確定給付型年金制度のしくみ
さまざまな年金制度がある中、401(k)やIRAといったものはよく耳にしますが、確定給付型年金制度というプランをご存知でしょうか? 今回はこの、雇用主が任意で提供できるプランについて解説します。
401(k)やIRAは雇用主と従業員が互いに積み立てる年金制度で、確定拠出型年金制度(Defined Contribution)と呼ばれています。一方、確定給付型年金制度(Defined Benefit Plan)は100%雇用主が支払う制度で、従業員に福利厚生として提供するものです。
これは他の年金プランと同様に雇用主と従業員両方に税金面でメリットがあり、雇用主の入金は経費として計上でき、従業員は受け取り時までは税金を支払う必要がありません。
年齢や支払額にもよりますが、多くのケースで、確定拠出型より多く入金できます。さらに、確定拠出型と組み合わせられ、その場合、より大きな控除を取ることが可能です。言い換えると、より大きな節税効果が期待できます。
プランを始める際に給付額が決定されるので、従業員にとっては退職後いくらもらえるのかが明確になります。
対象者
雇用主は、勤続1年以上、年間1500時間以上勤務など、雇用主の定める条件を満たす従業員のみにこのプランを与えることが可能です。
また、従業員のいない個人事業主でも、確定給付型年金の設定ができます。
納付額と締め切り
まず、雇用主が対象となる従業員の給付額を決めます。その後、保険数理士(Actuary)が、定年後にその金額を保証するには雇用主が毎年いくら支払わなければならないかを計算します。雇用主は、毎年、その決められた額を入金します。
給付される年金総額は、プラン開始時の年齢、収入、定年までの年数などによって異なります。
このプランには、年間20万ドルという給付上限があります。これは、あくまで退職後の受取り上限で、雇用主の年間入金額に上限はありません。
確定給付型への毎年の入金の締め切りは、確定申告の締切日と同じで、確定申告同様に延長手続きも可能です。
給付開始
下記の場合、給付が開始します。
○定年退職年齢に達した死亡まで一定額を受け取り続けるか、定年時に一括で受け取るか選べます。
○死亡した受給者の配偶者が少なくとも受給額の50%以上を受け取れます。
○障がいを負った障がいや病気などの条件を満たせば、定年していなくても受け取れます。
○会社を辞めた退職時に積み立てた額を受け取れます。転職先の会社が同プランを運用していたら、トランスファーも可能です。
長所と短所
このプランの長所と短所です。
長所
・給付金額が事前に予測できる。
・他プランより入金年間上限額が高い。
・雇用主は確定申告時に控除が取れる。
・他のプランと併用できる。
短所
・雇用主は毎年入金し続けなければならない。
・最初に決めた額を減額できない。
・会社の会計が赤字であっても、入金しなければならない。
・従業員は支払い開始時に税金を支払わなければならない。
近年、業績に関係なく一定額を支払う条件が敬遠され、確定給付型年金を提供する企業は減少傾向にあります。
(2017年6月16日号掲載)
アメリカの個人年金プランと節税
節税は一朝一夕に行えるものではなく、長期展望を持って計画するのが理想です。しかし、個人退職金・年金プラン(IRA:Individual Retirement Account)を使えば、土壇場での節税も不可能ではありません。
アメリカの個人年金プラン
2015年も終わりが近づいてきました。年末の各種イベントを楽しんでいる方も多いと思われますが、年明けには確定申告が控えています。この時期にはもう、節税対策を諦めている方もいらっしゃるかもしれませんが、今からでもできることがあります。
リタイア後、社会保障年金と退職金だけで老後に必要な各種収入を維持するのは難しいため、多くの会社が401(k)やSEP IRAなどの退職金プランを提供しており、個人で退職金プランに加入している方もいるでしょう。実は、このような年金プランが、節税に役立ちます。
例えば、個人年金プランの一つ、Traditional IRAへの入金は所得控除に利用できます。年度によって限度額は異なりますが、2015年度では、49歳以下の方は年間最大5500ドルまで、50歳以上の方は最大6500ドルまで入金できます。夫婦での加入なら、控除額は倍になり、49歳以下なら1万1000ドル、50歳以上なら1万3000ドルまで控除されます。15年度の確定申告は、2016年4月18日までにTraditional IRAへ入金すれば控除となるため、この個人年金プランが、駆け込み策として有効です。
Traditional IRAの注意点
このように節税対策で人気のTraditional IRAですが、利用には3つの注意点があります。
第1に、控除上限額が、所得と他の年金プランに応じて設定されていること。
第2に、満期前の引き落としにはペナルティーが科せられること。
第3に、引き落とし分は課税されることです。
他の年金プランとの関係
まず、第1の控除上限額については、総所得から米国国税庁(IRS)が定めた各種の控除対象額を差し引いた総所得額が高いほど、控除額は低くなります。さらに、夫婦合算にするか、雇用者の提供する年金プランに加入するかによっても結果は変わってきます。
例えば、雇用者が提供している年金プランの加入で、未婚の場合、調整後の総所得が6万1000ドル以下、夫婦合算なら、9万8000ドル以下の場合、支払額の満額が控除されます。それ以上の収入になれば、控除の幅は小さくなり、調整後の総所得が未婚で7万1000ドル以上、夫婦合算で11万8000ドル以上になれば、控除されなくなります。
早期引き落とし
第2に、Traditional IRAを59.5歳以前に口座から引き落とそうとした場合、IRSに引き落とし額の10%をペナルティーとして支払わなければならなくなります。ただ、例外があり、死亡や障がい、大学の学費、医療費、初回の住宅購入費として引き出す場合、ペナルティーが免除される場合もあります。
満期引き落とし
第3に、Traditional IRAは、引き落とし時に課税対象となります。しかし、退職後は一般的に、所得レベルが下がっているので、退職前より低い税率区分で課税されることが多く、長い目で見れば節税対策になります。一方、同じ個人年金プランでも、Roth IRAは引き落とし額が無税なので、退職後に所得レベルが上がるなら、そちらの方がお得と言えます。しかし、Roth IRAは確定申告時の控除がありません。
(2015年12月16日号掲載)
IRA(個人退職金・年金プラン) による節税対策
会社で401(k)やSEP-IRAなどの退職金プランに未加入でも、Traditional IRAやRoth IRAなどに入金することで、老後の生活資金を蓄えることが可能です。今回は、節税効果も期待できるこれらのプランについて解説します。
Traditional IRA
2014年は49歳以下の方は年間5500ドルまで、50歳以上なら6500ドルまで入金できます。入金額は全て所得控除の対象で、確定申告の期限である15年4月15日までは、14年にさかのぼって入金が可能です。従って、年が変わってから確定申告の締め切りまでに可能な節税対策としては、Traditional IRAが一番効果を期待できます。調整後総所得(給与などを足し合わせた総所得からIRSの定めた所得控除を引いた額)に応じて、入金額に制限が設けられています。
◉未婚の場合
調整後総所得が6万ドル以下は満額(49歳以下:5500ドル/50歳以上:6500ドル)、6万~7万ドルは減額、7万ドル以上は控除が0です。※減額については下記参照。
◉夫婦合算の場合
調整後総所得が9万6千ドル以下は満額(個々で、49歳以下:5500ドル/50歳以上:6500ドル)、9万6千~11万6千ドルは減額、11万6千ドル以上は控除が0です。
減額の計算方法は、「最大控除額×(入金の上限-所得)÷(入金の上限-入金の下限)=控除額」で、例としては、30歳で未婚、調整後総所得が6万6千ドルの場合、「5500ドル×(7万ドル-6万6千ドル)÷(7万ドル-6万ドル)=2200ドル」が控除の上限となります。
59.5歳以前に口座から引き出す場合は、IRSに対して10%の追加税を支払う必要があります。しかし、死亡/障害、大学の学費、医療費、初回の住宅購入などが理由の場合は免除されます。
59.5歳以降の引き出しは、課税対象となります。つまり、Traditional IRAに入金をすることで、実際に支払うべき税金を先伸ばししているのです。「いずれにしろ税金を支払うのなら入金してもしなくても同じでは?」という考え方もありますが、受給時は退職後が一般的であることから、収入も減少し、税率も低いと考えられます。また、低所得者より高所得者の方が税率区分が高いため、総合的に見てメリットがあるとも言えます。
Roth IRA
Traditional IRAと同額が入金可能です。こちらの利点は、引き出しても税金がかからない点で、引き出し予定時に現在よりも所得が高くなっていることが予想できる場合などに有益です。次に、入金額の上限を説明します。
◉未婚の場合
11万4千ドル以下は満額(49歳以下:5500ドル/50歳以上:6500ドル)、11万4千~12万9千ドルは減額、12万9千ドル以上は控除が0です。
◉夫婦合算の場合
18万1千ドル以下は満額(個々で、49歳以下:5500ドル/50歳以上:6500ドル)、18万1千~19万1千ドルは減額、19万1千ドル以上は控除が0です。
減額の計算方法は前述のTraditional IRAと同じです。基本的に追加税なしで早期の引き出しが可能ですが、運用によって得られた利益分の引き出しは、口座開設から5年以上経過していること、59.5歳以上、障害、初回の住宅購入などの条件を満さなければ、10%の追加税の対象となります。
Traditional IRAは70.5歳で入金の受け付けが終わり、引き出しを開始するのに対し、Roth IRAは70.5歳を過ぎても入金ができます。また、引き出しに年齢制限が無く、仮に持ち主が引き出し以前に他界しても相続人が所得税を支払う必要はありません。
(2014年4月16日号掲載)
※本コラムは、税に関する一般的な知識を解説しています。個別のケースについては、専門家に相談することをおすすめします。ライトハウス編集部は、本コラムによるいかなる損害に対しても責任を負いません。