心理カウンセラー(その他専門職):斉藤 あふみさん

ライトハウス電子版アプリ、始めました

人が抱える問題というのは、
自分で気づいている部分よりも
その奥底に問題の原因がある

今回は、心理カウンセラーとして働く斉藤あふみさんを紹介。結婚を機にアメリカで心理カウンセラーとしての才能を発揮することに。現在は、主に結婚・家族に関するセラピーを行う。

【プロフィール】さいとう・あふみ■静岡県生まれ。1996年名古屋外国語学院大学で英米語学科卒業、同年渡米。2000年カルフォル二ア州バプティスト大学院カウンセリングサイコロジー修士課程卒。神学と心理学における行動科学の統合について学び、04年マリッジ&ファミリーセラピスト免許取得。
www.fruit4thespirit.com/profile/profile.html

そもそもアメリカで働くには?

子供との触れ合いを
求めて踏み出した1歩

カウンセラーになったばかりのあふみさん

 日本で大学を卒業して教職の免許を取りました。私が通っていた私立の高校に教育実習に行きましたが、そこで感じたのは、生徒と先生の直接的な触れ合いが意外と少ないということでした。その後、子供たちと密に触れ合うことができるカウンセラーになりたいと思ったのですが、高校の時の3者面談で、カウンセラーは職業じゃない、ボランティアの仕事だと言われてしまいました。
 
 そこで、教育実習の経験もあったのでスクールカウンセラーの道を考えました。しかし、日本でカウンセラーになるには心理・医学系の大学に入り直し、資格を取得するまで長い年月がかかることを知りました。
 
 それに比べて、アメリカであればもっと早く大学を修了し、日本でもカウンセラーとして働くことができると聞きましたので、気候の良いカリフォルニア行きを決意しました。
 
 当時、カリフォルニア=危険な場所と思い込んでいた親には、なぜそこまでしてカリフォルニアに行く必要があるのかと反対されたのですが、スクールカウンセラーはアメリカで始まった職業ですし、以前から興味があったのでどうしても行きたかったんです。
 
 それからは親を説得する日々が続きましたが、最終的にクリスチャンの母の案で、クリスチャンの学校であれば行っていいということになりました。

ギャングの子供にも
「負けない」気持ちで臨む

セラピストの先生たちと

 2年半の間、DCFC(Department of Children and Family Services)から紹介された子供たちや、肉体的、精神的、性的虐待を受けた子供たちを主にカウンセリングしました。ほかにも、家庭内暴力や薬物乱用で裁判所から送検されてきた人たちのカウンセリングも行いました。このカウンセリングセンターの同僚の紹介で、重度の情緒障害(Severely Emotionally Disturbed)を持つ5歳から18歳までの生徒たちが通う非公立校で、サイコセラピストとして6年間勤務しました。そこには先生、セラピスト、心理学者、精神科医がいて、1人でカウンセリングするのではなく、みんなで解決するというチームワークを大切にしていました。
 
 当時セラピーを受けに来るのはFワード、Bワードを普通に使う子ばかり。日本人はほとんどおらず、メキシコ人やアフリカ系アメリカ人の子が多かったですね。ギャングが怖かったかって? こちらも負けられない! という感じですよ(笑)。彼らは目つきも鋭いし、何を言っているかわからないくらいスラングがひどくて…。ギャングと呼ばれる子供たちは、家族全員ギャングとか、家族から1人も高校を卒業した人がいないとか、最終的にギャングに殺されるといったケースもありました。ギャングの中でも更正し、いい高校に入ろうと試みる子供もいるのですが、周りが許さないんですね。結局、刑務所にいる方が居心地がいいと言って、犯罪を繰り返す子もいました。刑務所にいると、誰が敵か味方かがわかるので安全だと。悲しい話ですよね。
 
 最初の頃は、私の英語力の問題もあってトンチンカンな質問をして笑われたりして、セラピーというより、ほとんどがソーシャルスキルを教えることに没頭する日々でした。問題のある子供は家でも学校でも同じ扱いを受けて、自分に自信がなくなり、最終的に自分ってだめな人間だと思い込んでしまう。私がそういった問題を抱える子に対して心がけていたことは、できるだけ褒めてあげること。褒められない子は褒められることにすごく敏感なんです。両親にも一緒にカウンセリングに来てくださいと呼びかけるのですが、来ない親がほとんどで、とても残念でした。
 
 実はカウンセラーのライセンスが取れたら日本に帰るつもりでしたが、結婚を機にアメリカに滞在することになりました。私の主人は、ドラッグで苦しむ人が家族と一緒にトレーニングするような施設で、栄養士として働いていました。主人も私も人のために役に立ちたいといった意味では、同じフィールドにいると思っています。

気づきが起こる瞬間
「Aha moment」

 今後は、こちらに住んでいる限りアメリカのコミュニティーに貢献したいと思っているんですが、やはり日本のコミュニティーにも役に立ちたいと思っています。人が抱える問題というのは、自分で気づいている部分よりもその奥底にあることが問題の原因になっていることが多いので、セラピーで気づかせてあげたいと思っています。
 
 私は結構オールドファッションな人間なので、Eメールや電話ではなく、お会いしてカウンセリングすることが好きですし、大切だと思っています。言葉に出ない表情、しぐさってたくさんあるんですね。セラピーでは自分のことはあまり語らないのですが、相手にとってベネフィットになることであれば話します。でも、できる限りニュートラルなイメージで、リラックスして話してもらえるように努めています。
 
 カウンセラーになって良かったと思うのは、感謝され、セラピーがクライアントや家族の役に立てたと実感できる瞬間ですね。後から自分がもどかしいと思う時があるんですよね。あの時、ああ言えばもっとオープンマインドで聞いてもらえたかも、と思ったり…。セラピーは問題点を言えばわかってもらえるということではないので、伝え方が重要になってきます。それから「Aha moment」と言う言葉があるんですが、これは、「あ、そうか、なるほど!」と気づきが起こる瞬間。そのうち生徒が心を開いてくれて、「ありがとう」が言えるようになる。これってすごい変化でうれしいんです。親みたいですけどね。
 
(2007年12月1日号掲載)

「アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)」のコンテンツ