アメリカで夢を実現させた日本人の中から、今回は特殊メーク/ファインアーティストのAKIHITOさんを紹介。環境と機会に恵まれたアメリカで腕に磨きをかけ、さらに高い目標を実現するために努力の毎日だ。
そもそもアメリカで働くには?
- アメリカで働くためには、原則として合法的に就労可能な「ビザ」が必要になります。
アメリカ・ビザの種類と基礎知識 - 日本から渡米してアメリカで働く方法として、18ヶ月の長期インターンシップも選択肢の1つ。
アメリカでワーキングホリデーのように働く!「J-1ビザインターンシップ」徹底解説
『TVチャンピオン』3連覇
閉塞感を感じて渡米
小さい時から作り物が好きでした。高校2年生の時に観たTV番組の中で、当時アメリカで日本人特殊メークとして活躍していたスクリーミング・マット・ジョージさんが特集されていました。日本人なのにアメリカで大活躍している姿を見て感動したのが、特殊メークをやりたいと思ったきっかけです。
短大のデザイン学科を卒業後に東京に上京。特殊メークや造型の専門学校に入学しました。張り切っていたのですが、入学と同時に特殊メークの分校が燃えちゃった。2年目になったら今度は先生がいない。幸い、ゴジラやガメラの造型を手がける先輩が多くて、その人たちから直接色々と教えてもらいました。そして、卒業が迫った時、教えに来ていた先生が、「ユニバーシアードのプロジェクトがあるから一緒にやらない?」と誘ってくれました。それで上手い具合に卒業と同時に業界に入れました。
ユニバーシアードでは、150体ものロボットを作って、デザインもさせてもらったし、粘土彫刻で1番重要な部分も担当させてもらえました。その後、自分で会社を設立してアトリエを持ちました。
『TVチャンピオン』の特殊メイク王選手権は、一緒に仕事をしたボスが、「アキヒト、これに出たら優勝できるから出なよ」って電話をくれたんです。TVに出て優勝したら仕事が増えると思っていたら、そんなに甘い業界ではなかったですね。「TVチャンピオンで優勝」というより、今まで一緒にやってきたキャリアのある、よく知っている人の方が誘いやすい、ということです。
3連覇して知名度は上がったのに、収入はあまり上がらない。だけど、みんなに「儲けてるんでしょ?」と羨ましがられる。そのギャップの大きさと閉塞感に、嫌気が差し始めていました。そんな折り、文化庁の在外派遣制度というものがあることを知り、応募したら受かって、2002年に渡米しました。
倉庫に転がる作品にも
歴史を感じる
ロサンゼルスに来たもののコネクションはまるっきりなかったので、レジュメを色んな工房に送りました。そうしたらKNBという大きな工房が僕を雇ってくれることに。いつも忙しい工房だったので、運良く仕事をもらえたのでしょう。当時は、映画『ハルク』を手がけていたので、それに関わり、仕事を続けていくうちに、『ナルニア国物語』など大きな仕事に携わるチャンスを得ました。
僕は制作の最初のデザイン粘土彫刻という最も重要な部署にいきなり配属され、毎日粘土をいじりながら何かを作るという作業に没頭しました。英語は話せなかったけど、仕事ができさえすれば、とりあえずは置いてくれたので、腕は上がりました。
KNBからADIという『エイリアンvsプレデター』などをやっている会社に転職し、ほどなくして現在勤務しているLegacy Effectsに移ることに。ここは以前スタン・ウィンストンスタジオという名前で、『ジュラシック・パーク』や『プレデター』『ターミネーター』などの特殊メークを手がけ、業界でも知名度、技術共にトップクラスの工房。そんなスタジオに入れたきっかけは、KNBで一緒に造型をやっていた人がデザイナーとして雇われていて、「今度『ターミネーター4』をやるから誰かいい人がいないか?」という時に、僕を推薦してくれたから。トップクラスのスタジオほど、業界や工房内の人の紹介で仕事が決まるという面があるので、人脈は本当に大切です。
公開前なので、『T4』で僕が具体的にどんな仕事を手掛けたか言えませんが、悪役のロボットの粘土彫刻など色々関わりました。ただ、CGが凄い映画なので、確実に昔のような作り物全盛ではなくなりましたね。今は、コンピューターの3Dソフトを使ってモデリングして、そのデータから立体プリントしてモデルができあがっちゃう。それを磨いたり修正したりする仕事の方が多く、粘土をいじることが少なくなりました。
ここのスタジオでは、レベルの高さをヒシヒシと感じています。僕の中でトップレベルの作品を作っても、そのレベルが当たり前。倉庫に無造作に転がっている作品だけ見ても、もう信じられないレベルです。そういうのを見ると、歴史を感じますし、刺激を受けるところは多いですね。
毎日少しでもいい
続けることが重要
この仕事で楽しいことは、ほかの人ができない仕事をしているというプライドを感じられるところや、良い仕事をすれば、必ず誰かに評価してもらえるところです。
嫌なところですか? いっぱいありますよ(笑)。自分の作りたい物じゃない作り物の仕事は辛いですね。1、2日ならいいですけど、2~3カ月続きますから。やはり、自分のスキルを活かせる仕事がしたい。それはこの業界のトップの人や造型家の人は皆そうですね。あとは、やはり一生懸命作ったのに、監督から「イメージが違う」って言われたり、何回も作り直しているのに、全然ダメだったら、やはり焦ります。逆に「これ凄いよ! 大好き!」って1回で言ってくれたら、もう鼻高々。
夢はアカデミー賞のメーキャップ部門受賞ですが、今はそれよりも、自分がもっと舵取りできるポジションに行くのが第1目標。コミュニケーション能力を高めてステップアップし、自分の作風が活かせる仕事をしたい。僕は、映画のために特殊メーク作品を作るんじゃなくて、自分の作風を出すために特殊メークを使いたいんですよ。特殊メークという自分が身に付けたスキルを活かした芸術作品作りをして、それで評価を受けるのが夢かな。
この業界を目指している人へのアドバイスは、毎日ちょっとでもいいから続けるということ。こういう仕事って、1、2年ぐらいで評価は出ません。僕も今まで十何年続けてなかったら、多分、ここにいないと思うから。
(2009年2月16日号掲載)