今回は、構造設計の分野で世界的に有名なARUP社で構造設計士として活躍する與座敏安さんを紹介。沖縄の県費奨学金でアメリカ留学。憧れの会社に入社し、構造設計の醍醐味を日々味わっている
そもそもアメリカで働くには?
- アメリカで働くためには、原則として合法的に就労可能な「ビザ」が必要になります。
アメリカ・ビザの種類と基礎知識 - 日本から渡米してアメリカで働く方法として、18ヶ月の長期インターンシップも選択肢の1つ。
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感性に関係なく
正しいものが評価される
元々数学や物理が好きで、建築家になりたかった。でも、勉強しているうちに、構造の方が楽しいなって。建築デザインは、自分の感性で「これがいい」と思っても、周りの人が評価しないと自分の感覚が評価されることはありません。でも、構造は、人の評価とは関係なしに、ズバッと決まる。素直なんです。学生でも、自分の計算が正しければ、絶対正しい。そして、構造はやればやるほど理解が深まり、評価される気がします。
それで大学院まで建築学部で構造の勉強をして、日本での就職を考えていた2004年、沖縄の県費奨学金が得られることになり、翌年、ニューヨーク州立大バッファロー校の大学院に留学をしました。バッファローを選んだのは、耐震構造分野で良いプログラムを持っていたし、実験施設も充実していたので。
留学を決めて、日本での大学院最後の1年が1番忙しかったです。修士論文を書きながら、奨学金の手続きや、TOEFLなど留学に向けての試験勉強もしなきゃいけない。マラソンもやっていたので、その練習もして。週に2回フルマラソンに出場したこともあります。かなり密度の濃い1年でした。
一応日本の大学院で勉強しているから、バッファローでは、英語のハンデはあっても何とか付いて行けると思っていたのですが、まったくレベルが違いました。アメリカでは学部レベルで履修済みであるべきものも、私は全然知らなかったんです。元々その授業自体が難しかったんですが、最初は本当に大変でした。ただ、バッファローは勉強するには良い所で、誘惑が全然ない(苦笑)。常夏の沖縄から環境がまったく違う所に行けて楽しかったですね。バッファローで初めて四季を味わったんですよ。でも、2年目の最後の頃には、海が恋しくなりましたが。
建築家と対等な
アメリカの構造設計士
2年でマスターが取れ、アメリカに残って働きたいと思ったので、海のある西海岸で就職を探しました。今、在籍するARUPは、構造の分野では有名な会社だったので日本にいる時から知っていました。面接を受けに来た時も、「とうとう来てしまった、憧れの会社に」みたいな状態でした。面接を受けたのはARUPも含め2社だけで、ARUPが先に決まり、自分が1番行きたい会社だったので、即決しました。それが07年8月です。構造を手がけている会社は、修士号以上を取得した人じゃないと、採用してくれないことが多いです。今はPhDを持っている人も多くなってきています。
入社してパサデナのArt Center of CollegeのNorth Campusなどの耐震補強、最近やったのが、プラヤデルレイにできるハリウッドボウルのような野外ステージ。そして今は、フロリダにある劇場の構造設計を手がけています。私は入社したばかりだから、色んなモデルを作って計算してレポート書いたり、建築家が図面を持ってきて「これで大丈夫か?」と聞かれたら計算して、「これはまずい」みたいにアドバイスしたり。実際に建てることはできるかもしれないけれど、コストはものすごくかかるとか。そういう面で、アメリカはかなり建築家と構造設計士は対等にやっていますね。
建築家の設計に対し、デザイン変更をしたり、ダメ出しすることもあります。ARUPは、北京オリンピックの「鳥の巣」とか「ウォーターキューブ」とか、奇抜なデザインの構造計算が得意分野。手強い物が多いんです。「こんなのできない」って言うと、「君たちはARUPだろ。できるよね」と言われたりします。
今、建築のソフトウェアがドンドン発達して、色んな曲線とか曲面とか、三次元のモデリングが簡単にできてしまいます。建築家はコンピューターの中で凝ったデザインの建物を設計しますが、いざ建てようと思っても、なかなか思い通りにはいきません。建築家が実際の世界には重力があり、風が吹き、地震もあるということを理解してくれないと。
構造は計算だけじゃなく、建築家的な側面もあるんです。「鳥の巣」や「ウォーターキューブ」は、構造物自体が建築の主要な部分を占めています。そういうものだと、さらにやりがいがありますね。
自分のミスが
人の死につながる
構造設計の面白味を言葉で説明するのは難しいですね。物の挙動が、ある程度の幅で計算して予測できるところかな。ただ単純に計算するのではなく、人間工学も入ってくるんです。ただし、自分の仕事の責任、失敗した時の結果を考えたら、プレッシャーを感じます。自分がデザインして、地震が来た時に壊れたりしたら、人が死ぬこともあります。でも、地震はなかなか来ません。来ないとみんな大変さを忘れます。大事な仕事ですが、構造設計士が実際に何をやっているのか目に見えないから、予算を割きたくないわけです。責任重大の割に軽く扱われているような感はありますが、やはり楽しくてやりがいがあるので、苦にはならないです。学ぶこともまだまだいっぱいありますし。
今の目標ですか? 「これが目標」ってゴールは設けていないです。自分がどこまでできるか、挑戦し続けたい。実際やってみないと、自分がどこまでできるか確認できませんから。
20年後、30年後の自分が完全に見えてしまっていたら、悲しくなるんですよ。自分がどこに行くか分からないから、どこまでできるか分からないから、リスクはあるかもしれないけれど、その分楽しいんです。まぁ、失敗したら後悔するんでしょうが(苦笑)。
構造設計は常に勉強。学校で習うのは、本当に必要なことのさわりだけ。常にチャレンジ精神を忘れず、プロジェクトを通して勉強していかないと。後は、責任とプレッシャーを楽しめるか。この仕事が本当に好きじゃないと、結構つらいと思いますよ。
(2008年12月16日号掲載)