コミュニケーション力を育てる

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「バイリンガル子育ての秘訣」船津 徹(TLC for Kids代表)

アメリカの学校に通い始めた日本人の子どもが最初にとまどうのが、日米のコミュニケーションスタイルの違いです。自分の考えや意見を明確にする、イエス・ノーをはっきり言う、授業中は積極的に発言する。日本の学校では先生の話を聞いてさえいればよかったのに、アメリカでは授業に参加しなければ評価が下がってしまうのです。
多様な価値観が混在するアメリカでは、文化や言語背景の違いによるミスコミュニケーションを最小限に抑えるために「明確に言葉に出す」コミュニケーションスタイルをとります。アメリカ人の自己表現が直接的なのは、自分の意見をゴリ押ししたいからでなく、正確に相手に伝えることで問題解決や意思決定をスムーズにするためです。

高度なバイリンガル

高度なバイリンガルというのは日本語と英語が優れているだけでなく、日米の文化的な違いにも対応できる人です。アメリカ人と接する時はアメリカ的スタイル、日本人と接する時は日本的スタイルというように、相手に合わせてコミュニケーションスタイルを切り替えられる人です。
アメリカで暮らしていても日本人家庭に育つ子どもは、両親から「和」を重視する日本的なコミュニケーションスタイルを継承します。集団内の人間関係を良好に保つことに配慮し、率直な意見を言うことを避けたり、年上や目上の人に対して直接的な表現を控えるようになります。もちろん日本的コミュニケーションスタイルを身に付けることは、子どもが日本人社会の中で良い人間関係を築くために必要です。日本人相手にストレートな表現をしたり、年長者に「ため口」を使ったりしたら、すぐに社会からつまはじきにされてしまいます。
同じようにアメリカ人と接する時は、欧米流のコミュニケーションスタイルを身に付けていることが求められます。日本人的なあいまいな表現や遠回しな言い方はアメリカ人にとって理解が困難です。伝えたい内容は同じでも、相手に応じて「伝え方」を変えられるのが高度なバイリンガルです。

言葉で表現する力を育てる

もちろん日本人の子どもだって意見や自己主張を持っています。ただそれを「言葉で表現する」機会が少な過ぎるのです。「以心伝心」「空気を読む」はアメリカ人相手には通用しません。必要な時にはしっかりと自分の意思を言葉で表現できるように日頃から導いてあげましょう。
「言葉で表現する」ための良い練習が、親子の会話に「なぜ?」「どうして?」を増やすことです。「◯◯ちゃんは水泳が好き?」という問いに「嫌い!」と子どもが答えたら「なんで水泳が嫌いなの?」と、すかさず聞き直します。子どもは「水が怖いから」「冷たいから」など、理由を説明してくれます。会話の中に問いを増やし、自分の考えを説明することを習慣付けるのです。
また、できるだけあいまいな表現を使わないように注意してください。子どもがゲームを欲しがっています。「みんな持ってるから僕にも買ってよ!」これに対してお母さんは「みんなっていうのは誰のこと?」と聞き返してください。子どもは具体的に「たかし君が持っているから自分も欲しい」と説明してくれます。「お母さん、あれ取って」と子どもが言えば「あれって何?」と聞き返します。
他にも「それ」「何となく」「ちょっと」「いつも」などの、あいまいな言葉を子どもが使った時は「ママ分からないから説明してもらえる?」と聞き返してください。もちろん両親があいまい言葉を使わないように普段から言葉使いには配慮しなければなりません。

演劇のテクニックを活かす

子どもの言語表現力を向上させることができる優れた習い事が「演劇」です。演劇は言葉だけでなく、表情や身体の動きを使って相手に伝える技術です。演劇を習うことによって、アメリカ人はもちろん、世界中の人たちとスムーズに意思疎通できる高いコミュニケーション能力を手に入れることができます。
伝わりやすい発声・発音方法、表情やボディーランゲージを駆使した表現方法、人前で堂々と自己表現する技術。欧米の学校では演劇のテクニックは子どもたちのコミュニケーション力全般を高めてくれるツールとして授業にも盛んに取り入れられているのです。
最後に演劇を経験している子どもは英語習得も学校適応も異文化適応も一般的な子どもよりもはるかに早いという事実を付け加えておきます。
 
(2016年3月1日号掲載)

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