカでがんばる日本女性の役に立ちたい
アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回はカイロプラクターの菊入真紀さんを紹介しよう。アメリカ人カイロプラクターのセミナーに参加したことがきっかけで、体育教師への道から一転して渡米し、カイロプラクティックの学校へ。現在は、日本人女性カイロプラクターとして活躍中。
そもそもアメリカで働くには?
- アメリカで働くためには、原則として合法的に就労可能な「ビザ」が必要になります。
アメリカ・ビザの種類と基礎知識 - 日本から渡米してアメリカで働く方法として、18ヶ月の長期インターンシップも選択肢の1つ。
アメリカでワーキングホリデーのように働く!「J-1ビザインターンシップ」徹底解説
私の父はもともと砲丸投げの選手だったのですが、そのせいもあって小さな頃から家の近所で土手の周りを走らされたりして、ずっと陸上をしていました。でも嫌だと思わなかったのは、やはり私も走るのが好きだったのでしょうね。高校では800メートル走でインターハイに出て、大学も日本体育大学に試験免除で入りました。全日本大学選手権では6位の成績を収め、卒業後は高校の体育教師になるつもりで、私立の高校に90%就職も決まっていました。
その頃、父はカイロプラクティックの学校を経営していたのですが、そこでアメリカ人カイロプラクターのセミナーがあり、それに参加してカイロプラクティックに興味を持ちました。カイロプラクティックは西洋医学で、アメリカが発祥の地なのですが、日本では私の知る限りアメリカで勉強した人が数少ない状態。父に「特に女性でアメリカで勉強したカイロプラクターはいないのでは」とすすめられて、渡米を決心しました。
アメリカと日本では、カイロプラクティックの制度がまったく違います。日本では数カ月から1年勉強すれば「カイロプラクター」と呼ばれますが、アメリカでは一般教養と基礎科学を取得してから、カイロプラクティック専門カレッジで4年間勉強して国家試験に合格しなければなりません。さらに州ごとに免許が違うので、州の試験に合格して初めて免許が下ります。カイロプラクティックカレッジはメディカルスクールに近いものがあり、卒業するとドクター・オブ・カイロプラクティックの学位がもらえます。日本では解剖学も基礎程度でテクニックだけを学びますから、受ける教育の深さがアメリカとは違います。だから日本でカイロプラクターになった人が、アメリカで「ドクター」の名刺を見せると違法になるのですね。
リラックスする間もなく、日曜日も勉強
97年末に渡米しましたが、大学時代に1カ月、交換留学でオハイオに滞在したことがあって、その時の印象が良くなかったのでアメリカに来るのはうれしくなかったんです。オハイオ州立大学に行ったのですが、あこがれが打ち消されてしまって。でもロサンゼルスは都会だし、最初の1年間ホームステイしたファミリーが良くしてくれたおかげで、ホームシックにはなりませんでした。オハイオは白人ばかりだったのですが、ここはいろいろな人種がミックスしているから居心地が良いし、海が近くて解放的なのも良いですね。
カレッジに通う前に、基礎科学など足りない単位をスペシャルコースで取ったのですが、英会話くらいは大丈夫だと思っていたのに、授業には医学用語が多く出てくるし、先生の言っている英語がわからなくて苦労しました。だからアメリカ人の2、3倍は勉強したと思います。ほとんど週末もなく勉強していて、日曜日になると「今日は勉強の日」という感じでコーヒーショップで勉強していたし、リラックスする日はほとんどありませんでした。でもカレッジは全校生徒が500人程度の小規模な大学で、クラスメートが4年間一緒に上がっていくので、クラスメートにずいぶん助けてもらいました。
私はビザの関係で、卒業と同時にコネクションをつけておかなくてはならなかったので、在学中にイエローページを見て50~60件ほど「インターンをしたいので見学したい」と電話をしました。その時にOKをくれたのが、卒業後に就職したウエストサイド・ヘルス‐カイロプラクティックです。学生時代から土曜日に手伝っていたので、私の仕事振りを見て信頼してくれたのですね。
目標を1つ決めてがんばるのがいい
今年になって同じオフィス内で独立したのは、日本人でしかも女性であるという特色を活かしたいと思ったからです。カイロは触診があるので、やはり女性には女性が安心なのではないでしょうか。女性特有の症状も多く、特に、女性の骨盤は男性の骨盤に比べると動きが多く、出産はその代表例ですが月経や排卵時もかなり大きく開閉します。そのため骨盤の痛みや歪みは女性に圧倒的に多く、そのままにしておくと子宮や卵巣などの臓器も圧迫され、生理痛、生理不順、冷え性などのトラブルの原因にもなります。また妊娠中もカイロを受けると腰痛が楽になりますし、赤ちゃんカイロというのもあります。出産時に首を引っ張ったせいで発達初期における赤ちゃんの首の骨に負担がかかり、その後の成長に影響が出る場合もあり、アメリカ人のお母さんはよく赤ちゃんを連れて来られます。
でも両親は、まさか私が本当にドクターになるとは思っていなかったらしいのです。1年もしたらちょっと英語ができるようになった程度で、ギブアップして帰ってくるだろうと思っていたらしく、卒業した時にはびっくりしていました。
アメリカは、目標を1つ決めてがんばると夢が叶うところですが、アメリカに来ればなんとなくドリームがあるだろうというような気で来ると、あっという間に流されて悪い方に行ってしまう危険性もはらんでいます。私ががんばれたのも、カイロプラクターになりたいという目標があったからだと思います。
(2005年6月1日号掲載)