弁護士(その他専門職):吉原 今日子さん

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目標や夢って転がっているものではなく
色んなことを経験しながら
意識して見つけていくもの

英文学科を卒業した日本人女性が、一念発起して渡米。MBAを取得し、さらにカリフォルニア州の弁護士となった。前進し続ける吉原さんに、これまでの人生とアメリカで働くコツを聞いた。

【プロフィール】よしはら・きょうこ■日本で大学を卒業後、渡米。University of San Diegoで経営学を学び、MBAを取得。 その後、法学博士(JD)を取得。在学中は、インターンとして家族法や不動産法にも携わる。司法試験合格後、Taki Law Officesで移民法を専門に活動している

そもそもアメリカで働くには?

3日間の耐久試験で弁護士資格を取得

笑顔を絶やさず業務に励む吉原さん

 渡米したのは9年前。当時、日本の大学の英文科を卒業して、即就職しようとは思わなかったです。「英文科卒の女子なんて、将来が見えている…」と思って。その頃からアメリカ留学はしたいと思っていましたが、目的なしの渡米は意味がないことはわかっていました。「自分は何をやりたいのか」を見つけるために、色々勉強してみました。そして出た結論が「経営学を学ぶ」ということでした。
 アメリカの大学院に入学し、2年ほどでMBAを取得。卒業後、就職口はありましたが、まだ勉強したいという気持ちが強く、昔からあこがれていた弁護士になりたいと、ロースクールに通うことにしました。
 ロースクールには3年通いました。入学時の6割の人しか卒業できない世界で、4年制大学修了と同等数の単位を3年間で終える必要があり、とても大変でした。卒業後、カリフォルニア州の司法試験を受験。16教科の試験があり、忍耐勝負の3日間耐久テストでした。テストには、選択問題、エッセイ、実例に則した問題を問うシミュレーションの3つあるのですが、私にはシミュレーションテストが1番難しかったですね。申立書を3時間で完成させるなんて、弁護士になってもないことですよ。カリフォルニア州の司法試験の合格率は4割ほどなので、合格した時は、喜びというより安堵でした。

決めたからには自分で責任を取る

 日本人がアメリカで頑張るには、必ず英語の壁にぶち当たります。私もそうでした。特に最初のビジネススクールではつらい思いをしました。成績の20%が「Participation」で評価されるのですが、単に授業に出席するだけではダメで、議論やグループワークでの積極的な発言が要求されるのです。当時のクラスメイトは、マーケティングやファイナンス、会計などの分野で、実際に弁護士やエンジニア、会社役員だったりするわけで、私とは社会経験や興味のレベルがまったく違う。みんな「私の経験からすると…」や「私の会社では…」という切り込み方をするんですが、私には語れるだけのバックグラウンドはない。でも、彼らと肩を並べて発言しなければならない。正直、どうしたらいいのかわかりませんでした。
 それで私がやったのは、『エコノミスト』や『ウォールストリート・ジャーナル』を読み、授業に関連する記事をピックアップして、クラスでは自分の経験に即した発言であるかのように問題提起してみる(笑)。グループプロジェクトでは、一生懸命参加しなければならないという意識がある反面、やはり周りの人の足を引っ張りたくない、迷惑をかける外国人と思われたくないという気持ちがありました。でも、半年、1年経つにつれ、アメリカ人の方からチームに入ってほしいと言われた時は、正直うれしかったです。
 今考えると、「自分で決めたから」という思いがずっと私の背中を押していましたね。「決めたからには、自分で責任を取る」という気持ち。将来アメリカで仕事をするためにも、今はできるだけのことをしておかなければと考えていました。

「自己主張」と「自己責任」米社会ではこれが重要

 これまで自分は、その瞬間、瞬間で勝負してきましたから、皆さんが思われるほど立派だとは思っていないんですよ。やりたいことをやってきただけ。しかし、やりたいことや目標を見つけるのは難しいこと。目標や夢って転がっているものではなく、色んなことを経験しながら、意識して見つけていくものだと私は思います。生まれつきすべきことがわかっている人なんて、わずかしかいません。
 何かを突き詰めて頑張ろうとした時、日本とアメリカでは背負うおもりが違います。日本は「女だから」「年も年だし」「今さらどうして?」など、余計なプレッシャーが付きまといますが、アメリカはありません。だから飛び立とうとした時に軽いのです。だからこそ、こちらにいる日本人は、自分にレッテルを貼らず、やりたいことや好きなことをやってほしいですね。
 アメリカで働いていて思うことは、この国では「自己主張」と「自己責任」が必要ということです。アメリカでは「沈黙」は「美徳」ではなく、「完璧な理解と同意」です。例えば上司が間違ったことを発言しても、日本の場合「空気」を読み、相手の顔色を見ながらあえて黙っています。しかしアメリカでは、それをしていると周りから自分も同じ人間と思われます。だから疑問に感じたりおかしいと思ったら、それをきちんと主張することが必要となります。
 また、日本の会社では今でも連帯責任の風潮があります。誰かが失敗した場合、本人はもちろんですが、その上司が謝ります。でもアメリカでは、上司には頼れません。失敗したのは本人。上司は悪くないですから。だから、アメリカでは、「自己主張」をすると共に、「自己責任」を取る覚悟がいる。これを理解しないと、アメリカ社会では働くのは難しいと思います。

弁護士になったのは日本人を応援したいから

 今はトーランスのTaki Law Officesで、移民法を専門に扱っています。日頃の業務で思うことは、移民のケースはすべてが移民局の審査官の手にあるということです。例えば、2人の申請者の経歴やバックグラウンドがほぼ同じでも、一方だけ落ちたりします。審査官も人間ですから、同じケースでも受け取り方が違うのです。最近はビザ取得が難しく、自分のやる気や思いだけではどうしようもない時があります。しかし仮にいい結果が出なかったとしても、「誰がやってもそうなっていた」と言えるくらいに、常に一生懸命やっています。
 実は弁護士になった理由の1つに、アメリカで夢に向かって頑張る日本人を応援したい、日本のビジネスをアメリカで広げる仕事がしたいという気持ちがありました。外国人である以上、移民法は必ず関わってくる問題です。そういう意味では、やりたかった仕事ができていると思います。
 
(2008年10月1日号掲載)

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