マリッジ・ファミリーセラピスト(MFT)(医療・福祉系):工藤 マーカート 亜佐子さん

ライトハウス電子版アプリ、始めました

会話が自分の心の奥を見つめる機会を作る。
それが解決の糸口になるのです

今回はマリッジ・ファミリーセラピストの工藤マーカート亜佐子さんを紹介。日本で働いた後、結婚・離婚を経て、サイコセラピストの道を選んだ。このほど独立して開業し、南加の日本人で初めてNETを導入した。

【プロフィール】くどう・まーかーと・あさこ■青森県八戸市生まれ。1985年成蹊大学英文科卒業後、ユニシスにシステムエンジニアとして就職。96年に渡米し、カリフォルニア州立大学フレズノ校大学院でMFT修士号取得。WRAP Family Services、Penny Lane Centers勤務を経て、MFTの加州ライセンス取得を機に独立。
www.gotherapyla.com

そもそもアメリカで働くには?

結婚・離婚を経て自分の道を知る

ストレスをため込んでしまわないよう、
同僚と話し合うことも大切

大学卒業後、大手企業に就職、職場結婚で退職して専業主婦へと、何の疑問も持たず、レールに乗ったように人生が進んでいきました。しかし、5年後には離婚となり、その過程で自分の生き方について深く内観するように。自分はやはり、社会とのつながりを持っていないと生きていけないとわかりました。
 
一生続けられる仕事をしよう、そして人のためになる仕事をしようと思い、セラピストになることを決意。学ぶなら、セラピーの分野で進んでいるアメリカでと思いましたが、自分にできるかどうか自信がありませんでした。たまたまワークショップで知り合ったセラピストの先生に、「英語を学ぶだけでも価値がある」と後押しされて気楽になり、知り合いのいるカリフォルニアで学ぶことに決めました。33歳の時です。
 
入学したのはカリフォルニア州立大学フレズノ校教育学部の修士課程。マリッジ・ファミリーセラピー(MFT)を専攻しました。MFTのコース内容はセラピーの中でクライアントとどう接していくか、どう話していくかを中心にしたもので、私がやりたかったのはこれでした。
 
入学当初は1年半から2年で卒業できると考えていましたが、全課程63単位を修了せねばならず、実際には丸3年かかってしまいました。日本の大学では英米文学専攻で、心理学を学ぶのは初めてのことで、講義では何を言っているのかわからず苦労しました。そして、セラピーには、まず会話力が相当必要ということも思い知らされました。ですが、英米文学の専攻からシステムエンジニアになり、その後セラピストの勉強ができる。アメリカの教育制度が柔軟だからこそと感謝しています。

人間関係の改善が最終的な目標

授業では理論を学ぶほかに、実技としてお互がにセラピスト役、クライアント役になり、実際のセッションを通してその進め方を学んでいきます。セラピーでは、クライアントの自由な答えを求める質問をする必要があります。また、「どうして?」「なぜ?」という質問は避けて、聞き方に工夫をします。肝心なのは、表面的な事柄だけではなく、その奥にあるその人の考え、思いを引き出すこと。普段は人に言えないような、自分の心の奥を見つめる機会を作るのです。会話の意味はそこにあり、それが洞察力を得て、問題に取り組む糸口になっていくからです。
 
MFTの目的は、クライアント自身の問題に取り組んでいくことで、その人の人間関係を改善していくことにあります。例えばうつで引きこもっている場合、それを改善することも大事ですが、それによって家族や友達との交流の場が広がったり、緊張関係を解いたりすることができます。学校ではそのようなことを学びました。
 
卒業後は、ロサンゼルスのWRAPファミリーサービスに3年半、パームデールのペニーレーン・センターズに4年半勤務しました。双方とも低所得者層を対象とし、カウンティーと提携している機関です。ペニーレーンは虐待を受けた子供を主に扱っており、大変に勉強になりました。こうした子供は、親からの虐待のせいで起きた問題行動や、虐待をする親の元から里子に出された先で問題を起こした場合に、裁判所を通してセラピーを受けることになります。子供の症状は受けた虐待や親との関係によってさまざまですし、実の親や里親との関係、DCFS(児童保護局)のソーシャルワーカーとの関係など、たくさんの要素が複雑に関わってきます。また、子供だけでなく、家族全体がセラピーを受ける必要も出てきますし、臨機応変な対応をしなければなりません。

NETの導入でより効果的なセラピーを

クライアントの人種もさまざまですが、私が日本人ということで偏見を持たれて、セラピストを代えられたこともありました。また大変なのは、週1回のセラピーに来たり、来なかったりという方。まずは来ていただかないと先に進めないからです。
 
逆に言えば、セラピーに毎週来るということだけでいいのです。治したいという意志が見られますし、そこで少しでも進歩していることが実感できればいい。大事なのは最初に立てた目標に少しでも近付いていることを、本人に気付いてもらい、そこからさらに成長していくことなのです。クライアントに進歩があった時、「良くなってきましたね!」と声をかける瞬間は本当にうれしいですね。
 
この仕事で気を付けているのは、自分自身の私生活とは境界線を引くこと。個人的な感情に引き込まないことです。また、健康や食事に気を遣ったり、ストレス解消など、人にアドバイスしていることは自分でも実践するようにしています。相手を診る前に、まず自分のことをわかっていなければなりません。
 
MFTのライセンスは3千時間の診察を終え、2つの筆記試験に合格すると認可されます。私は2006年の夏に取得し、それを機に独立を決めました。このほどウエストLAで開業し、今後は日本人の方々を中心に診療していきたいと思っています。
 
こちらに住む日本人は異国ならではのストレスや国際結婚の悩みがありますし、アメリカの法律を知らなかったために児童虐待と見なされて通報されてしまうケースもあります。また、ビザが取れるかどうかで将来に不安を抱く方も少なくありません。自分自身の経験を少しでも活かして、日本人の方々のお役に立ち、日系社会に貢献していけたらと考えています。
 
そして、この10年のキャリアの中で私自身が受けて大きな衝撃を受けたのがNET(Neuro Emotional Technique)です。経絡のツボと筋力テストを使うことにより、心の痛みを解消していくという、アメリカのカイロのドクターが開発した手法です。自分の過去の経験から来るトラウマを知り、それに対する感情を和らげるというアプローチはセラピーの有効な手段として、注目されています。今後は、従来の手法に加え、NETでより効果的なセラピーを提供していきたいと思っています。
 
(2008年7月1日号掲載)

「アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)」のコンテンツ